アニメーション神戸は、商用アニメーションを対象とした、神戸市主催のコンテストで、今回で5回目を数える。 過去の受賞作を見ると、結構妥当なものが多いように思うし、ここで公表されている今年の作品賞を見ると、テレビアニメ部門は『リヴァイアス』と、実に真っ当な選考をしており、興味を持った。っつーか『リヴァ』シリーズ構成の黒田洋介氏のサイトでこの賞の存在を知ったというのが正しいのだが(^^;)。 それだけでなく、ゲストで大地丙太郎が招かれており、ナマ大地丙太郎を見られるというのも、ワタクシにとっては大きなポイントであった。何しろ、昨年は、『今僕』ショックで矢も盾もたまらず、大地丙太郎の講演を聞きに行くためだけに東京まで行ったのだから・・・。今年は『今僕』ショックはないが、次回作『制作進行くろみちゃん』は気になっていて、『くろみちゃん』関連のイベントもあるらしいと聞いては行かずにおれようか。いや、おれまい(反語)。 幸い、大阪と神戸は近い。たった40kmである。俺様のBMWでぶっ飛ばせばホンの数分・・・というのはウソだが、高速を使って上手くいけば30分ちょいで行けてしまうくらいの近距離だ。というわけで、幸い天候も良かったので、出かけてみた。 以後、時系列で主に大地丙太郎監督関連のイベントをレポートしよう。尚、アニメーション神戸は「場内撮影禁止」のため、イベント開始からの映像は録れませんでした。『くろみちゃん』イベントも本当はダメだったのかも知れないけど、何か結構周りで録っている人がいるんで、少しだけ録っちゃったのをキャプチャして載せます。あと、ソースが手持ちで録った解像度の低いDVカムの映像なんで、映像が若干荒れているのはカンベンして下さい。 ポートピアランドはご存じだと思うが、神戸沖に浮かぶ人工島である。新交通システムとしてはゆりかもめの元祖とも言うべきポートライナーも走っている。 第5回アニメーション神戸は国際会議場で行われ、『くろみちゃん』イベントは、ポートライナーの市民広場駅を挟んだ向かいに位置する国際展示場2号館で行われている同人誌即売会のCoimc-City in 神戸56会場の一角で行われる。 詳しい地図等を見ずに行ったのだが、メイン会場(ということは後で知ったのだが)前で並んでいる行列の「特有の雰囲気」をバイクで通過するとき横目でチラッと確認して、「多分ここだろう」と思ってバイクを置いて歩いて行ったら「本当にそうだった」のが何だかなあって感じでした。 ちなみにその行列の隣の広場では、フリーマーケットが開催されていたのだが、フリマとアニメーション神戸の客層の違いには苦笑してしまった。フリマと比べると、男性が異常に多く、年齢も20代中心で年齢的な偏りももの凄いのだ(要するに女性・中高年・子どもがほとんどいない(^^;)。服装もフリマの方はそれなりにカラフルなのに、アニメーション神戸の方は黒っぽく沈んだ色調・・・。いや、オレ自身もそうだったんですが(^^;)。 行列は↓こんな感じ。 アニメーション神戸は、13:00から開会。僕は12:00頃会場前に到着したのだが、行列は100人くらいでした(最終的には満席ということはなく、若干の空席があった模様)。 並んでいる最中、手持ちぶさたでいると、後ろの方の地元神戸のファンの会話に頷いたり。「『リヴァ』は辛過ぎて見返すのに抵抗がある」「『ナデ』劇の感想で誉めるのは良いんだが「林原めぐみが出ていたから良かった」ってー誉め方はいかがなもんか」「『CCさくら』劇場版って2回連続受賞だけど、そんなに良いものなのか?(見てないけど)」って感じ。さすがに、「分かっている」人が多い感じだ。 20分ほど待つと開場。行列が動き出し、会場へ入る。 ・フォーラム(13:00〜16:00) 第1部 大地丙太郎の"笑い"と"生きる"(13:00〜14:00) 第2部 インタラクティブメディアの中のアニメーション(14:15〜15:30) ・授賞式(16:00〜17:00) というプログラム。 フォーラム第2部は「大地監督最新作『くろみちゃん』神戸にくる!」イベントと時間が重なっており、内容に興味はあるのだが、諦めざるを得なかった。何かSF大会の分科会っぽいなあ(って地方のしか行ったことないけど)。ということで、フォーラム前半+『くろみちゃん』イベントをレポートしよう。 大地丙太郎の"笑い"と"生きる" AM神戸のアニラジ『青春アジメニア』パーソナリティの岩崎和夫・南かおりの二人が大地監督を囲む形で進行。 大地監督はネクタイこそしていなかったものの、黒のスーツをビシッと決めて登場。大地監督曰く「普段着」だそーだが・・・。「んなわきゃねーだろ」ってツッコミを司会者に入れて欲しかった・・・。 今回は大地監督が子どもの頃に影響を受けた作品に絞って話がされたが、昨年早稲田大学での講演を聴いたこともあり、既知のことが多かった。が、収穫もあった。聞き手の岩崎和夫氏が(早大の時と違って)大地監督と同年代の方のせいもあり(この方、米国土産の番ちゃんTシャツを着ていた。丸に愛の字って何だとかおもったら・・・)、『ヘッケルとジャッケル』『素浪人月影兵庫』などの話を詳しく引き出してくれる。聞けば聞くほど、ホントに『月影蘭』って『月影兵庫』へのオマージュなんだねえ・・・。 シリアス方面では中学時代に、『柳生武芸帳』というシリアス時代劇に衝撃を受けたとのこと。大地監督の「人生における三大衝撃」は、『おそ松くん』『月影兵庫』『柳生武芸帳』らしく、自作を振り返ると、ほぼこれらの作品の要素で分解・パターン化出来るとのこと(^^;)。『月影兵庫』はテレビ時代劇だが、ワタクシの世代では全く分からない。何か興味出てきたが、ソフト化されているかどうか。 大地監督の子ども時代ではもう一つ新情報。大地監督は関東の出身で、子どもの頃は関東近辺を転々としていたらしいんだけど、10ヶ月だけ金沢に住んでいたことがある!らしいぞ。思わぬつながりだなあ。どう、CASるの方、来年の金大祭辺りに大地監督を招いてみては?「大地監督のルーツを探る」とか言ってさ。なんたって、「おじゃる丸」監督と言えば相当なもんだから、来てくれさえすれば、お客の入りも結構期待できるんではないかなあとか思ったりして。 他、現況などに絡んで2つほど。 大地丙太郎自らの手になるマンガ「だんごゴン太神戸編」が一枚ペラで配られていた。これがまたすげえ下手なマンガでね・・・(いやまあそれも狙っているんだろうけど)。これでマンガ雑誌に載るらしいから凄い。小説も『十兵衛ちゃん』が上下巻で12月から刊行されるらしい。マンガも小説も出して、好調だ。 制作の裏話では、ギャグを思い浮かぶのは一瞬だが、それを作品として定着するときは試行錯誤の連続だということを言われていたのが印象的だった。ラッシュを見て初めて「ああ、こうなったか〜」と思うこともあるらしい。そうなのかーと思う。やはり大地監督くらいの才能と経験があれば、絵コンテ段階でかなりキッチリ計算して出来ているのかなーと思っていたのが、意外とそうではないらしいっすね。やっぱり大変なんだなあ、と思う。 最後に会場から質問応答。印象に残ったのを1つ。 Q.「『今僕』のようなシリアス作品を今後も作る予定はありますか?」 A.シリアス作品も作りたいと思っています。テーマとして魅力的ということもあるし、シリアスを作るとコメディのアイディアが浮かぶという効果もあったりして、例えば『今僕』は制作中精神的に相当辛かったが、『今僕』企画会議等で出た(けど作品には生かせなかった)バカなギャグネタを『くろみちゃん』に生かせるということもあったので。具体的な予定は無いが、意欲はあります。 とのこと。 大地監督のフォーラムが終わり、国際会議場をそそくさと出て、展示場2号館へ向かう。次は「大地監督最新作『くろみちゃん』神戸にくる!」という大地監督関連イベント。2連発だ。 イベントの模様は下の写真を見てもらいたい。ここでは主に『制作進行くろみちゃん』という作品そのものについて、今回聞いた範囲のことをレポートしたい。しかしイベント出演者の声優、麻生かほ里の声は−実は歌も披露してくれたのだ−素晴らしくパワフルだったし、一条和也の声は低音の魅力だったし、石井康嗣は声も容姿も実にシブかったということは書いておこう。声優は声に特化した「役者さん」なんだな〜とシミジミ思ったです。 さて、この『制作進行くろみちゃん』とはなんぞや?という方もおられるだろう。アニメ誌でもかなり階層が深いところ(目立たないページ)に記事があったりして、まだまだ注目度は低いように思われるが、今回のイベントを見ると、いろんな意味で新しい試みが見られ、今後注目が集まる作品ではないかと思うので、アニメ誌に既に公表されている情報との重複があるけど、少し詳しく書いてみよう。 『制作進行くろみちゃん』は、大地丙太郎監督、渡辺はじめキャラデザ、ゆめ太カンパニー制作の、来春3月の発売を目指し制作中のOVAだ。タイトルからある程度予想できると思うが、アニメーション制作現場で制作進行を担当する女性くろみちゃんの奮闘を描く、「アニメ業界初の業界アニメ」だ。鋼鉄天使くるみちゃん・・ではない。くろみである。お間違えなきよう(って間違えないか(^^;))。主人公の名前が、大黒みき子だからだとか・・・。モデルになったゆめ太カンパニーの制作進行・大黒直美さんから由来するらしいです。 過去にも、アニメ業界を舞台にした作品はいくつかあるが(ポッと思いつくのが押井守の『とどのつまり・・・』『トーキング・ヘッド』だが)、主人公が声優や監督・演出・原画マンといった「作品に直接取り組んでいる人」ではなく、制作進行という、裏方も裏方なのがユニークだろう(僕もこの職種はここ最近になって知ったのです)。この裏方を通して見た、アニメーション業界をちょっぴりシビアに、ユーモラスにハイテンションに(久々に『こどちゃ』ノリが見られるようだ)描く作品になるようだ。 イベントでは50秒弱のデモテープを見せてもらった。原画そのままだったり、背景が殆ど無かったり、人物の顔のアップばっかりだったりというホントにデモンストレーションだけの未完成版だが、主人公くろみちゃんの怒ったり戸惑ったりといった表情の豊かさだけでも、『こどちゃ』系のハイテンションなノリを予感させられ、大いに期待が持てた。個人的には、ばっとびだったかなんだったか、ばびっと風メタキャラクターも出るらしいのに注目。いやあ、ばびっと好きなんスよ(^^;)。 制作進行という職種については、僕も、「各現場の進行の進捗を管理する」仕事ということくらいしか知らないので、「自分の知らない世界」を見せてくれそうでなかなか興味深い。最初は何でそんなマイナーな日の当たらない職種に注目するのかと思っていたのだが、考えてみれば、制作進行って全ての制作作業に目を通さなくてはならないという特異な職種であり、ということはアニメーションならではの制作現場も隈無く見せられる職種ということでもあり、実はアニメーション(特にテレビアニメ)の製作現場を見せる狂言回しとしては、原画や撮影とかいった他のどの職種よりも最適なことに気がつく。単に「舞台をアニメ現場にしてみました」というに止まらず、商用アニメーションが出来るまでの現場を、トータルとして描こうという強い意欲がここからも伺える。 ただ懸念されることは、こうした楽屋裏的なものでは、むやみやたらに現場を美化したり、逆に問題意識がありすぎて告発風になってしまったりというものが散見されるが、『くろみちゃん』はどうだろうか、ということだ。まあ、『こどちゃ』バリのハイテンションで告発もへったくれもないだろうが(^^;)、美化し過ぎてノーテンキで内容がないってことになるんではないかという心配が少しある。 この点については、まだ制作が端緒についたばかり(とは言え既に絵コンテはアップしており、キャスト・スタッフには回っているようだ)のせいか、意気込みくらいしか聞けなかったキャスト・スタッフの発言の中で、石井康嗣氏の発言がもっとも端的に示しており印象的だったので紹介したい。 例えば報道現場を題材にしたドラマとか、いわゆる暴露ネタのテレビドラマとは違って(メッセンジャーボーイをしていてTV局の報道部に良く出入りしていた石井氏の経験から言えば、ドラマで描かれるニュースの現場は綺麗すぎるらしい)、本当にテレビアニメを作っている人が、テレビアニメの裏側の世界をちゃんと描いている。絵コンテを見ると現場からするとツラい描写も一杯あり、リアルに描いていると思う。 とのことで、良い面悪い面ひっくるめて、業界をかなり正直に描いているようなので、過剰に美化したり逆に露悪的に描いたりということはなさそうだ。この石井康嗣という人、実は制作進行の経験(バイトだけど)もあるというなかなか変わった経歴の声優さんで(大地監督との出会いは制作進行時代だったらしい。制作だと思ってた人間がアフレコで声優さんと一緒にスタジオに入っていたから大地演出は「何でお前がそこにいる?」と驚いたそうだ。そら驚くわな)、そういう経歴の人がそう言うのだから、酷い美化等はされてはいないだろう、と考えるがどうだろう。まあ、プロモーションに来ているんで作品についての悪口を言うはずもねえと言えばそうなんだが、アニメーションの制作現場の抱える様々な問題をある程度提示してくれるのは間違いなさそう。 いずれにせよ、大地監督はここ数年のテレビアニメシーンを語るには欠かせないクリエイターであり、こうした第1線で働いている人の目から見た業界のお話というのは、それだけで大変興味深い。ストレートなエンターテイメントとしてだけではなく、上で書いたようにアニメ業界の問題点をチクチクつつくという面も出てくるだろうし、「お仕事」を題材にした作品としての「職業ドラマ」的な面白さも期待できるだろうし、色々な面でなかなか魅力的な作品になりそうで、皆様、ゆめチェックをお忘れなきよう。発売は来年の春(3月発売予定)なんで、ちょっと間がありますがね。 尚、この作品は作品の内容以外の点でもひと味違っているのでその点も紹介しておこう。 一つは販売形式。通常は、スポンサーを探し、制作会社を探して、そのルートで販売に乗せるが、この作品は、製作スタジオが自ら販路を開拓しているとのこと。現時点ではコンビニのローソンでの販売が決定しているようだ。何でこんなことをするかというと、当然、価格を抑えるためだ。中間利益を圧縮して低価格を実現ってヤツで、1本5000円以内に抑えるとのこと。アニメ作品の低価格への取り組みはいくつか例があるが、いずれも作品単発で終わってしまい、定着するには至らなかったように思える。正直言って「1本5000円」でもまだ高価格だと思うが(作品の長さにもよるが)、こうした「旧来の販売システムを含めて見直す」ということはこれまでに無かった取り組みであろう。 もう一つは、作り手に利益を還元するシステムの模索だ。この作品では大地監督のギャラは売上連動性で、売れなかった場合はノーギャラもあり得るらしい。詳しいシステムは聞けなかったが、一定以上儲からなきゃ監督には一銭も入らないが、当たればちゃんと作り手に利益を還元します・・・ということらしい(勿論原画や声優などの現場のスタッフ・キャストの賃金は最低限保証されているが)。制作当初からこうしたことを公言した作品の例を他に知らないんだが、どうだろうか。 以上の2点からは、 ・ソフトの高価格とそれを嫌っての買い控えというデス・スパイラル ・アニメーション業界の非常識なほどの労働環境・待遇の悪さ という、アニメーション業界に於ける二大宿痾にちゃんと着目して、それを改善しようとする問題意識が感じられ、大変好ましく思われる。作品そのもの以外にも、この試みがどう展開するかという点にも注目しておきたい。 作品以外でイベントで印象的だったことを一つだけ。イベント中に流れたデモのBGMは、作曲家に急遽作曲してもらったものの「こりゃ作品に合わず全然ダメ」と大地監督にダメ出しされた曲で、暫定版ということで使われていたのだが(だからデモテープのBGMは当初は「この場限りの暫定版」ということだったのだが)、3回デモテープを見るうちに大地監督の考えが変わったらしく、「何かこれも良いかも」になってしまっていて、「もしかしたらこの音楽採用するかも」に変わってしまった。こういうテキトーさ加減というか、臨機応変さが何とも作品通りって感じで、笑ってしまったです。 「日本のアニメは私が作る!」の大量のポスター群の上の、キャスト&スタッフ。左から司会の方、石井康嗣、一条和也、麻生かほ里、大地丙太郎、ちょっと隠れてしまっているがその右にはくろみちゃんのモデルとなった制作進行の大黒直美、プロデューサーの山本聰の各氏。 フォーラムとはうって変わってラフな服装で談笑する大地監督。麻生さんら、何作も現場を共にしたキャストとの息の合った様子がうかがえた。 お土産のクリアファイル。良いでしょ。イベントの参加者には全員渡された。これを貰えただけでも行った甲斐があったかも(^^;)。 |