So in love. EVANGELION ; If stories ; Ryoji Kaji and Misato Katsuragi "eins" Recommendation 18 years old over. (1) 不意打ちで、久し振りの…キス。 柔らかい感触は、昔と全く変わってない。 顎と頬の不精髭が、彼が年を重ねたことを感じさせた。 一瞬のように思えて、永遠に続いて欲しいと、刹那、願った。 ゆっくりと剥がされていく感触が、ただ悲しかった。 その夜、加持とのその行為が、感触が、時間が、ミサトの脳裏を掠め、全身を巡った。 アスカの、明らかに自分を責めるようで冷ややかな視線を背中と肩に感じながら、ミサトは自室に入ると、着ている物を全て布団の傍に脱ぎ散らかしつつ、裸のまま、布団に潜った。 酒で火照った体と頭を冷やすのに、加持の不意打ちのキスは充分だった。 けれども、別な意味でミサトの体と頭は、より火照りを増した。 ミサトは自分の火照りを加持に悟れたくなかった。 自宅に戻るまでの間、加持に体を支えられながらも、ミサトは加持の顔がまともに見れなかった。 いや、見なかったと言う方が正しいだろうか。 昔、本気で愛した男にキスをされ、そして優しく肩と腰を抱かれていながら、火照らない方がおかしい。 ミサトは気が狂いそうだった。 思考が酒のせいで自分の潜在意識の中で望む方に傾いていく。 (加持君、) 目を瞑ったまま、心の中でミサトは呟いた。 (何で今更…?) ミサトの脳裏にあの時の状況が早回しに再生される。 ちょっとしたことで加持に当たって、それに歯止めが掛けられなくて、つい本音を吐いてしまった。 酒の勢いに任せて吐いた自分の言葉を加持は真剣な眼差しを向けながら聞いていた。 その加持の顔に脳裏の映像は止まり、それはミサトの心をしっかりと捉える。 (どうして、そんな真摯な眼差しを、私に向けるの?) 止まったままの加持の表情は、絶対に普段には見せない表情。 遠い昔、見た覚えのある、真摯で実直でそれでいて優しさを帯びた表情。 その表情に見下ろされながら、ミサトは何度、見も心も掻き乱されただろう。 (見ないで…そんな目で…) 暗がりの部屋の中、互いに生まれたままの姿で向かい合い、加持は見下ろすようにミサトを見つめていた。 遠い半身は重力で重なり合い、ミサトの大腿と大腿の間を割るように、加持の半身が鎮座している。 控え目なルームライトの明かりで、加持の体に陰影がくっきりと映り、仄かに浮かぶ加持の鎖骨が、ミサトには淫靡に映る。 そんな時の加持の表情とつい今し方の加持の表情が、ミサトの脳裏で重なる。 (いやっ、見ないでっ……恥かしい…) 耐え切れず、思わず加持の顔から顔を背けた。 ひんやりした敷き布団のシーツがミサトの火照った頬を撫でる。 「あっ…」 シーツの冷たさについミサトは小さく声を上げ、目を開けた。 途端、ミサトの脳裏の加持は立ち消え、視界には部屋のカーテンから差し込む月明かりに照らされ、畳の上に散らかった諸々の物がぼんやりと闇の中から浮かび上がった。 「………」 現実に引き戻され、ミサトは安堵の溜息を吐いた。 正直なところ、ミサトは加持から熱を帯びたキスを受けるだけで、こんなに心が乱される自分に驚いていた。 加持と別れてからは特に特定の男と付き合うこともなく、一人の時間を過ごしていた。 それが寂しいと言えば寂しいし、人並みな結婚願望はあったが、一人身の焦燥感とか、そう言う、気分を乱すような感覚に、とりわけ煩わされることはなかった。 特定の男を愛し尽くせないなら、それはそれで仕方ない、と割り切っている自分が存在していた。 時折、疼いて火照る体を自分で慰めながらも、その疼きを誰かに受け止めて欲しいと願うことも然程に思わなかった。 若い時に得た、加持との濃厚で濃密な時間はミサトの心の中で浄化され、崇高な思い出に化していた。 あの時以上の性愛はもう出来ない。 だからこそ、加持とのキスは、自分が浄化させてしまった崇高な思い出に再び命を吹き込んだのだろう…か。 (小娘じゃあるまいし…でも…) 心の中で悪態を吐いても、ミサトは自分の体が素直なことを認めざるを得なかった。 加持とのキスから今に至るまでの間、ずっとミサトの一番過敏な部分は充分に湿り気を帯び、そして大腿を濡らしていた。 その部分にミサトはゆっくり右腕を伸ばし、中指でそれを掬ってみた。 掬うまでもなく、じっとりとその場所溢れていたミサトの体液は中指に絡みついた。 (ああ…やっぱり私、感じてる…) 中指に絡む体液のねっとりとした感触に、ミサトは思わず顔を赤らめた。 なのに、自分の羞恥とは裏腹に、中指を更に奥へと沈めた。 充分な潤いのある場所に中指だけでは物足りず、思わず薬指も道連れにした。 「あっ…」 薬指もじっとりとした空間にすんなりと納まり、ミサトは声を上げた。 入れてしまった指をそのまま引き離したい気に、一瞬なりかけた。 突然、脳裏に現れた加持がミサトに囁く。 (見せろよ、俺の前でお前がイクのを) いきなり引き戻されてしまう、遠い過去へと。 薄暗い部屋の中で、布団の上で腰を突き出して四つん這いになったミサトの体を、タバコを吹かしながら見つめる全裸の加持の姿。 (お前が俺に見られながら感じていくのを見たい……見せろ、葛城) 言われるがままに、加持の前に露にした自分の潤った場所に、ミサトは自分の右手の中指と薬指を入れて、ゆっくりと上下左右に動かし出す……その時の状景が、ミサトの脳裏にプレイバックされる。 (恥かしい…) 思わずその時の状景をミサトは脳裏から追い出そうとした。 しかし、加持の声は容赦なくミサトを追い立てる。 (今でも、出来るだろ…?) 意地悪な加持の問い掛けが、ミサトの火照った体に更に油を注ぐ。 (…………) まるで観念したかのように、加持の声に誘われるまま、羞恥と恍惚の狭間に板挟みにされながら、ミサトの指は動き始めた。 始めは指の腹でゆっくりと四方の壁を撫で上げる。 「…んっ……ん………んっ…」 指の動きに合わせながら、そこから感じる独特の心地良い感触に、ミサトの閉じた口の中からくぐもった喘ぎ声が漏れ出る。 無意識のうちに、ミサトの左腕は自分の豊かな左の乳房を掴み、揉み扱いていた。 次第にミサトは、自分の奥に入っている指の動きを大きくしていた。 手首を軸にし大きく動かしながら、四方のデコボコの軟らかな壁を二本の指の腹で巧みに撫で上げる。 同時に一箇所を触りながら、指を離して横へと這わせ、双方の指で別々の場所を撫でる。奥を撫で、飽きたら手前を撫で、また奥を撫で、何度も何度も同じことを繰り返す。 その度に新しい生温かい体液が奥から溢れ、よりミサトは感じ、そして疼く。 「…んっっぅ……んっ…あっ…あっ…あっっ……あっ………」 閉じていた唇が半開きになり、声は鮮明になり、熱が篭る。 右手の動きの激しさに合わせて、乳房を揉む左手にも力が入る。 ただ触っているだけの指の動きが、だんだん何者かに操られているように、五本の指それぞれが別の使命を帯び、それぞれがミサトの乳房に貪りつく。 硬くなった乳首を舐めるように弄る示指と中指が絡み合い、親指と薬指は房を強く揉み扱き、小指は優しく乳房を被う表皮を撫でる……昔、加持がしてくれたやり方を、ミサトは脳裏の記憶と乳房に残った感覚を頼りに再現する。 「あ……あっ、かじく……加持く……んっ……あっ…」 思わず加持の名を零した。 ミサトの脳裏に加持の姿が映る。 全裸のまま片膝を立て、壁に凭れて座っている加持が、己の自慰行為で乱れているミサトの、まさにその場所一点をじっと見据えている姿。 決して笑みを浮かべることもなく、また目の前の羞恥に目を細めることもなく、じっとミサトの濡れた場所に視線をくれていた。 そんなポーカーフェイスの男は、ミサトに声を掛ける。 (そんな恰好じゃ辛いだろ、葛城?) ミサトは両手の動きを止め、脳裏の中の加持の言葉に誘われるがまま、両肩を支えにし、体を一旦うつ伏せにした。 そしてゆっくりと腰を浮かし、両膝で下半身を支える……自分の濡れた場所が丸見えになる……恰好になった。 加持の視線がミサトには耐えられなかった。 けれど、自分の中に沈んだ指を引き抜きたくなかった。 (続けろよ) 「い…言われなく……て…もっ…」 ミサトは一旦止めていた両手の動きを再び始めた。 今度は性急に動きを早める。 頬に当たっている枕に気付き、わざと顔を枕に沈めると、それまで緊張させた喉を弛め、枕の中に感じるがままに突き上げる感情の声を吐いた。 「ああっ……感じ…る……あっ…加持…君……イク…あっ…私……イッちゃ…う……」 沈めた場所を激しく動かすことで、乳房を揉む手に力は入り、喘ぎ声は激しさを増し、更に指は大きくグラインドしていく。 体はより欲望を求めんとばかりに、ミサトはそれに促されるように右手の親指を自分の真珠に当て、それを弄る。 それを何度も繰り返すうちに、ミサトの体は絶頂寸前に達しそうになっていた。 「あっ、あっ…加持君……ああっ……加持く…ん、加持、君……」 何度も何度も、ミサトは脳裏の中で自分を後ろから見ている男の視線に呼びかける。 男はそれでも表情を変えない。 いつの間にか男は煙草を燻らせ、自分の元に引き寄せた灰皿に灰を落としていた。 暗がりの部屋の中に静かに広がっている紫煙が淫靡さを増す。 紫煙の幕の向こうで、じっと自分を見据えたまま、加持は冷ややかにミサトの背中に言い捨てる。 (葛城、イケよ…見届けてやるから) 加持はそう言いながら、吸い終えた煙草の残りを灰皿に捨て、忙しなく新しい煙草を咥えると、それに火を付けた。 その冷静な加持の態度がミサトを絶頂へと誘導する。 「いじ…悪…あっ……加持、君…ああっ…やっぱ…り…意地悪…よ……あっあっ…」 もうミサトは自分の体の内の疼きを素直に受け入れることを了解していた。 背中から迫ってくる悪寒に似た恍惚の絶頂が、ミサトの後頭部を直撃する。 「はぁっ…はっ…あっあっああっ…ああああっ!………あっ!…………」 浮かび上がるような軽い感覚の後、パチンという音が脳裏に響くと同時に、ミサトの全身が強張った。 そして、世界は白く光り、瞬く間に漆黒の闇に暗転した。 次にミサトが目を覚ました時、その視界に飛び込んだ物は、つい十分ほど前に見た、月明かりで仄かに浮かび上がる散らかった諸々。 それらが散乱し、埋め尽くされた自室だった。 闇の水面から顔を上げたミサトは、いまだに膣に入ったままの右手の中指と薬指を引き抜いた。 カーテンの隙間から射し込む月明かりに指を翳すと、自分の体液で指が月明かりでキラキラと光る。 中指と薬指を開くと体液は糸状に伸び、そして、光を帯びる。 卑猥な輝きを放つそれをミサトは眺めながら、呟く。 「加持の…バカ…」 恨めしそうに、それでいて熱の篭った自分の一言に、思わずはミサトは頬を赤らめた。 別れたと言え、ただ嫌いで加持と別れた訳じゃない。 好きだからこそ、ミサトにとってそれまで最愛だった亡き父のおぼろげな面影に加持を重ねることが辛かった。 だからこそ、加持を自分の幻影の犠牲にしたくなかった。 その一心でミサトは自ら加持から遠ざかった。 今でもミサトは心の奥で加持を求めていた。 日本に戻って来た加持に自分の心を悟られまいと、付き合っていた頃と同じように悪態を吐いて、それで加持との「何でもない」関係に均衡を保とうとした。 (でも、もう……無理…) 独白、そして直後の加持の不意打ちのキスで、ミサトの加持に対する理性の箍は完璧に外れた。 (次に加持君にキスされたら…私…) その時、ミサトは再び突き上がりそうになる疼きを感じ、それを拒んだ。 咄嗟に布団から起き上がると、左手で傍にほったらかしにされていたタオルを掴むと、右手を無造作に拭った。 ミサトはこれ以上、加持のことを想像していたら、頭が本当におかしくなり気が狂いそうになった。 「………もう寝よう」 ぼそっと呟きながら、ミサトはタオルをその辺に放り捨て、再び布団に潜り込んだ。 そして目を閉じ、体の火照りがゆっくりと収まるのを感じながら、ミサトの意識は闇へとまどろんでいった。 (2) 翌、深夜。 ネルフ本部施設内、セントラルドグマ・最深部。 いくつかの廊下といくつかの階段といくつかのエレベータを乗り継いで、ミサトはその場所からは死角になる場所で、じっと「敵」の動きを見据えていた。 ミサトは、体のラインがくっきりと出ている黒色のチャイナドレスタイプのタイトスーツの上にネルフマークの入った彼女のトレードマークとも言える赤ジャケットを羽織り、足元はスーツと同色のブーツを履いていた。 軽やかな歩調で「敵」はその場所に立ち、辺りを見まわすと、胸元のポケットからカードキーを取り出した。 「敵」がその場所の前に立ったことをミサトは見届けるや、左腋の下に忍ばしていたホルダーから銃を抜き出し、セーフティロックを外した。 ゆっくりとミサトは「敵」に動きを悟られぬようにゆっくりと歩みより、そして、「敵」がカードキーをキーの差し込み口に入れたと同時に、「敵」の後頭部に銃口を向けた。 「そこまでよ」 いつになく冷ややかなミサトのアルトが周囲に響く。 一瞬の沈黙。 そして、「敵」……加持はゆっくりと両手を頭近くまで挙げて「降伏」の態度を見せながら、ミサトの方を振り向く。 加持は、いつものくたびれた背広姿ではなく、パリッとしたネルフ特殊監察部の正式制服に身を包んでいた。 「動かないで!」 ミサトの言葉に加持は動きを止めた。 「…いつから気付いてたんだ、葛城……『三佐』?」 いつもと同じようにポーカーフェイスをミサトに向けながら、加持は意地悪く尋ねる。 加持の問い掛けにミサトは冷静でかつ欺瞞の眼差しを投げかけながら答える。 「…いつからだっていいでしょう、」 吐き捨てるようにミサトは答える。 「ただ、貴方のしていることは、」 「スパイ行為だと、言いたいんだろう?」 ミサトの言葉を遮り、加持はミサトの台詞を自ら代弁した。 「………」 ミサトはわざとらしく笑みを浮かべる加持の表情にますます欺瞞の眼差しを向ける。 銃を持つ両手に汗が滲む。 だが、銃口は加持の前から寸分の振れもなく向けられている。 「葛城、」 「何?」 加持の言葉にミサトは冷ややかに答える。 「この中にいる『奴』を見てみたいとは思わないか?」 「……え?」 その加持の問いかけにミサトは一瞬、気を許した。 その時、加持はすぐ向こうに差し込んだままのカードキーに腕を伸ばすと、それを一気に下に抜いた。 「俺が探していたのは『これ』だ、そして、お前が知らないネルフの『謎』だ」 その加持の言葉と同時に、目の前のゲートの鍵が外れる鈍い音が響き、続いて地鳴りに似た音と共にゲートがゆっくりと開いた。 肌寒いほどの冷気が加持とミサトの頬を一瞬撫でる。 そして、扉の向こうにいる『それ』は招かねざる訪問客二人に姿を曝した。 「………!」 ミサトは驚愕し、緊張させて持ち上げていた両腕をゆっくりと降ろした。 加持は驚愕の色を隠せないミサトの顔を横目に、ゲートの中に歩み行った。 「嘘…」 大きく目を見開いたミサトの表情には様々な思惑が交錯する。 恐ろしく真白の皮で被われ、グロテスクな面を被り、深紅の槍が頚木の如く胸に突き刺さった、下半身のない『それ』。 『それ』が目の前に鎮座している。 「…何? 何これ…?」 様々な思惑がミサトの思考回路で交錯し、それぞれの謎は全て、疑問符に行き付く。 「何、これは…何?」 ミサトの視線は『それ』から加持に注がれる。 「『アダム』」 加持は目の前に存在する物体の名前を言い、言葉を続ける。 「ヒトによって作られし「もの」、セカンドインパクトの正体……」 「………!」 冷静沈着なで抑揚のない加持の声は、ミサトの心を鷲掴みにする。 そして、加持は続ける。 「葛城、お前が探し続けていた『もの』は、お前の一番身近で、一番意外な場所にあったんだな…」 昔、一度だけ加持に寝物語で洩らしたことをミサトは思い出す。 父の死、天空を被う巨人の影、刃のような冷気、南極……胸の傷。 ───── あの巨人の正体を知りたい。 その洩らした言葉を、加持はいまだに覚えていた。 身震いがした。 加持に対して底知れぬ恐怖を、今になって初めて、ミサトは抱いた。 しかし、今はその恐怖から逃げ出すわけには行かなかった。 直感でミサトは加持の意図を悟ってしまったからだ。 (この男は『全て』を知っている。知っているからこそ、共犯者を作った…) ミサトは途端に加持が恨めしくなった。 (私を共犯者にするのね…貴方は…) 喉まで出かけそうになったその言葉を飲み込み、ミサトはただじっと加持を見据えた。 巨体の『アダム』を、まるで、東大寺の大仏を見るが如く眺めている風だった。 「…………」 ミサトは視線を『アダム』に戻した。 大きく左右に伸びた『アダム』の両腕は、キリストさながらに、両掌を木の杭ならぬ鉄の杭で打たれ、頭は項垂れていた。 アダムの姿を下から照らすライトが、不気味にアダムを闇の中に浮かび上がらせる。 「…………」 幼い日に、南極で見た空を被い尽くす巨体の姿とアダムの姿が重なる。 (こいつが…) ミサトは生唾を飲んだ。 (こいつが…) そして、奥歯を噛み締める。 懇々と沸き上がる感情が、両肩に、両腕に、両足に、漲る。 (こいつが、世界を崩壊させ、父を亡きものにした…巨人の正体!) その時初めて、ミサトの目に怒りの色が浮び上がった。 「…………」 そんなミサトの瞳を、加持は見過ごさなかった。 ※ 十五分後。 ミサトはセントラルドグマから加持を背中に銃口を突きつけて拘束したまま、自分の事務室に入れた。 ダイニングテーブルほどの広さがあるミサトの事務机の上は、自宅の彼女の部屋同様に、ゴチャゴチャしていた。 そのほとんどは未処理の報告書に関する資料やプロッピー、読みかけて付箋がいくつも付けられた書籍、数カ国語の対和辞書、ノートパソコン、その他諸々…仕事に関するものばかりだった。 周囲も机に程近い状況で、備え付けの観葉植物、書類の山、関連書籍の山、仮眠用に配給されている薄茶色のブランケット、夜食用のカップラーメンが入ったダンボール、その他諸々…と、見るからに、これが女が使っている部屋かと思わせる状景に、加持は改めてこの部屋を見まわし、思わず、葛城らしい、と心の内で呟いた。 ミサトは事務机の前に備え付いている背凭れ肘掛付きの椅子を、加持の横に引き出し、 「そこに座って」 と、加持を椅子に座るように命じた。 加持はミサトに言われるがまま、椅子に腰掛けると、傍で自分に銃口を向けたままのミサトの方を見上げながら、言った。 「いつまで、そんな物騒な物を俺に向けているんだ?」 一瞬、ミサトは銃を持つ手に目を向ける。 「……そうね」 ミサトは加持の言う通り、銃口を加持から外し、それを腋のホルダーに収めた。 両膝の上に両肘を突いて前屈みになった恰好で加持は、ミサトを見上げた。 いつになく険しい表情をしているミサトを加持は理解する。 突然、あんな化け物を目の当たりにして、それが「巨人の正体」だと聞かされたら、怒りに満ちた視線を向けるに違いない。 でっち上げの嘘をまともに信じるほど、ミサトの思考は驚愕によってフリーズしてしまったのだろうか? しかし、加持にはあの場所でのミサトの存在、そしてミサトにアダムを見せたことは、思わぬ誤算となった。 見せかけは「味方」だけれども、自分にとってミサトが本当に「味方」なのか、それとも「敵」なのか、加持には見当がつかなかった。 元恋人とは言え、彼女はネルフ本部の戦術作戦部に所属する「兵士」、嘘を並べ続ければ彼女は間違いなく、ネルフの人間として二重スパイの自分を闇に葬るだろう。 (さて、どう出るべきかな…) ミサトと加持はしばらく互いを見据えたまま、微動だにしなかった。 両腕を組み、「休め」の恰好で加持を見下ろす姿のミサト。 吉と出るか凶と出るか、加持は自分から仕掛ける賭けに挑まんと、沈黙を破った。 「俺がどこまで知ってるのか、知りたいのか?」 加持の言葉にミサトはコクンと頷く。 「知りたいわ」 冷静なミサトの回答に加持は続ける。 「全部話したら、俺をどうする?」 その言葉にミサトの目尻が微かに歪んだ。 「…全部?」 吐き捨てるようにミサトは呟くと、続け様に加持に言い放った。 「嘘ね」 「嘘?」 「アンタが本当のこと、話す訳ないじゃない」 「……?」 加持は眉を顰めた。 「いつも嘘ばかり、今になって『全部話す』だなんて止めてよ、あーっ、白々しい」 「白々しい?」 「そうよ」 ミサトは冷ややかに答える。 「それに、アンタの場合、私には『全部話す』じゃなくて、私を共………あっ!」 ミサトは思わず右手を押さえて口を噤んだ。 「ん…?」 加持は更に眉を顰め、ミサトを見上げる。 「『共…』? 何だ? 葛城、一体『共』の後に何を続けようとしてる?」 真剣な眼差しを向けながら、加持はミサトに尋ねる。 そんな加持の目からミサトは咄嗟に視線を背けた。 「な、何でもない…」 うろたえながら、ミサトは加持の傍から逃げようとした。 そのミサトの左手首を、すかさす加持の右手が捕らえた。 「待てよ」 掴んだミサトの手首を加持は離さないように、硬く掴む。 「あっ…」 加持に捕まえられた左腕を加持から離そうとミサトは抵抗するが、加持は決して離さそうとない。 むしろ、より力を込めてミサトの細い手首を、加持は掴む。 「痛い! 離して、加持君!」 「言え、葛城。お前が言わない限り、俺はこの手を離せない」 加持はゆっくりと身を起こし、椅子から立ち上がった。 長身のミサトを悠に越す長身で、そしてがっしりとした体躯の加持が、ミサトの前に立ちはだかる。 そして、加持の右腕はミサトの痩身を自分の元に引き寄せ、残った左腕が彼女の後ろに回し、彼女の細い首と後頭部を支えるように掴むと、左腕に力を込めた。 「あっ……」 「言えよ、葛城…」 ミサトの小さな叫びは塞がれた加持の唇によって掻き消された。 触れ合った互いの唇は、加持がミサトの口と歯を割り込んで入って来た舌によって、密閉された。 加持の舌はミサトの戸惑う舌に絡み付き、挑発する。 (加持君、何で!?) ミサトは突然の加持のキスに戸惑い、心の中で加持に問う。 けれど、加持の口からは答えなど出てこない。 加持から出されるのは、ミサトの舌に絡ませた舌に込めた力、だけ。 不意打ちとも言える、突然の加持のキスに、見開いたままのミサトの瞳は加持によってもたらされた恥辱的な行為でたちまち潤み、瞼を閉じずにはいられなくなった。 舌に伝わる何とも言えない感触が、ミサトの封じこめたばかりの欲情に火を付ける。 (ダメ…誘われちゃ………あ、でも…気持ち良い…) 加持の舌は、ミサトの舌の上ばかりでなく、頬の内側や上顎の裏、更には舌の裏までを刺激する。 抵抗するミサトの舌に、自分のそれへ絡ませるようにと仕向ける加持の舌。 (ダメ…でも……ダメ、ダメよ………あっ…) 理性で誘いをはね返そうとするけれど、直接、仕向けられた攻撃を交すことなど、到底無理なことだとミサトは観念したかのように、加持に誘われるがまま、自分の舌を加持の舌に絡ませた。 「………ん…」 ミサトが加持に陥落した合図…小さな喘ぎ声が、ミサトの口角から漏れ伝わる。 その声を機に、加持は更にミサトの唇に貪り付いた。 「……んっ…んふぅ……っん………」 荒い鼻息と一緒に零れ出る淫靡な声。 両方の声が交じり合い、どっちがどっちの声か、解らなくなる。 お互いの頬近くに当たる鼻息だけが、互いの息遣いを理解させる。 二人は長い時間、何度も何度も息継ぎをしながら、互いの舌を貪りあった。 既にミサトは加持に掴まれたままの左腕の痛みなど忘れ、自らの右腕を加持の腰に回し、体をより加持に密着させ、踵を浮かせて加持を求めた。 加持も左腕で支えていたミサトの頭から肩、背中、腰を何度も撫でた。 時間が経つにつれ、加持の右手はミサトの左手首から離れ、その手はミサトの腰と殿部の辺りを這い、解放されたミサトの左手は加持の右胸の辺りに止まっていた。 互いの唾液が絡み合い、溢れ、ミサトの口角から筋を生して零れ出る。 「…あ…ふぁ……」 ミサトはゆっくりと自分の唇を加持から剥がし、瞼を開いた。 間近に映る加持の真摯な眼差しをした表情。 そんな彼の表情にミサトは頬を赤らめ、目を逸らそうとした。 だが、加持は右手でミサトの顔を触れると、「逃げるな」と呟いた。 「え…」 「言え、俺の場合、『何だ』?」 「………」 ミサトは加持の眼差しを、正面からまともに見ることができなかった。 それに、これ以上間近で加持に見つめられることに、ミサトは耐えられなかった。 「……加持君、私を共犯者にするつもりなんでしょう?」 ミサトの声は半ば涙声だった。 「共犯者?」 加持は思わぬミサトの一言に驚いた。 その時、ミサトは加持の体から自分の体を引き剥がし、部屋の隅に身を委ねた。 加持に背を向けるようにして、ミサトは自分の両腕で自分の体を抱き締めた。 言うまいと思ったが、ミサトは加持に言わねば気が済まなくなった。 けれど、加持の方を向いて話すがミサトには出来なかった。 見られたくなかった、加持の視線をまともに受けながら話すことは、今のミサトには無理だった。 (私を見ないで…) ミサトは瞼を硬く閉じる。 (私をそんなに見つめないで…) 自分の背中に注がれる加持の視線が、ミサトの体を過敏にする。 「あの巨人を私にわざと見せて、私にも加持君の追ってる『謎』を追わせようとしてるんでしょ!?」 「葛城…?」 ミサトの言葉に加持は一瞬怯んだ。 しかし、加持は決してミサトの背中から目を逸らさなかった。 「私が昔から『巨人』の正体を追いたいってこと、覚えていて、自分で調べるだけ調べ上げて、それから、確証を掴むために日本に戻って来て、昔の女の今ある立場を利用して、『謎』を掴みたいんでしょ!?」 ミサトは大声を壁に向かって吐きながら、加持に言いたいことをぶちまける。 より一層、ミサトは自分を抱く両腕に力を込める。 今の加持とのキスで、ミサトの体に加持に対する特別な感情が蘇り、疼きが体を突き上げる。 昨夜の、加持の姿を思い出しながら自慰行為に耽った時の淫らな状況が、ミサトの脳裏に蘇る。 (ダメ……何で今……) ミサトは自分の淫靡な部分に舌打ちする。 「葛城……」 加持は足音を立てず、ゆっくりとミサトの背後に向かって歩み寄る。 徐々に自分の傍に近付く加持の気配を感じ、ミサトはもう気が狂いそうだった。 そんな自分を悟られまいと、思わず声を張り上げてしまう。 「何が『全部話す』よ! 昔からまともに本当のことなんて話してくれないアンタが、今更素直に話すだなんて、おかしいわよ!」 「………」 ミサトの言うことはある程度「当たってる」と、加持は正直ミサトの思考に感心した。 加持が、アスカとエヴァ弐号機と共に日本に来たのは、ドイツとアメリカで、日本政府内務省から帯びた使命の元、『とある』機密をネルフから盗みそれを内務省に渡すことと、逆にネルフから帯びた使命の元、『とある』物を某所から奪取しネルフに持ち帰るためだった。 だが双方のスパイ任務を遂行する内に加持自身が双方に疑念を抱くようになった。 双方の裏をかき、双方が隠している『謎』の部分を、加持は自らの足で調べるうちに、双方の謎がある部分で交差した。 交差地点……『セントラルドグマ』……そこに行かねば、自分の抱いた『謎』を解明することは不可能だった。 だからこそ、加持は敢えて危険を覚悟で、日本に《戻って》来た。 『謎』の行き付く先には、もしかすると、自分の屍が転がっているかもしれない。 それでも、加持は『それ』が見たかった。 『それ』を見なければ、加持自身がその先にある『真実』に突き進んで行く勇気が持てなかったからだ。 ほとんど、この『謎』解きゲームは、加持の興味本意にすぎなかった。 ゲームの扉さえ開けなければ、自らを危険に放り込むことはなかった。 自ら志願して荊の這う山を登らねば、あのゲートを開くことはなかった。 (しまった……) 加持は今になって、ミサトにアダムを見せたことを後悔した。 別に加持はミサトを、自分が始めた謎解きゲームに途中参加させる気はなかった。 自分の「命」を賭けの対象にするゲームで、自分にとって、いまだに「愛しい」と感じる女を犠牲にしたくなかった。 一番それから遠ざけたかった人物。 他の誰かが死んでも、彼女にだけはこのゲームに係わせたくなかった。 だが、誤算だった……自ら一番重要な時に、姿を現したから。 隠す/隠さないという生温いレベルじゃない。 ミサトは一瞬で、自分の隠し通していた全てを悟ってしまった。 (もう、手遅れだ……) 加持はミサトの震える背中を見据えながら、彼女を自分のゲームに参加させてしまったことを心から悔やんだ。 (だが……) 加持はそれでも、ミサトが鬼籍に仲間入りしないようにするために、どうすればいいかを考えあぐね………そして、思い付いた。 加持は自分の両腕を、強張らせたミサトの背中から彼女の胸に向かって通すと、そのまま後ろからミサトを抱き締めた。 (………!!) 胸の前で交差させたミサトの両腕を、加持の両手が優しく包む。 密着した加持のがっしりとした厚い胸板が、服越しにミサトの体に伝わる。 ミサトの右の首筋に加持は顔を埋め、彼女の髪越しに首筋にキスをする。 「……あっ…」 その声と同時に、ミサトの体が小さく震えた。 加持は、ミサトが自分の鳩尾に肘打ちをすることを覚悟で、もう一度、今度はより深く同じことをした。 「…あっ…加持君……」 ところが、加持の思惑とは裏腹に、ミサトは切なげな声で自分の名を呼び、体をビクつかせた。 意外なミサトの行動に加持は驚き、咄嗟に顔を上げると、右手をミサトの左頬に当てて自分の方に彼女の顔を向かせた。 「!………」 加持は自分の前に見る彼女の表情に驚いた。 頬を赤らめ、瞳を涙で潤ませた、ミサトの表情。 強気な言葉を吐いているミサトと、この表情のミサト。 加持はうろたえた。 どっちが本心のミサトなのか、加持は判断しかねた。 「かつら……ぎ…?」 その加持の問いかけを耳にした途端、何故かミサトは足の力が抜けて、立つことがままならなくなった。 「あっ……」 「お、おい?」 一瞬、加持に全身を寄り掛けるかと思いきや、加持の体を道連れに、二人ともリノリウムの床の上にしゃがみ込んでしまった。 咄嗟に加持はミサトの体を両腕で支え、ミサトの体をほぼ自分の両膝の上に乗せる状態になった。 しばらく二人はじっと見つめ合う恰好になっていた。 ミサトは自ら加持の胸元に頭を当て、加持の腰に自分の両腕を回していた。 (どうしたんだ…?) 加持は、らしからぬミサトの行動に戸惑いを覚えていた。 どうしたものか、と、考え、そして言葉をかけた。 「…大丈夫か?」 そう言いながら、加持はミサトの背中を左手で擦り、右腕でミサトの頭を撫でた。 「…………」 加持の言葉に、ミサトは無言で頷いた。 ミサトは何故か、安堵の気持ちになっていた。 (加持君…もう少しだけ、こうしていて…) ミサトの無言の願いを加持は悟ったのかどうか、それは分からないが、加持はミサトの背中と頭を黙って撫でていた。 (葛城、) 加持は一息吐き、一息吸うと、ミサトに話しかけた。 「葛城……お前の言う通りだよ」 その加持の言葉にミサトは弾かれるように顔を上げた。 一瞬、交錯する視線。 それを先に外したのは、加持の方だった。 「けど、一つだけ違う」 「………」 「俺は、お前を巻き込もうとは、全く思ってなかった」 「……えっ?」 「むしろ、俺は……お前を遠ざけたかった」 加持はそう言うや、ミサトの上半身を自分の胸に抱き寄せた。 「軽率だった……許してくれ……」 「………」 ミサトは加持のその言葉で加持が何を言いたいか、凡その見当はついた。 「……でも、もう私は見てしまったわ…これから先、何が起こってもおかしくない…」 「葛城…」 加持はミサトの唇に再度キスをした。 今度は軽く触れるキス、一瞬だけ触れ合った唇。 「俺が、お前を守る。お前には誰にも触れさせない」 力強い加持の言葉、そしてキス……今度のキスは、深く長く、熱いキスだった。 加持はその時、自分に誓った。 ────── 自分自身が彼女の『依代』になる、ことを。 それは、加持自身が見つけ出した、ミサトが自分のゲームで死なないための、最良の方法だった。 (3) 加持はそっとミサトから唇を離すと、彼女を立たせようと、ミサトの体を持ち上げようとした。 その時、ミサトの体に力が入った。 厳密に言えば、ミサトの、加持の腰に絡まった両腕に力が篭ったとでも言おうか。 「……おい…?」 思わぬミサトの行動に驚いて、加持はミサトの顔を見た。 ミサトは何度も首を横に振りながら、「嫌…」と何度も呟いていた。 「葛城、どうした?」 「……離れないで」 ミサトはそう言いながら、加持の背中に回した手で彼のジャケットを掴んで離そうとしなかった。 「離れないで……」 もう一度同じ言葉を加持に投げると、ミサトは自ら上背を伸ばして加持にキスをした。 加持がミサトにするように、ミサトは加持の唇に自分のそれを合わせると、自分の舌を加持の口の中へ運んだ。 目を閉じて一途に加持の唇を吸うミサトの様を、加持はされながら、見つめていた。 熱っぽく自分の唇を求めるミサト……何度も何十回も加持は彼女とキスをしてきたけれども、これほどまで熱いキスを自分からは数えきれないほどしてきたが、彼女からされたことはなかった。 何度もミサトは加持から自分の唇を離し、そしてまた率先して唇を合わせる。 (葛城…) 何故、これほどにミサトが自分を求めるのか、加持には分からなかった。 けれども、加持はミサトにそうされるにつれ、やがて、それは久方ぶりに《特別な感情》が自分の体を駆け巡るのを感じ取っていた。 最初はそれを突っぱねようとしたが、だが、ミサトのキスが熱を帯びていくうちにそれを突っぱねる努力を加持は放棄せざるを得なくなった。 更に、視線を部屋のあちこちに向けると、ミサトが徹夜残業をする際に使うだろう、折り畳まれた数枚の薄茶色のブランケットがあるのを見つけるや、遂に加持は腹を括った。 (抱こう…) そう思った途端に、加持は自分の右手をミサトの細く長い素足の上に置き、左手をミサトの右腋を経て背中に回した。 次にミサトが加持の唇から離した時、加持は行動を起こした。 左腕で彼女の上半身を、右腕で彼女の下半身を支え込むように抱き締めると、リノリウムの床に加持はミサトを横たえさせた。 「…………」 ミサトの体の上を跨ぐように、加持は自分の上半身を彼女の上に持って行った。 加持に斜めに見下ろされる形にされたミサトは、抵抗一つせず、加持の顔をじっと見つめていた。 何度もこういう形でミサトを見下ろした経験がある加持でさえ、これほど熱を帯びた眼差しで自分を見つめるミサトを見たことはなかった。 ミサトの右腕が加持の首に伸び、加持の左頬に彼女の華奢な掌が当たる。 ゴツゴツした皮膚、チクチクと当たる不精髭、ミサトの掌はその感触を覚えていた。 より愛しさを込めてミサトは加持の頬を撫でる。 彼女の掌を加持は左手で撫でながら、彼はゆっくりと上半身を彼女の方に下降させる。 間近に迫ったミサトの額に、眉間に、鼻梁に、両頬に、上唇に、下唇に、顎に、加持はキスの雨を降らす。 加持の唇はミサトの下顎の線をなぞり、そこからそろそろと首筋へと伝う。 何度も下骨の辺りを行ったり来たり、首の筋をなぞったりして、首の辺りを丹念に愛撫する。 唇で皮膚を触れられ、吸われ、舌の先や全体で刺激され、歯で軽く噛まれる。 ミサトは加持にされる度に小さく声を上げて、体をヒクつかせる。 「今も…変わってないな…」 加持は呟くようにミサトに言う。 その言葉にミサトは「ヤダ…」と恥かしげに返答する。 ミサトの左腕は加持の背中を力無く撫でていた。 首筋を這う加持の唇がミサトから離れる。 一瞬だけ交錯する眼差し、ミサトは見逃さなかった…いつになく熱を帯びた加持の瞳。 今まで何度もこの男とセックスをしてきたけれど、いつも加持の瞳は冷静だった。 どんなに自分が絶頂に向かって乱れていても、加持はどこか一歩引いている眼差しで自分を見つめていた。 感じてないのか、と、時折不安になったことさえあり、怒られるのを覚悟で、それを加持に聞いたことすらあった。 いつもどこか冷静な加持の表情に、ミサトはまるで彼の手の中で玩ばれているのかと感じてしまい、悲しくなったこともある。 「…あっ…」 加持の今のその熱を帯びた眼差しが、ミサトにはただ嬉しかった。 「どうした?」 加持がミサトの耳元で囁く。 「気持ち良い…」 ミサトは本心を加持に悟られまいと、ありきたりな言葉で返答する。 加持の口元が少しだけ緩む。 そして、加持の右手がミサトのタイトスーツの襟元にかかった。 ミサトのスーツのフロントジッパーの取っ手を摘み、ゆっくりとそれを下へとずらす。 「あっ…」 咄嗟にミサトの左手が加持の背中から離れ、自分のスーツのジッパーをずらす加持の右手の上に覆った。 「…嫌?」 加持は手を止め、意地悪くミサトに尋ねる。 ミサトは首を横に振るのを見ていながら、加持は更に意地悪くミサトの耳元で囁くように尋ねる。 「どうしてほしい?」 加持のその言葉にミサトの耳朶はたちまち真っ赤に染まる。 「……降ろして」 恥かしげにミサトは呟く。 「何を? 何を降ろして欲しい?」 加持の誘導尋問にミサトは目を逸らして、しどろもどろに答える。 「………私の、スーツの…ジッパーを……降ろして……」 ミサトはそう言うと、その後小さく、「意地悪…」と呟いた。 それを聞いているかいないか、加持は赤くなっているミサトの耳朶に軽くキスをする。 そして、途中まで降ろしていたスーツのジッパーを降ろしきった。 開いたスーツの隙間から覗く、白い肌、紫紺のプラジャーと、同じ色のパンティー。 両手でミサトの体を覆うスーツを剥がし、露になったそれらを加持は上から眺める。 何年、加持はミサトとこういう仲になっていなかったのだろうと、思い返す。 遠い過去のようで、つい昨日のような……引き締まった彼女のスレンダーな体のラインが長い月日の隔たりを忘れさせる。 ただ、若さを強調させる可愛らしい柄付きで絹とナイロンの下着から、大人の、シックなデザインでシルク素材のそれに変わっていることが、辛うじて加持に月日の流れを、そして互いが年を重ねたことを理解させる。 加持に体を見つめられ、ミサトの体の置くから突き上がる感情が、より激しさを増す。 見つめられ、眺められる…視姦、今のミサトには何よりも耐えられず、そして一番求めて止まない行為に、ミサトの心の中は燃える。 (恥かしい…加持君、恥かしいよ…) 加持の視線が胸から腹を抜けてミサトの少しだけ盛り上がった恥丘へと移動する。 それとほぼ一緒に、いつの間にかミサトの体の上に置かれた加持の左手が、布越しに右の乳房を、右の脇腹を、腹の上を撫でていた。 加持の注目がその部分に達したのを感じるや、ミサトは思わず両方の大腿で、自分の一番感じている場所を加持に見せまいと、閉じた。 突然閉じられた大腿に加持は自分の両腕を、彼女の双方の大腿を後ろから掴み、それぞれを愛撫しながら引き剥がした。 「……あっ!」 開かれた扉の先に見えた、大腿の付根に控えるシルクのベールに隠された、ミサトの情熱の泉。 その部分だけが、他の箇所と違って、泉から涌き出る清水で潤っていた。 加持は大腿に舌を這わせながら、片方の手でミサトのパンティーを掴み、もう片方は大腿の裏を撫でながら、徐々にミサトのパンティーへと近付いていた。 加持の舌は一線を大腿に残しながら、泉に辿りつくと、布越しに彼女のそこを舌と唇で刺激し始めた。 「あっ…!」 ミサトはその加持の行為に思わず腰を跳ね上げ、声を上げた。 「あっ…ダメ…ダメ……」 嫌がるミサトの声を無視し、湿った場所を加持は更に舌と唇で愛撫し、刺激する。 嫌がる声を出しながら、ミサトはそれに反し、加持の愛撫を感じる度に腰をくねらせ、過敏に反応する。 (見たい…) 加持はその途端、舌をそこから離し、ミサトのパンティーにかけた両手を一気に彼女の膝まで引き上げ、右腕を伸ばして、彼女の右足からパンティーを外した。 「………っ!」 加持はミサトの両方の大腿にもう一度自分の両腕を絡め、今度は乱暴に彼女の双方の大腿を、一旦ミサトの方に折り曲げるように持ち上げると、そのまま一気に引き剥がした。 「ああっ!」 大きく開かれた大腿の奥に潜むその場所は、遠目から見ても充分に潤っていた。 「あ、嫌……ヤダ……」 ミサトは思わず反射的に声を上げる。 加持の肩越しから射し込む部屋のライトで、その部分が綺麗に輝いていた。 それを加持は半分自分の頬を赤らめながら、眺める。 「………やっぱり、綺麗だ」 薄く恥丘とその周囲を取り巻く陰毛の下に隠された、ミサトの欲望の、泉。 加持は左手の示指と中指を、ミサトの小さな口の入口に少しだけ入れると、そこをゆっくりと開いた。 「…あ!ヤッ!…イヤっ……」 「!………」 開いた中に見える、男を受け入れる場所はミサトの秘液で溢れていた。 よく見れば、その入口の端に薄い膜が張ってあった残骸が残っていた。 ミサトの処女膜……加持が破った膜……が今もそこに残っているのを久々に見て、思わず頬を赤らめた。 初めての挿入時に、ミサトが異常に痛がって、挿入を諦めたホロ苦い思い出が、脳裏を霞める。 刹那の思い出に耽り、ふっと笑うと、目の前の愛しいその場所に溢れる蜜を、加持は舌の先で掬って味を確かめる…昔飲んだ記憶のあるその味が、口の中に独特な芳香を漂わせて蘇る。 男を受け入れる場所のすぐ上で、充血して震えるミサトの陰茎と陰核。 その場所を手持ちぶさたの親指で何度も弾くように弄り、舐め、口の中で転がす。 「あああっ、あっ…あああっ……」 加持の卑猥な舌の音に、ミサトは顔を顰めて何度も「イヤイヤ」と首を振る。 加持にその場所を見られる恥かしさ、加持にその場所を触れられる恥かしさ、加持にその場所を玩ばれる恥かしさ……される悦びとされる恥かしさとされる屈辱に、ミサトは無意識のうちに腰を振り、ブラジャーの上から自分の胸を自分の手で揉んでいた。 「…嫌…あっ…恥か…しいよぉ………加持…君…あっ…か…感じるよ……感じる…」 ミサトの声は喘ぎ声は、まさに加持の行為に更に火を付けていく。 その声が聞きたくて、ミサトの乱れていく様が見たくて、加持は、開いた自分を受け入れるミサトの場所の奥に示指と中指を沈めた。 「ああっ、入れな………あっ…あ…」 指の腹に当たる横ヒダの感触がそそる。 ヒダの感触をより感じたくて、加持は手首を使って指を上下左右に動かす。 最初はゆっくりと、徐々に早めて、慣れてきたら乱暴に激しく…。 グラインドする指の動きに合わせて、ミサトの秘液が淫靡な音を立てて波立つ。 「あっ! いやぁ…ダメェ! …あああっ、加持君…加持くぅ……あっあっ…」 キス、愛撫、指、舌、加持はそれらを駆使して、ミサトを絶頂へと送り込もうとする。 ミサトの眼下で、自分の秘部に貪りつく、揺れる加持の背中。 ミサトは届きそうで届かない加持の背中に手を伸ばし、加持を求める。 大きな加持の背中、この男の背中をこんなに大きく感じたことが無い。 (加持君…加持君……) ミサトはただただ、加持を求める。 「あっ…イク……加持君……イっちゃう…私…ぁ……ダメ、我慢……出来ない…っ…」 「いいよ……お前の果てる声…聞きたい…」 加持はミサトの喘ぐ言葉に答えながら、舌で陰茎を刺激する。 ミサトの目に、涙が溢れ、目尻から耳へと涙が伝う。 傍目から見れば無様でだらしない恰好をされても、自分の一番汚い場所を弄繰り回されても、ミサトは加持が愛しかった。 こんなに淫らになっても、こんなに卑しい欲望を抱いていても、自分をしっかりと受け止めてくれる加持が今は何よりも愛しかった。 「加持君……ぁ…加持く…ん…イク…ぁあっ……加持君…あっあっ、あああっ!……」 繰り返し、加持の名を呼びながら、ミサトは声をより高く上げ、加持の行為によって感じていく自分に酔いしれ…。 ──── そして、ゾクッとくる感覚に襲われたと同時に、ミサトの目の前に広がっていた世界は一瞬にしてブラックアウトした。 (4) 「くっ…!」 股間に疼いた一瞬の痛みに、加持は頬を引きつらせたが、すぐにそれは収まり、着いていたブリーフの一部に痛みの残骸がじわりと広がっていくのを感じた。 「………ちっ」 その様に、加持は舌打ちする。 持ち上げたままのミサトの下半身を床に降ろしながら、加持はミサトの方を見た。 目を閉じて、ぐったりとしたミサトの上半身…絶頂の末、力無く床に倒れたままの両腕が妙に悩ましい。 (気を失ったか…) そんなミサトの姿を加持は一瞥すると、剥き身になったミサトの腰の周りに、自分の着ていた上着をかけ、立ち上がった。 ミサトの白く細く長い足の向こうに放り捨てられたパンティーを加持は右手で拾い上げ、それをすぐ傍のミサトの散らかった事務机の上に投げ捨てると、視線をブランケットのある一角に向けた。 一人の部屋だと言うのに、どういうわけか、数えて6枚ものブランケットが積まれて置かれていた。 だが、加持はそのことについて余り深く考えず、そこにブランケットが「在った」ことにただ感謝した。 加持は一番上のブランケットを掴み広げると、それを足元に敷いた。 大人二人が寝転がるにしては少々小さく、おまけに薄かった。 もう一枚ブランケットを掴み、足元に敷いたブランケットの上に重ね敷く。 これで少しは床から伝わる冷えは防げるだろう、と、加持は思いながら、濃緑のタートルネックシャツの襟首を両手で頭上まで引き上げ、右腕を背中に回し、引っ張り上げるように脱いだ。 何も着けてない、無駄な贅肉の無い引き締まった、加持の上半身が現れる。 加持は、積んであるブランケットの上にシャツを投げるように置くと、履いていた靴と靴下を脱いでその辺に転がし、ズボンを徐に脱いでシャツの上に捨てた。 剥き出しになった灰色のブリーフの前を加持は右手で触ってみる。 水分を吸って冷えた感触が加持の掌に伝わる。 (様ぁ…ないな…) そう思いながら、口元に笑みが零れる。 だが、加持はすぐに笑みを捨て、それと一緒にブリーフも脱ぎ捨て、転がっている靴の傍に投げ捨てた。 力無く萎れて、亀頭が地面に挨拶している加持のペニス。 刹那の休息だ、とばかりに加持は指先でそれを弾いてみると、遠心力に任せて振り子のように二、三度揺れたが、また大人しく地面に向かって項垂れた。 加持はその恰好のままでミサトの傍まで近寄ると、片膝を付いて腰を降ろした。 未だぐったりとして動かない、ほとんど肌が露になったままのミサトの体。 改めて加持はミサトの体を、頭の先から足の先まで舐めるように見つめた。 若い……と言っても数年前のことで、大学在学中に、何日も卒業に必要な必須の講義をサボって自分の安アパートでミサトと情事に耽っていた……頃と比べても、ほとんどミサトのボディーラインは変わっていなかったが、今のミサトの体の方がより女らしくなったと、加持は感じた。 引き締まった首筋、滑らかな腰の曲線、丸みを帯びた尻、程よく脂肪と筋肉がついた足。しかし、どんなに年月が流れようと、ブラジャーの下から僅かに覗く、胸の谷間に残された、大きな傷痕。 例え、ミサト自身が忘れようともがいたとしても、それが事実を忘れさせまいとしているように思えてならない、セカンドインパクトの時に父親の死と引き換えに得た、傷。 加持はその傷を直に見る度、軽い眩暈に襲われそうになる。 自分自身もミサト同様に、セカンドインパクトによって、ミサトのように体に傷を負ってはないけれども、心に大きな傷を得た……いや、その傷は度合いや感触は違うにせよ、それを実際に経験した人間全てが、心に傷を得たに違いない……。 あの時起きた、加持の見る限りにおいての惨状が、加持の脳裏に轟音と共にフラッシュバックする…思い出したくなくても、その全てが脳裏で蘇る…あの時の爆風、砂塵、炎、絶叫、憎悪、恐怖、憤怒……それを無理矢理、加持は幾年もかけて築き上げた理性で、悪夢を記憶の奥深くに閉じ込め、封印する。 だから、加持はセックスの度にミサトの胸の傷痕が見たくなくて、ミサトを四つん這いにさせて自慰行為させることを強要した。 ミサトの自慰行為を見て、ただマスを掻くわけじゃない、ミサトが自慰行為に耽っている間に、加持は自分の脳裏に蘇る悪夢を振り払い、ミサトの中に自分の分身をぶち込むことに集中するように、理性を性欲に擡げる努力をしたかった。 そのためにミサトを犠牲にし、時間稼ぎをした。 時に理性が悪夢に勝てそうにない時は、嫌がっても喚いても構わず、ミサトを後ろから突いた。 全ては悪夢との戦い。 そんな自分自身に、加持はほとほと嫌気がさした。 たまに風俗で発散することもあったが、それは何の解決にもならないことを解っていた。つまり、自分を心から求めてくれる女のために、自分も女も満足するセックスを、加持は渇望した。 ミサトの体を受け止めながら、ミサトの体がまともに見れない、哀れな自分。 (…畜生…) 加持は目を閉じて呼吸を整えると、目を開き、左腕をミサトの胸の下に、右腕を両膝の下に差し入れようとしたが、ずらしただけでまだ残っているミサトの上半身にまとわりつく衣類が邪魔に思え、止めた。 ぐったりしたミサトに余計な刺激を与えまいと、左手を手前から彼女の首の裏に入れて首と頭を支え、右腕を奥から背中に差し入れ、自分の方に向かって引き起こすと、加持は全身をミサトの背中に入れた。 まだ瞼を閉じたままのミサトの頭を左肩で支え持ち、両腕で、彼女の着ているもの全て……赤のジャケット、短銃が収められたホルダー付きのボディバンド、タイトスーツ……を優しく両肩から剥がし、右腕、左腕の順に袖から脱がせ、その場に置いた。 上から見下ろすミサトの体。 二房の間から確実に見えているはずの三角地帯が、自分の上着で隠されているが邪魔で、加持は右腕を伸ばし上着を剥がした。 白い肌の間に浮かぶ三方の黒い筋、そして、今し方自分自身で汚した場所にひっそりと生ける、ミサトの髪の毛と同じ色をした薄毛の、デルタ。 そこから上昇すると、露になったミサトの紫紺のブラジャーが、彼女の細い体には不釣合いな大きな乳房を覆い隠し、それがまた彼女の白い肌と対照的で、艶めかしく見える。 ブラジャーの下に隠された乳房が、加持は見たかった。 右膝で彼女の肩甲骨の下に入れると、素早く両手で背中のホックを掴み、外す。 ピンと張っていた緊張が解れるように、ブラは力なく弛緩し、ブラ紐を双肩の丘陵から外すと、ブラのパッドごと簡単にミサトの腹の上に陥落した。 大きなアーチを二つ描いている、ミサトの乳房。 ただでさえ白い肌なのに、乳房とその周囲はより白く、褐色に近いピンク色の乳房が一際目立つ。 思わず加持は生唾を飲み込み、その乳房に手を伸ばそうとしたが、すぐに引っ込めた。 こんな態勢のままだと、ミサトはもちろんのこと、加持自身も疲れてしまう。 中途半端に降りたブラジャーをミサトの両腕から外し、その辺に置くと、加持は持ち上げた上半身を左腕で、両膝を右腕で支えると、そのまま上に持ち上げた。 衝撃でミサトが目を覚ますかと思ったが、ミサトはまだ意識を取り戻さない。 加持はミサトの体を、敷いたブランケットの上まで持って行き、その上に仰向けで寝かせてから、床に脱ぎ残したミサトの衣類全てを自分の脱いだ服の傍に置いた。 (……忘れてた) 加持はミサトの全身に三度目を向けると、足元で脱がされるのを待っていたブーツの存在にようやく気付くや、脱がせにかかり、ミサトの足から離れた残骸をその辺に転がした。ミサトの足元からまたミサトの全身を眺める。 とにかく加持の目には、ミサトのどの部位よりも、胸元に残る大きな傷痕が一際目立って見えて仕方なかった。 「…………」 悪夢、忘れ得ぬ過去、そして、決して忘れてはならぬ、あの時に抱き、感じ、覚えた、様々な感情。 (今は……、全てを忘れ、ただ情欲に溺れたい…) 加持は今一度、目を閉じ、呼吸を整え、目を開けると、寝ているミサトの傍に寄り添うように体を横たえ、彼女の胸元に刻まれた大きな傷口を凝視する。 (今はただ、それのみを、俺は望む…) そして、加持は意を決したように、ミサトの胸の傷痕に、自分の唇を当てた。 (5) 胸元に感じた柔らかい感触が、ミサトの意識に揺さ振りをかける。 闇の海の中を漂っていたミサトの意識が、深い底からゆっくりと浮上する。 ぼんやりとしか見えない僅かな光が、次第に水面一杯に広がっていき、それが余りに眩しくて、ミサトは瞼を開いた。 水面の向こうに見えたのは加持だった。 心配げな表情をした加持がミサトの顔を覗き込んでいた。 「……ん…」 「気が付いたか?」 加持のバリトンの声がミサトの体を優しく包む。 ミサトは加持の言葉に頷いた。 「私、どれくらい…気を失ってた…?」 「そうだな…五分、くらいかな」 そう言うと、加持はミサトの唇を軽く吸った。 ふと、自分のいる場所が今し方までの状況と違うことに気が付いた。 ミサトが寝かされていた場所から見えていた天井の位置が違っていた。 明るかったはずの天井の照明がほとんど暗く落とされていた。 背中に当たる、冷えた感触が消えていた。 毛羽立つ布の感触が背部全体を覆っている。 そして何よりも、自分を見下ろしている加持が、何も着ておらず、ミサト自身も一糸纏ってない姿になっている…。 「あれ? ここ…は?」 「さっきと同じ場所だよ」 加持は笑みを浮かべて答える。 「でも、何、この背中に当たる感触…?」 「ブランケット」 「…?」 ミサトは掌でそれを確かめるように触ってみる。 「床に直で寝ていると冷えるだろう? あの辺りに置いてあったブランケットを何枚か借りた」 そう言いながら、加持はその場所を指し示した。 ミサトはその示す先を見ると、そこは確かにブランケットが置かれていた場所で、プランケットのあった場所には、加持の脱いだ衣類が無造作に置かれ、そして自分の服が隣に同じように置かれていた。 「………」 ミサトはそれでやっと自分がここに横たえているのかが理解出来た。 自分が気を失っている間に、加持は床にブランケットを敷き、服を脱ぎ捨て、自分の服を脱がして、ブランケットの上に寝かしたのだろう。 ミサトは視線を加持の方に向けた。 「気分は良いか?」 いつになく優しい言葉を加持はミサトにかける。 それがミサトにはくすぐったくもあり、嬉しかったりもする。 そんな加持の体をミサトは見つめる。 長身の体、鍛えているせいか少し盛り上っている大胸筋、綺麗に六つに割れた腹直筋、無駄な贅肉のついてないすっきりした下腹部、引き締まっていてそれでいてがっしりとした上腕と前腕、長く伸びた足、弛みのない大腿……そして、まだ萎えているけれど、日本人離れした大きく太い、陰茎。 若さだけで出来あがった瑞々しい体躯ではなく、日々の鍛錬で作り上げた加持のそれ。 「どうした?」 ミサトが自分の体を繁々と見つめているのに気付き、加持はミサトの気を引こうと声をかけた。 「…鍛えてるなって、思った」 不意に、若い時以上に引き締まった加持の体を、ミサトは自分の体に重ね合わせて感じたいと思い、自分の上を覆う加持の首に自分の両腕を絡めると、力を込めた。 ミサトの力に抗うことなく、加持は己の巨躯をミサトの痩身に重ねた。 「あっ…」 「おっと」 ずしっと全身に圧し掛かる加持の体重。 一瞬だけ肺が潰されそうになって苦しかったが、すぐに加持の体重にミサトは慣れた。 確かに加持の体は筋肉で引き締まっているから、硬くて、鉛のように重い。 けれど、その感触がたまらなくミサトには愛しかった。 加持はうっとりしたミサトの表情に安堵の表情を浮かべ、そして、顔の間近に白く伸びる首筋に唇を当てた。 先程の首筋への愛撫の跡が所々に残っている上に、加持は更にキスをする。 ミサトの大きな乳房が加持の大胸筋でゴム鞠のように潰され、加持のその動きに合わせて乳房は加持の胸の中で回り動く。 その胸の突起が、小豆のように硬く、コロコロと動くのが、加持にはなんとも言えず気持ち良かった。 自然に互いの足は絡み合い、ミサトの下腹と左の大腿の付根の辺に加持のペニスの先が当たり、その周囲を刺激する。 先端の不確実な動きが、不思議なくすぐったさで、ミサトは先端が出鱈目な線を描く度にクスッと笑みを零し、身を小さく捩らせる。 徐々に加持の唇は首筋から下降し、鎖骨の辺りを何度もなぞり、舌を這わせ、その周囲に満遍なく愛撫すると、右の乳房の天辺へと唇を移動する。 すっかり硬くなったミサトの乳頭は褐色に近いピンク色で、乳頭同様に乳輪腺も硬く尖がっていた。 加持は唇を窄めて乳頭を何度も転がしてみた。 すると、ミサトはそれに過敏に反応した。 「……あっ…あ…」 小さく声を上げながら、加持の横頭を左手でやさしく撫でるミサトの手。 ミサトが加持の行為を寛容に受け入れることを、加持はそれだけで悟る。 ふっくらと細い体の上に盛り上ったミサトの乳房は、加持の大きな掌でさえ持て余すほどの大きさで、しっかりと弾力がある。 加持の左手はミサトの手から離れ、ミサトの右の乳房を掴んだ。 掴んだことでそこだけが別の生き物のようになった乳頭と乳輪を、加持は舌先で転がしたり、舐めたりして玩ぶと、口の中へと招き入れた。 頬を萎ませて乳頭を吸い上げたり舌で舐めまわしたりして、加持はそれらを激しく刺激する度に、ミサトは「キモチイイ」と声を上げて悦ぶ。 それを何度も何度も加持は繰り返し、ミサトはその度に体を捩る。 さっきまでミサトの腰を撫でていた加持の右手は、ミサトの左の乳房を持ち上げるように揉んでいた。 右の乳頭を解放させると、今度は左の乳頭を同じように加持は攻め出した。 弾力があって張りのあるミサトの乳房は、加持にとって、大きさも硬さも重さも全てにおいて、愛撫するのにやりがいのあるものだった。 加持の唾液でベタベタになった右の乳房を、加持は自分の唾液など構わず、左手で揉み出した。 加持の両手と舌と唇に乳房を良いようにされながら、ミサトは存分に感じていた。 加持に自分の体を触れられるだけで、ミサトは幸せだった。 肌に伝わる加持の温もり、息遣い、筋肉の微妙な動き、過敏に反応する皮膚……それら全てがミサトには愛しくそして今は激しく求めて止まないものだった。 そう思うに連れて、加持の頭を撫でているミサトの手はより力を増して加持を撫でる。 「もっと、もっとして…加持君、」 ミサトの言葉を耳にして、思わず加持は顔を乳房からミサトの顔に向けた。 恍惚の笑みが加持に向けられている。 「……葛城」 堪らず、加持はミサトの唇を自分のそれで塞いでしまった。 もう何度目のキスなんだろう。 飽きるほどしているはずなのに、でも、まだし足りないキス。 互いの鼻尖が互いの頬に当たって刺激し合う。 深く深く互いの口腔の中で絡まり合う、舌。 互いの舌先を当て合ったり、口蓋をなぞったり、舌の周りを刺激したり、歯を舐めたり、頬の膜を舐めたりして、何度も唇を離して息を吸ってはまた唇を合わせる。 飽きない、いや、物足りない。 (俺は…) 加持は少しずつ、そして知らずのうちに、自分の心の深淵に潜む本当の自分に素直になっていた。 ミサトへの、忘れえぬ愛。 別れてた後でさえ続く、唯一心を許せる、許したいを願うたった一人の女性への、忠誠的な愛情。 体を重ね合わせることでしか、それを相手に伝えることが出来ない自分のもどかしさ、不器用さ、理不尽さ。 (俺は、愛している) そんな言葉を恥かしさが先行して口に出せない、自分の不甲斐無さ。 昨日ミサトが感情向き出しで吐露した、ミサトの自分へのいまだ忘れえぬ感情の告白。 好きなのに、自分を遠ざけた本当の理由。 愛しているからゆえの、相反的な行動。 (愛しているんだ、この女を) 若い時には理解出来なかった、ミサトの行動。 若い時には解ろうともしなかった、自分の心の深淵に潜む、ミサトへの本当の愛情。 (これほどまでに、俺はこの女を…) 加持はその時、より深くミサトの入っている舌を吸い上げた。 その加持の行為に、苦しそうな表情をミサトは見せた。 「…んっ…んんんっ!…」 加持はそれに気付くと、弾かれるようにミサトの舌を離し、自分の唇もミサトから引き離した。 「ごめん…痛かったか?」 困った表情を加持はミサトに向ける。 「うん、少しだけ…」 そう言って、ミサトは頷きながら言葉を続けた。 「でも平気」 ミサトは笑みを加持に見せると、加持の汗ばんだ額にキスをした。 加持はミサトの上に乗せていた体を自ら離すと、ミサトの横に片膝を立てて座り、ミサトにも座るように促した。 「どうしたの?」 ミサトはゆっくりと起きあがり、足を揃えて加持の横に座ると、加持の顔を下から覗き込むように見つめながら尋ねた。 加持は無言で右腕をミサトの腰に伸ばすと、ミサトの体を自分の傍に引き寄せた。 ミサトの体は加持の体と密着し、ミサトの双方の手は加持の双方の大腿の上に添うように、置かれた。「どうしたの?」 もう一度、ミサトは聞いた。 すると、加持はミサトに笑みを浮かべながら、左の大腿に置かれたミサトの右手を取ると、その手を自分の半ば天を向いて反り立ち出したペニスへと導く。 「えっ…」 ミサトは戸惑い、刹那、顔が強張った。 当然のはずだ。 ミサトは今まで一度も加持のペニスに触れたことがなかった、から。 (6) 付き合っていた当時、何度もミサトは加持に「触りたい」と、せがんだ。 けれど、加持は何かにつけてミサトがペニスを触ることを拒み続けた。 そのことで、セックスの最中に大喧嘩さえしたことがあった。 結局、ミサトは加持のペニスを触ることを諦めた経緯があった。 ミサトは加持のペニスを改めて、見つめた。 その部分だけが別の生き物のように存在しているように、ミサトには思えた。 陰茎は赤紫とも青紫とも区別しがい色味がかった褐色をし、亀頭は灰色とも濃茶とも言い難い褐色をしていた。 ミサトは加持の方を見ると、加持の頬が少し赤く染まっているように見えた。 それをミサトに見られまいと、加持は照れ隠しに戸惑いがちのミサトの顔に軽くキスをする。 「触って…」 唇を離したミサトの口元で囁く加持の一言。 ミサトは「いいの…?」と、躊躇いがちに加持に聞く。 加持はミサトの手の甲の上に自分の掌を当てがう。 「軽く、掴んでみて」 彼に促されるまま、ミサトは加持の分身を恐る恐る軽く掴んだ。 途端にミサトは頬を赤らめた。 ミサトの掌いっぱいに伝わる加持の、そこだけが他の部位と全く違う熱を帯びた、がっしりとしたペニス、信じられない速さで流れる血液の感触に、ミサトはただ、驚く。 「……ああ…すごい……すごい…」 感嘆の言葉をミサトは何度も呟く。 そして、ミサトは今までに何度も、手の中の加持のペニスを自分の中に招き入れていたことが、今さらながら、信じられない気分になっていた。 熱を帯びた加持のペニスは、ミサトが握ってだけで少しずつ大きくなっていた。 その様にミサトは頬を更に赤く染めてしまう。 「………」 加持はセックスの度にずっと、自分をずるい男、だと、蔑んでいた。 ミサトがどんなに強請って、せがんで、怒っても、加持は絶対に、ミサトに触れさせなかった。 触れることは勿論、口に咥える…フェラチオなど、以ての外だった。 ミサトは口論の度に「気持ち良いんだってば、だって…」と女友達からどこからか仕入れた体験談を加持の前に持ち出し、どうにかしてでも加持を説得しようと、頑張った。 加持自身、酒の席で同級生が饒舌に語る話を聞きながら、ミサトに口で奉仕をされたらどんなに気持ち良いかを想像し、その時には次こそは…と思うが、本人を目の前にすると、途端にその気は遥か彼方に消えてしまう。 ────── 汚したくない。 その一心が加持の逸る心にブレーキを掛けさせる。 ミサトの唇が自分の分身を受け入れる…自分の一番醜く、そして卑猥で獰猛な場所で綺麗なミサトの唇や手を汚すことを、加持はひどく躊躇った。 頭では充分なほど、それをされることでより濃厚な官能の世界に自らを誘えるのだと、理解している。 だが、加持は激しく拒んだ。 好きで好きで、愛しくてたまらない女に、そんなことをさせることが嫌だから。 それに、されることで乱れていく自分の無様な姿を、愛しい女に曝してしまうから。 だから、口論をして、結局諦めるミサトの顔を見る度に、加持は心の中で激しく叱咤するのだ……ずるい奴、臆病者!……と。 「柔らかいな……お前の手…」 今は違う。 ミサトが愛しいからこそ知って欲しいのだ、愛しい女の手の中に、自分のペニスを包まれて悦んでいる、無様でありのままの姿の自分を。 「………」 ミサトは加持を見た。 加持もミサト同様に赤く頬を染め、ミサトと目が合うや、わざとミサトから視線を逸らした。 いつもはポーカーフェイスで感情を前に出さない男が、まるで思春期の少年のような、顔を真っ赤にしている表情に、ミサトは思わずドキッとしてしまう。 生まれて初めて、こんな初な表情を見せる加持が、ミサトには可愛くて仕方なかった。 こんな姿を見られていることに対する羞恥の顔なのか、それとも……。 ミサトは赤く染まった加持の頬にキスをする。 「……ん…」 ミサトの大きな乳房が加持の胸の上で揺れる。 キスされて思わず体が反応しても、ミサトの視線から目を逸らしたまま、加持はミサトに言う。 「……葛城、お前の手で…………扱いて」 しばしの沈黙の後の、その言葉が吐かれた途端、加持の耳は真っ赤に染まり、口元が羞恥の余りに小さく震える。 そして、もう一度、今度はきちんとした文章にして、加持はミサトに言った。 「お前の手に扱かれて……出したいんだ」 加持はその言葉を吐くや、あてがったミサトの手に力を込め、その手を上下に動かし始めた。 「加持君…あっ…」 加持のリードする手で、ミサトは加持のペニスの表皮を掌で撫で上げる。 触れているものは皮膚なのだと、頭では解っているのに、ミサトは触れてはいけないものに触れているような気がして、何故か咎める思いが心に生まれる。 一方で、昔から興味半分で触れてみたいと思っていた加持のペニスに触れる幸せに歓喜している自分が存在していることも、否定出来ない。 ミサトの掌の軟らかさは、殊の他、加持には「感じて」いた。 自分で仕向けたといえ、愛しい女が自分の分身を握っていることを意識しているだけで、加持は感じ易くなっているのに、その上、その肌触りが思っていた以上に気持ちよくて、自分でしている時以上に勢いを増して血液が海綿体に向かって流れていくのが堪らなかった。 「…ハァ……ハァァ……ハッ…」 ミサトに自分の口から零れる喘ぎ声を聞かれまいと、加持は顔をミサトから背ける。 しかし、引き締まった腹が呼吸に合わせて大きく上下するのは止められない。 ミサトはそんな加持の悩ましい姿を見ていると、別に自分の体に何の刺激も与えてないのに、収まりかけていた疼きがまだ蘇り出す。 浮かび上がった血管のせいでボコボコした表面に変化していく加持のペニスは、ミサトの掌のせいで、よりボコボコな状態になり、ペニスの幹もますます大きくなっていく。 ミサトの掌の中で歪な動きをしながら加持のペニスは、再び力を取り戻す。 (大きくなってる…) じわじわと加持のペニスから液体が染み出し始め、それはミサトの掌との僅かな隙間に流れ込んで潤滑油の役目をなし、よりミサトの掌が動き易くする。 「…ハァッ……ハァハァ…ハァ…」 「あっ…あっ、おっきい……」 加持の息遣いはますます荒くなり、更にミサトの掌をリードする左手に力を込め、スピードを加速させる。 ミサトはそんな加持の姿を見て、ますます疼きを増す。 (かっ、加持君…可愛い……可愛いよぉ……) ミサトは堪らなくなり、自分の腰を少し浮かすと、加持の右腿に置いていた自分の左手を股間に差し入れ、自分で自分の分身を指で玩び出した。 「あっ…アッ……ハァ、」 示指で既に勃っているクリトリスを刺激しながら、中指で濡れ出した口の周囲を触る。 加持が触っていた時よりも更にそれら敏感になっていて、ミサトは声を上げる。 「……アッ! アッ…あっ……」 感情に任せて、指に力を込めたり弛めたりしながら、腰を軽く回すようにグラインドさせながら、よりミサトは感じ易くしようと動く。 (加持君…欲しいよ…これが欲しいよ…) ミサトは掌の中にあるガチガチに硬くなった加持のペニスを強く握って、更に扱く。 加持の分身を握りながら、淫靡に自分の分身を弄っているミサトの大胆な姿を、加持は熱に浮かされた瞳で見つめる。 「アッ…感じる、加持君……加持君……」 グラインドする度に、ミサトの乳房はブルンブルンと揺れ動き、長い髪は撥ね上がる。 更にミサトの秘所は、ヒチャヒチャと卑猥な音を立てて、ミサトの指をいやらしい液体が伝い、汚す。 (ねぇ…頂戴、早く頂戴…っ…) ミサトは昂ぶりの反動で込み上がる涙に瞳を潤ませながら、 自分の名を呼びながら、激しく乱れるミサトの卑猥以外の何物でない、体。 その体の中に、自分の猛るペニスを挿れたい衝動に突き動かされる。 「かつ……らぎ…」 途切れ途切れな加持の声にミサトは喘ぎながら答える。 「何…あっ…何……加持く…」 小刻みに、淫らに揺れるミサトの体。 白い肌に赤みが注し出し、よりエロティシズムさを帯びてゆく。 「挿れたい………いい、か…?」 やっと加持の口から吐き出された言葉に、ミサトの心は躍り、逸る。 ほんの一瞬、加持にしてみれば気の遠くなりそうな、間。 ミサトは頷きながら、息を切らして、呟く。 「………挿れ…て…」 その言葉を待っていたとばかりに、加持は自分のペニスからミサトの掌を剥がすと、ペニスの表皮から分泌された潤滑油で濡れたそれが、薄明かりでテロテロと光る。 「俺の前に、足を広げて…座って…」 ミサトは加持が納まるべき場所で遊んでいた自分の指を剥がし、両足を広げると、それを加持の開いた両足の上を跨ぐように置き、加持と向き合うような恰好になった。 両腕を後ろに回してつっかえ棒のように伸ばし、足をほぼ英語の「M」の形に曲げて座っているミサトの体。 加持にとっての『禁忌』…傷痕…のちょうど真下にある、「M」の二本の線が交わった場所…ミサトの秘所…は、ミサト自身に弄られたばかりで、微妙に肉ヒダがヒクヒクと小さく痙攣している。 微量だけれども、肉ヒダから溢れ出る秘液がブランケットに染みを作る。 そんなミサトの充分に濡れた場所が、加持の反り勃ったペニスに向き合うように鎮座している。 「加持君…」 今し方、加持の目の前で大胆に指を動かして乱れていた女が、今は加持の視線を浴びて恥ずかしげ目を斜め下に背けている、その行動のギャップを加持は楽しむ。 「…挿れて…」 か細い声でミサトは加持にせがむ。 ミサトの肩と胸が呼吸を整えようと、荒々しく上下に動く。 激しい運動で体のあちこちは汗ばみ、仄かに汗に混じったミサトの匂いが、加持の鼻腔を擽る。 「挿れてよ…」 ミサトは自分を見つめる加持に焦らされているようにしか思えなかった。 (すぐそこに、今、一番欲しい物があるのに、) 焦らされて、なお、ミサトの濡れた部分から秘液がじわりと滲み出す。 その場所にミサトは左手を引き付け、示指と中指で合わさった小さい唇を開く。 「加持君…お願い、早く……頂戴っ…」 柘榴のように赤く熟れたミサトの秘所が、加持の前に現れる。 その場所にミサトの抱く今の感情が全て濃縮されているように思えてならない。 更に、羞恥で熱を帯びたミサトの声が、加持の本能を焚き付け、煽る。 「………挿れるぞ」 加持は自分自身に言い聞かせるように呟くや、自分の腰を前に伸ばし、両の大腿でミサトのM字型に開かれた大腿を、腰と大腿で押さえ付ける。 左腕をミサトの右腕と腋の間に割り入れ、体重を左腕にかけながら、右手を自分のペニスを掴み、鈍く輝く亀頭をミサトの指で割られた柘榴の中に入れる。 「あっ!…」 加持の亀頭が入口に触れ、ミサトは思わず声を上げる。 じわりとその場所から全身に感触が心地良い波となって伝わっていく。 ところが、亀頭は入口を一回りなぞると離れ、そしてまた、入口に触れる。 何度も同じことを加持は繰り返す。 加持はミサトの羞恥に歪んだ表情を眺めて楽しんでいる。 挿れたり出したりする度に、ミサトの顔は歓喜と落胆を交互に見せ、次第に憂いの眼差しを加持に向けて行く。 「……バカっ、焦らさないでよっ…」 潤んだ瞳で加持の目を見つめながら、小さく叫ぶミサトの声。 そんなミサトの表情が無性に可愛くて、加持はつい、ミサトを焦らしたくなる。 「…そんなに、挿れて欲しい?」 明らかに意地悪な質問を加持はミサトに吐く。 加持の言葉を耳にして泣き出しそうな顔になりながら、ミサトは答える。 「バカッ………加持の、バカっ! 挿れてよ……早くッ……加持君が欲しいのっ!」 ミサトの思考は恍惚と淫靡でグチャグチャにされ、本能剥き出しに、頭の中に浮かぶ言葉を加持に向かって吐かせる。 「葛城、手を離して……挿れるから」 ミサトは加持に言われたとおり、その場所に置いていた左手を退けた。 加持はミサトの大腿を押さえていた自分の大腿により力を込め、腰を前に突き出し、全身を前に倒すように屈しながら、自分の手で導きながら、ミサトの中に太く長く硬いペニスを刺し込んだ。 肉棒が 「くっ…!」 膣の締め付けの思った以上にきつく、思わず加持は声を上げる。 数年振りのミサトの 「ああっ…挿って…る……」 待ちわびていた加持のペニスが挿った悦びに、ミサトの声が明るく跳ねる。 密着した加持とミサトの上半身。 自身の体と加持の半身を胴で受け止め、それを支えるミサトの右腕が耐え切れず震えている…今のままの体勢だと、ミサトが後々苦しくなる。 加持は右腕をミサトの背中に回し、左腕でミサトの右腕を掴み、それを自分の背中に回すように促し、ミサトの体をブランケットの上に、陶磁器を扱うようにそっと置いた。 上下に向き合う形になった二人は、互いを見つめ合い、そして軽くキスをする。 フッ、と加持の口元から漏れる笑み。 笑みにつられて、ミサトの涙が溢れて零れそうな瞳に明るさが戻っていく。 ミサトの背中から離れる加持の両腕。 十指それぞれがミサトの流麗な背中から腰へと動いていく。 指の動きにミサトの腰が揺れる。 「…っっ」 体位を変えたことで、ミサトの膣の締め付けが僅かに緩くなる。 ミサトの右の耳元に加持は唇を近付け、息を吹きかけるように、囁く。 「始めるよ…」 加持の優しい声と、耳朶の上を柔らかくなぞる熱を帯びた吐息に、ミサトは堪らず瞼を閉じた。 溢れていた涙が目尻から零れ落ちる。 加持は腰を前後に動かし始めた。 狭い空間を占拠する加持の熱い肉棒の動く感触がミサトの全身に至福の疼きとして伝わっていく。 「あっ…あっ!……っつ……」 緩くなったとはいえ、まだまだミサトの膣は加持を締め付ける。 ミサトの受け皿は、久し振りに受け入れる男の棒に、緊張していた。 数年の間、ミサトの指以外は受け入れることの無かった受け皿は、本来受け止めるはずの物の存在を僅かな感覚でしか記憶しておらず、柔らかく解されていた状態から元の状態に戻っていた。 しっかりと濡らした皿の上に帰って来た、熱く熟れた、獰猛な肉棒。 記憶に残っていた感触が蘇り、棒が動く度に少しずつ、解されて柔らかくなった時の姿に受け皿は戻ろうとしていた。 「……あっ、あっ…あっあっ…あっ…」 加持が腰を動かす度にミサトの嗚咽に似た小さい喘ぎ声が漏れる。 ミサトの膣ヒダ一枚一枚が、加持の充血した棒を刺激する。 硬かった空間がだんだん加持を受け入れるように隙間を作り出す。 それに合わせて、加持の腰の振る速度が少しずつ早まる。 「くっ…ふぅっ……くっ…はっ……」 ミサトの腰に置いていた両手は、バラバラに別の場所へと移動する。 加持の右手はミサトの細い左腕を幹から順に撫で上げ、ぐったりと天井に向いている掌に到達すると、その指の間に自分の指を絡み合い、左手はミサトの右の殿部から大腿を撫でる。 加持の張った胸の下で上下に揺れ動く、ミサトの大きな乳房。 加持はつい視界に入りそうになる胸元の傷痕を無視するように、視線を乳房から上にずらす。 赤く火照った、汗ばんだ、白い肌。 更に上昇し、細い首筋に浮かんだ、自分で付けたキスマークにキスをする。 「んっ…あっ…」 微かにミサトが声を上げ、頭を捩る。 目を閉じたまま、頬を高潮させ、加持のする全てを受け入れているミサトの表情。 その目尻に光る、一筋の涙。 加持の心が怯む。 いつしか激しく動かしていた腰の動きが、緩まる。 大腿を撫でていた左手が咄嗟にミサトの右頬に触れる。 熱くなった加持の大きな掌。 その感触がミサトの瞼を開かせる。 五センチもない前に見える、加持の自分と同じように高潮させた顔。 自分を優しくも不安げな眼差しで見つめる。 「加持君…?」 ミサトは無意識に加持の右肩を撫でていた手を止める。 「……どうした?」 加持はミサトの涙を親指で拭いながら、尋ねる。 「痛い…か?」 ミサトは頭を何度も横に振る。 「…キスして、」 一息吐いて、もう一度ミサトは言う。 「加持君、キスして……お願い…」 ミサトは自ら自分の唇を加持の方へ運ぼうと頭を上げようとした。 そのミサトを、彼女の頬を触れた手で制し、加持は吸い上げるようにミサトの唇の上に自分のそれを被せた。 お互い熱くなった舌を絡ませ、求め合う。 そして加持は緩く動かしていた腰に再び力を入れる。 たちまちミサトは加持に激しく突かれ、舌を絡め合う唇から嗚咽が零れ出る。 「ア!…フッ…うっ…んんっ!……ンッ!……」 加持の腰遣いも、舌も、緩まることは無い。 ミサトを離すまいと、必死になる。 離れていた長い時間を取り戻そうと、加持はミサトの上でもがく。 握り締めた右手に力が篭り、左手がミサトの揺れ動く髪を、頭を撫で上げる。 ミサトと別れ、それから何人の女を加持はこの腕に抱いただろうか。 どの女も魅力的で、中にはミサト以上の容貌とスタイルを持った女もいた。 けれど、どれも加持の心の中に生きるミサトを越えることはなかった。 一夜限りの情事を重ねる度に、加持は後悔を募らせた。 心の中の女を自ら汚していく、蛮行に。 許してくれ。 何十回、何百回、謝っても謝り尽くせない、愚かな自分。 組み敷いたミサトに向けて、全身で加持は叫ぶ。 ……愛している、もう離したくない、と。 「…ハァ…っぁ…」 一瞬だけ空気を吸うためだけに加持はミサトの唇から離れ、そしてまた塞ぐ。 ミサトはもう加持から離れたくなかった。 このままこの姿のまま死んだって構わないとさえ、思った。 加持と別れてから、どんなに加持より格好良い男から告白をされても、酒の席で乱れて同僚に絡んでも、絶対に他の男の肌に自分の体を重ねること拒み続けた。 自分の体を蹂躪出来るのは、加持、ただ一人だけ。 ミサトの心を占める男は、加持一人だけ。 若くて自分の心に整理が付けなくて、加持を遠ざけてしまったけれど、ミサトは本能で解かっていた。 ごめんなさい、ごめんなさい。 ミサトは何度も自分の上で動く加持に謝り、そして懇願する。 ……ごめんなさい、もう離さないで、と。 ミサトも加持も、絶頂へ、確実に近付いていた。 加持は、たとえ熱で頭が官能に犯されていても、避妊具を付けてない自分のペニスがミサトの中で果ててはいけないという理性だけは残していた。 ペニスから吐き出される欲望を外に出そう、と、加持は自分の唇をミサトの唇から惜しむように剥がし、上半身を起こし、両腕をミサトの腰に引き戻ろうとした。 その時、ミサトの両腕が加持の行動を制するように、加持の後ろへ回された。 「………?」 加持はミサトを見た。 ミサトは何度も何度も頭を横に振っていた。 「葛城…?」 加持が声を掛けてもミサトは頭を横に振り続ける。 「嫌…」 「……?」 「…抜かないで」 「……!?」 予想に無かったミサトの言葉に加持は困惑の色を隠せない。 「な…に……?」 ミサトの言葉を加持は疑う。 「お願い、抜かないで…」 ミサトは加持の背中に回した両腕に力を込める。 引き剥がそうとすれば簡単に剥がせるミサトの腕。 加持の体はそれを引き剥がすことを躊躇ってしまう。 しかし、理性は『剥がせ!』と叫ぶ。 「駄目だ…お前の中には、出せな……」 「出して……出して、お願い……」 「葛城、お前…」 加持はミサトの言葉に従うべきだと言う自分と、そうでないと言う自分の間で、刹那、葛藤する。 全身に感じるミサトの熱い体。 そして、彼女の切なる願い。 (………バカヤロウっ…!) 加持の理性は瓦解した。 ミサトにその顔を見られたくなくて、加持はミサトの首筋に自分の顔を沈めた。 最後の力を全て一箇所に注ぎ、今まで以上に強く激しく、腰をミサトに向かって突く。 肉と肉がぶつかり合う音にも、ミサトの自分の名を呼びながら激しく喘ぐ声にも、加持は耳を貸さなかった。 本能のあるがままに、加持は突く。 肉棒に走る激痛、体の奥から突き上がる衝動、それが熱い固まりとなる。 「……くっっ!!」 加持は歯を食い縛った。 それは、細い管を掻き分けるように流れ、濁流となってミサトの中に吐き出された。 (7) 加持の肉棒から、熱い液体が膣の中へと流れ込むのを、ミサトは感じた。 (……熱い…) 生まれて初めて受け止める、加持の精液。 避妊具越しに感じた温かな感触は、本当は熱湯のように熱いものだった。 加持は一瞬軽い眩暈を感じたがすぐに正気を取り戻した。 初めてミサトの中に欲望を吐き出したことを自分に言い聞かせる。 ゆらりと汗に滲む体をミサトの上から剥がし、同時に、ミサトの中で果てて萎み出したペニスを引き出す。 まだ熱さを帯びているミサトの下の口に加持はゾクッとする。 ミサトも加持が離れていくのを、その場所と背中に悪寒に似た感触で感じた。 激しく加持に突かれて、ミサトの息は上がっていた。 肩で息をしながら、呼吸を整えている、ミサトの体。 ぼんやりと暗い天井を見上げるミサトの瞳。 視界の端で加持の体が動いているのが解かった。 「………!?」 突然、ミサトの両手首を強い力が支配した。 まぎれもなく、それは加持の両手だった。 それを理解するのとほぼ同時に、ミサトは加持の強過ぎる両腕に引っ張られた。 激しい力に抗える以前の問題だった。 加持の力にただ引かれるがまま、ミサトの上半身は引き起こされ、加持の体に抱きすくめられた。 「痛っ…!」 ブランケットの上に両膝を立てて突く格好になったまま、ミサトは背中で加持の掌を感じた。 直後、加持は両腕でミサトの体を前後逆に向け、腰をブランケットの上に置いた。 背中を抱き、右膝でミサトの腰を押し、腹を突き出させる。 「………!?」 加持の行動が、その時は、ミサトには全く理解出来なかった。 首筋を唇で、両手で胸と腹を愛撫する加持。 仄かに荒い鼻息を突きながら、ただ無言で愛撫する加持。 (何? 何…?) ミサトは困惑する。 だが、加持を自分に何をしようとしているのか、それを感じた時、理解出来た。 中に居た加持の放った精液がトロトロと、ヒダを伝って下へ落ちていく感触。 「あ……」 加持は、解き放った自分の精液を外に出そうとしている。 ミサトの願いを聞き入れ、中で欲望を吐き出したはずの加持。 だが、加持の耳はミサトの願いは届かなかった。 小さなミサトの口へと到達し、その先端が口を潜り、ボトッと音を立ててブランケットに落ちる。 乳白色の、加持が自分にくれたはずの、加持の欲望の結晶。 「あっ……」 途端にミサトの心を、哀しみが鷲掴みする。 沸き上がる新しい感情、そして、熱いものが両方の瞳から溢れ、大粒の涙となって零れ落ちた。 (嫌っ!……ダメ…ダメッ!…) 小さな口とブランケットの間に細い糸を引いている加持の体液は、それに続いて、糸を辿るように次々とブランケットへ下降する。 加持はひたすらミサトの首筋にキスを繰り返し、胴を抱く両腕はミサトの胸や腹を無我夢中で愛撫する。 ミサトは流れる涙を拭おうとしなかった、けれど、嗚咽は殺した。 涙がブランケットを濡らし、流れ出ていく体液がブランケットの上で水溜りを作る。 ミサトは俯いた。 股の下の、楕円を描いて盛り上った乳白色の液体が、薄明かりのライトに照らされて、鈍く光を放っている。 力無く項垂れた右腕をそれの方へ伸ばす。 夢中で後戯に耽っている加持に悟られぬように、ミサトは指先で乳白色の水溜りをさっと掬った。 示指と中指に絡まった粘気のある精液に、膣の中で感じた熱は、既に失せていた。 冷えた精液を掬った指先をミサトは自分の口元へと運ぶ。 一瞬の躊躇いの後、ミサトは口の中に指を入れた。 どんな味覚で言い表せば良いのか解からない、加持の精液の味。 ミサトはその指に絡んだ加持の体液を、舌で無我夢中でしゃぶった。 愛しい人の零した液体の味をミサトは知りたかった。 そして、それを慈しみたかった。 ミサトは加持の全てを愛したい。 加持のどんなものへも、加持のどんなことへも、ミサトは自分の愛を注ぎたかった。 (解かって…解かってよ……) 心の中で何度も呟きながら、ミサトは自分の指を舐め続ける。 粘液が何かに絡む音に気付いた加持は、首筋への愛撫を止め、その音の方へを視線を移した。 視界に入るのは、泣きながら自分の指を口に含んで舐めているミサトの横顔。 加持はそれがどういうことか、すぐに理解した。 咄嗟に、ミサトの胸を撫でていた左手でミサトの右手を掴んだ。 そして指を口から出そうとした。 しかし、ミサトは抵抗した。 口の中の指を出すことを拒んだ。 そのミサトの抵抗に加持は困惑する。 「どうして…?」 半ば悲鳴に似た加持の言葉。 「何で…? 葛城、何で…?」 「………」 加持の声にミサトは反応する。 抵抗で力の篭っていたミサトの右手が緩まる。 その隙を突いて、加持はミサトの右手を口から離し、左手で右手を制した。 「あっ…」 ミサトは指を奪われた途端、嗚咽を上げて、泣き出した。 しばし加持は呆然とミサトのグチャグチャに歪む横顔を見ていた。 加持にはミサトの泣く訳が解からなかった。 ついさっきまで、熱く抱かれていたミサトが、どうして、哀しみの表情を浮かべて泣いているのを。 どうして、自分の精液を口に含んでいるのかを。 どうして、抵抗したのかを。 どうして? どうして? どうして…? いくつもの疑問詞が、加持の頭に浮かぶ。 「葛城…」 加持は拘束しているミサトの体を解放すると、ミサトの体の前に片膝を立てて座った。 だが、加持から解放されたままの状態で、ミサトは泣き続けていた。 しばし二人の空間にミサトの嗚咽が木霊する。 加持は泣いているミサトの顔をじっと見つめる。 そして、頭の中の疑問符を心の中でミサトにぶつける。 ミサトは両手で自分の涙を拭いながら、赤く充血した瞳を、加持に向ける。 見つめ合う二人。 先に沈黙を破ったのは、ミサトの方だった。 「加持君は……ヒック………私のあそこ、舐めるよね?」 しゃくり声のまま、ミサトは加持に尋ねる。 いきなりの大胆な質問に加持は怯むが、素直に答える。 「………ああ」 「何で、私はダメなの?」 『ダメなの』の一言が加持の心を抉る。 「………」 加持は言葉に窮する。 無言のまま、ミサトを見つめてしまう。 涙に濡れたミサトの眼差しが、痛い。 僅かの沈黙。 そして、ミサトは吐露する。 「……………好きなのに…」 そう言うと、ミサトは瞼を閉じて俯く。 数粒の涙がブランケットの上に音を立てて零れ落ちる。 「加持君のこと、好きなのに……!」 数年振りにミサトの口から聞かされる、その、言葉。 懐かしくもあり、新鮮でもあり、それにずっと聞きたかった、言葉。 「何で、いけないの?」 その言葉を吐き出すと、ミサトは堰を切ったように言った。 「私、加持君が私を受け止めてくれるように、私も加持君を受け止めたいだけなのにっ!ずっとずっとそうなのに!……好きなのに……何で、何でダメなの!?……」 「………!!」 加持は信じられなかった。 今まで、いや今も、ミサトがそう思っていたことが信じられなかった。 「私……私っ………」 ミサトはそれ以上、言葉を続けられなかった。 突き上がる哀しみと嗚咽に声を詰まらせ、両手で涙を拭きながら、泣いた。 好きだから、長く激しいキスだって耐えられる。 好きだから、どんな卑猥な姿勢にされても耐えられる。 好きだから、恥かしいけど自慰行為を曝すことだって耐えられる。 加持のことを好きだから、愛しているから、ミサトは加持の行う全てを肯定出来た。 (俺は……) 加持は戦慄いた。 両手に拳を作っ、行き場の無い怒りに肩を振るわせた。 (俺は一体…どこまで大馬鹿野郎なんだっ!) その途端、加持は弾かれるようにミサトの体を抱き締めた。 加持の体にミサトも腕を回した。 胸に当たる涙で濡れたミサトの頬が加持の心を締め付ける。 まだ泣いているミサトの背中を擦りながら、加持はミサトの耳元に囁いた。 「…愛している」 加持の言葉にミサトは顔を上げた。 頬を伝った涙の跡がくっきりと残っているのが、加持には辛かった。 加持はもう一度、ミサトに、今度ははっきりと言った。 「愛している。葛城、愛している…」 真摯で優しい眼差しがミサトを見降ろす。 「嘘…」 「嘘じゃない」 信じられない、とばかりに驚いた表情を向けるミサト。 ずっと聞きたかった言葉。 別れてから、なお聞きたくて、そして、もう二度と聞くことの出来ない言葉。 告白という告白をしたことの無い、他の言葉で濁しながら、愛情を伝えていた男が、はっきりと言葉に紡いで、ミサトの全身に降り注ぐ。 「加持君…」 哀しみの涙は枯れ、たちまちミサトの瞳に喜びの涙が浮かび上がる。 パァ…とミサトの表情に笑みが広がる。 加持は少しだけ頬を赤らめながら、ミサトに言った。 「俺を好きでいてくれるお前を、俺は、愛している………愛している」 ミサトは胸が一杯だった。 加持の言葉を脳裏で何度も反復する。 「加持君…加持君……」 ミサトの瞳から零れる涙を加持は指で拭いながら、見つめる。 解り得たように、お互い瞼を閉じて、互いの唇へと近付いていく…。 これで何度目のキスなのだろう? そう思いながらも、加持はミサトの軟らかな唇が自分の唇に合わさったのを感じた。 ≪了≫ |