我はいや高きエクスカリバー
相応しき王の佩刀と成らん

  偉大なるブリテンの選王、今は彼方の地アヴァロンに住まう。 ユーサー・ペンドラゴンの子アーサー。 彼方、古の時、王者の腰に佩かれし剣。 二つ名はキャリバーン。 その名を知らぬは、それを手にする者ただ一人。
  王たる者が佩くべき、その剣。 死体漁る手には余りましょうに…

王たる故の力を尽くし、ペンドラゴンが手中となったは見目麗しくも気高き貴婦人
影に身を潜める裏切りの痕跡は、己の手にて命断ち切った者の血にまみれた子。

 

失われし魂、産まれいづる子、次代の王。 彼の名はアーサー、北天に輝く大熊の星。
散り去りし心、更なる殺戮、広がりゆく影。 その者の名は神より遠ざかる者、殺人の祖。

 

ペンドラゴンより受け継ぐものは、偉大なるブリテンの王の座。 掌の国もつ運命の遍歴。
薄く脆い商人の仮面が残したものは、忍び寄る闇。 影に潜み続ける宿命の惑い。


...CALIBURN...

  王者を証立つる誉れを受けし栄誉の柄、下卑の手は触れることすら侭ならず。 その身を引き抜き得る者は唯一人。 台座を動かず、ただひたすらに主となるに足る者を待ち続け。 器になき手を拒み続け。

 

夥しきは この刃にかけし サクソンの血
名を紡ぎ続く プリウェンの楯の聖なる乙女
右手に掲ぐは槍 ロンゴミアンド
共に貴奴等を大地に沈めし記憶は 遥かに 遠い

  二つに折れてなお湖の女王により王が手に帰りし御身。 今にして名すら知られぬ持ち手の嘆かわしく。 血に流され血に溜る首狩りの術となるは痛ましく。 まして今の持ち手は、主が敵と戦いしサクソンの末裔。

刃 血をもて紅に染めよ
主の元へと この身を返せ

  今や台座となるは冷えゆく屍。 今の戦いは、国築き上ぐる大地を賭けた誇り高き戦でなく、ただ今日の糧を明日の糧を得んがため、人が人狩る殺し合い。 今、吸い続けるは、互いに貪り合うばかりの、人の姿したけだものの血。

  街の暗がり。 血よりも濃くすえた匂いの立ち込む狭き道より、主が傷癒す聖なる島はあまりにも遠い。



  ただ一つ。

  懐かしくも栄誉と映るは、金雀枝の花の色した金の巻き毛揺らす微笑。 天使の羽毛か。 約束の地へと導く戦乙女の栄光か。

  妖精の黄金であるのなら。

連れて行っておくれ、主のおわすアヴァロンの地へ。

  さあ卑しき者、かつてベディヴァが欲に目をくらませ二度の躊躇の後にそうしたように。 三度目に至り海原に向け剣を投げよ、妖精の手に剣を渡せ。 星を月を光を失いし空を映し沈む濃紺の海原より、波頭の泡立つ白き腕よ、この身を掴め。 妖精の手へ。 娘の手へ。 譲り渡せ。

  アーサーは死出の旅へと赴いたのではなく、妖精の王国にてその身を休め、来たる日ブリテンを取り戻すための戦に備えているのだと、古の詩人は語り継いでおります。 ならばその剣を奪った者は、剣を残し、何処へと立ち去ったのでしょうか。 聖なる剣は知るも知らぬも、今の持主にすら、何ら語る術をもちません。


...Hic jacet Arthurus, Rex quondam, Rexque futurus...

  キャリバーンの画像は、実物の制作者兼撮影者であるほーば様の許可を得、写真を取り込み加工したものです。 使用の許可をくださった広い御心に感謝の言葉をお送りします。

第三夜 夜想曲 音楽院