室内にはある程度音量が抑えられたサラサーテのツィゴイネルワイゼンが流れていた。

 

 

 

 

 

およそ病院には似つかわしくないパステル調の壁でその部屋は四方を囲まれている。

患者に圧迫感を感じさせないように、通常の三倍程の空間がその診察室には採られていた。

 

 

「それで・・・君の名前は?お嬢ちゃん」

如何にも温厚そうな風体をした四十代半ばと思しき男性医師が少女に話しかける。

 

医師は少女に緊張を強いることの無いように、あえてチェックのネルシャツにチノパンというラフな

私服姿で対峙していた。

 

「・・・・・・・・・・」

俯いたまま返事をしない少女に何か促すでもなく、医師は温和な笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ・・・先生も君に会うのは今日が初めてだからね、実はちょっとドキドキしてたんだ」

「・・・・・・・?」

 

初めて少女の顔が医師に向けられた。

そこにはただ------優しさだけがあった。

 

「いや、家にも君と同い年くらいの娘がいるんだけど、これがもう全然私の話を聞いてくれなくてね、

今日も学校に行かせる前にちょっとした事で大ゲンカしちゃって・・・ああ、本当に・・・・・」

 

苦笑いしながら手に持ったペンをくるくると弄ぶ医師の姿に、少女は身体の緊張が少しずつだが

解れていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

                              

                   SOUL OF FREY 3 

                    

 

 

 

 

 

 

部屋の中に入って来たその男は、死人のような目をしていた。

 

 

 

事実、何処にも焦点の合っていないその虚ろな瞳を見てしまったフレイは、思わず小さな悲鳴を

あげていた。

 

「だっ、誰なのっ!?」

仮眠をとっていた為、照明を落としていたことが余計に恐怖心を増大させた。

 

男はフレイの言葉を意に解していないかのように、無造作に部屋の中へと歩を進める。

「ひっ・・・・!」

フレイが目を瞑った瞬間、男は派手な音を立ててベッドに倒れこんできた。

「なっ・・・な・・・・・!!」

 

身体が硬直してしまったフレイは、ベッドの上でへたり込んだまましばらくは呼吸するのさえ忘れて

その男を凝視していた。

 

ようやく薄闇に目が慣れてきた時、うつ伏せになっている男から呻き声のようなものが洩れてきた。

その時点でようやく男の正体が判ったフレイだったが、生じた怒りはその男の発する言葉の前に

あっけなく霧散させられていた。

 

 

「・・・くそっ・・どうして・・・殺させる・・・・畜生っ!・・・・・」

「何で・・・・憎んでもいない・・・貴方は・・・死にたいのかっ!?・・・・くそぉおっ!!」

 

 

「キラ・・・・・」

 

まさしくそれは呪詛だった。

誰に向けられるでもなく、彼自身に対しての。

 

 

先程の戦闘を終えて、アークエンジェルは紅海に出るルートを採っていた。

それは砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドを撃破した事を意味している。

最近キラがよく口にしていた「もう一度会ってみたいひと------」それが砂漠の虎だった。

 

「何かさ・・・見つけられるような気が・・・するんだ」そう語るキラの顔には、近頃では滅多に見る

ことが出来なくなっていた穏やかさのようなものが、微かに浮かんでいたのをフレイも憶えていた。

 

 

 

 

「くそぉっ!・・・何なんだよ!?・・・・戦争だからって・・・・・・!!」

ベッドに顔を埋めたままのキラから、歯軋りする音までが洩れてきた。

「・・・・・・・キラ」

無意識のうちにフレイはキラの頭にそっと手を置いていた。

 

----------!?」

それまで他の人間がこの部屋に居ることにすら気付いていなかったキラは、その場で固まったかの

ように口を閉ざした。

 

 

ゆっくりとフレイの指先が、キラの髪の毛の間に滑り込んでいく。

 

フレイもキラも、しばらくの間お互いに一言も発しなかった。

 

 

--------トリィの金属的な乾いた羽音だけが室内の静寂を破っていた。

 

 

 

 

 

 

やがて、おずおずとキラがシーツを握り締めていた手を離し、フレイの掌の上に重ねてきた。

その汗ばんだ手はしかし、今しがたプールからあがってきたかのように冷え切っていた。

僅かに-------震えている。

 

 

「・・・ホラ、こっちの方が暖かいよ?」

そう言ってフレイが自らの膝の上に誘導すると、キラは素直に其処へ頭を乗せてきた。

髪の毛が膝と膝の間に数本入り込んできて少し擽ったかったが、それは決して不快感を伴うもの

ではなかった------その事実にフレイは軽い衝撃を受けていた。

 

「・・・・ありがとう」

ようやく落ち着いてきたのか、キラはフレイの方へ顔を向けて笑顔を見せた。

だがその目の下には、どす黒い隈がはっきりと浮かんでいる。

瞬間、フレイは端整な顔立ちをしたこの少年の瞳のなかに、全き虚無を垣間見た気がした。

 

「ううん・・・それより少し寝た方がいいよ。しばらくは戦闘もないんでしょう?」

フレイは自分の声が震えていないか、確かめることすら出来なかった。

 

キラは自分で作り上げた殺人者という幽居の中にその身を置いている。

そこから逃れようにも、その周りに夥しく堆積している「死」が彼を離すはずがなかった。

そしてそれを彼に選ばせたのは紛れも無くこの自分、フレイ・アルスターなのだ。

 

 

 

 

「うん・・・・・・ありがとう、そうするよ」

一言、掠れた声でつぶやくと、瞬く間にキラは眠りにおちていた。

 

 

剥き出しのキラの白い首筋、そこにフレイは目立たない小さな黒子を二つ見つけていた。

---------!!」

今まで何度も身体を重ねてきたのに、その黒子をフレイが見たのは今日が初めてだった。

 

 

 

 

 

共同体を形成するという事は、それに伴う暗部も共有するという事だ。アークエンジェルのような

小規模の集団でさえ例外ではない。

 

人が集まれば権力闘争が始まり、その中ではどうしても劣る者が有形無形の虐待を受ける。

そしてこの艦でその役-----共同体におけるガス抜きとして機能していたのは皮肉な事に最も

優秀であるはずのキラ・ヤマトだった。

 

それは各々の好悪の感情を抜きにしても、否、寧ろそれゆえに一層艦内全体の意志として、

嫌が応にも彼がコーディネーターであるという事実を浮き彫りにさせていた。

 

だが、その彼がアークエンジェルに乗る全ての人間の生死を左右していることもまた事実だった。

それが普通の人間には到底耐え得る重荷ではない事を、フレイはようやくリアリティを伴って理解

する事ができたような気がした。

 

 

自分とあらゆる意味で対極に位置しているキラ・ヤマト。

しかし彼は姿形を変えた自分自身に他ならないのではないか。

 

自分とキラの共依存のような関係を、朧げながらも自覚しつつあったフレイだったが、その果てに

彼女が感じたものは、あまりにも唐突過ぎる性衝動だった。

 

 

腰から立ち昇ってきた疼痛は、遂に胸の先端で結実しようとしている。

 

未だ自分の膝の上にやつれた頬を乗せたまま眠り続けるキラ。

その頬に在る産毛とフレイの太腿に在る産毛が微かに---------触れた。

 

 

気付いた時には既にフレイは下着を汚していた。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「なぁ・・・エドセル、本当に君はそれでいいのかい?」

思わず聞き返した医師の言葉に少女は力強く頷いた。

「構わないですよ、先生。何しろ僕は姉想いのできた弟ですからね」

不敵な笑みを浮かべた少女は、通い慣れたこの診察室で再び宣言した。

 

 

 

 

あの日から9年-------。

解離性人格障害と診断された少女、フレイ・アルスターが内包していた合計七つの人格は、

治療によってほとんどが統合または吸収され、現在は主人格たるフレイ、そしてエドセルと名乗る

二つの人格に分けられていた。

 

被虐待児童-------それも性的な-------だった幼児期のフレイは、「それ」に耐える為にも

自分とは別の人格を作り出す必要があった。

自分の代わりに父親からの虐待を引き受けてくれる人格が。

 

そうして造りあげられた幾つかの人格は、当然のことながらフレイを糾弾して、治療の際の人格

統合に強く反対してきた。

そうした他の人格達の意見を上手くまとめあげて、なるべくフレイ自身に負担がかからないように

腐心してくれたのが他ならぬエドセルだった。

彼なくしてはフレイ・アルスターの治療は遅々として進まなかったであろう事は想像に難くない。

 

それゆえ、治療当初はフレイの父親の告発を考えていた医師も、フレイ自身、いやエドセルの

強い主張の前には首肯せざるを得なかった。

 

「いいんですよ、先生。アイツも後妻を迎えておとなしくなりましたからね。それよりも姉があの事を

思い出してしまう方が問題ですよ、僕にとっては」

当然のことだが、他の人格に身体を明け渡している時の記憶は、フレイにはない。

だがある程度人格が統合されている今、真実を知る事によって意識下から立ち昇ってくる記憶

が無いとは断言できなかった。

だから強ちエドセルの意見も、杞憂と一笑に付す訳にもいかなかったのだ。

 

「・・・そうだね、その可能性は微小だけれど確かにあるかもしれない」

「でしょう?先生。それに又アイツがふざけた真似をするようなら・・・今の僕なら姉さんを守るくらい

の腕力は充分ありますからね!」

 

鼻息も荒く眼前の美しい少女が腕を捲ってみせる。

そう、初めて会った時には6才だった「彼」も今や15才、その早熟さには落ち着きが加わり、高い

知性と優れた感受性を獲得していた。

 

だからこそ、医師は彼の選択を惜しんだ。

だが同時に羨望も感じていた。

 

 

姉が本当に信頼できるひとに出会えたら自分は消えることにします---------。

 

 

 

まるで日常の挨拶でもしているかの様に、エドセル・アルスターは淡々と自分の死期を伝えた。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

急いで新しい下着に履き替えたフレイだったが、それはあまり意味を成さなかった。

 

フレイは、ベッドの上で微かな寝息を立てているキラの下半身の、ある部分を注視していた。

あお向けに寝ているキラの「そこ」は、内側から布地を突き破らんばかりに屹立していたのだ。

 

「・・・・っっ・・・はぁ・・・ああ・・・・・・っ」

奇妙な昂ぶりがフレイの全身を支配していた。

自分の鼓動が下腹部の貪婪さを自覚させる。

わけても、その頂点に位置する紅色の小さい突起が、先刻からフレイに吐息を吐かせていた。

 

------今まで只の一度も直視できなかった部分だったというのに。

 

男性器の育ちきった形というのは、これまではフレイにとって嫌悪の対象でしかなかった。

キラと交歓している時でさえ、決してそれを見ようとはしなかったし、触れるのさえ嫌だった。

それが幼児期に父親から受けた性的虐待に起因している事など、フレイには思いもつかない。

 

ただ解るのは、愛しい------。

いま自分の眼前で無防備に眠っている男が。

 

咀嚼したい。

キラを。

それは浮薄さとは無縁の、夾雑物が一切存在しない性欲だった。

 

フレイは湧き上がる欲望を抑えることができずに、キラのズボンのジッパーを引き下ろした。

続いてトランクスの中で窮屈そうにしているモノを開放してやる。

シャワーをまだ浴びていない為か、キラの陰毛は艶が無く、無造作に広がっていた。

独特の饐えた香りがフレイの鼻腔を擽る。

 

「それ」は、整った------ある種女性的と言ってもいいようなキラの顔立ちからは到底想像でき

ないほどの傲慢さを体現していた。

だがもはやフレイにとって「それ」は忌避すべき対象ではなかった。

 

耐えられなくなったフレイは、キラの股間に鼻先を突っ込み、脚の付け根に舌を伸ばした。

其処に溜まっている汗や他の分泌物の混じった匂いがフレイを陶然とさせる。

 

そして其処に舌を這わせ、ぴちゃぴちゃとはしたない音をたてながら何度も舐めた。

 

この瞬間、フレイは潔癖というものから逸脱していた。

 

 

 

 

 

水の跳ねるような音が室内に響いている。

薄闇の中で浮び上がる裸身の少女は、少年の尖った部分を口内に収めていた。

「んんっ・・・んぐ・・・っ、はむっ・・・」

上気した頬は、内側からの乱暴な動きによって時々隆起している。

 

初めて口に含んだキラの陰茎は、想像していた以上に熱くて、硬かった。

含んだ瞬間に口の中に広がったアンモニア臭は、既に完全に舐めとってしまっていた。

歯を立てないように気を付けて唇でしごいていると、ものの2、3分で顎が悲鳴をあげた。

 

「ん・・・んっ、ぷはっ・・・」

吐き出したキラの陰茎とフレイの形の良い唇が、光る極細の糸で繋がっている。

臍のあたりまで反り返った陰茎の下方に、ゆるゆると蠢く睾丸を二つ収めた袋が見えた。

 

 

重力で垂れ下がっているキラの陰嚢。

その片方を優しく口に含む。

「はむ・・・・っ」

技巧など何も無い。

何も知らないが故にフレイは只ひたすら誠実にキラに接した。

 

両脚をほんの少し持ち上げると、そこに在る肛門と呼ばれる排泄器官を確認する事ができた。

 

フレイは何の躊躇いもなくその襞を舌先で舐めあげた。

「ん・・・・っ」

僅かに刺激臭がするが、構わず穴の周囲も舐めまわす。

「うっ・・・・・・」

さすがにキラが微かなうめき声をあげたが、まだ覚醒には至っていない。

だが本人の意志とは無関係に、射精を予感した睾丸は急速に上方へと収縮していった。

フレイはその不可思議な動きにつられてか、キラの先端を無意識に咥えていた。

 

その途端、キラは暴発した。

「うあぁっ!・・・・あああぁ!!」

未体験の夢精というものに見舞われたキラは激し過ぎる快感と共に急激に目を覚ました。

「ん〜っ!?んぐぅっ・・・むぐ・・・っ!!」

一方、こちらも初めて口で男の精を受けたフレイも、そのあまりの勢いと量に窒息寸前だった。

 

------漏らした!?

もはや制御の効かない自分自身に呆然としながらも、なんとかキラは上半身を起こした。

しかしその部分は何故か見えない。

その代わりに股間に在るのはフレイの顔だった。

 

「フレイ!?・・・・うわぁっ!」

自分ものを根元まで口に含んでいるフレイを見たことで再び強烈な射精感に襲われたキラは、

腰を痙攣させながら何度も炸裂させてしまった。

「・・・こふっ、けほんっ・・・・・」

噎せながらもフレイは口の中に溜まっていく精液を次々と飲み干していく。

 

ようやくキラがその動きを止めたとき、ベッドの上には精液の染みが広がっていた。

「ど、どうして・・・フレイ、それ・・・イヤだったんじゃないの?」

口唇愛撫が苦手なのを以前本人から聞いていたキラはただ戸惑っていた。

だがフレイは飲みきれなかった分の白濁を顎から垂らしながら素直に頷いた。

「うん、でも平気になったみたい」

そう言って、微笑を浮かべた。

 

キラは自らの愚鈍さを象徴する諦念を、憂鬱を、それが包み込んでくれたことを確信した。

「フレイ・・・・僕は--------」

それ以上言葉が続かず、無言で裸の少女を抱きしめる。

「ねぇ、シャワー浴びようよ・・・?」

キラの陰茎は今しがたあれ程放出したばかりだというのに、完全に勃起してフレイの白く柔らかな

腹部をぐいぐいと押していた。

 

それはキラの真摯さを何よりもフレイに伝えてくれた。

 

そしてフレイはキラを胎内に取り込みたいという眩暈すら伴う認識を初めて自覚していた。

 

 

 

床に落ちている古い型の携帯が視界に入ったが、フレイは小首を傾げただけで直ぐにキラの背

を押してシャワールームの扉を閉じていた。

 

中から二人の嬌声が聞こえてくる。

 

 

-------その日からフレイが悪夢でうなされることはなくなった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「・・・・キラ遅いなぁ・・・もう、いつまで整備してるのかしら」

 

あれから二週間-------。

いつもの様に二人分の食事を部屋に持ち込んできていたフレイだったが、あまりにもキラの帰りが

遅かった為に、悪いと思いながら自分の分だけは食べてしまっていた。

 

「いいよね・・・あ、そうだ、帰ってきたらまた背中流してあげよう!キラって恥ずかしがる癖にすごく

気持ち良さそうにしてるもの・・・ふふっ・・・・」

そう言ってバスタオル等を揃え始めたフレイだったが、それも終わるとする事が無くなってしまった。

 

「むぅ・・・・遅いっ!また軍曹たちにいいように使われてるんだわ!・・・いくらキラがプログラムが

上手いからって、そこまでやる必要ないのに・・・・」

言い終える前にフレイは立ち上がっていた。

「うん、やっぱり捕まえてこよう!」

勢い良くドアを開けて駆け出したが、部屋の前を通り過ぎようとしていた誰かと思いきりぶつかって

しまった。

 

「あたた・・・・何よ!ちゃんと前見てよね!」

額を押さえながら理不尽な抗議をしてみるが、当初の目的を思い出す。

「あっ、カズイ!・・・キラ見なかった?もしかしてまだストライクの整備させられてるの?」

だが問い掛けられた方のカズイは、ぶつけられた肩の痛みからか不愉快そうな顔をしただけで

答えようとはしない。

「・・・何よ、悪かったわよ。・・・ねぇ、それよりキラはまだ整備班にいるの?それとも・・・」

「・・・・いいかげんにしてくれ!」

普段は物静かなカズイが発した怒声にフレイは思わず身体を硬直させた。

「なっ、何よ!そんなに怒らなくたって・・・」

 

だがフレイのその声を聞いて、カズイの怒気は一瞬で収束した。

それどころか呼吸困難にすら陥りそうになる。

凝視してみても、フレイの瞳には自分の態度に対する不満げな色が映し出されているだけだった。

 

 

「キラは・・・三日前から・・・MIAだろ?」

ようやくそれだけを言葉にする。

「MIA?・・・何それ」

カズイは思わず顔を顰めた。

息が苦しい。喉の奥がいやな粘り気のもので塞がれていくようだ。

 

「・・・行方不明、戦死したって事だよっ!」

「え・・・・?」

カズイはそう吐き捨てると、その場から逃げるように駆け出していた。

 

 

 

艦内の風景が微妙に歪んでいる。

壁に手をついていないと、立っていることさえ難しい。

また敵の攻撃を受けて艦が揺れているのだろうか。

そうか、敵を倒すために出撃しているからキラは戻ってこないのだ。

 

覚束ない足取りで部屋に帰り、なんとかベッドの上にフレイは座った。

そして何気なく顔を上げて向かいにある簡易テーブルを見ると、其処には手付かずの6食分の

皿が綺麗に並べられていた。

 

 

「あ・・・・・あは・・・・・」

フレイは引き攣った笑いを浮かべていた。

喉の乾きは耐え難い領域に達しようとしている。

視界の隅に四角い箱が入ってきた刹那、フレイはきつく目を閉じて深呼吸をした。

それは遺品入れだった。

瞼が痙攣し始める。

程なく強烈な嘔吐感に襲われ、フレイは先刻食べたばかりのものを全て床にぶちまけた。

「あ・・・がっ!・・うえぇぇっ・・・・・・おげぇ・・・・・っ!!」

助けて。

「うげぇぇっ!!・・・・・あぁあぇえっ!」

誰か。

 

 

錯乱してベッドから無様に転げ落ちる。

フレイの整った顔立ちは、涙と鼻水、そして吐瀉物にまみれていた。

「あぁぁあ・・・・っ!ひぃぃっ・・・・・!!」

もはや人語を解さぬ生物に成り果てたかの様に、フレイは呻き声だけをあげて這いまわっていた。

「あああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして三年の月日が流れた---------。

 

 

 

 

 

                                     TO BE CONTINUED