・・・・・・・時に2015年。

これは第三新東京市のとある一軒家にお住まいの、ちょっぴり気が弱い美形の少年と

また第三新東京市のとある一軒家にお住まいの、気が強い栗毛青眼の美少女と

これまた同じく第三新東京市の一軒家にお住まいの少々MADな科学者をめぐる、

汗と、涙と、感動の物語り・・・・・・・・・・かもしれない。

 


ばっく←←

とぅ

ふゅ〜ちゃ〜♪

 

カチ、カチ、カチ、カチ・・・・・・・・・・

 

そこは部屋中にものすごい数の時計に満たされている空間だった。

 

カチ、カチ、カチ、カチ・・・・・・・・・・

 

響くのはその時計の針が動く音。

 

カチ、カチ、カチ、カチ・・・・・・・・・

 

その時計と言うのがものすごくマニアックで、全て猫をかたどった形をしていた。

『世界の猫時計』と言うフレーズがこの部屋に最も合う言葉だろう。

時計マニアなのか、それとも猫マニアなのか。

良く見ると部屋中が猫の製品や壁紙、写真と言った製品で埋め尽くされているので、おそらく後者だろう。

時計は二の次と言ったところか。

 

ガチャ・・・・・・・・・ウイイ〜〜ン・・・・・・・

 

タイマーセットされていたのか、その部屋に満たされている猫グッズのさまざまな機械が、一斉に動き始めた。

しかしどうも様子がおかしい。

コーヒー入れは、カップがどこかへ行っている為、黒い液体を床に垂れ流し、

食パンを焼くためのトースターは何度も焼かれているためか真っ黒になっているパンを飛び出させる。

タイマーセットされた自動餌やり機とでも言うのであろうお手製の機械は、

もはや餌であふれている『カスパー』と書かれた器にキャットフードのカンズメをぶちまけていた。

そう・・・・・・・その部屋には人っ子一人いる気配がないのだ。それもここ最近ずっと。

そして無尽の空間に聞かせるように、テレビがタイマーで作動した。

 

『・・・・ガチャ、ニュースの時間です。

 先日、科学研究所でプルトニウムが盗まれたと言う事件についてですが、研究所側はそれを否定しており・・・・・・・』

 

なにやら物騒なニュースが流れる中、その部屋に一人の少年が訪ねてきた。脇にはスケートボードを抱えている。

 

「・・・・・・・リツコさん?リツコさ〜ん?」

 

どうやらこの部屋の管理者はリツコと言うらしい。

 

「お〜い、リツコさ〜ん!」

 

少年は少し声を大きくして叫ぶが、その声はむなしく無人の部屋に消えていった。

「・・・・・・・・いないのかな・・・・・・・・機械は動きっぱなしなのに・・・・・・・」

溜息をつきながら辺りを見回して部屋に入ってゆく少年。

「・・・・・・・ったく・・・・・・ここ一週間雲隠れしていったいどうしたんだろう・・・・・・・・・ん?」

愚痴を言いながら周りを見回す少年の目に、壁に掛かっている一つのチェロが映った。

いろいろ改造してあるようで、所々機械やらプラグやらがついている。

隣にはやたらでかいアンプがデン!と置いてあった。

「・・・・・・へえ、チェロとアンプを組み合わせたのか・・・・・・・・面白そうだなぁ・・・・・・・どれどれ。」

少年は好奇心からそのチェロを手にとって、アンプへ続くプラグを差し込んで電源を入れた。

 

ウィンウィンウィンウィンウィン・・・・・・・・・

 

アンプの巨大スピーカーからそんな音が聞こえてくる。

「・・・・・・??ボリュームはどこで調節するんだろう?つまみが無いや・・・・・・・・・」

アンプのコントロールパネルをじろじろ見ながら少年は首をかしげた。

「・・・・ま、いいか。よ〜しっ・・・・・・」

弓を持って弦にあて、少年は唇を軽く濡らして目を閉じた。

そして、心穏やかに少年はその弓を動かした・・・・・・・

 

ぐぉぎゃあああああんんん!!!

 

ぎええええええええええええ!!!!

 

期待していたのとは裏腹に、アンプから飛び出たのはすさまじい音波。

一気にアンプのスピーカーは爆発し、窓に張られたガラスはことごとくぶち割れ、

少年はチェロを持ったまま5Mほど、辺りに置いてあった小物と共に後方へすっ飛ばされて本棚に激突した。

 

「ギィアアアアアアアア!!耳が、耳がアアアアアアアアアア!!!!」

 

両耳を抑えてのた打ち回る少年。

すさまじい衝撃と痛みが走ったようだが、幸い血が出ていないので鼓膜は破裂していないようだ。

「うう・・・・・まだキンキン耳鳴りがするうぅ・・・・・・・・・」

両耳を抑えて頭を振る少年。ふとアンプを見ると、爆発してしゅ〜しゅ〜煙を上げながらボロボロになっている様がそこにあった。

「・・・・・・・参ったな、こりゃ。」

苦笑いを顔に貼り付けて少年は呆然とする。

 

にゃ〜、にゃ〜、にゃ〜、にゃ〜・・・・・・・・・

 

そこに脱力するような猫の声が鳴り響いた。

「・・・・・・・・電話だ!!」

・・・・・・・・どうやらこの家の電話の着信音は全てが猫の鳴き声らしい。

散らかった部屋をがさごそあさって、少年はやっと鳴き声を発している卓上電話を発見して、その受話器を取った。

 

「もしもし。」

 

その少年の発言に答えたのは、大人の女性の声だった。

「シンジ君!?」

「リツコさんですか?」

どうやらシンジと言うらしいその少年が、電話の向こうにいる人物の声に反応して受話器を持ち直す。

 

「いったいどうしたんですか?ここずっと雲隠れしてて・・・・・・・・心配したんですよ?カスパーはそっちにいるんですか?」

「ええ、私といっしょにいるわ、心配かけてごめんね。とてつもなく凄い実験の下準備をしていたのよ。

 所で今日の・・・・・・と言うより明日ね。夜中一時にNERV・モールに来てくれるかしら?

 実験のための助手が要るのよ。」

「実験!?夜中の1時にですか!?・・・・・・解りました。NERV・モールですね?

 しかしこっちも何とかしたほうがいいですよ?機械動きっぱなしでしたけど。」

シンジが周りを見まわす。

「・・・・・・・・そうそう、機械で思い出したわ。巨大アンプ付きのチェロはもう弾いてみたかしら?

 とてつもなく衝撃の走るファンキーなサウンドが楽しめるわよ?」

受話器の向こうから聞こえるのは、とてもウキウキワクワクとした悪戯っぽい声。どうやらすでに弾いている事は確信しているらしい。

「・・・・・・・ええ、すでに体験させて頂きましたよ。ファンキーと言うよりクレイジーと言ったほうが適切だと思いますよ?」

皮肉っぽく喋るシンジのこめかみには血管がピクピク浮き出ていた。

 

・・・・・・・・・人の鼓膜割る気か?こいつは。

 

シンジの思考はこんな所だ。

「ああ、言っとくけど、私が悪いなんて思わないでね?人の家のものを勝手に使う貴方が悪いんだから。」

シンジにさらに追い討ちをかけるリツコ。そのとたん一斉に猫の泣き声が響いた。

 

にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ・・・・・・・・・・・・

ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア・・・・・・・・・・

にゃお〜ん、にゃお〜ん、にゃお〜ん、にゃお〜ん、にゃお〜ん、にゃお〜ん・・・・・・・・・・・

 

力いっぱいステレオである。8時にセットされた猫時計が一斉になり始めたのだ。

 

「だああああああああ!!もう音波は止めてええええ!!」

 

耳を抑えながら再びのたうち回るシンジ。

ボリュームは先ほどのものに比べて少ないが、何より耳障りでうるさく、神経に障る。

「この素晴らしい声達は・・・・・・・・もしかしたら私の部屋の時計かしら?」

どこらへんが素晴らしいんだよ!!とのたまいたかったがそんな余裕はないのでひたすら肯定するシンジ。

「やったわ!実験成功よ!!しっかり25分遅らせて全て時計を鳴らす事に成功したわ!!」

受話器の向こうで勝ち誇るリツコの声にシンジは凍りついた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!ってことは・・・・・・・・今8時25分ですか!!?」

 

その声はマジですかとばかりに震えている。

「そうよ。これでまた遅刻ねシンジ君。しっかり怒られていらっしゃい。」

「何で雲隠れしてたのにそんなこと知ってるんですか!!・・・・・・っていってる場合じゃないな。それじゃあ、今夜1時に!」

そう言ってシンジは慌てて受話器をきり、持参していたスケボーに乗って外へ飛び出した。

 

「遅刻だああああああああ!!!」

 

シンジの悲痛な叫びが空に木霊した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

「何?またあんたリツコにはめられたの?」

「うう・・・・・・・アレは絶対に確信犯だよ・・・・・・」

 

私立第一中学校の教室。

シンジは、栗毛青瞳の少女と駄弁っていた。

「おかげで未だに聴覚が変だわ四連続で遅刻するわ冬月先生に叱られるわ・・・・・・・・」

シンジが大きな溜息をつく。

「ホント、冬月先生が言ってたように、リツコといいかげん縁をきったらどう?」

少女の言葉にシンジは軽く首を振った。

「・・・・・それは駄目だよ、アスカ。リツコさんもああ見えて根は結構いい人なんだ。アスカだって知ってるだろ?

 昔、アスカが高熱出して寝込んでた時に必死に看病だってしてくれたし。いろいろ助けてもらってるんだから。

 それを簡単に縁を切るなんて・・・・・・いや、切る切らない以前にそう軽視するべき問題じゃないんだよ。人との付き合いって。」

シンジが真剣な眼差しでアスカと呼ばれた少女を見つめた。

「・・・・・・・・・・・・・・ふぅ、まったく、アンタってお人好しよね・・・・・ほんとに。」

そう言ってアスカは軽く溜息をつく。

・・・・・・・ま、そんな所が好きになったんだけどね・・・・・・・・

少し顔を赤らめ、小声で呟くアスカ。

「えっ?何か言った?」

鈍感にも頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げるシンジに、アスカはやれやれと言った感じで微笑んだ。

「アンタがリツコばっかりに構ってると・・・・・・・・嫉妬する人間がいるって言ってるのよ。」

そう言って、アスカは甘え気味にシンジの胸に顔をうずめる。

「・・・・・・ごめんね?」

シンジは胸の中にいるアスカの頭を柔らかく撫でながら優しく微笑んだ。

「・・・・・・・バーカ。」

アスカがシンジの喉元に鼻をこすりつける。

・・・・・・・そして二人の間にラブラブな空間が形成された。

 

 

 

「・・・・・・・おい、碇・・・・・・お取り込み中のところ悪いんだけどさ。」

 

 

 

そこを無謀にも一人の男子生徒がシンジの肩を恐る恐る叩く。

 

「「何!?」」

 

ラブラブフィールドに進入してきた男子生徒を凄まじい形相で睨み付けるシンジ&アスカ。

視線で人が殺せたら。そんなドロドロの殺意が呪いのレベルで塗りこまれた視線がひしひしと男子生徒に突き刺さる。

蛇に睨まれたカエル。直立不動。バロールの魔眼。メドゥーサの瞳。邪眼と言っても過言ではない。

男子生徒は悲鳴を上げることも叶わず、カチカチと歯を鳴らしながら石になっている。

「あ、ああ、あ、あの、オ、オオ、オ、オーディションが・・・・・・は、始まる・・・・・んです・・・・け、けど。」

 

殺される。何か言わないと殺される。様も無いのに呼んだのかって殺される!

 

彼の思考回路はそう判断したのだろう。恐怖で歯をガチガチ言わせながら彼はそれだけ呟いた。

「あ、そうだった。確かチェロのオーディションを受けるんだった!」

思い出したように手をぽんと打つシンジ。

「それじゃあ早く行かないとね。応援してるわ、シンジならきっと出来るわよ!」

「そうかな?・・・・・・・結構レベル高いらしいからなぁ・・・・・・・・」

自信なさげにうつむくシンジ。

「しょうがないわねぇ・・・・・・・・元気の出るおまじないよ。」

アスカはそう言って自分の唇をシンジのそれに押し付けた。

「あ、ありがとう、アスカ。」

そう言って顔を赤くしながら頬をぽりぽり掻くシンジ。

「ほら、早く行くわよ!!」

アスカはそう言ってシンジの手を引き、体育館へと走っていった。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・こ、こ、こ、怖かったよおおおおおお!!!!」

 

シンジの肩を叩いた男子生徒が泣き崩れて膝をつく。

「お前、勇気あるぜ!!尊敬するよ。」

「良くあそこに割って入れたもんだ。」

「素晴らしい!!あんたは正しいことをしたんだ!」

 

パチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・

 

辺りからそれを見ていた生徒たちの拍手喝采が響き渡る。

その後、その男子生徒は一気に人気者となったと言う。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・次、碇シンジ。」

「は、ハイ!」

緊張しながら返事をするシンジ。

「頑張って!」

「うん!」

そう言ってシンジは舞台に上がってチェロを手に取った。

「それでは・・・・・・・いきます。」

そして・・・・・・・心静かに弓を弾いた。

 

♪〜♪〜♪♪〜♪〜♪♪〜♪〜〜♪〜

 

シンジの奏でるチェロの音は、繊細で優美な雰囲気があるクラシック曲だった。

 

♪♪〜♪〜〜♪〜♪〜♪〜♪♪〜♪〜

 

しかし、審査員はあまり良いと思う顔はせず、一人が回りを見渡してメガホンを取る。

 

「あ〜、もう結構。確かに良いと思うが、今ではそういうのは流行らないよ。

 このオーディションの主旨は、売り出すことが出来る者を探す事だ。君は演奏会にでも出たほうが良い。ここではあまりにも場違いだ。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

「・・・・・・ったく、何よあいつ。シンジの良さがぜんぜん解ってないじゃない!ホント、頭くるわ。」

イライラしながらシンジの横を歩くアスカ。

「いや、いいんだよ。あのオーディションに参加したこと自体がそもそもの間違いなんだ。所詮僕には実力が無かったって事さ。」

そう言って溜息をつくシンジの前にアスカは素早く回り込む。

「そんな事無い!!シンジのチェロの良さはあたしが一番良く知ってるもの。あの審査員の耳が腐ってるのよ!!

 ちゃんとした所に出してみれば良いじゃない!プロならきっと解ってくれるわ。」

「・・・・・・でもね、アスカ。そのプロの人に面と向かって駄目だ、って言われたら

 きっと僕は立ち直れ無いよ。・・・・・・・怖いんだ。僕にはそんな勇気は無いよ。」

深い溜息をつくシンジを見て、アスカはイライラしたように頭を掻きむしった。

「あ〜!もう!!この話やめっ!!ウジウジはやめっ!!・・・・・・もう、こんな空気、明日のキャンプに持ち込まないでよね!?」

シンジとアスカは明日の夜、二人きりでキャンプに出かける事になっていた。

「おばさんは知ってるんでしょ?この事。」

「・・・・うん。アスカと二人きりでキャンプに行くって言ったら、母さん妙に乗り気になってて・・・・・・・

 『でかしたわ!!シンジ!!男の子はやっぱそうでなくちゃ!!』って目をぎらぎら輝かしてたよ。それで・・・・そのぅ・・・・・・・」

シンジがそこで言いにくそうに頬を染めて言いよどむ。

「・・・・それで?」

 

「・・・・・その・・・・・それで・・・・・・・『ちゃんとオ・ト・ナの男になってくるのよっ♪女の子に恥はかかせちゃ駄目よ?』って・・・・・・・・・」

 

その台詞と共に、二人の顔が真っ赤に染まった。

「・・・・・・・・お、おばさんも困ったものね・・・・・・・・は、はは・・・・・・・・・・」

「・・・・・う、うん・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

二人の間に沈黙が続く。

 

「ちょっとそこのお二人さん、時計台の維持、修理のためにカンパしてもらえませんか?」

 

そこに、一人のおばさんが割って入ってきた。

ここには、15年前の落雷によって針を止めた時計台が存在する。

おばさんが言っているのはその時計台のことだ。

 

「有名な15年前の落雷により、その時を完全に止めてしまった歴史的遺産を、橋覗市長が処分しようとしているのです。

 この時計台は130年前、つまり1885年前に町へ送られた歴史的遺産であり、

 2000年まで、つまり115年前間、ずっと正確に時を刻み続けていました。

 それが2000年9月13日、落雷が時計台に直撃し、壊れてしまいました。

 この歴史的遺産を守るために、私達、時計台破棄防止運動委員会は日々、皆様の署名とカンパを集め・・・・・・・」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいおばさん。カンパします、しますから!」

 

寄付した資金を集めている募金箱をシンジ達に押し付けながら、一気にまくし立てるおばさんに、シンジはついに折れた。

後ろのポケットから財布を取り出し、中から5百円玉を取り出す。

「ハイ、これで良いでしょう?」

そう言って5百円玉を募金箱の中に入れた。チャリンと言う音がして募金箱がコイン一枚分重くなる。

「どうもありがとう御座います。こちらのチラシに時計台についての詳細が書かれているのでお納めください。」

そう言って、おばさんは一枚のチラシをシンジに押し付けて去っていった。

 

「・・・・・・凄い・・・・・・・・ああやってカンパ集めてるんだなぁ・・・・・・・・」

再び次のターゲットを見つけ、募金箱をジャラジャラさせて迫るおばさんの姿を見つめながら、シンジは呆然と呟いた。

「・・・・・・・・アレが・・・・・・ベテランって奴なのね・・・・・・・」

アスカもその姿を呆然と見詰める。そしてしばしの沈黙が流れた。

 

「・・・・・・・そっ、そうだわ!車はどうなの?ちゃんと借りれる事になったんでしょうね?アレが無いと全ておじゃんよ!?」

「あ、う、うん。明日、明後日は使わないからってちゃんと借りる事が出来たよ。オートマチックの軽自動車だけど。

 いつかカッコ良い4WDに乗ってみたいよねぇ・・・・・・・」

 

今の時代、交通ルールがあまりに不甲斐無い為、小学校、中学校では交通ルールの徹底教育が義務付けられている。

その中に、『自動車の操作』と言う項目があった。これに合格すると、親の許可する範囲ならば車を運転しても良いと言う物。

つまり、制限が多いが学校で自動車研修が受けられるのである。

シンジは、アスカを乗せてドライブしたいと言う一心で、その研修に一発合格したのだ。

もともと、シンジは運動神経は高いほうである。

移動用にスケボーを持ち歩いているし、幼馴染のおてんばアスカと一緒に遊び回っていたので人並み以上の運動能力があった。

 

「よっし!!それじゃあ、何かあったら電話して。今日はおばさんの家に泊まってるから・・・・・そうね、それ貸して。」

そう言って、アスカは先ほど貰ったチラシをひったくって、ペンを取り出した。

チラシの裏にペンを走らせ、再びシンジに手渡す。

「電話番号書いといたから。それじゃあね、シンジ♪」

シンジの頬に口付けして、アスカは手を振り去っていった。

 

シンジの手に残されたチラシ。

「・・・・・・・・・・愛してる、か・・・・・・・・・」

そこには電話番号と「愛してるわ、シンジ♪」の文字があった。

しばらくそれを見つめて顔を赤らめていたシンジだが、やがていそいそとそのチラシを懐にしまいこみ

荷物の入ったカバンを持ち直してスケボーに飛び乗った。

 

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・

 

「・・・・・・・・・・なんてこったい。」

 

シンジの目の前に映るのは、明日キャンプで乗っていくはずだった自動車であった。

そう・・・・・・・「はず」だった・・・・・・・・・・・・

シンジの今目の前にあるそれは、フロントガラスが蜘蛛の巣状に割れ、エンジンがグシャグシャに潰れ、

フレームが変な方向へ折れ曲がっている。

そしてその上には・・・・・・・煙をシュ〜シュ〜上げながら表面が少し解けている直径60センチほどの岩が乗っかっていた。

そう・・・・・・・隕石である。

「・・・・・・・・・・お〜まいがっ。」

もはやシンジは思考能力が停止していた。

 

宝くじすらぜんぜん当たった事無いのに、一体どうすれば隕石なんて落ちてくるんだよ。

しかも明日どうしても必要なんだよ? この車はさ。

アスカに何て言えばいいのさ・・・・・・神様、チョッチおたくを惨殺したいくらい憎悪に駆られてるよ? 僕は。

 

しかしそんな考えを張り巡らせたところでお天道様は馬鹿にするようにギンギラギンと輝くだけだ。

学校の研修免許ではレンタカーを借りることは出来ない。

『対象者は万が一の時の賠償が出来ない為、乗用が可能な車は保護者が対象者に許可した、保護者の保有する車のみである。』

気にも止めなかったこの12項9条の項目が、今では恨めしい限りである。

 

とりあえずこうしていても始まらない。アスカに連絡しなくては・・・・・・・

シンジは心のそこから深い溜息をついて、玄関の扉を開けた。

「ただいま〜。」

「お帰りなさい。車、残念だったわね・・・・・・・・」

シンジの声に答えたのは、エプロンをつけたショートカットの女性。

碇ユイ。シンジの母親である。

「アスカに電話しなきゃ・・・・・・・・がっかりするだろうな・・・・・・アスカ。」

俯いて溜息をつきながら呟くシンジの背中には哀愁が漂っている。

「保険、おりるみたいだからそのお金で新しい車を買うつもりよ。でも急いでもそれまで1ヶ月はかかるから・・・・・・・キャンプは1ヶ月先ね。」

「・・・・・・・・・その頃にはもう夏が終わっているよ。」

「そうね・・・・・・・・本当に運が悪いわね。ゲンドウさんも車が無いとお仕事出られないから1ヶ月有給休暇取ったのよ。

 今まで溜まってた有給休暇ほとんど使っちゃうんだって。本当に運が悪いわ・・・・・・誰か悪いことでもしたかしら?」

シンジはその呟きに苦笑いしながら、壁にかけてあるコードレス式の受話器を手に取った。

 

ピッポッパッポッピッピッパ・・・・・・・・・・・・・トゥルルルルルル・・・・・・・・・トゥルルルルルル・・・・・・・・・

 

帰ったばかりなので、とりあえずアスカの家にかけてみる。

 

ガチャ

「ハイ、惣流です。」

予想通り、アスカはまだ家にいた。

「ア、アスカ?僕、シンジだけど。」

「ああ、シンジ? 一体どうかした? 声震えてるけど。」

・・・・・・・・鋭い。

っと言うかシンジが素直すぎるのだろう。

ウソをついてもすぐばれる。

「あ、あのさ・・・・・・落ち着いて聞いて欲しいんだ。とてもとても大切な事なんだ。

 実は・・・・・・・明日のキャンプの事なんだけど・・・・・・・・・」

シンジが言いにくそうに口篭もる。

アスカの落ち込んだ顔は見たくない。第一、隕石が車に直撃したなんて、一体誰が信じるだろうか?

最悪、「シンジ、アタシとは行きたくないから、アタシの事が嫌いになったからそんなウソついてるのね!?」なんて疑われかねない。

そんな事になってアスカとの関係が壊れてしまったらきっと僕はこの先、生きて行けない。

チクショー!! そうなったらホワイトハウス襲ってICBM世界各国に送り込んで放射能撒き散らして焼身自殺してやる!!

 

「・・・・ジ・・・・・ンジ・・・・・シンジ!!?」

何処からか聞こえるアスカの声に、僕は現実の世界へ舞い戻った。

「ハッ!! ああ、アスカ、ごめん。ちょっとボーっとしてたよ。」

「まったく、しっかりしてよね? それで、明日のキャンプがどうかしたの?」

受話器の向こうからアスカの呆れたような声が聞こえる。

握り締める受話器にこもる力が強くなった。

言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、

言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ、言わなきゃ駄目だ!!!

心の中で呪文を唱えて、僕は大きく深呼吸した。

「アスカ・・・・・実は・・・・・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

 

「シンちゃん!!? 駄目よ、早まっちゃ!!

 って言うか何処から出したのそのコルト製パイソン357マグナムシリンダー改造ライフル弾掃射仕様の偽マキシンは!!?

 そんな危ないの撃ったら腕がへし折れるわよ!? 銃刀法違反で逮捕されちゃうわよ!?」

「離してよ母さん!! これでホワイトハウス襲撃して世界中にICBMばら撒くんだぁ〜〜!!!!」

「そんな事したらアスカちゃんも死んじゃうわよ!!」

「だったらせめてこの六発連結圧縮ダイナマイトシンちゃんカスタム『明日を吹っ飛ばせ』でホワイトハウスを木っ端微塵にしてやるぅ〜!!!」

「ホワイトハウスから離れなさい!! そんなことしたら戦争が勃発するわよ!!?

 それにそんなもの作っちゃいけません!! 私はそんな子に育てた覚えは無いわよ!!」

「チクショォ〜〜!!だったらこの場で頭撃ち抜いてあの世へ逝って

 神様を僕の『シンちゃんチャリオッツ』で針串刺しの刑にしてやるぅ〜〜!!!」

「シンちゃん何時から戦車の暗示のスタンドなんか憑いたのよ!! とにかく早まった事はしちゃ駄目〜!!」

 

・・・・・・・・・・・・何が起こってこうなったかは言うまでも無い。

アスカがシンジの話をウソだと思って激怒したのである。

喋る時に緊張で震えて声がどもっていたためウソだと思われたのだ。

絶交とまでは言われてなかったが、シンジにとってはアスカに嫌われる事=死刑宣告と同義なようだ。

 

「どうした? 騒がしいぞ?」

 

そこにチョッチ機嫌が悪そうな声が響く。

さあさあやって来ました一家の主、濃い顎鬚と赤フレームのサングラスがキュートでチャーミングな碇ゲンドウ氏である。

車が壊れてフテ寝していたのか、脇に巨大シンちゃんクッションを抱え、青いフリフリのパジャマを着て、

頭にはボンボンのついたダブダブ三角帽子をかぶっている。

碇ユイ曰く、「可愛いところもある」らしいが、こう言う所を言うのだろう。

この姿に対して耐性がついていない人間が見ると、最悪笑死(笑い死に)してしまうと言う

インパクトバッチリ、お目目パッチリ、セクハラ容疑で手錠もガッチリな姿である。

何故か巨大シンちゃん人形のキュートな口からワンダホーな顔にかけて

白濁したイカっぽい匂いのする液体がついているのは気にしないで置こう。

今言えるのは、この髭親父はそうとうヤバイ人物であるという事である。

 

「あ、ゲンドウさんも止めて下さい!!

 シンちゃん、隕石で車がズタボロになった事をアスカちゃんに話したらウソだと思われて怒らしちゃったのよ。

 それで自暴自棄になって何処から取り出したのか解らない怪しい改造武器を持ってホワイトハウスを襲撃しようとしているの!!」

 

・・・・・・・・ゲンドウの持っているシンちゃん人形の状態を見ても何も突っ込まないのは何故だろうか?

とりあえずその大いなる問題は置いといて、シンジの暴走を止める事が先決、という事なのだろうか?

はたまたすでに諦めているのか、自分もまた同じ事をしているか。

・・・・・・いづれにせよ、家族崩壊の危機は近いかもしれない。

 

ともかく、ゲンドウは目の前に繰り広げられている決戦を見て、深い溜息をついた。

そして、中指で紅いフレームのサングラスをゆっくりと押し上げて威厳たっぷりに一言。

 

「・・・・・・・私たちからアスカ君に直接説明すれば良いではないか。」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛。」」

 

―――こうして、シンジ君の暴走は完結した。

碇ゲンドウ・・・・・・・・思考能力は至極まともな人物のようだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

 

「御免ね、シンジ。アタシ・・・・・・手っきりウソだと思ってて・・・・・・・・・シンジに嫌われたのかと思って・・・・・・・・」

「ううん。車に隕石が激突したなんて普通信じられないから・・・・・・・・・アスカが解ってくれたのなら僕は別に気にはしないよ。」

 

電話越しの会話。その向こうで双方の家の状態がズタボロになっているのは知られざる事実だ。

どうやらアスカもシンジに嫌われたと騒いで人間サイズのスマッシュホークやソニックグレイブなどで重装備して

ホワイトハウスに乗り込むつもりだったらしい。考える事は皆同じという事だ。

ホワイトハウスにしてみればいい迷惑である。

おそらくホワイトハウス側も暴走したこの二人に攻め込まれたら5分も立たないうちに制圧されてICBMをばら撒かれるだろう。

 

「所でさ、シンジ・・・・・・・代わりに今日の夜どこかに遊びに行かない?

 キャンプ用のお金、結構余ってるし・・・・・・・・・・・・・・・大人になるのならラブホでも出来るし・・・・・・キャッ・・・・・・・・

小声でもしっかり聞こえていた危ない台詞で、シンジの血液が一気に顔に上ってゆく。

「了解っス!! 朝までお付き合いさせて頂くっス!!」

そう答えたかったが、シンジの頭にリツコとの約束が浮かんだ。

 

―――夜中一時にNERV・モールに来てくれるかしら? 実験のための助手が要るのよ。―――

 

そうだ、アスカには悪いと思うけど約束は守らなくちゃ・・・・・・・・

「・・・・・・・・アスカ、ごめん。夜中1時に予定が入ってるんだ。

 リツコさんのとてつもない実験の助手をする事になってるんだよ・・・・・・・・・・ごめん。」

「そっか・・・・・・・・それじゃあさ、アタシもその実験に行っていい?」

突然のアスカの提案にシンジは少し動揺する。

「・・・・・・・・・・大丈夫かな? ・・・・・・・とりあえず、リツコさんに許可を貰ってからになるけど。」

「大丈夫よ。助手なら数がいた方がいいでしょ? それで、何処へ行くの?」

「うん、NERV・モールだよ。あんな所で何をするのかちょっと理解しかねるけどね。」

「それじゃあ、今夜12時40分ぐらいにシンジの家へむかいに行くわ。何かあったらまた電話してね?」

「うん、解った。それじゃあね。」

 

ちなみに、アスカの同伴は「歴史的な大事件だから立会人は多いほうがいいわ!!」っと言うことで、すぐさま可決された。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

そして夜もふける事午前1時。

さすがにこの時間になると人気はまったく無くなって、所々にある家の明かりも全て消えている。

辺りは真っ暗な闇に染まり、この闇を照らすのは月の光と街頭だけになっていた。

そんな中、ビデオカメラを持ってスケボーに乗ってる少年と、それに並んでやはりスケボーに乗っている少女が、

NERV・モールへと向かっていた。

言わずもなが、碇シンジと惣流=アスカ=ラングレーである。

 

「まったく、実験の際にビデオカメラを忘れるとはリツコもドジねぇ・・・・・・・・」

アスカが溜息をつきながら愚痴を言った。

「かなり興奮していたからね。一体何があるんだろう? そもそも屋外で、NERV・モールなんて思いっきり広い所で実験なんて・・・・」

「試作N2の実験でもやるのかしらね?」

「アスカ・・・・・・・・怖い事言わないでよ。」

 

他愛も無いバカ話をしながら、二つのスケボーはNERV・モールの駐車場へと辿り着く。

そこには、大きなトレーラーが一台、ずで〜んと佇んでいた。

目が点になりながらそのトレーラーを見上げる二人。

開いた口が塞がらないと言うか何と言うか、この時点での二人の表情はかなりバカっぽいものとなっていた。

「・・・・・・・・本当に何をやるんだろう?」

「・・・・・・・・MADの考える事は私には解らないわ。」

 

「こんばんわ、二人とも。歴史的な発明の展覧会にようこそ。」

 

唖然としている二人の後ろから、金髪で黒眉毛の白衣を着た女性が声をかける。

しかし、二人の会話を聞いていたのかそのこめかみには薄っすらとピクピクした血管が浮き出ていた。

否定しようとしないのは自分でMADだと認めているからであろうか?

 

「こ、こんばんわ、リツコさん。ビデオカメラ持って来ましたよ。所で、歴史的大発明というのは一体なんですか?」

こちらもまた額から汗を流し必死に話題を変えようとしている。

かなりバレバレで苦しいが、リツコはまあ良いかと溜息をつくと、白衣の中から何かのリモコンを取り出した。

「しかと見なさい。これが歴史的大発明よ!! ・・・・・・・・・・・・ポチッとな。」

オーバーアクションで押されるリモコンの赤いスイッチ。

そして巨大なトレーラーに変化が現れる。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・

 

仰々しい音がしたかと思うと、中から1台の車が出て来た。

輝く青いボディのスポーツ・カー。左ハンドルのガソリン車、アルピーヌ・ルノーA310である。

2015年の今となっては電気自動車でもないアルピーヌ・ルノーはただの骨董品となっていた。

 

「・・・・・・・ただのアルピーヌ・ルノーじゃないの?」

アスカの質問にチッチと指を振りながらリツコは何処からかマイクを取り出す。

「これはただのアルピーヌ・ルノーじゃないわ!!

 私の友人からギャンブルでぶん取ったアルピーヌ・ルノーA310をボディ素材、防弾コーティングといったさまざまな改造を施し、

 そして世界最大の発明品である『ある物』を装備したアルピーヌ・ルノーA310改リツコスペシャルよ!!」

何処からかスポットライトが当たっていそうな勢いでリツコは声高々に説明する。

科学者の醍醐味という奴だろう。その顔は満足感で生き生きツヤツヤとしている。

二人はその剣幕に少々引きつつも、残っている勇気を振り絞って口を開いた。

「それで・・・・・・その世界最大の発明品である『ある物』とは?」

「それの実験を行うために今日は呼んだのよ、シンジ君。それじゃあビデオカメラ、回してくれる?」

「あ、ハイ、解りました。」

 

 

「ちゃんと写ってる? ・・・・・・・・・OK.それでは始めるわよ?

 現在2015年の8月16日午前1時10分、場所はNERV・モール。

 これより第一回目実験を開始するわ。

 ここにタイマーをまったく同じにあわした時計が二つ、正確に時を刻んでいる。

 この一つを私の愛猫、カスパーの首にかけてアルピーヌ・ルノーA310カスタムに乗せるわ。

 そしてもう一つは私の首に。これで実験の準備は完了。それではいよいよ実験に移るわ。」

 

そう言って、リツコはカスパーをルノーに乗せてシートベルトをかけ、そのドアを閉めた。

「・・・・・・・何が始まるんですか?」

「あっと驚く事よ。」

不敵な笑いを漏らしながら、その手に持つリモコンで車を操作する。

十分に離れたところで車の向きを変え、リツコたちの居る方向へ固定させた。

クラッチを入れたままアクセルを全快までふかし、ルノーがけたたましい音を上げる。

「良い? ちゃんとルノーを撮って置くのよ?」

「は、ハイ。」

「OK・・・・・・・・・行くわよ!!」

シンジの返事を確認すると、リツコはリモコンのクラッチを一気に離した。

 

ブオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

凄まじい音を立てて突っ込んでくるルノー。

そしてそのスピードがどんどん加速されてゆく。

50・・・・・・60・・・・・・70・・・・・・80・・・・・・・90・・・・・・・

どんどん加速しながら突っ込んでくるルノーにシンジは臆した。

「う、うわぁ!!」

「逃げないで!!」

そのシンジを片手で制止し、ビデオを取らせる事に集中させる。

「ちょっと、大丈夫なんでしょうね!!?」

「ええ。計算では140`になった時に凄い事が起こるわ!!」

リツコは以前突っ込んでくるルノーを凝視した。

そしてルノーはさらに加速する。

100・・・・・・・110・・・・・・・・120・・・・・・・130・・・・・・・・・

どんどんルノーの周りに電流が走り、ルノーの姿が霞んで見えてきた。

先端から発する光に包まれ、ルノーの周りを走る電流がMAXになろうとした時、その速度が140`に達する!!

そして・・・・・・・・・

 

バシュウウウウウン!!!

 

ルノーは強い光に包まれて、リツコたちの前で消滅した。

二つの燃えるタイヤ跡をリツコたちの後ろに残して・・・・・・・・

 

「・・・・・・カスパーが・・・・・・ルノーが・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・き、消えちゃ・・・・・・った・・・・・・・」

目の前で起こった出来事が信じられずに、アスカとシンジは呆然とする。

 

「世界最大の発明品というのがこれよ。その名も次元転移装置!!

 カスパーの乗ったルノーは今、1分後の未来へと飛んだわ。」

と自慢げに話すリツコ。

「そ、それじゃあリツコ・・・・・・・ア、アンタはタイムマシンを作っちゃった訳?」

「次元転移装置!! 間違えないで頂戴。あの引出しの中に格納されているじゅうたんとは訳が違うのよ!!

 ・・・・・っと、それはともかく、アレがあれば人類は未来や過去にも行く事が出来るわ!!

 人類の科学はこれで更なる進化を遂げたのよ!! ・・・・・・・・・・っと、そろそろ時間ね。二人ともそこどいてくれる?

 140`のスピードでルノーが突っ込んでくるわよ。」

時計を見ながら二人に移動を指示するリツコ。

そしてタイマーの時計をじっと見つめた。

「・・・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1・・・・・・・」

 

バシュウウウウウン!!!

 

青いボディに稲妻を走らせながら、ルノーが光の中から飛び出して来た。

 

車の中にはしっかりと何食わぬ顔でカスパーがちょこんと座っており、

その首にかけてあるタイマーはリツコの物より1分遅れていた。

「「・・・・・・・・・凄い・・・・・・・・・」」

まったくもって驚く事ばっかりである。

「ビデオカメラ、ちゃんと取れているわね? 来なさい、仕組みを教えてあげるわ。」

そう言って車に乗り込むリツコに、二人は目を丸くしながら後に続いた。

 

中には計器やら何やらがたくさんあったが、どれも簡単な説明書きが書かれていて、初心者でも簡単に操縦出来るようになっているようだ。

助手席と運転席の丁度中央に当たる位置の場所・・・・・・・本来はラジオがある筈の場所に3つ、色違いのデジタルモニターがあった。

そしてリツコは一つの回路を指し示す。

「これが次元転移を可能にする目玉・・・・・・・『 MAGI System circuit 』・・・・・MAGI回路よ。

 まずエンジンを入れて、このMAGI回路を作動させ、この3つのデジタルモニターの所に行きたい場所を入力!

 後はそのままスピードを時速140`まで加速させると次元転移が起こるのよ。」

そう言いながら試しに2000年の9月1日に日づけをあわせる。

ピピッと言う音がして、モニターに2000.09.01の表示が写った。

リツコの説明に二人はほへーと言う顔で驚いている。

「・・・・・・確かに・・・・・・これは人類初の大発明ですね・・・・・・」

「・・・・・・リツコ・・・・・・・アンタってただのMADじゃなかったのね・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・MADは余計よ。さて、それじゃあ燃料を入れるから二人ともこの放射能防護スーツを着てくれるかしら?」

そう言って差し出される黄色い服。

真ん中には放射能物質を示すあのマークがついていた。

「・・・・・・・・リツコ・・・・・・燃料って一体・・・・・・・・・?」

「プルトニウムよ。これで1.2ジゴワットの電流を生成してタイム回路に送り込むのよ。」

アスカの問いにさも涼しげに答えるリツコ。

「「プッ、プルトニウムゥウウウ!!!?」」

プルトニウム・・・・・・・それは中性子を吸収したウラニウムの事である。

あの放射能を景気良くバンバン出すヤツだ。

ふとシンジの脳裏に、リツコの家へ行った時のニュースが浮かんだ。

 

―――先日、科学研究所でプルトニウムが盗まれたと言う事件についてですが、研究所側はそれを否定しており・・・・・・・―――

 

「・・・・・・・・リツコさん・・・・・・・そのプルトニウムってもしかして・・・・・・・」

あうあうと口を震わせながら喋るシンジ。

リツコは、シンジの言いたい事を察したのか、首を横に振りながら答えた。

「違うわよ、アレを盗んだのは最近暴れている過激派よ。私はその盗み出されたプルトニウムを偽爆弾と交換したのよ。」

・・・・・・・どちらにせよイケナイ事である。

良い子は真似しないようにしましょう。・・・・・・・・・・・悪い子も駄目。

 

・・・・・・・・そんなこんなでプルトニウムをセットして、ふうっと一息つくリツコ。

「私はね。これから22世紀へ行って見ようと思うの。

 本当にドラえもんが出来ているのか興味があるし、お肌をぴちぴちにする方法もあるかもしれないし。」

「まさか・・・・・・・アンタそのためにタイムマシンを作ったの?」

「ほぼ正解よ。もう一つは考古学の真意を確かめに・・・・・かしらね。

 まあ、調べるだけのものを調べたらこのルノーは貴方たちにあげるわ。

 そうね、かなり遅いシンジ君の誕生日プレゼントって事で良いかしら?」

「・・・・・・・・リツコさん・・・・・・・・」

シンジの呟きに、リツコはにこっと微笑む。

 

ズババババババババ!!!!

 

そんなシリアスシーンは、銃の乱射音によって閉じられた。

ムールの向こう側から突進してくる一台のワゴン車を見て、リツコは表情を凍らせる。

「過激派だわ!! 何て事!!? どうしてこの場所がわかったの!!?」

なおも銃を乱射し突っ込んでくる過激派のワゴン車から逃れるために巨大なトレーラーに隠れる一同。

「リツコ!! どうすんのよ!! 怒り方が半端じゃないわよ!! 偽爆弾ってあんたどんなの送りつけたのよ!!」

真っ青になりながらトレーラーの陰に隠れて大声を出すアスカ。

虚勢を張っていてもやはり恐怖は存在する。声が震えていた。

「時限式に見せかけてスイッチを入れた途端に警報を鳴らし、

 スタングレネードみたいに爆音と閃光とケムリを放って周囲に居る人たちの行動を無効化させるヤツよ!!」

懐からヤクザ映画の定番、30口径ハンドガンTT-30トカレフ(ツールスキートカレバ)を抜いてセーフティを外しながら答えるリツコ。

グリップに猫印がついており、何かしらの改造がしてあるようだ。

シンジに至っては、はたまた何処から取り出したのか

前に乱射しようとしていたコルトパイソン357シンちゃんカスタム偽マキシンの

さらに銃弾にニトロを詰めた化け物ハンドガンのコックを引いている。

しっかりレーザーポインタまでくっ付いているのはお約束だ。

 

「撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、

 撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ、撃たなきゃ駄目だ!!!

 

キュピ〜ンと目を輝かせてニヤリと笑い、その呪文を呟くシンジの表情はまさに狂喜の鬼であった。

「ちょっとシンジ!! 冗談になってないわよ!! そんなの撃ったら腕が吹っ飛ぶわよ!!」

「大丈夫だよアスカァ〜、そのことを考慮してちゃんと衝撃を緩和できるように工夫したんだからぁ〜。」

・・・・・・・ヤバイ・・・・・・・目がイッている。

「シンジ!!しっかりしなさいっ!!」

バシッバシッ!!

アスカ怒涛の往復ビンタ。

大抵の悪霊もこれで一発、除霊完了でメデタシメデタシである。

隠してシンジもその例外ではなかった。

「・・・・・・・・ハッ? 僕は一体何を!!?」

正気に返った、何時もと同じ黒曜石の純な瞳に戻るシンジ。

「気がついたわね? 逃げるわよ!!」

その様子にアスカはホッとしながら、次の行動に対しての指示を出す。

しかし、このただっ広いモールのど真ん中では隠れながら逃げる事も出来ない。

 

ズバババババババ!!

 

「きゃああああああ!!!」

なおも続く銃撃に、リツコの体が吹っ飛んだ。

「「リツコ(さん)!!!」」

「・・・・・・・・逃げなさい・・・・・・・ルノーで・・・・・・・・は・・・・・やくっ!!」

血だらけになった白衣を纏い、口から血をたらすリツコの腹部には、5、6発ほど銃弾が打ち込まれていた。

「リツコさん!!? リツコさん!!? リツコさああああああん!!

「・・・・・・・・・クッ、逃げるわよ!! シンジ!!」

絶叫するシンジの手を引きルノーに乗り込むアスカ。

過激派は口封じの為に今度はシンジたちの方向へその銃口を向ける。

 

「・・・・・・・・ちくしょう・・・・・・・・ちくしょおおおおおおおお!!

シンジは涙しながらエンジンを入れた。

アクセルを目いっぱい踏み込んでクラッチを離す。

 

ブオオオオオオオオ!!!!

 

さすがにフルチューンされているだけあって、強烈な加速力と共にルノーは爆走し始めた。

シンジはそのじゃじゃ馬なルノーをうまく操って大通りに乗せる。

伊達に研修試験を1発合格していなかった。

しかし、過激派のワゴン車も負けじとルノーの後ろにつける。

 

ズバババババババ!!

 

盛大に弾をぎょ〜さんばら撒くマシンガンの弾丸も、リツコカスタムのルノーには通じなかった。

しかし、相手は過激派である。

もし対戦車ライフルやミサイルランチャー、グレネード弾でもぶっ放して来たら、

果たしてこのルノーは耐える事が出来るだろうか?

だったら・・・・・・逃げる所は一つしかない!!

シンジはMAGI回路のスイッチを入れた。

行き先はさっき試しで打ち込まれていた2000年の9月1日である。

「・・・・・・・アスカ、捕まって!! ・・・・・・・・・過去へ飛ぶ!!」

「ちょっと!!大丈夫なんでしょうね!!?」

シンジの発言に驚きながら叫ぶアスカ。

 

「・・・・・・・・・信じよう。リツコさんを。」

 

・・・・・・・・・・その台詞に、アスカはゆっくりと頷いた。

 

速度80・・・・・・・90・・・・・・・・100・・・・・110・・・・・・・・

どんどんと加速していくルノーのバックミラーに、ミサイルランチャーを構える過激派のワゴン車が写る。

110・・・・・・・・・120・・・・・・・・・・・130・・・・・・・・・

「・・・・・・・・行くよ。覚悟は良いね!!? アスカ!!」

シンジの叫びに、アスカはキッと前を睨む事で答える。

 

ズドオオオオオオオオン!!!!

 

後ろから迫ってくるミサイルランチャー。

そのとき、ルノーの速度が140に達した!!

ルノーの周りに稲妻となった電流がほとばしり、MAGI回路が光を放つ。

そしてミサイルランチャーがルノーに達すると思ったとき・・・・・・・・!!

 

 

バシュウウウウウン!!!

 

 

・・・・・・・・ルノーはまばゆい光に包まれ、道路に二つの燃えるタイヤ後をつけて消滅した。

 


 

後書き

初めまして、アンギルという者です。あのバック・トゥ・ザ・フューチャーとEVAの合成作品を出させて頂きました。

・・・・・・・1ヶ月がかりで書いたんですが、皆さんにとってこの分の量は多いのか? それとも少ないのか?

100KBに突入していると言うみゃあさんの小説を見た後ではそこらへん解らなくなります。かのっちさんの小説も量が凄いし。

一応僕の持てる力をフル動員したつもりです。ここのHPに投稿できるほどの物であるか否か、ご感想お願いします。

さてさて、この映画、もはや誰も見た事の無い人は居ないんじゃないかと思うくらい有名です。

パート1、パート2、パート3と三つに分かれ、主人公マーティとドクターブラウンが過去、現在、未来をデロリアン型のタイムマシンで飛び回る。

しかし、配役にちょっと無理があったため、ストーリーも登場人物も僕なりのアレンジを加えてあります。

今回、アスカもタイムスリップする所なんかそれです。故に、この映画を知っている人も知らない人も、十分に楽しめると思います。

・・・・・多分。・・・・・・かもしれない。・・・・・・・そうだと良いな。

とにかくっ!!精一杯頑張るので小説書きの動力源、メールと言うユンケルをぜひお願いします。m(__)m

それと一つ補足を。僕はガンマニアではありません。

文中に使っている銃の名前はこち亀や弟が持っているモデルガン、それとインターネット上で調べた、ごく僅かな知識です。

・・・・・・・で、シンジ君が半狂乱になって使うコルトパイソン357カスタムの偽マキシン仕様ですが、

コイツはシリンダーとかをいじくってマキシン・・・・・超大型拳銃の弾を入れられるように改造した危ない代物です。

何でもライフルの弾をぶっ放せるとか何とか。何故こんなものを持っているかは聞かないで下さい。ご都合主義です(爆)

筆不精のため次の投稿までかなりかかると思いますが、気長に待って頂けると幸いです。

それでは、感想等をお待ちしております。

以上、アンギルでした。

2001.12.25