3バカの子ブタ

 

                                                    present by ちひろ


 

むかしむかし、あるところに、3バカの子ブタが住んでいました。

1匹めの、関西弁をしゃべる黒いブタは、威勢はいいが、おつむが足りません。

2匹めの、カメラをぶらさげためがねブタは、コレクターだが、ストーカー。

3匹めの、なんの特徴もないどこにでもいそうなブタは、料理上手、でもオス。

このどうしようもない子ブタたちに、ある日、色白のお母さんブタがいいました。

「あなたたちは、バカなの。だから、自分の家を建てるの。」

3バカのこぶたは、びっくりしました。

1番上の黒ブタが言いました。

「いや〜、こりゃ一本取られましたわ。今のなかなかおもろかったで。」

2番目のめがねブタが言いました。

「建てるったって、土地はどうすんのさ。材料は?母さん、時々突拍子もないこと言い出すから。」

3番目の料理上手なブタが言いました。

「だって、母さんはチャーシュー抜きだから、ボクらの味方だと思ってたのに!」

意味不明でした。

でも、母さんブタは目が笑ってませんでした。

3バカの子ブタたちは、しぶしぶ家を建てる事にしました。

が、何分お金の掛かる世の中です。

そうそう上手くいくはずもありません。

3匹はそれぞれ知り合いの家に、ほとぼりが冷めるまで転がり込む事にしました。

 1番上の黒ブタは、友達の委員長ブタの家へ居候させてもらう事にしました。

委員長ブタは料理上手なので、黒ブタはヨダレが止まりません。

もう、お腹ペコペコです。

「いや〜、今夜のおかずが楽しみやわ〜。」

「フケツよ!」

「ぐはっ!」

何を勘違いしたのか、委員長ブタは、黒ブタを殴り倒していました。

「ちょ、ちょっと何すんのや!誤解や!」

「5階も6階もないわ!」

黒ブタは、家を追い出されてしまいました。

 2番目のめがねブタは、担任のエビチュブタの家へ居候させてもらう事にしました。

愛用のカメラを片手に、やや興奮気味です。

なにせ、あのお色気ムンムンのエビチュブタの家です。

今から作戦を練るのに余念がありません。

が、

「おら、飲め!」

現実は甘くありません。

ウワサ以上の酒乱の前に、もうそれどころではありません。

「ちょっと〜、ビール切れてるわよビール!つまみもないじゃないの〜。」

「あっ、ボク買ってきます!」

「そうだ、行って来い!居候の身なんだからな!ガッハッハッハッハッ!」

イメージ総崩れです。

めがねブタは、たまらず家を飛び出してしまいました。

 3番目の料理上手なブタは、幼なじみの赤毛ザルの家へ居候させてもらう事にしました。

家事全般を受け持つという条件付きで。

「今晩は、久しぶりにお肉が食べたいなぁ〜。」

赤毛ザルが言いました。

「じゃあ、母さん直伝の豚肉の野菜炒め豚肉抜きをご馳走するよ!」

「わ〜い、やった〜!」

「じゃあ早速作るねっ。」

「なめとんのか、ワレ?」

「へっ?」

「へじゃない!」

「ボク、肉は嫌いなんだよ〜。」

「アタシは、好きなの!」

「もう、キーキーうるさいんだから。」

「なんですってぇ〜!」

恒例のケンカが始まりました。

でも、サルとブタでは、結果は火を見るより明らかです。

ブタのノロさに付き合うほど、サルも気が長い方ではありません。

ケンカは、サルの一方的な勝利で幕を下ろしました。

サルが声高らかに言います。

「アタシに楯突こうなんて百億年早いのよ!」

下敷きにされたブタは、ブヒブヒ言うばかりです。

ピンポーン

あっ、誰か尋ねて来たようです。

「こんにちは。」

赤毛ザルがその長いシッポで、ブタに出るように指示します。

しぶしぶ出るブタ。

「誰ですか?」

「いや、実はこちらにとても美味しそうなブ・・・じゃなかった、美味しい料理を作るブタ君が居ると聞いてやってきたんだけど・・・」

「それって、ボクの事?」

「そうだよ、キミだよ!キミは美味し・・・じゃなかった、キミの料理は美味しいと、あの料理王冬月センセイのお墨付きだからねぇ〜。」

「ホントに?」

「ホントさ!」

「うれしいなぁ〜。」

「フフッ、そうだろう。そこでだ、キミ、テレビに出てみる気ないかい?」

「テレビ?」

「”料理王冬月の豚豚対決”という料理対決番組で、キミはそこで、冬月センセイに対抗するフレッシュな食材・・・じゃなかった、フレッシュな新人シェフとして登場してもらう。」

「へぇ〜すごいなぁ〜。」

「そうだろう、そうだろう。」

「で、ボクは何を作ればいいの?」

「いやいや、キミは何もする必要はない。すべて、こちらで用意した料理人が調理をする。」

「え?じゃあ、ボクは何もしなくていいの?」

「そうさ!キミはその料理人たちに身を任せ・・・じゃなかった、その料理人たちに指示するだけでいい。」

「なんか悪いなぁ〜。」

「いや、こちらとしては、その方が好都合なんだ。」

「なんで?」

「そんな事、キミが心配する必要はない。」

「ふ〜ん。」

「さっ、そうと決まれば、ここに出演同意のサインをサラサラっと書いてくれたまえ!」

「ここでいいの?」

「そう、そこさ。」

「・・・・・・」

「どうしたんだい!?」

「ボク・・・・・・」

「はやく書きなさい!」

「字が書けないんだ・・・」

「はっ?じゃあ、お家の誰かに書いてもらってもいいよ。」

「うん、そうするね。」

そう言うと、ブタはサルのところに駈け寄り、同意書にサインを書いてもらう事にしました。

「なんでアタシが書かなきゃなんないのよ!」

「お願いだよ、ボク、字書けないし。」

「まったくしょうがないわね〜」

「ありがとっ。」

「ほらっ、とッとと貸しなさい!」

サルは契約書に一通り目を通します。

でも、サインはしません。

どうしたのでしょうか?

サルは玄関に駈け寄ります。

「これ、アンタが書いたの?」

「そうさ!」

「ここの第一項のとこ読んでみて・・・」

「読めばいいのかい?」

「そう」

「え〜と、第一項、わたしは自分の生きる権利を放棄し、右に掲げる当番組プロデューサー”白銀のオオカミ”にすべてを委ねる事を誓います・・・」

「どう言う事よ!」

「ハハハハハハハハッ!」

「なによ!」

「そう言う事さ、フフッ」

「開き直ったわね!」

「彼には以前から目を付けてたんだ、邪魔はさせないよ」

「それはこっちのセリフよ!」

「なっ!す、するとキミもそうなのかい?」

「あの丸々と太って若々しい肉体は、誰にも渡さないわ!」

「そうそう!あの弾力のある太ももの辺りがまたなんともいえず堪らないんだよ!」

「ダメよ!太ももはアタシが来週あたりにって決めてるんだから!」

「じゃあ、わき腹はどうだい?」

「ダメ!」

「う〜ん、キミは彼をどう料理するつもりなんだい?」

「そんな事聞いてどうするのよ」

「気を悪くしないで聞いてほしい」

「?」

「キミの作った料理と料理王冬月センセイの作った料理、さて、美味しいのはどっち?」

「何が言いたいの?」

「アマかプロの違いってことさ」

「・・・・・・」

「簡単な質問だろ、せっかくの希に見る食材なんだ。どうせなら、手を汚さずに美味しくいただきたいだろ」

「・・・・・・」

「どうだい?」

「条件があるわ」

「なんだい?」

「アタシをその番組にゲストとして招待して、出来あがった料理を一番に、しかも、たらふく食べさせる事」

「・・・・・・よし、いいだろう、約束するよ」

「ホントでしょうね?」

「ボクはこの番組のプロデューサーなんだ、言うなれば最高責任者さ。大丈夫、任せておいて」

「じゃあ、契約書書いてよ」

「それでキミの気が済むのなら・・・・・・」

サラサラとオオカミは契約書を書きます。

サルはその契約書に目を通し、そして2匹はガッチリと握手を交わします。

どうやらビジネスが成立したようです。

そんな2匹にブタが背後から話しかけます。

「ねぇ、電話使ってもいい?」

ビクッ!

「ア、アンタ、いつからそこに居るのよ!」

「えっ、今だけど・・・・・・それより、電話使っていい?」

「い、いいわよ、勝手に使いなさい!」

「うん」

ブタが電話を掛けにリビングへ行くのを見届け、2匹はほっと胸を撫で下ろします。

オオカミが言います。

「キミも罪なおサルだ」

負けじとサルも言います。

「アンタほどじゃないわ」

2匹は不気味な笑みを浮かべて、よだれを垂らしています。

 さて、一方、リビングの方では・・・・・・

「母さん助けてよ!ボク料理されちゃうよ!」

「・・・・・・」

「返事してよ、母さん!」

「アナタ誰?」

「誰って、ボクだよボク!」

「なに?」

「だから、ボク、肉料理にされちゃうんだ!助けてよ母さん!」

「・・・・・・」

「母さん?」

「肉キライなの」

プツッ

「もしもし?もしもーし?」

・・・・・

・・・・

・・・

・・

その後、この料理番組は過去最高視聴率を記録し、ゴールデンタイムでの放映が決定した。

そして、この番組プロデューサーであるオオカミはゼネラルマネージャーに昇格、ゲストで出演したサルは、同番組のレギュラー入りを果たす。

そしてサルはこう語る。

「そういえば、まだ2匹いたわねぇ〜」