ぱぱげりおんIFのif・第四話

親と子と・前編



平成13年1月17日校了



●2029年6月1日(金) 18時51分

 それは一本の電話から始まった。
帰りに夕食の買い出しに行くからと言って、帰宅途中で別れた妻の帰りが遅いのを心配する男の家で鳴った呼出音。
部屋に置かれた一般回線ではなく、彼が持つ、限られた者しか番号を知らないはずの携帯電話だったことが、男の緊張感を高めた。

「私だ」
『くくくくく』
「・・・・・・誰だ?」
『くくく。
 誰でもいいじゃねぇか。
 お宅の奥さんは預からせてもらった。
 また後で連絡させてもらうぜ。
 解ってると思うが、警察なんかに報せたら、奥さんは無事に帰れないぜ。
 くくくくく』

ボイスチェンジャーでも使っているのだろう、奇妙な声でそれだけ告げると、電話が切れた。
しばらく電話機を握り締めていた彼は、往年の迫力ある表情を浮かべると、すぐさま別のところへ電話を入れた。
相手が出る。

「私だ。
 非常召集を。
 ・・・そうだ、非常召集だ。
 チルドレン及び、その娘もだ。
 構わん、直ちに発令しろ」

彼は着替えるために自室に向かった。
箪笥の奥にしまわれた黒い服。
彼のいる組織が一つの役目を終え、新たな仕事が与えられて以来ついぞ袖を通すことのなかったそれを、彼はじっと見つめた。

「再びこれを着ることになるとはな・・・」

男は、着ていた和服を脱ぐと、赤いタートルネックのセーター、黒いスラックス、黒い上着を着ると、いつものセルフレームの眼鏡を外し、濃い色のサングラスをかけた。


●18時52分

 電話のベルが鳴っている。
キッチンに立つ娘とリビングでテレビを見ている夫を一瞥したその女性は、電話機のところへ向かった。
ベルに合わせて点滅する呼出のランプが赤い。
彼女にとってそれは、歓迎されざる状況が発生したことを意味している。
緊張の面持ちで受話器をあげる。

「はい・・・。
 ・・・・・、はい、そうです。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解」

現役の夫はともかく、退役してから久しい彼女にとってはほとんど忘れかけていた単語。

「非常召集」

それが簡潔に用件だけを告げて切れた電話が伝えた言葉だった。
彼女はリビングに行くと、夫にそっと耳打ちした。

「仕事よ」
「呼出か?」

それまで呑気にテレビを見ていた男の表情が固くなる。
彼の妻が、簡潔に電話の内容を告げる。

「わかった」

着替えて部屋から出てきた彼に、娘が声をかけた。

「パパ、どこ行くの?」
「すまん、急用だ」
「えぇ!?
 晩ご飯は?」
「時間が無いんだ。
 2人で済ませていてくれ」

答えながらも、彼は玄関へ向かって行く。

「余っちゃうよぉ・・・」
「悪いな・・・」

微笑みながら娘の頭を撫でてやる。

「いいわ、じゃぁ、隣りから」
「無理だ。
 あっちは揃って呼ばれているんだ」
「うそ!
 な、何かあったの?」
「多分な」

再び真剣な表情に戻った父に、それ以上聞いてはいけない、聞いても答えられることでは無いことを察した彼女は、一言だけ言った。

「行ってらっしゃい、パパ」
「あぁ」

出て行く父親を見送った彼女は、母親と夕食を取るため、キッチンに向かった。


●18時53分

 隣家の男が車を玄関に付ける。
そこへ乗り込む3人の少年少女。
走り出した車の中で、少年が口を開いた。

「何があったんですか?」
「りっちゃんだ・・・。
 誘拐されたらしい・・・」

沈黙が車内を支配したまま、車は一路ジオフロントをめざした。


●19時20分

 NERV本部、第七会議室。
重苦しい空気が支配する中、ドアが開いてゲンドウが入ってきた。

「父さん・・・」
「今から説明する、座れ」

立ち上がりかけたシンジを制すると、定位置になっている椅子に座る。
顔の前で手を組むその姿は、14年前と変わらないオーラを発している。
その隣には加持が着席している。

「今から非常召集をかけた理由を説明する。
 加持2佐」
「はい。
 本日18時51分、司令の携帯電話に副司令を誘拐したとの連絡が入った。
 副司令は夕食の買い物帰りを誘拐されたものと思われる。
 同時刻、NERVは非常召集を発令、情報収集を開始。
 電話の発信元は副司令の携帯電話だったことが判明。
 MAGIの解析により、場所は第三新東京市郊外の公園と判明した。
 現在は電源が切られているため、これ以上の追跡は不可能。
 次の犯人からの連絡を待つ以外にない。
 現状ではここまでが判明した事実だ」

いったん言葉を切る。

「そこで、現時点を持ってNERVは第一級非常警戒態勢を発令する。
 万一の危険を考え、チルドレン、及びその家族は最優先保護対象としてNERV本部内にて保護。
 保安諜報部は全力を挙げて副司令の捜索及び現場の特定と司令宅への張り込み。
 その他の部署はこれに全面協力すること。
 なお本件の捜査本部は司令宅所在地である雲雀ヶ丘一帯担当所轄署の北総署に置く、以上だ」

続いてゲンドウが口を開いた。

「本件については第一級の極秘扱いとする。
 直接関係する者以外へは情報を漏らすな」
「父さん、母さんは・・・」
「安心しろ、シンジ。
 そのためのNERVだ」

ゲンドウは、往年の迫力そのままにニヤリと笑ってみせた。


●19時49分

「現場が判明しました!」

2人の保安部員が、捜査本部を置かれた北総署の会議室に駆け込んで来る。

「現場は雲雀ヶ丘2丁目の路上。
 司令宅から50mの地点です。
 現場にこれが・・・」

黒いワニ皮のハンドバック。
シンジとアスカが、結婚祝としてリツコに贈ったものだった。

「近所のショッピングセンターの店員が副司令の応対をしていたのを覚えていました。
 時刻は17時53分。
 レジとカード使用歴の記録からも間違いありません。
 そこから徒歩で帰宅したとして、事件発生の推定時刻は18時05分頃と思われます」

もう一人が、手帳をめくりながら答える。

「そこから割り出した犯人の移動手段は一般的な乗用車と考えられます。
 ただしMAGIのオートドライブコントロールのログには該当する車がありません。
 キャンセルスイッチか何かを付けた違法改造車と思われます。
 そのため、現在周辺での聞き込みを行っています」
「待て、聞き込みはまずいぞ」

加持が捜査員に待ったをかけた。

「は?」
「NERVに喧嘩売るようなヤツだ。
 MAGIのコントロールを外せる技術も持っているとなると、犯人がただのチンピラとは考えにくい。
 こちらが動き出したことを知られるのはまずいぞ」
「なるほど・・・。
 では、現場の捜査員を引き上げさせます」
「そうしてくれ。
 近所の家に協力を要請して、監視カメラを設置、監視班による張り込みだけを行え」
「はっ!」

保安部員が走って出て行った。

「加持さん・・・」

シンジが立ち上がる。

「僕にも何か手伝わせて下さい」
「しかしな、シンジ君・・・」

シンジはなおも引き下がらなかった。

「僕は息子です。
 黙って見ていられません」
「気持ちは解る。
 しかしな、シンジ君、我々もプロだ。
 現場のことは現場に任せておいてくれないか・・・」
「はい・・・」

はっきりとは言われていないが、ようは素人は足手まといだということだろう。
それに思い至ったシンジは、黙って引き下がらざるをえなかった。
力なく項垂れたシンジの背中に影が差している。

「シンジ君、わかった・・・」

加持が声をかけた。

「はい?」
「一つだけ、協力してくれ・・・」
「えっ!?」

振り返ったシンジの表情が、ぱっと明るくなる。

「司令は今、犯人との接触確保のために自宅で待機している。
 付いていてやってくれないか?」

加持の真剣な表情に、シンジも表情を引き締めて頷いた。
じっと様子を窺っていたアスカとユイカも立ち上がる。
加持が捜査員の一人に声をかけた。

「錨田曹長、シンジ君達を司令宅まで送ってくれ」
「ほいよ!
 シンジ君、来な」


●20時07分

 錨田が運転する車の中で、助手席に座ったシンジは暗い顔をしてじっと窓の外を向いていた。
アスカとユイカは押し黙ったままだ。

「なぁ、シンジ君よぉ・・・」

錨田カズヒサ特務曹長はシンジがパイロット時代の護衛担当官だったので、いまでもこうして砕けた口調で話しかけるようにしていた。
名字が似ていたことや、年齢的な差もあり、親子のような気分なのだ。

「お前ぇさんが心配なのは分かるがな、もうちっと俺達を信用してくれんかなぁ。
 俺ぁよぉ、お前ぇさんの護衛で特務曹長にまでしてもらってよぉ。
 今はまぁこんな具合だから、普段は指導官なんてなことをやってるけどな、ハハハ」

そう言ってかなり広くなった額をつるっと撫でる。

「でもよぉ、今現場に出てるのはその俺の愛弟子ばっかりなんだなよな。
 何が言いてぇか、お前ぇさんなら解るよな?」

シンジが錨田に助けられたのは一度や二度では無い。
時には襲撃犯のせいで入院するような大怪我を負ったこともあった。

「はい・・・」
「お前ぇさんは前はどうか知らねぇが、今はただの中学生なんだ。
 無茶なこたぁ考えねぇで、どーんと構えててくれや、な」
「はい」

人懐っこい笑顔で言われると、シンジも納得してしまう。
これが錨田の人徳なのかもしれない。


●20時13分

 ゲンドウの家に到着したシンジ達は、居間に集まっていた。
一般回線の電話と携帯電話には録音装置が付けられ、すぐさま逆探知がかけられる手筈も付いている。
しかし、いくらMAGIでも少なくとも20秒は会話が続かないと追跡ができない。
いかに犯人との電話を引き伸ばせるか、勝負はそこにかかっていた。

携帯電話の呼出が鳴る。

「はい・・・・・、私だ」
『よぉ、旦那さんかい?
 くくくくく』
「妻は無事か?」
『くくく、今のところ奥さんは無事だぜ。
 明日の12時、プレイワールドのメリーゴーランド前、1億円持ってきな。
 全て使い古しの万札だ』
「そんな金、急には用意できん」
『いいか、1秒でも遅れたら、奥さんは帰れないぞ、くくくくく』

一方的に電話が切れる。
逆探知を警戒しているのは目に見えている。

「巧妙なヤツだな・・・」
「父さん・・・」

今度は一般回線の電話。

「私だ・・・・、やはりそうか。
 内容はモニターしていたな?
 ・・・・・・・あぁ、そうだ、うむ。
 すまんが頼むぞ」

電話を切ると、ゲンドウが顔を上げた。

「逆探知は失敗だ・・・。
 科学の粋を集めたNERVが、無様なものだな・・・」

自嘲ぎみに笑って見せる。

「お爺ちゃん・・・。
 はい」

いつの間に準備したのか、ユイカが湯呑みにお茶を入れて来ていた。

「あぁ、すまんな・・・」

ピンポーン!

呼び鈴の音がする。
アスカが立ち上がると、玄関へ向かった。
家の周りには監視班がいるから、玄関前まで入れたということは、怪しい人物では無いということになる。
アスカが開けた扉の向こうには、冬月が立っていた。

「校長先生!」
「邪魔するよ。
 いるのだろう?」
「は、はい・・・」

困ったような顔のアスカに、冬月はにこっと笑って答えた。

「話は聞いている、心配するな」

「来たか・・・」

居間に入ってきた冬月を見て、ゲンドウは少し顔をほころばせた。

「リツコ君では無いがまさに、無様だな、碇」

言葉は辛辣だが目が笑っている。
長年の付き合いからも、それがワザとだということがわかるだけに、ゲンドウはそれが嬉しかった。
冬月は黙ってゲンドウの向かい側に腰を降ろした。

「あぁ、まったくだ・・・。
 お前に上級レベルのアクセス権など設定するのではなかったな・・・」

だからゲンドウも、ニヤッと笑って答える。
その表情を見て、冬月はいくらか気が楽になった。
冬月はシンジとアスカを生徒として第一中学校に受け入れるにあたり、何かと必要になるだろうNERVとの情報のやり取りのため、副司令当時とほぼ同じレベルの情報アクセス権を設定させた。
そのおかげで今回の事件を知り、こうしてゲンドウの様子を見に来たのだ。

「校長先生、どうぞ」

ユイカが来客用の湯呑みでお茶を出した。

「うむ、ありがとう」

一口すすると部屋を見回す。

「ここは、何度来ても落ち着くよ。
 これが京都にあった頃は、行ったこともなかったがね。
 しかしまぁ、本当に趣味がいい・・・」
「ふ。
 碇家には負けるが、六分儀家もそれなりに名の知れた名家なのだぞ」
「知っているとも。
 ゲヒルン入りする前に、調べさせてもらったからな」
「もう、30年近く前の話だな・・・」
「うむ」

お茶をすすりながらの昔話。
思い出話に花を咲かせるこの2人が、使徒戦役の時、全世界の命運をかけて戦った組織のトップ2人とは思えないほどに平和な風景だった。

2時間ほどして冬月は帰宅した。
シンジ達は、その日はそのままゲンドウの家に泊まった。


●21時05分

 ゲンドウが冬月と昔話をしている頃、北総署では犯人が要求した現金1億円の、紙幣ナンバーを控えるというとてつもない作業が行われていた。
エヴァの無い今、いくらNERVと言えど保安諜報部にそんなに人員がいるわけではない。
結局作業を押しつけられた北総署の手あき要員を事務職員に至るまで総動員しても、20名に満たなかった。

「なぁ、織田ぁ、これって公安官の仕事、なんだろうかね?」
「佐渡よぉ、公安官の仕事にゃぁよ、地味ぃなものだってあるんだぜ、なんてね」

佐渡と呼ばれた中年捜査員に、織田と呼ばれた若手捜査員が、おどけて錨田の口まねをして答える。

「そ、そうだよな・・・。
 俺もそうじゃないかなぁ、って思ったんだけどさ。
 ちょっと確認したくってな・・・」

佐渡は引きつった笑いで、自分を納得させるように呟いた。
そこへ若い男女の捜査員が入って来た。

「何やってんですか?」
「やぁ、三田、水野さん、いいとこへ来たなぁ!
 はい、手伝って」

織田が札束と紙と鉛筆をテーブルの上に並べる。

「先輩、何スか、これ?」

男の方、三田が訪ねた。
女の方、水野も不思議そうに見回している。

「明日の身代金。
 朝、司令が来るまでに全部番号を控えろってさ」
「いくらあるんです?」
「1億円」
「今いくら終わりました?」
「900万」
「明日の朝までなんて、無理っすよぉ!」
「コピーすればいいのに・・・」

それまで黙って聞いていた水野がぽつりと呟いた。

「コ、コピー・・・」
「はは・・・、コピー・・・」
「コピー、ね・・・」

紙と鉛筆を持った全員が、引きつった顔で乾いた笑いを発する。

「ある?」

織田が、やたらと真剣な表情で事務職員の一人を振り返る。

こくり。

聞かれた女性事務員は、緊張した面持ちでおずおずと頷く。
織田が見回すと、全員が揃って頷いた。

「どこっ!?」
「さっ、3号倉庫・・・、です・・・」

ぶんっ、と音がしそうな勢いで織田に振り向かれた女性事務員が、ひき付けを起しそうな声で答える。

「行けェッ!」
「はいぃぃ〜〜っ」

織田のかけ声で事務職員達は、オリンピックのスプリンター選手のようなものすごい勢いで走って行った。
やがて廊下に騒がしい声。
まだ梱包すら解かれていない真新しいコピー機が運ばれて来た。

「来たぞぉ!」
「よっしゃぁ!」

はさみが縦横し、梱包が解かれる。
すぐさまセットされたコピー機に、札が並べられる。
数を稼ぐため、番号の部分のみ残して重ねたおかげで、4時間後には全ての番号を控えることができた。
最後の札がコピーされた時、言い出しっぺの水野が胴上げされたというが、定かではない。


●6月2日(土) 05時30分

 ゲンドウの家の前、少し離れた曲がり角に佇む一人の男。
じっとゲンドウの家を見つめる鋭い目線。
彼の前を、犬の散歩をさせる中年男性が通り過ぎる。
続いてゴミを出しに来た主婦。
向こうにはサウナスーツを着込んで早朝のジョギングをする若い男の姿もある。

ジョギング姿の若い男がゲンドウの家に差し掛かった時、見張っていた男性の後ろから猛スピードで接近する一台のワゴン車。

「来るんだ!」
「バカ野郎!
 何しやがるんだ!」
「いいから来い!」

あれよあれよという間にワゴン車につれ込まれる見張っていた男。
来た時同様、猛スピードで走り去るワゴン車を、中年男性、主婦、若い男、皆が呆然と見つめていた。


●06時20分

 北総署捜査本部、加持の前に錨田が立っている。
両脇を若い保安部員に抱えられている。

「錨田さん!
 何であんな勝手なことをするんですか!」
「いや、しかしだな・・・」
「しかしもかかしもありません!
 現場の張り込みは監視班のみと言ったでしょう!」

加持が怒鳴りつける。

「あのなぁ加持よぉ、犯罪捜査ってのはなぁ、現場が一番大事なんだぜ。
 忘れたたぁ言わせねぇぞ」

加持にセキュリティー技術の基礎を叩き込んだのが、当時2曹でバリバリだった錨田だ。
元々は警視庁の所轄署で捜査課強行犯係の刑事をしていた錨田は、犯罪捜査のベテランだった。

「錨田教官、それとこれとは話が別です。
 副司令にもしものことがあったらどうするんです。
 これはそんじょそこらの誘拐事件とは訳が違うんです。
 相手はプロなんですよ!」
「プロだろうがヤクザだろうが関係あるけぇ。
 要は犯人をとっ捕まえりゃいいんだろうがよ。
 違うのか?」

2佐と特務曹長、階級だけならかなりの開きだ。
しかし加持は、未だに錨田に頭が上がらない。
叱責ですら敬語が入っているのもそのためだった。

「現場は若いのに任せて下さい、お願いですから!
 織田2曹、連れて行け!」
「はっ!
 さ、錨田さん、行きましょ」

加持は錨田の背中を見ながら溜め息をつき、苛立たしげにタバコに火をつけた。
ことの成り行きをじっと見ていた捜査員達が視線を集中させているのに気付く。

「ぼっとしてないで仕事しろ、仕事!」

バタバタバタっと、魔法が解けたように全員が動き出す。

「まったく、どいつもこいつも・・・」

加持は、盛大に煙を噴き出した。


●08時30分

 迎えの車がゲンドウの家の前に止まる。
後部座席にゲンドウ、アスカ、ユイカ。
助手席にシンジ。
シンジはリツコが心配でほとんど寝ていなかったせいか、いまいち元気が無い。
保安諜報部員の運転する車で、いったん北総署へ向かう。
準備された金が積まれている。
一束一束鞄に詰め込んで行かれる様子を眺めていたシンジに、加持が声をかけた。

「おはよう、シンジ君」
「あ、おはようございます」
「実はな、シンジ君。
 今日はちょっとお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」
「お願い?」

ちょっと照れたようにぽりぽりと頬を掻く加持の態度に、首をかしげるシンジ。

「身代金の受け渡し、遊園地なのは知ってるだろう?
 実は、人手が足りなくてな・・・。
 現場で、ちょっと協力して欲しいんだ」
「ど、どんなことを?」
「たいしたことじゃない。
 この携帯無線機、これを持って遊園地内にいてほしいんだ」

加持が差し出した無線機。
しかし、その台数は3台だ。

「どういうことです、これ?」
「アスカもユイカちゃんも、協力してほしいんだ・・・」
「アタシと」
「わたしも?」
「あぁ。
 ただいてくれればいい。
 そいつには、俺の指示が入るようになってる。
 もし犯人から電話が入れば、それも流れるようになってる。
 その時に、周囲で犯人の台詞と同じ口の動きをしているヤツがいないか見てほしいんだ」
「なるほど・・・」

納得して受け取るシンジ。
無線機のイヤホンを耳に付けながら、アスカが疑問を口にする。

「ところで加持さん、見付けたらどうするの?」
「無線機の右側に付いている赤いボタン、そいつを押せ」
「これ?」
「あ、今押すなよ!」
「あわわわわ」

慌てたアスカが、無線機を落としそうになる。

「そのボタンを押せばマーカーが発信される。
 指揮車のコンソールにそれが映るから、すぐに捜査員が行く」
「りょおっかい」


●11時45分

 一般のトラックに偽装した移動指揮車。
車内に加持をはじめ、保安諜報部の幹部。
遊園地内には一般市民に偽装した捜査員が多数配置されている。
犯人の一味が市内に潜伏しているとも考えられるため、交番などに勤務する制服公安官も含めれば、その数実に1000人以上。
遊園地内だけでも100人近く、家族連れに見せかけるためにその妻子まで動員しているとあって、本当の一般入場者よりも、捜査関係者の方がはるかに多い。

「捜査員配置につきました。
 従業員も半数はこちらの要員を潜り込ませています」

移動指揮車の中で、遊園地にある監視カメラ、捜査員に持たせた小型CCDカメラなどから送られて来る映像を見つめる加持が頷いた。

「各員、そのまま聞いてくれ。
 時間まであと15分だ。
 周囲にいる不審者に注意しろ」

その加持の声を聞いていたシンジ達は、カフェテリアにいた。

「お待たせしました」

ウエイトレスが大盛りスペシャルフルーツパフェを二つとコーヒーを持って来る。
パフェをアスカとユイカの前に、コーヒーをシンジの前に置いた。

「あ、あの・・・」
「何か?」

おずおずと切り出すシンジに、にこやかに微笑み返す。

「コーヒーはアタシよ」

ウエイトレスの笑みに俯いたシンジにむっとしたアスカが、ウエイトレスに偉そうに言う。

「へ?」

さすがのウエイトレスも、その職業スマイルを凍り付かせた。

わ、私としたことが、お客様のご注文を間違えるなんて!
高校1年の時からバイトを始めて、大学でも続けて、卒業してから正社員にしてもらって、ウエイトレス歴は今年で9年なのよ・・・。
なのに、なのに!
こんな失態は初めてだわ。
こんな、こんな、こんな・・・、屈辱だわ!
何よこの子たち。
女の子二人と男の子なんでしょ?
どうしてこの男の子がコーヒーじゃないのよ!
だいたい何よこの男の子!
こんな可愛い子2人も連れちゃってさ。
私なんて彼氏居ない歴9年、青春の全てをウエイトレスに捧げてきたのよ!
でも、この子、ちょっといいわね。
うん、なんか、けっこうイケテルじゃない。
あと5年もしたら、いい感じになるんじゃないかしら・・・。
そうよ、あとでお冷やを足しに来る時に、私のTELナンバー書いたメモをさり気なく握らせたりして。
この制服、ちょっと胸元が開いてるから、わざとかがめば谷間が見えるし、このくらいの純情ボーイだったらバッチリよね。
ウインクなんか決めたら私にイチコロよ。
来週の週末は久々にお休みだし、お給料も入るし、映画でも誘って。
あ、確か駅前の映画館がホラーよね。
それでキャ〜っとかってしがみついてやればいいわね。
うちのアパートで晩ご飯食べさせて、勢いでお酒なんかも飲ませちゃったりして。
そうねぇ。
それで、私シャワー浴びて来るわ、覗いちゃ、だ、め、よ♪なんて言ってさ。
バスタオル一枚で出てきたりなんかして。
あ、その前に覗かれちゃうかな?
ううん、私より先にこの子をお風呂に入れて、背中流して、あ、げ、る♪って言うのもいいわよね。
それで、洗ってあげる時にバスタオル落としたりなんかして、さり気なく胸でコチョコチョってするのよね。
そして、あら、ここはどうしてこんなになってるの?なんて言って。
お姉さんが、その、素敵だから・・・、なんて言わせるのよ。
見たい?
えと、その、僕・・・。
いいのよ、お姉さんが教えて、あ、げ、る♪
きゃぁ〜、今度の週末はチェリー君攻略よ!
あぁ、燃えるわぁ!
さぁ、まずは水とメモの用意よ。

一人妄想に突っ走るこの道一筋9年のウエイトレスが現実世界に帰って来た時、シンジ達はパフェを平らげ、席を立とうとしていた。

「ね、美味しかったでしょ?」
「うん、ユイカの言ったとおりだったね」
「ほら、バカシンジ、さっさと行くわよ!」
「あ、アスカ、待ってよ!」

ユイカに腕を組まれてデレデレしているシンジに腹を立てたアスカは、2人を放っておいてズンズン行ってしまう。

あ、あ、私のチェリー君が・・・。

ウエイトレスがふと見た席に、ポーチが落ちている。

ちゃぁ〜んす!

ウエイトレスは伝票の裏にさっと電話番号をメモすると、ポーチを持って追いかけた。

「お客様、お忘れ物ですよ」

シンジの手を取り、ポーチを乗せる時にさり気なくメモを添える。
そして重ねた手に、きゅっと力を入れた。

「忘れちゃだめよ♪」

にこっとウインク。

「あ、あの、どうも、あ、ありがと・・・」

しどろもどろになるシンジ。
思わずポーチを持つ手に力が入ってしまった。
ユイカが忘れたポーチの中には、付けることを嫌がった携帯無線機が入っていた。
どうせ3人一緒にいるんだからいいだろうと、その我が侭を許したシンジとアスカの親心が裏目に出た。
シンジが握った部分に、ちょうど無線機のマーカーのスイッチがあったのだ。

「カフェテリアでマーカーの反応!」
「行け!」


ユイカが足を止める。

「あ、いっけなぁい!
 ポーチ忘れてきちゃった」
「ドジねぇ」
「わたし、取って来る」

2人が振り返った時、周囲からわらわらと人が現われ、シンジとウエイトレスを取り囲んだ。

「え、わ、な、何?」

驚いて周囲を見まわすウエイトレスに、保安部員が一人進み出て身分証明書をかざす。

「NERVの者だ。
 聞きたいことがある」

その背後で無線機に報告している保安部員がいた。

「はい、11時59分、容疑者の一味と思われる女性の身柄を確保しました。
 これより任意同行します」
「ちょっと、何なのよあんた達!」

ウエイトレスは抗議もむなしく、引き摺られるように連行されて行った。


●12時00分

 メリーゴーランド前のゲンドウ。 身代金を詰めた鞄を下げた彼の耳にも、容疑者確保の報らせは入っていた。
胸ポケットに入れた携帯電話が鳴る。

移動指揮車の中のオペレーターの叫び声。

「司令の携帯に入電!」

スピーカーにその音が流れる。

捜査員が一斉に周囲を見渡す。

『警察に報せていたとは驚いたぜ』
『待て、私は警察になど知らせてはおらん!』
『嘘つけ、カフェテリアの騒ぎはナンなんだよ!』
『私は知らん!』
『今日の取り引きは中止だ』

シンジの目に、アスカが手を押さえて倒れるのが目に入った。

「アスカ!」

慌てて駆け寄るシンジ。
アスカの左手から血が流れている。

「アスカ!」
「ゆ、ユイカが・・・」
「え、ユイカ?」

慌てて見回すが、ユイカの姿が見えない。

「シンジ君!」

錨田が走り寄って来る。
落ちていた、血のついたナイフに目が行く。

「錨田さん、ユイカが!」
「何ぃ!?
 織田!
 アスカちゃん襲ったヤツぁまだそのへんにいるぞ、探せ!
 鑑識!
 これ調べろ!」

ぱっと捜査員が散る。
鑑識の職員がナイフを拾い上げた。

「ユイカ・・・。
 つぅっ!」

痛みに顔をしかめるアスカの左手に、シンジがハンカチを巻いてやっていた。


●14時00分

 第三新東京市の地上にあるNERVのビル。
新生NERVの表玄関にあたるその建物の広間に、記者会見場が設置されていた。

「昨日18時頃、NERVの碇リツコ副会長、及びお孫さんのユイカさんが何者かによって誘拐されました」

広報部長がレジメを読み上げている。
盛んにフラッシュが焚かれる。

「昨日より関係機関と共同で捜査してまいりましたが、有力な手がかりが得られないと判断。
 本日ただいまより、公開捜査に切り替えます。
 マスコミの皆さんには、人質の生命を最優先するため報道協定により報道を控えて頂きましたが、
 これよりは全ての情報を公開して頂いてけっこうです。
 現在までの捜査状況は以下のとおりです』

捜査本部にしつらえられたスクリーンに映る記者会見の模様を、加持は苦虫を噛みつぶしたような表情で眺めていた。
シンジとアスカは、ユイカのことがショックで、真っ青な顔をしている。
左手に包帯を巻かれたアスカの姿は、更に輪をかけて痛々しく見えた。
加持の目の前に置かれた電話機のベルが鳴る。

「加持です」
『加持2佐』

外部スピーカーのスイッチが入れられていたため、その声が部屋中に流れる。

「司令、申し訳ありません・・・」
『今は詫びはいい。
 こうなった以上、我々も全力で対処する。
 全職員を君に預ける。
 あらゆる手段を尽くせ』
「はい」
『それから、そこにシンジとアスカ君はいるか?』
「あ、はい!」

急に名前を呼ばれたシンジが慌てて返事を返す。

『すぐに本部の司令室まで来い、以上だ』

電話が切れる。
加持とシンジの目線が合った。
静かに頷く加持に、シンジも頷きかえした。

「アスカ、行こう」
「うん・・・」


●14時25分

 司令室のドアが開かれ、シンジとアスカが入って来た。
昔ながらのデスクに両腕を突いて手を顔の前に組んだゲンドウの前に、錨田が立っている。

「来たか・・・」

パイロット時代に呼び出された時と同様、錨田の横に並んで立つ。

「シンジ、アスカ君・・・。
 お前たちを錨田特務曹長に預ける。
 捜査に参加しろ」
「と、父さん!」
「リツコとユイカは、自分達で救出しろ。
 これは父から息子夫婦への依頼では無い。
 NERV司令からセカンド、及びサードチルドレンへの正式な命令だ」

昔の迫力そのままで告げるゲンドウに、シンジの表情が引き締まる。
そこに迷いは無かった。

「了解!
 サードチルドレンは錨田特務曹長の指揮下で、副司令、及びお孫さん捜索に参加します」

びしっと姿勢を正したシンジが答える。
その姿を驚きの眼差しで見るアスカと錨田。
アスカは驚愕で、錨田は驚嘆で。

「しかし司令、セカンドチルドレンは負傷しており、捜査への参加は無理があると考えます。
 自宅待機、あるいは後方支援の任務に就くようご命令になられることを具申いたします」

その台詞がさらにアスカと錨田を驚かせた。
ゲンドウはにやりと笑うと、静かに言った。

「と言うことだが、どうするかね、セカンドチルドレン?」
「いえ、アタシも一緒に捜査に参加します」

今度はシンジが驚愕の表情を浮かべる。

「いいのよ、シンジ。
 アタシはユイカの母親よ。
 じっとなんてしていられないわ」
「よかろう。
 両名、これを持って行け」

ゲンドウがデスクの上に出した物、パイロット時代と同じ作戦部の、しかし当時と違って2尉の階級を入れられたIDカードと、拳銃。
シンジとアスカは、黙ってそれを受け取った。

「階級は過去の実績から付与しただけだ。
 現場のことは全て錨田曹長の指示に従え。
 以上だ。
 曹長、君は少し残ってくれ」
「はい!
 碇2尉他1名、帰ります」
「お前ぇさんがた、捜査本部で待っててくれや」
「「はい!」」

シンジとアスカがドアの外に消えたのを見計らって、ゲンドウが口を開く。

「すまんが、頼むぞ」
「俺ぁいいんだがね・・・。
 本当に構わねぇのか、あの二人出しちまって?」
「あぁ。
 そうでもせねば、神経を擦り減らしていずれ倒れる。
 現場で走り回っている方が、健康にはよかろう。
 これも親の務めだよ」

にやりと笑うゲンドウ。

「解った」

錨田も表情を緩めた。

「しかしまぁ、二人とも立派に親の顔してたよなぁ・・・。
 頼もしい限りだ」
「体はともかく、年齢は28だ。
 それにシンジには8年後にはこの椅子に座ってもらわねばならん。
 頼んだぞ、カズヒサ」
「任せろ、ゲンドウ」

二人は微笑むと、はるか昔にお互いを呼び合った呼び方で話を締めくくった。


●14時55分

「おう、戻ったか」

NERV作戦部の制服に着替えたシンジとアスカが捜査本部に帰って来た。
その姿は、さっきまでスクリーンを見つめて震えていた子供ではなく、決意を固めた戦士の顔だ。
14年ぶりに見せる引き締まった顔に、加持は思わず表情を緩めた。

「話は司令から聞いている。
 作戦部は最後の戦いで解体されたから、実質上お前たちは部長と副部長ってことになっちまうな。
 まぁいいや。
 あの頃のミサトよかまともだろうし」

妻の名前を出しながら、加持はニヤッとしてみせた。
すぐに錨田も戻ってきた。

「加持よぉ、二人は俺が預かる。
 俺ぁ俺のやり方で動くが、いいよな?」
「その方がいいでしょう。
 任せますよ、教官」
「おう。
 じゃぁ、碇、惣流、来な」

部下として扱うというけじめから、錨田は2人を名字で呼んだ。

「あ、まずは何を?」
「あのなぁ、碇・・・。
 新入りがまずやるっつったら顔合わせに決まってるだろぉがよ。
 お仲間に紹介すっから」

会議室の片隅で資料を整理していた織田達の捜査班が振り向く。

「お、来たな」

「作戦部の碇2尉です」
「同じく、惣流2尉です」
「固いこと抜き抜き!
 俺は織田2曹、よろしくな」
「俺は佐渡1曹だ」
「僕は三田3曹です」
「私は水野士長です」

一人一人名乗りながら握手をする。

「この他に深津2曹って美人と小野1曹ってオヤジがいるんだが、今は聞き込みに行ってる。
 まぁ、これが北総署捜査一係、っつうかまぁ、錨田一門の全部だ。
 昔風に言えば北総署刑事課強行犯係ってヤツだな。
 それからウチは、今は自己紹介だから付けたが、普段は階級抜きだ。
 さてと、織田よ、ウチの担当は?」

織田が地図を出して来る。

「ここです。
 司令宅を中心に雲雀ヶ丘一帯」
「よし、織田、お前ぇは深津と合流してくれ。
 佐渡は小野とだ。
 三田と水野で組め。
 俺ぁ碇と惣流連れて行く。
 行こう!」
「「「「「「はい!」」」」」」


●15時11分

「エリカさん、こっちこっち!」

住宅地から少し離れた商店街。
リツコが買い物をしたショッピングセンターのあるあたりに止めた車から、織田が手を振る。
肩の線で髪を切り揃えたキツい感じのする美人が駆け寄って来る。
織田の相方、深津エリカだ。

 織田はもともと大学を出てから小さなコンピューターソフトメーカーで営業マンをしていたのだが、何を思ったか内務省の地方公安官、セカンドインパクト前でいうところの警察官、つまりお巡りさんになろうと試験を受けた。
どうも会社員当時住んでいた地域の交番に勤務する公安官に助けられ、自分もなってみたいという漠然とした憧れがあったらしい。

 第三新東京市は日本政府とNERVの協定により、治安維持に関しては内務省とNERVの共同管理ということになっている。
第三新東京市の交通行政を全てMAGIに頼っている日本政府にとって、その総本山である第三新東京について警察権限をNERVに与えることは、やむを得ない事情ということなのだろう。
そんなわけで第三新東京市警察本部長は加持が兼任しているのだが、彼にとってはもともと内務省情報調査部にいた訳で、NERVと内務省、双方の仕事が正式に表の肩書きになったに過ぎない。

余談はさておき・・・。

 こうして脱サラ公安官となり、お役所仕事の人事の都合でNERV職員となった織田が初めて配置された時、当時1班と2班に別れていた一係共同で事件にあたって以来、深津とはコンビを組む機会が多かった。
それ以前は1班長の錨田が織田を面倒見ていた。
もちろん今でも錨田ともよくコンビを組む。
場合によっては深津とトリオを組むことも多かった。

「織田君、急に所轄が街に溢れだしたけど、いったいどうなってるのよ?」
「公開捜査」

助手席に乗り込んできた深津は、驚いてシートベルトをかけようとした手を止めた。

「いつから!?」
「本日14時からだってさ。
 エリカさん、なんか掴めた?」
「ぜんぜんダメ。
 もぉ、調べ尽くしたわよ、このへんのお店。
 副司令、結構人気があるのね。
 美人で愛想のいい人だって評判よ」
「誰かさんと反対?」

織田が茶化す。

「一言多い!
 で、何すればいいの?」
「みんなで雲雀ヶ丘一帯の聞き込み。
 三田と水野さんはプレイワールド周辺の一斉検問の応援だけどね」
「で、あんたは何やってる訳?」
「何って、エリカさんのお迎えじゃない」

何を当たり前の事を聞くのかといぶかしむ織田に、深津のきりっとした眉が釣り上がる。

「そうじゃなくて!
 いつまで車止めておしゃべりしてるのかってのよ!
 雲雀ヶ丘行くんでしょ?
 おしゃべりしてる暇があったらさっさと車出しなさいよ」
「あぁ、そういうこと。
 へいへい、今出しますよ、お客さん」

あくまで軽いノリを忘れない織田は、あいかわらずの口調で車を発進させた。


●15時15分

 ゲンドウの家の周り、閑静な住宅街の一角に報道陣が詰めかけ、中継車なども出てきている。
警備のために動員されたパトカーと制服公安官もいるが、物見高い見物客、いわゆる野次馬が出ているためにごった返している。

少し離れたところに車を止めた錨田は、目立たないように私服に着替えさせたシンジとアスカに話しかけた。

「いいか、2人とも。
 犯罪捜査ってのは事件現場が肝心なんだ。
 犯人は必ず事件現場を覗きに来る。
 今いるここなら、司令の家も、副司令が連れ去られた現場も、両方が見えるだろ?」

錨田の説明に合わせてゲンドウの家を見て、振り返って事件現場を見る。

「今日は晩飯まで、とりあえずここで張り込みの練習といこうや。
 ちょいとでもおかしな行動するヤツがいたら、目ぇ離すな。
 特徴をよぉっく掴んどくんだ。
 帰ったらファイルと照合、俺ぁそうやって、何度もアタリ籤を引いて来た」
「「はい」」

その錨田の目に、サウナスーツを着込んだ若い男の姿。
男はゲンドウの家の玄関の方をちらっと見ると、こっちに走って来る。
スッと目が細まる。

「ありゃぁ、今朝も見たな・・・」

錨田と目線が会うと、フッと顔を伏せた。

「碇、惣流、顔上げるな、目ぇ合わすなよ。
 そんでな、コイツの顔、覚えとけ」

横を通り過ぎた若い男を追うように顔を動かそうとしたアスカに、錨田の押し殺した声が飛ぶ。

「バカ、向くんじゃねぇ。
 ミラーだけで追っかけるんだ」

ジョギング男は、事件発生現場でも一瞥をくれると、そのまま走り去った。





ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 はい、第四話をお届けします。
ネタは・・・、とっくにバレてますよね(^^;;;
「踊る大走査線 THE MOVIE 完全版」をベースにしてます。
いや、ひまつぶしにビデオを見ちゃったもので、頭の中が侵食を受けました(^^;

そう言えば「踊る大捜査線」のテレビシリーズの中で、エヴァのBGMとよく似たのが使われてるって知ってました?
BGM番号「E−1」の「 DECISIVE BATTLE 」ですが、フジテレビって昔からアニメのBGMを流用するのが得意ですから、他にもあるかもしれませんね。
そう言えば昔々、テレ朝のニュースステーションで、女子ソフトボール日本代表チームを紹介するビデオを「残酷な天使のテーゼ」に合わせて、カット割りもそれっぽく決めたモノにして流していたことがありましたが、あまりにもうまい出来具合に大爆笑した記憶があります。

さて、例の台詞を言うのは、やっぱり織田2曹?(^^;





次回予告

いよいよ本格的に動き出したNERV。
リツコは、ユイカは無事なのか?
はたしてシンジとアスカは役に立つのか?

次回、第五話 「親と子と」・後編


事件はNERV本部で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!!
 By ?????

でわでわ(^^)/~~