「SEIITI HIRAOKA homepage」30,000 Hit 記念寄贈作品

 
Under the starlit sky
Written by: ishia@N.G.EVA
 

アタシは、彼の運転する車の助手席に座っている。
 

真直ぐに伸びた高速道路。両側は切り立った山しか見えない、殺風景な景色。
 

でも、アタシは知っている。もう暫くすると、この山並の向こうに海が見えて来る事を。

残念ながら、今は夜。

綺麗な景色は望めそうもない。
 
 
 

彼はかなり運転が上手い。
 

それはそうだろう。

アタシ達が出会った子供の頃から、彼の反射神経は折り紙付きだったのだから。
 

私達の乗るこのオープンカーは、もう何台もの車を追い越して、広がる夜空に吸い込まれる様に続く直線の道を疾走する。
 

強い風が、アタシの長く伸びた髪をなぶり、アタシ達の会話を遮る。
 

そう……さっきからアタシ達は一言も話をしていない。
 

もっとも、声を掛けようにも、この風では彼に届くとは思えない。
 

ほんの……

ほんの……

手を延ばせば触れられる距離なのに。
 
 
 

このオープンカーは、彼が選んで購入したものだった。
 

彼は本当はRVカーが欲しかったらしい。
 

でも、以前アタシが漏らしたほんの一言を、彼は覚えていてくれたのだ。
 

……アタシが乗ってみたいと思っていた、オープントップのスポーツカー。
 

別にアタシは無理に頼んだ訳じゃない。
 

車なんか、彼の欲しい物でもよかったのに。
 

アタシはただ、彼と一緒にそれに乗れれば、何でも構わなかったのだ。
 

……これ以上、何を望めばいいって言うの?
 

アタシはもう欲しいものは……この世で一番大事なものは……手に入れているんだから。
 
 
 

今夜のドライブは、一日の締めくくり。
 

そう言えば、今日は彼からのお詫びのデートだった。
 

え……何のだって?
 

実は、アタシ達は先週から些細な事で喧嘩をしていたの。
 

別に驚く事はないわ。たまには、そんな事だってあるものよ。
 

彼とは長い付き合いになる。もう十年以上になるかな。
 

そんな長い時間の中では、人間色んな事を経験する。
 

原因は、本当につまらない事で……ふふ、本当につまらない事なのよ。何だったのかって言うと、先週の水曜日に外に食事に行った時のメニューなの。
 

アタシは……実はどうしても食べられない物があるんだけど、彼がそれを注文しよう、って言い出したの。
 

アタシの嫌いなもの……知りたい?
 

ふふ……ふ、それは内緒よ。言い触らされたら困るもん。
 

え、っと、それで……
 

「えぇ〜っ、アタシがそれ嫌いなの、知ってるでしょ?!」

「駄目だよ。いつまでも好き嫌い言ってちゃ。少しは食べられる努力もしなくちゃ!」

「アンタが食べなさいよ。アタシはいらない」

「そんな事言ってたら、いつまでたっても食べられないよ」

「いいもん。そんなの食べるくらいなら死んだ方がマシよ!……大体アンタは細かい事にうるさすぎるのよ!」
 

……とかなんとか言ってるうちに、お互いに止まらなくなっちゃって。
 

気が付いたら料理も食べずにレストランを出ていた。
 

それからほぼ一週間、アタシ達は顔を合わせずに過ごした。
 

本当は……
 

本当は、分かってるの。
 

あの夜の喧嘩は、アタシが悪いの。
 

謝らなきゃいけないのは、アタシ。
 

本当にお詫びしなきゃいけないのは、実はアタシ。
 

でも

彼は優しくて、とてもアタシの事を甘やかしてくれるから、いつでも先を越されちゃう。
 

大事な一言を、いつも先に言われてしまう。
 

−−仲直り、しようよ

−−僕が、悪かった……気に触る事を言って済まなかった
 
 
 

昔から、彼はそうだった。
 

人に何か言われると、すぐに謝ってしまう。
 

そのうじうじとして、内罰的な性格には、よくイライラさせられたものだ。
自分に自信がないから……?
 

でもその反面、彼はとても優しい一面を持っている。
 

そして実は芯に強い何かを秘めている事も、知っている。

傷付く事を恐れる、弱さを持っている事も、知っている。
でもそれは、アタシも同じ……
 

だから
 

アタシは彼に惹かれたのかもしれない。
 

繊細でもろく壊れやすい印象を与える笑顔。
 

少し伏し目がちにアタシの名前を呼ぶ時の、あの声。
 

いつまでも見ていたい。
 

そう思わせる彼の笑顔。
 

アタシの名前、何度も何度も、呼ばせたっけ。
 

−−もう一度呼んで

−−ねえ、もう一度……アタシの名前を呼んで
 
 
 
 

時々、無性に恐くなる時がある。
 

彼に惹かれている自分に。

彼が一番だと思い切っている自分に。
 

彼の気持ちが測り切れなくなる瞬間、アタシはいたたまれなくなる。

彼が何を考えているのか読めなくなる瞬間が恐い。
 

……アタシの事を、考えてる?
 

ねえ、今何を考えてるの……?
 

もし……
 

もしも……
 

彼がアタシの前から消えてしまったら……
 

彼の優しさが、無くなってしまったら……
 

アタシはどうやって生きていったらいいんだろう?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ふいに彼がアタシの肩を叩いた。
 

アタシは直ぐに我に返って運転席の彼を見る。
 

彼が笑顔で、前を指差している。
 

何時の間にかアタシ達は峠を抜けていて、路の両側に、大きな闇に隠れた空間を感じる。

昼間であれば左側からは海が見える筈。
 

でもアタシはそんな事に構わず、彼の指差す方に目を向けた。
 
 
 
 

……わぁ・・・
 
 

降る様な星空が、アタシ達の目の前に広がっている。
 

彼がちらりとアタシの様子を伺ったみたい。
 

次の瞬間、彼はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
 

唸る様に、滑らかに加速するアタシ達を乗せた車が、星空のカーテンに向かって疾走する。
 
 
 
 

−−愛してるよ、アスカ
 
 
 
 

……え?
 

今、彼が何か言った様な気がした。
 

風に飛ばされる髪を手で押さえながら、アタシは彼に目を向ける。
 

……え、何?
 
 
 

−−愛してるよ、アスカ。だから……
 

……何?
 
 
 
 
 

−−結婚、しよう
 
 
 
 
 

……
 
 

やだ……風が目に痛い。
 

アタシの目から、思わず涙がこぼれ落ちる。
 

アタシは

ゆっくり、目を閉じて、流れる風を胸一杯に感じながら
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

彼の運転する車の助手席に座っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

……また、先、越されちゃった。
 

でも……

これは、いいよね……
 
 
 
 
 
 
 
 
 

〜Fin〜


 
 

あとがき

どうも平岡さん、読者の皆様、ishia@N.G.EVAです。

平岡さん、この度は30,000 Hit 達成、誠におめでとうございます!!
お祝いという事なんで、柄にも無くこんなものを書いてみました(恥)。
どうぞお納め下さい。
なんだか、アスカじゃないっすね、彼女。一体誰なんだ、この女性は??!
シンちゃんに至ってはほとんど台詞なしですし(核爆)。……やっぱり柄にもないことはするもんじゃないです(笑)。
ちなみに、BGMはもちろん荒井由美の「中央フリーウエイ」で決まりでしょう(N^2爆)。

平岡さん、これからも頑張って下さい。
それから、ここまでおつき合い下さった読者の方々、有難うございました。
それでは失礼します。

29th May,1998 香港にて
ishia@N.G.EVA


伝説のドライブにてスピード狂のコメント
 
『深夜の名古屋高速にて』

    キキキッ・・・・

ミサト:ちっ、カウンタックごときに、私の愛車のルノーちゃん(違法改造仕様)がまけるわけないのよ!
平岡 :あ、アブねぇ!ミサトさん、もうやめましょうよ。周りの車全部敵に回して!
    せっかく頂いたishiaさんの落ち着いた雰囲気のSSが台無しじゃないですか!
ミサト:それはあなたの事情であって、私には関係ないの!!黙ってないと・・・舌噛むわよっ。
    ・・・よっしゃぁ!ふふふふふっ。第三新東京市、首都高の蒼い女豹と呼ばれた私を舐めないでほしいわね。
平岡 :ishiaさん、本当にすばらしい作品でした。とっても大人っぽいアスカに、ちょっと惚れましたぁ。
    もう名前を呼ばせてる・・・の下りは、ぎゅうぅぅぅぅっ、って感じでした。
ミサト:オラオラっ!そこのRX−7っ!!道開けなさい!潰すわよぉ!!
平岡 :ひっ。思わず免許が早くほしくなりましたよ。ああ、車校行く時間がほしいぃ。
ミサト:やるわね、あのテスタロッサ。いい度胸と褒めてあげるわ。でも次のカーブが最後よ!!
平岡 :ishiaさんの書かれる作品は、常に雰囲気というものがあって、どれも堪能されてもらってます。
    今回もそう先例通りの良質の雰囲気を醸し出しています。ご無理を言って書いていただいたのに、
    こんなすばらしい作品を頂けるなんて・・・。嬉しいです。
ミサト:みなさい!!これが本場仕込みの、イナーシャル・ドリフトよぉぉぉぉぉっ!!
平岡 :うわぁぁっ。・・・でも良かった。これで酒でも飲まれてたら大変なことになってた・・・。
ミサト:もう飲んでるわよん!
平岡:か、軽々しく言うなぁ!!・・・ああ!!ミサトさん、前に警察のバリケードがぁ!!
ミサト:ちっ。ネルフの作戦部長が捕まるなんて・・・あっちゃいけないのよ。つっこむわよ!
平岡 :誰か・・・止めてくれぇぇぇぇぇぇっ!

ishiaさん、いろいろと本当にありがとうございました。
もう香港の方に足を向けては寝られません(笑)
ishiaさんも頑張って下さい。それとこれからもこんなヤツですが、よろしくお願いいたします。
さぁ、読者のみなさん!ishiaさんにあなたの感想を是非伝えて下さい!

ishiaさんへのメールは・・・ishia@hk.nttdata.netまで。

ishiaさんのホームページは、『NEXT GENERATION OF EVANGELION』


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