エヴァ
■ 後日談 ■
after act.09
―― 『お泊まり』番外編 ――
作・えむえすびーむ



夕方、日はすこし傾き長い影をつくりはじめていた。
その柔らかくなった陽射しを背中に受け、ひとりの少女が歩いていた。
おさげ頭に頬のソバカスがまだあどけなさを残す、洞木ヒカリである。
彼女は学校の帰り、いつもとは違う帰り道を歩いていた。
それは今日学校を欠席した親友の見舞いのため、その親友の家に向かっていたためである。
その親友の家まであと少しというところで、彼女は向こうから歩いてくる人影が目に入った。
それを見て彼女はすぐその親友であることがわかった。
栗色の髪の毛に赤いふたつのブローチ、その親友のトレードマークであった。
彼女はその親友に駆け寄った。



あっ!アスカー!
どうしたの今日?
学校休んじゃって。
葛城先生から今日、アスカは具合悪いから休むって連絡があったって聞いてどうしたのかなって思って、碇君にも聞いてもわからないっていうし、だからこれからアスカのお見舞いに行こうって思っていたのよ。
でもその様子だとたいしたことじゃなさそうね。

え?うん、放課後の委員会も中止になったし、当番の仕事も鈴原が手伝ってくれたから早く終わったの。
で、アスカどうしたの?ひょっとして一昨日の晩のことと関係あるの?

え?だって、碇君にそんなこと聞けないでしょ。だいいち碇君にわたしがふたりのこと知っているって話した?
でしょう、それじゃあ聞けないじゃない。

ねえ、どうしたの?アスカ。なにかあったの?
具合悪いって言っても、アスカはまだあの日じゃないし、ほんとどうしたの?
え?なに?首筋がどうしたの?
あ、どうしたの?その赤い痕、、、あ!えっ、えー!!
それってキスマーク?!
じゃあこれ、、、碇君がつけたの!?
えー!その腕と脚のもそうなの!?
すっすごい、、、。
あ、だから長袖着ているんだ。
え、まさかそれが理由なの?
あきれた。
まあそうね。制服だとこんなとこ隠せないわよね。
でも、親にはなんて言ったの?

そう、ただお腹が痛いってことにしたんだ。
じゃその痕見られてないんだ。そうよねぇ、見られていたらそんな言い訳通用しないわよね。
でも、それで、怪しまれなかった?だって昨日、一昨日って、碇君とふたりだったのは両親も知っているわけよね。

ふうん、そうなんだ。こういうときって幼なじみっていいね。ふたりでいても変に思われないだもん。
そう、、、。
あ〜あぁ、なんか心配して損しちゃった。
そうと分かっていたらせっかく早く帰れたんだから鈴原と一緒に買い物に行けばよかったなぁ、、、。
アスカの見舞いに行くから一緒に行こうって言ったんだけど、鈴原、じゃあ帰るって、、、。鈴原、よっぽどアスカが苦手なのねぇ。
はいはい、別にいいですよう。
え?
うん、、、。
鈴原とふたりきりのときは名前で呼ぶけど、でも、なんかの拍子でみんなといるときに鈴原を名前で呼んじゃうといけないなぁと思って、ふたりのとき以外は鈴原って呼んでるの。

うん、鈴原はわたしの呼びたいようにすればいいって、言ってくれるわ。
わたし、まだ鈴原とつき合っているの、クラスのみんなに話してないし。
え?うそ!ほんとにぃ?!あ〜ん、もうみんなにバレているのかしら。
そうだったら恥ずかしい。
あ、鈴原とつき合っているのが恥ずかしいって言っているんじゃないわよ。
ただ、わたし男の子とつき合うの初めてだし、、、。
それに、わたしと鈴原、もうそれだけじゃあないし、、、。
鈴原にお弁当作っているのも内緒だし、、、。あ、じゃあこれもバレてるのかしら?
やだぁ、、、。

え、う、うん、でも、、、。
うん、ありがとう。
でも、もう少し待って、、、そしたら、、、。
うん、そうね、アスカといるときはトウジって呼ぶわ。
あん、やっぱり人前でトウジって呼ぶの恥ずかしい。
え、うん、まだ慣れないけど。でも、トウジって呼びたい、、、。
そうね、うんそうする。

ねえアスカ、、、一昨日のこと聞かせて、、、。
どうだったの?うまくいったの?そのやっぱり痛いだけだった?よかったの?

そう、、、よかった。アスカにもそれが感じられて。
アスカ、おめでとう、よかったね。

ん、なあに。
え?あ、う、うん、、、。
わたしは気持ちよくなって3回目か4回目くらいに、うん、、、なったことがあるわ。
頭の中が真っ白になっちゃうっていうか、すごいの、なんか口にするのができない。
わたし、あの気持ちを感じてからトウジとするのがとても待ち遠しくなちゃったの。
ああん、恥ずかしい!
わたしがこんなこというのはアスカだけだからね。
え、じゃあ、アスカもなっちゃったの?
ほんとにぃ?、、、ど、どういうふうにしたの?

うん、うん、えー、、、きゃー、そんなふうにぃ?
あ、ごめん、だってこういうの聞くの初めてなんだもん。
だから、ちゃんと聞くからぁ、、、。
うん、うんうん。
へぇー。
え?
わたしも、、、だから、、、よくわかんないの、トウジとしているときに突然なっちゃうときがあるの。トウジに聞くと、わたし、大きい声あげているんだって、、、。恥ずかしいわ。
でも、ほんとすごいの、わけわかんなくなっちゃって、、、。
いつの間にか気を失ったような感じになって、トウジに声かけられて気がつくってかんじになっちゃうみたいなの、、、。
でも、そのあとはドキドキした気持ちや変な気持ちがなくなってなんかトウジがもっと好きになっていく感じなの。
え?あん、ばかぁ、そんなつもりで言っているんじゃあないわよ。
アスカどうお?
アスカは碇君として感じられて、碇君をもっと好きになった?

ふふふ、アスカって碇君のそういう話するとすぐ顔赤くするわね。
わっかりやすい。
アスカ、かわいい。
あん、ごめん、からかっているんじゃないわよ。
それで、そのあとどうしたの?
ふ〜ん、ふたりでおしゃべりしたり、、、うん、うん。
いいなあ、そうやってふたりっきりで話するの。
ふーん。

え?ちょっと待ってアスカ、まだあるの?
え、え、えぇー!あの碇君がぁ?!
え、きゃっ、ほんとにぃ!
信じらんないぃ。
え?なによ、そうみたいだっていうのは?
えー?!そのあいだ憶えてないの?
きゃー!ほんとにぃ?!
え?わたしもすこしあるけど、トウジがすぐ起こしてくれるもの。
アスカだいじょうぶだったの?
うんうん、、、、うんうん。
そうなんだ、、、。
あの碇君がへぇ。

え?そ、それはぁ、、、。
ええ〜、そんなあ。
ああん、わかったわよお。
・・・わたしも、うしろからしてもらったことはあるわ。
うん、感じ違うよね。え?まさかアスカ、もしかして、、、おし、、、
ああん、ごめんごめん。そうよね、そんなへんなことしないわよね。
え、う〜ん、男の子ってそういうの好きなのかしら。でも、後ろから見られるのってなんだか恥ずかしいわよね。

え?そ、、、それは、、、わ、わたしはないわ、触られるけど、、、。え、吸われたの?え〜、、、。どんな感じだった?
うん、え?やん!、、、なんか、恥ずかしいわ。男の子にそんなにされちゃうなんて、、、。
え?うん、ドキドキする。触られると、敏感になっちゃうでしょ。そうするとよけい感じちゃって、、、、うん、恥ずかしいよね。
でもわたし、アスカみたいに大きくないもん。わたしブラつけたの今年になってからだし、やっぱり男の子っておっぱい大きいほうがいいのかなぁ。やっぱりちょっと気にしちゃう。
え?噛まれたぁ?ほんとに?!
大丈夫だったのアスカ。
え?それもよく憶えてないのぉ?ほんとにぃ〜?!
男の子ってそうなっちゃうのかなぁ。

え?あん、わかっているわよ。
アスカの大事な彼氏じゃない。
でも、やっぱりアスカって碇君をかばっちゃうのね。
アスカ、ほんとに碇君が好きなのね。
ちゃかしているわけじゃあないわよ。
ほんとうにそう思ったの。

うん、うん、ふーん。
え〜っ、そのあともしたの?
うん、うん、え?アスカが?!きゃ〜!!
え〜!きゃ〜!いや〜ん!
そんなことしちゃうのぉ?!
わぁ〜、それでどんな感じだったの?
あ〜ん!すご〜い!
わたししたことな〜い!
あ、ごめんごめん、でも、ふーん、そうなちゃうんだ。
ううん、わたし、まだトウジにしてもらうだけしかしてないし、そういうことまだしていないから、、、。
でも、そう、、、。そんなにいいんだ、、、。
うん、え?なに?そんなことないわよ。
正直ちょっとビックリしちゃったけど、そんなことないよ。
こんなこと話し合えるのアスカだけだもん。
わたしのだいじな友達よ。

・・・ほんとはこういうのわたしたちにはまだ早いのかもしれないけど、わたし、トウジとしたこと後悔していないわ。
だって、彼をもっと好きになれたもの。

べつに深刻ぶってないわよ。ただちょっと気を付けようとはおもうわ。
うん、やっぱり避妊とか、あとみんなにばれないようにって。
わたし、いまのトウジとの関係壊したくないから。
で、アスカ、この前あんなこと言っちゃったけど、やっぱり、するときは安全な日でも、その、ス、スキンつけてもらったほうがいいと思うの。
わたしもこれからそうする。

でもいいなアスカ、碇君と一緒に夜過ごせるなんて、、、。
わたしもトウジと過ごせたらいいなぁ、、、。
え?あーんっ!それは言わないで。
そりゃあ、前はそう言っていたけど、でも、トウジが好きになってからやっぱり一緒にいたいって思うようになったし、トウジといてわかったの、男の子と一緒になるのはフケツなことじゃないわ。
わたし、子供だったのね。

え?
わ、わたしたちはまだそんなに、、、。
わたしとトウジはふたりだけでいられる時間ってそんなにないから、、、。
いいなぁ、アスカ。
え?そ、そんなんじゃあないわよ。
ただふたりでおしゃべりしたり、食事なんかできたらいいなぁっておっもっただけよぉ。
そ、そりゃあそういうのもしてみたいけど、、、。
そうしたいけど、、、。
わたしもトウジも兄弟いるし、、、家の中でふたりきりになるなんて、まずできないわ。それに男の子と女の子が一緒にいるっていうのも普通すごい目立つのよ。アスカと碇君は特別よぉ。羨ましいわ。
最近、コダマお姉ちゃんもトウジにお弁当作っているの気付かれているみたいだし、、、。

え、コダマお姉ちゃん?
うん、よくわかんないけど、つき合っている人いるみたい。
これ、誰にも言わないでね。実はしばらく前に、辞書借りにコダマお姉ちゃんの部屋入ったとき見ちゃったの。その、本棚の文庫本の奥に隠してあったの。あ、あの、あれよ、そのス、スキンの箱。わたしビックリしちゃった。
コダマお姉ちゃんもしているのかなぁって、コダマお姉ちゃんキレイだから、、、。
え?べつにわたしはシスコンじゃないわよ。
ただ、相手はどんな人かなぁって、、、。
だからぁ、違うって!
もう。

あ、じゃあ、わたしこっち買い物していくから。
うん、アスカの元気な顔、見れてよかったわ。
アスカは?
そっちということは碇君のとこ行くのね。
そう、仲良くね。

うん、明日は学校くるのよ。
じゃあ、明日学校で。
うん、バイバイ。



そうかぁ、アスカと碇君うまくいったんだぁ。
でもすごい、そんなにできちゃうんだ。
男の子ってそうなのかなぁ、、、。。
男の子ってすごい、、、。
トウジももっとしたいって思っているのかなぁ、、、。
わかんない、、、。

でも、そんなにできるんなら、わたしも、、、してみたい。
アスカ、羨ましいな、、、。




彼女の心の中には新たな想いが膨らみつつあった。
彼を慕う崇高な恋愛の情と、彼を求める愛慾の欲望が混ざり合い変質していく。
日がますます傾き、あたりを紅く染めていく。
影が長くなった街路樹の通りを、彼女は歩いていく。
まだ若く幼い性への憧憬を抱きながら、、、。