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 第9章 

その日、ネットニュースに流れた映像に、誰もが驚愕した。

それは、マイド・ガーナッシュによるアリクレスト皇帝に対する宣戦布告だった。



青地に白と赤のハサミをあしらったアウトニアの紋章が描かれたタペストリーが下がっているその前に、白いアウトニア王国軍の礼服を着て、マイドは静かに立っていた。

やがて、目を開けたマイドは静かに言った。

マイドはゆっくりと右手を上げた。

右手が指し示すそこに、帝星ブックスが現れた。

帝星ブックスの映像は、燃え上がる帝国王宮の映像に変わった。

マイドはゆっくりと正面を向いた。

マイドは言葉を切ると再び目を閉じた。

そして一呼吸ほど過ぎたとき、マイドは目をあけた。

その目は力強く見ている人間の目を正面から見つめていた。

マイドは自分の言葉が行き渡るのを待つように時間を取ってからゆっくりと続けた。

マイドはゆっくりと付け足した。

そして、マイドは声を上げた。

そして、マイドは黙った。

二呼吸ほどしてから顔を上げたマイドは静かに、そして力強く言った。

そして、マイドは笑った。

実にさわやかにマイドは笑った。

身にやましいことが何一つ無いかのように笑った。

それは、絶対にアリクレストにはできない笑い方だった。



このニュースファイルが帝国の中に引き起こした変化はほとんど無かった。

それはほとんど表に出なかったという理由もあるが、内容があまりにも大きすぎて見た人間がどう対応していいのかわからなかったからだろう。

その点において、このニュースファイルの存在はアウトニアファイルと似ていた。

見た人間の意識を変えてゆくという意味においても、それはアウトニアファイルとよく似ていた。

しかし、このファイルは帝国軍の中に対しては劇的な反応を引き起こした。

惑星シードクロスの前進基地の指揮室では、ネオ・アアウトニア討伐軍総司令長官が。口から泡を吹いてわめきちらしていた。

淡々と状況を説明するサイトウ中佐に司令長官は噛み付いた。

総司令官は気を取り直したように聞いた。

総司令官はうなり声を上げた。

……正解。

サイトウ中佐は口に出さずに心の中で拍手をした。

モニターに映る数字を見て総司令官の顔色が良くなった。

……ならいいんだけどな。

サイトウ中佐は再び声に出さずにそう言うと、モニターを切り替えた。

モニターに映ったのは若い魅力的な女性だった。

総司令官は感嘆交じりの声をあげた。

総司令官の顔がほころんだ。

サイトウ中佐は、その言い方が気になった。

サイトウ中佐は目いっぱいの不安を抱えながら控え室に向かった。

控え室ではコットンが待っていた。

サイトウ中佐が、困ったように言った。

コットンはため息をついて肩をすくめた。

コットンはサイトウ中佐に好意を持った。

……帝国の参謀もこういった人ばかりだといいんだけどな。



そして、次の日バリアン星系軍に対し、帝国の応援を待たずして、全軍突撃するように命令が下った

この命令を下した帝国軍総司令官の右頬に赤い手の跡があったという証言があったがその点については定かではない。



バリアン星系軍の旗艦である重巡航艦ディブランのブリッジでは、コットンが憮然とした顔で中央の指揮官席に座っていた。

バリアン星系軍の参謀がそう言うと、コットンは顔をしかめて言った。

コットンは半目でにらんだ。

コットンはため息を一つつくと、コンソールに身を起こした。

参謀が真面目な顔をした。

参謀がそこまで言ったときコットンが言葉をさえぎった。

参謀は食い下がった。

コットンは静かに言った。

バリアン星系軍の艦隊は次々にタンホイザーゲートをくぐり始めた。



帝星の片隅にあるその別荘は、ほとんど知られていなかった。

マルス家の広大な敷地のその中にある別荘のことを知っているのはマルス家の中の一握りの人間だけだった。

別荘の一室から老人の叱責する声が聞こえて来たとしても、それを耳にする人間はほとんどいなかった。

スクリーンの中のアリクレストは少し頭を下げて言った。

ジュメイは、アリクレストが平静なことに少し驚いたような顔をした。



その頃、ネオ・アウトニアのアルファドームにある指揮室のコンソールで通信を受けていたマリリンは声を上げた。

スクリーンの中でうなずいたのは、ABC商会の代表電子人格のゼイムズだった。

そのとき、部屋に青ざめた顔のメイが飛び込んできた。

モニターの中のゼイムズが気の毒そうに言った。

メイは胸の前で両手をぎゅっと握り締めると、震える声で言った。

マリリンは黙ってコンソールを叩いた。

モニタースクリーンに映った画面を見てマリリンは言葉を失った。

メイが泣く様な声で叫んだ。

マリリンはぴしりと言った。

泣きそうな顔にななってメイはうなずいた。

マリリンは目の前にあるコンソールを指差した。

メイはシートに座ると、真剣な顔をしてコンソールのキーを叩き始めた。

その姿を見た後で、マリリンはゼイムズに向き直った。

画面の中のゼイムズの顔が青ざめた。

マリリンは真剣な顔でゼイムズを見た。

ゼイムズはしばらく考え込んでいたが、やがてにやっと笑って言った。



ケルプワイン海賊団の旗艦のメインブリッジで、マイドはその知らせを聞いた。

横に立つヴァルが心の底からすまなそうに言った。

マイドは黙り込んだ。

そして、一言言った。

ヴァルは黙って一礼した。

それは、賛同を意味する仕草だった。

ヴァルは微笑んだ。

ヴァルはため息をついた。

ヴァルの言葉を聞いて最近あの空間を訪れていないことにマイドは気がついた。

……そうか、現実の世界でメイと会ってるからあそこに行く必要が無いんだ。

マイドの心の中に、あの懐かしいユーマシティの光景が広がって行った。

でも、また行ってもいいかもしれないな。あそこは本当に心が休まる場所だから。

今度メイを誘ってお弁当もって丘の上にハイキングに行ってみようかな。確かそれくらいのエリアまで作ってあったはずだ。

そして、マイドは気がついた。

マイドはにやっと笑った。

マイドはにっこり笑った。

ヴァルはにこっと笑った。

マイドが一つの解決策にたどりついたそのとき、メインコンソールにケルプが映った