アナザーエヴァンゲリオン シンジの物の怪退治列伝

初仕事 人を助けること 霊を助けること

 

 

 

 キキキキキキィィィィィ

 ものすごいスピンで駐車場に一台のルノーが突っ込んでくる。

 そしてその後部座席から鬼に体をあずけながら運転手を睨んでいる一人の少年が出

てきた。

 「………ミサトさん酷いですよ」

シンジは泣きべそをかいている。レイはというとシンジの隣で気絶している。

 「綾波、大丈夫…じゃないよね」

レイの方を確認するシンジはその状況を見て呆然、ミサトを怒りたいのだが、にゃはは

っと笑っている顔を見ると怒るに怒れない。

 ちなみに本人は悪気がないらしい。

 「っもうぜーったいにミサトさんの車には乗りません」

それだけ言うとシンジは気絶しているレイを起こそうとそばによっていった。

 「もう、あんだけで気絶するなんて弱いわねー」

  悪気0%

 「ミサトさんが変なんです。…綾波、大丈夫」

シンジにゆすられてようやく目を覚ますレイ

 「碇くん、ここはどこ、私、生きてるの」

 すごい事を口走ってる、まあ、それだけミサトの運転が半端ではない事を物語ってい

るのだが。

 「じゃあレイも起きたし行きましょうか」

 

 「ミサトさん、もうちょっと責任感じてくださいよ。」

 

 「え、なんか言った」

 

 「はぁ、なんでもないですよ」

 

 「なによ、気になるじゃない」

 

 「いいですよ、もう」

 

 この人って、きっと間をはずしてしまう星の下に生まれたんだろうな。

と痛切に思うシンジだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 司令室前

 コンコン

 「碇指令、入ります」

 

 「ああ、開いている」

 

 「じゃあ、また初号鬼はここでまっててね」

そしてシンジたちは部屋の上下に怪しげな模様の書いてある部屋へ入っていった。

 

 

 

 

 

 「…父さん、どうしたのその顔」

イスに腰掛けクールにきめていたゲンドウの顔にはいっぱいの引っかき傷が

 

 「…昨日ユイに仕事のことを話してな、それまで黙っていたのが悪かったのか機嫌を

損ねてしまって」

 

 「損ねてしまってどうしたの」

 

 「なんとか機嫌をとろうとしたら…」

 

 「したら」

 

 「ひっかかれた」

 

 「父さん、カッコ悪いよ」

 自分の父の不甲斐なさに、心の中の父の評価がすこし下がったシンジだった。

となりでミサトが肩を震わせながら笑っている。

 

 「葛城一尉」

 

 「は、はい。なんでしょうか」

笑っていた事がばれたと思い、ばつの悪そうな顔をするミサト

 

 「給料30%カットだ」

 

 「そんなぁ司令」

 

 「無様だな」

 

シンジとレイはそれを見ながら笑っている。

 

 

 

 「あの、司令」

 

 「なんだねレイ君」

とたんに態度の変わるゲンドウ、しかし引っかき傷のせいで締まらない。

 

 「私達はなぜ呼ばれたのでしょうか」

 

 「ああ、そうだった、葛城一尉、およびチルドレン2名はこれより任務にあたってもらう

内容は憑依霊の駆除、場所はB309対象の名前は鈴原カナだ」

 

 「はい」

 

 「あとはリツコ博士の所から支給品を貰っていってくれ」

 

 「はい」

 

 「では、出動してくれ」

 

 「じゃあ、行ってくるね父さん」

 

 「ああ、がんばれよ」

 

 部屋から退出し、シンジはレイ達とともに歩き出した。

 「初号鬼おまたせ、じゃあ行こうか」

 

 「はぁ、給料30%カットかー」

 

 「ミサトさんあんなところで笑うから」

 

 「笑うなって方が無理よ、レイも隣で笑ってたわよ」

 

 「そうだったの」

 

 「ごめんなさい」

 

 「いや、別にいいんだけどさ、父さん惨めだなー」

 

 「碇くんのお母さんってどんな人なの」

 

 「母さんかー、どんなって言われても普通のどこにでもいるお母さんだよ」

 

 「へー、司令って実は尻に敷かれてたのね」

 

 「うちは母さん中心に回っているようなもんですからね」

 

 こんな取り止めのない会話をしているうちにシンジ達は第四研究室と書かれている部

屋へと着いた。

         

 「しっつれーい、リツコいるー」

 

 「ここよ、ミサト」

 

 「あっ、いたいた。で、なによ支給品て、気になるじゃない」

 

 「これよ。」

 そう言って机の中から取り出したのは新品のナイフ。しかしただのナイフと違って刃の

部分に文字が彫られている。

 

 「なによこれ」

 

 「だから、これが支給品」

 

 「しょぼいわねー、ま、私の時もそんなもんだったけど」

 

 「しょうがないでしょ、予算がないんだから」

 

 「ま、しょうがないっか」

にゃはは、と笑うミサトに呆れながらもリツコはシンジ達のほうに顔を向けた。

 「ところでシンジくん、レイ、なにか注文はないかしら予算が回ったら作ってあげるわ」

 

 「そうですか、じゃあ僕は刀が欲しいんですけど」

 

 「あらシンちゃん刀なんて使えたの」

 

 「あ、かなり昔にちょっと」

 

 「へー」

 ミサトもリツコも驚いている。

 「じゃあレイはどうするの」

 

 「私は薙刀がいいです」

  これにミサトとリツコはシンジのとき以上にビックリ

 なにせレイが薙刀だから

 「レイ、あなた薙刀なんて使えるの」

 

 「ええ、私も昔使ったことがありましたから」

 

 「はー、人は見かけによらないのねー」

 

 「あ、あと」

 

 「なにかしらシンジくん」

 

 「あの、長いのを2本作ってくれませんか」

 

 「二刀流なんて、使えない武器を作ってもしょうがないわよ。」

 

 「大丈夫です」

 

 「わかったわ、レイはなにか他に注文はないかしら」

 

 「私は他にありません」

 

 「じゃあ、この二つで良いわね、ミサト、あなたはなにかあるかしら」

 

 「え、いいの、じゃあ私はね…ビール製造機」

 ミサトは目を輝かせながら言った。

 しかし、いきなり場違いな注文であ然としてしまう一同

 

 「ミサト、あなたねぇ」

 

 「え、だめなの」

 

 「だめに決まってるでしょ」

 

 「やっぱり」

 がくっと肩をおとすミサト

そこにぐさっとリツコがきっつーいつっこみをいれる。

 「ミサト、あなたそんなことだから結婚相手が見つからないのよ」

 

 「うっ、余計なお世話よ」

しゃがみ込んでいじけるミサト

 「まぁ、がんばってきなさい」

 

 「はい」

  苦笑いしながら返事をするシンジだったが、ここでミサトがまたも口をつっこんできた。

 「それでさ、リツコ」

 

 「なによミサト」

 

 「この武器の名前は」

 

 「プログレシップナイフよ」

 

 「うわ、ださっ」

     ピシ

 リツコの顔にひびが一つ

 「ったくなにそのネーミングもっとさぁこう、カッコイイのなかったの」

    ピシピシ

 「おまけにこれよく見ると形も不恰好よね」

    ブチ

   そしてリツコの中でなにかが切れた。

 「それにさあ…」

 

 「ミサトさん、ミサトさん」

 漂ってくる殺気にあわててシンジがミサトを止める。

レイと初号鬼は巻き込まれないようにすでに部屋から非難している。

 「なによシンちゃん」

 

 「あの、その」

 時すでに遅し、ミサトの後ろには背中から激しく殺気を放っているリツコが…

 「はっきりいいなさいよ」

シンジはリツコの殺気を感じて部屋の外へ出たいが足がすくんで動けない

 「ミサトさん、後ろ」

 

 「えっ」

そこには限界点を突破したリツコが…

 「ミィィィィサァァァァトォォォォォォォォォ」

 

 「ひぃっ」

 脱兎のごとくシンジをおいて逃げ出すミサト、行き場を失ったリツコの怒りは目の前のあわれな少年へ

 

 「しっ失礼しました」

 シンジは足のすくみを何とか制して地獄と化そうとしていた室内から必死で逃げていった。

 

 

 

 

 

 「はぁ、結局支給品貰うの忘れちゃったわね」

 残念そうに言うミサト、武器の貰えなかった責任が自分にあるなんてことは考えてもいない。

 「まぁいいんじゃないですか、どうせ今回は戦うなんてことしないでしょ」

 

 「まあ、たぶんね」

 

 「それなら早く行きましょうよ」

 

 「じゃあ車に乗って」

 シンジが車に乗ろうとしたときレイがそでをひっぱった。

そしてシンジの耳元に向かってなにやらささやいている。 

 そのうちレイの話も終わったのか、シンジがミサトの方を向いて 

 「僕達は歩いていきますから」

 と言った。

 ちなみにレイが言った言葉は

 「ミサトさんの車にはもう絶対に乗りたくない」

 というものだった。

 

 「じゃあ目的地で待っててください」

 

 「ええ、先に行ってるわよん」

そういってミサトは愛車のルノーをとばして走り去っていった。

 

 「…やっぱり乗らなくて正解だったかな…ありがとう綾波、僕達はゆっくり行こうか」

 

 「ええ」

 

 「初号鬼もね」

 

 初号鬼も頷いた。

 

 

 

 

 

 

 キキーッ

「ここね」

 ルノーからさっそうと降り立ったミサト

 そこは町外れにある病院、いかにもなにかでそうな感じのするちょっと古びた感じのコ

ンクリートの病院である。

 もっとも幽霊が出たら出たでミサトにやられてしまうだろうが

そしてそこの2階にある個人用の病室、そこが今回の任務の場所だった。

 

 「ミサトさーん」

シンジたちも合流し病院の中へと入っていった。

 少しずつ天気が悪くなってきた。

 

 「失礼します」

 病室の中に入ると、そこにはベッドの上に寝かされた少女と付き添いと思われる男の

子が一人

 「あんたらがこいつを治してくれるんか」

少年は立ち上がり、そしてあいさつもせずにいきなり質問をしてきた。

 

 「ええ、まかせておきなさい」

 

 「ふーん、そっちの二人は…ってお前、綾波レイやないか」

 少年はビックリしたようにレイに近づいてきた。

 「お前、なにやっとんのやこんな所で」

 

 「綾波、誰なの」

 

 「一緒のクラスの鈴原トウジ君」

完全に無視されるトウジ

 「ワイを無視するなや」

 

 「ごめん、僕は碇シンジ」

 

 「おお、よろしくって、ちゃうちゃうなんでこんな所に子どもが来んのや」

そのとき、患者の方を診ていたミサトが話にはいってきた。

 

 「鈴原君だったわね」

 

 「そうですけど、なんですか」

 

 「この子達も私と一緒で今日このためにここに来たの」

 呆然とするトウジ

 「ま、まあよろしく頼むわ」

 

 「ええ、まかしときなさい。んでもって君は外で待っててくんない」

 

 「なんでっすか」

 

 「霊が体から離れたときに霊力のない人がいるとまた取り付いちゃうのよ、あっ、あと

初号鬼もね、あんた霊力がきつすぎんのよ」

 

 「はぁ、わかりました、じゃあ外で待ってます。」

 最初は不満そうな顔をしていたが、以外にも素直に了解してくれた。

 「ええ、そうしてくれるとありがたいわ」

 

 「じゃあ、綾波、碇サン、たのんだで」

 

 「大丈夫よ、まかせなさいって、じゃあ初号鬼と廊下で待っててね」

 

 「あの、初号鬼ってなんなんすか」

 

 「ああ、なんでもないのよ」 

 

 「はぁ、そうっすか」

 

 

 そしてトウジは自分の目に見えない初号鬼と一緒に部屋から出ていった。

 

 「さってと、始めますか」

ミサトはそばにあったパイプイスを彼女のもとに2つ持っていき、1つに少女を乗せた。

 「やるって、どうするんですか」

 

 「んん、まずはこの霊の話を聞いてみましょうか」

 

 「そんなことできるんですか」

 

 「まあ相手が話のわかるやつならね」

 そう言ってミサトは少女に話し掛け始めた。

 

 「あなた、なんでこの子にとりついてるの」

すると少女の口から男のそれも高校生くらいの声変わりした声が聞こえてきた。

 「おれは、こいつを憑り殺してやるんだよ」

 

 「なんでそんなことをするの」

ミサトはイスに腰掛け霊と話し始めた。手は懐にいれてある。

 「そんなもん、俺の勝手じゃネーか」

 

 「そうもいかないのよ、この子はまだ生きてるから」

 

 「俺思うんだけどよー、オメーらってさ困ってる人全員を助けてるわけ」

いきなりの質問に少々戸惑うミサト

 「まあ、自分たちの手のとどく範囲のものは」

 

 「テコトハヨ、オメーラ手のとどかない人は助けねーのか」

 

 「だから、そのための努力はしてるわ」

 

 「でよ、そのとどかネー範囲の奴らはどうすんだよ」

 

 「それは…」

 

 「見捨てるだろ」

 

 「そんなこと」

 

 「そんなことあるじゃねーか」

急に少女から発せられる声があらあらしくなった。

 「俺はよー、妹がいたんだよ、まぁ、普通の奴だったさ、でもよ、そいつ死んだんだよ

ね、俺の目の前で、車にはねられてよ」

 

 「それで、どうしてこの子に憑依してんのよ」

 ミサトは霊の真意がつかめないので多少強引に質問してみた。しかし霊はミサトの言

葉に耳を貸さず喋りつづけた。

 

 「でよー、まあ他人にゃ関係のない事かもシンナイけどよ、俺はとりあえずそいつが大

事だったんだよ、車にヒカレタトキモよー助けを呼ぼうとして駆けずり回ったよ。そしたら

よー、まわりの奴ラ気持ち悪がって近づこうともシネーンだよ。まあ、腹から腸が飛び出

してる奴になんて近づきたくもないもんな。でもよ、それってよ、かなり悔しかったよ。」

 

 淡々と喋り続ける霊、シンジたちもいつのまにか聞き入っていた。

 

 「結局そいつ死んじまってよ、悔しかったよ。でもよ、こうも思った、俺がもし他人だっ

たら助けに入ったかって、みんなよ、口で言うだけなら簡単なんだよ。 俺は困ってる人

を見捨てないとか、自殺しそうな奴がいたら止めに入るとか、言うだけなら簡単なんだ

よ、でもよ、人間っていうのは調子の良いもんデヨ、いざそうゆう場面になったらなにも

しやしねー、そうだよな、厄介ごとに巻き込まれるなんてやだもんナ、」

 

 「そんなことは…」

 

 「じゃあなんであの時誰も手を貸してくれなかったんだよ」

 その場にいた誰もが反論できなかった。

 

 「おめーら、みんな所詮は他人事なんだよな、考えてみりゃいちいち他人のために泣

いてる奴なんていないんだもんな、自分の身内に不幸があったら泣く、他人の不幸は涙

を流すどころかニュースのネタになるくらいだもんな。

 妹が死んだとき葬式で泣いてくれた奴なんて俺の他にいなかったよ、親父もおふくろ

もどっかいっちまったしな、どうせ葬式の費用を払うのが面倒だったんだろうよ。」

 

 ミサトが口を開いた。

 

 「妹さんの事は残念に思うけど、それでなぜあなたはこの子に憑依してるのよ」

 

 「なぜって、簡単じゃネーか、こいつが死んだときに何人泣いてくれるか見てみたいか

らだよ」

 

 「そんなことで…」

 

 「ああ、ホントくだらネーよ、でもよ、見てみたくねーかそいつのために何人が泣いてく

れるのか、葬式なんてよ酒を飲むためだけに来てる奴もいるんだぜ。」

 

 「じゃあ、あなたさっさとこんな事やめなさい」

 

 「なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないんだよ、俺の勝手だろ」

 

 「あなた、結局自分の背負った不幸と同じ事を他人にやって自己満足したいだけでし

ょう」

 

 「なんだと」

霊の声があきらかに動揺の混じった声になった。

 「あなたはたしかに妹をなくしたけど、それで他人を不幸にする権利なんてないのよ」

 

 「それにね、あなたの妹サンだってきっと幸せだったはずよ」

 

 「あんたにそんな事がわかんのかよ」

 

 「ええ、だってあなたの妹サンは最後まで自分のことを愛してくれた人がいるもの」

 

 「…んだと」

 

 「最後の最後まで自分のために駆けずり回ってくれる人がいるんだもの」

 

 「………」

 

 「それにね、もし成仏してなかったら私がどっかで出会ってるわよ。成仏ってのわね、

本人がこの世に未練を残さないから出来るのよ、だからあなたの妹サンはきっと幸せ

だったはずだわ」

 そのとき、少女の閉じられた瞳から一粒から落ちた感情の塊が少女の膝の上に零れ

落ちた。

 「その話、本当だろうな」

 

 「ええ、もし嘘だったら私を呪い殺してくれていいわよん」

 

 「ふん、なんだかよ、一気にしらけちまったな、俺はこんな所に用がなくなったからさっ

さとあっちに行くぜ」

 

 「なかなか素直じゃないわね…会えるといいわね妹サンと」

 

 「はっ、意地でも探し出してやるよ、ところでそこのガキ…おまえだおまえ」

 

 「ぼ、僕の事」

突如として話しかけられたのでビックリしているシンジ

 

 「おまえよ、隣のは彼女か」

 

いきなりの突拍子のない質問に少しの間あ然としてしまう

 「と、とりあえず」

 

 「カッカッカ、大事にしてやれよ」

その言葉に二人とも頬が赤くなった。

 「あとよ、オバサンよー」

 

 「オネーサンでしょ」

 

 「いまごろオネーサンなんて年かよ」

 

 「なんか言った」

 

 「ふん、なんでもねーよ…あんた、ありがとな…」

 

 「えっ、なになに、聞こえなかったなー」

わざとらしく聞こえないふりをする。

 「ふん、一生やってろ、じゃあな…」

 

そう言って少女の体から半透明の物体が現れそして消えていった。

 

 この霊は、残された者の気持ちそのものなんだろうな…

シンジはそんな事を思いながら気づかぬうちにレイの方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務も終わり、部屋から退出したミサトたち

 「あの、なおったんですか」

 

 「ええ、バッチシよん」

意気揚揚とこたえるミサトに

 「ありがとうございます」

そういってトウジはふかぶかと頭を下げた。

 

しばらくトウジの頭を見つめていたミサトが、ふいに口を開いた。

 「あなた」

 

 「なんすか」

顔を上げて答えるトウジ

 

 「妹サンを大切にね」

 

 「わかっとリます」

 

 「んじゃーね」

 

 「はい、ありがとうございました」

 

 こうしてシンジとレイの初仕事は無事に終了した。

 

 外は雲に覆われていたが、その所々から日の光が差し込むのはこの上なく神秘的だ

った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「プッハーッ、仕事の後のビールは格別よねー」

 

 ここはコンフォートマンション、ミサトの、もといミサト達の家である。

 

 「あらどうしたのよシンちゃん、深刻な顔しちゃって」

 

 「ねぇミサトさん、今日の事なんですけど」

 

 「ああ、しっかり成仏してくれてよかったわ、憑依された体も後遺症がなかったし」

 

 「あの、可哀想な霊だったとか思わないんですか」

 

 「まあ、でも今のあの霊はきっと幸せなはずだからね」

 

 「そうですよね、可哀想なんて言ったらばちが当たりますよね」

 

 「そうそう」

そう言って、またごくごくとビールを飲み始めるミサトだった。

 

 「…ところでミサトさん、自分のために泣いてくれる人って僕にいるんでしょうか」

シンジは確かめてみたかった。今の自分を愛してくれる人がいるのかを…

 

そこへ着替えをしてきたレイと部屋のすみにいた初号鬼がよって来た。

 「碇くん、私がいるわ、あと初号鬼も」

レイのとなりで初号鬼も頷いている。

 「ありがとう、綾波、初号鬼」

 

 「あら、私だっているわよ」

新しいビール缶の口を開けながらミサトもつづいた。

 「ありがとうございます。ミサトさん」

 

 「それにシンちゃんには司令やお母さんだっているじゃないの」

 

 「そうですよね、僕には僕を思ってくれる人がこんなにたくさんいるんですよね」

 

 「そうよ、大事にしなくちゃね」

 

 「はい」

 自分が幸せだという事をあらためて感じるシンジだった。

 

しばらくして2本目のビールを飲み終えたミサトが   

 「…なんかしんみりした話になっちゃったわね、決めた今日は私が夕食作ってあげる」

と思いたったようにキッチンに立ってエプロンに着替え始めた。

 「いいんですかミサトさん、今日は当番じゃないのに」

 

 「いいのよ、久しぶりに腕を振るっちゃうんだからあなた達は手を洗って待ってなさい」

 

 「はい、じゃあ楽しみに待ってますね」

 

 「ええ、期待して良いわよん」

 

 このあと自分の身にふりかかる不幸をしらず、ただミサトの手料理を待ちわびるシン

ジだった。

 

 

 

 キュッキュッキュッ、ジャーーッ

 「碇くん」

 洗面所で手を洗っていると、一緒に手を洗いに来たレイが話しかけてきた。

 「なに、綾波」

 

 「碇くんは私をおいてまた先に逝ってしまうの」

 

 「そうだね、そんなことはもうしないよ。」

  ただみんなと一緒にいたい。それだけが今のシンジの望みだった。

 

 

 

 

 

 そして30分後

 「できたわよーミサト特製手作りカレー」

 自身満万に熱々の鍋を持ってリビングに来るミサトその中には香ばしい匂いのするカ

レーがたっぷりと作られている。

 

 「もうお腹ペコペコですよ」

 

 「早く食べたい」

 

 「まぁまぁ待ちなさいって、たくさんあるんだから」

そう言って、机のまんなかに鍋がセットされる。

 

熱々のご飯の上にたっぷりのカレーをよそる。

 「じゃあみんなよそったわね」

 

 「はい」

 

 「それじゃあいただきましょうか」

 

 「はい」

 

 「「「いただきます」」」

   パク

 「ウッ」

 

 「アッ」

 シンジたちの表情が一瞬にして暗くなる

 「どう。おいしい」

 ミサトは早く感想を聞きたくてうずうずしている。

 

 「「………」」

 

 「ん、もしかして声も出ないくらいおいしいのかしら」

 

  シンジは思った。

 (ミサトさんて、もしかして料理できないんじゃ)

 

  レイも思った。

 (これは、食べ物なの)

 

 ただ両者ともミサトの無邪気な笑みを浮かべている顔を見ると言うに言えない。

結局レイは一杯目を気力で食べてKO、シンジはカレーの入った皿が空くたびにミサト

 「まだまだ遠慮しないで食べてねん」

と言う言葉で結局すべて食べきった。その後この少年が夜中腹痛でのた打ち回ったと

か回ってないとか…

 こうしてミサトのカレー伝説の1ページが刻まれた。

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 「綾波、朝だよ」

隣の部屋に寝ている少女を起こしに行った少年の顔はげっそりとやつれていた。

 

 「碇くん大丈夫」

 

 「う、うん、昨日は食べ過ぎちゃったかな」

しかしその少年の顔は、どう見ても食べ過ぎて胃がもたれた顔ではなく、痛みで夜眠れ

なかった証のクマのできた顔になっていた。

 

 「おっはよーシンちゃん、レイ」

めずらしく自分で起きたミサト

 「「おはようございます、ミサトさん」」

シンジ達も元気良くあいさつする。

 「あ、今日は私が朝ご飯の支度だったわね」

その言葉にビクッと体が反応するシンジとレイ、そしてすぐさま二人の思考は

 

 どうやってミサトにご飯を作らせないか

 

という事に変わっていた。

 

しばらくの間この問題を考えていたシンジが

 「ミサトさん、僕に料理を作らせてください」

と言った。すると

 「あら、どうして」

 っと思ったとおりの答えが返ってきた。

 

 ミサトさんの料理がまずくて食べられないんです。

 

 なんてことは口が裂けても言えないシンジ、しかしこれという言い訳が思いつかない。苦し紛れになんとか

 

 「一人暮しを始めたときのために」

 

と言った。そのとき頭の中にミサトにダブらせた自分を想像していたことは本人以外誰

も知らない。

 

 「んー、まあそうゆうことならまかせましょうかしら」

 

ミサトの言葉を聞いて心から安心したシンジとレイだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食のあとしばらくテレビをボーっと眺めているミサトが皿洗いをやっているシンジと

レイに話しかけてきた。

 

 「シンちゃん、レイ、これから私はネルフに報告に行くけど、あなたたちはどうするの」

 

 シンジ達は、明日用事がなければ二人で一緒に買い物に行こうということを、昨日の

晩決めていたのでそのことをミサトに伝えると、

 

 「あっらー、じゃあデートなのね、明日の朝には帰ってくるのよ」

 

と冷やかされてしまい真っ赤になっていた。

 

 ミサトは、にやにや笑いながら

 「まあそうゆうことならこのカード使ってね」

 

 とクレジットカードを渡し、若いっていいわねーなんて言いながら部屋へともどっていっ

た。

 

 

 かくして、シンジとレイの二人っきりの(今日は初号鬼が魂狩りに朝早くから行ってしま

った。)初デートが行われる事となった。

 

 本日はちょこっと熱くなりそうな天気である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  あとがき

中途半端な終わり方ですが、まあ許してください。

今回はちょびっと小説の中にメッセージを入れてみました。

 今回はちょっとだけ実体験まじりです。

読んでくれた方、ありがとうございました。

 

 

 

 次回 

 初めて本格的なデートをする二人、覗き見してやろうと仕事をサボってまで見に来る

ゲンドウ、ミサト、リツコ、マヤ、発令所に残されたロン毛とメガネ、

 二人は無事に楽しいデートができるのか、そしてシンジは最後までいく事ができるの

 

 

 題名  休日 二人の時間 つながれた手