「んんっ……!」
えっ、えっ、えっ?!
なになになになに、なんなの?!
剣心が……、
剣心が私に……
嘘……っ!
これって、接吻……?!
思いもよらぬ事に、私は何が起こっているのか、咄嗟に理解できない。
先刻まで私の体をぎゅっと抱き締めてくれていた剣心の腕が、私の髪を優しく撫でてる……?
はぅ〜……な、なんだか目が回ってくる……@▽@;
これは……夢なの?
ううん、だけど……。
そぉっと薄く目を開くと、すぐ側に剣心の十字傷があった。
夢じゃ……ない。
私、剣心と接吻してる……。
かぁ〜っっ!!
やだやだやだっ、今頃顔が赤くなってきた!
嘘……。
……ううん、嘘じゃない。私……。
「ん……」
剣心の吐息を感じる……。
それに……剣心の体温も。
剣心の唇って……あたたかいんだぁ……。
今までに幾度か、その腕に包まれたことがあったけど……こんなに…。
………。
………。
剣心……。
やっと帰ってきたんだ……。わたしの……剣心。
「……ん……」
「……は……」
唇が……離れた。
わっ、わっ、目と目が合っちゃったよぅ!
私は思わず視線を逸らした。
気恥ずかしくて、剣心の顔がまともに見れない。
どきどきどきどき……。
静まれ…静まってよ、私の心の臓。
け、剣心も、そんなにじっと見詰めたら……ますますどきどきしてきちゃうじゃない。
あぁ…駄目だってば……。
「あ、あの……」
言いかけた瞬間、
ぎゅっ。
え……?
「……薫殿……」
ぎゅう…っ…。
「あ……」
剣心が、何かを求めるように、私をきつく抱き締めた。
トク、トク、トク、トク……。
さっきから、心の臓が早鐘のようだ。
知らず知らずの内に、頬が熱くなる。
「薫殿…薫殿……!」
あ……。
……剣心の体が震えてる。
また、剣心の腕に力が篭った。
きゅ…ぅ……ん。
「剣……心」
どうしてだろう……。ひどく胸が締め付けられる。
剣心の腕の中にいるのに……。
ううん、剣心の腕の中にいるからかも……。
切ないよ…ぉ……剣心。
きゅ……っ。
私も剣心の体を抱き返した。
もっと……壊れるくらい、抱き締めてほしい。
剣心が生きてること……私が生きてること……もっと感じさせて。
「薫殿……」
「剣心……」
剣心の瞳の中に、私が映っている。
泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をしてる……私。
もう、余り恥ずかしくない。
「ん……」
私たちは、どちらからともなく、もう一度唇を合わせた。
今度は深く……ゆっくりと。
「あ……は……ぁ」
剣心の唇が、頬に……そして首筋に。
イヤ……。
やっぱりそれは恥ずかしいよ……剣心。
こんな、こんな……。
「あ…あぁ……」
きゅ…ぅ…。
剣心が、私の喉に口付けた。痕を残すくらい、きつく。
私は驚き、そしてもたらされる衝撃に身を震わせた。
しゅる……っ。
「あっ……!」
剣心……うそ……。
剣心の指によって、私の腰帯が解かれていく。
ゆっくり……ゆっくりと。
「や……ん……いや…ぁ…剣心…」
する……。
私の肩口から、着物の襟が滑り落ちた。
白い内掛けが露わになる。
その肩口に口付けながら、剣心の手は、内掛けの中に……。
びくんっ。
「ああっ……!」
あ……あ…剣心……そんな……。
「薫殿……?」
「は……恥ずかしい……あまり、ないから……」
言ってしまってから、急に顔が熱くなるのを感じた。
私は何を言っているのだろう。
「そんなことないでござる。……とても…綺麗だ」
剣心は、少し躊躇えたように顔を紅くして、そう言った。
「ほ……ホント?」
頬の熱さを感じながら、私は問い掛ける。
剣心は声に出さず、しっかりと頷いた。
きゅ…ぅ……ん。
あ…また……。
こんな気持ちって……。
「あは……ぁ……っ」
私が何かを言うより先に、私の薄い膨らみが、剣心の掌の中に包み込まれた。
「ホレ、何とか言っちゃあどうだい、嬢ちゃん」
「そうだぞ、薫。せっかくの感動の再会ってやつなんだからよ」
「う、うん……あ、あの」
左之助と弥彦が、にやにや笑いながら私を促す。
う……。
そんな、改まったら、なんか言い出しにくい。
今、私の前には剣心がいる。
何日ぶりかしら……。
嬉しくて、気恥ずかしくて、そしてちょっと気まずくて……。
今すぐにでも駆け出して、傍に行きたい。でも、何となく脚が動かなかった。
前髪に隠されて、剣心の表情はよく見えない。
だけど、その下の十字傷と、身体のあちこちに刻まれた真新しい傷が、これまでの闘いの物々しさを物語っていた。
剣心……また、心配かけちゃったね。
ごめん、剣心。
「あの、剣心……心配かけてごめんなさい。ありがとう……」
私は、両手を身体の前で組み合わせ、ちょっと上目遣いに剣心を見やった。
その後ろで、
「がんばれ〜」
と、操ちゃんが励ましてくれているのが分かる。
彼女だけじゃない。
弥彦、左之助、恵さん、燕ちゃん、蒼紫……それに、剣心。
みんなが、ここにいる。
私は帰って来たんだ。
「……ただいま」
何だか、温かいものが込み上げて、私はそう口にしていた。
その刹那。
ふわ……。
「あっ……」
風が、少し動いて。
私は剣心の腕の中にいた。
「おお」
「きゃっ、緋村やるぅ!」
みんなの声が、どこか遠くに聞こえた。
私は、ぼーっとしちゃって、良く覚えていない。
ただ、近くに感じる剣心の体温だけが、私を安心させてくれた。
「おかえり……おかえりでござるよ、薫どの」
「……うん……ただいま、剣心」
剣心が……泣いてる。
私も泣いていた。
そうだ……あの時。
雪代縁の元から帰ってきたあの時も、同じように剣心は抱きしめてくれたっけ……。
(つづく)