山本: 今、タムラという名が出てきましたけど、佐久間さんというと今まで固定観念みたいなもので、直熱管、トランス結合、ローサー、トランスがタムラ製作所ですね。タムラ製作所のトランスを最終的に使うようになった理由は?
佐久間:タムラを好きなのは、安くて音がいいから。それだけだよ。俺やっぱり安 いのが好きなの。
山本:でもあの値段では採算とれないんじゃないですか?
山本 :そうですね。
佐久間:それとやはり、タムラ田村製作所の僕たちアマチュアに対する思い入れと いうか思いやりというのか、ああいう年間何百億っていう商売をやってる一部上場会社があくまでアマチュアを大事にしてる姿勢が好き。
山本:そう、ほとんどの会社はプロフェッショナルオーディオですからね、アマ チュアには冷たい。
佐久間:タムラはオーディオの方は道楽なの。はっきりいって採算なんて考えてい ないんだ。プロフェッショナル用が主力だから、オーディオの売上なんて微々たるものだと思うよ。ただね、あそこの先代の社長がねオーディオ出身で、オーディオから始まった会社だからタムラ製作所ある限りオーディオの灯を絶やすなっていうのが遺言だったって、今の社長から聞いた。
今のF2006とかPC3004といった色が紺のトランスあるでしょ。あれは全部オーディオ用、社長のもう少し一所懸命にやらないかという意志で民生用として開発したんだ。ビルトライトとかああいうシリーズね。
それをサン・オーディオの内田さんが一所懸命説明をしたり、日本全国のかなり好きなユーザのところへいって、部品のイメージ的なものを売り込もうという仕事をしてたんだ。
で、内田さんがうちに来て、タムラ製作所で僕の力になり たいということを言ったわけ。僕はきっぱり断わったの。俺さ、そういう大手メーカーの太鼓持ちとか、ヨイショするとか、そんなことするのいや だったし、タムラ製作所ってあまりに大きすぎて重荷だったし。
で、断わったら内田さんが5回来たの。3カ月ぐらいの間に5回!5回来て、それでなんとか色々やってみませんかっていうことで、僕もまぁ5回も来てもらって、むげに言い張るのもちょっとなんだしね。ここまで僕のことを考えてくれてるんなら、ある程度受けたほうが礼儀だろうと、それでタムラ製作所のお力添えを得ることにしたわけ。
それでタムラが後援会長みたいになってくれて…
1番ありがたいのは、技術部第1変成器とか第2変成器とかトランス専門のタムラの技術がありますよね。それこそ東大の電子工学出たような人が何十人と揃って新製品とか開発している技術があるわけ。そこが非常に好意的に、僕がよく本に出すメチャクチャというようなトランスを一所懸命研究して試作してくれるわけ。試作品というかそういうものは普通のメーカーだったらやらないのにね。
で、僕としては、今いちばん考えているオーディオのいきかたってのは、トランス結合の極地ね。トランス結合をどこまでやれるかというのをメインにしているわけ。F特とか歪率とかそういうことはもうある程度無視してしまって、トランスをどれだけ連ねてってもどれだけの音楽が出るか、トランス1個でドライバの真空管無しでどれだけ電圧が振れるかとかということが俺の一生の課題なわけ。で、タムラ製作所はそれにものすごく協力してくれるわけ。僕のそのたわごとに昼休みの貴重な時間をさいて、休みの日をさいてみんなそれをやってくれる。そういう点においてものすごくありがたいと思ってる。だからタムラ製作所が無かったら、正直なところ、僕のトランス結合ってのはここまで来なかった。段間にトランス入れるくらいで終わってた。ドライバの後にトランスを入れて、パワーアンプの入力にトランス使うのちょっと考えなかったと思うよ。そういう、後押しがなかったらね。

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