未来に向かって

 

 僕はあの時、たくさんのものを失ったと思う。周りが赤い海だったあのとき、

でもそのとき、たしかに僕は思った。みんなのいる世界、傷つけあっても他人と

生きる世界、大事なもののある世界…

 

 いつのまにか世界は元に戻っていた。ビルは壊れ横たわり、食料もままならなくなっている世界。

 

 しかしそれでも大切な絆のある世界…

 

 アスカ、ミサトさん、父さん、母さん、リツコさん、青葉さん、日向さん、加持さん、

マヤさん、トウジ、ケンスケ、委員長、副指令、大切な人はみんな戻ってきた。

 

 でも、綾波だけは戻ってこなかった……。

 

 あのときの事はよく分からない、いろんな事が起こって、でも綾波と話した気がする。

 

 みんなは、綾波のことを忘れてしまったようだった……アスカ以外は……

 

 ミサトさんに聞いても、リツコさんに聞いても、マヤさんに聞いても、青葉さんも、日向さんも、トウジも、ケンスケも、委員長も、父さんさえも…

 

 でも、アスカは知っていた。なぜかは分からない。でもこの世で綾波の事を知る人は

僕と、アスカだけになってしまった。

 

 僕の心の中には穴が空いた気がしていた。なぜかとても大きな穴、埋めることのできないくらいの、

 トウジやケンスケと話しているときも、アスカと話しているときも、父さんや、母さんと話しているときも

 

 埋まる事のできない大きな穴が…

 

 きっと綾波は絆そのものだったのかもしれない。僕と、みんなを結びつけるための

 

 彼女がいなければ、僕がこの世界を望む事もなかっただろう、きっと、苦しむ事のない、楽な世界を選んだんだろう。

 

 でも、人間は乗り越える事のできる生き物だと思う。いつまでも過去を引きずることをやめて、しっかりと前を向いて歩ける生き物だと思う。

 乗り越えられない物はない、でもそれを忘れてしまう事もない。

しっかりと地に自分の足をつけて、歩いていけるものだと思う。

 

 穴は、埋まらない、でもそれは決して悪い事ではないと思う、それも自分の一部なんだから

 

 時代は移り変わる。いつのまにかトウジと委員長は恋人同士になってるし、ミサトさんも加持さんと結婚した。

 

 ぼくは、アスカと父さんと母さんと四人で暮らしている。

 

平和になった。もう誰も苦しまなくていいくらいに…

 

 一月に一度、綾波のお墓参りにアスカと一緒にいっている。

でもこれは、綾波の死を痛む儀式じゃなくて、彼女の事を忘れないための儀式だ。

 もちろん亡骸などない、ただ丘の上に十字架を立てただけのもの、

 

 あの、クモのような使徒が来た後に、3人で語り合った場所、思い出の場所…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ二十歳になる、アスカと結婚する、町も変わり、人も変わる、みんな穏やかになり、

 緩やかな時間が流れる。

 

 僕達はゆっくりと歩いていく、自分の道を、曲がりくねって、ときに交わって、時に離れていく、そんな、道…

 

 いまでも月に一度の儀式は欠かした事がない、どんなに忙しくても、なにがあっても

その日だけは絶対にアスカと二人で彼女のもとにいく。

 

 そしてかならず、

 

 「またくるからね」

 

 と言う。それは僕がこれからも一生、死ぬまで続けていくだろう大事な事…

 

 いつまでも過去にとらわれていないで、と誰かが言っていた気がする。

でも、これは過去にとらわれるんじゃなくて、過去を受け止めて、未来へ繋いでいくため

 そのための通過儀礼、

 

 人は、永遠に他人の中で生き続ける事ができるのかもしれない。

他人は、自分なのだから…

 

 そして僕は歩いていく、これからも色々な事があると思う、数え切れないくらいの出来事。その中にはもちろん嫌な事もあるだろう。

 それでも僕は未来へ向かって歩いていく、それが僕の望んだ事で、彼女の望んだ事だと思うから。

 

 

 

 

 

 僕達は生きていく、未来に向かって……

 

 

 

 

 

 

fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

エヴァンゲリオンの映画を見ていたら書きたくなったので書きました。

腕が未熟で伝えたい事が伝わらないかもしれませんが、なんとかまぁ、お願いします。