逃亡二日目
【予感】
「ファーア……たはぁー疲れた……」
大阪梅田の北新地、大阪一といってもいい地下飲み屋街を沖田 徹は、ぼやきつつ歩いていた。
「った……繁盛してるのはいいんだけど、ああ忙しいと……」
しかし、その顔はどこか嬉しそうに緩んでいる。
客に勧められたビールをかなり飲んでいたため、ほろ酔い気分なのもあるのだが、それ以上にポケットに収められた大入袋が効いている。
ある一定量以上の客入りが合った場合、店員全員に支給される「大入袋」。
このおかげで徹の財布は、かなり暖かくなり、つらかったバイトの苦労もこれで幾分報われた気がしているのだ。
しかも、もうすぐ薫の誕生日。こういった時期の臨時収入ほどうれしいものはない。
「これで、あいつの誕生日には、少しはいいモノ買ってやれるかな……去年は、セーターだったけど……あの日以来、一度も着てくれてないもんな……」
去年の薫の誕生日を思い出し、せっかくのいい気分が吹き飛んだ徹。
バイト代を叩いて買った白のセーター。
かなり喜んでくれたと思ったのだが、薫があの日以来あのセーターを着ているところを徹は見ていなかった。
「ハァ……今年はなにあげっかな……」
そんなことを考えつつ、地下街を大阪駅に向かって歩く。
無論、この時間からでは、終電に間に合わないのだが、徹は駅前に自分のバイクを停めていたのだ。
「……ん?」
どれくらい歩いただろう。徹は誰もいなくなった地下街で足を止めた。
まわりの店はすでに閉店し、この時間、通行者もほとんどいない。
だが……
「1……2、3……こりゃ、かなりの人数だな……」
徹は、背負っていたDパックを下ろすと、中からライディンググラブを取り出す。
指出しの黒いグラブ。一見、ただの皮のハンマーグローブに見えるのだが、特殊ケプラー繊維で編み込まれたインナーと、ミスリル合金製のプロテクターが着いている。
「このビル群の間を毎時6キロ……部隊間の乱れもない……米軍か?」
ゆっくりとした動作でグラブをはめた徹は、背中に大きくバイクメーカーのロゴがライディングジャンパーの前のファスナーを胸元まで上げた。
無論、このライディングジャンパーもミスリル合金の特写ワイヤーを編み込んで作ったインナーが着いている。
「ISMOのジャンパー、着てきて正解だったな……」
ダイヤモンドの数倍の強度を誇る、ミスリル合金。100キロで走ってきたトラックの衝突エネルギーをも吸収してくれる、特殊ケプラー繊維。
ISMO科学技術班の誇る、このジャンパーなら、たいていの弾は防いでくれるはずだ。
「んにしても……なんでこんなとこに米軍が……」
Dパックを背負い直すと、徹は2、3度軽く屈伸する。
「まぁ……理由は何にせよ、この距離じゃあ、相手さんも俺のこと見逃してくれるわけは……ないわな、っと」
大きく腕を回して、一回大きく伸び。
「よし、んじゃま、こちらから仕掛けてみますか」
そう呟くと、徹は一番近い地上への階段へと走り出した。
誰もいない、完全に明りの消えた地下街を走り抜ける。
かなりのスピードで走っているのだが、足音はおろか、衣擦れの音もほとんど聞こえていない。
完全に気配を消せる、限界の速度域で徹は駅へと走り続ける。
「ここからなら、上に出れたはずだよな」
大手百貨店横の階段を音もなく駆け上がり、徹は地上へと出て行く。
「ってなんだよ……これは?」
地上に出て、徹の第一声はこれだった。
近くに地上へと出る階段がなかったとこもあり、徹がいるのは、大阪駅のすぐ脇のターミナルだった。
いつもなら、この時間でも終電に乗り遅れた酔っ払いをターゲットにタクシーがひしめき合っているはずなのだが……
「一台もいない……こりゃ、まじでなにかあるな……っ?」
音もなく、柱の陰に隠れる徹。気配が完全に消え、辺りの闇と同化する。
そのすぐ脇を都市迷彩服の男が走り抜けていく。
徹はその肩のワッペンに描かれたエルフの絵を見て、思わず顔をしかめた。
「ELFか……」
Elemental・League・Force、通称ELF(エルフ)。
米軍の誇る、特殊部隊の一つだ。
「ハァ……やるっきゃないか」
徹は柱の陰から姿をあらわすと、思わず天を見上げた。
チュン、チュンッ!
跳弾の音がすぐそばで聞こえる。
薫たちが隠れているビルの壁が少しずつ弾丸で削り取られているのだ。
「もぉ……なんで米軍ってのは、こんなに暇なのよ!?」
合流したISMOの一般兵から受け取ったH&K G11に装弾しつつ、おもいっきりわめいた。
正直、そうでもしないとやってられない気分だ。
一号線をひた走り、ISMOの一般部隊の乗る車群に合流した薫。
いざライカンスロープを、と意気込んで梅田に着いた彼女たちを待っていたのは、米軍の一斉射撃だった。
弾の到達する直前に飛び降りた薫はかすり傷一つ負わなかったのだが、一瞬にして、蜂の巣になり、燃え上がる黒塗りのバンと、薫のブラックバード。
「アアアアアッ!?」
思わず悲鳴を上げる薫。
しかし、続けて第二射が襲ってきたため、あわてて、近くの第二ビルの陰に隠れ……
冒頭に続くわけである。
「薫さん、その銃の弾、高いんですから……もっと大切に扱って……」
「うっさい!どーせ、国連予算から、ポイ出来んでしょ!?こーなったら、あたしのブラバちゃんの弔い合戦よ!」
「いや、それってかなり間違ってると思うんですけど……」
薫に銃を渡した一般部隊の部隊長はうつむいて黙り込んでしまう。
……こんなに気が弱くて、隊長……いや、兵隊なんてやってられるんだろうか?
そんな疑問が残るが、とりあえず、薫が手にしている銃の弾は確かに高かった。
H&K製、G11。最大の特徴は薬莢を持たないその弾にある。
そう、軍事関係者が夢にまで見た、ケースレス弾丸を使用するのである。これにより、弾丸自体の重量がかなり軽減されるため、一兵士の携帯できる段数が飛躍的に向上するわけである。
また、このような市街戦においては、空薬莢を残さないですむといった点も大きな利点となる。
しかし、こんな良いとこ尽くしのようなこのG11にも欠点があった。それも、かなり大きな。
それは……一発、1500円という、とんでもないランニングコスト。
「一発、1500円って……これ、50発入りだから……75000円……」
一ヶ月分の薫のバイト料とほぼ同額。
「フルオートで毎分460発……ってことは、約十秒であたしの労働が消えていくわけね……」
「ね……そう考えると、なかなか撃てなくなるでしょ?」
「……でもやっぱあたしのお金じゃないし」
薫はそう言って、ニヤッと笑うと、銃だけを壁の角のむこうに突き出し引き金を絞った。
パラララララララララララララッ
高価な弾がばら撒かれる。
「ああああっ!?もったいない……」
このさい、横の隊長の気弱な発言はとりあえず無視。
薫は、銃撃が一時止んだのを確認すると、ベルトにつけたパイナップル(手榴弾)を外す。
ベルトに止められた安全ピンが勝手に外れる。
サイドースローで角の向こうに投げる。
「こ、こんなとこで手榴弾!?」
「耳、ふさげっての!」
薫が隊長を突き飛ばしたのと、爆音が響いたのとほぼ同時だった。
パラパラと道路の破片らしき者が降ってくる。
「よっし、いくわよ!」
銃を腰溜めにして飛び出していく薫。
「……だからESPとの共同作戦は嫌だっていったのに……ああ、ったく。おい、おまえら、援護するぞ!」
自分の部下相手には、強気に出る隊長だった。
「な、なんだぁ!?」
五人目の兵士を片づけたところで、徹は第二ビルのほうに火柱が上がったのを見た。
「米軍にしては後始末考えてないな……隠蔽工作、どうする気だろ……ん?」
第二ビルの陰から、飛び出てくる人影。
「……やっぱ、あの馬鹿……オオォーイ!」
第二ビルの陰から出てきた人影に向かって、大きく手を振る徹。
「こっちだこっち!」
「あ、敵」
パラララララララララララララララララッ
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
薫の放つ弾丸が、近くの物陰に飛び込む徹の頬をかすめる。
「俺だ俺!?」
「人が愛車のブラバ燃やして頑張ってるときに、のこのこバイトなんぞに行きおって……死んで詫びろぉ!」
パスパスパスパス
盾にした鉄製のごみ箱を弾が貫通していく。
「おいこら、やめろ!?」
「問答無用」
「どわぁぁぁぁぁっ」
足元に転がってきたのがパイナップルだと分かり、慌てて横っ飛びにダイブする。
一瞬の静寂の後。
サラウンドの大音響が鼓膜を刺激した。
「いつつっ……」
背中や頭にかかった破片を払いつつ、立ち上がる徹。
チャキッ
その頭に何か固いものが突きつけられる。
「あの……薫さん?」
「ねぇ?徹……怒らないから言ってごらんなさい?なにしてたの?」
「なにって……バイト……」
言うが早いか、その場にしゃがむ徹。
パンッ
ほぼ同時に聞こえる軽い破裂音。
「あんまり馬鹿なこと言ってると、撃つわよ!?」
「撃ってから言うなぁ!」
「言ってから撃ったら避けるでしょ!?言わなくても避けたけど!」
「おまえなぁ……」
「アンタに『おまえ』なんてなれなれしく呼ばれるおぼえは……」
薫はセリフを中断すると、G11のマガジンを変える。
徹も立ち上がると、指の関節を慣らしはじめる。
「どうやら……」
「遊んでる場合じゃなさそうね……」
腰だめに銃を構える薫と、アップライトに構える徹。
背中合わせに立つ二人。
「徹?」
「だめだ……ここまで気がでかいと……この辺り一帯に気配が充満して……カインは?」
ESPではない徹は、精霊を見ることもできなければ守護精霊を持ってもいない。
こういった時は、薫のカインに頼るしかなかった。
「カイン、わかる?」
薫は周囲に気を配りつつ、横に控えていたカインに聞く。
【私も……ここまで気配が大きいと……】
「同じだって」
カインの言葉を徹に伝える薫の頬に冷たい汗が流れる。
「だろうな……」
徹も嫌な汗を感じていた。
「この距離でこれだけの気配ってことは……相手は……」
「E・S・C……っと!?」
二人が同じに反対方向に跳んだ。
と同時に二人のいた場所に何か巨大なものが突っ込む。
ズンッ
重い音を立てて、地面にメリ込むそれ。
「……当り、だな」
前受け身ですばやく立ち上がり、構えを取った徹がもらした。
ども(^^)影技です
いやはや、オリジナルって書いててすんごく楽しぃっす(^−^)
でも、その分、書いててすんげぇ不安になりますねぇ(^−^;
というわけで、逃亡二日目をお届けいたしました(^^)
やっと出てきた、ESC(エスケープ)。エスケープキーのESCから取ったんですけど・・・
果たして敵の正体とは!?
・・・・・・・なんて考えてくれてる読者がいること、切に願う今日このごろです(^−^;
やって来ました、かげやんこと影技さんの「エスケープ」逃亡二日目。
僕にしてみれば「待ってましたぁっ!」と心から思っています。
早速読ませて頂きました。
冒頭、一日目の薫の台詞を思わせるような徹の台詞。
こういう形が使えるのも、連載小説の醍醐味と入ったところでしょうか?
また徹や薫もキャラクターとしての厚みを増して、立ってきている雰囲気がします。薫なんかはホント破天荒というか傍若無人(笑)というか、
ハチャメチャ感があっていいですね。
そして二日目にしてその片鱗の頭を見せ始めた、ESC(エスケープ)。
敵・・・になるんですよね。巨大なもの。果たしてそれはなんなのか?
そしてライカンスロープとの関係も気になるところです。
米軍も登場し、まだまだ走り出しのようなので、今後の動きが気になるところです。
さて、前回も書きましたが、敢えてもう一度。
オリジナルの執筆原動力は、何をおいても「読者様のちょっとした一言」に他なりません。
なんでもいいんです。
次回も楽しみにしていますとか、もっと薫の日常も書いて下さいとか、本当に何でも。
是非ともあなたの言葉を影技さんへ送って下さい!!
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題名に「エスケープの感想」とお書きいただければ、平岡が責任を持ちましてメールに転記し影技さんへお送りしますので。
その掲示板はこちらです!!!