春の風 〜 何気ない昼下がり〜

作・黒色円盤さん

 

 


サササササ…



レースのカーテンが、半開きの窓から入ってくる風で揺れる。

南向きの窓から陽の光と共に入り込んでくる春の風。

まだ少し寒い風だという事は、なんとなくだが、僕にはわかった。

僕のいるリビングは時計のコッチコッチという音、そしてカーテンの揺れる音しか聞こえない。

静寂が僕を包んでいた。





僕はソファーで仰向けになり、僅かな空気の流れを身に感じながら過ごしていた。

なにも考えず、なにもしようとはせずに。

ただただ、半開きの眼からボヤけた天井を見つめるだけ。

周りから見れば、

何をボーっとしているんだろう?

そう思われるかもしれない。

……その通りだろう。

ただボーっとしているだけだった。

でも、特に何かをしようとか、そういう考えは起きなかったし、体を動かそうという気もしなかった。

むしろこの時間を楽しんでいた。

サルベージされた直後はとにかく慌ただしかったのだ。

14年の歳月が過ぎた事により、周りの環境がかなり変わったことでの戸惑いもあった。

その間に出来たユイカという娘の存在にも驚いた。

つい最近までの、僕の心は”混乱”という言葉が相応しいのだろう。

自分自身か、それとも周りからなのかは分からないが、とにかく”何か”に振り回されていた。

だからなのか?

僕にはこの時間がとても楽しく、貴重なものに感じたのだった。

眠気に似た、まどろみの中で思った。

(たまにはいいじゃないか、こんな時があっても……)






それから時計の長針が半周した頃、声が聞こえた。

「パパ…」

ゆっくりと目を開けると、娘のユイカが見えた。

寝ていたわけではないのだが、僕の惰眠を邪魔してしまったと思ったのだろうか、少し戸惑った表情を見せるユイカ。

僕は上半身を起して座り直すと、微笑みと、おいでという仕種で娘を迎えた。

娘は寄ってくるとソファーに腰掛け、寄り添うようにして僕の肩に頭を乗せてくる。

そんなユイカの背中から手を回して抱き寄せてやった。

そうすると、彼女の体温がよく感じられた。

ユイカの顔を見ると、ちょうど目が合った。

なぜか頬に熱がさしてきたのが自分でも分かった。

その時、自分の行為が不思議に思えた。

以前の僕だったら、こんな事は出来なかっただろう。

それが出来たのは、一緒に住んでいる気安さか、それとも自分の血を流している娘への愛情か。

ユイカも同じなのだろうか?

ほんのわずかだが、顔が赤くなっていた。

ただし、彼女のそれは、初恋の男性の側にいるかのように。





しばらく僕達はなにも喋らなかった。

お互いに発するのは呼吸だけ。

スー、スーという音だけが僕の耳に入って来ていた。

ユイカの方を向くと、彼女の顔は安らかな表情を浮かべて目を閉じていた。

どうやら、そのまま寝てしまったらしい。

僕はその顔を見たら、なぜか微笑みを浮かんできた。

自分でも理由は分からない、自然と出てきた微笑みだった。

心の底から浮かんできたような、何気ない表情だったが、僕はこれが幸せなのだと実感できた。

そして、僕はそのまま目をつむり、眠気に身を投じた。





どれくらいの時間が経ったのだろうか?

気が付くと、アスカが反対側のユイカと同じように、僕にもたれかかるように寝ていた。

ほのかに香ってくるのは、二人の使っているシャンプーか、それとも香水のにおいか。

考えても、普段から”鈍感”だの”ノロマ”だの言われている僕の頭には思い付くはずもない。

ただ、この香りは、鼻と言うよりは心に香ってきた。少なくとも、そう感じた。

僕達3人の体の上には毛布が掛けられていた。

おそらく、アスカが寝室から引っ張ってきたのだろう。

毛布はずり落ちないように、ソファーと体の間に挟み込んで固定してあった。



「シンジ、ずっと一緒だからね…」



アスカの声だった。

彼女が起きているのか、それともさっきの言葉は寝言なのかは、分からなかった。

僕は少しだけ、ほんの少しだけ微笑むと、アスカにもユイカと同じように、背中から手をまわして抱き寄せた。

そして、再び目を閉じていくのであった。






サササササ…


レースのカーテンが、半開きの窓から入ってくる風で揺れる。

南向きの窓から陽の光と共に入り込んでくる風。

まだ少し寒い風だという事は、なんとなくだが、僕には分かった。

でも、アスカとユイカのぬくもりが、暖かく心地良かった。

カーテンの揺れる音と、二人の寝息だけが僕の耳に入って来ていた。

今の僕には時計の音は聞こえず、まるで時が止まったかのようだった。





暖かなぬくもりが僕をつつんでゆき、そのぬくもりは僕の心を満たしていく。

初めて知った”家族”の温かさを、いつまでも感じていたい。

だから僕は、2つの可憐な花がいつまでも自分の側で咲き続けるように、春の風に祈ったのであった。


(了)





*あとがき

どうも、筆者の黒色円盤です(^^)(略してBD (笑))

如何でしたでしょうか?

自分が書くのは推理小説専門だったんですけどね、管理人様のストーリーにとても感動して、それで書き始めた次第です。いやホント、パパゲの完成度は高いですよ…(^_^;
それだけにこの様な文章が皆様のご満足頂けるような物か非常に心配です。
まぁ、誤字脱字もかなりあると思うし、ネタも…ありがちだな、こりゃ(-_-;;

話としては、なるべくスローテンポに持っていきたかったんですけど、いかんせん、力量不足でどうにもならなかったです。
周りの情景に気を配ったつもりですけど、”ちっとも分からない”とか、”何なの、コレ?”とか感想をお持ちならば、こっちは謝るしかないですね…(弱気)
まぁ、こんな下らない文を読んで下さるだけで、とても感激で御座います!m(__)m



 

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