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PDA連載企画 第2回目
TASUT式操作に適したPalmマシンを選び、Palmwareを導入する・1
前回で、TASUT(Throw Away Stilus Using Thumb−スタイラスを捨て親指で使う)式操作PDAとして、Palmマシンを使うことを提案した。
今回からは、IBMのWorkpad 30J以来、続々と各社が参入し、たくさんの機種を擁するようになったPalmマシン陣営の中で、TASUT式操作に向いたマシンはどれか、また、そのマシンをどのようにカスタマイズすればよいか、紹介していきたい。
●TASUT式操作Palmマシンを選ぶ
TASUT式操作に向いたマシンはどんなマシンか。ここではその点に着目し、一般的なPDA選びには重要視されるだろう、価格やカラー液晶の有無等はちょっと脇に置いて考えてみよう。
と言っても考えるべきポイントは2点だけなんだけど。
・重さ
これは別にTASUT式操作に限った話ではないが、本体があまり重いようだと、特に出先での使用の際に操作するのがかったるくなってしまう。将来的にはまだまだ薄く軽くなるだろうが、まあ、現状では120g近辺の機種なら実用になると思う。経験上この重さだと、Yシャツの胸ポケットに入れてもあまり違和感を感じないで済み、TASUT式操作をする際も抵抗無く使える。
今や重量級となってしまったWorkPad 30Jなどは、胸ポケットに入れるとズッシリ重く、大げさに言えば肩が凝ってくるような感じがするほどでオススメは出来ない。Visor Edge以外のVisor(Delux、Platinum、Prism)、TRG Pro、Palm IIIcもそうだ。経験から言えば、150gを超える重さのマシンは、常用するには重すぎる。
・ジョグダイヤルの有無
これはTASUT式操作をする上では、実は決定的なまでに大きいと言える。後述するが、PowerJOGと組み合わせると、ハードボタンの操作や、Graffitiエリアの小さいボタンタップなど、オペレーション上クリティカルな部分なしに操作できるようになり、TASUT式操作環境が飛躍的に改善されるからだ。
大きさ・重さに注目すると、現段階では
・ソニーのCLIE。S300/S500C・N700C
・Palm Vx、IBMのWorkpad 50J
・VisorのEdge
辺りが条件に合ってくるのだが、ジョグダイヤルの有無を問題にすると、結局、CLIEしか残らなくなってしまう。他に選択の余地がない。
が、やはりジョグダイヤルを持つソニーのCLIEは操作性において他の機種より優れている面が多く、魅力的。何しろ、Visorのマニアックなユーザーの中には、Visorを改造してジョグダイヤルをムリヤリ付けるというユーザーもいるくらいだ。逆に言えば、Visorユーザーをしてそうさせてしまうくらい、ジョグダイヤルは魅力的なギミックだということだ。そして、実際のユーザーから見ても、ジョグダイヤルは確かに操作性を改善してくれていると思う。
ので、液晶の見やすさや拡張性など「CLIEが劣る部分」も少なくないのだが、操作性が優れているCLIEが他の機種とは一頭地を抜いていると思われ、「どうしても液晶は譲れない」とかいった事情がない限りは、CLIEをオススメしたい。
それにしても、CLIEが軽量級だったのは幸いだった。もしCLIEが軒並み150g超のマシンだったら、ジョグダイヤルを取るか軽さを取るかという、かつてWorkPad30/40で迫られた4MBを取るか軽さを取るかという選択にも似た、しんどい選択を迫られたことだろう。
それと、CLIEの中でもN700Cについては、重さが多少あり、個人的感想を言わせてもらえば、Yシャツのポケットに入れるとちょっと不快感があるくらいの重みである。魅力的な機能が詰まってはいるが、結局軽さという基本的な属性もないがしろにしてはいけない、とも思う。まあ、初代のCLIEに比べれば値頃感もあり、トータルとして魅力的なマシンではあるとは思うので、後は個々人の好みと言うしかないが・・・。私はあえてS300を選びました。
以下では、CLIEを選んだ場合に絞り、TASUT式操作のTipsを書いてみたい。尚、私はモノクロのS300のユーザーなのでカラーならではの使い方は提案できないので、あしからず。だが、TASUT式操作にはカラーもモノクロも基本的には関係ないだろうから、そのままカラー機にも当てはまるだろうとは思うけど。
尚、ジョグダイヤルについては、ソニーはこの操作方法について特許を取得している筈なので、今後もしばらくは他社からCLIEと同じようなジョグダイヤルを搭載したマシンがリリースされるのは望み薄と思われるのだけど、小型の十字キーなど、他の形態のインターフェイスを採用する端末が登場する可能性はあると思う。その場合は、そのようなPalm端末も有力な候補になり得るから、注意されたい。
●デフォルト状態のジョグとPowerJOG以降
さて、CLIEの初期状態のジョグについてだが、実はこれは余り使えない(^^;)。
が、完全に使い物にならないかと言えばそうでもない。特にメモ帳では、タイトル一覧表示させた際に、ジョグダイヤルが案件を選択するカーソル代わりに働いてくれるのは、使ってみれば分かるがかなり便利だ。なんせ、これが出来なければ後はタップしか方法がないのだ。揺れている車内など不安的な時でも確実に操作を行える有り難い機能である。To Doでも同様だ。
ジョグ押しでカテゴリが切り替わるのも良い。このおかげで、ハードウェアボタンを殆ど触らなくても良くなった。
が、まあその程度だ。基本的には、アプリランチャーとしてジョグが使え、いくつかの対応ソフトでジョグによる操作が出来る、というだけである。標準では。これだけでは、例えば大きくて視認性の良い液晶を備えたVisorEdgeにうち勝つほどの操作上のメリットがあるかどうかは微妙だろう。
だが、PowerJOGを入れると、話が変わる。使い勝手が、飛躍的と言って良いほど向上するのだ。
ジョグダイヤルが、アプリケーションランチャーになる。メニューランチャーになる。ホームにも飛べるし、DAも起動できるし、ボタンもジョグダイヤルで使えるようになる。
単なるアプリランチャーだったら、ハードウェアボタンを利用したPalmwareがいくつもある。PowerJOGがそれらと違うのは、勿論ハードウェアボタンではなくジョグダイヤルを利用したという点もあるが、メニューランチャーや、ボタンをジョグダイヤルで扱える機能が実装されている点だ。これで、操作性が相当改善されるのである。
特に、画面上に配置されたボタンを画面タップしないでジョグダイヤルで押すことが出来るようになるのは、TASUT式操作で運用する上で非常に使いでがある機能だろう。
ちょっと遠回りかも知れないが、この操作性の改善について、Windowsシステムを引き合いに出して説明してみよう。
Windowsでは、大抵の操作はいくつかの手順が並行して用意されている。ユーザーは同じことをするのでも、マウスを使う、キーボードを使う事を選べるし、キーボードを使う時でも、メニューバーで選ぶか、ショートカットキーを使うかを選べる。
例えば、アプリケーションから「ファイルを開く」なら、
1.マウスで「開く」アイコンをクリック
2.キーボードでAlt+F、O
3.キーボードでCtrl+O
と3種類はやり方があり、ユーザーはそのどれを選んでも目的は達せられる。
初心者のうちは、いちいちホームポジションから手を離し、チマチマとマウスでクリックとかしているが、そのうちにそれがかったるくなり、キーボードだけでオペレーションが完結する2、3の方法を覚えて移行する・・・というのが自然なスキル上達パターンだろう。全般的に言って、Windowsでは全ての操作がマウスでもキーボードでも行えるように配慮されて設計されている。
一方のPalm。ご承知のように、操作は画面直接タップか、Graffitiが基本になる。PCで言えば、画面タップはマウス、Graffitiはキーボードに相当するだろう。しかし、Graffitiはコマンド面ではかなり弱い位置づけしかされておらず、PCでいうキーボード並みの扱いはされていない。
例えば、ダイアログボックスを消すには、Windowsなら、OKなどのボタンをクリックするか、タブキーでフォーカスが当たっているボタンを移動させてエンターキーを押すことで、ダイアログボックスを消すことが出来る。マウスでもキーボードでも、同じ事が出来るようになっている。ところが、デフォルトのPalmでは、OKボタンをタップするしか方法がない。GraffitiでOKなどと書いても無効なのだ。
つまり、Palmの操作体系は画面タップに依存した操作体系だと言える。PCで例えるなら、キーボードからのコマンドが使えないで、マウス経由のコマンドしか受け付けないという状態だろうか。
両手操作で足下が安定した状況でスタイラスを使って入力するのであれば問題はほとんどないだろうが、TASUT式操作では、画面上のボタンを親指でタップするというのはもともと注意が要る作業だし、特に揺れている電車の中等では手元が狂いがちでかなり難しい操作となってしまう。削除をキャンセルしようとしたらOKボタンをタップしてしまった、なんてことも予想される。
したがって、TASUT式操作的には、できれば画面タップを使わず、PCで言えばキーボードに当たるような、別の操作で目的を達したいのだが、PalmOSではこの操作が用意されていないわけである。
が、PowerJOGを導入すれば、このような操作体系に一つの改善策・オプションが用意されることになる。つまり、新たに追加されたインターフェイス・ジョグダイヤルをボタン操作等に使えてしまうのだ。
例えば、先のダイアログボックスでのOKボタンを押すという操作なら、PowerJOGを導入すれば、画面をタップせずとも、ジョグダイヤルをプッシュすることで、タップの代用になる。揺れている車内などでの場面でのオペレーションにおけるジョグダイヤルの優位性は、言うまでもないだろう。もっとも、画面直接タップに比べると、操作ステップ数は若干増えてしまう傾向があるのだけど、正確に出来るかどうか不確実なタップは操作取消・やり直しの手間がかかるリスクがあり、これも考慮すれば多少手間がかかっても確実に操作を行えるこの方法は利用価値は高い。
実はこの、「多少手間がかかっても確実性が重要」「誤る可能性の高い操作は、確実に正確に行える操作の組み合わせで実現させる」というのは、TASUT式操作では重要な考え方になるので強調しておこう。急がば回れ、損して得取れである。そもそも、PalmOSのGraffitiがこのようなコンセプトに基づいているように思えるのだが、ことTASUT式操作に関しては、PalmOS側がフォローするには至っていないようであり(Ver.3.5現在)、ユーザーが工夫する必要がある。そのOSの不足分を補完する一役を担うのが、PowerJOGとジョグダイヤル、というワケだ。
更に詳しい機能はPowerJOGの開発者である方のWebを見てもらえれば良いだろう。とにかく、マウスでしかオペレートできなかったのが、PowerJOGを入れたらキーボードでもオペレートできるようになった、とでも例えられるだろうか。PCをキーボードメインで使用されている方にはお分かりになるだろう。それくらい使い勝手が良くなるのである。
ジョグダイヤルは、厳しい状況でも確実にオペレーションを完遂できるインターフェイスであり、これを有効に利用することが出来るようになるPowerJOGは、TASUT式操作には欠かせないPalmwareだと言える。ジョグダイヤルにPowerJOGは、まさにシステムを支える車の両輪であり、切っても切れないと言っても良いくらいだ。
TASUT式操作に向いたマシンとしてCLIEを強力にプッシュしたのは、このPowerJOGあってのことといっても大げさではない。実際、PowerJOGが無ければ、TASUT式操作した場合に、CLIEがここまで実用的にはならなかっただろう。
●CLIE+PowerJOG
と、いうことで、CLIEを選んだ際には、PowerJOGを是非ダウンロードして購入するのを勧める。レジスト料は2980円と、映画+食事1回くらいの値段だけど、その価値は十二分にあると思う。
CLIEを購入して最初は、しばらくPowerJOGなしでしばらく使ってデフォルトの操作に慣れて、その後PowerJOGを入れれば、その操作の改善効果が体感できるのでオススメだ。そんな暇はないという方は、PowerJOGをいきなり入れて使ってもらって良いけど、それだとあまりありがたみは実感できないと思う・・・。大きなお世話?(^^;)
で、私自身もこの組み合わせで、S300をかなり良い感じに使えてはいるのだけど、一応、イマイチな点も一つご報告。
S300の場合、ジョグダイヤルの位置がややTASUT式操作に向いていない面がある。ジョグダイヤルの位置が上に寄り過ぎているのだ。そのせいで、親指でGraffitiを描くときと、人差し指でジョグダイヤルを操作するときとで、微妙に持ち替えなくてはならず、やや使いにくい。TASUT式観点から言えば、ジョグダイヤルはもっと下に配置してもらった方が持ち替え無しで操作でき扱いやすいし、あるいは、ジョグダイヤルは現在とは反対の面(向かって右側)に配置した方が扱いやすいかも知れない。まあ、通常の使い方との兼ね合いもあるので今と逆の面に配置するのは難しいだろうが・・・。尚、N700Cでは、若干ジョグダイヤルの位置が下がったため、TASUT式的に好ましくなっているが、これはむしろ、オーディオプレーヤー用ヘッドホン端子のスペースを空けるためであり、結果的に使いやすくなっただけだろう。
以上、2回目はTASUT式操作に向いたマシン選びと、PowerJOGを紹介しました。
次回は、CLIE以外でも使え、TASUT式操作をアシストしてくれるPalmware、WPJHackと、FEMを紹介したいと思います。
(2001/04/15脱稿)