ご飯にする?それともお風呂?それとも・・・・・・リバース編

 

present by ちひろ


 

トントントン・・・・・・

心地よいリズムがキッチンから聞こえてくる。

そして、時折、上機嫌で鼻歌を歌う声も聞こえる。

ここは碇家のマンション。

碇 シンジと結婚したアスカ様が、家事をしている。

忙しなくキッチンの中を動き、夕飯の支度に取り込んでいるアスカ様。

ただ今、大根を千切りにしている最中だ。

フライパンに満たした油の中では、先ほどからジュワ〜とコロッケを揚げる音が続いている。

電子ヒーターにのせたナベのフタが、コトコトと音を立てている。

大根を千切りにする手を休め、なべのふたを開ける。

食をそそる湯気と匂いがキッチン一杯に広がる。

ハフハフしながら、お玉ですくったにんじんの煮え具合を確認する。

「うん、いい感じ!」

ヒーターのスイッチを切り、お味噌を上の戸棚から取り出す。

そして、味噌をときほぐしながら、程よく味をつける。

よしっ!とガッツポーズをしている。

どうやら、豚汁が会心の出来のようだ。

今日は、久しぶりの料理であるアスカ様。

夫、シンジの帰りに合わせて、夕飯が出来上がるように仕度をしていた。

「きょうのメニューは、シンジの好きなやさいコロッケと大根サラダよ」

時計を見る。

「早く帰ってきなさいよぅ〜バカシンジィ。アンタのカワイイカワイイ妻が作った夕飯が待ってるんだからね(はぁと)」

自然と顔がほころぶアスカ様。

純白のテーブルクロスでセッティングしたテーブルの上に食器を並べ始める。

これでいいわねと、今度はお風呂の湯加減を見にバスルームへと赴く。

段差のないバスルームのドアを軽快にスライドさせる。

中は、淡いピンク調のタイル張りの浴室、大人が寝そべっても大丈夫なくらいの横幅と十分な奥行きになっており、奥に、広くゆったりとした大人二人が入れるのに十分なくらいの浴槽があり、さらに、第3新東京市の夜景が一望出来るワイドな出窓が備え付けられている。

この大きめのバスルーム、アスカ様がゴーーーインに造らせた、このマンション唯一の規格外仕様である。

大きめのバスにした理由、それは・・・・・・・・・・・・読み手の想像に任せるとしよう。

液晶パネルを見、”適温”の表示を確認し、湯船に手を入れて確かめてみる。

ちょっと熱いかもと、アスカ様は長湯のために少しぬるめに温度を設定する。

長湯になる理由、それは・・・・・・・・・・・・読み手の想像に任せるとしよう。

ピンポ〜〜〜〜〜〜ン!

 

 

その音に敏感に反応するアスカ。

浴室に備え付けられている鏡で身だしなみの最終チェックをし、新調した黄色いエプロンを身につける。

バリバリの新婚ルックでキメるアスカ様。

鏡に向かって一言。

「アスカ、イクわよ!」

ピンポンピンポ〜〜ン!!

「は〜〜い、お帰りなさぁ〜い、アナタぁ〜」

 

 

 

〜 妄想モード突入 〜

ガチャリ

「ただいま、アスカ!」

「おかえり〜、シンジ」

「もうボク、お腹ペコペコ・・・・・・あっ、いい匂い」

「フフッ、今日のメニューな〜〜〜んだ?」

「何だろう??あっ、ひょっとしてボクの好物?そうでしょ!」

「あったりぃ〜〜〜!」

「アスカの手作りコロッケだね、楽しみだな」

「じゃあ、先に夕飯にする??」

「すぐ用意できるの?」

「もう少しかな・・・・・・そうねぇ〜、用意するまでの間にお風呂入ったら?」

「う〜〜ん、そうしようかなぁ〜」

「でもその前に・・・・・・」

「?」

「もう、アタシに言わせる気?」

「なにっ??」

「はやくぅ〜〜〜〜」

「あっ!ゴメンね」

チュッ!

「アスカ・・・・・・」

「シンジぃ・・・・・・」

「すごくドキドキしてるよ、アスカ」

「やんっ、はずかしいよぅ〜シンジ〜」

「愛してるよ、アスカぁ」

「うん、アタシも愛してるわ、シンジ」

「ねぇ」

「んっ?」

「ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろうか」

「っんもう!シンジのえっちぃ!」

「ゴメンゴメン」

「・・・・・・いいよ

「うん・・・・・・」

 

 

 

「とかなんとか言っちゃってさ。もうシンジったら、ドえっちなんだからぁ!」

ピンポンピンポンピンポ〜〜ン!

現実に引き戻されるアスカ様。

「もう、焦んないでよシンジったらぁ〜。でも、この調子だとガマン出来ないって感じじゃない。ドアを開けたとたん、有無を言わせずいきなり押し倒されたりしたらどうしようかしら」(アスカ様、顔がニヤついてます)

 

 

 

〜 妄想モード再突入! 〜

ガチャリ

「ただいま!アスカ!」

「おかえりなさい、アナタぁ」

ガバッ!

「あんっ、ちょっとアナタ!」

「もうガマンできないよアスカ!いいだろう」

「ダメよ、そんないきなり・・・・・・」

「アスカぁ〜〜〜〜!」

 

 

 

「キャァァァァ〜〜〜!や、やだぁ〜〜これっじゃあそのままベッドに直行って感じじゃないのよぉ〜。イヤン!(はぁと)」

ピンポンピンポンピンポンピンポ・・・・・・

再び、現実に引き戻されるアスカ様。

「はいはい、どちら様ですか?」

「ボクだよ、アスカ。早く開けてよ」

「もう、せっかちなんだからぁ!」

ガチャリ

慎ましやかに正座をし、三つ指突いて”お帰りなさい”とアスカが夫・シンジを迎える。

「ただいま、アスカ。あの・・・」

「先に、ご飯にする?それともお風呂?」

「いや、あのね、アスカ・・・・・・」

「それとも・・・・・・」

「碇くん、お腹すいた」

夫、シンジの背後からの声・・・・・・

「あっ、そう?じゃあ、ご飯にしようか」

「なっ!」

「あのさ、アスカ。実は、さっき、帰りの電車で偶然綾波にあってさ。それで、久しぶりだから、ボクん家で夕飯でもどう?って・・・」

「どう?じゃないわよ!!何でアンタが来るわけぇ!?」

「だって、可哀想じゃないか。夕飯いつも一人っていうし、たまにはいいだろ」

キッとシンジを睨んでいたアスカであったが、今日だけよと小声で呟いた。

「ありがとう、アスカ」

 

 

 

碇家のリビングはピリピリと緊迫した雰囲気に包まれていた。

アスカの隣に綾波、シンジは彼女らと向い合う形で座っている。

女性陣は、席は隣同士だが互いに顔を合わすことなくシンジと向き合う形になるため、気が楽なはずだ。

だが、シンジは両者の機嫌を取りつつ食事をしなければならず、実は、食べた気がしていない。

そんなことを知ってか知らずか、綾波が無表情にテーブルの一点を見詰めている。

ジ〜〜〜〜〜

「どうしたの?」

「肉、キライ」

ピクッ!

「碇くん・・・・・・」

「食べさせて」

バキバキッ

「へっ!?」

チラッっと横目で妻を見る。

彼女お気に入りのウサギさんのハシが真っ二つに折れていた。

向かいの綾波に鬼のような形相で睨みつけている。

が・・・・・・涼しい顔の綾波。

ガタン!

イスから立ち上がる妻。

「アナタ・・・・・・」

「ハ、ハイ!」

替えのハシ持ってくるわ」

「う、うん」

スタスタとキッチンに向かう。

ふぅ〜〜〜と一息をつき、ようやく緊張が解ける。

無言でこちらを見ている綾波。

シンジは思い出したように、先ほどあった出来事を話す。

「あ、そうそう、電車で綾波が隣に無言で立ってた時は、びっくりしたよ。窓ガラスに映った綾波の視線でようやく気づいさ」

「・・・・・・ずっと見てた(ぽっ)」

シャコシャコ・・・

「声かけてくれればよかったのに」

「碇くんのそばに居たかったから・・・・・・」

シャコシャコシャコ・・・・・・

「碇くんの瞳、とっても綺麗・・・・・・」

「そ、そんなに見詰めないでよ」

シャコシャコシャコシャコ・・・・・・

「んっ?さっきから、なにやってんの?アスカ」

「研いでんの」

「なにを?」

「包丁」

「はへっ?」

「肉切り包丁」

「な、な、何に使うんだい?そ、そんなの」

「お料理。今夜当り、使いそうだからぁ〜〜・・・・・・」

「へ、へぇ〜〜、そうなんだぁ〜〜〜」

「よく切れそうよ〜〜〜、フフッ、フハハハッアハハハハハハハッ!」

声高らかに笑う妻。

なぜかプルプルと震えだす夫。

じ〜〜〜とその夫を見詰めている訪問者。

一触即発の碇家のリビング。

綾波が口を開く。

「碇くん、一緒にお風呂入りましょう。背中流してあげる」

・・・・・・この3秒後

碇家のリビングは身の毛もよだつ戦慄の大惨事となるのだが・・・・・・

それは、残念ながらここでは語ることは出来ない。

合掌。

 

終劇