アタシは、彼の運転する車の助手席に座っている。
真直ぐに伸びた高速道路。両側は切り立った山しか見えない、殺風景な景色。
でも、アタシは知っている。もう暫くすると、この山並の向こうに海が見えて来る事を。
残念ながら、今は夜。
綺麗な景色は望めそうもない。
彼はかなり運転が上手い。
それはそうだろう。
アタシ達が出会った子供の頃から、彼の反射神経は折り紙付きだったのだから。
私達の乗るこのオープンカーは、もう何台もの車を追い越して、広がる夜空に吸い込まれる様に続く直線の道を疾走する。
強い風が、アタシの長く伸びた髪をなぶり、アタシ達の会話を遮る。
そう……さっきからアタシ達は一言も話をしていない。
もっとも、声を掛けようにも、この風では彼に届くとは思えない。
ほんの……
ほんの……
手を延ばせば触れられる距離なのに。
このオープンカーは、彼が選んで購入したものだった。
彼は本当はRVカーが欲しかったらしい。
でも、以前アタシが漏らしたほんの一言を、彼は覚えていてくれたのだ。
……アタシが乗ってみたいと思っていた、オープントップのスポーツカー。
別にアタシは無理に頼んだ訳じゃない。
車なんか、彼の欲しい物でもよかったのに。
アタシはただ、彼と一緒にそれに乗れれば、何でも構わなかったのだ。
……これ以上、何を望めばいいって言うの?
アタシはもう欲しいものは……この世で一番大事なものは……手に入れているんだから。
今夜のドライブは、一日の締めくくり。
そう言えば、今日は彼からのお詫びのデートだった。
え……何のだって?
実は、アタシ達は先週から些細な事で喧嘩をしていたの。
別に驚く事はないわ。たまには、そんな事だってあるものよ。
彼とは長い付き合いになる。もう十年以上になるかな。
そんな長い時間の中では、人間色んな事を経験する。
原因は、本当につまらない事で……ふふ、本当につまらない事なのよ。何だったのかって言うと、先週の水曜日に外に食事に行った時のメニューなの。
アタシは……実はどうしても食べられない物があるんだけど、彼がそれを注文しよう、って言い出したの。
アタシの嫌いなもの……知りたい?
ふふ……ふ、それは内緒よ。言い触らされたら困るもん。
え、っと、それで……
「えぇ〜っ、アタシがそれ嫌いなの、知ってるでしょ?!」
「駄目だよ。いつまでも好き嫌い言ってちゃ。少しは食べられる努力もしなくちゃ!」
「アンタが食べなさいよ。アタシはいらない」
「そんな事言ってたら、いつまでたっても食べられないよ」
「いいもん。そんなの食べるくらいなら死んだ方がマシよ!……大体アンタは細かい事にうるさすぎるのよ!」
……とかなんとか言ってるうちに、お互いに止まらなくなっちゃって。
気が付いたら料理も食べずにレストランを出ていた。
それからほぼ一週間、アタシ達は顔を合わせずに過ごした。
本当は……
本当は、分かってるの。
あの夜の喧嘩は、アタシが悪いの。
謝らなきゃいけないのは、アタシ。
本当にお詫びしなきゃいけないのは、実はアタシ。
でも
彼は優しくて、とてもアタシの事を甘やかしてくれるから、いつでも先を越されちゃう。
大事な一言を、いつも先に言われてしまう。
−−仲直り、しようよ
−−僕が、悪かった……気に触る事を言って済まなかった
昔から、彼はそうだった。
人に何か言われると、すぐに謝ってしまう。
そのうじうじとして、内罰的な性格には、よくイライラさせられたものだ。
自分に自信がないから……?
でもその反面、彼はとても優しい一面を持っている。
そして実は芯に強い何かを秘めている事も、知っている。
傷付く事を恐れる、弱さを持っている事も、知っている。
でもそれは、アタシも同じ……
だから
アタシは彼に惹かれたのかもしれない。
繊細でもろく壊れやすい印象を与える笑顔。
少し伏し目がちにアタシの名前を呼ぶ時の、あの声。
いつまでも見ていたい。
そう思わせる彼の笑顔。
アタシの名前、何度も何度も、呼ばせたっけ。
−−もう一度呼んで
−−ねえ、もう一度……アタシの名前を呼んで
時々、無性に恐くなる時がある。
彼に惹かれている自分に。
彼が一番だと思い切っている自分に。
彼の気持ちが測り切れなくなる瞬間、アタシはいたたまれなくなる。
彼が何を考えているのか読めなくなる瞬間が恐い。
……アタシの事を、考えてる?
ねえ、今何を考えてるの……?
もし……
もしも……
彼がアタシの前から消えてしまったら……
彼の優しさが、無くなってしまったら……
アタシはどうやって生きていったらいいんだろう?
ふいに彼がアタシの肩を叩いた。
アタシは直ぐに我に返って運転席の彼を見る。
彼が笑顔で、前を指差している。
何時の間にかアタシ達は峠を抜けていて、路の両側に、大きな闇に隠れた空間を感じる。
昼間であれば左側からは海が見える筈。
でもアタシはそんな事に構わず、彼の指差す方に目を向けた。
……わぁ・・・
降る様な星空が、アタシ達の目の前に広がっている。
彼がちらりとアタシの様子を伺ったみたい。
次の瞬間、彼はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
唸る様に、滑らかに加速するアタシ達を乗せた車が、星空のカーテンに向かって疾走する。
−−愛してるよ、アスカ
……え?
今、彼が何か言った様な気がした。
風に飛ばされる髪を手で押さえながら、アタシは彼に目を向ける。
……え、何?
−−愛してるよ、アスカ。だから……
……何?
−−結婚、しよう
……
やだ……風が目に痛い。
アタシの目から、思わず涙がこぼれ落ちる。
アタシは
ゆっくり、目を閉じて、流れる風を胸一杯に感じながら
彼の運転する車の助手席に座っている。
……また、先、越されちゃった。
でも……
これは、いいよね……
あとがきどうも平岡さん、読者の皆様、ishia@N.G.EVAです。
平岡さん、この度は30,000 Hit 達成、誠におめでとうございます!!
お祝いという事なんで、柄にも無くこんなものを書いてみました(恥)。
どうぞお納め下さい。
なんだか、アスカじゃないっすね、彼女。一体誰なんだ、この女性は??!
シンちゃんに至ってはほとんど台詞なしですし(核爆)。……やっぱり柄にもないことはするもんじゃないです(笑)。
ちなみに、BGMはもちろん荒井由美の「中央フリーウエイ」で決まりでしょう(N^2爆)。平岡さん、これからも頑張って下さい。
それから、ここまでおつき合い下さった読者の方々、有難うございました。
それでは失礼します。29th May,1998 香港にてishia@N.G.EVA
キキキッ・・・・
ミサト:ちっ、カウンタックごときに、私の愛車のルノーちゃん(違法改造仕様)がまけるわけないのよ!
平岡 :あ、アブねぇ!ミサトさん、もうやめましょうよ。周りの車全部敵に回して!
せっかく頂いたishiaさんの落ち着いた雰囲気のSSが台無しじゃないですか!
ミサト:それはあなたの事情であって、私には関係ないの!!黙ってないと・・・舌噛むわよっ。
・・・よっしゃぁ!ふふふふふっ。第三新東京市、首都高の蒼い女豹と呼ばれた私を舐めないでほしいわね。
平岡 :ishiaさん、本当にすばらしい作品でした。とっても大人っぽいアスカに、ちょっと惚れましたぁ。
もう名前を呼ばせてる・・・の下りは、ぎゅうぅぅぅぅっ、って感じでした。
ミサト:オラオラっ!そこのRX−7っ!!道開けなさい!潰すわよぉ!!
平岡 :ひっ。思わず免許が早くほしくなりましたよ。ああ、車校行く時間がほしいぃ。
ミサト:やるわね、あのテスタロッサ。いい度胸と褒めてあげるわ。でも次のカーブが最後よ!!
平岡 :ishiaさんの書かれる作品は、常に雰囲気というものがあって、どれも堪能されてもらってます。
今回もそう先例通りの良質の雰囲気を醸し出しています。ご無理を言って書いていただいたのに、
こんなすばらしい作品を頂けるなんて・・・。嬉しいです。
ミサト:みなさい!!これが本場仕込みの、イナーシャル・ドリフトよぉぉぉぉぉっ!!
平岡 :うわぁぁっ。・・・でも良かった。これで酒でも飲まれてたら大変なことになってた・・・。
ミサト:もう飲んでるわよん!
平岡:か、軽々しく言うなぁ!!・・・ああ!!ミサトさん、前に警察のバリケードがぁ!!
ミサト:ちっ。ネルフの作戦部長が捕まるなんて・・・あっちゃいけないのよ。つっこむわよ!
平岡 :誰か・・・止めてくれぇぇぇぇぇぇっ!
ishiaさん、いろいろと本当にありがとうございました。
もう香港の方に足を向けては寝られません(笑)
ishiaさんも頑張って下さい。それとこれからもこんなヤツですが、よろしくお願いいたします。
さぁ、読者のみなさん!ishiaさんにあなたの感想を是非伝えて下さい!
ishiaさんへのメールは・・・ishia@hk.nttdata.netまで。
ishiaさんのホームページは、『NEXT GENERATION OF EVANGELION』