山本 :佐久間さんからすれば自分の好きな音をずーっと探していったら、結局トランス結合になっちゃったって、そういうことですか?
佐久間:そういうことだよ。難しいことはないんだ。俺、難しいことは嫌いなんだ よ。ただあのイコライザ素子、あれが完成するまでにやっぱり5年位かかった。イコライザ素子だけ。だから基板みたいなもの、ラグ板を作って、今日はここを0.033μ、0.047μって、あれを色々組み合わせて、で、出力と入力だけ作っておいて、バラックにはめ込んで毎日毎日それを3年 も5年もやったわけ。
山本 :F特採るとすごいんですよ。
佐久間:うん、悪いんでしょ。だからあのイコライザ素子一つ一つにしても俺は全 然本からヒントなんて得ていないわけ。よく似たものはありますが…まあCR型のイコライザの基本的な回路なんてのは最初から決っているからね。だから俺れはそれをとっかえひっかえいろんなコンデンサや抵抗を組み合わせて毎日毎日、今日は0.055、今日は0.12とか、抵抗の30Kを50Kにしたり色々試行錯 誤して、それであの2A3にくっつけたあたりで、あの定数が決まったわけ。
山本 :ところで村中さんはどうしてここにこようと思ったんですか。
村中 :僕は例のKT66のパワーアンプを佐久間さんが出して(ステレオのやつ)あれを読んで、やっぱり山本さんなんか感じたように普通の記事とちょっと違うでしょ、詩を出したり…だからあれからずうっと頭に引っかかっていたんです。それで去年、夏休みがあるし、ほんと、どんな音するん か行ってみようと...あんまり佐久間さんいい音だ、いい音だって言うし。(笑)
佐久間:それでどうだった、印象は? 去年来た時の印象は。
村中 :何と言うんでしたっけ。ジャズのヴォーカルをこれ(ローサー+ウッドホーン)で聴いたときドキッとしたもん。人が目の前で歌っているような感じがしたわけね。それといちばん最後、帰るとき聴かせてもらったバックハウスの「イギリス組曲」。自分も同じの持ってるんですけどね、比べものならないの!(笑い)どうして?って感じ。だからあれの影響で...
佐久間:狂っちゃったのね。
村中 :バッハ、今30枚になっちゃった。バッハの曲ってのめり込む感じ、引きずり込まれて、そんな感じしません?
佐久間:じゃ、村中君はうちにきてよかったんだ。
山本 :村中君は2度目ですか。
佐久間:山口県の柳井だからね。バイクで何キロ?
村中 :1059キロ
一同 ほーーー。遠い!!!
佐久間:まぁ、LONG LONG LONG ROAD だな。(笑)なぁ。
まあとにかくねぇ、俺がここで商売やって、それで2A3で、『MJ無線と実験』にデビューしてから年間平均200人くらい読者の人が来てくれるの。5月の連休 それからお盆の頃、まあ年間通じると土曜日、日曜日には必ず一人や二人は来るということね。特に5月の連休や夏休みは集中する。それはね、すごくありがたいと思ってる。俺はね、あそこに記事を書いてどうこうよりも、それによって俺が今まで見たことも、聞いたこともないような土地から何か手土産を持ってさ、ね、一所懸命来てくれる人が自分の一生の財産 というか、そういう人に巡り会えたことが今まで記事を書いて一番良かったと思うの。外国からも4、5人来たしさ。
村中 :来て、聴いて、納得して帰る人の方が多いんじゃない?
佐久間:ああ、あのね、半信半疑で来るのはいっぱいいるよ。8割くらいは半分は 疑って来る。あんなおもろいもんから、ほんまに音が出るのやろかと。でもまあ、ありがたいことにみんな納得して帰ってくれる。だから信じて来ない人もいっぱいいますよ。どんなものか聴いてみてやろうという人もいっぱいいる。来たときと帰るときの態度が全然違うというのが圧倒的に多いよ。
ただ僕は自分が記事を書くうえで一つのポリシーを持ってるの。他人の製作記事や、他人の書いたものを一切批判しないの。それで言いたいことがあればいくらでも僕のことを批判して言えばいい。ただ僕は最近自分で思うの。プロというのはね、俺も『MJ無線と実験』に12年書かしてもらってるから、もう自分で書くってことにおいて、プロになろうと思ってるわけ。ある程度プロという自負を持たなきゃやっていけないでしょ。プロというのはさ、絶対人の仕事は批判しないものなの、なんの世界でも。
9/10