...Cabo da Roca...


  時おり霧のような雨粒が、乾いた大気に晒された髪に皮膚に服に纏りつく…その地を訪れたのは夏の南欧らしからぬ空の下。 彼方の水平線は灰色の雲との境を失い、足元の大地に近付くに連れ碧を増し波音を響かせておりました。 恐らく太陽の光降り注ぐ晴れ渡るかく在るべき日には、水平線はやはり空の青との境を失うのでしょう。

  ロカの岬、ユーラシア大陸西の最果て。 その響きに惹かれるのか。 それとも縁は人を呼び寄せるのか。 ただ石碑が立つばかりでありながら、人の姿があまりにも多く見受けられる場所。 けれど人の姿あるは、この大地の上。 切り取られたかのような絶壁、正に地と海との境界。 よく見れば、あまりにも大地に近い波間に揺れる小舟が一槽。 そしてまた一槽。 海の恵みを得ていたのでしょうか。 自らのほんの傍らにある者には、海は斯様に慈悲深く… 

  空との境を失った海は、けれど人を拒絶するように大地との境を設け、彼方の水平線より吹き付ける、ただ風。 風が起こす波の音。 其処に在るを望んだ緑もまたしっかりと地に根を這わせ、その身に吹き付ける風に耐えておりました。 風だけが大地と大洋とを繋ぎ留める場…そしてその風に乗り、六百年の時の向こう。 今、人々が大航海時代と呼ぶ、ポルトガルの歴史の際たる輝きの時。 最果てを果てとせず境界を越え境を破り、何も得られぬやもしれぬ、そして自身を飲み込むやもしれぬ海、人の在るべきでないその場。 不安を希望と呼び自らを奮い立たせ、死神の差し出す手を振り払うかのように帆を張り、風に波に煽られながら果ての向こうの更なる彼方を目指し… 赴いた者の心を解り得る者が、今の世に果して居るものか。 見送る者の心を解り得る者は、今の世にも居りましょう。

  では闘いを終えた者は。 正にこの最果ての地に立ち、ただ太陽を見上げるばかりの戦士は。 彼方の境に見やるものは、各々に違っていたはず。 けれど吹き付ける風は無情にも、どの者にも同じ香りを運び。 次に待ちかまえる運命すら、また等しく。 そして最期に訪れる運命もまた…  深く命の水をたたえ海原は斯様にも藍く。 藍を紅へと望むも愚かなこと…

  目の前に在るは、ただ境界  生命を創り出した海と  生命が姿変えいった大地との 

...De ondo veio...? ...Aonde vai...?