灼け堕ちる

 

作者/(仮)トレトニアさん 挿し絵/けえつっつさん

 

 

 

 「じゃあね、アスカ!!」

 

 いつもの帰り道。

 いつもの交差点。

 

 いつものように、

 道の奥の揺らいだ空気の中に消えていく親友を見送って。

 

 ただ、今日はいつもと違う。

 

 いつもアタシのとなりにいるはずの、アイツがいない。

 今日はアイツ、日直の当番だったから。

 

 終わるまで待ってるっていったけど。

 「洞木さんまで待たせるのも、なんだか悪いし」って。

 

 なんでアイツって、誰にでもやさしいんだろ。

 

 それがどれだけアタシを苦しめるか、わかってんのかしら。

 

 家に続く登り道を見上げて。

 

 ひとりでここを登るのって、久しぶりね。

 

 もう少しで赤く変わる陽射しが、じりじりと突き刺さる。

 冷えることを知らない大気が、カラダにねっとりとまとわりつく。

 

 アタシが生まれたときには、

 「北半球」という単語はすでに、

 地理学的にも政治学的にも、意味を失っていたけれど。

 

 10月のこの暑さに、なぜか違和感を覚える。

 

 「土地の記憶」

 

 リツコがそんなことを言っていた。

 

 15年経った今でも。

 かつて「四季」があったことを土地が覚えているんだろうって。

 来るはずのない季節の移ろいを待ちわびている。

 そんな土地のココロを、アタシが感じ取っているんだろうって。

 

 科学者らしくないセリフ。

 

 だけど、わかるような気がする。

 ううん、はっきり、それが正しいとわかる。

 

 だって、ほら。

 秋や冬に、約束をすっぽかされて。

 その嘆きが、こんなにも大地を熱く煮えたぎらせている。

 

 胸を満たす、焼けたアスファルトの匂い。

 

 日本に来て、この街に来て、はじめて知った匂い。

 

 最初は、吐き気がした。

 これからこの匂いに付きまとわれるということに、ブルーになった。

 

 今では、すっかりあたりまえ。

 

 人間、生きていくためには、なんにでも慣れるということね。

 

 

 

 

 

灼け堕ちる

 

文:(仮)トレトニア

画:けえつっつ@難波背弁

 

 

 

 

 「・・・ただいま・・・」

 

 われながら、情けない声。

 空気のよどんだ玄関に、消えることなく留まりつづける。

 

 なんだか、調子が出ない。

 

 ・・・アイツのせいだ。

 

 シンジ、朝も、日直だからって、

 アタシが起きる前に、学校行っちゃってたし。

 

 アイツが、「おはよう、アスカ」って言ってくんなかったから。

 アイツが、おはようのキスしてくんなかったから。

 

 だから、こんなに調子が出ないんだ。

 

 ・・・シャワー、浴びよっかな・・・

 

 

 

 

 

 制服を脱衣籠に放りこんで。

 シャツをアタシ専用の洗濯籠に。

 

 となりの籠に、シャツが引っかかってるのが目に入った。

 

 アイツのシャツだ。

 パジャマ代わりの。

 

 学校に行く前に、脱いでったのかな・・・

 

 手が伸びる。

 

 ダメよ、こんなの・・・

 

 でも、とめられない・・・

 

 ココロが、ざわめく。

 

 顔をうずめて。

 

 胸に広がる、シンジの匂い。

 

 やっぱり、この街に来て、はじめて知った匂い。

 

 アスファルトの焼ける匂いと違って。

 必ずしも、慣れなくても良かった匂い。

 拒絶しても良かった匂い。

 

 事実、拒絶した。

 必死になって、抗った。

 

 でも、心地よくて。

 

 手放したくて。

 でも失いたくなくて。

 

 ふらふらになって、自分を見失っているときに。

 

 告白された。

 

 ネルフの自販機の前で。

 ストレートに。

 

 最後のあがきだった罵りの言葉は、声にならなくて。

 

 しがみついて泣くことしかできなかった。

 

 こうして顔をうずめていると。

 あのときのことが思い出されて。

 あのときのシンジの鼓動が感じられるような気がして。

 あのときのようにシンジに抱きしめられている気がして。

 

 抱きしめられて・・・

 髪をやさしく撫ぜられて・・・

 背中に腕がくいこんで・・・

 胸が押しつぶされて・・・

 

 つぉくつぉく!!!

 

 背筋に走る、甘い悪寒。

 熱い痺れとなって、カラダに広がっていく。

 

 ・・・まずい・・・!!

 

 シャツを引き剥がして。

 残りのもの全部脱ぎ捨てて。

 

 慌てて浴室に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 クリーム色のタイルが隠すほどの水の流れが視界を覆う。

 肌に打ち付けるお湯の音が聴覚を支配する。

 

 お湯の温かさで、カラダの火照りを中和する。

 

 近頃、たまにこういうことがある。

 

 仕方ないじゃない。

 あの日以来、アタシはアイツの匂いに抵抗するのをやめたんだから。

 

 たとえ毎朝おはようのキスをしてもらってるとしても。

 たとえ毎晩おやすみのキスをしてもらってるとしても。

 

 もっと、もっと、と。

 アタシはアイツを求めている。

 

 今日のように、それがなかった日はなおさら。

 

 シャワーをとめる。

 

 カラダを這う水が、体温を奪いながら床に広がっていく。

 徐々に冷めていく、カラダの火照り。

 

 反比例して、強く感じられる熱さ。

 ココロの奥深く。

 ちろちろと燃えている炎。

 くすぶるように。

 シャワーを浴びても消えることのない。

 爆弾を抱えてるに等しい。

 

 仕方ないわよ。

 アイツの匂いを受け入れたんだから。

 

 鏡に映る、私の姿。

 

 髪の潤い、お肌の潤い、ともによし♪

 

 なんとはなしに自慢の胸を持ち上げてみる。

 そっと力をこめてみる。

 

 別になんとも感じない。

 

 そりゃそうか。

 

 ドイツにいたときに習ったこと。

 人間の触感に「快感」は存在しない。

 痛・痒・温・冷のみが刺激として存在する。

 単に、その刺激の元を考慮して。

 脳が、快感なり、嫌悪感なりに読み替えているに過ぎない。

 

 アタシの手、だもの。

 なにか思う、はずもない。

 

 アタシのじゃなかったら?

 もし、シンジだったら?

 

 いま、アタシの胸の形を変えているこの手が。

 アタシのじゃなくて、シンジの手だったら?

 

 

 

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

 ヘンなこと考えるんじゃなかったわ・・・

 もう一度、シャワーを浴びなきゃなんなくなっちゃった・・・

 

 

 

 

 

 コッコッコッコッコッ・・・

 

 コップをミルクで満たしていく。

 この音、なんだか好き。

 

 なみなみと注いで。

 

 脚になにかが触ってきた。

 

 「・・・ペンペン・・・?」

 「クエッ!」

 「なに?アンタも飲みたいの?」

 「クエ!」

 「・・・皿、持っといで。」

 「クエッ!」

 

 トテトテトテ・・・

 

 器用なペンギンね・・・いまさらながら・・・

 

 トポトポトポトポ・・・

 

 「そういや、アンタってどうやって飲んでんの?」

 「クエッ!」

 

 ペンペンは、羽で皿を持ち上げて。

 くちばしにミルクを流し込む。

 

 「アンタ、ペンギンとして、明らかになんか間違ってるわよ・・・」

 

 それにしても、これ、なんかに似てるわね?

 

 あ、そうか。

 ミサトが宴会でやったやつ。

 「大杯で一升飲み干す」ってやつね。

 あの姿にそっくし。

 

 そっか。

 もろに似ちゃったんだ、飼い主に。

 ・・・気の毒に・・・

 

 突然、リビングに響く、電話の音。

 ヒカリかしら?

 

 「もしもし?」

 「あ、アスカ?」

 「ミサト?」

 

 うわ!

 タイミングばっちし。

 これぞまさに「噂をすれば草葉の陰」ってやつね!

 

 「なんかあったの?」

 「あ、うん・・・あのね・・・

  突然、幹部会議が入っちゃってさぁ・・・」

 「じゃあ、帰り遅くなんのね。」

 「あ、いや、その・・・帰れないかも・・・

  それで・・・アスカ、大丈夫?」

 「・・・多分・・・」

 「そっか。じゃあ、シンちゃんにも伝えといてね。」

 「わかった。ミサト、お疲れさま。」

 「ん、ありがと。じゃあね。」

 

 大丈夫、か・・・

 

 これまでにも、何度か聞かれたことがある。

 

 なにが、とはミサトは言わない。

 なにが、とはアタシも聞かない。

 

 要するに、今の生活が壊れるようなことにならないか、ということ。

 

 ミサトも女だから。

 気づいているんだと思う。

 

 アタシの心でくすぶる、この炎に。

 

 だからアタシも遠慮なく甘える。

 

 事実、何度か答えたことがあった。

 「ダメかもしれない」と。

 そんな時、ミサトは、どんな無理をしても帰ってきてくれた。

 

 まあ、少しはミサトも頼りになるってことね。

 

 「・・・大丈夫よね・・・きっと・・・」

 

 通話の切れた音を流しつづける受話器を置いて。

 

 「そういや、シンジ、遅いわね。」

 「クエ・・・ゲボガボ・・・クヘックヘッ!」

 「・・・ミルクでむせるペンギンなんて、はじめて見たわよ・・・」

 

 

 

 

 

 バスタオルをカラダに押し付けて。

 ゆっくりと染み込ませていく。

 

 シャワーもいいけど。

 やっぱり、いっぱいお湯をたたえた湯船に浸かるのって、気持ちがいい。

 

 特に、シンジの入れてくれたお風呂って、最高。

 

 シンジに包まれているみたいで。

 

 ものすごい、幸福感。

 

 ・・・幸福感・・・

 

 そう、幸せなんだ。

 

 シンジにお風呂用意してもらって。

 シンジにご飯作ってもらって。

 

 夕ご飯・・・ハンバーグおいしかったなぁ・・・

 

 いや、そうでなくて。

 

 あ、でも、あれはちょっとムカッときたわね。

 今日、ミサトが帰ってこないって伝えたとき。

 

 「あ、そうなんだ。じゃあ、夕ご飯、ミサトさんの分いらないね」だって。

 

 それはちょっと、反応するところが違うでしょうが。

 

 アタシとふたりっきりなのよ!

 ちょっとはどぎまぎしなさいよ!

 

 いや、その気になられるとそれはそれで困っちゃうわけだけど・・・

 

 でも腹が立つわね。

 

 ちょっとお仕置きが必要よね。

 からかってやろうかな。

 

 シンジは今ごろ、お皿を洗ってるころかな。

 後ろから抱きつくってのはアリね。

 

 クスッ。

 アイツ、慌ててお皿落としたりして。

 

 シャンプーの匂い。

 石鹸の匂い。

 ほこほこ茹でたてのアタシの匂い。

 

 アイツの頭ん中、真っ白に吹き飛ばして。

 

 いや、だから誘ってどうする、アタシ!

 

 クラッ!

 

 あううう・・・

 首の振りすぎで立ちくらみ。

 ちょっと情けない。

 

 シャツにカラダを通しながら、なおも策を練る。

 

 「膝カックン」はどうかしらね。

 

 ちょっと危ないか・・・

 後ろから支えてあげれば大丈夫よね。

 

 よし!これに決め!

 

 あ、でも、シンジも最近、細いなりにカラダがしっかりしてるからなぁ。

 倒れてきたら、支えきれないかもしれない。

 

 支えきれなくて。

 シンジに巻き込まれるようにして、アタシも床に倒れこんで。

 

 はっと気が付くと、アタシがシンジを押し倒したようなカッコになってて。

 

 アタシの下で。

 トクトクと脈打つシンジの心臓。

 ピクピクと震えるシンジのまぶた。

 プルプルと揺れるシンジのくちびる。

 

 アタシは引き寄せられるようにシンジに覆い被さって・・・

 

 襲ってどうするかぁぁぁ!!!

 

 あああ!!!

 ヘンなことばっかり考えちゃうじゃないのよ!

 

 やっぱ、ちょっとヨッキュー不満なのかな?

 朝、シンジにキスしてもらえなかったから。

 

 ダメね。

 思考がそっちにばかり流れる。

 良いからかい方が思いつかないわ。

 

 ちっ!

 シンジ、命拾いしたわね!!

 

 自分でもよくわからん悪態をつきながら。

 更衣室を出る。

 

 あれ?

 

 シンジがいない。

 

 キッチンのシンクには、お皿がそのまま転がっている。

 なにも置かれていないテーブルが、なんだかものさびしい。

 

 リビングは?

 

 やっぱりいない。

 

 お風呂に入る前にアタシが見ていたテレビ。

 そのままつけっぱなし。

 なんか、アニメやってる。

 「戦闘は火力!」とか叫んでる。

 同感だわ。

 

 いや、そうでなくて。

 

 シンジはどこ?

 

 部屋かしらね?

 

 

 

 

 

 シンジの部屋。

 真っ暗。

 

 スイッチを入れる。

 

 「あ・・・」

 

 いた。

 ベッドの上。

 

 「ん・・・アスカ・・・?」

 「「ん?」じゃなぁぁぁい!」

 

 あきれた!

 こいつ、誰にことわって!

 

 「なに、勝手に寝てんのよ!?」

 「・・・今日、忙しかったから・・・」

 「だからって、なに寝てんのよ!」

 

 あ、言葉足りなかったかな・・・?

 

 やっぱり。

 シンジ、むっとした顔で。

 

 「仕方ないじゃないか!

  それとも、アスカ!

  僕が寝ちゃダメだって言うのかよ!」

 「そんなこと言ってないでしょ!」

 「じゃあ、なんだってのさ!」

 「勝手に寝るなって言ってんのよ!」

 

 シンジ、やっと理解したみたいで。

 

 「・・・だって、アスカ、お風呂入ってたじゃないか・・・」

 「それでも「おやすみ」くらい言いに来なさいよ。」

 「そ、そんな・・・

  だって、お風呂入ってるときに声かけたら、怒るじゃないか。」

 「そ、そりゃ・・・恥ずかしいし・・・」

 「だったら!」

 「それでも!」

 

 な、なによ!

 ひどいじゃないの!

 だって、今日、「おはよう」も言ってくれなかったのよ?!

 「おやすみ」もなしなの?

 それで、シンジは寝れるの?

 アタシ、無理だよ?!

 

 「・・・アスカ・・・」

 「・・・なによ・・・?」

 「・・・泣いてるの・・・?」

 

 答えない。

 答えたげない。

 バカな質問、すんじゃないわよ。

 本当、バカなんだから。

 

 ベッドに、とことこ近づいてって。

 

 「ぷらんちゃあああ!」

 「ぐはっ!

  ちょ、アスカ!

  だから、僕のベッドに寝ないでって!」

 「・・・なんで・・・?」

 「な、だって・・・アスカの・・・匂いが・・・」

 「イヤだっての?!」

 「イヤだったら、マット捨てるなりするよ!

  ・・・捨てられないから・・・困るんじゃないか・・・」

 

 そっか・・・

 うん。

 ちょっと満足。

 

 「そう。

  だったら、おやすみのキスしてくれたら、アタシも部屋に戻る。」

 「え?!

  その・・・ここで?!」

 

 あ。

 言われてみれば。

 結構すごいシチュエーションかも。

 ベッドの上で、ふたりして寝転がってる。

 ちょっとどきどき。

 でも、ね・・・

 

 「イヤ?」

 「・・・ううん、イヤじゃない・・・」

 

 素直でよろしい。

 

 「じゃ、ここで。」

 「えっと・・・うん、わかった。」

 

 シンジの手が、アタシの顔を撫ぜるように、髪を払う。

 そのままほっぺに添えられて。

 

 シンジがわずかに上体を起こして。

 ゆっくりと近づいてくる。

 

 なんだか恥ずかしくて、目を閉じた。

 

 アタシの右肩を飲み込んでいるベッドの感触。

 アタシのほっぺに添えられているシンジの手の感触。

 急に強く意識して。

 

 そっと、添えるように。

 重なるくちびるの感触。

 

 やさしいキス。

 シンジのココロそのもののように。

 触れ合うだけの、いつものキス。

 

 でも、なんだか、雰囲気が違う。

 ベッドの上だからかもしれない。

 

 

 

 

 「・・・ん・・・」

 「・・・んふ・・・」

 

 そのまま、こすりつけるように。

 うまく顔を動かせなくて、ちょっともどかしい。

 体を横にしてのキスって、意外と難しいのね。

 

 「・・・ふう・・・」

 「・・・ふはっ・・・」

 

 ゆっくりと離された、くちびる。

 目を開けると、シンジの顔がすぐそばにあった。

 

 いつものおやすみのキス。

 これで、シンジが「おやすみ、アスカ」と言ってくれればおしまい。

 そして、アタシが自分の部屋に戻ればおしまい。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

 ???

 

 なに?

 どうしてなにも言ってくれないの?

 

 シンジ?

 

 と、シンジが、上体をしっかりと起こして。

 アタシをやさしく見下ろす。

 

 視線に縛られる。

 カラダが動かない。

 息が荒くなる。

 顔が火照る。

 

 なに?

 アタシのカラダになにが起こってるの?

 

 シンジから、シンジの目から、視線をそらせない・・・

 

 シンジが、動いた。

 

 そっと、アタシの首に手を回して。

 指が、ざわめく。

 アタシの首の下で。

 

 つぉくつぉく!!!

 

 アタシの背筋を、ううん、全身を、甘い悪寒が、駆け抜ける・・・!!

 

 「ひっ・・・!!」

 「・・・我慢・・・してたんだ・・・」

 「・・・え・・・?」

 「今朝・・・キス・・・できなかったから・・・」

 「・・・あ・・・」

 

 シンジも、同じように思ってくれてたんだ・・・

 ちょっと、すごく、嬉しい。

 体が震える・・・喜びに。

 それとも、悦びに?

 

 「・・・帰ってきたら・・・ミサトさん・・・今日いないって・・・」

 

 指の動きが、激しく。

 甘美に。

 凶悪に。

 

 「はっ・・・ひんっ・・・」

 「自分を抑える、自信がなくて・・・」

 「ん・・・あ・・・」

 「だから・・・早く、寝ちゃおうって思ってたのに・・・」

 

 シンジの手に支えられて。

 アタシの上体が起こされていく。

 シンジの腕の中に収まっていく。

 

 シンジの鼓動が感じられる。

 アタシの鼓動と同じテンポ。

 早鐘のように。

 

 「アスカだけが悪い、なんて、言わないよ・・・」

 

 シンジの顔が近づいてくる。

 

 「我慢できなかった、僕も、悪いんだ・・・でも・・・」

 

 シンジの瞳が近づいてくる。

 

 「アスカだって、悪いんだ・・・よ・・・」

 

 シンジの瞳の奥に潜むオスが近づいてくる。

 

 「ふたりとも・・・悪いんだ・・・」

 

 シンジの瞳にうつるメスが近づいてくる。

 

 「もう、とまらないんだから、ね・・・」

 

 そう・・・よ・・・ね・・・

 アタシも、シンジも、ヨッキュー不満だったのよ・・・

 考えれば、わかるじゃないの・・・

 ごめん、ミサト・・・

 どー考えても・・・今日・・・大丈夫じゃなかったわ・・・

 

 ・・・ふたりで一緒に堕ちていこう・・・

 

 シンジのココロが、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 「ん・・・あむ・・・ふ・・・ん・・・」

 「む・・・はふっ・・・あん・・・はっ・・・」

 

 アタシのくちびるが、シンジのくちびるを挟み込む。

 シンジのくちびるが、アタシのくちびるを捕らえる。

 

 重ねるだけのキスとは違う。

 ついばむような、むさぼるような、キス。

 

 はじめて。

 

 だけど、不思議と違和感はなかった。

 

 あたりまえよね。

 ずっと、イメージしてたもの。

 ずっと、シンジとこんなキスしたいって思ってたもの。

 

 熱い。

 

 アタシのくちびるを離さない、シンジのくちびるが。

 アタシのほっぺたにかかる、シンジの鼻息が。

 アタシの首筋を熔かす、シンジの手が。

 アタシのカラダを支える、シンジの腕が。

 

 熱い。

 

 アタシがシンジを、こんなに熱く感じるってことは。

 シンジはアタシを、冷たく感じてるの?

 

 やだな、それ。

 

 シンジにも、アタシを熱く感じて欲しい。

 

 熱くなれ。

 アタシのカラダ。

 もっと、もっと熱くなって。

 シンジに、その熱さすべてを受けとめてほしい。

 

 「ん・・・あむ・・・ふあ・・・」

 「はん・・・ふん・・・くふ・・・」

 

 動きが、変わった。

 シンジの舌が、その檻から解放されて。

 アタシのくちびるをわって入ってくる。

 

 アタシも必死でそれに応じる。

 

 絡み合う、舌と舌。

 交換される、粘液と粘液。

 

 頭の中に、水温が響く。

 妖しく。

 いやらしく。

 

 アタシの口を満たす、シンジの唾液。

 アタシのそれと交じり合って。

 ほかにどうしようもなく、飲み込んでしまって。

 

 カラダの内側から。

 痺れる。

 熔ける。

 

 意識が遠くなって。

 ふわふわと浮かんで飛んでっちゃいそうで。

 

 シンジの背中に、腕を回す。

 必死で、しがみつく。

 

 それに呼応するかのように。

 今度はシンジが腕を離した。

 

 アタシの手が、シンジの背中に食い込む。

 シンジの手が、アタシの胸に添えられる。

 

 ・・・へ・・・?

 

 「胸に添えられる」?

 

 や、やだ!

 シンジに、シンジに触られてる!

 

 シンジは、やさしく・・・

 服の上から、輪郭をたどるように・・・

 そっと、持ち上げるように・・・

 

 「・・・・・・っ!!!」

 

 なんで!!!

 触れるか触れないかの、わずかな刺激なのに!

 なんでこんなに、こんなに強烈なの?!

 

 シャワー浴びてたときのとは段違いの。

 あまりに強い刺激。

 カラダが、急速に火照っていく。

 カラダが、急速に熱くなっていく。

 

 そんな・・・

 たしかに、カラダに熱くなれって命じたのは、アタシだけど・・・

 でも、こんな!

 

 や!

 ちょっと・・・こんなの!

 こんなの・・・こわい!

 イヤ!知らない!こんなの!こわい!

 

 「ん・・・ぷはっ・・・ちょ、ちょっとシンジ・・・」

 「ん・・・なに、アスカ?」

 

 あ、いま、シンジののどがコクンッて鳴った。

 シンジにも、アタシのを飲まれたってことだよね・・・

 な、なんか恥ずかしい・・・

 

 って、いまはそうでなくて。

 

 「あ、あのね・・・まだ、ちょっと・・・」

 「?」

 「その・・・手が・・・」

 「あ・・・」

 「その、イヤじゃないのよ・・・ただ・・・

  もうちょっと、待ってて・・・」

 「・・・クスッ・・・」

 

 え?

 

 いきなり、また、シンジにくちびるを奪われる。

 シンジの手は、アタシの肩にやさしく添えられて。

 

 「・・・ん・・・あん・・・ふは・・・」

 

 わかってくれたんだ。

 シンジ、やさしい。

 

 シンジのくちびるに、舌に、おぼれる。

 安心しきって。

 

 シンジが、カラダを動かす。

 アタシの腰に、手を当てて。

 ゆっくりと。

 後ろに回っていく。

 それとも・・・アタシがカラダを回されてるの?

 

 なんにしても、ちょっと、キスしにくい。

 首をひねって、必死になってシンジの口を追う。

 離したくないから。

 離れたくないから。

 これは、アタシのなの。

 懸命に舌を伸ばして、シンジの口をなめる。

 

 後ろ向きに。

 シンジのカラダに、すっぽりと収まって。

 

 シンジに後ろから抱きしめられながら。

 シンジと舌を絡めてる。

 

 あまりのいやらしさに、クラクラする。

 

 ざわり。

 

 カラダの表面を、波が走る!

 な、なに!

 

 パニック。

 

 わかった。

 腰に添えられていたシンジの手。

 いつのまにか、シャツの中にもぐりこんでて。

 

 おへその周りをくすぐるように。

 

 「・・・ん・・・っく・・・あふっ・・・」

 

 抗議の声は、全部シンジの口に飲み込まれて。

 

 手が、ゆっくりとアタシのカラダを登ってくる。

 

 わきばらをこするように。

 

 「んんっ!」

 

 あばら骨をなぞるように。

 

 「んひっ!」

 

 そして。

 下から持ち上げるように。

 

 胸を・・・直接・・・

 

 「んあっ!!!」

 

 熱い!

 熱いよ、シンジ!

 

 シンジの手が熱いの?!

 それとも、シンジに触られたアタシのカラダが熱いの?!

 

 わかんない!

 

 や!

 こわい!

 

 逃げようとするけど。

 背中には、シンジのカラダ・・・

 前に逃げると、シンジの手が胸をつぶす・・・

 身をよじるけど、逃げようがない・・・

 

 これね・・・これをねらって後ろ向きにしたのね!

 撤回!

 前言撤回!!

 シンジ、全然やさしくない!!!

 

 「や、やあ・・・」

 

 カラダの筋肉が、こわばる。

 ココロの膝に、力をこめる。

 

 シンジの指が、蠢きだす。

 あ・・・親指が、沈んでいく・・・!

 ん・・・中指が、肌をたたいてる・・・!

 ひ・・・小指が、胸のふもとをくすぐってる・・・!

 

 

 

 

 シンジの指にいざなわれて。

 力が、抜けていく・・・

 ゆっくりと、開いていく・・・

 カラダが・・・

 ココロが・・・

 

 「アスカ、怖がらないで・・・」

 

 シンジの言葉が、凶器となって、アタシを貫く。

 

 こするように。

 

 「やさしくするから・・・」

 「あくっ!!」

 

 えぐるように。

 

 「大事にするから・・・」

 「ひっ!!!」

 

 うねる、アタシのココロ。

 

 「アスカ・・・可愛い・・・」

 

 アタシのナカで、シンジが、シンジの存在が大きくなる。

 

 「あ・・・あふ・・・ふはっ・・・」

 

 熱い!

 シンジが!

 熱くて、ヘンになっちゃう!!!

 

 そして。

 

 「アスカ・・・誰よりも・・・愛してる・・・っ!」

 

 今までで、一番激しく貫かれて。

 奥深くまで。

 探り出されてしまった。

 いままで。

 ココロの奥で。

 ちろちろと燃えていた。

 消すことのできない炎。

 空気を送り込まれて。

 

 「ひ・・・ひは・・・ひあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 とうとう。

 燃え上がった。

 

 

 

 

 

 「あ、あん、ひあ、くふ、はぁん!」

 

 シンジの手が、指が、絶え間なく刺激を送り込んでくる。

 もはや、逆らうすべなく。

 カラダの表面で燃え広がる、甘い炎と。

 ココロのうちで燃えさかる、強い炎と。

 ふたつの炎に、容赦なく、灼かれて。

 

 「あ、そ、やは、ひぃ、きゃん!」

 

 く・・・き・・・あ・・・き、気持ち・・・いい・・・

 これが・・・「快感」・・・

 

 自分が・・・わからなくなる・・・!

 アタシが・・・アタシじゃなくなる・・・!

 

 いつもどおりの熱帯夜なのに・・・息が白い・・・

 丸見えのおへそが・・・ひくついてる・・・

 シャツの下でシンジの手が・・・蠢いてる・・・

 髪が張りついた腕が真っ赤で・・・境目がわからない・・・

 視界の下にアタシの舌が・・・妖しくちらつく・・・

 

 目に入るものすべてが、アタシを堕としていく・・・

 

 思わず両手で目を覆った。

 

 「・・・アスカ・・・?」

 「はくっ・・・な・・・なに・・・よ・・・?」

 「どうして、顔、隠すの?」

 「べ、べつに、そんな!」

 

 顔を隠したわけじゃないのよ!

 見ていたくないから・・・

 見ていると、おかしくなっちゃうから!

 

 あ、でも・・・

 アタシ、どんな顔してんだろ?!

 

 その・・・快感にどっぷりと浸かった・・・

 い・・・いやらしい顔・・・なのかな・・・

 

 お・・・オンナの顔・・・なのかな・・・

 

 や、やだ!

 シンジに、そんな顔、見られたくない!

 

 「ねぇ・・・どうして?」

 「だって・・・ひあっ・・・は、恥ずか、んくっ・・・あっ!!!」

 「アスカの綺麗な顔・・・僕に見せて?」

 「そ、そん、あふ、なこと、はっ、やあっ!」

 

 アンタが!

 アンタがヘンなこと言うから!!

 もう、絶対この手はどけられないわよぅ・・・

 

 「そう・・・じゃ、こうする・・・」

 

 シンジのくちびるが、アタシの首にピトッと張りついて。

 

 吸われた。

 

 「え、ちょ、ひゃあああ!!

  だ、だめ、ちょっと、はぁん、そん、首筋、吸っちゃいやあ!!」

 

 つ、つながる!!

 つながっちゃう!!

 

 炎が!

 ふたつの炎が!!

 

 アタシの・・・カラダの炎とココロの炎が・・・

 つ・・・つながっちゃう!!!

 

 や!だめ!

 そうなったら、アタシ、どうなっちゃうか・・・わかんないよぉ!

 

 「肩の力抜けちゃったら・・・顔、隠せないでしょ?!」

 

 だめ!

 どうかなっちゃう!

 

 「だ、だからって、そ、きゃふぅ!!

  や、ちょ、み、見せるからぁ!!

  隠さないから、これ、やめてぇぇぇ!!!」

 

 慌てて手を離す。

 視界が開けて。

 予想通りの光景。

 さっきまで見てたまんまの光景。

 

 シンジとどんなことをしてるのか。

 あらためて思い知らされて。

 

 堕ちる。

 

 「ありがと、アスカ・・・うん・・・綺麗だよ・・・」

 「ん・・・はあっ・・・な、なに言って・・・」

 

 シンジの言葉で。

 また、ココロの炎が激しくなる。

 

 「じゃ、これは、見せてくれたお礼・・・」

 「ひあ・・・あん・・・ふえ・・・?」

 

 いきなり。

 いままでで、一番強く。

 いままでで、一番激しく。

 

 吸われた。

 

 「ちょ、ひきょう、や、ひ・・・・・やああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ん・・・」

 

 ひとつになった炎に灼かれて。

 すこし失神していたみたい。

 気づいたとき、ベッドに横たえられていた。

 

 シンジが、覆い被さるように、アタシの顔を覗き込んでて。

 

 「アスカ・・・気がついた?」

 「・・・うん・・・まあね・・・」

 「・・・ごめんね・・・」

 「・・・へ・・・?

  あ、謝ること、ないわよ!

  その、き、気持ちよかったし・・・」

 

 あ、なんか、恥ずかし・・・

 

 「ありがと・・・」

 「だから、なんでも、謝ってんじゃないって。

  いつも言ってんでしょ・・・」

 「うん、でもね・・・違うんだ。」

 「・・・なにがよ?」

 

 シンジの手が、ゆっくりとアタシのシャツのすそをめくっていく。

 

 ちょ・・・ちょっと・・・これって・・・

 

 「もう、してしまったことじゃなくて・・・

  これからすることを、謝ってるんだ・・・」

 「・・・あ・・・」

 

 そして。

 一気に、脱がされた。

 

 アタシの胸。

 覆い隠すものは、もうなく。

 あらわになって。

 

 恥ずかしくて、確認できなくて。

 ただひたすら、ごまかすように、シンジの目を見つめていた。

 

 シンジは、アタシを、熱く見下ろしてて。

 そののどが、またコクンッて鳴った。

 

 見られちゃってる・・・のよね・・・

 

 「・・・アスカ・・・綺麗だ・・・」

 

 かすれるような声。

 

 カラダ中の血が顔に集まった気がする。

 

 脱がされた、アタシのシャツ。

 手首のところでとまってる。

 

 どういうつもり?

 手をアタシに抜かせることで。

 アタシが自分で脱いだってことにするつもり?

 

 それとも・・・手枷のつもり?

 別にこのままでも、腕を下げれば。

 シンジに抱きつくことも、殴ることも、できるけど。

 

 あ・・・でも・・・

 そんなことを考えてたら・・・

 なんだか、とても、シャツが重く思えてきちゃった・・・

 

 シンジの瞳にうつるアタシの瞳。

 赤く、妖しく輝く。

 

 あ・・・

 自分で自分に暗示かけちゃったかな・・・

 

 動かない・・・

 この手は、もう、下ろせない・・・

 

 シンジの手が、また、アタシの胸に添えられる。

 シンジの指が、また、妖しく蠢く。

 

 アタシのカラダに、ココロに、たやすく火が入る。

 

 「ん・・・ふ・・・あん・・・」

 

 身をよじる。

 逃げてるんじゃない。

 その逆。

 吹き荒ぶ快感の風に、流されるままに。

 

 「ふん・・・ああっ・・・」

 

 鎖骨を吸われる。

 そして。

 

 ゆっくりとシンジの口が、下に降りていく。

 

 あ。

 わかった。

 シンジがしようとしてること。

 

 アタシの上半身で。

 唯一。

 まだ触れられていない。

 胸の頂。

 赤く、固く、自己主張している。

 

 シンジの口で。

 シンジの舌で。

 

 これから・・・

 

 シンジの顔。

 胸のふもとをたどるように。

 いったん、大きく迂回して。

 

 そして、口を離す。

 

 「・・・???」

 

 そして、舌を突き出して。

 ゆっくりと、なめるように。

 登頂をはじめた。

 

 あ・・・

 来る・・・

 来るのね・・・

 

 身構える。

 

 来たるべき刺激に備えて。

 

 シンジの舌。

 胸の、色の境目のところまで登って来て。

 

 待ち受ける。

 

 息をとめて。

 

 でも、そこから、登ってこない。

 境目のところを、ちろちろと。

 行ったり来たり。

 

 待つ。

 アタシに唯一できること。

 息を殺して、待ちつづける。

 

 ためらうように。

 おびえるように。

 

 シンジの舌は、そこから登ってこない。

 

 ちろちろ、ちろちろ。

 

 胸を揉みしだいていた手がとまってる。

 そこまで気を回す余裕がないのね・・・

 

 迷ってるんだ・・・

 

 でも、これは・・・かなり・・・アタシも・・・つらい・・・

 

 アタシの全神経。

 シンジの舌が触れている一点に集中してしまってる。

 

 シンジは迷っているだけかもしれないけど・・・

 アタシにとっては・・・焦らされているに等しい・・・

 

 な、なに、ためらってんの・・・

 ここまできて、びびってんじゃないわよ・・・

 ホント、臆病なんだから・・・

 

 長い・・・長い時間・・・

 

 待たされて・・・

 

 「・・・はあっ・・・」

 

 息を吐いてしまった。

 カラダが弛緩してしまった。

 

 まさに。

 その瞬間だった。

 

 ねとっ・・・

 

 シンジの舌が。

 胸の頂を、押しつぶすように覆って。

 ねぶるように・・・こするように・・・なめ上げられた。

 

 「・・・!!!」

 

 なにが起こったのか、わからなかった。

 

 与えられた刺激が、あまりに激しすぎて。

 脳が処理できなくて、フリーズした。

 

 手が、力なく震える。

 膝が、笑い出す。

 腰が、ひくつきだす。

 

 そして。

 

 詰まっていたパイプが、いきなり流れ出したかのように。

 一気に脳が、刺激を翻訳し始めた。

 

 「あ・・・ぎ・・・ひ・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 あふれんほどの・・・「快感」として。

 

 

 

 

 

 「あ、はぐっ、ひ、ふぁ、やはっ、ひんっ!」

 

 アタシの口から発せられた声。

 四方の壁に跳ね返って。

 アタシに降り注いでくる。

 

 自分で出してる声が信じらんない!

 

 でも、こらえきれないのよぉ!

 

 「はっ、くんっ、あふ、やはぁ!」

 

 さっきまでアタシの手を封じていたシャツ。

 部屋の隅まで吹っ飛んでいる。

 シンジのシャツもそのそばに落ちている。

 

 隔てるものなく感じられる。

 シンジの体温。

 シンジの鼓動。

 シンジのココロ。

 

 悔しいくらいに、嬉しい。

 

 「ん、きゃ、はふ、くぅっ、はあっ!」

 

 シンジ。

 アタシを、貪るように。

 

 吸って。

 

 「ひはっ!」

 

 舐めあげて。

 

 「きゃふっ!」

 

 くすぐる。

 

 「やはぁん!」

 

 シンジが触れてくるとこすべて。

 髪も。

 肩も。

 腕も。

 胸も。

 腰も。

 与えられる刺激すべてが。

 アタシを快楽の海に引きずり込む。

 

 溺れる。

 

 「あ、はあっ!もう、だめっ、許し、きゃあ、やめてぇぇぇ!」

 

 どろどろに甘い叫び。

 聞いた瞬間にわかる。

 うそだと。

 

 もっと、してほしい。

 もっと、触れてほしい。

 もっと、キスしてほしい。

 もっと、気持ちよくしてほしい。

 

 もっと、愛してほしい。

 

 シンジにも聞こえてるんだと思う。

 アタシのココロの声。

 

 だから、やめない。

 だから、やめてくれない。

 だから、やめないでいてくれる。

 

 「ひゃ、もう、や、おかし・・・んむ、あん、ふ、むぐ・・・」

 

 口をふさがれる。

 

 なぞられて。

 吸われて。

 絡めとられる。

 

 口の端から溢れ出したしずく。

 耳たぶをかすめて、消えていく。

 

 涙で視界がゆがむ。

 それは、シンジに愛してもらえる悦び。

 

 頭の中が、どんどん白くなっていく。

 快感に、追い詰められる。

 

 空に放り上げられそうな。

 谷に突き落とされそうな。

 

 そんな足場のしっかりしない不安に突き動かされて。

 

 必死でシンジのカラダにしがみつく。

 

 アタシの限界が近いのを知ったのか。

 それともアイツ自身抑えがきかなくなったのか。

 

 一気にスパートをかけてきた。

 

 口の中を舌でまさぐられて。

 両手で胸を激しく揉みしだかれて。

 

 「ん、は、んぐ、んん、んあ!」

 

 そして。

 

 指で。

 思いっきり。

 胸の頂を。

 つねりあげられた。

 

 「ん、ん、んんんんんんんんんんんんっっっっっ!!!」

 

 カラダを炎で真っ白に灼き尽くされて。

 

 アタシのココロは堕ちた。

 

 

 

 

 

 「はあ、はあ、はああ・・・」

 

 ベッドに転がって。

 シンジの顔を見ながら。

 呼吸を整える。

 

 「アスカ・・・大丈夫だった・・・?」

 「はあ、はあ、大丈夫じゃ、ないわよ・・・

  どうかなっちゃうかと、はあ、思ったじゃないの・・・

  ううん、どうか、なっちゃったかな・・・」

 

 カラダ中の力が抜けちゃってたけど。

 残されたわずかの気力をかき集めて。

 

 最上級のの笑顔を見せてあげる。

 

 「嬉しかったわ・・・シンジ・・・

  その・・・気持ちよかったし・・・」

 「アスカ・・・!」

 

 シンジに、ぎゅって抱きしめてもらう。

 

 なんのかんの言って。

 単純にこうして抱きしめてもらうのが一番好きかも。

 

 シンジ、やっぱり、あたたかい。

 

 ???

 

 腰骨に、なにかあたる。

 なに?

 

 「アスカ?どうしたの?」

 「うん、これ・・・あ・・・」

 

 ひょっとして、これって・・・

 

 「あ・・・これ・・・?

  いや、その・・・アスカが、可愛かったから・・・」

 「・・・」

 

 わかってる。

 これがどういうことか。

 

 アタシが、オンナであるように。

 シンジも、オトコだということ。

 

 オンナとオトコが、「カラダを重ねる」という意味。

 

 いまから?

 

 そう、いまから。

 

 アタシとシンジは、ひとつになるのね。

 

 ・・・

 

 ・・・・・・

 

 いいわ。

 覚悟、できた。

 

 「・・・シンジ、あのね・・・」

 「・・・アスカ・・・」

 「あのね・・・その・・・」

 「・・・無理、しないでよ・・・」

 「!!!

  あ、アタシ、別に、無理なんか!」

 「そんな顔して言われてもね・・・」

 

 え・・・

 アタシ、いま、どんな顔してんの・・・

 

 「あせること、ないよ。」

 「でも・・・」

 「これからも、ずっと一緒だから・・・」

 「あ・・・」

 「だから・・・ゆっくりいこうよ・・・」

 

 嬉しい。

 こんなに思われているなんて。

 「ずっと一緒」だなんて。

 

 涙がこぼれる。

 

 そっと、キスしてくれる。

 

 シンジ・・・やっぱり・・・やさしい・・・

 

 でも、シンジの額。

 びっしりと汗が浮かんで。

 なにかに耐えるような顔。

 

 つらいんだ。

 

 我慢するのが。

 

 コイツはこういうやつだから。

 いまはまだ、絶対に、アタシに欲望をぶつけようとはしないだろう。

 アタシが懸命に誘ったとしても。

 

 でも。

 すごくつらそう。

 

 なんとかしないと・・・

 

 ・・・

 

 「・・・ふあ・・・」

 「アスカ?」

 「アンタがあんまり激しいから、眠くなっちゃったわよ。」

 「へ?」

 

 カラダを起こして。

 

 「ここで寝ちゃうと、ミサトにばれるかもしれないから・・・

  アタシ、部屋に戻るわ・・・」

 「・・・あ・・・」

 

 シャツを拾って。

 

 「あ、アスカ・・・それ、僕の・・・」

 「学校で習ったじゃない。」

 「へ?」

 「えっと、なんだっけ・・・

  ほら、国語の授業で・・・

  契りを結んだ男女が服を交換するやつ。」

 「・・・ひょっとして・・・「後朝」・・・?」

 「そう!それよ!」

 「・・・あれって、1000年前の習慣だよ・・・」

 「いいじゃん、別に!

  こういうのって気分の問題だし!」

 

 シンジの腕に、アタシのシャツを押し付ける。

 

 「あ・・・」

 「あの、ホントに、その、気持ちよくて・・・嬉しかった・・・

  ・・・また、してくれる・・・?」

 「も、もちろん!」

 「えっち。」

 「え?あ・・・て、あの、あ・・・」

 「クスッ・・・それじゃ、アタシ、もう寝るね・・・」

 「う、うん・・・」

 「・・・おやすみ、シンジ。」

 「うん、おやすみ、アスカ。」

 

 シンジの部屋を出る。

 

 ・・・自然よね?

 自然だったわよね?!

 

 アタシがいなければ。

 シンジは、自分で、その・・・なんとかできるわけよね?

 

 アタシの部屋。

 熱さをため込んだ空気。

 エアコンをつける。

 

 ベッドに転がって。

 

 シンジのシャツを、じっと見る。

 シンジにも、アタシのシャツ、あげちゃったな・・・

 

 いまさらながら、足の付け根が湿っていたことに気づく。

 

 ちょっと気になったけど。

 ま、いっか・・・このままで。

 

 アイツ・・・つらそうだったな。

 

 いま、アイツが。

 あるいはアタシのシャツを使って。

 なにをしてるのか。

 

 別に、「不潔」なんていうつもりはない。

 

 ただ、すっごく悔しい。

 アイツの欲望を受けとめてあげられない自分が。

 すっごくふがいない。

 

 アタシは、あんなにシンジに気持ちよくしてもらったのに。

 アタシは、あんなにシンジに愛してもらったのに。

 

 アタシは、アイツを気持ちよくしてあげられないの?

 アタシは、アイツを愛してあげられないの?

 

 すっごく悲しい。

 

 まさか、これが原因で、嫌われるなんてこと・・・

 

 カラダが震える・・・

 アタシのココロから、シンジが引き抜かれていく気がする・・・

 

 やだ!

 やっぱ、ダメ!

 

 いまからでも、シンジのとこに・・・

 

 ガラッ!!!

 

 シンジが部屋から出てくる音。

 

 心臓が縮み上がる。

 

 シンジは・・・そのままトイレの方へ。

 

 「・・・早く、大人になりたいな・・・」

 

 かすれるような声。

 アタシの声?

 それとも、シンジの声?

 闇に吸い込まれて。

 

 シンジは、シャワーを浴びはじめたみたい。

 

 アタシも綺麗好きな方だけど。

 アイツも、結構潔癖症よね。

 

 さっと流しただけだったのだろう。

 シンジはすぐに出てきて。

 

 ・・・???

 

 アタシの部屋の前に???

 

 「・・・あの、アスカ・・・?」

 「・・・」

 「もう寝た?」

 「・・・まだ、起きてるわよ・・・」

 

 シンジ?

 どうしたの?

 

 「あ、あのさ、もう、その、落ち着いたから・・・」

 「・・・」

 「だからさ、やっぱり、一緒に寝ちゃ、だめかな?」

 「!!!」

 

 なんで・・・

 なんでコイツって・・・こんなにアタシを嬉しくさせてくれるんだろう?

 涙が、止まらなくなっちゃうじゃないの・・・

 

 「・・・」

 「あの、アスカ?」

 「・・・」

 

 嬉しすぎて、言葉が出ないわよ・・・

 

 「・・・ごめん。

  やっぱり、無神経だったね。

  それじゃ・・・」

 「ち、違うの!!!」

 

 慌ててベッドをバンバンッと叩いて。

 

 「ごちゃごちゃ言わなくていいから!

  早く入ってきなさいよ!」

 「あ・・・う、うん!」

 

 シンジがアタシの部屋に入ってくる・・・

 シンジがアタシのベッドに入ってくる・・・

 

 「シンジ・・・」

 「アスカ・・・」

 

 シンジがやさしく抱きしめてくれる。

 だから、アタシもぎゅって抱きしめてあげる。

 

 「シンジ、あったかい・・・」

 「アスカもあったかいよ・・・」

 「ホント?!」

 「え?うん。とてもあったかいよ。」

 「・・・ふふ・・・」

 「どうしたの?」

 「さっき、ね・・・」

 「うん?」

 「ずっと、不安だったの。」

 「なにが?」

 「シンジが、とてもあったかかったから・・・

  シンジはアタシを冷たいって感じてるんじゃないかって・・・」

 「そんなはずないじゃないか・・・

  アスカはとてもあたたかかったよ・・・」

 「うん・・・」

 

 シンジがやさしく笑いかけてくれる。

 シンジの笑顔、好き。

 

 「そういえば、まだ、おやすみのキスしてなかったね。」

 「あ、そういえば、さっきも・・・」

 「・・・アスカ・・・キスしていい・・・?」

 「そんなこと、いちいち聞くんじゃないわよ。」

 「うん、それじゃ・・・」

 

 やさしいキス。

 重ねるだけの。

 でも、このキスもいい。

 さっきみたいに激しいキスも気持ちいいけど。

 こういうのも。

 シンジに大事にされてるって感じがして。

 

 そっとくちびるが離れていく。

 ちょっと名残惜しいけど。

 これがいつものおやすみのキス。

 これで、シンジが「おやすみ、アスカ」と言ってくれればおしまい。

 そして、アタシが「おやすみ、シンジ」と言えばおしまい。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

 おやあ???

 

 「・・・あの、シンジ・・・?」

 「う、うん・・・」

 「いまの、おやすみのキス・・・よね?」

 「そ、そのつもりだったんだけど・・・」

 「「だった」ってなによ!

  ちょ、だれが第2ラウン・・・やぁん♪」

 

 幸か不幸か。

 

 夜はまだまだとっても熱かった。

 

 

 

 

 (おわり)

 

 

 

 <<あとがき>>

 

 仮:なんばぁぁぁふぁ・・・ごほっげほっ・・・いえ、なんでもないですよ?

   皆様、はじめまして!!

   (仮)トレトニア と申します!!

 

 け:・・・をい・・・

 

 仮:「カトレトニア」とお読みくださいませ!

 

 け:待たれよ。

 

 仮:・・・なんでしょう?

 

 け:なんだ? その「カトレトニア」というのは・・・?

 

 仮:お花の名前。

 

 け:うむ、あれはナカナカ可愛い花であるな。

   って、そうでは無くて!(←ノリツッコミ)

 

 仮:・・・

 

 け:・・・

 

 仮:・・・・・・

 

 け:・・・お主っ!!

   それが人にこんなえっちな挿絵を頼んだ

  (わけではない、その場のノリでこうなった。ちなみにけえつっつも悪ノリした)

   人間のとる態度かっっっ!!!

 

 仮:な、なんのこと?!

   私は謎の仮面妄想士「(仮)トレトニア」ですっ!

   それ以上でも以下でもないわっ!!!

 

 け:剥いでやるっ!!

   その仮面、むしりとってくれるっ!!!

 

 仮:させるかっ!!

   大体そっちだって、いつもと違う名前で・・・

 

 

  −−−しばらくお待ちください(BGM:パッヘルベルのカノン(笑))−−−

 

 

 仮:・・・ぜへぇぜへぇ・・・

   ・・・このへんでやめときません・・・?

 

 け:・・・確かに・・・はぁはぁ・・・

   ・・・これ以上の争いは・・不毛やもしれぬ・・・

   どうせ・・・我々の正体など・・・バレておるだろうし・・・

 

 仮:・・・ぜぇぜぇ・・・

   では、あらためまして・・・

   皆様、はじめまして!!

   (仮)トレトニア と申します!!

 

 け:けえつっつです!!

 

 仮:拙いながらも、この「灼け堕ちる」を

   「愛のあるえっち」なお話をお望みの方々にささげます!!

 

 け:喜んでいただけたら嬉しいです!!

 

 け&仮:最後まで目を通してくださった皆様、ありがとうございました!!!

 

 

 

 


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(updete 2001/11/18)