IF外伝「14年目のセカンド・ヴァージンIF」

作・PDX.さん

 


 熱い湯がアタシの肌を叩く。身体を包む白い泡が流れ去り、清められた珠の肌が晒される。シャワーを止め、髪をまとめて頭にタオルを巻く。

 ふぅ、と一息ついて、バスタブに向かう。いつもなら、アタシとユイカのどちらが一番風呂かなんて勝負になっちゃって、シンジより後で入浴するなんてあり得ないんだけど、今夜は特別。

 

 シンジが帰ってきたあの日から、もう7年も経った。今日はアタシの誕生日…アタシは、14歳になった。そう、ずっと昔、シンジがアタシにユイカを贈ってくれた時と同い年になった。

 あの日、シンジが帰ってきてくれたあの日、心に誓ったの。

 14歳になったら、シンジに抱いてもらうんだ、って…。

 

 そりゃ、本音を言えば一緒に暮らすようになったらとっとと抱いて欲しかったわ。

 7年も待ったのよ?

 この超絶天才美少女の惣流・アスカ・ラングレー様が、いろ〜んな誘惑を断り続けて、7年も待ってたのよ?

 通う意味のない、シンジのいない学校なんかには行かなかったから、無駄な告白とかされなかったし、ラブレターを受け取るようなことはなかったけどね。

 それでも、ユイカを育てる片方で、シンジを帰還させるための研究に打ち込む日々…事情を知らない研究所員がアプローチしてくることはあったし、休日にショッピングなんて行った日にゃどれだけ声をかけられたことか!

 

 でも、帰ってきた、帰ってきてくれたシンジは、初めての夜、アタシを抱いてくれなかった。…そりゃ、アタシにも責任はあるんだけどね。

 シンジが帰ってきたとき、自分だけが老いていて、若々しいシンジの前に立つ事にアタシは耐えられなかった。馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないけど、コレも女心ってヤツなのよ。だから、アタシは弐号機に乗った。そして、若返った。…若返りすぎた。

 

 シンジと再会したアタシは、7歳の子供になってしまっていた。

 いくらアタシが子供の頃からプリティな美少女だったとは言え、これではさすがにシンジに抱かれるわけにはいかなかった。そりゃ、ベッドの中で抱きしめてはくれたけど、キスもしてくれたけど、それ以上の事はしてもらえなかった。

 まぁそうよね。シンジはロリコンじゃなかったし、そもそも14歳の男の子なんて、むしろ年上のお姉様に憧れる年代だもの。(そういう意味では、21歳のレイが最重要危険人物だったわ!)

 本当の事を言うと、触らせる位なら許す気でいたのよ。シンジが、どうしても、と言うなら、あちこちにキスさせてあげてもよかった。もちろん、そんなことはなかったんだけどね。…今になって考えたら勿体なかったかな? フツーじゃできない貴重なタイケンだったかも?

 

 だけど、ユイカがいたからそもそもそんな事はできなかった。

 考えてみれば、まだまだ7歳の子供。年上の男性と同じベッドで寝ることを意識したり躊躇したりする年齢じゃないのよね。まして相手は、幼いころから憧れ続けていたパパ! 可愛らしい声で「やだやだユイカも一緒〜〜〜」なんて言われたら、誰が逆らえると言うの?

 結局、あの夜はお風呂も寝るのも3人一緒だったのよね。

 ユイカの目を盗んで、大人のキスをするのがせいいっぱいだったわ。

 あの子が10歳くらいになったとき、さすがにシンジを意識するようになって、一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりはしなくなったけど、なんかアタシもシンジとイチャつかせてもらえなくなっちゃたのよね。あの時のユイカの目、一人前に嫉妬の色を帯びていたわ。ふふ、可愛らしかったけど。

 

 シンジを待ってる間の7年間は、アタシに届く誘惑の声を振り払い続ける日々だった。

 でも、シンジが帰ってきてからの7年間は、シンジに届く誘惑の声を振り払い続ける日々だったわ。

 中学、高校、大学…どこに行っても無敵のシンジ様はもてもてでして、妻たる者としては鼻高々でしたわ。フン。当然の事ながら、同じ学校に通うわけにも行かないから、日中は監視ができなくて往生したわ。

 でも、正直取り越し苦労だったみたい。シンジったら、相変わらず鈍感で、女の子からの遠回しな好意にはぜんぜん気付いていなかったのよね。ラブレターを貰ったり、告白されたりなんてこともあったんだけど、そういう時は優しく、でも毅然と断ってくれた。

「好きな子がいるんだ」って、アタシの写真をいつも大事に持っていてくれた。アタシの、14歳の時の写真を。…嬉しかった。

 

 そして今日、アタシは14歳になった。誰? のべ28歳だなんて失礼な事を言うのは?

 いい? 今のアタシは、ぴっちぴちの14歳なのよ? うふふふふふ。

 中学生にしては凹凸が目立つ、均整のとれた肢体。

 クラスメイトの誰よりも豊満なバスト。

 贅肉の欠片もないウェスト。

 幼さをわずかに残しつつ、女性のものへと変りつつあるヒップライン。

 スタイル維持は、昔以上に気を遣ったわ。だって、シンジは昔のアタシを知っているんだもの。昔のアタシの方が奇麗だったなんて言われたら屈辱よね?

 自分で言うのもなんだけど、パーフェクトよ。

 うふふ、昔の数字と比べて、今の方がナイスバディなんだから。

 それもこれもみぃんなシンジのため。

 

 さて、もうあがらなきゃ。

 バスタオルを巻いて、髪を乾かして…一度、全裸のままで姿見の前に立つ。

 大丈夫よね?

 完璧よね? ア・タ・シ?

 ふふ、14歳のぴっちぴちの肌だからメイクなんて要らないし、ピュアなアタシ自身で勝負よ! そして、この夜のために用意した下着…凄く当たり前なデザインの、白いブラとショーツ。バカシンジが憶えているなんて期待してないけど、実はコレ、14年前のあの時のものと極力似たものを探してきたのよね。

 そして、こっちはアタシ愛用のパジャマ。シンジも見慣れているだろうから、初々しい14歳のアタシを演出するには最適よね。

 覚悟しなさいよバカシンジ、アタシの魅力の虜にしちゃうんだから!

 ふふふ、ただの14歳の少女じゃないのよ? ココロはオトナ…昔のアタシだったらOKしなかったようなことだって、許してあげられるんだから。アンタのことを、淫らに誘惑だってできるんだから。…最初は清楚なフリしたほうがいいかな?

 

 そして今、アタシはシンジの部屋のドアの前にいる。ドアの向こうに、シンジがいる。アタシは何も言わなかったけど、きっとシンジなら判ってくれている。アタシの決意を。そして、アタシを、うけとめてくれる。

 緊張。

 なによなによ、なんか震えてるじゃない。まるでウブな生娘みたいに。

 あ、カラダは生娘なんだっけ。う〜ん、2回も痛い思いするなんてちょっとブルーかも。でも、あの痛みだってシンジが与えてくれるんだもの。大丈夫。

 でも、そうね。

 これからアタシ、シンジに抱かれるんだ。

 14年ぶりに…シンジの腕に抱かれるんだ。

 アタシの、セカンド・ヴァージン…アンタにあげるんだから…感謝しなさいよね…。

 

 ごくり。

 

「アスカ、いくわよ」

 

 小さくつぶやいて、アタシは扉を叩いた。

 

 

終 

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