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PDA連載企画 第3回目
TASUT式操作に適合したPalmwareを導入する・2
前回はCLIEと、CLIEが装備するジョグダイヤルを活用できるPalmware・PowerJOGを紹介した。今回はCLIE以外の機種でも利用価値が高いと思うPalmwareをご紹介しよう。
●WPJHack
Palmマシンでは、日本語入力のために、ひらがな・かたかな・英文字の3種の文字種を選べるよう、シルクエリアのGraffitiエリアの横に「あ/ア」「日/英」というボタンが用意されているが、スタイラスならともかく親指の爪ではこの部分はかなり押しにくい。ので、この文字種ボタンをタップしないで文字種を選べるPalmwareはないものか、と思って探したところ、このソフトが見つかった。
このソフトを入れると、日本語入力の際に、Graffitiを書くことで、文字種を選ぶことが出来るようになる。
具体的なWPJHackの使い方はしごく簡単だ。HackMasterで起動させるだけで用意は整う。入力時に、Graffitiエリアに、バックスラッシュにAを書けば「あ/ア」ボタンタップに相当し、バックスラッシュにNを書けば、「日/英」ボタンタップに相当することになる。ストローク数が増えてしまうが、TASUT式操作では、結果的にはこちらの方が速いと思う。ただ、「A」と「N」は結構交互に誤認識されがちなので、もっとハッキリ形が違う文字2種を選べるようなカスタマイズが出来れば尚良いのだが・・・。
やはりこれも、小さな面積しかない「あ/ア」「日/英」ボタンをタップするという「正確を期すのが難しい操作」を、Graffitiのバックスラッシュ+A/Nという「ステップは増えるがより確実な操作の組み合わせで代用」する、というのが工夫のキモである。今気がついたが、CPUでいう、CISCとRISCみたいなもんでしょうか(^^;)。
本ソフトはHackソフトというシステムを補完するユーティリティソフトで、使用に当たってはHackMasterなどのHackソフトのランチャーが必要になる。HackMasterの具体的な使い方等は、Murcye's サイトなどで確認してもらいたい。
Hackという言葉が穏当に響かないが、もともとこれは良い意味もある言葉なので、世間一般では犯罪行為と認識されている「ハッカー」「ハッキング」とは関係ないということは一言言っておいた方が良いだろう。
また、本ソフトはフリーウェアでもある。フリーということで警戒される方もいるかも知れないが、Webサイトも長く運営されており、Palmware作家としての実績もある方の手になるものなので、そう心配することはないだろうと思う。少なくとも、僕のマシンには色々Hackソフトを入れているが、これまでに特に不審な動作等は確認されていないし、便利に使わせてもらっている。
●FEM2.0
高機能テキスト編集アシストユーティリティ、というのが本来のセールスポイントなんだけど、これはあくまでスタイラスを使っての操作が前提で、その限りではTASUT式操作的に魅力のあるソフトではなかった。
ところが、現在公開されているVer.2.0のベータ版になって、拡張ショートカット機能という、Graffitiに自由にコマンドをアサインできる機能が追加された。TASUT式操作的には、2.0で加わったこの拡張ショートカット機能は極めて重大な意味を持つ。これだけでレジストする価値が十分ある、と思う。
Palmを常用するようになって特に不満を感じていたのは、カーソル移動がGrafittiからもっと確実に出来ないものか〜ということだった。Graffitiに左右カーソル移動というコマンドはデフォルトで用意されている。されてはいるのだが、これがスペース・バックスペースとかなり誤認識してしまう形のGraffitiが割り当てられていて、慣れるまでにかなりコツがいるし、慣れていても尚、誤認識を起こすことが多いのだ。
特にカーソル左移動は、文字を消すという操作とかなりの高確率で誤認識してしまうクリティカルさのため、カーソル移動をGraffitiから行うことに対しては最後まで躊躇いがつきまとった。また、TASUT式操作では、画面タップも親指なので、大まかな場所までは直接タップできても、1字1字を狙えるほどの正確性は期待できない。TASUT式操作では、カーソル移動というのは、タップでもGraffitiでも確実・正確には出来ない操作で、困っていたのだ。
それと、カーソル関係では他に、PalmOSデフォルト状態では、カーソル上下というGraffitiコマンドが初めから無い、という問題もある。この辺りからも、PalmOSというのが画面タップ頼りな設計思想であることが分かるだろう。
これをPCで文書編集する場合に置き換えて考えて欲しい。マウスは調子が悪い(TASUTだからあまり小回りの利かない親指を使うので)。カーソルは左右キーしかなく、上下キーも初めから無い。しかも左右キーはBSキーと押し間違いやすい位置にあって、実際に何回に1回かは必ず左キーとBSキーを間違えて押してしまう。そういうPCで文書を入力・編集する気になれるだろうか?従来、PalmでTASUT式操作でメモ帳などの文字データを入力・編集するときは、そーゆー困難が伴っていたんである。
これを解決するために、随分前からPalmwareを探していたのだが、わずかに見つかったのはCurorMovingHack。これはハードウェアボタンと併用してカーソルを移動させる、というもの。しかし、左右にしか効かないのが痛かった。まあ、それでもGraffitiで書くよりはマシだと思っていたのだが・・・。
また、ソフトウェアキーボードでカーソルを出す機能のあるものを使ったこともある。例えば、Com-JIMMだ。片手入力メソッドとして考えれば、使う価値は高いかも知れない。しかし、画面の過半をキーボード表示に占有されてしまうのがイヤだった。DOS−WINDOWSでのハイレゾへの移行をリアルタイムで経験した者としては、文字が実用的な大きさである限り一画面に表示できる情報量は多ければ多いほど良いというドグマに染まっているので、ただでさえ狭いPalmの画面をさらに狭くさせられるのは耐えられず、常用するには至らなかった。ソフトのコンセプト的には、親指タップを意識した、TAUST式に見ても着眼点の良いPalmwareなので、使い続ければ何か良い感じの境地に達せるかもしれないのだが。
と、まあ長く不満を抱いていたのだが、今年の4月にリリースされたFEM2.0を入れてみると、このソフトのKey Customizationを使えば、カーソル左右だけでなく、カーソル上下というデフォルトで用意されていない操作もGraffitiで操作することが出来るようになり、Palmを使い始めて以来の不満は、FEM2.0を使うことで大方解消されてしまった。
具体的な使い方はこんな感じだ。
FEMの設定画面で、ControlMaskKey(PCで言えばCTRLキーとかALTキーに該当する。拡張ショートカットのトグルだ)として、Vとかの「普段入力であまり使わないような文字」を選ぶ。で、その後に書く文字で具体的な動作を割り当てる。例えば、スペースをカーソル右、バックスペースをカーソル左、Iをカーソル下、Pをカーソル上・・・という風に割り当てるわけだ。そうすると、通常操作画面では、VをGraffitiで描くとControlモードになり、スペースを書くとカーソル右、バックスペースを書くとカーソル左、Iを書くとカーソル下・・・という風に操作が出来るようになる。他にコピーやペーストと言った編集コマンドやFEPの操作等もこの機能で指定出来るようになる。
例えばメモ帳での画面で、画面の最上の行の文章から、最下列の文章にジャンプしたいとする。親指では正確なタップは難しいが、大体最下列、という辺りへタップする。その後、微調整として拡張ショートカットとして割り当てたGraffitiを書くのだ。こうすれば、スタイラスを使わないでも、まあまあ素早く、正確なオペレーションが可能となる。
というわけで、カーソル移動についてはPalm操作の悩みどころであり、広大なPalmwareの世界に飛び込んでも尚、根本的な解決には至らなかった不満点だったのだが、このFEM2.0でようやく、解消されたのだった。実は、そもそもこのようなTipsページをアップしたのも、FEM2.0でTASUT式操作を他人に勧めても良いレベルにまで実用度が上がったと感じたから、というのが大きかったりする(^^;)。
FEM2.0はまだベータ版ということだが、正式版が待たれるところだ。
尚、画面を直接タップすると、カスタマイズ可能な編集メニューがポップアップ表示される、というのがこのソフト本来のセールスポイントで、この機能についても、親指では細かいタップは難しいものの、単語選択は結構使えて重宝している。
だが、何と言っても自由度の高い拡張ショートカット機能の価値はとてつもなく大きい。何度も言うがTASUT式操作をする者にとって福音的ソフトである。さらに、カーソル移動だけでなく、「文頭に移動」「文末に移動」「行頭に移動」「行末に移動」といった文書編集によく使うコマンドもアサイン出来るのも非常にUsefulだ。特に「行頭に移動」は、スタイラスでの画面タップでも微妙な、画面左端タップをしなくて済むので、スタイラスを使った場合でも、FEMの拡張ショートカットとしてアサインされたGraffitiを使った方が確実だろう。メモ帳などで、Palm上でちょっとした文章の編集作業をすることが多い人には、特にオススメしたいPalmwareだ。
●最後に
以上、3回にわたって、今私が使っている使い方とPalmwareなどを紹介した。一見、一般性はあまりなさそうな使い方だけど、都市部に住む日本人の平均的なライフスタイルから見て、通勤通学中にメモを取るというのは実はかなりあり得る使い方ではなかろうかと思い、まとめてみた。
PDAの使い方は人それぞれで、個々人のライフスタイルに直接的に関わってくると思う。例えば、個人的には、PDAデバイスで動画を見ようなんてことは全く思わず、だから最近流行のそうした機能を持つPDAにはあまり魅力を感じないんだけど、その機能が死活的に重要だという人もいるし、そういう人の要望自体も理解しているつもりだ。「そういう人の使い方はダメ」とかいう頭ごなしの否定のしかたは、大げさに言えば、他人のライフスタイル・他人の人格を否定することに繋がりかねないと思い、常に自戒している。小文も、スタイラスを使う正統な使用法や、使う人を否定する意図は毛頭ない。
「どこでもメモ重視」派の人間にはこういう使い方をしているヤツもいる、程度に参考にしてもらえれば良いなあ、と思う次第。
(2001/04/25脱稿)