written by FUJIWARA |
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The Next Generation of "NEON GENESIS
EVANGELION"
第10話 会いたかった、あなたに
困ったような顔で立つシンジとアスカの前で、アイはぶるぶると全身を震わせて、頭を抱えてうずくまっている。
「アイ……、もう大丈夫だよ、アイ……」 シンジは優しい口調で娘に呼びかけた。 それでもアイは反応しないが、なおもシンジは呼び続ける。 やがて、自分の名前が呼ばれるのをようやく耳にしたアイは、恐る恐る顔をあげた。 涙に濡れた瞳の向こうに見えたのは、はにかんだように微笑むシンジと、腰に手を当てて勝ち気そうな笑顔を見せるアスカだった。 さっきまでアイが目にしていた2人よりも少し大人びた感じ。服装も、第壱高校の制服。 写真で見たままのシンジとアスカ。 だが、いまのアイにとっては恐怖の対象でしかない。 心底怯えた表情で、アイは2人を見つめる。 「あ……、ああ……」 叫びたいのだが、声にならない。
「は、初めまして……、碇……、シンジです」 ようやく娘が自分たちを見てくれたことに安心したシンジは、顔を赤くして恥ずかしそうにそういった。 そんなシンジに、アスカが噛みつく。 「アンタばかぁ!? どこの世界に自分の娘に自己紹介する父親がいるってんのよ!?」 「だって、仕方ないだろ……。アイが成長して会うのはこれが初めてなんだし。こんにちは、アイ」 にっこりと、アイに向かってシンジは微笑みかけた。 「はぁ……、処置なしだわ……」 アスカは大げさにため息をついてから、アイのほうに向き直る。 「あたし、アスカ。惣流・アスカ・ラングレー。……大きくなったわね、アイ」 アスカの瞳が優しい。 「アスカだって、僕とそんなに変わらないじゃないか……」 「何かいった!?」 アスカがシンジに向けて手を振り上げようとしたそのとき、
「いややぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 ようやくアイは再び叫び声をあげると、慌ててその場から逃げ出そうとした。だが、腰が抜けてしまって、思うように動けない。 「いや、こないで、こないでぇ!」 それでも這うような格好で、アイは何とかシンジとアスカから離れようとする。 「あんたたちなんか、あんたたちなんかあたしの親なんかじゃない! 向こうへ行って! 近寄んないでよぉ!」
そんな娘の様子に、シンジとアスカはそろってため息をつく。 「仕方、ないよね」 「そうね……、あんな光景を見せられたんだから無理もないか」 「それにしても、量産機が精神攻撃を仕掛けてくるなんて思わなかったな。前のときはそんなのなかったし」 考え込むシンジに、アスカはジト目になる。 「アンタがボヤボヤッとしてるからアイがこんな目に遭ったんじゃないの! ママが助けてくれなかったらアイはいまごろどうなってたと思うのよ」 「何だよ、アスカだって、アイが戦っているときに『やっちゃえやっちゃえ!』なんて呑気に応援していたじゃないか! アイがあんなになったのはアスカのせいだろ!?」 「ぬぁんですってえ〜、ぶぁかシンジのくせにぃ〜!」 少年が少女のビンタ一発でのされるのをアイは目を丸くして見ていたが、その少女が自分に歩み寄ってくるのを目にするとさすがに平静ではいられなくなった。 『あたしがアンタを死の世界に連れていってあげるわ……』 思い出したくもないアスカの言葉が甦ってくる。
「い、いや! こないでったら!」 バタバタと腕を振り回して暴れるアイに構わず、アスカはアイに近寄る。 アイの爪がアスカの腕を傷つけるが、それでもアスカはアイを自らの胸の中にかき抱く。 「アイ、もう大丈夫、大丈夫だから」 「離してよ、離して!」 「もう精神攻撃は仕掛けてこないわ。落ち着いて」 そうアイの耳元で優しく囁くアスカに、一瞬、アイの動きが止まった。 「あたしもシンジも、アンタのことを心から愛してる。世界で一番、アンタのことを大切に思ってる」 「そうだよ、アイ」 いつの間にかシンジも隣にいる。 「僕もアスカも、いつも弐号機から君のことを見守っていたんだよ」
「うそよ、そんなの嘘に決まってる! お父さんもお母さんも、あたしなんかいらなかったのよ! ううん、あんたたちだけじゃない! ミサトさんも加持のおじさんも、赤木さん、トウジさん、ヒカリさん、それからママだって、みんなあたしのことなんか愛してくれてないのよ! 大嫌いなのよ!」 アスカに抱きしめられながらも、アイは必死で叫ぶ。 「だから、だからもうあたし何もしない。このまま死んでやるんだから! それでみんな、死んじゃえばいいのよ!」
「アイ!」 パンッ 厳しいシンジの声と、アスカの平手打ちが同時だった。 もっとも、アスカの平手はアイを落ち着かせるのが目的で、痛みはさほど感じさせないものだ。 おかげで、アイは押し黙る。 その代わりに、蒼い瞳にみるみるうちに涙がわき起こってくる。
「そんな悲しいことを言わないでよ」 シンジは優しい声になって、いった。 「僕たちがどんな願いをこめて君の名前をつけたと思うんだい?」 「あたしの名前の、意味……?」 「そう。愛する、のアイ。僕とアスカの愛の結晶。この世界のみんなが、君を愛してくれて、そして君もみんなを愛することができるように」 「あたしたちの人生は散々だったわ。愛だけをひたすら求めた……。あたしたちの子どもにはそんな人生を送ってほしくなかった」 シンジは訊ねる。 「ねぇ、アイ。君はいままで生きてきてどうだった? 僕たちがいなくて、不幸せだったかい?」
13年という、短いけれどいままで歩んできたアイの人生。 両親がいなくて悲しいと思ったことはあったけど、不幸だとは思ったことはなかった。 それは優しい人たちにいつも囲まれていたから。 だからアイは小さく首を振った。
「ううん……。あたしは……、不幸せじゃなかった。みんなが、いたから……」 「だろう? ミサトさん、加持さん、リツコさん、トウジ、洞木さん、それに何といっても綾波がいたから君はいま、幸せなんだよね?」 シンジの言葉にアイは小さく、でも心から頷く。 「それをたった一度偽りの光景を見せられたくらいで、君はみんなの愛情を信じられなくなるの?」
シンジの言葉に、アイはまたもや頬をぶたれたかのような感覚をおぼえた。 「そんなこと……、ない……」 「それに僕たちだって、君のことを忘れたことなんかなかった」 「そう。アンタはあたしたちにとって一番大切な宝物だもん。ずっとここから、アンタを見守っていたわ。あたしと、シンジと、ママの3人で」 「……そういやお義母さんは?」 「ママならこないわよ」 「どうして?」 「アイに”おばあちゃん”って呼ばれるのが怖いんだって」 「ぷっ」 楽しそうに笑い合う2人を見ているうち、アイの心は落ち着いてくる。 家族で和んでいるときのような、温かな感じがする。
(本当に、お父さんと、お母さんなんだ……!) アイは前にいる人たちが、本当の両親なんだと確信する。
アスカに抱きしめられたまま、アイは泣いた。 「ごめんなさい、お父さん、お母さん。ひどいこといって。ごめんなさい、お母さん、引っ掻いちゃって」 「いいのよ、アイ」 アイの髪を優しく撫でるアスカ。さすがにアスカの瞳も潤んでいる。 「シンジ。アンタも……、ほら」 「う、うん……。おいで」 アスカの手を離れたアイは今度はシンジの胸の中で泣く。シンジはそんなアイをぎこちなく、だけど心をこめて抱きしめる。 「よしよし、アイ。もう泣かないで……」 「なあに鼻の下伸ばしてんのよ、ぶぁっかシンジ! 自分の娘でしょうが!」 「鼻の下なんて伸ばしてないよ!」 「ふんっ。うそばぁっかり。デレデレしちゃってさ!」 「あ、もしかしてアスカ。自分の娘に焼き餅やいてるの?」 「だ、だ、誰が焼き餅なんかやいてるっていうのよ!」
再び喧嘩を始めてしまったシンジとアスカに、思わずアイは笑顔を見せた。 「ありがとう、お父さん、お母さん。あたし、誓ったはずだよね、がんばるって。恥ずかしいところ見せちゃったけど、あたし、もう迷わない。だって、あたしは世界を救ったお父さんとお母さんの娘なんだからね」 アイの力強いその言葉に、にっこりと微笑む、シンジとアスカ。 「がんばりなさい、アイ」 「がんばって。僕たちはいつでも君のそばにいるからね」 両親の励ましの言葉を聞いて、再び力が宿るのをアイは感じる。
「……そうそうアイ」 突然、アスカはいう。 「さっきから思っていたんだけど、あたしたちのこと、パパ、ママって呼んでくれないの?」 「えっ……?」 思いがけない母の言葉に、アイは少し驚く。 「お母さんって呼ばれるのも悪くないんだけど、何か堅苦しくて。昔はずっと呼んでくれてたじゃない」 「えと……、あの、じゃあ……、ママ……」 顔を赤らめて、アイはいう。 「なあに? アイ」 とびっきりの笑顔を返してくれるアスカに、アイも笑顔を見せた。 そんな母娘にシンジは話しかける。 「じゃあアイ。そろそろ行こうか。君が愛する、君を愛してくれる人たちを守りに」 「はい! パパ!」 目の前がすっと明るくなって、アイはいま自分がエントリープラグの中にいることに気づいた。
地上のネルフ総本部。 「もう、だめなの……、アイ……」 ピクリとも動かなくなった弐号機を見て、レイが苦しげに呟いたそのときだった。 突然、弐号機の4つの目が光る。 「アイ!?」 「弐号機、再起動しました! ……シンクロ率、急上昇しています。70……、80……、100を突破! 信じられません! まだ上がり続けています!」 「何ですって!? 暴走!?」 リツコが叫ぶ。 「シンクロ率、に、200!」 マヤの声がうわずる。 「……碇君、アスカ。アイを守ってくれてるのね」 起きあがろうとする弐号機を見ながら、だが、レイは自信に満ちた声で呟いた。 レイの確信。 上がり続けるシンクロ率を見ればわかる。あれはアイだけの仕業ではない。シンジとアスカがいるからこそ、あれほどまでに上昇するのだろう。 アイが弐号機に取り込まれる心配は、恐らくない。 「あの2人がいれば大丈夫。この戦い、勝ったわ」 レイの口元に、笑みが戻る。
弐号機のエントリープラグ内では、立ち直ったアイが大きく伸びをしていた。 シンジとアスカの姿は見えなくなってしまったが、2人の声はすぐ近くから聞こえる。 「いい、アイ? 傷つけられたプライドは、10倍にして返すんだからね!」 「またそんなことを……」 シンジがため息をつくのが聞こえる。 「うっさいわね、ばかシンジ!」 「もう、パパ、ママ。喧嘩はそれくらいにして……」 アイは笑いをこらえるのに必死だ。
(なんて楽しい人たちなんだろ……。よかった、こんな人たちがパパとママで)
楽しいだけではない。とても優しくて、強い人たち。2人の娘であることを、いまアイは無性に誇りに思いたい気分だった。 「アイ、用意はいいわね?」 プログレッシブナイフを再び装備して、アイは頷く。 「はい、ママ!」 「それじゃあいくわよ……、Gehen!」
アスカのかけ声とともに空中へ大きく飛び上がり、浮かんだままの量産機に向けてナイフを突き立てる。 「いい動きよ、アイ! さすがあたしたちの娘!」 「ありがとっ、ママ!」 「気をつけてアイ、ビームを撃ってくるかもしれないからATフィールドを展開して防御するんだ!」 「分かったわ、パパ!」
今度こそアイは容赦しない。完膚なきまでに、量産機をたたきのめすつもりだ。 量産機は再びあの閃光を放ったが、シンジとアスカに守られているアイの心には精神攻撃などもはや通用しない。 それどころか、かえってアイの戦闘意欲が高まっていく。
「いけええ!!」 地上に降り立った量産機に迫って強烈なパンチを放つ。 「右! 次は左! もっかい右! いい調子、アイ!」 アスカのかけ声にあわせて次々とパンチをたたきこみ、最後にアスカ譲りの踵落としを放つ。 「いまだ! アイ!」 シンジの声が聞こえた瞬間、アイは量産機の頭部にナイフを突き立て、切り裂いた。
ズガガカガアアアン!
それが致命傷だった。断末魔の声を残して量産機が大爆発する。 「やった!」 十字の形に立つ火柱を見て、アイも、シンジも、アスカも、地上のネルフ総本部にいる人々もそろって歓声をあげた。 レイはほっと肩で息をして、呟く。 「よくやったわアイ。ありがとう碇君、アスカ……」
エントリープラグの中のアイも、顔一杯に喜びの表情を浮かべていた。 「おめでとうアイ。よくがんばったね」 優しいシンジの声がする。 「さっすがあたしの娘ね! 超グッドでナイスな戦いぶりだったわ!」 明るいアスカの声もする。 「ありがとう、パパ、ママ……。あたしが勝てたの、2人のおかげだよ」 そう呟いたときだった。 再びアイの目の前にもやのような、霧のようなものが立ちこめる。 ただ、先ほどとは違い吐き気は頭痛は感じない。
「さて、と。シンジ、そろそろ行きましょうか」 「そうだね……、名残惜しいけど、仕方ないか。アイ、僕たちそろそろ帰るよ」 シンジとアスカの声がして、アイの表情が一転して暗くなる。 「そんな! せっかく会えたのに……、ねえパパ、ママ。行かないで! もうどこにも行かないでよ!」 (帰ってきて! あたしの側にいて!) 涙がポロポロとこぼれ落ちる。
「僕たちも君と一緒にいたいけど、それは許されないことなんだ。君は生きているけど、僕たちはある意味死んでいるんだから……。君と一緒にはいられないんだ」 残念そうな、シンジの声。 「でもあたしたちはいつでもアンタのこと、見守ってるからね。だからがんばって生きてくのよ」 さっきまでとは全く違う、沈んだアスカの声もする。 「でも、でも、パパ! ママ! あたしを1人にしないで!」 「なぁにいってんの。アンタにはレイやミサトや加持さん、ヒカリにジャージ、ほかにたくさんいるでしょうが。……1人なんかじゃないわ。アンタはみんなに愛されてる。寂しくなんかないはずよ」 「そうだよ。君の帰りを待っている人がたくさんいるんだ」 「だけど……、だけど……!」
「アイ、それ以上引き止められたら、あたしたち、帰れなくなっちゃう」 突然、涙声になるアスカに、アイも黙った。 しばらく時間が流れたあと、アイはためらいつつ問いかける。 「また、会えるかな……?」 「会えるよ、きっとね」 シンジの声が遠くなっていく。 「あたしたちはいつでも弐号機の中にいるんだからね。会いたいときはいつでも会えるわ、きっと。あ、そうだ、レイに会ったらさ、アンタをここまで育ててくれてありがとって伝えておいて」 アスカの声も、だんだんと聞こえなくなってくる。 「さよなら。パパ、ママ」 疲れからか、アイの意識もだんだんと遠くなっていく。 「……さよなら。いつかまた会えるわ」 誰だか分からない、大人の女性の声を最後にアイの意識は途絶えた。 だが意識を失う寸前、アイは見た。 シンジとアスカと、そしてアイの見たことのない女の人が、そろってアイに微笑んでくれているのを。
「アイ……、アイ!」 誰かがアイを呼ぶ声がする。 アイが目を開ける。まず飛び込んできたのは紅の瞳、それから蒼銀の髪。……心配そうな表情のレイがエントリープラグのハッチから覗き込んでいた。レイの後ろにはミサトやトウジ、ヒカリの姿も見える。 それを見てアイはうっすらと笑った。
(帰ってきたんだ……。ありがとうパパ、ママ。あたしを守ってくれて。また、会いにいくからね)
「ただいま……」 アイの呟きが、レイの心を満たした。
ネルフ総本部の喜びの声とは反対に、ある真っ暗な室内では、怒りに震える声があちこちから漏れていた。 「信じられん。あの量産機の精神攻撃をはね返すとは」 「碇アイ……、どうやらただ者ではないようだ」 「一度は倒れたはずなのだが」 「それにしても通常の戦闘は弱すぎる。やはり渚カヲルのダミープラグはもはや役に立たんか」 「ロンギヌスの槍があれば」 「この世にないものをどれだけ求めても無駄なことだ」 「新しいエヴァンゲリオンの量産までまだまだ時間がかかる」 「それまで新しいダミープラグの開発を行うか」 「いや、ダミープラグではもう埒があかん。今度は生身のパイロットを量産機に乗せるのだ」 「ほう」 「誰ぞ、心当たりがあるのか」 「いまはいないが……、やがては……」 暗闇の中、バイザーをつけた銀髪の老人の姿が浮かび上がった。 キール・ローレンツ。 ゼーレ、そして人類補完委員会を束ねる者。 「覚えておけ、碇……」 キールの憎しみに満ちた声が、暗い部屋の中にこだました。
■あとがき みなさん、初めまして。FUJIWARAと申します。 これは私の初めてのファンフィクションで、ヒロポンさんの「パパゲリオン」に触発されて書いたものです。 私がエヴァを知ったのが今年の3月。なにぶん初心者なものでまだまだ文章とかも未熟でお見苦しい点も多々あったと思いますが、お許し下さい。 この小説は今回で、「第1部」の終了となります。 ストックがなくなってしまったので、今後、掲載には少なからず時間がかかります。 もうしばらく、お待ち下さい。 なお、「第11話 新たなる適格者」は8月9日現在、20%程度の完成率です。 最後に、これを読んで下さったみなさん、私の稚拙な小説を発表する場を与えて下さったみゃあさんに心から感謝します。 ありがとうございました。 |
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<2000.08.09> |