エヴァンゲリオン

■取り替えEVANGERION■

第5話「それぞれの恐怖」

作・SHEROさま


 

 シンジが保健室から教室へと戻ろうとしていると階段の上からレイが降りてきた。

「碇君。出撃命令が出たわ。」

 レイのそっけない口調と内容のギャップにシンジは思わず耳を疑った。

「え?」

「出撃命令。伝えたから。それじゃ先に行くから。」

「ちょ、ちょっと待ってよ綾波。」

「なに?」

 シンジがレイにもう一度内容を聞こうとした時、シンジがさっき通ってきた方から

爆音と共にユイが走ってきた。

「シンちゃん、出撃よ!!」

 そしてシンジの襟首を掴むとそのまま廊下を走り去っていく。

「レイちゃんはゆっくり来ていいからね〜〜〜〜。」

 ユイがシンジを引っ張って(?)廊下の無効に消えたあと、レイはユイの声に従ったのか、

それが本人のペースなのか、ゆっくりとNERVへと向かって歩き出した。

 一方、シンジとユイは駐車場に置いてあるユイの車に飛び乗ると、猛スピードで

NERV本部へと向かい出した。

「か、母さん。出撃って!?」

 シンジがユイの猛スピードで運転する車の中、必死にしがみつきながら質問する。

「また、使徒が現れたみたいなの。だからまた戦ってもらうわ。」

 猛スピードで車を走らせながらユイが平然と答える。

その答えにシンジは顔色を曇らせる。

「大丈夫よ、前回のように何の準備もなしに戦う事はもう無いんだから。

 そのために訓練もしたでしょう。」

 確かにこれまでの2週間の間にシンジは色々な手続きなどの合間に、NERV本部で

使徒との戦闘を想定した模擬訓練を行なってきていた。

 しかしシンジはまだ不安とばかりに顔色を曇らせている。

「それにこの間シンちゃんが自分からエヴァに乗るって言ってくれた時

 母さん嬉しかったんだから。これでも結構期待してるのよ。」

そう言われてシンジはちょっと困ったような顔をした。

 自分の言った事を思い返して照れているようにも見えるが

どちらかと言えば期待されている事に抵抗があるようである。

 シンジが困惑の表情を浮かべている中、車はNERV本部へと到着した。

そしてシンジとユイは指令部へと向かう。

「状況は?」

「第一種戦闘配置、及び第三新東京都市戦闘形態に移行、完了しました。」

「政府、及び関係各省への通達終了。」

「非戦闘員、及び民間人の退避完了しました。」

「そっちの方は準備万端みたいね。使徒の方は?」

「国連軍が現在、迎撃態勢をしいて迎えています。」

「無駄な事を。税金の無駄遣いだな。」

 ユイが到着するまで指令を出していた冬月が口を挟む。

「ホント、学習能力ないのかしら。」

「委員会から再びエヴァンゲリオンの出撃要請が来ました。」

「うるさい奴等ね〜。言われなくても出撃させるしかないのに。」

 ミサトが面倒そうに声を出す。

「というわけで出撃お願いするんだけどシンちゃん。落ち着いた?」

 ユイが声をかけてシンジの方を見るとシンジは床に座り込んで

苦しそうにしながら息を整えていた。

 実はNERVに着いてからこれまで、シンジはずっと黙っていたのだが、

緊張のために何も話せなかったと言うわけではない。

ただ声を出せる状態ではなかったのだ。

 その理由はユイの猛スピードで運転する車の中で、変に一点を見つめて黙っていたものだから

車酔いしてしまっていたのである。

「も、もう少し休ませて欲しいな・・・」

「何甘えた事言ってんの。向こうは待ってはくれないのよ。ほら来なさい!」

 ミサトは床に座り込んでいるシンジの襟首を掴むと格納庫の方へと

シンジを引っ張って歩きはじめた。

「ミ、ミサトさん。自分で歩きますから引っ張らないでください。」

 しかしミサトはその声を無視するかのように、黙々とシンジを引っ張って

格納庫の方へと歩いていく。

 その様子を見ていたユイは不思議そうにリツコの方を見る。

「ミサト、夜勤明けで休んでたところを叩き起こされて、いらいらしてるんです。」

 ミサトがいらいらしている理由の一つに、リツコの長話に付き合わされたというのが

あるのだが本人にはその自覚はないようである。

「それじゃしょうがないわね・・・」

 ユイはため息を吐きつつそう言った。

 

 一方、非難したシェルターの中ではこれまでの避難訓練ですっかり慣れっこになって

しまったのか、それともただ緊張感が無いのか、それぞれが適度に自由に集まって話をしている。

「トウジ、ちょっと二人だけで話がしたいんだけど・・・」

「なんや?・・・ま、ええわ。」

 トウジは友達と談笑をしている委員長の方へと向かうと後ろから声をかけた。

「委員長、わしら二人便所や。」

「もう、もう少し声を押さえるとか上品に言うとか出来ないの。」

 そんな声も気にせずトウジとケンスケはトイレの方へと向かった。

「で、なんや話って。」

「死ぬまでに一度だけでも見たいんだよ。上でおこなわれてる戦闘をさ。」

「ケンスケお前なぁ。」

「頼むよ、ロックはずすの手伝ってくれ。」

「外に出たら死んでまうで。」

「ここにいたって死ぬかもしれない。だったら見てからの方がいい。」

「アホ、何のためにNERVがおると思うとんねん。」

「そのNERVの決戦兵器って何だよ?あの転校生のロボットだよ。

 この前もあいつが俺達を守ったんだ。それをあんなふうに殴って。」

 ケンスケにそう言われてトウジは何も言えなくなった。

「あいつがロボットに乗らないって言ったらそれで俺達終わりなんだから。

 それにトウジはあいつの戦いを見守る義務があると思うんだ。

 先生が言ったように俺達はあいつがなぜロボットに乗るようになったとか

 事情も知らないわけだしさ。」

「分かった分かった。付きおうたるわ。ホンマお前は自分の欲望に忠実やな。」

 

「シンジ君出撃よ。いいわね。」

 シンジをエントリープラグにほうり込んだあと、指令部へと戻ってきた

ミサトが声をかける。

「・・・はい・・・」

 長い間引きずられてちょっとムッとしているシンジが返事を返す。

「敵のATフィールドを中和しつつ、パレットの一斉射撃。練習どおりに出来るわね。」

「・・・はい・・・」

「発進!」

 前回と同様、ミサトの出撃命令とともにエヴァがすさまじい勢いで地上に向けて射出される。

 同時刻、都市から少し離れた小山の頂上へ向けて二人の少年が登っていく。

 トウジとケンスケである。

「よ〜し、間に合った。」

「・・・あれが敵かいな・・・」

「お、ロボットの登場だ。」

 地上に射出されたエヴァの中で、シンジは練習内容の反復をしている。

「ATフィールドを展開。作戦どおりに。いいわね。」

「はい。」

 エヴァが背にしていたビルから機体を出し、ライフルを構える。

だがそこでエヴァの動きは止まってしまった。

「シンジ君?」

「シンちゃん?」

 ミサトとユイが声を上げる。

 シンジは使徒の姿を確認した瞬間、ライフルを撃つ事も出来ず固まっていた。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 鼓動が早くなっていく。

 シンジの記憶の中から、前回使徒と対峙した時の記憶が浮かび上がってくる。

 そして恐怖が波のように押し寄せてきた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 シンジは半狂乱となりライフルの引き金を引く。

 使徒へと向かって撃たれた弾丸が煙となり使徒の姿を隠していく。

「馬鹿!爆煙で敵が見えない。」

 前弾打ち尽くしたエヴァが動きを止める。

「はあ、はあ、はあ、はあ。」

 エントリープラグの中ではシンジが荒い息を吐いている。

 煙の中で使徒の姿は見えない。

 シンジがじっと煙の方を見ていると、中から突然幾条もの光が飛び出してきた。

 それに気づいたシンジが慌ててエヴァを後ろに倒れ込ませる。

 光はエヴァには当たらず、ライフルとビルのみを切り倒した。

 光の先にはライフルの攻撃をものともせず、使徒が立っている。

「おいおい、早くもやられとるで。」

「大丈夫、まだこれからだよ。」

 指令部ではミサトが青葉を押しのけ、マイクへと身を乗り出している。

「シンジ君、予備のライフルを出すから受け取って。」

 だがシンジは荒い息を吐いているだけで返事をしない。

 その身体は小刻みに震えている。

「シンジ君!?シンジ君?」

 シンジは恐怖に震えながら眼前に立っている使徒を見ている。

 使徒は獲物をじっくりと見つめるようにエヴァを見下ろしている。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 恐怖に耐えられなくなったシンジは、エヴァを動かして逃げに入った。

 それを追うように使徒の光の鞭が、辺りを切り裂きながらエヴァを襲う。

 エヴァは逃げ続ける間に光の鞭でケーブルを切られた。

 途端に予備電源に切り替わる。

 しかし、予備電源に切り替わりプラグ内の明かりが赤くなった事で、

シンジはより一層の恐怖にかられる。

 その隙を突いて使徒の光の鞭がエヴァの足に絡み付く。

 そしてエヴァを一度地面に叩き付けると使徒は大きくエヴァを放り投げた。

「こっちに来る!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 トウジとケンスケは動く事が出来ず、その場に身をかがませる事しか出来なかった。

 エヴァが小山に落ち、大きくその身を沈み込ませる。

「シンジ君、大丈夫。ダメージは?」

「活動に問題無し。」

 青葉がエヴァの状態をチェックして応える。

「くっ。ううぅ。」

 シンジがうめきながら身体をおこし辺りを見回す。

 その時シンジの目に、頭を抱えながら涙目でエヴァを見るトウジとケンスケの姿がはいった。

「シンジ君のクラスメート?なんでこんなところに。」

 モニターに映し出された二人のデータを見てミサトが叫ぶ。

 その時エヴァを追いかけて再び使徒がやってきた。

 シンジは二人に被害が及ばないよう光の鞭をつかむ。

「なんで戦わんのや?」

「僕らがここに居るから自由に動けないんだ。」

 その間にもエヴァの活動限界は少しずつ近づいていく。

「シンジ君、そこの二人を操縦席へ。二人を回収したら一時退却。いい?」

「許可のない民間人をエントリープラグの中に乗せられると思っているの?」

 ミサトのとんでもない発言にリツコが声を荒げる。

「私が許可します。」

「越権行為よ。葛城一尉。」

「かまわないわ、戦闘中の命令は葛城一尉に一任します。

 こちらからの特別な命令以外は好きにしなさい。」

 ユイがミサトの方を見てそう告げる。

「はい!」

「しかし碇司令!」

「私たちは世界を守るために戦っているわ。それが人ひとり助けられなくってどうするの。」

「エヴァは現行命令でホールド。その間にエントリープラグ排出して。」

 リツコとユイのやりとりも気にせず、ミサトは冷静に命令を出す。

 倒れ込んだ姿勢で光の鞭を掴んでいるエヴァの後頭部が動き、エントリープラグが排出される。

「そこの二人乗って!早く!」

 突然響いた声に突き動かされるように二人はエヴァに近づく。

 そして二人はLCLに戸惑いながらも中に入る。

 そこで二人は必死の形相でエヴァに乗っているシンジを見た。

「神経パルスに異常発生。」

「異物を二つも入れたから当然ね。神経パルスにノイズが混じっているのよ。」

 二人を回収したエヴァは光の鞭を引き、勢いをつけて使徒を離れたところへと放り出した。

「今よ、後退!」

 だがシンジは動こうとしない。

 回収ルートの説明をミサトがしているが、シンジはうつむいてそれを聞いているようにはみえない。

「転校生、逃げろ言うとるで。」

「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ。」

 エヴァがゆっくりと動き、プログレッシブナイフを装備する。

「シンジ君、命令を聞きなさい、退却よ。シンジ君!」

「シンちゃん。下がりなさい。一度戻ってらっしゃい!」

 ミサトとユイがシンジを呼ぶがシンジは応えない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 シンジが絶叫を上げるとともにエヴァは使徒へ向かって小山を駆け下りて行った。

「シンちゃん!」

 使徒の光の鞭がエヴァの腹部を貫く。

 だがシンジはそれにかまわず、使徒のコアへとプログレッシブナイフを突き刺す。

「うわぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

 プログレッシブナイフを深く突き刺していくと共に、エヴァの活動限界が近づく。

 マヤがカウントダウンを始めるなか、シンジは更にプログレッシブナイフを押し込もうとする。

「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・」

 エヴァの活動限界がくる寸前使徒のコアが割れた。

 そして使徒とエヴァは同時に動かなくなる。

 その中でシンジは荒い息を吐いてうつむき、トウジとケンスケはそれを黙ってみていた。

「エヴァ初号機活動停止。」

「目標は完全に沈黙しました。」

 その報告にもミサトは恐い顔で動かなくなったエヴァを見ていた。

 さらにその後ろではほっとした表情のユイがリツコに声をかけていた。

「あ〜恐かった〜。シンちゃんとんでもない事するんだもの。」

「一つ間違えば全滅の危機ですからね。」

「まったくだ。あれは見ていて心臓に悪い。」

 冬月もその場によってくる。

「ねえリッちゃん。胃薬持ってない。」

「いえ、持ってませんけどどうしてまた。」

「何かこれから必要な気がしてきちゃったから。」

「私持ってますけど・・・」

 マヤが控えめに声を出す。

「ホント。もらっていい?」

「私にももらえるかね?」

「はい。」

 ユイと冬月は胃薬をもらうとそれぞれ飲み出した。

「マヤ、あなたどうして胃薬なんて持ってるの?」

「そ、それはですね・・・」

 リツコに迫られたマヤが回答に困っていると、後ろから青葉が答えた。

「それは無茶な仕事を言い付ける上司の命令に耐えるためですよ。」

 その瞬間ユイ、リツコ、冬月の三人から鉄拳が青葉に飛んだ。

 青葉が倒れたあと、恐い顔で振り返った三人にマヤはぶんぶんと顔を振っていた。

 

作者後書き

 

ども、最近環境が変わり過ぎて戸惑っている作者です。

このたび、私せっかく入社した会社を早くも退職してしまいました。

就職活動なさっている皆さんから見ればなんてことをってところでしょうか?

そしてなにをするかと言えば再び大学受験。順番間違ってますね。

ま、やりたい事を見つけたのでそれに向かってというところです。

それにしても最近執筆量が減ってしまってるんですよね。

ホント最初から比べると・・・はぁ。

今はエヴァをもう一度見直してネタだしってところです。

大半が本編のセリフとかっていうのもあるのに情けない。

でも頑張ります。ところで読んでくださってる方ってどれくらいいるんでしょう。

では今回の一言クエスチョン。今回は某所でお気に入りのマヤさんです。

「二度目の戦闘お疲れ様です。」

「ホント大変でした。特に終わった後が・・・」

「ところで上でありましたけどNERVってそんなに酷なんですか?」

「使徒が来てからというもの残業残業で・・・お休みの日だって洗濯や掃除だけで

 つぶれちゃう事もあるんですよ。」

「酷な仕事でしょうが頑張ってください。

 以上、作者がいつか着ぐるみを着せて出演させてみたいと思っているマヤさんでした。」

 

 

 

 

 


(update 99/08/28)