LIKE A HURRICANE               

                                             前編           

 

 

 

 

 

 

 

 

右ハイ・・・・・!!

 

相手の予備動作からそう予測した綾香は、迷わず間合いから半歩踏み込んだ。

 

 

視線の動きで逆方向にフェイントをかけていたラガン・ミヤトビッチは、綾香の側頭部に自分の蹴りが

ヒットすることを確信していた。

 

実際、母国クロアチア予選では、このキックで勝ち上がってきたラガンだった。

 

ガツ・・・ッ!

 

 

鈍い音と共に、綾香の身体がよろめく。

「綾香さんっ・・・・!!」

浩之の隣にいた葵が、悲鳴と共に立ち上がる。

 

 

だが、ラガンのハイキックは、完全に綾香の上腕部で受けきられていた。

 

 

ラガンの足先に体重が乗り切る前に、あえて自分から当たりにいった綾香には、ほとんどダメージはない。

 

 

 

--------!?」

 

即座に蹴り足を戻そうとするラガン。

それを綾香は待っていた。

 

 

「ふっ・・・・!」

 

 

綾香はその動きに合わせて更に半歩踏み込み、両手でラガンの足首を掴む。

「くっ・・・・!?」

 

この戦いが始まって、初めてラガンの顔に焦りの色が浮かんだ。

 

 

「はぁ・・・っ・・!!」

 

綾香はそのままラガンの足首を捻りながら、自らも身体を浮かせて両脚で相手の腿を抱え込む。

 

「おおっ・・・・!?」

場内がざわめいた。

 

 

 

 

 

葵の悲鳴から数秒後、浩之が見たのは、アンクルホールドを極められてタップをしている

ラガン・ミヤトビッチの姿だった。

 

 

-----勝者、来栖川綾香!」

 

 

 

 

試合時間5分07秒。

 

 

2003年 エクストリーム WORLD GP 2回戦が終わった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「綾香さ〜〜んっ」

興奮した面持ちで、葵が選手控え室のドアを開ける。

 

綾香は、クールダウンも兼ねて専属のトレーナーから整体を受けているところだった。

 

「ん・・・・、ああ、葵、来てくれたんだ」

少し眠そうに綾香が答える。

 

試合直後の緊張した筋肉を解されていた綾香は、いつものことだが抗い難い眠気に襲われていた。

 

「うぃ〜〜っす」

葵に続いて、浩之が部屋に入ってきた。

 

「・・・・浩之も・・・ねえ、どう?言ったでしょ、楽勝だって」

ふふん、と、お嬢様にはあるまじき鼻息の荒さで綾香は胸を反らせた。

 

 

「ま〜な、しっかしアイツ190pはあったぜ?しかもキックボクシングのチャンプなんだろ?」

「ふふ・・・しょせんローカル団体のでしょ?・・・次は少し違うようだけど」

 

 

モニターの中では、既に次の試合が始まっていた------。

 

黒髪で痩身の男と、長い金髪を持つ中肉中背の男が向かいあっている。

 

 

「この試合の勝者と明日戦うんですよね、綾香さん・・・あのひと・・・ブラジリアン柔術の・・・・」

「そう、エルスンド・レコバ・・・前回の優勝者」

「ああ、あの痩せたおっさんか・・・・確かそうだったな・・・」

 

 

 

浩之達が喋っている間にも、モニターの中では、レコバがするすると間合いを詰めていた。

 

 

相変わらず、両手でハンドルでも握っているかのような独特の構えで、上体を揺すっている。

両脚も、左右に開き気味に配置され、明らかにボクシングなどの立ち技系格闘技とは異なっていた。

 

一方、対戦相手のゼンィエン・デヴールは、何の構えもとっていなかった。

左右の腕は、腰の位置までだらりと垂れ下がっている。

 

 

「おいおい、あの金髪何し・・」

「シッ!浩之-----!」

 

鋭い声で綾香が浩之を制した瞬間、突如レコバがタックルにいった。

 

それはデヴールの呼吸のタイミングを絶妙にはずす、神速とも言えるものだった。

 

 

----------!?)

だがレコバは、相手の胴を掴む直前、全身の体毛が逆立つのを感じていた。

 

「・・・・・・・くっ!?」

 

瞬時に、思考よりも身体が先に反応した。

 

そのままタックルに行くスピードは落とさずに上体を仰け反らせて胸を合わせるタックルと思わせ、いきなり中段から

上段へと変化する蹴りを放った。

 

決勝戦まで出さないはずの技だった。

 

 

ピシ・・・ッ         

 

 

場内がどよめく。

 

レコバの蹴りに対してだ。

 

キック専門の選手でも、ここまでの蹴りができる者はそうはいない。

それを柔術の、寝技のスペシャリストが使いこなすとは-------。

 

だが、レコバの耳にそのざわめきは入ってこない。

(避けられた-----!?)

 

頭部を狙ったその蹴りは、あっさりとスゥエーでかわされていた。

だが、顎先に僅かながらヒットした為、デヴールもたたらを踏んだ。

 

勝機------!!

 

「っあああぁぁああぁあっ!!」

レコバは再度のタックルと同時に、脚と脚を絡ませてデヴールをマットに倒そうとする。

 

ゴッ・・・・!

 

 

鈍い音と共に、レコバは一瞬、視界が真っ暗になった。

 

だが、デヴールは自分の下にいる。

完全なマウントポジション。

(勝った・・・・!)

 

そう確信して、思わず笑みを浮かべたとき------。

 

「ああっ!綾香さんっ・・・あ、あれ・・・!!」

 

葵が悲鳴を上げてモニターを指差すと、そこではレコバが大量の吐血をしていた。

 

 

 

「・・・ガハッ・・・・・・!?」

デヴールの胸が、真っ赤に染まる。そしてそのなかで蠢くもの。

一瞬、蛞蝓か何かに見えたそれは------レコバの噛み切られた舌先だった。

 

 

「ひいっ・・・・・!!」

思わず葵が目を覆う。

 

「あいつ・・・レコバのタックルに合わせて肘打ちを頭頂部に・・・!」

綾香も立ち上がって、モニターを食い入るように見つめていた。

 

「あれじゃ頚椎も・・・ヤバイわね・・・・」

 

 

綾香の予想通り、幾つかの頚椎を痛めた事を、レコバも次第に強くなる下半身の痺れから察していた。

 

自分に残された時間は少ない------。

 

 

「・・・っかあああああっ!!」

 

血を吐きながら、レコバはラッシュをかけた。

上からデヴールの顔面に、無呼吸の連打を数十発打ち込む。

 

ガードの隙間から、何発かがデヴールの顔面にクリーンヒットした。

 

エクストリーム公式戦で使用されるグローブは、組み技系の選手の事も考慮され、限りなく

裸拳に近い形状をしていた。

そしてそれは、所謂ボクシングで多用されるグローブでのガードを、ほぼ無効化させることになった。

腕やグローブの間に僅かに開いた隙間から、拳が滑り込んでいくからだ。

 

 

その打撃を嫌ってデヴールが更に顔面のガードを固めたとき------。

 

「・・・いけないっ!」

 

綾香が叫んだ。

 

レコバは掌底で側頭部を打つと見せかけて、渾身の力を込め、鍛えあげた中指をデヴールの耳穴に

突き入れていた------。

 

 

試合で使うことのない、裏技だった。

 

中指は、第二関節まで耳穴に埋まっている。

レコバの瞳には、狂喜の色が浮かんでいた。

 

 

「・・・・・・・・薄汚い技だ」

--------!?」

それが初めて聞くデヴールの声だとわかった時、耳に突き立てていたレコバの中指は、根元から折られていた。

 

「ぐわ・・・っ!」

思わず半身をひねったレコバを、今度はデヴールが上から覆いかぶさるような形で固定していた。

 

サイドポジション。

 

柔道でいうところの横四方固めにも似ていた。

 

「うおおっ・・・・!!」

自らが最も得意とする体勢を、逆に仕掛けられてレコバは逆上した。

 

ぺき・・・・っ・・。

 

乾いた音がレコバの耳に届く。

 

レコバの右肘が有り得ない角度に曲がっていた。

 

 

V1アームロック------そう呼ばれている技だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、レコバ陣営からのタオル投入で試合は決した。

 

マットの上には、無残に両腕を折られ失神しているレコバの横で、胸と耳を血で染めながら笑みを

浮かべているデヴールの姿があった-----。

 

 

「勝者、ゼンィエン・デヴール!!」

 

 

「あの男っ・・・・・・!」

全身を小刻みに震わせながら、綾香はモニターを睨み続けていた。

 

 

綾香の準決勝の相手は、オランダ代表、ゼンィエン・デヴールに決まった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

その日の午後八時-----。

 

 

藤田家。

 

 

来栖川綾香は、藤田浩之に組み敷かれていた。

 

「んんっ・・・・んふぅっ・・・・」

ダークブルーのソファの上で、二人はお互いの舌を絡め合っている。

 

 

「浩之・・・ねぇ、頂戴・・・・」

そう言って頬を染めながら綾香が頼み込むと、浩之はいつものようにその可愛い口に唾をトロリと垂らした。

「あっ・・・んっ!・・・・んぐっ・・・ひろ・・ゆひ・・・んん・・っ・・・」

 

・・・ごくっ・・・ごくんっ・・・

 

人気のない一階のリビングに、綾香の喉を鳴らす湿った音だけが響く。

 

 

「ぷはっ・・・はあっ・・はあっ・・・ああんっ・・浩之の・・・おいし・・・・」

口内に注がれた唾液を全て飲み干すと、綾香はうっとりとそう呟いた。

 

 

「ごめんね浩之・・・最近大会の練習ばかりであまり・・・その・・できなくて・・・・」

「気にすんなよ・・・」

浩之が掌でブラウスの上から綾香の乳房を優しく揉みしだいた。

 

「んっ・・・ああんっ・・・気持ちいいよぉ・・・浩之ぃっ・・・!」

 

時々思い出したかのように、浩之の指先が綾香の突起をコリコリと弄ぶ。

「・・・はふうっ・・・ダメ・・いきなり・・・そんなところつまんだら・・・っ」

 

拒絶の言葉を舌に乗せてはみたものの、綾香は浩之に56戦連敗中だった。

 

 

 

 

だが「負ける」ことはとても心地良かった。

 

 

藤田浩之に負けることは-------。

 

 

 

「ほら、綾香・・・・・・」

「うん・・・・」

今も、愛液でぐちゃぐちゃになって気持ち悪いだけのショーツを、あっさりと脱がされていた。

無防備なそこが外気に晒され、綾香は恥ずかしさのあまり脚を閉じようとするが、腰に全く力がはいらない。

 

濡れ光り、股間にぴったりと貼りついている黒々とした陰毛も、見られている。

 

 

恥ずかしい。

 

だがそれ以上に、嬉しかった。

もっと奥まで見て欲しかった。

ここは藤田浩之のものだと大声で叫びたかった。

 

 

「綺麗にしてやるよ・・・綾香」

 

 

ぞくぞくする低音のヴォイス。

 

全身のうぶ毛が逆立つ。

 

はやく舐めてと哀願しそうになるのを必死に堪える。

 

ぴちゃっ・・・・・・。

 

 

 

「ふああぁっ・・・・!」

耐えきれずに、綾香は歓喜の声を洩らしてしまう。

 

自分が漏らしたはしたない汁を、浩之が舐め取ってくれている。

気が付くと綾香は、浩之に濡れ光る花びらがよく見えるように、自分で両脚の膝裏を抱えて大きく股を開いていた。

 

「ん・・・っ?もっと舐めて欲しいのか・・・・?」

少しからかうような口調で浩之に言われても、綾香は否定できずに無言で何度も頷いてしまう。

 

 

 

ちゅ・・・・っ

軽く、表面をなぞるように浩之がキスをした。

 

「ひうぅっ・・・・!!」

たったそれだけの動きで綾香は気が狂いそうになる。

 

実際、美しいカーブを描く綾香の乳白色の臀部はピクピクと震え、その中心にある淡い翳りからは

新たな蜜が滾々と溢れ出していた。

 

 

綾香が自分で両脚を支えたために手が自由になった浩之は、ブラウスの下にある双丘を

思うさま揉みしだいていた。

 

「んあ・・・・っ、やあっ・・・ひろ・・ゆきぃ・・・!」

乳房と秘唇、二つを同時に責めたてられ、綾香は我慢ができなくなっていた。

 

 

「ね、ねぇ浩之、お願い、もう・・・・」

 

そう言うなり綾香はソファーから降りてブラウスとブラを乱暴に脱ぎ捨て、尻を浩之の方に突き出すような

恰好で四つん這いになった。

 

「いやらしいなぁ綾香は・・・・」

 

浩之は少々呆れたような声を出してみる。

「だって・・・だってぇ・・・・」

案の定、綾香は自分の痴態を激しく意識したのか、羞恥と媚びが絶妙にブレンドされた声で鳴きはじめた。

 

「んで、オレにどうしろって・・・・?」

 

更に浩之がわざと突き放すように言う。

 

 

その言葉を待っていたかの様に、綾香は両手を後ろにまわして、白い陶磁器を思わせる尻を掴むと

指先で、濡れそぼった自分の花唇をグィッと広げた。

 

 

「こ、ここに・・・綾香の・・おまんこに・・・浩之のを入れてえっ・・・!」

 

普段なら死んでも言わないような科白を、綾香は嬉しそうに叫んでいた。

 

 

来栖川財閥の令嬢が、床に這いつくばって獣のような交わりを哀願している------。

その姿だけで童貞の男だったら漏らしてしまうかも知れない。

 

だが、浩之は其処に危うさのようなものを感じとっていた。

 

明日の相手------デヴールのことが気になっているのか、いや、正確に言うならば-------。

 

 

 

「ひ、浩之いっ・・・お願い、浩之の・・おちんちん・・・早くぅ・・・・・」

綾香の泣き声が、思索に沈んでいた浩之の頭を現実に引き戻した。

「・・・うん、わかってるって・・・・・」

 

今は綾香のことだけを考えよう。

 

綾香を安心させてあげることだけを-------。

 

 

くち・・・っ・・

 

おもいっきり広げられているそこに、浩之の熱を帯びた硬い先端が触れた。

「あっ・・・ああんっ・・・・」

綾香はあまりにも膨らみすぎた期待感のせいで、頭がおかしくなりそうだった。

 

 

ずぷぷぷっっ・・・!!

 

「くはああぁっ!」

何も言わずに、いきなり綾香の奥まで浩之が入ってきた。

 

「あっ、はあっ・・・ひ、ひろ・・ゆきぃ・・・」

下腹部にもの凄い充実感を感じて、綾香は歓喜の溜息を洩らしていた。

 

 

 

ごりっ・・ごりゅっ・・・・

入ってきた時とは逆に、今度はゆっくりと引き抜かれていく。

 

「あふっ・・・はふっ・・・ああぁあっ・・・・!!」

 

カリの部分が、その度に綾香の膣壁をこすっていった。

そして完全に抜けきろうとしたその時、浩之は再び勢いをつけて綾香を貫いた。

 

ズン・・・・ッ・・!

 

「はうううっ・・・・!!」

 

 

 

 

その美しい顔は直に床に擦りつけられ、桜色の艶々とした唇の端からはだらしなく涎を溢れさせている。

「・・・凄いのぉ・・・ひろゆ・・きの・・おちんち・・・ん・・硬くて・・・太ぉいの・・・・」

 

そして喘ぎ声と共に、綾香は卑猥な科白も平気で吐いていた。

 

 

 

女というよりも雌。

人というよりも獣。

 

 

 

ある意味、綾香が自分を全てを曝け出せるのは、闘い以外では浩之と交わっている時だけだった。

そこでは来栖川の名も、何の意味も持たない。

 

 

闘っている時には神経が磨り減ることも多かったが、浩之に抱かれている時は、理性を霧散させる程の

開放感と快感に、ただ身体を委ねていればよかった。

 

「・・・ねぇ、浩之・・・もっと、もっと頂戴っ・・・!!」

 

綾香は腰を浩之の方に突き出しながら叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

明日のデヴール戦まで、あと20時間を切っていた-------。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                  続く