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土曜日の午後、友枝小学校からの帰り道に変なカードを拾ったさくらと知世は、
ケロちゃんに聞いてみる事にした.
「何や? さくら?」
「ねぇ、ケロちゃん、このカード何か変.見た事ない模様が描いてある…」
「やっぱりクロウカードの一種でしょうか…」
「さくらが道で拾た言うてたなぁ… どれどれ、わいに見せてみいや.」
カードを受け取ったケロちゃん、見る見るうちに顔が青ざめてゆく.
「こっ、これはぁ〜〜っ!!」
わなわなと震えてカードを取り落とすケロちゃんは真剣な顔付きになって二人に諭すように言い放つ.
「これはなぁ、伝説の『偽造チケット』っちゅうヤツやでぇ!
えぇな! 言うとくけど、絶対に封印解いたらあかんでぇ!!」
「どうして? どうして? どうして? ケロちゃん?」
「それはやなぁ、封印を解いてしまうと世にもおぞましい事が起こるっちゅう話や.
『こめさわ』っちゅうオッサンが言うとったけど…」
「まぁ、どんなことが起こるのでしょう?」
「さぁ、詳しい事はわいも知らん.」
「ふーん…」
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−2−
その日の夕方、さくらと知世の二人、知世の家に向かっている.
「とか何とか言ってたけど、これってやっぱりクロウカードじゃないのかなぁ?
知世ちゃん、どう思う?」
「封印が解けると世にも面白い事が起こるのですよね.
封印が解けるということは、さくらちゃんの凛々しいお姿がまた見られるということですわね.」
「ほぇ〜〜、 どうしてそうなるかなぁ…」
知世は何かを思い出したようにぽんと手を打つと、生き生きと喋りだした.
「そうですわ! さくらちゃんのために新しいお洋服を作っていましたの!
丁度良かったですわ! 今晩試しに封印を解いてみましょう!!!」
「はにゃ〜〜ん! やっぱりそうなるんだ…」
「そうそう、ケロちゃんにはナイショですわ.何ったって世にも楽しい事ですもの…」
−−−*−−−*−−−
−3−
その日の夜. 知世の家で新しいコスチュームに着替えたさくらは、知世と近くの公園に移動した.
「ぴったり! さくらちゃん、とてもお似合いですわ!」
「そ、そうかなぁ? 」
さくらのコスチューム姿をビデオに収める知世.さくらのコスチュームは何故か
『*−*−*−*SS』のヒロインの格好である.
「さくらちゃん、とても懐かしいですわ!」
「ほえ〜〜、な、何が懐かしいのかなぁ?」
「では、早速封印を解いて下さい!」
新しいテープに換装したビデオがスタンバイから録画になる.
「我を楽園へといざなえ! ギゾ〜チケ〜〜〜ット!!!」
魔法陣の中でさくらが呪文を唱えると、カードは天に届くような光芒を発した.
あまりの眩しさに目を背けるさくら.
光芒はやがて光の渦となり次第に薄らいで行ったが、光が消えるにつれ周囲に黒い影が1つ、2つと現れた.
さくらが目を開けると公園の中には何故か在りし日の晴海展示場が出現していた.
わらわらと現れる無数の人、人、人.
彼らはまるで時空を超えてきたように1994年頃のスタイルをしていた.
服にラミネートバッチを鎧のように括り付けている奴、
本の詰まったダンボール箱をカラコロに括り付けて歩っている奴、
大きな一眼レフカメラをぶら下げている奴…
まるで報道取材のようにビデオを廻し続ける知世.
暫くするとさくらの周囲にカメラを持った若者が集まり始めた.
彼らはさくらの周囲をぐるりと取り巻くと次々とシャッターを切った.
「ほえぇ〜〜!!! 恥ずかしいよぉ〜〜!!」
「さくらちゃん、かわいいですわ.」
よく見るとビデオカメラを持っているのは知世だけだった.
いつしかさくらの周囲は黒山の人だかりとなり、知世はカメラ小僧たちに埋もれてしまった.
ピピピピー!!
眼鏡を掛けた男が自転車に乗ってやって来た.男の腕には『スタッフ』の腕章がついている.
男はホイッスルを吹いて集まっていた若者達を追い払った.
「君! コスプレのまま徹夜をしてもらっちゃ困るよ!!
早く着替えて一般の列に並んでね!!!」
男が指差した先はC館と呼ばれている建物の入り口だった.
人の波が指差した方向に動き出すと、さくらはなし崩し的にC館の中へと連れて行かれてしまった.
「はにゃ〜〜〜ん、 ここ、いったいどこなの?」
知世もまたビデオカメラを抱えたまま人の波に押されるようにC館の中に入って行った.
「さくらちゃん、素敵ですわ、かわいいですわ、なつかしいですわ.
私も一度来てみたかったんですわ!」
ガラガラガラ! ガチャ〜ン!
二人が中に入るのを待っていたかのようにC館のドアが閉まった.
C館の中では『一般参加者最後尾』のプラカードを持たされて立っているさくらを
知世が撮影していた.
「ひょえぇ〜〜〜、恥ずかしいよおぉ!」
「さくらちゃん、懐かしいですわ、素敵ですわ、感激ですわ!」
「………」
かくして友枝町は40万人のオタクに占領されてしまい、
コミケ会場と化したのであった…
異変に気付いたケロちゃんが駆けつけた時は既に手後れであった.
「アカン…
こうなってしもたらもう収集つかんのとちゃうか?
代表もおらへんようやし…」
ケロちゃんはしばし考え込むと、何か思い付いたのか一人でうなずいて納得した.
「ほな!!!」
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END
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(update 99/11/28)