Episode-19.5「沖縄でポン」プロット抜粋版

A Holiday


 

 

 

「碇君......」

「ああ、あやな…!」

 

振り向いたシンジは絶句する。目と鼻の先に、レモンイエローのビキニがあった。

 

挿し絵:K−2さん

 

 

「あ、あやなみ…それ、着たんだ。そっか、あっ、あははははっ…」

「......?」

 

ずざざっ、と凄い勢いで後ずさったシンジを見て、レイはこく、と首を傾げる。その動きに合わせて、胸元にあしらわれたリボン状の飾りが揺れる。

…ついでに、彼女の胸も。

 

「碇君......どう?」

 

レイとしては、純粋に水着と自分のマッチ具合の評価を聞きたかったのだろう。しかしながら、聞かれた方のシンジは、それほど冷静ではいられなかった。

購入の際に、結構きわどなぁ…と思っていたのだが、実際にレイが着ているのを見ると、さらにその感が増す。

 

「う、うん、似合うよ、すごく!」

「......ありがとう」

 

レイの紅い瞳を見たシンジは、なぜか真っ赤になってしまい、視線を落とす。しかし、すると必然的に薄い布地に包まれた彼女の胸が飛び込んできて、目のやり場に困った。

 

綾波って結構、着やせするんだよな…。

 

混乱した頭でそんなことを考えてしまったシンジの脳裏に、遙か以前にアクシデントから見てしまった、彼女の全裸が脳裏に浮かぶ。

 

なっ、なに考えてるんだ、僕は!

ぶんぶんぶんっと思い切り頭を振って煩悩を振り払うシンジ。

 

「わっ!!」

「うわっぷ」

 

その背後から、どんと勢い良く押されて、シンジは砂浜とキスしてしまう。

 

「なに、一人で悶えてんのよ、バカシンジ」

「ぅぁ…口の中がシャリシャリ…」

 

半分、涙目で見上げたシンジの視線の先に、アスカが立っていた。

逆光を背に、白いパーカーが揺れる。

パーカーのポケットに突っ込んだ両手が揺れるたびに、ブルーのワンピースが見え隠れする。

角度の危ういカットのワンピースから伸びる長い脚。

大人顔負けのスタイルのアスカに、シンジは砂を吐き出すのも忘れて見とれた。

 

シンジが驚くことは、もう一つあった。

アスカは、いつもの髪型ではなく、長い髪を後ろで一つに結わえた…いわゆるポニーテールにしていたのである。おそらく、この後のスクーバを意識してのものなのだろうが、それは新鮮な驚きだった。

シンジの呆けた顔を堪能してから、アスカは満足そうに顎を反らした。

 

「アンタ…目がヤラシイわよ」

 

ぼそり、と耳元で呟かれて、シンジは慌てて、真っ赤になった顔をめちゃくちゃにこすった。その姿を見て、アスカが楽しそうに笑う。

 

「それで?どうなのよ、感想は」

「か、かんそう?!」

「あんたバカぁ?あたしの水着よ、み・ず・ぎ。アンタが選んだんでしょう、責任持って批評しなさいよ」

 

アスカは両手を腰に、へたり込んでいるシンジに、前屈みになって顔を寄せる。その表情には、明らかにからからいの色がある。

いつも澄ました顔(アスカの主観、しかも一部強調)をしているシンジの意外なうぶさに、アスカは可笑しくてたまらない。

これは、からかいがいがあるわ。…そう、思ったかどうか。

今回は「つまんない男…」とは言われずにすみそうだが、果たしてそれは幸運なのかだろうか。

 

「え、ええっと、その…」

 

ちらり、と視線を上げると、アクアマリンの曲線によって強調されたアスカの胸があった。シンジは、思わずごくりと唾を飲み込む。その音が意外に大きくて、シンジはそれを誤魔化すために、勢い良く頷いた。

 

「う、うん!似合う!に、似合ってるよ、すごく、うん」

 

半分以上、愛想笑いを浮かべて、アスカを見上げるシンジ。

その言い方が気に入らなかったらしく、アスカの額に青筋が走った。

 

「なによ、そのおざなりな褒め方は。気に入らないわけぇ?」

「そっ、そんなことないよ!」

「ほぉ…じゃあ、なんで目を逸らすのよ」

 

さらに、ずずいっと迫るアスカ。

はっきり言って、シンジはパニックだった。考えまいとしても、どうしても煩悩が湧いてくるのである。健康な中学生男子としては、仕方のない反応である。

アスカが思っているより遙かに、シンジは今のアスカを綺麗だと思っていた。だが、そう思えば思うほど、自分の視線がいやらしくなっているような気がして、必死に視線を逸らすのである。

 

「だ、だって…(ぼそぼそ)」

「ハン?」

「あ、アスカ、綺麗すぎて、まともに見れないんだよっ」

 

混乱状態のシンジは、それをそのまま口にしていた。

 

「………」

「………」

 

一瞬、沈黙が下りた。

次の瞬間、言った方、言われた方がともに慌てて視線を逸らす。

 

「(いっ、いま…なんて言ったんだろう、僕)」

「ま、まあ、そんなに言うんだったら、許してやるわ」

 

背中を向けて無意味に胸を張るアスカの言動も、微妙に意味不明だった。

自分から追いつめたとはいえ、そこまでシンジが言うとは思わなかったのだろう。ストレートな賛辞に弱いのは、アスカも普通の女の子と同じだったようだ。しかも、相手が必要以上に照れているため、アスカに跳ね返ってきたフィードバックも大きかった。

 

「ん、んー、良い風!ひと泳ぎしてこようっと」

「そ、そう?うん、いってらっしゃい」

 

決して視線を合わせないようにしてパーカーを脱ぎ捨てるアスカと、気分を落ち着かせるために、ミネラルウォーターのペットボトルに口をつけるシンジ。

そのシンジの視界に、真っ白なものが広がった。

 

「ぶぅーっ!」

 

シンジは、口に含んだ水を勢い良く吹き出した。

シンジの目を奪ったもの。それは、アスカの背中だった。

シンジはこの時初めて、自分の選んだ水着が、背中の思い切り開いた大胆極まりないものであったことを知った。

 

「あ、アスカッ、待って!」

 

シンジは慌ててパーカーをひっつかむと、アスカを追って砂浜を駆け出していた。

 

理由はよく分からない。

たぶん、アスカのその姿をクラスメートたちに見せたくなかったのかもしれない。

 

 

 


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(updete 2001/08/11)