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あのゼーレとの最終決戦から、はや半年。世界はめっきり平和だった。
天気の良い日曜日。何気ない日常。
元エヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジは、今日という日の大半を掃除と洗濯に費やした。別に怠けて仕事をため込んでいたというわけではない。ただ、彼の保護者である所の葛城ミサトが、一気に有給を取って、ここの所ずっとマンションでごろごろしていたものだから、アスカの部屋の掃除と、下着の洗濯が少しの間出来なかったのである。
それは、普段からシンジの仕事であったのだが、さすがにミサトの前で、アスカの部屋に入っていって片づけたり、アスカの下着をベランダに干したり出来るはずもなく、ずっと自粛していたのだ。
仕事の後、ソファーに腰掛けて、ぼうっと空を見る。
中性的な顔立ち。それでも日に日に男らしさをまして行く引き締まった頬の上にある黒い瞳が、流れていく雲をじっと見詰めていた。
頭の中に一本の紐がぶら下がっている。その先端には奇麗な玉がぶら下がっていて、それがゆっくりと左右に振られている。
シンジの中で流れる時間を、強いて表現するならば、そう言った感じになるだろうか。
どんな時でも、そのゆっくりした振り子を引っ掴んで、激しく振り回すのは、栗色の髪の少女だった。
そう、今日も
「シンジ」
突然の声に振り向くシンジ。
栗色の髪の少女−惣流アスカ・ラングレーは、恋人が自分の姿を認めた事を確認すると、薄らと笑って、軽い足取りで近づいてきた。
「おかえりアスカ」シンジが、そう口にした時には、すでにそのスレンダーなボディは彼の腕の中にあった。
ソファを回り込んでシンジの正面に立ったアスカは、そのままシンジにへばり付くようにして、その膝の上に腰掛けたのである。
このソファは、シンジといちゃいちゃする為に、アスカがミサトを言いくるめて買わせた物だった。それを見事に活用しているというわけだ。
「ただいま」
半日会わなかっただけなのに、その短い離別が寂しくてしょうがなかったと言わんばかりに、シンジに頬を摺り寄せるアスカ。
ぷにぷにすべすべとしたその感触。女の子の匂いが、鼻腔から脳へと駆け抜けて行く。
自分の心拍数があがっていくのをシンジは正確に認知していた。
「はい」
シンジの上気した頬に、自分の魅力を再確認したアスカは、嬉しそうにニッコリと微笑むと、右手に持っていた包みを彼に差し出した。
シンジは、突然の事に戸惑いながらも、アスカの太股の上においていた右手を名残惜しそうに離して、その包みを受け取る。
「なに?」
目と言葉で問い掛ける。
「開けて見て」
ウットリとシンジの頬を撫でさすりながらアスカがそう言った。
ガサゴソ
アスカの腰に手を回しながら、片手でたどたどしく開けていくシンジ。
やがて、包装が全てはがされると、ピンクの物体がその姿をあらわした。
「・・・・・・トランクス」
シンジは、目をぱちくりさせながらその物体の名称を口にする。
アスカは、その言葉にコクコクと肯いてみせる。その度に前髪が、ファサファサと揺れて、シンジの頬にもどかしいむず痒さを与えた。
「今日、ヒカリと新しくできたデパートに行ってきたの」
甘えるような声。
「そこで、買ってきたの?」
トランクスを握り締めながらアスカを見つめるシンジ。なんというか……………妙なシュチエーションである。その姿が、笑いの琴線に触れたのか、アスカは、口元をひくひくさせながら、震えた声でシンジの問いに答えた。
「そうよ。かーいいでしょ?ペンギン」
言いながらシンジの手の中にあるトランクスをつんつんと突つく。その指の先には、トランクスにプリントされたペンギンの姿があった。サングラスをかけて、遠くを指差すポーズを取っている。
「ペンギン」
シンジは、トランクスをじっと見詰めながら確認するように呟いた。アスカのいかしたセンスに、手元がプルプルと震えている。
−アスカは、これを僕に履けっていうのかなぁ…………
おそらくそうであろうと彼は確信した。
やがて、意を決したかのように、表情を引き締めると、クッとアスカの方に向き直って、口を開いた。
「僕、ブリーフなんだけど」
「あんた、パンツだったの」
「……………………………」
アスカのべたなボケに突っ込むを入れるようなセンスを、シンジは持ち合わせていなかった。
「そうじゃなくて、僕はブリーフしかはかないんだけど」
いたってまじめに言ってのける。
その言葉を受けて、深く澄んだ青い瞳に怒りの色を溶かし込んで、にっこりと笑ってみせるアスカ。
シンジの左頬を一筋の汗が滑り落ちる。
アスカは、シンジのズボンのポケットに手を突っ込んで、白いハンカチを取り出すと、優しくその汗をぬぐってやった。顔面には、引きつった笑顔がぴったりと張り付いたままだ。
「履きなさい。今日から、トランクス」
ハンカチを四本の指でキリキリと握りしめながら、残った一本の指で、ビシッとパンツを指差してそう言ってのけるアスカ。
「でっ、でも」
「は・き・な・さ・い」
最後通牒。
「わっわかったよ」
シンジは、あきらめたようにそう答えた。
「よろしい」
アスカは、神妙に肯いてみせると、カーペットの上に降り立った。
「ねぇ、はやく」
体の側面で両の手をぱたぱたさせながら、シンジを急かす。
「今履くの?」
聞かずもがなのことを言ってのけるシンジ。
はぁー
シンジの問いかけを無視して、左足の爪先で、カーペットにぐりぐりと相合傘を書いているアスカを見て、彼は深くため息を吐いた。
じっと、手の中にあるトランクスを見詰める。
ピンク。どピンク。真ん中に鎮座するペンギンが、シンジの物悲しさを更にかきたてる。
−何が悲しくて僕はこんなものを履くんだろう……………
ペンギンの指差す虚空を見詰めながらシンジは思った。
−これを履くのも、愛なんだろうか……………まっ、所詮パンツ一枚。たいした問題じゃないか。
そう思い直して、部屋へと向かう。
アスカは、その後ろを跳ねるようにしてついていった。
ゴソゴソ
「シンジィまだー」
「まっ、まだだよ」
シンジの部屋の前で、じっと待っているアスカ。
頭の後ろで腕を組みながら、鼻歌なんか歌ったりしている。
フンフンフンフンフンフンフフフフフフンフフン
歌は『ぞうさん』だった。
アスカは最近、よくこの歌を歌う。シンジと一緒に寝る時に、特に歌ったりする。
「やめてよ、アスカ」
戸の向こうからシンジの情けない声が上がった。
「いや」
即座に答えるアスカ。
フンフンフンフンフンフンフフフフフフンフフン
さびの部分を、ゆうに三回歌った後に、やっとシンジの部屋の戸が開けられた。
「どっ、どうだろ」
ティーシャツにトランクス一丁という格好で、頭を掻きながらそう言うシンジ。
ショッキングピンクの下半身が目に眩しい。股間の上に鎮座したペンギンが、意外にキュートだった。
「シンジかーいい」
たまらずシンジを抱きしめるアスカ。
柔らかいアスカの胸が、シンジのそれに押しつけられる。
いつものように彼が、華奢なその体を抱きしめようとしたその瞬間、アスカはぴょんと後ろにジャンプした。一寸離れたその距離から、改めて彼の下半身を見詰めて、うんうんと満足げに肯く。
そして、再びゆっくりと近づいて、シンジを抱きしめると、頬を赤らめながら、耳元でそっとささやいた。
「実は、今日、私の下着も買ってきたんだ」
その言葉に、シンジの細い眉がビクッとあがる。
いつのまにかその右手は、アスカのお尻をまさぐっていた。
ムニムニ
アスカは、そのすけべな右手にそっと手を重ねると、シンジの唇に小鳥のようなキスをした。
チュッ
「今晩、見せたげるね」
−こっ、これが愛なんだ。僕はここにいてもいいんだ。
ピンクのトランクス。その中心にあるペンギンを内側から突っ張らせながら、そんな事を考える、碇シンジ十四歳であった。
おしまひ
後書き
だめだこりゃ
へぼくて、すいません。
色々練習してるんです。
ハァーうまくなりたいです。
以上 ヒロポン
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(updete 2003/03/22)