〜 決戦!第3新東京市立第壱中学校校門前(前編) 〜
present by ちひろ
〜 碇家の朝 〜
「ユイおば様、おはようございますっ!」
「あら、おはよう、アスカちゃん。毎日毎日わるいわねぇ。」
「いえいえ、日課みたいなもんですから。」
「あの子ったら、アスカちゃんじゃなきゃなかなか起きなくて、ホント、しょうのない子ねぇ。」
「じゃあ、私、シンジ起こしてきますね。」
「お願いね、アスカちゃん。」
いつもどうり、リビングでの朝のやりとりを終え、シンジの部屋に向かうアスカ。
その足取りは、軽い。
この毎朝の、ユイとの何でもない会話がアスカは好きだった。
それは、ユイのにじみ出るようなやさしさと、慈愛に満ちたまなざしが、アスカにとっての望むべく理想像と重なるからでもある。
いずれは、アタシも・・・とアスカは思うのであった。
「おらっ!起きろ!!バカシンジ!!!」
が、実際は違った。
最近は、罵声とともにケリも入る。
「グヘッ!・・・・・・ったいな〜・・・なんだアスカか。」
「なんだとは何よ!それが、毎朝起こしに来てやってるアタシに対して言う言葉?」
「足で起こすことないだろ〜。」
「これは、アタシの足だから、どう使おうとアタシの勝手よ!」
「んな無茶苦茶なぁ〜。」
「ぐちぐち言ってないで、とっとと着替えちゃいなさい!」
そういって、シンジの布団を引き剥がそうとするアスカ。
「わぁ〜!ダメダメ、だめだったら!」
「なぁ〜に、テレてんのよ!ほらっ。」
ガバッ!
「キャアアアアアアアアアアア!!!!エッチ!ちかん!ヘンタイ!しんじらんない!!!」
「だっ、だから言ったじゃないか!アスカ。」
「うるさい!よくも毎朝毎朝、このアタシに、そんなの、さらけ出してくれるわね!」
「アスカが、強引に引き剥がすのが悪いんだろ!」
「アンタが、早く起きないからでしょ!」
「いっつも、ボクの言うことなんか聞いてないくせに。」
「男がうだうだ言ってんじゃない!」
毎朝恒例の痴話ゲンカが始まる。
「あらあら、朝から仲がいいこと。ねぇ、あなた。」
「そうだな・・・初孫に期待しているぞ、シンジ。」
こちらでは、夫婦漫才が始まっていた。
〜 登校 〜
「やっばい、チコクだ!」
「こうなったのは、ぜーんぶ、アンタのせいだからね!!」
「だから、さっきっから謝ってるじゃないか。」
「ぬるい!そんなんで済まそうなんて、問屋が卸しても、このアタシが卸さないのよ!」
「そんな怒んないでよ、アスカ。」
「アンタが責任とってくれるまで、許すもんですか!」
「そうだよ、責任とってよ。」
「なんだよ、責任って。」
「毎朝、ワタシに無理やり見せてるアンタのアレのよ。」
「毎晩、僕の夢に出てくるシンジ君のアレのさ。」
「ボクのアレ??」
「このアタシに言わせる気!?」
「そんなにボクに言わせたいのかい、シンジ君。」
「何だろう?ボク、何かイヤなことしたかな?」
「イヤじゃあなかったけど・・・って」
バキベキボキゴリッ!!!
壁にめり込む美少年。
「ハァハァハァ、な・ん・で・アンタがココにいんのよ!!!!段取りと違うだろうが!!!!」
「ボクだって紳士さ、ちゃんと順序はわきまえるよ。だいじょうぶ、今日は登校中だけど、明日からは碇家の朝に登場す・・・」
バキベキボキゴリッメシッッ!!!
再び、壁にめり込む美少年。
「うわぁ、カ、カヲル君!?」
今ごろ気づくシンジ。
「やぁ、おはよう、シンジ君。」
何事もなかったように、満面の笑みを見せる彼。
「お、おはよう、カヲル君。」
そう言って、シンジの手を取り、頬擦りをする。
「あぁ〜、シンジ君なんだね。ホントウにシンジ君だ。」
「い、いつからそこに・・・」
「いつだってキミのそばにいるよ。だから安心して、シンジ君。」
「い、いや、そうじゃなくて・・・」
「フフッ、わかってるよシンジ君。おはようのキスだろ、せっかちなんだから。」
「キ、キスゥ?」
「そんなに、顔真っ赤にして照れることないだろう。でも、キミのその初々しさが、またたまらないよ。」
「ちょ、ちょっとカヲル君!?」
「シンジクン。」
「カヲル君!」
「シン・・・」
〜 ホームルーム 〜
「アタシがいなかったら、どうなってたと思うのよ!」
「どうって?」
「ア・ン・タ・ねぇ〜。道の真ん中で、あのモーホー野郎に、唇奪われるとこだったのよ!」
「ちょっと声が大きいよ、アスカ!みんなに誤解されるじゃないか!」
「んなこたぁ〜関係ないのよ。これはアンタの貞操の危機なのよ。もっと、真剣に受け止めなさい!」
「テイソウ・・・?アスカ、テイソウってなに?」
「くぉのバカシンジ!アタシにケンカ売ってんの!?」
「わぁー!暴力はいけないよ、アスカ!」
「いいこと、シンジ。これから言うことは命令よ。よく聞きなさい。」
「命令って・・・どうしたの?アスカ。急に真剣になっちゃって・・・」
「そのいち、常時、私と行動を共にすること。
そのに、アタシから離れるときは、事前に許可をもらうこと。
そのさん、毎日、アタシの早朝、就寝点呼を受けること。
そのよん、男子と名の付く密室には、近づかないこと。
そのご、自分の部屋にはカギをかけ、それをアタシに渡すこと。
以上、これらの命令に背いたとアタシが判断した場合、極刑に処す。」
ざわめく教室内。
「ちょっと、アスカ!なにも黒板にまで書くことないだろ!」
「アンタはバカなんだから、これくらいしないと覚えないでしょ!特に、そのいちは、大原則なんだから、よ〜く頭に叩き込んでおきなさい!」
「なんで、ここまでしなくちゃならないんだよ。」
「ここまでしなくちゃならない相手なのよ、アイツは。」
「ねぇ、アスカ?」
「ちょっと、きいてんの?シンジ。」
「アスカってば!」
「なによ、急に黙りこんじゃって。」
「惣流!」
「えっ!?うしろがどうしたって?」
「おいってば!」
「やかましいっ!こちとら、いま取り込み中なのよ!用事ならあとにしなさい!」
「アスカっ!廊下に立ってなさい!」
「・・・・・・アラっ?」
「アラじゃないっつーの!まったく、今、どういう時間なのかわかってんの?」
「いやん!シンジったら。無理やりわたしにこんな事させてぇ。」
「へっ!?」
「へじゃないの!アンタも来るのよ!」
「何でボクもなんだよ!」
「まさか、忘れたとは言わせないわよ。」
ポキポキと指を鳴らすアスカ。
「そ、そんなわけないよ!アスカ。」
「じゃぁ、そのろく言ってみて。」
「そのろく?え〜っと・・・・・・」
「え〜と、なに?」
「たしかぁ〜・・・・・・」
「たしか?」
「そのろく、ボクにもカギをわたすこと!」
「あっ!そうそう、それだよ。」
「んなわけねーだろっ!!!」
「うわぁ!ごめんよ、アスカ!」
「出たわね!渚 ホモTHE衛門!」
「フフッ、ごきげんよう、アスカ君。そして・・・」
「きゃあ〜!!なぎさく〜ん!!!」
「やあ、おはよう。クラスの女子のみんな。」
笑顔とともに光る白い歯。
すでに、何人かの女子はイッてしまっているようだ。
「おいおいっ、そんなに押さないでくれよ、女子のみんな。」
そういって、クラスの女子の輪の中に入れられるカヲル。
同時に、男子からはブーイングの嵐が起こる。
jどちらも、美少年には付きものの特権というやつか。
「・・・・・・まぁ、これでとりあえずは時間が稼げるってもんね。」
「さて・・・・・・」
「ひっ!」
「では、これより被告に対して判決を下す。」
「ちょっと待ってよ!」
「判決・・・・・・」
「許してよアスカ!」
「逆さはりつけの刑って、あっ!こらっ待ちなさいシンジっ!」
教室内を逃げまどうシンジ、それを鬼のように追いかけるアスカ、カヲルに詰め寄る女子の群れ、ヤジ・罵声の男子。
シンジを発端にして、すでに収集がつかなくなっている2-A。
ヒカルの委員長としての権限も、この状況ではさすがに効果がなかった。
「やばいわ!このままだと、教師としてのアタシの立場が・・・・」
見兼ねたミサトが、頭をフル回転させて考える。
「こうなったら・・・」
そういうと、何処から取り出してきたのか、メガホンを片手にクラス中に御触れを下す。
「というわけで、明日の放課後、シンジ君争奪クイズ大会を開きます。」
なんだなんだと、男子がミサトの方を振りかえる。
「クイズの内容は、シンジ君に関すること。」
女子が、聞き耳を立てる。
「勝者には、シンジ君を自分の好きなようにできる特権が与えられます。」
シンジの襟首を掴むアスカの動きがピタリと止まり、カヲルの目がキラリと光る。
「これで、文句ないでしょ。」
間一髪、助かるシンジ。
「フン!ミサトにしては上出来ね。」
「そういうことなら、もうこの勝負、ボクがもらったようなもんだ。」
「はんっ!それはこっちのセリフよ!」
「甘いよアスカ君。ボクはシンジクンのことで知らないものは、なにひとつないんだから。」
「お笑い草だわ!こっちは生まれたときから一緒なのよ。アンタとは、築き上げてきたものが違うのよ!」
「何とでも言えるさ。すべては明日の結果次第なんだよ。」
「ふんっ!あとで泣き言いうんじゃないわよ。」
「そっちこそ。」
かくして、シンジ争奪クイズ決戦、もとい血戦がはじまる。
当の本人の意見は無視されて・・・・・・
つづく