「アスカ、独り占めはずるい!
わたしだって好きなんだから!!」
二発目のN2爆弾は、ユイカによって投下された。
「ちょっと、ユイカ・・・」
突然のことに呆然とするアスカ。
「はぁ、この究極超絶ファザコン娘が・・・」
心の中で呟くミユキ。
その母親にして担任教師は、1時限目が自分の授業であるため、このままこの状況を楽しもうと腹に決めていた。
その表情はまさに、「NERVのワイドショー部長」の異名を欲しいままにしていた当時を髣髴とさせるにやにや笑いだった。
そしてそっと心の中で呟いた。
「お楽しみはこれからだ♪、ってヤツよね、これは」
ぱぱげりおんIFのif・第参話
アタシとわたし
平成12年11月15日校了
「アンタ何言ってるのよ!
いくらアンタでも、人のフィアンセ取るなんて許さないんだからね!」
「なによ!
いっつも四六時中べたべたべたべた!
学校で仲良くするくらい、いいじゃない!」
「あんたバカぁ?
ちょっと、シンジ!
アンタもこのバカ娘に何か言ってやんなさいよ!」
当のシンジは、目の前で起っている親子喧嘩に呆然としていた。
「いや、あの、その・・・」
「「はっきりしなさいよ、バカシンジ!」」
両側からステレオで怒鳴られたシンジは、弱り切って俯くしかできなかった。
そこへ救いの手が差し伸べられた。
「ちょっと待ったァ!」
「な、マナ?」
マナは元気よく手をあげてたち上がると、驚くユイカを無視してすたすたとシンジのところへ近付き、ちょんちょん、と肩を叩いた。
「あ、えと、霧島さん、何かな?」
「やぁん、マナって呼、ん、で♪」
ちょっと上目使いに覗き込む。
マナの必殺兵器だ。
「あ、と、マナ・・・さん」
案の定シンジは赤くなって俯いている。
「こぉんなおっかない連中なんかほっといてさぁ、私にしない?」
「へ?」
突然のことに驚いて顔を上げたとたん、覗き込むようにしていたマナと、偶然にも顔のとある部分がヒットしてしまった。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「ぷろとかるちゃぁ〜〜〜〜〜〜!」
誰か知らんが、それは違うぞ・・・(^^;
「やぁん、シンジ君ってば、だ、い、た、ん♪」
「文化」されてしまったマナは、頬を染めてイヤンイヤンしている。
「こぉの浮気もぉン!!!!」
すかぽぉ〜〜〜〜ん!
アスカの必殺の一撃で、シンジはそのまま昏倒してしまった。
「ママ!
パパになんてことすんのよ!」
「ユイカッ!
学校ではそれ言うなって言ってたでしょっ!」
「あ!」
ハッと口を押さえて黙るユイカ。
視線が集中する中、全員を代表するように、マナが疑問を口にした。
「マ、ママ?
パパ?
ユイカ、何それ?」
「はいはいはい、それまでそれまで!
保健委員、シンジ君を保健室連れてって。
みんな席に着いて。
アスカ、あなたは一番後ろの窓際よ。
シンジ君はその隣にするから、荷物だけ持ってっといてあげて」
さすがというか、絶妙のタイミングでミサトが割り込んだ。
どうにか落ち着きを取り戻したクラスを見渡して、ミサトは改めてアスカに声をかける。
「こうなったら、あなた達の身の上話、話しといた方がいいわね。
かまわないかしら?」
「う、うん・・・」
アスカもユイカもしぶしぶ頷くしかなかった。
「みんな、ユイカのご両親のことは、歴史の時間に習ってるわね。
あたしもあの一員だったから、昨日のことのように覚えてるわ。
いい、今日転校して来たシンジ君は、歴史で習った使徒戦役の英雄の碇シンジの異母兄弟なのよ。
弟にあたるのよね。
あたしも初めて見た時はびっくりしたの。
それくらいそっくりだったのよね、ホント。
だからユイカは彼に「パパ」ってあだ名を付けたの」
ミサトはそこでいったん話を切ると、教室を見回した。
こうやって時々「現場の思い出」を差し支えのない範囲で話して聞かせることがあるため、みんな興味津々で聞いていた。
「で、もう一人、アスカなんだけど・・・。
二人とも、ホントに喋っていいのね?」
覚悟を決めたのだろうか、二人揃って黙って頷く。
「あなたたち、この前の新聞見て知ってる人もいると思うけど・・・。
ユイカのお母さんが実験中の事故で行方不明なのは知ってるわね?」
数人の生徒が、初めて聞いた話にユイカを見やる。
「今日転校して来たアスカはね、彼女にそっくりなのよ・・・。
それもそのはず、実の姉妹なのよ、二人は。
ユイカはシンジ君と同じパターンで「ママ」ってあだ名を付けたのね。
解ると思うけど、これは三人の間だけで許されたことよ。
他のあなたたちが言ったら、いくらあたしでもただ置かないからそのつもりでね」
シーンと静まり返った教室。
「ごめんね、ユイカ・・・」
マナは前で俯いたままのユイカにそっと頭を下げた。
「いいの、マナ・・・」
ミサトはそれを確認すると、再び話しはじめた。
「それから、シンジ君とアスカの話も本当よ。
親同士が決めたのも確かだけど・・・。
親って言っても、ここまで話せば判ったと思うけど、シンジ君のお父さんはネルフの会長だから。
あなたたちもこの第三新東京市に住んでるんだから、あたしが何言いたいか解るわね?
下手なちょっかいを出すと、大変なことになるわよ。
本人同士だってまんざらでもないみたいなんだから、邪魔しない方がいいわね。
あなたたちだって、その若さで馬に蹴られて死にたくは無いでしょ♪」
ちょうどそこへ、シンジを保健室に連れて行った保健委員が戻って来た。
「どうだった?」
「はい、軽い脳震盪だそうです」
「そ。
じゃぁ、そのうち気が付くわね、ありがとう。
あなたも席に戻っていいわよん♪」
きぃんこぉんかぁんこぉん!
「あら、ちょうど時間ね。
はい、そんなワケで今日の1限目はここまで。
とにかく、新しい仲間よ。
仲良くしてやってね♪」
ミサトはウインクを一つすると、話を締めくくった。
「起立、礼!」
ミサトが出て行くと、教室にざわめきが戻る。
保健委員の隣の席の生徒が、事の顛末を話してやっている。
「はぁ〜っ」
アスカはどうにか事態が収まった安心感で、大きな溜め息をついた。
そのまま教壇に上がると、教室を見回した。
視線が集まる。
「今のこと、聞いたからって気にしないでね。
アタシは全然気にしてないの。
そりゃ、姉さんのことは心配だけど、NERVがらみは何でもありなのはみんな知ってるでしょ。
だから、ユイカともこれまで通りにしてやってね。
それからアタシのことは、名字で呼ぶとユイカとごっちゃになると思うからアスカでいいわ。
改めてみんな、よろしくね」
ぺこりと頭を下げたアスカに、拍手が起こる。
どうやらうまく受け入れてもらえたらしい。
アスカはユイカの席に行くと声をかけた。
「ユイカ、保健室行くわよ」
「え?」
「シンジの様子見に行くのよ。
案内して」
「あ、うん」
「ママ、ごめんね・・・」
アスカに連れ出されたユイカは、廊下を歩きながらやっと口を開いた。
「いいのよ。
アンタも寂しかったんだもんね。
わかった。
学校ではシンジのこと、アンタに任せるわ」
「ママ?」
それには答えず、にこっと微笑んでみせる。
「それにしてもまぁ、ここも変わんないわよねぇ・・・」
ユイカと並んで歩きながら、感慨深げに呟く。
「そう言えばママ、保健室の場所・・・」
「バカね、アタシが知らないワケ無いでしょ。
去年風邪で倒れた時迎えに来たの、忘れた?
アンタを連れ出すために案内させたんじゃない」
「あ・・・、ありがと、ママ」
じわっと瞳が潤む。
「バカね、泣くことないじゃない・・・。
泣き顔なんか見せたら、シンジが心配するでしょ。
ホント誰に似たんだか。
優しい子よね・・・」
アスカはハンカチを出して涙を拭いてやった。
その姿ははたから見れば双子の姉妹に見えただろうが、間違いなく親子を実感させる物だった。
保健室でシンジは、頭に氷嚢をあてて座り込んでいた。
保険医はどこへ行ったのか姿が見えない。
「ごめんね、シンジ」
「パパ、ごめんなさい・・・」
「いいよ、アスカ、ユイカ・・・」
シンジは優しく微笑む。
「もう起きてもいいの?」
「このくらい、使徒にやられたこと思えば・・・ね」
「それもそうね」
「ママの破壊力は使徒並みなの?」
「どういう意味よ、ユイカ?」
ぱこん!
「いったぁい!
ママってばすぐ手が出るんだもん」
「そういうとこが使徒並みなのかもね」
「しぃんじぃ」
ぱこん!
「ほらね?」
笑いが起った。
「あら、もう起きても大丈夫なの?」
ちょうど保険医が戻って来たようだ。
「はい」
「そ、じゃぁ、もう教室に戻りなさい。
転校初日から欠席じゃかっこ悪いでしょ?」
「先生、ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
シンジ達が教室に帰ると、ちょうど2限目の授業が始まった。
昼休み、シンジ、アスカ、ユイカの3人にミユキが加わって、屋上で弁当をひろげる。
シンジたちの弁当は今日はシンジが当番だった。
ミユキは加持家においては「究極のメニュー」として半ば伝説化したシンジの手料理が欲しくて、付いて来たのだ。
「一口いいでしょ?」
食欲魔神のミユキは答えを聞く前から、ユイカの弁当箱に箸を突っ込むと卵焼きを一切れかっさらった。
「あ、こら、ミユキぃ!」
「はしたないわね。
母親そっくりね、そういうとこ」
「だぁれがはしたないですって?」
「アンタよ、ミサト!」
屋上に出て来たミサトも、シンジの弁当箱からひょいと卵焼きをつまむとぱくっと口に放り込んだ。
「うぅ〜ン、シンちゃん、腕落ちてないわねぇ♪」
「それよかミサト、今朝、ありがとね」
「いいのよ、あれくらい。
まぁ、これからは気をつけてねん♪」
「で、何?
お弁当つまみ食いに来たわけじゃないんでしょ?」
「あ、そうそう。
リツコがね、今日帰りに寄って欲しいんだって」
「アタシだけ?」
「ううん。
シンちゃんとユイカも」
「NERV、ですか?」
一瞬シンジの表情が曇る。
「違うわよ、司令の家」
「父さんのところ?」
「そうよ。
あ、ウインナー頂き♪」
今度はアスカの弁当箱からタコさんウインナーを一つ掠め取る。
「もぐもぐ、おいし♪
久しぶりに家族揃ってご飯、って言うことなんじゃない?
リツコってば、ああ見えて案外料理うまいのよ」
「リツコおねーさんが?」
「そうよぉ。
あたしも最初は信じられなかったんだけどね。
なかなかの腕よ、あの子」
「ママ、シンジさんと、どっちがすごいの?」
「そりゃまぁ、シンちゃんと比べちゃかわいそうよォ。
シンちゃんはなんてったって「究極のメニュー」なんだから。
でもまぁ、リツコも「至高のメニュー」くらいは行ってるかもね」
セカンドインパクト前生まれ世代にしかわからない対比で二人を評価するミサト。
案の定、子供達にはどっちがすごいのか理解できなかった。
まぁ「究極」と「至高」だから、それなりに対決できるレベルにはあるんだろうなと、おぼろげながら解った程度だ。
「じゃ、そういうことで。
伝えたわよん」
放課後、3人は途中でミユキと別れてゲンドウの家に向かった。
昔はジオフロントの本部内にいたゲンドウも、いまは第三新東京市郊外の高級住宅地に居を構えている。
周囲の立派な屋敷に圧倒されつつも、行った先でシンジはコケそうになった。
「ここ?」
「そうよパパ。
これがおじいちゃんの家よ」
「父さんらしいというか、何というか・・・」
確かに、周囲に引けを取らないほど広い敷地で立派な庭なのだが、建物自体は、ごくごく普通の日本建築の家屋だ。
周囲の家が立派なだけに、その雰囲気は恐ろしく場違いに感じるほどこじんまりとして見える。
ぴんぽぉん!
「はぁい」
リツコの返事がして、出て来たかっこうに3人は目を丸くした。
「母さん・・・、何、そのかっこう・・・」
リツコは、藍染めの和服に割烹着、これでもかというくらい「日本の母」の定番スタイルだったのだ。
金髪が妙にミスマッチで、独特の雰囲気を醸している。
「あら、早かったわね。
さぁ、上がってちょうだい。
ゲンドウさん、みんな来たわよ」
タタキを上がって板張りの廊下、通された先は畳に机。
「おう、来たか。
まぁ座りなさい」
座ぶとんに座ってお茶を飲んでいたゲンドウも和服姿だ。
どう見ても昭和中期の一般家庭そのものだ。
「これ、父さんの趣味?」
「あぁ、京都にあった私の実家を移築させた。
おい、シンジ達にもお茶を」
「はぁい、いま行きます」
そう言って出て来たのはレイだった。
レイはさすがに普通のかっこうだが、お盆に急須と湯呑みを持って出てくると、妙にしっくりハマっているところがおかしい。
「京都からわざわざ?」
「あぁ、なりは小さいがな、金額だけはよそのどこにも負けていないぞ」
妙なところを自慢するゲンドウがおかしかったのか、ユイカとアスカもくすくす笑っている。
「どうぞ」
「あ、ありがとう、レイ」
「学校はどうだ?」
「うん、普通だよ」
「そうか」
「副司令が校長先生だったのはびっくりしたけどね」
「冬月は元々大学の教授だ。
私とユイの恩師でもある」
「じゃぁ、親子二代に渡ってお世話になるわけね」
「私もいるから三代よ、ママ」
「それもそうね」
台所からリツコの声。
「レイ、できたのから運んでちょうだい」
「はい」
それを見送るゲンドウの目が優しい。
最近ではサングラスではなく普通の眼鏡になったためか、往年の迫力は無いが、逆に渋味が増している。
「アスカ君、君には感謝している。
君のおかげでレイは普通の女性になった」
「そんな改まって。
いやですわ、お義父様・・・」
ゲンドウが誰かに礼を言うことも、アスカがこういうしゃべりかたをすることも、シンジには信じられない。
「父さん、お願いだから槍が降るようなことしないでよね・・・」
「シンジ、誰の上にも等しく時は流れている。
それを選んだのは誰でもない、お前だ。
EVAのことがなければ、お前は歴史上の英雄などではなく・・・」
「父さん、僕はそんなことのためにこの世界を選んだんじゃないんだよ。
僕はただ、みんなと一緒にいたい、アスカと一緒にいたい、それだけしか考えてなかったよ。
今も昔も、僕はただの我が侭な人間だよ」
「その我が侭が世界を救ったんだ。
もう少し胸を張ってもいいんだぞ」
「その役は父さんに任せるよ。
僕は父さんと碇ユイの息子じゃなくて、父さんと碇リツコの息子でしょ?」
「ふっ、そうだな・・・。
そう言えばシンジ、お前に見せたいものがある。
待っていろ」
ゲンドウは奥の部屋に入って行った。
そこは書斎になっていた。
「シンジ。
私はお前に一つだけ嘘をついた。
これは実は、14年前、最後の戦いが終わったら一番にお前に見せる気でいた物だ」
そう言って本棚から出して来た一冊の古ぼけたアルバム。
今の時代では珍しい、セルロイドフィルムで撮影して、印画紙に現像する光学式カメラで撮影された写真を貼っておくアルバムだ。
「これって・・・」
「あぁ、ユイのものだ。
それだけは、この家に封印して取っておいた。
今となっては唯一の、あれの姿をこの世に留める物だ」
シンジは表紙をめくった。
京都大学のキャンパスで芝生に座って微笑むユイ。
伊勢らしい場所で撮られた写真。
街のハンバーガーショップで二人仲良くハンバーガーを食べているゲンドウとユイ。
若狭湾で海水浴姿の二人。
京都御苑らしいところで冬月と三人並んで撮られた写真。
鴨川縁で浴衣姿のユイ。
結婚式の記念写真。
ゲヒルン時代の二人。
シンジが生まれた時の記念写真。
木陰で生まれたばかりのシンジをあやすユイ。
眠るシンジを覗き込むユイとゲンドウ。
建造中の初号機の前で微笑む白衣姿のユイと、シンジを肩車したゲンドウ。
どのページにも若かりし頃のゲンドウとユイが、幼い頃のシンジが、楽しそうにしている。
最後のページに、何かのノートに書かれた文字。
『人はどこにいても幸せになれる。
生きてさえいれば必ず幸せになれる。
この世の素晴らしさをあなたに、そしてシンジに』
「それがユイの最後の言葉だ。
初号機の起動実験の直前、ロッカーに残されていたものだ」
シンジは涙が溢れるのを押さえられなかった。
「父さん、僕が帰ってくる時、母さんはこれと同じことを言ってくれたんだ。
僕に生きろって、そう言ってくれたんだ」
「そうだ。
ユイの口癖だった。
私がNERVでして来たことは、その言葉を実現するためだけにあった。
些かやり方がまずかったことは認めるがな・・・」
「解るよ。
今なら僕にも解るんだ」
「これからはお前たちの時代だ。
今日呼んだのは、そのためでもある」
「どういうこと、父さん」
「あと8年すれば、お前は大学を卒業する。
その時はシンジ、お前が私の後を継げ。
使徒は二度と来ん。
ゼーレの老人達もいない。
NERVは人の未来を、お前達の未来を拓くためにだけ存在している。
私は、お前はそのためにこそ帰って来たと、ユイが帰してくれたと思っている。
これは私のエゴかもしれんが、私とユイの想いを、お前に受け継いでもらいたいと思っている。
もちろん、14年前のようにやらねば帰れなどとは言わん。
これは総司令の命令などでは無い。
父からの願いだ」
「父さん、ずるいよ・・・。
そんなこと言われたら、そんな言い方されたら、断れないじゃないか。
僕が父さんと母さんの願い、断る訳無いじゃないか」
「すまん、シンジ・・・」
「いいよ。
僕はNERVから14年間も休暇をもらった。
これから8年、そのために勉強するよ。
僕は、自分にできることをする、自分にしかできないことをする。
最後の戦いの時、そう決めたんだ」
「すまん、シンジ」
「話は済んだの?」
「あぁ、今終わったところだ」
ちょうどリツコとレイが料理を運んできたところだった。
「それじゃぁ、お祝いね。
新しい家族の門出と、新生NERV二代目会長決定の」
この6人が碇家の家族なんだ。
これが本当の家族なんだ。
初めて知った暖かさは、何物にも代え難い。
そのために一生を捧げることが、この暖かさを守ることが嫌な訳がない。
6ヶ月間の使徒戦役が無駄ではなかったことが、自分のこれからを決めた決断が、シンジは誇らしくもあり、嬉しくもあった。
明日も学校だからと言ってゲンドウの家を出た帰り道、3人は星空を見あげながら夕食のひとときを思い返していた。
「アンタがNERVの会長ねぇ・・・」
「アスカは嫌?」
「バカね、嫌な訳無いじゃない。
今のNERVは世界の科学技術の総本山なのよ。
もう歴史教科書の英雄なんかじゃない。
これからの世界を切り開く、本当の意味の最前線に立つのよ。
それが自分達の手でできるのよ。
アタシ、エヴァに乗ったことを後悔したことはなかったけど、好きになる気もなかった。
でも今は違う。
嫌な思いもしたし、辛いし苦しかった。
でもね、それが無駄じゃなかったんだって、ちゃんと報われたんだって。
今日はっきり実感できたんだもん。
それが嬉しいのよ」
「僕と同じだね」
「アンタバカぁ?
アタシたちは夫婦なのよ!
それッくらい当たり前でしょうが!」
「パパとママって、やっぱりわたしの両親なのね・・・」
「いきなり何よ、ユイカ」
「私も嬉しいもん。
私のパパは世界を救った代わりにいなくなりました、マル。
今朝まではそうだった。
写真と歴史の教科書の上でしか、知らない人だった。
でも今は、わたしに未来をくれるの。
わたしを幸せにしてくれるの。
だから嬉しいんだもん」
「そうだね。
これからは、僕達の時代だからね」
「うん!」
ユイカはシンジの腕に自分の腕をからませた。
「こら、ユイカ!
アンタは学校担当でしょうが」
「いいじゃない、ママのけち!」
「アンタねぇ・・・。
ま、いっか」
アスカは反対側の腕に自分の腕を回した。
「何よ、ママだって・・・。
パパ、どっちがいい?」
「どっちって?」
「アタシと」
「わたしと」
「「どっちと腕組みたい?」」
「二人とも大好きだよ」
シンジの台詞に、二人はその顔を見つめた。
「今朝みたいなことをしないでくれたら、もっと好きになるけどね」
アスカとユイカは目を合わせると、揃って手を振りほどいた。
「どうしたの?」
「「結局、お前が一番悪い!」」
「なんだよ、それ・・・」
「ね、ユイカ♪」
「ね、ママ♪」
何だかなぁ・・・。
はるか彼方の女と書いて彼女。
真理なのかもしれないですね、加持さん・・・。
二人で腕を組んで歩き出す母娘に、シンジは苦笑するしかなかった。
もう少しでマンションというところで、それは起った。
ギュキュキュキュキュキュ!
三人の前に突然走り込んできた黒い車から、いかにもそれ風の黒服の男達が走り出てくる。
「碇シンジと惣流アスカだな?」
「な、何ですか、あなたたちは!?」
シンジとアスカは咄嗟にユイカを後ろにかばう。
「お前達がいると困るお方がいるんだ。
悪く思うなよ、ガキども!」
ズバァ〜ン!
ズバァ〜ン!
夜の住宅街に銃声が響く。
「ずいぶんと物騒だな、おい」
「加持さん!」
まだ煙の立ち上る拳銃を構えた加持が立っていた。
襲ってきた黒服達は、保安諜報部の職員が取り押さえている。
「ここの所、ちょっと怪しい動きがあったんでね。
どうやら、NERVに恨みを持つ者が、まだいるみたいだな・・・」
「それって・・・」
「そうだな。
ゼーレって線が、一番濃いな」
連れ立って歩きながら、厳しい表情をする加持とシンジ。
アスカはユイカを連れて先に帰してあった。
「一応、連中のバックと思われるメンバーは、内務省と協力して押さえた。
当面は安心だと思うが、油断は出来ない」
「どうするんですか?」
「14年前と同じさ。
君達には、目立たないようにだが、護衛を付ける。
もちろん、家にいる時は俺が面倒を見ることになるがな」
「終わってなかったんですね・・・」
「残念ながらな・・・。
もっとも、怪しい連中はだいたい目星がついている。
じきに終わるさ」
「だといいんですが・・・」
目の前で大切な家族が狙われた事実が、シンジの表情を暗くしていた。
「おいおい、信用しろよ。
これでも俺だって、その筋じゃ結構有名だったんだぞ。
まぁ、若干有名過ぎた気はするけどな」
エレベーターの中で加持は、ちょっと照れたように頬をぽりぽりと掻いてみせた。
「今日のことは謝るよ。
連中を引き付けるための囮にしちまったからな・・・」
「いいですよ。
それが加持さんの仕事だから。
でも、この次からはせめてユイカだけは巻き込まないで下さい」
シンジは真剣な表情で加持を見つめた。
「あぁ、そうするよ」
加持も表情を引き締めた。
エレベーターが11階に到着する。
通路を歩きながら加持は、話題を切り替えた。
「しかしシンジ君。
君も立派に父親してるんだな、安心したよ」
「え?」
「さっき、ちゃんとアスカとユイカちゃんを庇ったろ?
それに今のユイカちゃんを巻き込むなって言った時の目だって、なかなか迫力あったぞ」
「そ、そうですか?」
「あぁ。
シンジ君。
アスカのこと、よろしく頼むぞ」
「はい、加持さん」
力強く返事をするシンジに、加持は安心して微笑んだ。
「じゃぁ、お休み」
「おやすみなさい」
必ず守ります。
アスカとユイカは、必ず・・・。
シンジは、家族の待つ我が家へと入って行った。
ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/
はい、第参話をお届けします。
順風満帆のシンジの新生活。
アスカとユイカの母娘バトルもなしくずし的に終戦、いや、停戦かな?(^^;
そんな平和な生活を脅かす不穏な陰。
守るもののできたシンジは、精神的にもずいぶん成長したようですね(^_^)
次回予告
繰り返される日常。
平和な日々に影を落とすゼーレの残党。
ユイカのピンチにシンジとアスカは?。
次回、第四話 「親と子と」・前編
これも親の務めだ (^ー^)
By Gendou Ikari
でわでわ(^^)/~~