※HALさん、タイトルの指定ください〜。よろしくです。
「なんじゃとー!」
ファトラのあげた叫びが謁見室の中で響きわたった。
「ファトラ、そんな大声をあげるものではありません。」
隣に座っていたルーン王女はファトラの動揺を納めるため静かに
諭すように注意した。
「す、すいませぬ姉上。アレーレもう一度もうしてみよ。」
「ですから、実家の用事のため一月ほどお暇をいただきたいんです・・・。」
アレーレは申し訳なさそうに、ファトラに言った。
「パルナスはクァウールさまと一緒に水神際の用意のために神殿に行ってますし、
私が帰るしかないんですファトラ様。」
「納得いかん!納得いかんぞ!」
ファトラはすっくと立ち上がりまるでだだっこのようにわめき散らかしていた。
理不尽の固まりのようなファトラからすればアレーレが自分をほってどこかに
行くと言うのが絶えられないのだ。
ルーン王女はアレーレがすこしのあいだいなくなることに動揺を隠せない
ファトラをかわいく思い、母性愛のようなものを感じていた。
「アレーレ、用事というのはなんなのですか、差し支えなければ教えて
もらえますか。」
ルーン王女は横目でファトラを見つつ、やさしくそうたずねた。
「結婚式です。」
「「結婚式!」」
ルーン王女は喜びの、ファトラは驚愕の顔で同時に答えていた。
「アレーレ、そなたわらわを見捨てて男なぞと結婚するのかそんなこと
ゆるさん!」
結婚式と聞いてファトラはますます暴走していた
「違いますよファトラ様、私じゃなくていとこの結婚式です。」
それを聞いたとたん今までのあわてぶりもどこえやら、ファトラは腰を下ろして
大きな声で笑い出した
「わっはっはっは・・・・・・そうかそうか、アレーレがわらわを見捨てるはず
ないと思っていたぞ!」
「あーん、ファトラ様、私のことをそんなに信じていてくれるなんて
感激です。一生ついていきます。」
どこをどう聞いたらそんな解釈が生まれるのかはわからないがアレーレは
ファトラに近づき体をすりすりさせていた。
「おう、ういやつじゃのう。しかし一月もの間離ればなれになるのは・・・・・・
そうじゃ姉上!」
「なりませんよファトラ!」
そこはファトラの考えていることはお見通しのルーン王女は先手を打った。
「姉上、まだなにももうしてはおりませんが。」
「あなたの考えていることはわかっています、アレーレとともに行動したいと
言いたいのでしょうが、3日後には同盟国の来賓がありますし、
10日後には奉納の儀式があります。これはあなたでなくてはならないの
ですよ。」
ルーン王女はきびしく、そしてさとすようにファトラに言った。
王女の威厳を感じ取ったふたりは
「アレーレ」
「ファトラ様」
と、抱き合いながら世の中の不条理を感じていた。
(しかたあるまい、こうなれば奈々美をわらわのものにする算段でも考えよう。)
ファトラの頭の中では別のよこしまな考えがうかんでいた。
ファトラの考えていることがわかっているルーンはひとり頭をかかえるのであった。
「クシュン!」
「どうしたん奈々美ちゃん。風邪でもひいたんか。」
「それはいかんな、どれわしがよい薬を調合してやろう。」
ストレルバウの研究所内で誠とストレルバウといっしょにお昼を食べていた
奈々美はいいしれぬ悪寒におそわれていた。
「いや風邪を引いた訳じゃないんだけど、なんか急に鼻がむずむずして・・・・・・。」
「なんじゃ、だれかにうわさされるようなことでもしたんじゃないのかな
奈々美殿。」
「そんなことしてませんってば・・・、一緒に悪寒もしたからきっと
ファトラとアレーレがなんか悪巧みでも考えているのに違いないいわ!
前にもこんな悪寒がしたときアレーレとファトラたら・・・・・・・・・・・・。
ああ思い出しただけでも腹が立つわ!」
適当なことを言いながらしっかり的を得ていた奈々美であった。
「ははは・・・、そう言えば奈々美ちゃん明後日から一週間ほど
マルドゥーン山の神殿に行くんやて。」
誠は最後のお茶をすすりながら、さりげなく話題を変えようとした、
決まってこの話が続くと最後には奈々美は誠にあたりちらすからだった。
「うん、クァウールとパルナスから頼まれちゃって、なんでも水の神官達が
集まって儀式をするらしいんだけどその神官達の食事の準備とか手伝って
ほしいって!誠ちゃんも一緒にいってくれるでしょ。」
奈々美は喜びの顔を上げながら言った。実はクァールからは正式な依頼として
依頼料をしっかりもらっていた。しかも考えていたよりも多かったために
速攻で返事をしていったのだった。
「えっ!そんなことなんも聞いてないで。」
「今言ったじゃないの。」
あっけにとられた誠だったがすまなそうに
「ゴメン奈々美ちゃん。ちょうど実験とかさなってて行けそうにあらへんわ。」
本当は黙って依頼を受けていた奈々美が悪いにも関わらず根が優しい誠は
本当にすまなそうにしていた。
「えー、まこっちゃんそれってずらせないの。」
道中誠と二人だけで一緒に旅ができると思っていた奈々美はあきらめきれずに
実験の日にちをずらすようお願いした。
(二人っきり!今までシェーラシェーラやクァウール達の邪魔があったけど
ここであたし達のなかを進展させる絶好のチャンスなのに・・・あきらめきれないわ!)
そんなことを思いながら返事をまっていたが返ってきた答えは
「でも実験を手伝ってもらうためにアフラさんにこっちにきてもらうように
頼んであるさかい、ちょっと無理やわ。」
「そんなーーーーーーーーーー。」
捕らぬ狸の皮算用!この言葉がぴったり合う奈々美ちゃんであった。
そんなことがあった日から3日後ルーン王女とファトラは次から次ぎへと来る
同盟国の外交使節団との会談を済ませていた。
「もういやじゃ、我慢できん!ロンズ、おぬし残っている使者どもを帰らせい!」
朝からもうすでに9つの応対を済ませていたがそのほとんどはたわいのない
挨拶や儀礼的なものであり、ファトラにとっては退屈きわまりないものであったからだ。
「そんな無茶をお言いになられますなファトラ姫。」
侍従長のロンズもルーン王女達とともに応対していたのでファトラ姫の
言いたいこともわからないでもなかった。
「ロンズ、後どれくらい残っているのですか。」
「は、後はカトラ王国のファラリス王女さまです。おそらくは先日に我が国から
送りましたご婚礼のお祝いの返礼かと思いますが。」
ルーン王女はファラリス王女の名前を聞くと、昔一緒に遊んだときのことを
思い出し思わず喜びの笑みを浮かべていた。
「そうですか、ファラリス王女なら私もよく知っておりますしただの返礼だけ
でしたら私一人でも失礼に当たらないでしょう。
ファトラも疲れているようですから。」
「さすがは姉上、それではこれで失礼します。」
そう言うとすかさず王の間から立ち去るファトラであった。
「まったく、あやつらときたら会うたびに婚約だの、見合いだのしつこいことじゃ。」
本日の来賓客は、同盟国の王族がほとんどで会談の内容も自分たちの立場を
強化するためにまだ未婚であるルーン王女とファトラ王女に自分の息子や
親族をすすめにきていたのである。
前からもこのような話は起こっており、ルーン王女は一時期同盟の結束力を
高めるために同盟国のガレス王子と婚約を交わしていたが、ガレス王子が
幻影族に暗殺され幻影族の王ガレスがなりかわっていたと言う事件があり、
婚約は破棄され、またバグロムの侵略も撃退したと言うこともありそう言う話は
一時期止まっていた。
だが最近あった水の大神官の結婚式と言うイベントがありこれを機にルーン王女にも
身を固めていただきたいと言う話が国内で起こっており、それを聞きつけた
同盟各国がこぞって話を持ってくるという事態がおこっていた。
その矛先はルーン王女だけでなくファトラ王女にも向けられていたために
すっかりうんざりしていた。
「だいたい何で男なんぞと結婚せねばならんのだ。そもそも男と言うものは、
不潔だし、がさつだし、汚らしいし、あさましいし、信用ならんし・・・・・・・・・・・・。」
一人でぶつくさつぶやきながら歩いていたが、男というものに対して考えていると
なぜかいつも頭に浮かんでくるのは誠の顔だった。
そのうち無意識のうちに誠のことを考えている自分に気付くと、
「なんでわらわがあやつのことを思い浮かべねばならんのじゃ!」
と自分で自分を怒りながら歩いていった。
するとうつむいていたためか横の通路から現れた人とぶつかってしまった。
不意なことだったこともありファトラは思わずしりもちをついていた。
「すいません大丈夫ですか・・・。なんやファトラさんやったんか。」
ぶつかった相手は誠だった両手に荷物をいっぱいに抱え前がよく見えていないようだった。
ついさっきまで誠のことを考えていたので思わずファトラは顔を赤くしてしまった。それを見た誠は
「ファトラさんなんか顔赤いですよ。なんかあったんですか?」
「なんでもないわこのバカタレが!」
ファトラは自分の感情をごまかすために誠をグーで殴り走り去っていった。
後に残された誠は今まで持っていた荷物を落としてぼーぜんとしながらつぶやいた
「いったいなんなんや・・・・・・。」
そんなことがあった数時間後最後の来賓客も帰り、ルーン王女とファトラは
私室で二人一緒にくつろいでいた
最後の来賓客となにかあったのか、ルーン王女は先ほどからため息ばかり
ついていた。
「姉上、何かあったのですか?」
ファトラもさすがに気になりルーン王女に尋ねて見ても何でもないと言う
答えしか返ってこなかった。
ファトラは何かがあるのならばそのうち姉上の方から教えてもらえると思い
そのことについて考えるのをやめにした。
いつもならアレーレとすばらしい時間を過ごすファトラだがアレーレは
実家に帰っており、また奈々美も不在であることがわかっており暇を持て余していた。
そんなときには町へと繰り出して女の子をひっかけるファトラだったが、
昼間に誠をちょっとしたことで殴ってしまいそのことが気になって外にでていく
気がしなかった。
いつものファトラならそんな些細なことはすぐにわすれてしまうファトラで
あったが、会談の中で結婚や見合いだのはたまた年老いた王族からは
男と女の関係について聞かされており、男と言う存在についてほんの少しだけ
考えてしまっていた。
そして誠はファトラの近くにいる男と言う存在の中で、同じ年頃でありまた
もっとも身近に感じられる存在であった。
いつもは奈々美やシェーラシェーラを落とす上での邪魔な存在でしかなかったが、
男と言う観点から考えると他の男達と比べて遙かにましであり、
むしろ自分でも気付いてはいないが好感を持っていた。
エルハザードの世界においてはまだまだ男尊女卑の考えが浸透している中で
誠は持ち前の優しさもあり女性に対しての偏見などは持っていなかった。
そしてなにより、誠はいつも自分を一国の王女としてではなく常に一人の人間
として接してくれた。
そんなこともあり誠に対しては、少し気になる存在であったが、
いつもは女性愛好家としての本能が相手が男であるという事柄に対して
拒否反応を起こしていた。
自分の中でもやもやしたものが発生してくる気がしてなんとかこのことを
頭の中から忘れようとした、その時ふとルーン王女の横にある小さな壺が
目に入った。
「姉上、そこにおいている奇妙な壺は何なのですか」
確かにその壺は奇妙であった。形がおかしいのではなくその色彩が何とも
奇妙だった。
全体に紫がかった色で所々にどぎついとしか言いようのない濃い紫が何の
脈絡もなくただついている、と言う代物であった。
「ああこれですかこれはファラリス王女からいただいたものですよ。」
「その奇妙な壺をですか、特別な価値があるようには見えませぬが。」
ファトラはしきりにその壺を見てみたがどう考えても高価な品には見えなかった。
「その中にはお香が入っていて、何でもそれを焚いたことでファラリス王女の
願いが叶ったそうですよ。」
「願い事を叶えてくれるお香ですか。そんなものあるはずないではありませんか、
そもそも願い事というものは自分の力でかなえるもので、他人にしてもらうこと
ではありませぬ。」
常に自分から行動するファトラにとってはそれはあまりかちのないものでしかなかった。
「ファトラ、これはファラリス王女よりの心のこもったおくりものですよ。
あまりそのように言うものではありません。おまじないのようなものですから
それを大事に思うことも大切ですよ。」
ルーン王女からそう言われるとファトラはうつむいて少し考え事をした。
(そうじゃこれを誠のところに持っていってしんぜよう。
ま、たまにはわらわの寛容なところをみせねばの。)
素直に謝れないファトラはそう頭の中で整理をつけることにした。
思い立ったら即座に行動に移るファトラは
「姉上、そのお香をば、少し分けていただけませんか。」
そう言ってルーン王女にお香を少しばかり分けてもらい、その足で誠の家へと向かっていった。
(update 99/09/18)