パパゲリオンIF・プロローグ
作・ヒロポンさま
僕がサルベージされてから、すでに五十時間がたっていた。
約八年ぶりの現実世界。
最後の戦いで、初号機に取り込まれた僕の事をずっと待ってくれていた人たちを前に、僕はただ呆然とするほかなかった。
ぜんぜん変わらない僕と、変わってしまった昔馴染みに人たち。
特に父さんの変わりようはものすごく、僕の事を抱きしめておいおい泣いていた。
これも驚いた事だが、リツコさんと再婚したらしい。
なんだか複雑な気分ではあるが、当人同士は幸せそうなので、僕からは何も言えない。
ミサトさんと加持さんも結婚したそうだ。
状況の変転はあまりにもめまぐるしい。この世界では、僕はすっかりお客さんだった。
そういえば、綾波にはまだあっていない。彼女はどうしているのだろう。
僕は整理しきれない状況にめまいがして、寝転がったまま数回頭を振った。
頭を振るたびに、僕の両頬に、栗色と茶色の髪がちくちくと刺さる。
右の頬に当たる栗色がアスカの髪。
左の頬に当たる茶色がユイカの髪だ。
今僕は二人の少女と共にベットの中にいる。場所はネルフ総合病院のVIP専用の個室だ。
再会を祝してくれた人々は今はもういない。あんまり一遍に情報を与えて、僕を混乱させないための配慮らしい。・・・・といっても、わずか数分の再会で、僕は十分に混乱してしまったのだけど・・・・・
その混乱の最大の要因は、アスカだった。
アスカとは、最後の戦いの前に一度だけ寝た。お互い何かを感じていたのかもしれない。
気持ちを確かめたわけでもなく、ただなんとなく。僕たちは体を重ねていた。お互い初めての、たった一回きりのぎこちなく乱暴な触れ合い・・・・・・・・・・
・・・・・・その時の子だと言う事だ。
誰がって?今僕の隣でスースーと眠っている七歳の女の子。つまり、ユイカがである。
正直驚いた。僕は知らない間に父親になっていたのだ。
体が再構成されて、このベットで目覚めた時に、父さん達から最初に知らされたのがそのことだった。
聞いた瞬間アスカに申し訳ない事をしたと思った。無責任な事をして、妊娠させて、かってに無茶をして、かってに取り込まれて・・・・もしかしたら、二度と帰ってこれなかったかもれないのに・・・・・
アスカが、なぜ僕の子供を産む気になったのかは、分からない。想像して分かった気になるのは、彼女に対する冒涜であるような気がしていた。
事実は一つだ。・・・・・こんなどうしようもなくて情けない僕の子をアスカは産んで育ててくれた。僕の帰還を信じて、ずっと待っててくれた。・・・・八年近くも・・・・・。
うれしかった……。
・・・・だから、僕はアスカを責められないのだ。無謀な実験に身を投じてしまったアスカの事を・・・・・・
無謀な実験−アスカは、ずっと僕の事を待っている間中、この実験の計画を練っていたらしい。
一言で言えばそれは、若返りの実験であった。
なにしろ僕はいつ帰ってこれるか分からなかったのだ。僕は取り込まれているから年は取らない。しかし、当たり前の事ながら、待っているアスカはどんどん年を取っていってしまう。彼女にはそれが耐え切れなかったらしい。
だから、二号機との過剰シンクロによる融合と、そこからの身体再構成のプロセスを利用しての若返りに、彼女は取り組んでいたのだそうだ。なんというか、安易というべきか・・・・元エヴァンゲリオンパイロットならではの若返り法である。
そして、僕のサルベージ計画が実行に移された日に、とうとう彼女はその実験を実行に移したのである。
その結果は・・・・・・・・
ふぅぅぅぅぅ
僕は、ため息を一つ吐いて、横に眠るアスカをみやった。
奇麗な栗色の髪。鋭角的なあごのラインと、あどけない口元。
紛れもなくアスカであった。ただし・・・・幼い時はこうであったろうと言う佇まいの・・・・・・
さっきまで、僕に口を開くいとまを与えず、僕の胸で泣きじゃくって疲れてしまったのだろう、ぐっすりと眠っている。
形のよい目元にある涙の後・・・・・・
泣き付かれた子供の顔。
そう。実験によってアスカは見事に若返ったのである。
見事に・・・・・そう見事に・・・
自分の娘と同じ七歳の子供に・・・・・
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
せっかく、僕がサルベージされたって言うのに・・・・アスカのへっぽこ・・・・・
これから僕の生活は、どうなってしまうのだろう。
まだ、実感がないものの娘もいるわけだし・・・・・・・・
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
僕は、昏迷する現実から逃げるためにそっと目を閉じた。
つづく
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