ぱぱげりおんIFのif・第壱拾五話

過去との出逢い・その4



平成14年3月3日校了

全世界の女性たちの御多幸と御健勝をお祈りして・・・



 一対三。
逆に、エヴァと使徒が三対一という比率はあった。
しかしエヴァ一機に対して敵が三倍というのは、NERVにとっては初めての数字だ。
つまり今は、量産機3機に対して、初号機のみが戦っているということだ。
加えて、少しでも足しになればという縋る想いで、不安定なのを承知で新たに投入したゼロエックスは、正体不明の敵機を迎撃するため外に出たきり、様子が判らないでいた。

「圧倒的に不利ね・・・」

ため息混じりに呟くミサト。

「葛城、指揮官がそんな顔をするな。
 こんな状況で頑張っているシンジ君に悪いと思わないのか?」
「そ、それはそうだけど・・・」

見つめるメインスクリーンには、あいかわらず互角の戦いをする初号機の姿が映し出されていた。
手元のモニターを見ていたシゲルが叫び声をあげた。

「こ、これは・・・!
 倒したはずの1機、再起動してます!」
「なんですって!?」

サブスクリーンに、槍を腹部に刺したままの量産機が立ち上がる様子が映し出される。
腹部の槍に手をかけると、ぐいっと引き抜いた。
ゆらぁっと幽鬼のように歩く量産機の先には、まだ回収班も出ることができずに、アスカを乗せたまま活動停止している弐号機がいた。

「いけない!
 弐号機が!!」

シンジは弐号機から距離を取り、敵を全て引きつけることを優先していた。
それが仇となったのだ。

「させるかぁっ!」

マヤの声に事態を知ったシンジは、すぐさま初号機をジャンプさせようとした。

ガキン!
ドシャァッ!

量産機が振るった槍が初号機の足を薙ぎ、バランスを崩して地面に叩き付けられる。

「なぜ出て来るんだっ!」

身を起した初号機は、その量産機に蹴りを食らわせると、反動を利用してダッシュする。
しかしシンジの目の前で、再起動した量産機の槍が、ザックリと弐号機を貫いた。

『ギャァァァァァァァァァァッ!』

アスカの悲鳴が、心の中に直接響く。

「アスカァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

刹那、シンジの心が弾けた。
プラグ内に虹色の光が充満する。

ふぅぉぉおおおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!

それに呼応するように、カッと目を光らせた初号機が咆哮する。


「僕はこの後、あまりよく覚えてないんだ。
 だから、アスカ、続きを話してよ」
「OK、シンジ」


『初号機のシンクロ率、急激に上昇!
 150、198、267、このままじゃ!』
『シンジ君、シンジ君、落ち付きなさい、シンジ君!』


初号機は、弐号機に危害を加えた量産機を後ろ手に捕まえると、そのまま腕をねじり上げた。

ギ、グギギギ、ギッ、ベキン!
ブゥン!
ビシャァッ!

ねじ切られた腕が、近付いて来た他の量産機目掛けて投げ付けられる。
初号機の腕が、もがく量産機の頭をがっちりと捉まえた。

グ、ガキ、キ、キュ、グシャァ!

そのままヘッドロックを掛けた腕が閉まり、頭を捻り潰す。
力が抜けダランとたれ下がった量産機の体を地面に叩き付けた初号機は、その上に馬乗りになった。

ビシャ、ブチブチブチ、ビキ、ベシャ
ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン!

胸部装甲板が剥がされ、コアが露出する。
初号機はコア目掛けて何度もナックルを振り下ろした。

ビキビキビキ、バキン!

やがて表面にひびが入ったコアは、真っ赤な破片になって砕け散った。

ふっ、ふごっ、ふぉっ

荒い息を突いた初号機は、弐号機の腹部から槍を引き抜いて投げ棄てると、仲間の仇を取るべく接近して来た量産機に踊り掛かった。


『初号機のシンクロ率、360を突破、まだおさまりません!』
『このままじゃ、第壱拾四使徒のときと同じよ。
 リツコ、何とかならないの?』
『外部コントロール系がほとんど死んでいるわ。
 こちらからアクセスする方法は無いのよ』


量産機の腕を捉え、大きく振る。
ジャイアントスイングで投げられた量産機が、その先にいたもう一機を巻き込んで倒れた。
残る一機が槍を構える。

ふご、ふぐぉあ!

ゴリラのごとく吠えた初号機が、繰り出される槍の穂先を物ともせずに駆け寄る。
一気に懐の間合いに入った初号機は、そのまま抜き手でみぞおちを貫くと、脊椎にあったエントリープラグを握ったまま背中に向かって突き出した。
真っ赤に塗られたダミープラグ。
初号機は何一つ躊躇うことなく、それを握り潰した。
力なく項垂れた量産機を放り出すと、からんだまま倒れている2機に顔をむける。

ふごぉぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!

大きく吠えた初号機は、槍を拾い上げると量産機目掛けて投げ付けた。

グギャァ〜〜〜オォォ〜〜〜〜〜ン!

一撃でコアを粉砕された量産機が、まるでミサイル攻撃を受けたゴジラのように咆哮し、そのまま動かなくなった。
ギリギリのタイミングで槍を躱した最後の量産機は、初号機に睨みつけられたとたん、恐怖に顔を歪ませ後ずさった。
不利と悟った量産機は、そのまま翼を広げジャンプする。
しかしそれは、上空から急降下して来たゼロエックスによって阻まれた。
ゼロエックスはすれ違いざまに触手を伸ばし、量産機の翼を切断していた。
轟音と共に墜落する量産機。
初号機はそこいらじゅうに散乱している槍のうちの一本を拾い上げると構えた。
前を初号機に塞がれた量産機が、ちょうど着地したゼロエックスに突進する。
追いかけた初号機の目の前で、量産機の槍がゼロエックスの腹部を刺し貫いた。

「いかん、レイっ!」

ゲンドウの叫びに答えが返る代わりに、閃光がモニターを支配した。
しかしそれは、一定の距離以上に広がらなかった。
背中から光る羽根を生やした初号機が、爆心の上空からATフィールドを張って爆発を押さえていたのだ。
閃光が収まった時、そこには何も残っておらず、ただ、地上にレイが倒れていた。
地上に降りた初号機は、着地した姿勢のまま活動を停止した。
全身を量産機の体液で真っ赤に染めた初号機の、まるで陸上選手がスタートを待つようなその姿勢は、まだまだ何かあればいつでも飛び掛かれることを示すようで、誰もが恐怖心以外を抱かなかった。

「終わったな・・・、碇」
「あぁ・・・」
「赤木博士、全パイロットを回収しろ」
「しかし初号機は・・・」

初号機のシンクロ率が300%を突破した段階で、誰もが1ヶ月前の経験から導き出した予想に違わず、コクピットのLCLにはプラグスーツとヘッドセットが浮遊するだけで、シンジの姿はなかった。

「初号機は直接ケイジに回収、サルベージ作業の準備にかかれ」
「はい!」
「葛城3佐、残った全職員を使って、施設内の総点検と、戦自の残したトラップの除去を行いたまえ」
「はい!」


 何が何かよく解らないながら、どうやら戦闘が全て終結したらしいことだけははっきりした。
慌ただしく職員が走り回り、復旧作業が開始された。
リニアエレベーターは一番最初に点検が行われ、安全が確認されるとすぐ、初号機と弐号機が回収された。
幸いアスカのケガはたいしたこともなく、全治一週間程度と診断された。
レイにいたっては疲労によって眠っているだけで、目が覚めれば元どうりのはずだ。


 リツコはマヤに命じてMAGIのネットワークを回復させると、間髪入れずに全てのMAGIコピーにハッキングをかけ、オリジナルにだけ許された強制コマンドを使って、オールデリートという強硬手段に出た。
結果、NERV本部以外のMAGIは、全てただのドンガラとなり果てた。


 ミサトは頭を抱えていた。
第七ケイジはもとより、整備棟、実験棟、シミュレーター。
エヴァを格納できそうな施設は全て戦自の仕掛けた爆弾によって破壊され、復旧が終わるまでは整備作業ができないと判断されたからだ。
特に第七ケイジは、起動前に機体を確保することを要求されていたにもかかわらず、戦自コマンドが到達した時にはもぬけの殻で、せめて一太刀、と言うよりは嫌がらせと腹いせのためだろう、必要以上の爆薬が仕掛けられ、徹底した破壊がされていた。
事実、すぐ隣に位置する旧発令所にまで影響を及ぼし、こちらは半ば瓦礫に埋まってしまっていた。
回収されたエヴァを格納する場所にはかなり苦労し、どうにか空いていたケイジの片隅に、急遽仮設拘束台を造って、そこに固定された。
戦闘直後は電源系統も何もかもが使えなかったため、アスカを救出するための作業は、停電事件のときと同様、全てが手動で行われていた。

「この先どぉすんのよ、これ・・・」
「とりあえず、瓦礫の掃除と設備の被害状況の調査ね。
 設備の方は技術部からも職員を出すわ」
「お願い、そうして。
 んでも、ちょっちマズイわね・・・。
 今誰かに攻め込まれたら、何もできずに白旗あげるしか無いわ」
「そうでもないぞ」

隣の席で、保安諜報部を使って施設内の安全点検とセキュリティーシステムの復旧を指揮していた加持が、ミサトの愚痴に答えた。
本来保安諜報部は総司令直属で、通常は副司令が指揮官として指示を与えていたのだが、戦後復興の話し合いのために二人とも出払っており、加持が全指揮権を委任されていた。

「どういうことよ?」
「俺が姿を消していた間、どこにいたと思う?」
「さぁ・・・、あんたのことだから、どっかで女の尻でも追っかけてたんじゃないの?」

嫌味をカマすミサトに、しかし加持は肩をすくめただけで流した。

「本業の方で走り回っていたのさ」
「っていうと内務省?」
「日本政府に入り込んだゼーレの根っこを全部切って回っていた。
 今の日本政府には、このNERVに楯突こうなんてヤツは一人もいないよ」
「どうして言い切れるのよ?」
「国防省の情報本部に友人がいてね。
 内務省と情本と、両方から総理大臣に揺さぶりをかけたんだ。
 今NERVに弓引けばどうなるか解っているのか?
 ジオフロントの惨劇を第二新東京でも繰り返したいか?
 ってな」

ウインクしながら笑みを浮かべる。

「そりゃまぁ、予想以上に戦果を上げたもんねぇ・・・」
「四個師団が侵攻して来て、生きて帰れたのは二個師団だ。
 航空隊なんぞ、全滅に等しい被害を受けている」
「でも、それだけ恨みを買ってるんじゃないの?」
「お礼参りに来たら、N2でもエヴァでも、何を使ってでも排除する。
 それでもいいのかって言ってやったよ。
 恨みより恐怖心の方が先だと思うな」
「それもそうね・・・」
「それにな、あいつらの出した命令、こっちでばっちり保存してあるんだ。
 聞いてみるか?」
「どんな?」

加持はテープレコーダーを取り出すと、再生スイッチを入れた。

『総員配置に就け、総員配置に就け。
 作戦開始、作戦開始。
 非武装、無抵抗を問わず、全ての敵に対する発砲を許可する。
 全人類の命運が諸君の双肩に掛かっている。
 容赦は無用だ』

「何よコレ!?
 酷いもんねぇ。
 ジュネーブ条約はどこへ行ったのよ?」
「そういうこと。
 連中、これを聞かせてやったら、真っ青になってたぞ。
 これで日本政府は押さえたも同然だな。
 あとは、司令がどこまで国連で頑張れるか、さ」


 国連総会の場で、NERVは培った生体技術を民需転換するための公的機関としての存続のみを許された。
世界各地の支部は全て閉鎖され、第三新東京とジオフロントを含む日本の被害復旧のための特別予算こそ認められたものの、通常の活動予算も一般的な国連機関並みに削減された。
総会でゲンドウは、ゼーレのエヴァこそ殲滅したものの、初号機が最後の一機と刺し違えて消滅したこと、弐号機は戦闘損傷が激しかったために放棄されたこと、全ての情報はゼーレによって操作されていたこと、ゼーレこそがサードインパクトを起すべく策謀をめぐらしていた組織であったこと、NERVも日本政府もそれに利用されただけであることなどを、事実と虚偽を交えて発表した。
結果NERVは対使徒戦という存亡にかかわる大きな使命を失いつつも、単なる学術研究機関としての生き残りを認められたのだ。
特に、加持の策謀が功を奏し、日本政府が全面的にNERVの味方に付いたことが大きかった。
さらには、ゼーレの主要メンバーを出していたドイツ、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの、他の常任理事国も、自国政府への波及を恐れてか、深く追求するどころか、NERVという組織の生き残りに積極的に賛成した。
これもまた加持が、その持てるネットワークを使って八方手を尽くしたおかげだった。
とはいえ予算が減額されたおかげで、施設復旧、特に今後直接活動に必要のないエヴァ関連施設の復旧がかなり困難になったことも事実だった。


 MAGIのデータ復旧作業は、関連施設の被害調査を終えてからにされたため、作業を開始できた頃には、戦闘終結から既に2ヶ月が経過していた。
まず初めに、ウィルスによって破壊された区画のデータがなんだったのか、丹念に調査された。
その結果報告を受けた時、リツコは思わずファイルを取り落とした。
硬い表情のままにファイルを拾うと、最後のページを見つめ、もう一度顔を上げた。

「マヤ、このリスト、間違いは無いのね?」
「ざ、残念・・・ぐす、ですが・・・うっ、まちがい、ぐす、ありません・・・」

報告する間じゅうずっとすすり上げていたマヤは、そのまま床にへたり込むと、わっと泣き出してしまった。

「なんてことなの・・・」

呆然として立ちすくむリツコ。
その口から脱力感に支配された声が漏れた。
元々そのデータはMAGIオリジナルにしかなく、バックアップは書き戻しの段階でウィルスに喰われてしまっている。
永久に失われたデータの価値に、技術部の士気はがた落ちになった。


 ファイルを持ったリツコが発令所に入って来る。
気付いたミサトは、軽く手をあげて挨拶した。

「リツコ、そっちはどぉ?」

リツコが黙ってファイルを差し出す。
ファイルをめくっていたミサトは、最後のページを見たとたんに目を見開いた。

「マ、マジ・・・?」

沈黙の頷きだけが返って来る。

「ウソ・・・・、ウソでしょ・・・」

血の気を失った顔に手をあてたミサトは、力なくくず折れた。

「そんな・・・。
 シンちゃん・・・・」


 地上の復興計画が決まらず、第三新東京の主導権を誰が握るかすら解っていないため、疎開した人達への帰還許可は出されていない。
そのおかげでジオフロントに泊まり込みの職員も全て帰宅することは許されず、いまだに宿舎に寝泊まりしていた。
仕事がなくなってしまったパイロットといえこれは同じで、アスカは広い士官用宿舎で暇を持て余していた。
ベットでごろ寝しながらテレビを見ていたアスカは、サイドテーブルに置かれた電話機のベルに、じゃま臭そうに体を起して受話器をあげた。

「はい、惣流です」
『アスカ、今いいかしら?』
「何、リツコ?」
『すぐに私の部屋に来てちょうだい。
 大事な話よ』

その一言で、アスカはピンと来た。
呼び出された先が発令所でも会議室でもなく、リツコの部屋だったということに、期待に胸を高鳴らせる。
息急き切って飛び込んできたアスカは、中に待っていた大人達が何か言う前にマシンガンのようにまくしたてた。

「ねっ、いつ、いつ、いつ?
 シンジのサルベージやるんでしょ、いつよ?
 ねぇ、もったいぶらずに教えなさいよ、いつよ、あいつはいつ帰って来るの?
 ほら、ミサト、リツコ、早く言いなさいよぉ!」
「判らないわ・・・。
 5年か、50年か、・・・500年か・・・」

沈痛な面持ちのリツコ。
ミサトも青い顔で黙ったままだ。

「何バカなこと言ってるのよ。
 下らない冗談言ってないで、ホントのこと言いなさいよぉ」

アスカがシンジに告白したことは、既にNERVじゅうが知っていた。
そのことでからかわれていると思ったアスカは、半ば浮かれ気分で笑みをふりまきながらまくしたてた。

「いいかげんにしなさいっ!」

ミサトが一喝する。

「ゴメン、ミサト・・・、ちょっとはしゃぎ過ぎた・・・。
 謝るから、いつやるのか教えてよ」

シュンとなったアスカは、それでも期待に目を輝かせてミサトに迫った。

「アスカ、落ち着いて聞いてね。
 シンジ君のサルベージ、目処が立たないの」
「どういうことよそれ?」

全く予想外の答えに、アスカの表情が一気にこわばる。

「ケイジをはじめ、エヴァ関連施設が徹底的に破壊されたのは知っているわね。
 そして、それを再建できるだけの予算は、今のNERVには無いわ。
 もっと肝心なことは、サルベージに関するデータが、一切残っていない。
 ゼーレのクラッキングとウィルス攻撃で、MAGIのデータの一部が失われたのよ。
 その中に・・・、サルベージに関するものが含まれていたわ」

リツコが説明する間じゅう、アスカは俯いたまま顔を真っ赤にして、わなわなと震えていた。

「そんなの・・・。
 そんなのウソよっ!
 アンタら、アタシがシンジと仲良くなったからって焼いてるんでしょっ!」
「本当なの・・・アスカ。
 あたしだってこんなことでウソ付きたくないわ。
 いいえ、ウソだったらどんなによかったか・・・」

重苦しい沈黙。

「ウソよ・・・。
 嫌よ、アイツがいないなんて、そんなのウソよっ!」

普段なら考えられないくらい取り乱して涙を流すアスカに、二人は何も言葉をかけてやれなかった。

「だって、だって・・・。
 やっと・・・、やっと好きって、言えたのよ・・・。
 あいつも好きって、そう言ってくれたのよ。
 アタシの初めてをあげたのよ!
 あいつ、必ず帰ってくるって言ったのよっ!
 僕のアスカに触るなって言ってくれたのよっ!!
 なのに、なのに・・・。
 こんなのウソよ!
 絶対ウソよっ!!」

半狂乱になって泣き喚くアスカ。

「うっ、ぐすっ、ウソよ・・・、ウソよ・・・。
 ぐすっ、ウソよ・・・、う・・・、うぷっ、うえっ!」

床に座り込んで泣き続けていたアスカが、突然口元を押さえる。
指の間から吐瀉物がこぼれて床に散った。

「アスカ・・・、あんたまさかっ!」

ミサトは、アスカの嘔吐の原因に思い至った。

「リツコ、すぐにメディカルセンターに連絡入れて。
 産婦人科で妊娠検査の準備させてっ!」
「なぜ?」
「アスカとシンジ君、あの戦いの前の晩、いっしょにいたのよ」
「なぜそんなことを許可したのっ!」
「今しかできないことをさせてあげたかったのよっ!
 だからあたしがけしかけたのよ。
 いいからさっさと電話しなさいよっ!!」
「一人で行かせるの?」
「いいえ、あたしが連れていくわ。
 アスカ、行きましょ」

リツコが電話を掛けたのを確認したミサトは、泣き疲れてぐったりしているアスカの腕をとって、引き摺るようにリツコの部屋を出て行った。


 2時間後に出た検査結果は、見事に「クロ」だった。
無表情のままのアスカが座るベンチに、診断書を受け取ったミサトが近付いた。

「アスカ・・・、これ、おめでとうって言ってもいいの?」
「やっぱ、できてたんだ・・・、子供」

ミサトから診断書を受け取ったアスカは、そこに書かれた「妊娠」の文字をじっと見つめた。

「そうよ。
 これはあなたの望んだ事なの?
 それとも予想外の事故?」

アスカはミサトに答えることなく、同じ言葉を繰り返した。

「できてたんだ・・・、できてたんだ・・・、できてたんだ・・・」
「アスカ?」

ミサトは、あまりのショックにアスカの気が触れたのかと思った。
やがてアスカが顔を上げる。
その目には、ついさっきまで泣き喚いて塞ぎ込んでいたとは思えないような力強さがあった。

「アタシ、シンジを取り戻す研究を手伝うわ」
「アスカ?
 あんた何を・・・?」
「だってミサト、シンジはアタシに絆をくれたのよ」

アスカは自分のお腹を摩った。

「ここにいるのは、シンジがアタシを好きだって言ってくれた、愛してくれた証拠なの。
 アタシが求めた絆を、シンジはちゃんと残してくれたのよ。
 だから今度は、アタシが行動で示さなきゃいけないわ。
 アタシがシンジを好きだってこと、負けないくらい好きだってことを見せなきゃいけないの」
「アスカ、あんた・・・」

ミサトはちょっと驚いたようだが、すぐに優しげな笑みを浮かべた。

「そう・・・、これであたしも安心できるわね」

ミサトが笑みを浮かべると、アスカも微笑み返した。

「心配かけてゴメンね。
 アタシ頑張るから。
 何があっても負けないから。
 これからもよろしくね」
「違うわよ。
 あたし、NERV辞めるの」
「え?」

アスカが見上げたミサトは、ポリポリと掻く頬が赤かった。

「リョウジがさぁ、プロポーズしてくれたの。
 どうせほら、エヴァも無くなったんじゃ、あたしがやることなんて残ってないじゃない。
 サルベージなんて解んないし、作戦部も閉鎖だし、ちょうどいいかなって思って」
「マジ?」
「モチのロンよん♪
 だってあんた、考えてもみなさいよ。
 あたしももう30なのよ。
 これを逃したら、本気で嫁き後れるわ」

ミサトはわざとらしくおどけてみせた。

「最後のチャンス・・・か・・・」
「そぉよ。
 まぁ、あんたら見てて羨ましくなったっていうのもあるんだけどね」

ミサトはパチッとウインクしてみせた。


 それから2ヶ月、元々細身のアスカは、そろそろ微妙にお腹の膨らみが見えはじめている。
それでも毎日、リツコやマヤと研究室に篭って古い記録の発掘と再整理、記憶を頼りの理論再構築の作業に従事していた。
ミサトは、教会も神前もドレスもケーキもいらない、地味婚でも何でもいいから、なるべく早くに式をやろうと言いだした。

「これ以上待ったら、アスカのお腹が目立っちゃうわ。
 それって、ちょっちマズイと思うのよね」
「ミサト、お前そこまで・・・」
「リョウジだって、賛成してくれるでしょ?」
「俺が反対すると思うのか?
 こう見えてもアスカの保護者なんだぞ、俺は」

上目づかいに探るような目線のミサトに、加持はフッと笑みを浮かべた。


 加持とミサトの結婚式は、しかし二人の思惑を大きく越えて、元箱根のホテルを借り切って、驚くほど盛大に行われた。
戦後復興の嚆矢として、民需転換の象徴として、日本政府とNERVの関係修復のプロバカンダとして、全世界に向けて政治的なメッセージを発信するために利用されてしまったのだった。
しかしそのおかげで式は、ミサト、NERV、日本政府、全ての関係者の「一刻も早く」という思惑が一致し、ミサトと加持が話しあった2週間後に実現するというスピードを発揮した。
結果、どうにか普通の少女の体面を保ったまま、アスカもきらびやかなドレスに身を包んで出席することが叶った。
アスカはそこで、ミサトからとんでもないことを耳打ちされた。

「アスカ、あんたの子供に幼なじみできちゃうわよ」
「へ?
 ミサト、もしかして?」
「そ。
 昨日調べてもらったの。
 3ヶ月よん♪」

幸せそうな、自慢げな笑顔のミサトは、小さくブイサインを出した。

「きゃぁ、おめでとぉ!
 やったじゃん!」

アスカはその手を取ってぶんぶん振り回した。


 ミサトの結婚式から1週間がたった。
来週には、第三新東京市の地上部分への帰還が全面解禁されることが、正式に決定された。
徹底的に破壊された天蓋部が完全に修復されたというわけではないのだが、政府の許可が出る遥か以前から、周辺部の土地には人々が帰って来て、一山当てようとした建設業者によって勝手に開発が始まり、今では元箱根の辺りまで平野部が繋がってしまっている。
また、元から平坦部の多かった湖尻地区南東側は、駒ヶ岳ロープウェイ乗り場のあった場所から山に向かって開発が進み、中腹くらいまでは宅地の造成が完了し、中には既に誰かが住んでしまっている場所も存在した。
これを受けた政府は、NERVと協議の上、第三新東京市の復興プランを、現状に沿って大幅に書き換えた。
結果、第三新東京市は芦の湖周辺の箱根地区全てを含む、かなり広い範囲にまで行政区が広げられた。
このため、元の第三新東京市市街地部分にこだわる必要もなくなったとして、疎開命令と立入制限が一気に解除されることになったのだ。
NERVの特権でコンフォートマンションへ出掛けて、荷物を持って来ては泊まり込みの日々だったアスカも、いよいよ堂々と家に帰れるというわけだ。

「ところでミサト、この前の話、決着は着いたんでしょうね?」
「あぁ、あれ?
 あたしたちの新居のことなら心配無いわよ。
 あんたのお望みどおり、あの家はあんたにあげるわ。
 なんたってシンちゃんとの思い出がいっぱい詰まった家だもんねぇ♪」

ミサトはチェシャ猫のような笑みを浮かべた。

「一言多いのっ!
 ・・・でも、ミサトはどうするのよ?」
「隣にするわ。
 あのマンション、うちらの部屋以外、誰も住んでないでしょ?
 あそこ、元々NERVの高級幹部専用マンションだったのよ。
 知ってた?」

ちょっとイタズラっぽい表情でウインクするミサト。
そのプロポーションやこういう仕草のおかげか、実年齢より遥かに若く見える。

「どぉりでねぇ・・・。
 でも、これからもあそこって、NERVの持ち物のままなんでしょ?」

答えるアスカの方が、最近少しづつ女、と言うか母親の顔だちになりつつあるせいか、かえって実年齢より年上に見えてしまう。
一度など、街でナンパ野郎から同い年に見られたそうだから、世の中わからない・・・。

「そうよ。
 でも、どうして?」
「ん・・・。
 ちょっとね」


 それから3日後のことだった。
面積のほとんどを占領していたミサトの荷物が運びだされ、がらんとしてしまったマンションに、呼び鈴が鳴った。

「来た来た」

アスカは玄関に行くと、予想どおりの人物がそこにいることをモニターで確認し、ドアを開けた。

「やっほ、レイ」
「こんばんは」
「違うでしょ。
 今日からここはあんたの家でもあるのよ」
「え・・・、あ・・・」

微妙に戸惑いの表情を浮かべたレイは、慌てて鞄からポケット会話辞典を取り出した。
目当てのページにたどりついたレイは、そこに書かれた文字をなんどか頭の中で反芻してから、はにかんだような表情で声に出した。

「た、ただいま・・・」
「おかえり」

極上の笑みで迎えるアスカに、レイもこころなしか表情を緩めた。


 最後の戦い以降、アスカとレイは急速に仲良くなっていた。
レイのことを何かと毛嫌いしていたアスカだったが、その自出のことをリツコから聞かされた日の夜、思い切ってレイのあてがわれた宿舎を訪ねた。
始めはそっけなかったレイも、話がシンジのことになると徐々に言葉が増え、シンジに対して抱いていた感情のことまでを打ち明けた。
その時レイの瞳からこぼれた物が、アスカの心を揺り動かした。

「アンタ・・・、アタシと同じだったのね・・・。
 エヴァしかなかったのね。
 いいえ、エヴァとシンジしか・・・」

アスカは、思わずレイを抱きしめた。

「泣いてもいいのよ・・・、今は、思いっきり泣いてもいい時なのよ」

頬に触れる、アスカの瞳から生れた暖かい雫。
それがレイの感情に填められた箍を外し、スイッチを入れた。
レイは、泣き疲れて眠ってしまうまで、ずっとアスカの胸で嗚咽をあげ続けたのだ。


 政府の疎開命令解除と戦後復興プラン見直しのおかげで、レイの家のある区画にも再開発事業の手が延びることになった。
行き場のないレイについては、周囲の誰もがそのまま本部内の宿舎で十分だろうと考えていたのだが、シンジとの絆にこだわったレイは、碇の名とシンジの双子の姉という加持の提案をかなり熱心に聞き、そのカバーストーリー通りの立場を選んだ。
しかもレイは、宿舎割り当ての担当職員が希望を聞きに来た時、シンジの生活していた部屋ヘ行きたがった。

「あそこは空き部屋じゃないわ。
 だって私が住むもの」

珍しくも自己主張したレイ。

「誰か相手がいた方が楽しいし。
 それに同い年の女の子同士だし、その方が気楽だもん」

とアスカ。

「どうせあたしが出て、その空き部屋を埋めるだけなんだからいいんじゃないのぉ♪」

とお気楽なミサト。

「俺が隣りにいるんだ。
 セキュリティーは万全だぞ」

と加持。

「アスカと付き合うようになってずいぶん表情や感情が豊かになったわ。
 今後のことを考えればいいことよ」
「あぁ、問題ない」

とリツコとゲンドウ。
かなり強力なラインナップが賛成したおかげで、見事にごり押しがまかり通ってしまった。
もっとも、最終的に決裁を出す総務部の部長が、1尉に昇進したマコトだったのだから、ごり押しと言うよりは、最終的にはNERV全体が味方したと言ってもいいだろう。
そして今日、こうしてレイが引っ越して来たわけだ。
と言っても小さな鞄一つの、ほとんど旅行か家出かお泊りか、といった状態なのだが・・・。
家財道具といっても、パイプベットと小さな箪笥だけ。
それらは先にNERV職員の手を借りて運び込まれていた。


「そっから先は、ワイらも知ってる話になるわけやな・・・」
「そういうこと。
 アタシも、ヒカリが来てくれた時はすっごい嬉しかったのよ」


 疎開命令解除から1週間。
帰って来たことを知らせるために、ヒカリがアスカの家を訪れた。

「アスカ!」
「ヒカリィ!」
「無事だったのね!
 よかったぁ」
「まぁね。
 ヒカリも元気そうでよかったわ」
「アスカ、太った?」
「フフ・・・、ナイショ。
 ね、あがってよ」

通されたリビングで、レイの入れてくれた紅茶を前に、ヒカリは一番疑問に思っていたことを口にした。

「碇君の姿が見えないけど、どうしたの?
 今日はNERV?」

ガチャン!

キッチンでお茶請けのクッキーを用意していたレイがお皿を落す。
アスカも表情をこわばらせた。

「な、何、どうしたのよ?」

ワケのわからないヒカリは、目をまん丸にして驚いている。

「碇君は帰ってこないわ」
「どういうこと?
 アスカ、どういうことなの?」
「最後の戦いの時・・・。
 あいつ・・・、アタシを守るために・・・」
「まさか!
 ウソでしょ!?」

レイの寂しげなもの言いと、アスカの流す涙の意味を、何となく理解したヒカリだったが、しかしそれは信じることも肯定することもできなかった。


「アスカにはすっかり騙されたのよね」
「アタシは死んだなんて一言も言ってないわよ」
「でも、そう取ったこと、否定しなかったじゃない」
「当たり前でしょ。
 取り込まれたなんて言って判るワケ無いし、言えることでもなかったし・・・。
 それに世間に向けての発表も、シンジは戦死したことになってたんだから・・・。
 たとえヒカリにでも、それだけは言えないわよ」
「しかし、そのエヴァに取り込まれる、っていうのがよく解らないんだよなぁ・・・」

ケンスケが疑問を挟む。

「エヴァはね、パイロットとエヴァそのものが神経接続を通じてシンクロすることで動くんだ。
 でも、このシンクロの度合が高過ぎると、パイロットとエヴァの境界線がなくなっちゃうんだよ。
 初号機はね、最初に作られた時、そうやって僕の母さんを取り込んじゃったんだ。
 僕が乗ってた時は、だから僕は母さんを通じてエヴァとシンクロしてた。
 でも、あの時は違ったんだ」
「違うって?」
「うん・・・。
 アスカが殺される、って思った時、母さんじゃなく、僕はエヴァと直接コンタクトしてた。
 だから完全にエヴァと同化しちゃって、溶け込んじゃったんだ」
「ほんで、何で今そんなかっこうなんや?
 だいいちやなぁ、自分で溶けたんやったら、自分で戻ることかてできるやろぉ?」
「さっきのアスカの話にあったでしょ。
 表向き、エヴァは最後の戦いの時にみんななくなったことになってたから・・・。
 初号機が残ってたことは極秘なんだ。
 それに設備も壊されて、データも失われて。
 僕が帰る準備ができるまで14年も掛かったんだ。
 エヴァの中にいる間は肉体年齢が進まないから、僕の体だけはまだあの頃のままなんだ。
 それに僕は、力を出し過ぎてた。
 疲れて眠っちゃった、って言えば判ってもらえるかな・・・。
 エヴァの中で母さんに起してもらったのは、サルベージ作業が始まってからだったんだ」
「でも、アスカが若返っちゃったのはどうしてなの?」
「事故よ、事故。
 シンジを取り戻す時、ちょっとした事故があって・・・。
 巻き込まれちゃったのよ、それに。
 で、気がついたらコレよ、コレ。
 アタシだってびっくりしたのよ、ホント」
「ホンマ、NERVっちゅうのは、なんっでもアリなんやなぁ〜・・・」
「まぁ、使徒なんて言うよくわからないヤツ相手に戦争してたんだから、判る気もするけどね・・・。
 にしても、酷い話だよなァ・・・」

ケンスケは忌々しげな声を出した。

「何がや?」
「その政府や国連のやり方が、だよ。
 自分達だって、利用するだけ利用してたくせにさ、終わればポイって言うのがね」
「いいんだよ、ケンスケ。
 アスカがいて、ユイカがいて・・・。
 僕達は今、ここにこうしてちゃんと生きてる。
 それだけでも十分幸せなんだ」
「けっこうな変わりようやなぁ・・・。
 あの頃のセンセからは想像も付かんわ」
「トウジも、子供ができれば判るよ。
 家族が揃っていられることが、どんなに幸せなのか・・・」

早くに母を失い、父とも別れて暮らした幼少期。
そんな経験があるからこそ、親子が揃うことのありがたみが身に染みて判るのだった。

「そんなものなのかなぁ・・・」
「まぁ、嫁さんすらおらんケンスケには解らんやろな。
 家に帰ったら誰かがいてくれることのありがたみは」

しみじみと言うトウジに、ケンスケ以外の全員が頷いた。

「はいはい・・・。
 ったく、平和だねぇ・・・」

ケンスケの苦り切った表情と言い方に、爆笑が湧いた。

「でもさぁシンジ、外見はともかく、中身は思いっきり変ったよなぁ。
 何かあったのか?」
「この前の誘拐事件、覚えてる?」
「あぁ、アレなぁ・・・。
 覚えとるも何も、記者会見の時、最前列におったんやで、ワイ」
「そうそう、確か、捜査員が一人瀕死の重傷だったっけか。
 氏名は公表されなかったけど、犯人の親玉と格闘して撃たれたんだったよな」
「私、テレビの前ではらはらしながら聞いてたわ」
「あれ、僕なんだ」
「「「はぁっ!?」」」

シンジの一言に、3人は声をそろえて目を剥いた。

「ホントよ、ヒカリ。
 コイツ、踏み込んだ時に格闘になってさぁ。
 撃たれちゃったのよ」
「ウッソだぁ!」

なおも信じようとしないケンスケに、シンジはシャツの裾をめくってみせた。

「ほら、この傷がそうだよ」

わずかに皮膚に引き攣れが残っている。
本来ならこのような傷痕が残ることは無いのだが、シンジはどうしてもそれを残すことを希望した。
この傷を見る度に、自分が守ったものの大切さを思い出すことができるからだった。

「確かに、こら銃創やな。
 あっちこっちの紛争でイヤンなるほど見て来た。
 間違いあらへん。
 センセ、よぉやるわ」

トウジは感心したように呟いた。

「無免許運転はするわ、命令違反はするわ、総司令には逆らうわ。
 アタシが止めても聞かなかったんだから」
「よく言うよ!
 アスカ、一度も止めなかったじゃない」
「そ、そうだったっけ?」

アスカはワザとらしい苦笑を浮かべた。

ピンポン!

呼び鈴の音。
ドアが開いて、誰かが入って来る気配。

「パパ、いるの?」

噂をすればなんとやら。
入って来たのはユイカだった。

「よっ、ご機嫌さん。
 話題の主の登場やな」
「トウジおじさん、ヒカリおばさん!
 ケンスケおじさんまで・・・、どうしたの?」
「同窓会や、同窓会」

確かにそうだ。
シンジ、アスカ、レイ、トウジ、ヒカリ、ケンスケ。
揃いも揃って第壱中学校2年A組のメンバーなのだ。

「私もパパやママとクラスメートなんだよ」
「ナンじゃい、そりゃ?」
「実はさ、トウジ。
 ほら、表向き14歳でしょ。
 僕とアスカ、今も壱中の2−Aの生徒なんだ。
 だからユイカとクラスメート」
「待てぇ!
 たしかあそこ、今担任がミサトさんやなかったか?」
「ついでに言うと、ミユキちゃんも2−Aだよ」
「校長先生なんか副司令なんだから」
「はぁ・・・、とことん狭い街やなぁ。
 どないやねん、ホンマ・・・」
「それよりママ、宿題、大丈夫?」
「あ、そうだよアスカ!」
「宿題?
 なつかしいわねぇ」

ヒカリが笑みを浮かべたのを見たアスカの頭に、彼女にとっては最上級のナイスアイデアが浮かんだ。
その瞬間の目の輝きを見逃さなかったシンジは、アスカが心の内で「ちゃぁ〜んす!」と言っただろう事まで想像がついた。

「懐かしいったってねぇ・・・。
 アタシにとっては目の前の大問題なのよ」
「そんなに大げさなものじゃないでしょ?」
「そりゃまぁ、ヒカリはあの頃も成績優秀だったしねぇ・・・」
「中学生の問題なんて、そんなに難しいものじゃないでしょ。
 どんな問題なのよ」
「見せてあげるわ、行きましょ」

アスカは返事をする暇を与えずに、ヒカリの腕を取ると出て行ってしまった。

「一名様ごあんなぁ〜い、っと・・・。
 ヒカリおばさん、まんまとママにはめられたわね」

嵐が過ぎるのをじっと待っていたケンスケとトウジは、そっと頷き合うと立ち上がった。

「ほ、ほな、ワイらは、こ、これで失礼させてもらうわ」
「あ、明日から取材で、イ、イ、インドに行かなきゃならないんだ。
 は、早い時間の飛行機だから・・・」

上ずった声で言い訳する2人に、シンジは思わず苦笑した。

「それはいいけど・・・。
 委員長はどうするのさ?」

トウジは振り返ると、見送りのためについてきたシンジの肩に手を置いた。

「なぁ、センセ・・・。
 男はなぁ、仕事のためやったら女房も泣かさなアカン時があるねん。
 後で怒られるて解ってても、行かなアカン時があるのや」
「そうだぞ、シンジ。
 お前だって、ユイカちゃんの誘拐事件の時、無茶苦茶したんだろ?」
「ま、まぁ、ね・・・」

噛んで含めるようなトウジと、慌ててフォローを入れるケンスケに、シンジも苦笑を返すしかなかった。

「ほな、そぉゆぅことやさかい。
 また来るわ」
「じゃぁな」
「あ、うん」

そそくさと靴をはいて玄関を出るトウジ達。
シンジは小走りに逃げていく親友達の背中を見ながら、溜め息をついた。

「パパ、何の話してたの?」
「昔話だよ、ユイカ」
「ふぅ〜ん・・・」
「それよりユイカ、何しに来たの?」
「晩ご飯まだかなって思って」
「え?」

目が点状態のシンジ。

「もう6時よ。
 今日の当番、パパでしょ?」

ちろっと横目でにらむ。
こういう時のユイカは、アスカにそっくりだ。

「ゴメン、忘れてたよ」
「そんなことだと思った。
 もう作ってあるから、帰って食べよ」
「ありがと、ユイカ」
「レイ母さん、ご飯!」
「今行くわ」

奥を覗き込むように声をかけたユイカに、レイは顔だけ出して答えた。

「ペン太はお魚でよかったんだよね?」

ペン太を連れて出て来たレイに尋ねるユイカ。

「クワ?」
「今日はイワシよ、ペン太」
「クワッ♪」

目を輝かせたペン太は、小さな足をぺたぺたと忙しく動かして走っていく。

「クワッ、クウゥ!」

ペン太に急かされたシンジは、カードキーでドアを開けてやる。

「ただいま!」
「ただいまぁっ!」
「クエッ!」
「こんばんは」

ゾロゾロと玄関に入る3人と1匹。

「おかえりぃ」

アスカの声だけが出迎えた。
リビングに行ってみると、そこにはまだヒカリがいた。

「委員長、まだいたの?」
「今終わったトコよ。
 まぁたアスカに騙されたわ。
 全部やらされちゃったわよ」

ややげんなりした表情を浮かべるヒカリ。

「そんなわけでシンジ、当番の交代、半分だけね」
「だめだよアスカ。
 人に手伝ってもらったのは一緒なんだから、ちゃんと約束は守らなきゃ」
「だってシンジにやってもらったんじゃないのよ」
「忘れた?」

あきれ顔のシンジは、壁に貼り付けたアスカの念書を指差した。

「あれには、宿題を手伝う代わりに、僕の当番を交代するってことしか書いてないんだよ。
 誰が手伝うって書いてないでしょ?」
「ズルいぃ〜〜〜〜〜っ!」
「宿題手伝わせるほうがズルい。
 ママにはいい薬よ」

こういう時のユイカは、どことなくゲンドウの孫なんだなと思わせる表情を浮かべることがあった。

「そう言えば碇君、トウジ達は?」
「先に帰ったよ」
「え!?」

ヒカリの目が丸くなる。

「明日からの仕事で、朝が早いって言ってたけど・・・」
「昼イチに家を出れば間に合うわよ。
 さては逃げたわね、あの2人!」

ぐっと拳を握り締めるヒカリ。
つかつかとベランダに行くと、すぅっと息を吸った。

「トウジの裏切り者ォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

鈴原ヒカリの必殺技、ハイパーボイスが夜の街にこだました。





ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 はい、第壱拾五話をお届けします。
どうにか、カタを付けることが出来ました。
コレが、私の想い描いた「ぱぱげりおんIFのif」版の最後の戦いです。
回想シーンにちょこまかと現在のシンジ達の会話が挟まったので、ちょっち解り辛い構成になったかもしれませんね(^^;
それ以外にも、いろいろとはさみはしましたが・・・(^^;


 まずは第壱拾参使徒戦以降のエピソード。
私の話に繋げるため、本編で語られていなかったディテールを加えてみました。
基本的にはほぼそのままなんですが、アスカの心情をより明確に、シンジに振ってみました(笑)

 次に、「EOE」で語られたシンジとアスカの関りをいじって、アスカの目覚めをかなり前倒ししました。
そうしないと、最後の戦い前にコトに及ぶことができませんからね(^^;
でもまぁ、あのタイミングが一番自然かな、と思います。

>原作(パパゲ本編)でカットされた部分が今回、惜しみなく描写されています(笑)。
>タイラーさん、18禁作者の仲間入りおめでとう!歓迎します(笑)。
※第壱拾参話掲載時のみゃあさんの御言葉より

歓迎されてしまいました(笑)
R18ライターの名に恥じぬよう、精進努力いたします、本日はありがとうございました(爆)
※番付発表じゃないんだからヾ(^^;)>じぶん


 さて、一番の違いは最後の戦いですね。
本編以上に、NERVを強くしています。
善戦どころか、相当有利に事を運んでますよね(苦笑)
まぁ、それなりに準備ができてて、最初からエヴァが2機とも全力で展開できれば、こうなる事は当然と言えば当然です。
このあたりに、セカンドインパクトやその後の世界情勢のエピソードを幾つも挟み込みましたが、現実と虚構をいろいろと織り込み、かつエヴァ世界に繋げるために結構気を使いました。
どうしてあそこまで日本が強力な軍事力を持ち、国連軍にも顔を出していられたのか。
わりと自然な流れで書けたと思います。

 さてとぉ、実はぁ、えぇ〜っ、ここいらで激しいツッコミが入るのを覚悟してましてぇ・・・。
なにがってぇとぉ、シンジ君の台詞ですぅ(苦笑)
まぁ、私と同じ世代の人には懐かしいネタ、ですよねぇっ?(笑)
人型兵器が航空機と戦うっていうことで、ちょっとイメージしちゃいまして・・・、もらって来ちゃいましたっ(爆)
そんでもって、量産機との戦闘(過剰シンクロ直前)のあたりは、そのネタの方の「最後の戦い」から持って来ましたゾ(火暴)
さぁ、何人の人が判ったかなぁ?(木亥火暴)
正解者には・・・・・・、なぁ〜んにも出ません(走召木亥火暴)

 読めばお解りのとおり、昨年9月11日に米国で発生した同時多発テロを、多少アレンジをしてはいますが、本作にも取り込んでいます。
しかしながら、ここで語ったテロに対する考え方と報復行動に対する考え方は、私の意見のそのままです。
言いたいことはいろいろとありますが、それをここで言っても始まりませんので、とりあえず、J.U.タイラーはこういう考え方してるヤツなんだ、と思っていただければそれで十分です、ハイ。

 政治的な話はこのくらいにしまして・・・(^^;;;
リリスとアダムを片付けるため、奇妙なものを出してしまいました(^^;
私と同年代の人には、この名前は全く別のモノを想像するかもしれませんね(笑)
※雷鳥六号(爆)
レイとカヲルの勝負、お解りになりましたか?
原作本編の零号機の最期にヒントを得まして、ずっと全ての使徒をなぞってるんですよ(^_^)


 これでこの「ぱぱげりおんIFのif」も、一区切り付いたような気がします。
ということで、次回からは時間を遡って、最後の戦いからこれまでの流れを順次書いていこうと思っています。





次回予告

 2016年秋。
いよいよ臨月を迎えたアスカは、それでも研究生活を続けていた。
しかし、レイの一言がアスカを変えた。


次回、第壱拾六話 「アスカとレイの子育て日記」・その1


ぶぅ!だぁ! p('o')q
 By Yuika Soryu

でわでわ(^^)/~~