ぱぱげりおんIFのif・第壱拾四話

過去との出逢い・その3



平成14年2月1日校了



 地下に通じるリニアや道路のトンネル開口部は、全て分厚い装甲シャッターが降ろされていた。
道路上に展開した七四式改戦車8輌の120ミリ滑腔砲が、シャッターに指向する。
徹甲焼夷弾の一斉射撃。
最初はびくともしないように見えたシャッターだったが、四斉射目に凹みが発生し、五斉射目にひびが入り、六斉射目にとうとう貫通弾が出た。
一度破れてしまえば脆いもので、その後は一溜まりもなく破壊されてしまった。
焼け焦げてひん曲がった、元はシャッターだった金属屑を乗り越えて、警戒しながらもゆっくりと戦闘車両が侵入を開始した。


 地上から兵装ビルを通じて侵入を果たした普通科(歩兵)中隊は、IDチェックのために自動改札機のようなメカが並んだゲートに到達した。
閉じられた装甲シャッターを前に、爆薬を仕掛ける挺進工兵班の作業完了を、四周を警戒しながら待機する隊列に、壁から迫り出したマシンガンから銃弾がばらまかれる。
轟音と硝煙、悲鳴と怒号、血しぶきと肉片があたりに充満し、やがて静寂を取り戻した時、ゲート前に生命を持った存在は何一つなかった。


 戦車一台がやっと通れる狭さのトンネルの向こうに明りが見える。
どうやらいよいよ大深度地下施設に到達したらしい。
一個大隊64輌の先頭を進む九○式改戦車の車長をも務める大隊長は、隊列全体に停車を命じた。
赤外線、電磁波、レーザー、あらゆるセンサーを使って周辺部を走査し、最後に車長席に設けられたペリスコープから直接目視で慎重に周囲を窺うと、やっと前進を命じた。
キャタピラが地面を食み、装軌車独特の鈍い金属音を響かせ、トンネルの出口を目指す。
ちょうど砲塔が出口に差し掛かった時、頭上から轟音が接近し、砲塔の天蓋を貫通した。
大隊長の体が一瞬にして挽き肉に変り、真っ赤な霧が車内に充満し、床から閃光が走った。
直後、燃え盛る屑鉄と化した戦車を分断するようにシャッターが閉じる。
何事が起ったのか解らずにいた戦車兵達の上から、赤黒いドロドロした物が流される。
それが特殊ベークライトと判った時には遅かった。
高熱を発して化学変化を起すベークライトの硬化は、内部の人間を一瞬にして炭に変え、耐熱性高張力鋼で形成されているはずの戦車の車体を溶かしてオブジェに変え、その内部に閉じ込めた。


 ゲートを守るNERV保安諜報部の武装職員。
刻一刻と変化する状況が、無線を通じて流れて来る。
今のところは、正常に稼働する侵入者防御システムが全てを防ぎ、彼の仕事は無いように思えた。
しかしこんな状況下では、そんな薄っぺらな安心感は、高い代償と共に消し飛ぶことになる。
背後から気配を殺して接近した人影が、彼の口を左手で押さえると、首の前で右手に持ったナイフを横に滑らせたのだ。
空気と液体の漏れだす音がして、真っ赤な噴水が出現する。
手を離すと力なくくず折れたモノを一瞥した男は、無表情のまま装甲シャッターの一斉開放スイッチを押した。
開け放たれたシャッターから、全身黒づくめの兵士達が潜入する。
同じ服を着ていたナイフ男は、指揮官らしき人物に敬礼すると、隊列に入って前進を開始した。


 セキュリティーを統括する部署で10年近くに渡ってオペレーターとして働いて来た女性。
彼女はモニターでゲートの異状を見付けると、すぐさまその映像をかねてから用意していたダミーの物と入替えた。
隣で同じ仕事をしていた同僚が不思議そうにモニターをみつめる。
何も無かったかのように笑みを向けて安心させた彼女は、太股に隠したホルスターからサイレンサー付き拳銃を取りだすと、その同僚に向けて引き金を引いた。
ところが、倒したと思った隣の席の同僚が、撃たれたはずの胸部を押さえながら起き上がる。
制服をめくって、冷笑と共に見せられた防弾チョッキ。
驚きに目を見張る彼女は、部屋の指揮官が自分の額に向けた銃口をじっと見つめた。
轟音と閃光、そして極一瞬の灼熱感と絶望。
彼女がこの世で最期に感じた、それが全てだった。


 どうにかトラップを突破した歩兵大隊が、地底湖横の遊歩道を進む。
身を低く保って警戒しながら、正面に見えるコバルトブルーのピラミッド状のビルを目指す。
誰一人として注意を払っていなかった湖上のフリゲート艦が、密かに砲熕兵装を指向する。
艦首と艦尾の5インチ速射砲が粘着榴弾を発砲する。
2秒に1発の割で発射される発砲炎が、継続されること1分。
200名近くいた将兵は、1トン少々の挽き肉と消し炭に姿を変えていた。


 地底湖の外周道路に姿を現わした74式改戦車の大隊は、壊滅した歩兵大隊の弔い合戦とばかりに、その120ミリ滑腔砲をフリゲート艦に向けた。
艦上構造物中央から白煙が上がり、数発のミサイルが発射される。
それは戦車隊の隊列ではなくその上を目指しているようだ。
それを照準ミスと思ってあざ笑う兵士達の上空で、小玉の打ち上げ花火のような音がし、ミサイルが弾ける。
笑いを凍り付かせた将兵達の頭上に、何百発もの小型爆弾が降り注いだ。
爆炎が晴れた時、満足に戦闘できるような戦車は、一輌たりとも残っていなかった。


 大音響と共に、特殊装甲板の一部を形成する天井都市のビルが落下する。
ぽっかりと空いた方形の空間から、VTOLが次々と侵入する。
フリゲート艦から、地上施設から、次々と発射される対空ミサイル。
突破口が一ヶ所のうちは優勢に見えたNERVの迎撃は、しかし崩落するビル群に潰され、あるいは撃墜を免れた機体の攻撃で沈黙した。
突然フリゲート艦のミサイルが途絶える。
弾倉の全てを撃ち尽くしたのだった。
近接防御用のバルカン砲、主砲の対空榴散弾までも使って攻撃を続けるフリゲート艦に、数発のミサイルが吸い込まれる。
小さな入射口から、褐色の煙が吹きだし、直後にそれが炎に代る。
数秒の後、内部の圧力に耐え切れなくなった船体自体が弾け飛んだ。
煙と水蒸気が晴れた後には、僅かに泡立つ水面のみが残った。


 自衛隊が動きだしてしばらくした頃、突然MAGIがクラッキングを受けた。
ゼーレによって行われた同時多発的なサイバーテロだった。

「相手は世界各国のMAGIコピーです」
「Cモードで対応!」
「防壁を解凍します。
 擬似エントリー展開」
「擬似エントリーを回避されました」
「メインバンクの一部をリプログラムされました」
「緊急防壁展開!」
「防壁を突破されました!」
「擬似エントリーを更に展開」

オペレーター達の手が忙しく縦横する。

見かねたリツコは、ゲンドウを振り返った。
無言の頷きが返って来る。

「全ネットワークを切断!
 物理的に回線を落してしまいなさい!」
「しかし、地上迎撃システムを制御できなくなります!」
「かまわないわ。
 ジオフロント内部の制御系は独立している。
 この際水際迎撃もやむなしよ」

マコトの反駁は、ミサトによって封じられた。

「伊吹2尉、やりなさい」
「はい!
 青葉君、よろしく」
「カウント、どうぞ!」
「3、2、1、ナウ!」

マヤとシゲルの手がキーを握り、ネットワークをログアウトしてシャットダウンする。
クラッキングの状況を表示していたモニターがブラックアウトした。

「クラッキング、停止しました」
「リプログラムされた部分は?」
「メインバンクのうち、保安部のセキュリティーシステム、それと技術部の実験データの一部です」
「すぐにバックアップを書き戻して」
「はい!」

マヤの手がキーボードを操作する。

「待った!
 ウィルス侵入!
 バックアップが侵食されています!」

シゲルが叫ぶ。

「作業中止!
 全部なの?」
「いえ、セキュリティーシステムは正常に書き戻せました。
 喰われたのは実験データです」
「実験データ・・・。
 不幸中の幸いね」

ミサトが安堵の息を漏らす。

「ウィルスは?」
「実験データのバンクを、一つまるまる喰い尽くしました。
 この区画のデータは、バックアップも含めてなくなりました。
 汚染区画を切り離しましたので、これ以上の汚染拡大は避けられますが・・・。
 どうします?」
「戦闘には直接関係ないわ。
 今は侵入者の撃退に全力を注ぎ込みましょう」
「了解」


 クラッキングによる一瞬の混乱、その隙を突いて大量の戦略自衛隊部隊が侵入した。
それまでの抵抗に業を煮やしていた彼等は、怒濤の勢いでなだれ込んできた。
その様子をモニターで見ていたゲンドウは、遂にエヴァンゲリオンの出撃を決定した。

「葛城3佐、エヴァンゲリオン各機を射出、迎撃にあたらせろ」
「は・・・、はい」

沈痛な面持ちで頷いたミサトは、マコトの肩を叩くと、無言のまま目で合図した。

「はい・・・」

マコトはマイクをミサトに渡すと、スイッチを入れた。
サブスクリーンにパイロット待機室の様子が映し出される。
呼び出し音に気付いたシンジが、モニターを見る。

「シンジ君、アスカ、出撃よ。
 すぐにエントリーして」
『はい』

返事をするシンジ。
アスカはじっと俯いたままだった。
二人は、少しでも疲労を軽減するため、と言う配慮からプラグではなく待機室に待たされていた。
シンジはミサトの声に表情を引き締めた。
アスカはぎゅっと下唇をかんでいる。

「アスカ、行くよ」

アスカはシンジの呼び掛けに答えることなく、のろのろと立ち上がると、見向きもせずに待機室を出た。
ゆっくりと廊下を歩く。
ロッカールーム、待機室、ケイジ。
これらの部屋は緊急発進を考慮して隣接しているが、それでも巨大なエヴァを格納しているおかげで、ケイジ入り口まではかなり距離があった。
黙ったまま、かなり重い足取りのアスカ。
そんなアスカに、シンジは何を言えばいいのか見当も付かなかった。
やがて廊下の別れ道。
右へ向かえば初号機、左へ向かえば弐号機。
しかしアスカは、止まることも振り返ることも、何かの言葉を発することすらせずに、左に延びる廊下を歩いて行ってしまった。
その背中に見えた影とプレッシャー。
しかし今のシンジには、アスカを追いかけて何かを告げることすら許されていないのだった。
じっと見送るシンジ。

「シンジ君」

その背中に突然かけられた声。

「加持さん!
 無事だったんですね」

ずっと消息不明だった加持の無事な姿にシンジは、躍り上がらんばかりに喜んだ。

「心配かけたな」

いつもの軽薄そうな笑み。
しかしそれはすぐに消え、打って変わった真剣な眼差しがシンジに注がれた。

「行くのか?」
「・・・はい」

シンジは、出撃のことに触れられたとたんに意気消沈してしまった。

「そうか・・・。
 辛いな」
「同じ、人が相手、ですから・・・」
「しかし、殺らなければこちらが殺られるぞ。
 辛いだろうが、我慢してくれ。
 偽善かもしれんが、今の俺にはこれくらいしか言えない」

そこで加持は、いつもの男くさい笑みを浮かべた。

「アスカとまた、イイコトしたいんだろ?」
「か、加持さん・・・。
 なんでもお見通しなんですね・・・」

一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐにシンジも表情をやわらげた。

「こう見えても、俺はアスカの保護者なんでね。
 辛いついでだ、アスカのこと、頼むぞ」
「はい。
 でも、加持さんは?」
「俺はまだやることがある。
 それに、ミサトのこともあるしな」
「わかりました。
 じゃぁ、僕、行きます」
「あぁ、がんばれよ」
「はい!」

シンジはぺこりと頭を下げると、急に駆けだした。
今まで、どんなことがあっても、外見上はともかく、急いでエヴァを起動し、一刻も早く戦闘に参加しようなどと一度たりとも考えたことのなかったシンジの、その打って変わった様子に、技術部や整備部の職員達が目を見張る。

「初号機、出ます!
 お願いします!」
「お、おう!」

元気よく声をかけてプラグに飛び込むシンジに、半ば戸惑いながらも返事をした職員達が、その勢いに巻き込まれたように動きだす。
いつもよりもかなり短い時間でエントリーから起動までを済ませたシンジは、弐号機の様子を窺うと、起動が完了するのを待った。
小さなシュチュエーションモニターが弐号機が起動したことを表示すると、シンジはすぐに回線を繋いだ。

「アスカ・・・」
『・・・・・・・・・』
「アスカ」
『・・・・・・・・・』
「アスカ!」
『・・・・・・・・・』
「アスカっ!!」

それまで押し黙って俯いていたアスカが、モニターを見た。

「アスカ、聞いてる?」
『シンジ!』
「僕は大丈夫だから。
 必ず帰って来るから。
 だから、アスカも必ず生きて帰って来て。
 また二人で一緒にあの部屋に帰ろうよ。
 そうだな、今晩のおかずのリクエストでも考えててよ」

アスカのプレッシャーのかかりようは尋常では無い。
待機室や廊下での様子にシンジは、まるでアスカがそのまま消えてしまいそうな危機感を覚えた。
案の定、アスカは弐号機に乗り込んでもなお、いつもの彼女からは信じられないくらい青い顔をしていた。
やっと、晴れて恋人同士として過ごせると思った矢先のことなのに、こんな別れ方はしたくなかった。
だからシンジは、戦闘中の私語の禁止というルールを破ってまで、アスカに呼び掛けた。
アスカの緊張感をやわらげてやりたかった。
なんとかして、彼女と共に生き残りたかった。
それがこの、一見ふざけたような台詞を言わせた理由だった。

『・・・・・・・・・ハンバーグ!』
「え?」

モニターの中のアスカが顔を上げる。

『アタシ、アンタが帰って来るまで、ハンバーグ食べないで待ってるから。
 アタシの好物なんだからネ。
 取り上げたりしたら、承知しないわよ!』
「解ったアスカ。
 約束する」
『あぁもぉ!
 出撃前に背中がかゆいことすんなッちゅうの、このバカップル!
 ほら、シンちゃん、アスカ、とっとと出撃!』

小さなモニターが開き、ミサトの恐い顔が映る。
といってもミサトも、シンジのアスカへの想いを、シンジなりの配慮を無駄にしないためにも、まるでコンフォートマンションのリビングにいるような喋り方で、無理やり明るく振る舞っていた。
アスカにも、二人の心づかいが痛いほど解った。
だから彼女も、それに調子を合わせた。

『ミサトォ!
 もしかして、焼いてんの?』
「アスカ、大丈夫。
 ミサトさんには加持さんがいるんだから」
『シンちゃん!』
「はいはい。
 出撃でしょ?
 いつでもどうぞ」
『ったくもぉ!
 司令に代って、お仕置きよっ!』

ミサトの叫び声と同時に、初号機と弐号機が勢いよく射出された。
ジオフロント内への射出だったため、リニアエレベーターから開放されるまでの時間は驚くほど短かった。
射出口に到着する寸前に拘束具を解除してリフトオフしていた二機のエヴァは、そのままの勢いで飛び出すと、既に手にしていたパレットライフルを乱射した。
VTOLが、戦車が、歩兵が、人の常識からすればとんでもない大口径高初速のライフル弾を受け、瞬時に爆発し、炎上し、飛散する。
見る物に恐怖心を抱かせるという設計コンセプトが、特に如実に現れた初号機の外見は、荒れ狂う紫の巨大な鬼神が禍々しい災厄をまき散らしている、という印象を戦自隊員にもたらした。
着地した初号機はそのまま戦車隊の隊列に躍り込んだ。
弐号機はいったん下がるとアンビリカルケーブルを付け、バズーカを受け取ってから、初号機と反対方向に展開していた部隊に向かって突撃した。
戦自の反撃は、全力で展開したATフィールドに阻まれて届かない。
こうなって来ると、それは対等の戦闘というよりは、虐殺と表現した方が良くなって来る。
形勢の不利を悟った地上部隊は、算を乱して撤退に移った。

「逃がすかぁっ!」

ズババババババババババババババババババババババババァ〜〜〜〜〜ン!

引き金を引きっぱなしにしたライフルの射撃がやむ。
地上部隊の撤退を援護すべく、VTOLが寄って来る。
攻撃態勢に入ったVTOLに、弾倉が空になったライフルを投げつけた。

バキィッ!

「一つ!」

すぐに上げられて来た代りのライフルを受け取り、別のVTOLを攻撃する。

「二つ!
 次、三つ目!!」

初号機の背後では弐号機も同じように、うるさく飛び回るVTOLを次々と叩き墜としている。
シンジは目の端で、そのうちの一機がアンビリカルケーブルを狙っていることに気が付いた。

「させるかぁっ!」

手近にあったVTOLの残骸を投げつける。

『ダンケ!
 7つ!』
「ヤー、フロイライン。
 四つ!」
『バカ、後ろっ!』

今度は初号機の背中を狙ったVTOLを、弐号機のバズーカが鉄屑と炎の固まりに変える。

「ダンケーシェン、っと、五つ目」

振り向きざまに、弐号機の隙を窺って背後に迫ろうとしたVTOLを、バズーカの砲身で叩き潰す。

『8つ!
 アンタ、ドイツ語なんてどこで覚えたのよ!
 これで9つ!』
「加持さんが、挨拶くらい覚えとけって!
 最後!」

シンジのライフルが爆砕した通算15機目のVTOL。
それを最後に、ジオフロント内に戦略自衛隊はいなくなった。

『上空に弾道弾!
 弾数20!!』
『どこから!?』
『太平洋上、戦略原潜と思われます!』
『艦隊じゃないの?』
『艦隊は先程撤退しました』
『どういうことよ?』
『富士の広域レーダー以外が使えないので詳細は判りません』
『弾道弾間もなく着弾します!』
『アスカ、シンジ君、隠れて!』

太平洋上に浮上したタイフーン級戦略原潜から全力発射された弾道弾。
その弾頭部には、N2弾頭が搭載されていた。
ミサイルが、第三新東京が蒸発してできた新芦の湖に次々と着弾する。
最初の2発が水を蒸発させた。
残りの18発が、新たな湖水が流入する前に湖底部を形成する特殊装甲板を剥がした。
爆風と熱風が吹き込み、全ての視界を奪う。
爆炎が晴れた時、天蓋部に巨大な穴が開き、ジオフロントから本物の空が見えた。
開口部の縁からは、芦の湖の水が滝というよりは雨のように流れ込んでいる。

『広域レーダーに反応、接近する飛行物体、8つ』
『何物?』
『かなり巨大です・・・。
 今、上空。
 あ、何かが分離しました!』

その様子は、直接空を見上げるエヴァからも伺えた。
何か白いものが巨大な黒い機体から離れると、すぅっと降下して来る。
それは上空で鳥のような羽根を展張すると、N2弾道弾の爆発で立ち上る上昇気流に乗って、まるで獲物を狙う鳶のように優雅に円を描いて舞いはじめた。

『エヴァシリーズ!』
『完成していたのっ!?』

発令所に、シンジとアスカの驚きの声がこだまする。
目の前で腕を組んでじっと見詰めていたゲンドウは、この戦闘が始まって以来始めて口を開いた。

「エヴァ各機、あれが最後の敵だ。
 あれはゼーレが直接送り込んで来た、サードインパクトを起すための尖兵だ。
 それを阻止するのが、お前たちの最後の任務だ。
 必ず勝て。
 勝って、生きて帰って来い!」
『父さん・・・?』

スクリーンの中で戸惑いの表情を見せるシンジ。
しかしゲンドウは、それに答えることもなく席を立った。

「先生、後をお願いします」
「碇、まさか、あれを使うのか?」
「他にありますか?」

ふっと笑って眼鏡のズレを直したゲンドウは、冬月の次の言葉が来るのを待たずに、リフトを降ろした。


 上空を舞っていた量産型エヴァ。
初号機と弐号機が武器を構えた。
パレットライフルやバズーカが有効とは思えなかったことから、少しでも強力な武器をという配慮で、初号機にはポジトロンスナイパーライフルが、弐号機にも改良型ポジトロンライフルが持たされていた。
特に初号機のライフルは、エヴァ用の外部電源ケーブルを使ってエネルギーを供給しているため、ヤシマ作戦ほどでは無いにせよ、かなりの高出力を持っていた。
そのライフルを構え、悠長に円を描き続ける量産機に狙いを付けた初号機が、引き金を引き絞る。
銃口から放たれた光芒が、量産機に到達する。
これだけの至近距離では、さしもの量産機も一溜まりもなかった。
光芒の奔流に巻き込まれた2機が一瞬で蒸発し、もう1機が片翼を吹き飛ばされて墜落する。
集中力を高めたシンジと、気力を振り絞ったアスカのおかげで、量産機のATフィールドが中和されてしまっていたのだ。

『これならいけるわ』

アスカも射撃を開始した。
片翼を失って石のようにまっ逆さまに降下する量産機を、真下から串刺しにする。
コアを直撃された機体が爆発した。
上空に留まることを不利と悟った量産機は、次々と降下を始めた。


エヴァ同士が戦闘を始めた頃、ゲンドウは大深度地下のダミーシステムのメカが置かれた部屋に来ていた。
そこには、いつの間に発令所を離れたのか、リツコの姿があった。

「どうだ、使えるか?」
「データはあまり芳しくはありません。
 しかし、少なくともこちらのコントロール下に置けることは間違いありません」
「それで十分だ、出撃させるぞ」
「しかし・・・」
「このまま老人共に利用されてサードインパクトを起されるより、遥かにマシだ」
「はい・・・。
 レイ、出撃よ、いいわね?」

返事をしたリツコは振り返ると、シリンダーの中に入って目を閉じていたレイに話しかけた。

「はい、行きます」

目を開けたレイは、無表情のまま答えた。
スイッチ操作でLCLの循環が止められ、タンクに返される。
空になったシリンダーがせり上がり、レイが外に出て来た。

「レイ、時が来た。
 行くぞ」
「はい」

ゲンドウはレイの前に立って部屋を出た。
廊下を進み、扉の前。
ゲンドウはカードをスリットに通すと、扉を開いた。
広い部屋には、十字架に架けられた白い巨体、第弐使徒リリス。
南極の地下空洞でアダムが発見されたように、この第三新東京地下のジオフロントには、リリスがいたのだ。
発見当時、リリスはコアを持たなかった。
それを発見したのは、まだ幼かったシンジだった。


 両親に連れられて来たジオフロント。
父は実験施設に篭っていたし、散歩に連れて来てくれたはずの母も、今は別の職員と難しそうな話をしていた。
草地に生える花に止まった蝶に手を伸ばすシンジ。
間近に迫った指に危機を感じた蝶が飛び立つ。

「あぁあ・・・」

飛んでいく蝶を追って口惜しそうな声を出したシンジだったが、ふと手を止めて、森の奥を見た。
誰かに呼ばれたような気がしたシンジは、森の奥によたよたと歩いて行った。
そして、少し入った所にそれはあった。

「きみはだぁれ?」
『リリス』
「りぃりぃしゅ?」

鈍い赤い光りを放つ小さな球。
小首を傾げたシンジは、それを拾い上げた。

「シンジ、シンジ?」
「あ、おかぁたんがよんでる」

小さな掌がいっぱいになったそれを持って、シンジは母親の所に戻った。

「あらあらあら、こんなにドロドロにしちゃって・・・」

森から出て来た、服のあちこちに土や枯れ葉をくっつけた姿に、ユイは思わず笑みを漏らすと、ぱたぱたと汚れを払ってやる。

「おかぁたん、こりぇ」

誇らしげに両手を差し出したシンジ。
その掌に載せられた物に目が行く。

「まぁ、奇麗ねぇ。
 どうしたの、これ?」
「ひよったぁ。
 りぃりぃしゅっていうの」
「り、りり・・・・、!」

ユイの表情が一変した。

「シンジ、これ、お母さんがもらってもいい?」
「うん!
 あげゆぅ!!」

にかっと、自分としては最上級の笑みで元気よく答えるシンジ。

「どうやって見付けたの?」
「ぼく、よばれたよ」

ユイは愕然とした。
自分がこのプロジェクトに参加しているのは、使徒、特にリリスとの遺伝子の親和力が高いというデータがあったからだ。
シンジ達の世代には、実験で得られた成果を残すことで、幸せになってもらうことだけを願っていたユイだったが、被験者にさせてしまうことは考えたこともなかった。
どう見てもコアに違いない物を拾った、しかもそのきっかけは呼び掛けに答えたからだ、と言うことは、息子のシンジまでもが自分と同じ資質を有しているということを意味する。
それに思い至ったユイは、居ても立ってもいられなくなった。
シンジを連れ、すぐさま研究所に戻ったユイは、託児所にシンジを預けると、真っ直ぐゲンドウのところへ向かった。

「ユイか・・・、もうすぐ終わる。
 シンジと待っていてくれるか?」
「それどころじゃありません」
「どうしたんだ?」

ユイのただならぬ態度に、ゲンドウはいぶかしんだ。

「これを・・・」

白衣のポケットから出された物を見たゲンドウの目が細まる。

「コアか・・・」
「リリスのモノです。
 シンジ、が見付けました・・・」

ユイの厳しいもの言いに、ゲンドウの目が見開かれる。

「なんということだ・・・。
 お前の資質を、あれも受け継いでいるのか・・・」


 全てのエヴァはリリスから作られた。
最初は、遺伝子操作によって個体を直接分離する方法とクローンニングと、両方が試された。
クローンニングはすぐに成果があらわれ、それが零号機となった。
しかし直接分離の方法はなかなか成果が上がらず、大深度地下実験施設には、失敗したエヴァの骸が累々と転がる結果となった。
ある日、一人の職員が思い付きで試した方法が、実験に大きな前進をもたらした。
それはリリスと親和力が高いとされる被験者の遺伝子を抽出し、分裂させた個体に移植することで、リリスではなく別の個体としてしまおうというものだった。
そのための被験者として選ばれたのは二人、碇ユイと惣流キョウコ・ツェッペリンだった。

「リリスの分裂、始まりました」
「被験者の遺伝子、分裂体へのダイブを確認」
「分裂体、自我境界線の形勢を確認」
「生体パルス、安定しています」

最初はゆっくりと分裂を始めたリリスだったが、被験者の遺伝子が注入されたとたん、急速に分離、外形を整えはじめた。
分裂完了から3時間、変化は現れない。

「依然安定、拒絶反応もありません」
「実験は成功です」

こうして、初号機の素体が完成した。
初号機の被験者は、ユイだった。
これ以降、初号機に関する実験は、全てユイが被験者となることが決まった。


 弐号機は少し違った建造方法がとられた。
個体自体はクローンニングで作り、そこに被験者の遺伝子を注入しようというのだ。
こちらはキョウコが担当することになった。


 黒塗りの高級セダン。
そこから二人の男に連れだされた子供。

「今日からお前はここの子だ。
 判ったな、シンジ」
「おとうさん・・・、おとぉさぁん!」

言いたいことだけを言って背を向けた父に、シンジは縋り付こうとした。
しかしそれは、里親をひき受けた夫婦によって引き止められた。
あらんばかりの声をあげて泣き叫ぶシンジを背に、ゲンドウは無表情のまま車に乗り込んだ。

「碇、本当にいいのか?」
「かまいません。
 シンジはコアを見付け、使徒との親和力の高さを見せました。
 このまま手元に置けば、いずれ被験者として実験材料にしてしまうことになるでしょう。
 私は、それを平然と受け入れることはできません」
「しかし、あんなに幼いうちから親元を離れるというのは・・・。
 ただでさえユイ君とあんな別れ方をしたばかりじゃないか」
「これは、ユイの望みでもあるのです」
「解っている。
 そうでもなければ、里親を紹介したりするものかね。
 私は今でも認めたつもりは無いぞ、君達のことを」
「解っていますよ、冬月先生」

ユイが事故で初号機に取り込まれ、シンジはユイに代って新たな被験者としての可能性がある。
そんな生活の中、どうやってシンジと接すればいいのか、ゲンドウはその術が思いつかなかった。
父親として、ゲンドウにはその日々を耐えられる自信がなかったのだ。
接触実験の日、半ば取り込まれることを予想していたのだろう、ユイはゲンドウと冬月に宛て、それぞれ置き手紙をしていた。
ゲンドウには、

『人はどこにいても幸せになれる。
 生きてさえいれば必ず幸せになれる。
 この世の素晴らしさをあなたに、そしてシンジに』

そして冬月には、たった一言、

『先生、シンジのことをよろしくお願いします』

と書かれた手紙。
だから冬月は、ゲンドウからシンジを手放すことを相談された時、過去の教え子の中から信用できる人物を探して、里親として紹介したのだ。


「実はこれ、エヴァの中で母さんに教えてもらったんだよ・・・」
「エヴァの中って何や?」
「話が飛んじゃったね・・・。
 今から話すよ」


 編隊を解いて散開した量産機が急降下して来る。
速射性の低いスナイパーライフルを構えていた初号機は、量産機の一機に一撃を食らわせると、ライフルを捨てて大型のソニックブレードに持ち替えた。
弐号機は弾の続く限り量産機を狙撃し続けたが、直撃を食らわせることはできなかった。
代ってソニックグレイブを手にすると、降下して来る量産機めがけてダッシュした。
着陸の瞬間を狙った攻撃で、一機が首を刎ねられて倒れる。
シンジは別の背を向けて着地した量産機の背中に斬り付けた。
エントリープラグとコアを袈裟懸けにされた量産機は、そのまま倒れるとぴくりともしなくなった。
返す刀で、ポジトロンライフルの最後の一撃で片腕を飛ばされていた機体に斬り付ける。
しかしその斬撃は、量産機が手にしたサーフボードのような平べったい武器で受け止められた。

「やるな、こいつ!」
『ウソっ!』

突然、アスカの叫び声が飛び込んできた。
何事かと見ると、首を刎ねられたはずの量産機が再生して立ち上がっていたのだ。

「アスカ、コア、コアを潰すんだっ!
 うわっ!」

シンジがアスカに気を取られた隙に、斬り結んでいた量産機が、手にした武器で胴を払って来たのだ。
大きく跳ね飛ばされた初号機は、地底湖に突っ込んだ。

ドカッ、ドカドカドカドカァン!

水中に落ちた初号機を、水中爆発が取り囲んで翻弄する。
戦自が撤退まぎわに仕掛けていった爆雷だった。
とんでもない力にシェイクされたシンジは、気を失ってしまった。


「シンジ君、シンジ君!」
「機体、パイロット、共に無事です。
 気絶しているだけのようです」

ズズゥ〜〜〜〜〜ン!

腹の底から響くような振動に、発令所が揺れる。

「ナ、何、今の!」
「第七ケイジです!
 戦自が時限爆弾を仕掛けていたようです!」
「そう、今は放っておいてもいいわね。
 それより初号機は?」
「依然状況に変化ナシ」
「強制蘇生!」
「はい!
 ・・・ダメです、届きません!」
「ナンですって!?」
「今のでどこか通信系に被害が出たようです」


 ポジトロンライフルで屠った3機、シンジが斬り伏せた1機、合計4機。
残るは4機の量産機。
しかし初号機が地底湖内で活動停止してしまい、今使えるのは弐号機だけだ。
アスカにとって最大の試練が訪れようとしていた。


 ゲンドウは、左手を伸ばすとレイの前に差しだした。
レイはそこに埋め込まれたアダムに左手をかざす。
ゲンドウの手から浮き上がったアダムが、レイの手に移し変えられる。
それを確認したレイは、それまで誰にも見せたことがないような優しげな笑みを浮かべると、ゲンドウに話しかけた。

「行きます」
「頼んだぞ、レイ・・・、いや、ユイ」
「はい、ゲンドウさん」

レイは胸の前に、何か大事なものをそっと抱きしめるように両手を当てた。
そこを中心に広がる光。
ゆっくり浮き上がった光球が、リリスの前に行くと吸い込まれるように同化した。
それまで、ただの不細工な人型の、ぶよぶよした白いカタマリでしかなかったリリスに変化が現われる。
徐々に変形したリリスの外見は、まるでエヴァのようだった。
浮き上がるように十字架を離れたリリスは、そのままセントラルドグマから出ると、シャフトを登りはじめた。


 発令所のモニターのうち、彼我の識別と状態を示す物がある。
今までは2機のNERV側エヴァと、4機の量産機だけが表示されていたのだが、そこに新たな表示が現れた。

「何よ、このゼロエックスって・・・」
「エヴァよ」

いつの間にか戻っていたリツコが答える。

「エヴァって、2機だけじゃなかったの?」
「あれは究極のエヴァ、言ってみればオリジナルエヴァよ」

モニターにもジオフロント内部に現れた、元はリリス、そして今はゼロエックスと呼ばれるものが映し出された。

「あれが・・・、ゼロエックス」

ミサトは呆然として呟きを漏らした。


 第三新東京市上空に接近する、巨大な機影があった。
通常のウィングキャリアーよりも一回り大きい。
牽吊されたエヴァも、合せるかのように大きいようだった。
その背面に、エントリープラグが挿入され、目が光る。
キャリアーから投下された機体は、量産機と同じように翼を広げると滑空を始めた。


 ゼロエックスは新たな敵を察知すると、一直線に空を駆け登った。
その姿は南極で目撃された光る巨人に酷似していた。

「まさかあれって・・・?」
「そうだ葛城3佐。
 南極での実験が成功すれば、あれを手に入れられたはずだった。
 その失敗が引き起こしたのがセカンドインパクトだ」

自分の席に戻ったゲンドウが答える。

「欲張らずに、当初の計画通り胎児の状態に還元するだけでとどめておけばよかったのだ。
 妙な気を起し、結果としてアダムの封印に、予測を遥かに上まわるエネルギーが必要になった。
 本来ならば、南極のジオフロントの天蓋がふっ飛んでクレーターができる程度のはずだった。
 それがこのありさま・・・。
 私にせよ碇にせよ、やっていることは、いわばその贖罪だ」
「勝手な言い分を!」

冬月のあくまでも冷静に淡々と話す態度は、父に対する複雑な想いをずっと拭えずにいたミサトの心に火をつけた。

「言いたいことは、全てが終わってからいくらでも聞こう。
 今はまず、目の前の敵を叩くことに専念したまえ、葛城3佐」

ゲンドウの珍しくも譲歩を示した指示に、ミサトは納得せざるをえなかった。
今の戦況は、それほどまでに余裕のないものだったのだ。

「ところで赤木博士、あれは誰が操縦しているのかしら?」
「レイよ。
 いえ、操縦というのは正確ではないわね・・・。
 あれはレイそのものよ」
「じゃぁ、あれは元はリリス・・・?」
「そう、地下の白い巨人よ、葛城3佐」


 4機の量産機がじわじわと弐号機を取り囲む。
乱戦の中で弐号機は、アンビリカルケーブルを失っていた。
活動限界までの残り時間は、3分を切っている。

「やってやろうじゃないのよっ!」

先に仕掛けたのはアスカだった。
弐号機がダッシュし、一番近い所にいた量産機に切りかかる。
手にした武器で払いに来た量産機の間合いに飛び込む直前、弐号機はジャンプした。
上空で捻りを加えて着地した弐号機は、目の前に広がった背中にグレイブを突き立てた。
確かな手応え。

「ウソっ!」

しかし串刺しにされた量産機は、信じられないことに突き出たグレイブの柄を掴んで引っぱったのだ。

「きゃっ!」

バランスを崩す弐号機。
腹部にグレイブを刺したままの量産機が、手にした武器を大上段に振りかぶる。

「ナンでヤリがッ!!」

量産機の構えた武器が赤く変色し、しゅっと伸びたのだ。
その姿は月面にあるはずのロンギヌスの槍に他ならない。

ダン!

腕を振って地面を叩いた反動で身をよじった弐号機は、勢いのままに転がった。
槍は空しく地面をえぐる。
弐号機を起こしたアスカは、全ての量産機がロンギヌスの槍を構えていることを知って愕然とした。

「そんなバカな!」

頬を抓り、叩き、目を擦っても、しかし現実は変わらなかった。

「ミサトっ!
 何であいつらが槍を持ってるのよっ!?」
『こっちも予想外よ。
 多分ゼーレでコピーしてたのね』
「対抗する方法は!?」
『・・・・・・・・・無いわ』
「そんなっ!」

ギン!

通信を続けながらもアスカは、次々と繰り出される槍を払い続けた。
悲壮な空気が発令所を支配する。
誰もが弐号機の喪失と、アスカの死を受け入れたかのような雰囲気だった。
しかしその空気を引き裂くように怒声が飛んだ。

「バカ野郎っ!
 こんな事で諦めるなっ!」
「加持!
 今までどこにっ!?」
「そんなことは後だ!
 葛城、地底湖に爆雷を放り込め!
 シンジ君を叩き起すんだ!!」
「日向君!」

マコトの手がスイッチを叩く。
発射されたロケット弾が着水すると、小さな水しぶきが上がった。


 腹に響く爆発が連続する。
さんざんに揺さぶられた初号機、その中でシンジは、ようやっと目を開けた。

「あれ、ここは・・・?」
『シンジ君、シンジ君!』
「ミサトさん・・・、いったい僕は・・・」
『説明は後よ!
 アスカが苦戦してるの、今すぐ救援に行って』
「はい!」


 ジオフロントの天蓋を出たところで、降下して来た大型エヴァとゼロエックスが対峙した。
しばらくのにらみ合いの後、お互いに手を伸ばす。
掌から光る槍が伸び、お互いの機体に到達する直前、オレンジ色に光る壁に阻まれた。
間髪を容れずに目が光る。
しかし飛んだビームは軽く首を傾げただけで躱される。
今度は腕を振ると、そのまま触手状に伸びて相手を打ち据える。
それはもう一方の手で軽く受け止められてしまった。
お互いにスッと間合いを取ると、両掌を相手に向けて付きだす。
そこに光が集中し、相手に向かって伸びた。
それは中央で互いに交錯し、干渉し合って軌道を変えると、ぜんぜん別の方向に飛び去っていった。
そのまま上空へ舞い上がった2機は、するすると変形して平べったくなると、頭部にあたる部分で大きく口を開いた。
鋭いキバが並んだ口と口がぶつかり、何本かが折れ飛ぶ。
一度斬り結んだだけで間合いを取り直した2機は、そのまま接近すると片腕を触手状に伸ばして斬り掛かった。
双方ともに胴部を払い、真っ二つになる。
しかし別れた部分は、それぞれが同じ形態になると、今度は2対2でぶつかり合った。
ヒラメのような形の4機がぶつかり合い、尻尾で互いを打ち据える。
腕を振るうと、先からオレンジ色の液体が飛んだ。
付着した部分から煙が上がり、苦しげにのたうちながら半身と融合する。
再び近距離で対峙した2機の手が伸び、相手の腕を捉えた。
掴まれた部分が赤黒く変色し、それがじわじわと広がる。
やがて金色に輝いたそれが、閃光を放って消えた。
腕を振りほどいて大きく間合いを取った2機は、球形に変形すると接近して、そのまま融合した。
しかしすぐに表面にひびが入り、真っ二つに割れると別れて対峙する。
もう一度人型に戻った2機が、プロレスの力くらべのように手を組んだ。
双方の手から粘液質の何かが広がり、互いの手を侵食する。
汚染された部分が、双方同時に切り離された。
切れた手の先が瞬時に再生する。
目が光り、ビームが走る。
それと同時に板状に伸びた腕がお互いの腕を斬り飛ばした。
全く同一の動きで攻撃と防御を繰り返す両機。
しかし、ついに変化が訪れる。
大型エヴァが白色光を投げかけたのに対して、ゼロエックスは細いひも状に変形すると、光線をかいくぐって大型エヴァの腹部に接触し、融合した。

「やはり、あなただったのね・・・」
「結局はこの姿が一番やりやすいね」

順当に、相手がいったい何を考えているのかを知ろうとした大型エヴァと、一気に直接対決を望んだゼロエックス。
双方いずれのものか判然としないながら、別次元の空間で二人は、直接に対峙していた。

「何をしに来たの?」
「シンジ君を守りに、さ」
「ダブリス、あなたが碇君に与えた痛み・・・。
 それをいまさら・・・、虫がいいとは思わないの?」
「勘違いしないでくれるかな。
 僕がここに来たのは君を止めておくためだよ、リリス」
「私を?」
「そうさ。
 シンジ君は、守るべきものを手に入れた。
 そして彼は強くなった。
 彼の今の姿は、本来目指すべき人類の姿じゃないのかな?
 これこそが、本当の人類の補完だと思わないかい?」
「それと私が、何の関係があるの?」
「君の中にあるシンジ君への想い。
 それは、シンジ君と彼女の間にあってはいけない物だよ」
「あなたも勘違いしているわ。
 確かに私は碇君を好き・・・。
 でもそれは恋愛じゃないわ。
 この体をくれた人の想い、それこそが私の想いよ」
「母の愛か・・・。
 リリンの心は複雑だね」
「それこそがリリンの本当の力なのよ。
 複雑な心と、触れ合いと理解。
 ゼーレの人達の考える独善的な世界とは違うわ」
「あの老人達か・・・。
 僕も彼等の考えだけは感心しなかったな」
「しなかった・・・?」
「そう、もう過去のモノさ。
 彼等のことは、始末を付けてから来たよ」
「そう・・・」
 ところであなたはどうするの?」
「もう還るよ。
 これ以上僕が、シンジ君にしてあげられることはないからね。
 君があの二人を邪魔しないと解った以上は。
 ところでリリス、物は相談なんだけどね。
 この機体、君が預かってくれないかな」
「いいわ」
「ありがとう、助かるよ。
 このまま還るんじゃ、重いからね。
 それじゃぁ」

カヲルの姿がふっと掻き消える。
レイも飛ばした意識をゼロエックスに戻した。
一部が融合したままのゼロエックスは、そのまま一気に侵食すると融合、変形して元の姿を取り戻した。
空中には、ゼロエックスだけが残った。


 量産機に囲まれて斬り結ぶ弐号機。
身体能力と精神力でどうにか均衡を保っていた状況に、大きな変化が出た。

ピーーー!

内蔵電源を使いはたした弐号機が、活動を停止した。
ガクンと震えて動きを止めた弐号機に、いやらしく口を歪めた量産機がにじり寄る。

「せっかくやったのに・・・、ここまでなの、ヤだな・・・。
 シンジ・・・、アタシ、だめだったみたい・・・」

『僕のアスカに触るなぁっ!』

「シンジっ!」

初号機は先に倒した量産機の持っていた槍を、ワンアクションで弐号機を囲む量産機に投げ付けた。
一機が串刺しになり、そのまま活動を停止する。

その隙に驚くべきスピードと勢いで駆け付けた初号機は、弐号機を抱えるともう一度ジャンプした。

『何してたのよ、バカ』
「ゴメン、アスカ・・・。
 あとは僕がやるよ。
 ここで見てて」
『大丈夫なの?』
「大丈夫。
 イッヒ、リーベ、ディッヒ、アスカ」
『ば、ばかっ!』

モニターの中で真っ赤になって俯くアスカに笑みを漏らしたシンジは、極力ショックを殺して初号機を着地させた。
量産機達から充分に離れた場所に弐号機を降ろすと、再びジャンプ。
追って来た量産機とすれ違いざまに一太刀交える。
初号機を強敵と認識した量産機は、方向転換すると後を追った。


「全く・・・、いっつもゴメン、なんだから、コイツは」
「うん・・・、ゴメン・・・」
「ほらまたぁ!」

アスカがこつんとシンジをはたく。
それが爆笑を誘った。

「お前ら、変んないよなぁ・・・」
「時間なんて、あまり関係ないのね」

ケンスケの呟きにヒカリも苦笑を浮かべた。





ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 はい、第壱拾四話をお届けします。


 今回は四部構成(予定)の第三回目です。
そんなわけで、もうちょっとこの話にお付き合い下さいm(__)m





次回予告

 初号機対量産機、エヴァ対エヴァの戦い。
激戦の最中、隙を見て弐号機を攻撃する量産機。
シンジの怒りは頂点に達する。
その戦いが、今の全ての状況を造り出した。


次回、第壱拾五話 「過去との出逢い」・その4


酷い話だよなァ・・・ (__;)/
 By Kensuke Aida

でわでわ(^^)/~~