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第9章 |
その日、ネットニュースに流れた映像に、誰もが驚愕した。
それは、マイド・ガーナッシュによるアリクレスト皇帝に対する宣戦布告だった。
青地に白と赤のハサミをあしらったアウトニアの紋章が描かれたタペストリーが下がっているその前に、白いアウトニア王国軍の礼服を着て、マイドは静かに立っていた。
やがて、目を開けたマイドは静かに言った。
「帝国国民の皆様、私はかつてこの紋章のもとに、多くの将兵とともに神聖ローデスの軍と戦いました。この紋章の主はシザーズ王家、そしてその王家が納めていた国の名前はアウトニアと言いました。
私の名前はマイド・ガーナッシュ、称号は男爵。これでも一応は帝国貴族の一員でした。
私は、帝国軍人を志願し士官学校に進み、そして卒業後私が連絡将校として派遣されたのがこのアウトニアでした。アウトニアは、アウトニア回廊によって神聖ローデスの勢力圏と接しており、帝国防衛の要衝として、帝国から連絡将校が派遣されていたのです。
神聖ローデスがこのアウトニア回廊を越えて侵攻を開始したのは。今から三年半前のことです。我々は精一杯の戦力を使って敵戦力を撃退し、アウトニア回廊を奪回いたしました。このいきさつはまだ皆さんの記憶に新しいことだと思います」
マイドはゆっくりと右手を上げた。
右手が指し示すそこに、帝星ブックスが現れた。
「私は、このアウトニア回廊防衛の祝賀会に招待されたアウトニアのメイ・シザーズ王女とともに帝星に赴きました、そしてあの事件が起こったのです。」
帝星ブックスの映像は、燃え上がる帝国王宮の映像に変わった。
「王宮の舞踏晩餐会の会場に仕掛けられた爆弾により当時の帝国皇太子であるタツヨミ殿下をはじめとする四十八人の方が犠牲になりました。そして、私は逮捕されましたこの爆弾事件の犯人として」
マイドはゆっくりと正面を向いた。
「私は、みずからの潔白を主張し、裁判ですべてが明らかになることを望みました、私は全く不安を持っておりませんでした、なぜならあのとき私には確実なアリバイが存在していたからです。
しかし、事態は思いがけない方向に進みました。タツヨミ殿下を失ったときの皇帝ダイテツ七世が退位を宣言したのです。神聖ローデスという宿敵と戦端を開いていた当時の帝国にとって皇帝の空位という状況は何が何でも避けねばならない状況だったのです。そして、新皇帝に選ばれたのが、現在の帝国皇帝アリクレスト・マルスその人でした。これが、私の運命を変えたのです」
マイドは言葉を切ると再び目を閉じた。
そして一呼吸ほど過ぎたとき、マイドは目をあけた。
その目は力強く見ている人間の目を正面から見つめていた。
「私は絶対に無罪にならないと決まったのです、なぜなら、爆弾を王宮に仕掛け、皇太子を亡きものにし、そしてその罪を私に負わせた人間こそアリクレスト・マルスを筆頭とするマルス家の一族だったからです!皇帝を自分たちの一族から輩出することがマルス家の願いでした、その願いをかなえるために、マルス家はついになりふり構わぬ行動に出たのです!」
マイドは自分の言葉が行き渡るのを待つように時間を取ってからゆっくりと続けた。
「こと、ここにいたって、裁判に何の意味があると言うのでしょう? 帝国において皇帝は無謬の存在です、誰も帝国皇帝を裁く権利を持っていないのです。アリクレストを皇帝に拝し、帝国はマルス家の天下となりました。いかなる証拠もいかなるアリバイも、採用されなくては無意味です。このとき裁判は審議することも吟味することも無く単に私に有罪を宣告するだけの機関に成り下がったのです」
「そして、私は逃亡いたしました。 しかし。私一人の手で逃亡できるわけがありません。このとき帝星にはマルス家とマルス家以外の人々という二種類の人間が存在していました。私はその片方の人間たちの手で逃亡することができたのです」
マイドはゆっくりと付け足した。
「もし、私が真犯人だったとしたら、私を助けてくれる人がいたと思いますか? 私は真実を申し上げております。私が真犯人であると告げる各種の証拠が示されています、だとしたら私が同じように真犯人でない証拠を示したとしてもそれはおなじことです。真実はそれを信じるかどうかで決まるのです、私が信じられないのならば私は真犯人であり、私を信じるのなら私は真犯人ではない。それだけのことなのです」
そして、マイドは声を上げた。
「私は帝国皇帝アリクレスト・マルスと、その一族を先の皇太子タツヨミ殿下に対する計画的殺人犯として糾弾する! そして、先の第九次桃星戦役で無為に殺されて行った辺境国家軍と独立惑星軍の将兵を代弁して帝国軍最高司令長官アリクレスト・マルス元帥の罷免を要求する!
帝国はいつから一握りの人間のものになったのか! 帝国はいつから信じるものの名を喪ったのか! 流浪の民と化した亡国の国民に、兵を差し向け、殺戮することが帝国軍の任務だと言うのか!
それが帝国の真の姿だと言うのなら、あえて言う! そんな国家など豚に食われてしまえと!」
そして、マイドは黙った。
二呼吸ほどしてから顔を上げたマイドは静かに、そして力強く言った。
「僕は戦うよ、アリクレスト。君にすべてを奪われた人々のために僕は戦う。たとえ国の名前を失っても、守るべき国土も国民もいなくても僕は戦う。僕は僕の理由で君と戦う。もし、君に時間があったら例の空間を訪れてみたまえ。そこは君が面白半分に滅ぼした世界だ。君が自分の権力を誇示するために焼き尽くした世界だ。それが、どんなに貴重で美しいものか君にはわからないだろうけど、あの世界は本当にあったんだ。すでにこの世にないもののために戦おうとする私は馬鹿な人間なのかもしれない、いや、きっと大馬鹿だ。でも、人間は、本当は大馬鹿になれる場所を求めているんだと思う。だから僕は戦うんだ」
そして、マイドは笑った。
実にさわやかにマイドは笑った。
身にやましいことが何一つ無いかのように笑った。
それは、絶対にアリクレストにはできない笑い方だった。
このニュースファイルが帝国の中に引き起こした変化はほとんど無かった。
それはほとんど表に出なかったという理由もあるが、内容があまりにも大きすぎて見た人間がどう対応していいのかわからなかったからだろう。
その点において、このニュースファイルの存在はアウトニアファイルと似ていた。
見た人間の意識を変えてゆくという意味においても、それはアウトニアファイルとよく似ていた。
しかし、このファイルは帝国軍の中に対しては劇的な反応を引き起こした。
惑星シードクロスの前進基地の指揮室では、ネオ・アアウトニア討伐軍総司令長官が。口から泡を吹いてわめきちらしていた。
「なぜだ!なぜ諸侯は軍を送って来ぬのだ!」
「エルノリク男爵領艦隊は壊滅いたしました。アクトレス星系軍は遠隔地ですので、いまだに到着しません」
淡々と状況を説明するサイトウ中佐に司令長官は噛み付いた。
「遠隔地と言えどもあれから三週間以上過ぎておる、いくら遅くともたどり着いている頃ではないのか?」
「それが……何でもNフィールドの発生装置に故障が起きたとかで、通常空間を航行しているそうです」
「通常空間を? アクトレス星系はどれくらい離れているのかね?」
「三十七光年です」
「通常空間を亜光速で三十年かかって来るだと? 馬鹿にするな!」
「いえいえ、Nフィールド発生装置が修理出れば明日にでも到着するそうです」
「明日着いても今日ここにいなくては何にもならんのだがな」
総司令官は気を取り直したように聞いた。
「そういえば、他にもいくつか地方諸侯の軍が来ると言っていなかったか?」
「はい、皇帝陛下の勅命に従って出兵を決定したのは、他にエデッサ伯爵領です」
「おおそうか、あの辺境伯か、で、どうなった?」
「現在編成会議中とのことです」
「編成会議?確か三週間前にもそんなことを言っておらなかったか?」
「ええ、ですからいまだに会議中なわけです」
「三週間ずっと会議中だというのか!」
「ええ、二十四時間休み無しで三週間ぶっとおしで会議をやっております」
総司令官はうなり声を上げた。
「どいつもこいつも! 皇帝の勅命を何だと思っておる! 馬鹿にしておるのか!」
……正解。
サイトウ中佐は口に出さずに心の中で拍手をした。
「では……わしが使える軍はどこにあるのだ」
「バリアン星系軍がございます。バリアン星系軍はそのほとんどの戦力をこの戦いに差し出しております」
モニターに映る数字を見て総司令官の顔色が良くなった。
「確かにそうそうたるものだな、帝国の正規軍に比べれば見劣りするが、なに、相手はろくな装備も無い反乱軍だ、あんなものわしが打って出れば鎧袖一触だ」
……ならいいんだけどな。
サイトウ中佐は再び声に出さずにそう言うと、モニターを切り替えた。
モニターに映ったのは若い魅力的な女性だった。
「これは?」
「バリアン星系軍の総指揮官。ユイ・コットン中将です」
総司令官は感嘆交じりの声をあげた。
「ほう、女性が総司令官なのかね」
「彼女はミリオン傭兵隊の准将からバリアン星系軍に請われて参謀総長になった人物で極めて優秀です。このたびの戦いに際して中将に任じられ、総司令官となりました」
「ほう……一度お会いしたいものだな」
「お会いになりますか?」
「来ているのかね?」
「はい、先ほどより隣の控え室でお待ちです」
総司令官の顔がほころんだ。
「気の効かない参謀だなお前も、さっさと報告を終らせて、彼女をここに連れてきなさい」
サイトウ中佐は、その言い方が気になった。
「あの……コットン中将はまだ若い女性ですが優秀な軍人です、コンパニオン扱いをされては……」
「わかっとるわかっとる、若い女の扱いは慣れておる、心配するな」
サイトウ中佐は目いっぱいの不安を抱えながら控え室に向かった。
控え室ではコットンが待っていた。
サイトウ中佐が、困ったように言った。
「総司令官がお待ちです……しかし、何か失礼なことを口走るかもしれませんが怒らないでいただきたいのです」
コットンはため息をついて肩をすくめた。
「ああいったオヤジ連中のやることには慣れております、ご安心ください」
「誠に申し訳ありません」
コットンはサイトウ中佐に好意を持った。
……帝国の参謀もこういった人ばかりだといいんだけどな。
「では、ご案内いたします」
そして、次の日バリアン星系軍に対し、帝国の応援を待たずして、全軍突撃するように命令が下った
この命令を下した帝国軍総司令官の右頬に赤い手の跡があったという証言があったがその点については定かではない。
バリアン星系軍の旗艦である重巡航艦ディブランのブリッジでは、コットンが憮然とした顔で中央の指揮官席に座っていた。
「いきなり全軍突撃ですか、作戦も何もあったもんじゃありませんね」
バリアン星系軍の参謀がそう言うと、コットンは顔をしかめて言った。
「愛人契約を断ったらこの仕打ちよ、帝国も堕ちたものね」
「司令官を愛人にですか? 命知らずですね」
コットンは半目でにらんだ。
「どういう意味?」
「あ、いえ、深い意味はありません」
コットンはため息を一つつくと、コンソールに身を起こした。
「もともと乗り気じゃない任務なのに、こんなことが重なると、もっとやる気が無くなるわね」
参謀が真面目な顔をした。
「そのことですがコットン司令官……これは我々全員の意見なのですが、今回の作戦を中止してはいかがでしょうか?」
「中止?」
「ええ、どう考えてもこのネオ・アウトニア侵攻は理由がありません、むしろ我々が戦うべきは……」
参謀がそこまで言ったときコットンが言葉をさえぎった。
「そこまで! 私はこのバリアン星系軍をお預かりした身です、私には私に与えられた責任を果たす義務があります!」
参謀は食い下がった。
「しかし司令官! この意見は我々だけではなくこのバリアン星系軍全員の、いえバリアン星系に住むすべての人々の意思なのです! 彼らは、いえ、彼は恩人です彼は敵ではありません!」
コットンは静かに言った。
「下がりなさい、あなたに他の船との交信を禁じます」
バリアン星系軍の艦隊は次々にタンホイザーゲートをくぐり始めた。
帝星の片隅にあるその別荘は、ほとんど知られていなかった。
マルス家の広大な敷地のその中にある別荘のことを知っているのはマルス家の中の一握りの人間だけだった。
別荘の一室から老人の叱責する声が聞こえて来たとしても、それを耳にする人間はほとんどいなかった。
「アリクレスト! なんという不様な! この始末どうつけるつもりだ?」
スクリーンの中のアリクレストは少し頭を下げて言った。
「仰せの通りですジュメイ伯父殿、申すべき言葉もございません」
ジュメイは、アリクレストが平静なことに少し驚いたような顔をした。
「あのニュースファイルなどたいしたことではありません。あれに騒ぎ立てることのほうがよほど問題かと」
「そうか……ならば良いのだが、次の策は練ってあるのだな?」
「はい……」
その頃、ネオ・アウトニアのアルファドームにある指揮室のコンソールで通信を受けていたマリリンは声を上げた。
「資産没収だって?」
スクリーンの中でうなずいたのは、ABC商会の代表電子人格のゼイムズだった。
『そうでおます、今日付けでメイ王女様と、マリリンはんの名義の口座の資金はすべて帝国の国庫に没収されることになったそうでおます』
「あんたに預けておいた債権も?」
『ええ、とにかくメイ・シザーズとマリリン・コイズミ名義のものは、不動産の権利からスポーツクラブの会員権まで一切合切が没収との通達でっせ』
「スポーツクラブの会員権もかい?」
『ええ、レンタルビデオの会員権も」
「レンタルビデオはどうでもいいんだけどさ、ゼーロックのフィットネスクラブは雰囲気が好きだったんだよねえ」
『マリリンはん、落ち着いてる場合とちゃいまっせ、メイ王女はんが、一昨日債権の名義変えをやったのをお忘れでっか?』
「え?」
『ほら、運転資金を、ドッガーバンクの長期債権にして、チャマー王子はんの星へ国民を移住させる時の基金にすると言って……』
「あ、そうだ……じゃあ、あの金は……」
そのとき、部屋に青ざめた顔のメイが飛び込んできた。
「マリリンさん!今ニュースを聞いたんですけど、本当ですか? 試しにいろんな市場にアクセスしてみたのですがどれも取引停止画面になってしまって……」
モニターの中のゼイムズが気の毒そうに言った。
『ホンマです、メイ王女様。帝国財務省の緊急通達だとかで、帝国標準時の本日午前零時をもって、メイ・シザーズ及びマリリン・コイズミ名義の口座預金、債権、契約項目の一切を没収するとのことです』
メイは胸の前で両手をぎゅっと握り締めると、震える声で言った。
「そんな……」
マリリンは黙ってコンソールを叩いた。
「……ということは、いま、私たちが使える資金は……と」
モニタースクリーンに映った画面を見てマリリンは言葉を失った。
メイが泣く様な声で叫んだ。
「私のせいです! 私があんなことをしなければ……」
マリリンはぴしりと言った。
「違うよ、あんたが何をやろうともどうしようとも金は没収されたんだ、現金で握ってない金は全部。だからあんたは自分を責めちゃいけない!自分を責めるヒマがあったら、どこからか資金をひっぱってくることを考えな!」
泣きそうな顔にななってメイはうなずいた。
マリリンは目の前にあるコンソールを指差した。
「あんたの席はそこだ、そしてあんたの仕事はこの状況から立ち直ることだ、いいかい?マイドは命がけであんたと、このネオ・アウトニアを守ろうとしているんだ! だったらあんたの戦う場所はここだ!」
「はい! わかりました!」
メイはシートに座ると、真剣な顔をしてコンソールのキーを叩き始めた。
その姿を見た後で、マリリンはゼイムズに向き直った。
「今、私たちが使えるお金の全部、タンスの底から事務机の中の小銭までかき集めてもこんだけしかないんだ……」
画面の中のゼイムズの顔が青ざめた。
マリリンは真剣な顔でゼイムズを見た。
「これだけの資本で手っ取り早く儲けるには、とにかく日銭が入る仕事しかないと思うんだ、何か無いかね?」
ゼイムズはしばらく考え込んでいたが、やがてにやっと笑って言った。
『外食産業ってのはどないでっか?』
ケルプワイン海賊団の旗艦のメインブリッジで、マイドはその知らせを聞いた。
「資金没収か……」
『誠に申し訳ありません……また後手にまわりました』
横に立つヴァルが心の底からすまなそうに言った。
「これも、彼の仕業だと思うかい?」
『ええ、ここしばらくの一連の動きと共通です、ただ経済的な命令は軍隊に対する命令と違って即効的ですので、効果が現れるのも早かったのだと思います」
「これだけ効果的な手を打てるということは、彼も電子人格を仲間にしているとは考えられないか?」
『マイド様もそうお考えですか』
マイドは黙り込んだ。
そして、一言言った。
「オリアス……かな?」
ヴァルは黙って一礼した。
それは、賛同を意味する仕草だった。
「やっぱりね、彼ぐらいしかこういったことのできる電子人格はいないだろう」
『オリアスと私は兄弟のようなものでございます……私のほうが多分に歳を取っておりますが……』
「ヴァルと兄弟?」
ヴァルは微笑んだ。
『電子人格は、基本プラグラムとしてこの世に誕生いたします、その後様々な情報をインプットされ、関連付けされて、ニューロンとも言うべき情報ネットが立ち上っていきますが、このとき、自律的に動く回路が生じます。そのときその回路は電子人格となるのです』
「じゃあ電子人格の兄弟ってのは、その回路が生じた時の時間の差を言うのかい?」
『まあ、そんなところでございますね』
「敵の正体はだいたい見当がついたけど、問題は資金だよな、以前みたいな国債を売って資金を作るわけにもいかないし、何か儲け話でもないかな」
ヴァルはため息をついた。
『儲け話ですか……一言で儲け話と言いましてもこれと言ったものはございませんね……せいぜいパラネット改造の出会い系サイトの客が増え続けているというぐらいのものでして……』
ヴァルの言葉を聞いて最近あの空間を訪れていないことにマイドは気がついた。
……そうか、現実の世界でメイと会ってるからあそこに行く必要が無いんだ。
マイドの心の中に、あの懐かしいユーマシティの光景が広がって行った。
でも、また行ってもいいかもしれないな。あそこは本当に心が休まる場所だから。
今度メイを誘ってお弁当もって丘の上にハイキングに行ってみようかな。確かそれくらいのエリアまで作ってあったはずだ。
そして、マイドは気がついた。
「ヴァル! あそこにリゾートホテルのような施設は作れないかい?」
『リソートホテルでございますか? 作ろうと思えば作れないこともございませんが……いったい何を?」
マイドはにやっと笑った。
「ユーマシティをバーチャルリゾート地として売り出すんだ、あの空間全体をテーマパークのようにして、アクセスしてくる人にサービスを提供するんだ、低料金でね」
『それは……確かにできないこともございませんが、私の作るNPCだけではとてもサービスに手が回りません』
マイドはにっこり笑った。
「だったら、アウトニアの国民たちにキャストになってもらおう、アウトニアのすばらしさをゲストに知ってもらうんだ、そうすればその人たちはアウトニアの味方になってくれると思うよ」
『そうですね、それなら大丈夫です』
「それに、もしネオ・アウトニアが戦火にさらされるとしたら、非戦闘員の安全も確保しなくちゃならない。パラネットの空間は意外と使い道があるかもしれないな」
『避難所ですか?』
「ああ、意識の避難所さ……あとは身体の避難所があればいいんだ」
ヴァルはにこっと笑った。
『病院船についてミィ女医にご相談してみましょうか?』
「そうだね」
マイドが一つの解決策にたどりついたそのとき、メインコンソールにケルプが映った
「マイド!敵の侵攻が始まったぞ!」
「なんだって?」
『拠点監視衛星の周辺に戦闘艦が次々に転移してきているんだ』
「わかった、すぐにブリッジに行く」