ぱぱげりおんIFのif・第壱拾八話

アスカとレイの子育て日記・その3

EPISODE:03 Splitting from The Breast


〜 ばいばい、おっぱい 〜




平成14年6月1日校了



 夕方、そろそろ夕食の準備を始めようとしたアスカは、玄関の呼び鈴がなっているのに気付いて手を止めた。

「こんな時間に誰よ?」

アスカはインターホンの受話器を上げると、耳に当てた。

「はい?」
『私だ』
「司令?」
『そうだ』
「はい、今開けます」

受話器を戻したアスカは、なぜ今ごろゲンドウが訊ねて来たのかいぶかしみながらも、玄関に向かうとドアを開けた。
そこにはゲンドウだけではなく、リツコも立っていた。

「ご無沙汰してます、司令。
 リツコまで、どうしたの、こんな時間に?」
「話はあとだ、上がらせてもらうぞ」
「あ、はい」

眼鏡こそ鼈甲フレームの普通のものに変えてはいたが、レンズの奥の目の鋭さ、全身から沸き立つような威圧感はそのままだ。
上がり込んだゲンドウとリツコは、アスカに案内されてリビングに入った。
コーヒーといっしょにレイお手製のクッキーを出したアスカは、二人の前に座ると、もう一度同じ質問をした。

「どうしたんです、こんな時間に?」
「赤木博士」
「はい」

リツコが鞄から出した物をアスカに渡す。

「それを渡しに来た」
「これって・・・」



総人(発)16−34


2016 . 11 . 05




      発  令  等  通  知



   技 術 部    惣流アスカ・ラングレー博士

             2016.10.15から2017.10.14までの間、育児休暇を付与する
             (2016.10.15)

             出産祝い金を支給する
             (2016.10.15)

             扶養手当の支給を開始する
             (2016.10.15)

             遺族給付の支給を開始する
             (2016.11.05)

             パイロット手当の支給を停止する
             (2016.11.05)


















それは、先日のアスカ宛発令通知文書だった。
しかしバインダーに挟まれていたのはそれだけでは無かった。

「えっ!?」

アスカは思わず声を出してしまうほど驚いていた。
それは、正式にユイカを自信の孫として認知することを示した、ゲンドウ直筆の証書、シンジとの内縁関係にあったことを示す書類、そしてシンジの遺産をアスカに分与することを示した書類の3つが綴られていたのだ。

「司令・・・、これ・・・」
「驚くことはない。
 当然のことをしたまでだ」
「アスカ、あなた自身のこれまでの貯金は、保証規定の規制が掛かっているのは知っているわね?」
「うん、18歳まで満額使えないんでしょ?」
「えぇ。
 それは子供ができても、限度額を上げることはできても、解除はできないわ。
 でも、扶養手当と一時金、それから遺族給付金は対象外なの。
 だから、あなたが手にできる月々の額そのものはかなり増えるはずよ。
 確かに、パイロット手当のカットで、全体の支給額は減るけど・・・」
「それはしょうがないと思ってる。
 だって、表向きエヴァは残ってないんだし」
「そうね。
 だから、少しでも有利なようにしたつもりよ」
「ありがとう、リツコ」

それまで真剣な表情だったアスカは、表情を緩めた。
その配慮が嬉しかったのだ。

「いや、それは日向君に言うべきだろうな」
「あ、はい。
 でも、こっちの・・・」
「あぁ、シンジは表向き戦死だ。
 その遺産をいつまでも宙に浮かすわけにはいかん。
 かといって、今のままでは私とユイカ以外に受け取る者がいない。
 ユイカに与えるとは言っても、それでは額が少ない。
 しかし内縁とは言え配偶者なら、半分を持っていくことができる。
 ユイカと合せれば、75%が君達親子の物だ」
「そんなに?」

自分も全く同じ条件で仕事をしていたのだから、シンジの遺産の額にもおおよその見当は付く。
その75%と聞いて、アスカは目を丸くした。

「あぁ、そうだ。
 ユイカだけではたったの25%なのでな」
「でも、司令は・・・」
「私は本来、全額君に譲りたいのだがな・・・」
「司令、相続権放棄をされては?」

それまでじっと聞いていたリツコが口をはさんだ。

「相続権放棄?」
「ええ、そうすれば司令の分もアスカ達に渡せます」
「なるほど・・・、反対する理由はない、さっそく手続きを」
「はい」

目の前で交わされる会話に口を挟めないでいたアスカは、ようやくのことで言葉を発した。

「でも司令、それじゃぁ・・・」
「問題ない。
 NERV総司令職の給与は、我が国の国家元首の歳費よりも高額だ。
 それは会長となった今もたいして違いはない」
「あ、はい・・・」

こうしてなしくずし的に、シンジの遺産分与の話が解決してしまった。

「んぶ!
 ふやぁ、ふやぁ!」

一瞬訪れた沈黙を破って、ユイカの泣き声が響いた。

「ちょっとすみません」

アスカはすぐに席を立つと、ユイカのところへ行く。

「ハイハイハイ、ユイカちゃんはどったのかなぁ?」

背中に声を聞きながらコーヒーをすするゲンドウ。
しかしリツコには、その手が微かに震えているのが解った。

「んふぁぁ!
 ふやぁ!」

ユイカの声が聞こえるたびに、手がピクンと反応する。

「行けばどうです?」
「ん?」
「行って来ればいいじゃないですか」
「あ、あぁ・・・。
 いや、しかし・・・」
「我慢しなくてもいいんじゃありません?
 おじいちゃんなんですから」

リツコは意地悪げな笑みを浮かべると、「おじいちゃん」を特に強調して言った。
それを聞いたとたん、ゲンドウが固まった。
おかしそうにくすっと笑ったリツコが振り返ると、アスカはブラウスをはだけてユイカに母乳を与えている所だった。

ふふっ、行かないほうがよかったかしらね。

もう一度くすっと笑ったリツコは、コーヒーを一口すすった。


 しばらくして、ようやく落ち着いたユイカを抱いたアスカが戻って来た。
アスカはゲンドウの横まで来ると、身を屈めてユイカをその顔に近づけた。

「ほら、ユイカ、おじいちゃんよ」
「ぶ、ふあ」

ユイカは、小さな手を伸ばしてゲンドウの髭を掴むときゅっと引っぱった。

「ん、む?」

それでようやっと再起動したゲンドウは、自分の髭を引っぱる手を見つめ、ゆっくりと腕を辿り、やがてユイカの顔へたどりついた。

「おぉ・・・」

硬い表情のゲンドウは、恐る恐る手を伸ばしてユイカの頭に触れると、そっと撫でてみた。

「ん、うきゃ」

ユイカが楽しげな声を出す。
それまでの固さが嘘のように相好を崩したゲンドウは、もう一方の手も伸ばした。
何がしたいのかを理解したアスカが手を放すと、ゲンドウはユイカを抱き寄せ、じっと顔を見詰めた。

「あれの・・・、シンジの子供のころによく似ている・・・」

小さな声で呟いたゲンドウは、それまで誰にも見せたことがないような優しげな表情をしていた。


 やがてゲンドウ達が帰った後、ユイカを寝かしつけたアスカは、もう一度書類を読み返していた。
その無機質なお役所言葉の綴られた紙面の奥から、自分を支えてくれる人達の優しさが感じられる。
アスカは、サイドボードの上に飾られたシンジの写真に目を留めると、そっと呟いた。

「ねぇ、シンジ・・・。
 アンタも同じようなこと、よく言ってたケドさ・・・。
 アタシって、戦ってたから見てもらってたと思ってた」

「でも、そうじゃないのね。
 見てよ、これ・・・」

「アタシ達、ちゃんと、人として・・・。
 一人の人として見てもらってるのよ」

「今ならアタシにも判るんだ・・・。
 思ってたほど無理解じゃないの。
 みんな、ちゃんと解ってるのよ」

「早く帰って来て・・・。
 アンタがいないと、この嬉しさも半減しちゃうわ」

『うん、ゴメン、アスカ』

アスカには、シンジがそう答えたように感じられた。


 それから一ヵ月がたった。
新しい生活のリズムにも慣れたアスカは、時間を見て自分で買い物に行くこともできるようになっていた。
といっても、さすがにユイカを一人放っておくわけにもいかず、レイのいる時に限っているし、レイが不在中にどうしてもという時にはミサトに預けたりしていた。

 コンフォートマンションのあるあたりは旧市街と新市街の境目であり、元々高台の高級住宅地の中にあったためか、復興事業計画の中でもあまり大きな変化をもたらすような工事は無かった。
それでも、最近マスコミによって使徒戦役と呼ばれるようになったあの半年間の戦いの頃は更地だった場所に住宅ができ、商店ができ、それなりに活気のある町並みができつつある。
新たに雲雀ヶ丘と呼ばれるようになった一帯は、ショッピングモールというよりは商店街と呼んだ方が似合うような、日本のどこにでもあるような雑多なイメージの場所だ。
しかしその雑多な活気が、人の息吹や生活観が直接感じられる雰囲気がアスカは好きだった。
師走最初の日曜日、しかも夕方の買い物時間とあって、結構人出がある。
雲雀ヶ丘商店街を歩くアスカには、一軒のお気に入りができていた。
そこは小さな惣菜屋。
看板には『ほらぎや』と書かれている。
アスカの無二の親友、ヒカリの姉、コダマが始めた店だ。
彼女らの父親、NERV整備部にいた洞木フジオ曹長は、最期の戦いのさなかに戦自の攻撃で負傷、そのまま除隊していた。
その退職金と保証金で買った店舗兼住宅で始めた店なのだが、専門学校で調理師免許を取ったコダマを中心に、材料買い出しや配送はフジオが担当し、学校から帰ればヒカリやノゾミも手伝うなど、一家総出で切り盛りしているのだ。
味の良さや手頃感、そして何より手作りのお惣菜という暖かみが受け、結構繁盛していた。

「こんにちは」
「あら、アスカちゃん、いらっしゃい!」

まだ21歳にもかかわらず妙に割烹着の似合うコダマは、妹の親友であり『ほらぎや』の上得意でもあるアスカに、『ほらぎや』の隠れた人気メニュー(?)の一つ、親しみのある笑みで応えた。

「ごめんね、ヒカリ、今お父さんと買い出しなの」
「あ、いいの。
 今日は客だから」
「ならいいけど」
「今日のお薦めってある?」
「今日はねぇ・・・、そうねぇ・・・。
 あ、これなんかどう?
 新ジャガが入ったからコロッケにしてみたの」

こんがりキツネ色に揚がったコロッケを指差すコダマ。
見ただけで香ばしそうな匂いがして来るような気がする。

「じゃぁ、それと・・・、あとそっちのマカロニサラダも」
「はぁい、っと・・・、2人前よね?」
「あ、うん」

コダマもアスカがレイと同居していることは知っており、アスカが惣菜を買っていく時はいつも2人前なのを覚えている。
客の買い方の特徴を覚えて、細やかな心使いをしてくれるところも人気の一つで、まさにコダマあっての『ほらぎや』なのだった。

「そう言えばアスカちゃん、ユイカちゃんはまだ母乳なの?」
「うん、そうよ」
「今はいいけど、そのうち離乳食とかも考えなきゃね」
「離乳食かぁ・・・」

考え込んだアスカに、コダマは苦笑を浮かべた。

「心配しないの。
 離乳食なんて1年目くらいでいいんだから」
「でもほら、アタシの産休って、1年しかないし。
 出来れば、その頃にはおっぱいじゃなくって、普通のご飯にしときたいなって思ってるの」
「そっかぁ・・・。
 じゃぁしょうがないな・・・。
 あ、そうだ
 あたしの友達に産婦人科の看護婦がいるの。
 そのうちまた、いろいろと聞いといてあげるわ」
「うん、ありがとう」
「はい、じゃぁコロッケとサラダで940円ね」

セカンドインパクト直前の頃からするとほぼ1,5倍の物価になった昨今、この値段で2人前のおかずが揃うというのはなるほど安い。
『ほらぎや』が繁盛するのも頷ける話だった。
セカンドインパクトの混乱から脱したのを機に発行された、黒沢昭の肖像画が描かれた千円札を渡した。
ちなみに五万円は旧札の一万円から引き続いて福沢諭吉が、一万円は坂本竜馬が、五千円は吉田茂がそれぞれ描かれている。
政治、経済、文化と、各界の著名人を肖像画に起用するという旧札のコンセプトをそのまま受け継いだもので、決定には族議員の暗躍やら何やら、いろいろと紆余曲折があったようだが、いざ発行されてしまうと何一つ悩むことなく流通してしまうから不思議で、唯一、発行直後に旧一万円と新規発行の五万円が混同されるミスが発生したくらいのものだった。

「はい、お釣り。
 40円はおまけよ」

コダマはウインクしながら、こちらは他の額の物も含めて全く改鋳されずにいる、同じデザインのままの100円玉を渡した。

「ありがと。
 じゃぁ!」
「はぁい、またね」

アスカは買ったおかずを買い物かごに入れて、挨拶するとまた歩き出した。
しばらく行くと今度は小さなケーキショップに入る。
『アンジェリカ』という名前の、洒落た雰囲気の店だ。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ」

30代後半くらいの、若い頃はさぞかしモテただろうという雰囲気のオーナー兼パティシエ、滝沢ナオトと弟子の藤木ヒデアキの2人でやっている店だ。
ナオトには年上の妻、タエコがいるが、彼女はNERVのメディカルセンターの看護婦をしている。
アスカがこの店のことを知ったのもタエコに教えられたからだ。
まだ妊娠中だった頃、定期検診の帰りに立ち寄ったナースステーションで、パイロット時代に世話になった顔見知りの看護婦、水無月アリサと話をしていた時のことだった。

「あら、惣流さん、経過はどう?」
「はい、順調です」

病棟から戻って来て声を掛けてくれたのが、タエコだった。
その時出してもらったケーキの味が忘れられず、入院中にはゲンドウが買って来てくれ、退院してからはレイに買い出しを頼み、外出するようになってからは自分で通うようになり、いつのまにか常連になっていたというわけだ。
何種類かある定番メニューを、ケースに並んでいる順番に端からチェックし、一巡したのが3日前。
定番メニューといっしょに、時々出ているスペシャルメニューや季節ネタ、新作なども買って行くようにしていた。
もともとドイツ出身のアスカはけっこう味にはうるさい方で、しかも歯に衣着せぬ物言いとあいまって、かなり鋭い評価をしている。
前世紀末に始まり、セカンドインパクト後に更に加速されたEU統合によって、隣国フランスやイタリアから豊富にケーキなどのデザート類も入って来るようになったことも影響しているのかもしれない。
病院ではじめて口にしたケーキも、タエコがナオトの妻とも知らず、誉め言葉ながらかなり突っ込んだことを言った。

「ありがとう」
「え?」
「うちの旦那が作ったのよ、それ」

というタエコの苦笑交じりの一言に、アスカは目が点になったり赤面したりもしたものだった。
どうやらタエコは、帰宅してそのことをナオトに話したらしい。
時たま、店頭に出す前の新作を出して来ては、アスカに味を確かめさせるようになったのだ。
今日もまた、挨拶もそこそこに、奥の厨房から新作を出してきた。
『アンジェリカ』は店内にわずかにテーブル3つながら喫茶コーナーがあり、そこの一つに座ったアスカの前に、チョコとさくらんぼで装飾されたケーキの載った皿とティーカップが置かれる。
アスカはさっそくフォークを取ると、まず一口目を口に運ぶ。

「今日のはどうだい?」
「スポンジが口の中でとろけるみたい・・・。
 生クリームは甘すぎず脂っこすぎずのいいバランスよ・・・。
 挟まれたチョコクリームが最高のアクセントを添えてる」

ナオトは黙って聞いている。
ヒデアキは何やらメモを取っているようだ。
そして二口目。
今度は先端ではなく、トッピングのチョコとさくらんぼもいっしょに口に運ぶ。

「そうね・・・、あえていえば・・・。
 生クリームのバニラエッセンス、もうちょっと控えてもいいかも。
 ちょっと主張し過ぎの気がするな・・・。
 さくらんぼの甘みは、もうちょっと抑えたほうがいいかも・・・。
 リキュールより、オーソドックスだけどブランデーのほうがいいんじゃないかな。
 そうねぇ・・・、トータルで・・・、85点、くらいかな」
「ほんとに85点!?」
「え?」

目を輝かせて応えたのはヒデアキだった。

「こいつなんだよ、今日の」

ナオトが笑いながら言う。

「いやぁ、アスカちゃんに85点もらうなんて、俺もようやくここまで来たって感じだぜ!」
「やっぱりぃ・・・。
 だから、スポンジのネタ、いつもと少っし違う感じしたんだ・・・」
「はははっ、さすが。
 でも、合格でしょ?  ね、オーナー?」
「そうだね、80点以上もらえたし」
「やったぁッ!」
「どういうこと?」

小躍りして喜ぶヒデアキと、苦笑するナオト。

「こいつがね、クリスマスに出す新作、作らせろっていうんだ。
 だから、アスカちゃんに80点以上もらえたらって約束したんだよ」
「へぇ・・・、おめでとう、ヒデアキさん」
「ありがとう!
 いやぁ、自信付いたよ、ホントありがとう!」

ヒデアキはアスカの手を取ってぶんぶん振り回した。

「お調子物。
 いつまでも浮かれてないで、ほら、仕事仕事!」
「はいっ!
 やっほぉう!」

ぴょんぴょん飛び跳ねながら奥へ消えて行くヒデアキの背中を見送るアスカ。

「もう10点ぐらい減らしといたほうが良かったかしら?」
「かもね」

2人は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

「さてと、それで今日は?」
「あ、そうだ」

アスカは今日の目的の物をナオトに頼むと、出された試作品の残りを食べはじめた。
最後の一口を食べ、紅茶を飲み干した頃合いを見計らってナオトがケーキを詰めた箱を出してくれる。
受け取って代金を払ったアスカは、傾けないようにそっと篭にしまうと『アンジェリカ』を出た。


 アスカがコンフォート17マンションに帰って来た時、ちょうど入れ違いにミサトの青いルノーが出て来た。
運転席にはリョウジが座っていた。

「よぉ、アスカ」
「あれ、加持さん、今から仕事?」
「いや、ミサトだよ。
 さっき病院から連絡があってな、いよいよらしい」
「きゃぁ、やったじゃん!」
「そんなわけでちょっと行って来るよ」
「ミサトに頑張ってって言っといてね」
「おう、じゃぁ」

ルノーは水素エンジン車特有の排気音を残して走り去って行った。

「ケーキ、余っちゃうじゃん・・・」

アスカは今日の日付を思い、買い物かごの中のケーキの箱を見て苦笑を浮かべた。


 エレベーターを上がって11階。
ホールを出て通路を歩いた最も端、1101号室がアスカの家だ。
ドイツから日本に来て以来ずっと葛城家の居候として住み続け、ミサトが結婚してからは自分の家として住む、アスカの日本での生活全てを過ごして来た場所だ。
ドイツの両親とは完全に疎遠で帰る気すらないアスカにとっては、この家こそが実家であり帰るべき場所だという想いがあった。
カードキーを出して、スリットに通そうと思って手を止めた。

「何、これ?」

ドアに封筒が張り付けられていたのだ。
裏を見ると「隣人より、愛を込めて」と書かれている。

「加持さん?」

アスカは食材をテーブルに置くと、ユイカと並んでお昼寝中のレイを起さないようにそっと椅子に座って、封筒を開けた。
出て来たのは一枚の手紙と奇麗に包まれた小さな箱。




 アスカへ

   誕生日おめでとう。

  急なことで、直接渡せなくなってすまん。

  何がいいか解らなかったので、何にでも使えるように商品券にした。

  ありきたりですまんな。

  まさかうちの子がアスカと同じ日に生まれるとは思わなかったよ。

  じゃぁ、時間がないのでこれで。


隣人より、愛を込めて。  




「加持さん・・・」

よほど急いでいたのか、加持らしからぬやや乱れた文字で書かれた手紙。
アスカは視界がにじむのを感じた。


 ユイカの鳴き声に、手紙をおいて席を立つ。
既に慣れたもので、レイがさっさと新しい紙おむつを用意していた。

「あ、さんきゅ、レイ」

レイは軽く微笑んで返すと、手際良くおむつを代えていく。
安心したアスカは、夕食の準備をしようとキッチンに立った。
邊 ぴんぽ〜ん

呼び鈴の電子音にアスカは、コロッケの包みを置くと、インターホンの受話器を上げた。

「はい」
『こんばんは、私よ』
「ヒカリ?」

玄関を開けると、そこにいたのはヒカリだけではなかった。

「アスカ」
「「「「「「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」」」」」」

コダマ、ヒカリ、ノゾミ、トウジ、ハルミ、ケンスケ、マコト、マヤ、ゲンドウ。
そうそうたるメンバーがそこにいた。

「晩ご飯、まだでしょ?」
「うん、でも・・・」
「気にしない気にしない。
 上がらせてもらうわね」

ぞろぞろと上がり込むと、手にした物を広げはじめる。
あっという間に準備が整った惣流家で、アスカの誕生パーティーが始まった。

「先輩はミサトさんの方に行っちゃったけど、これを預かってるから」

マヤはみんながプレゼントを渡しはじめたところで、鞄からリツコのプレゼントを出して、アスカに渡した。

「みんな・・・、ありがとう、みんな・・・」

堪え切れなくなったアスカは、ポロポロと涙をこぼしはじめた。

「う〜、だぁ〜」

まるでそれを感じ取ったかのように、アスカに抱かれたユイカが手を伸ばし、濡れた頬に触れる。

「そうよね・・・、泣いちゃダメよね」
「うきゃぁ」

涙を拭いたアスカの笑顔に、ユイカが歓声を上げた。


 翌日になって、ようやくリョウジが帰宅した。
夕べはそのままメディカルセンターに泊まり込んでいたらしい。
ちょうど洗濯物を干しにベランダに出て来たところで、隣からたばこの煙が漂って来た。

「あ、加持さん!」
「よぉ・・・」
「おめでとう!
 どっちだったの?」
「女だったよ」

返事に精彩が無い。
明らかに徹夜明けの疲れた様子に、アスカは意外な想いがしていた。

「加持さん、ミサトのこと、本気で好きなのね・・・」
「ん・・・、なぜだい?」
「だって、そんなに疲れてる加持さん、はじめて見た」

話を続けながらも、アスカは手を止めないでいる。
だいぶ主婦業が板に付いて来たようだ。

「そんなにひどいか?」
「加持さん、鏡見たら?」
「ははっ、そんな気力無いな。
 今はとにかく、ミサトよりも布団が恋しいよ・・・。
 さて・・・、寝るわ。
 あ、そうだ、誕生日おめでとう」

手にした灰皿にたばこを押し付けたリョウジは、アスカの返事も待たずに部屋に戻って行った。

「ふふ・・・。
 シンジも取り込まれてなきゃ、ああいう感じだったのかな・・・」

ふっと寂しそうな笑みを浮かべたアスカは、残りの洗濯物を干しに掛かった。


 大晦日といえば紅白歌合戦。
それだけはセカンドインパクトを経験していても変化がない。
一種の国民的行事となったこともあるが、2003年に始まった政府主導による復興事業の一環として、国営放送に働きかけて、日本各地に散らばっていたアーティストを集めて翌2004年に再開されたことも影響している。
混乱というよりは動乱に近い状態だった日本全体が娯楽に飢えていたこともあり、世紀末には驚くほど下がっていた視聴率を一挙に挽回した。
もっとも民放各局がまだまだ放送再開の目処がついていなかったというのもあるにはあるが・・・。
テレビの前にはアスカとレイだけがいる。
リョウジとミサトは、美しく幸せに育て、という願いを込めてミユキと名付けられた子供のこともあり、2時間ほど前に帰宅していた。
親達が晩餐をしているあいだ隣同士に寝かされていたユイカとミユキは、この時が初めての顔合わせだった。
互いに顔を見合わせ、元気な声をあげていたところを見ると、既にこの時その後の腐れ縁は約束されていたように見える。
日本野鳥の会によるカウントが終わり、赤組の勝利が決まった歌合戦が終わると、アスカは大きなあくびをした。

「疲れたのなら、先に休んで。
 後は私がやるわ」
「うん・・・、おねがい・・・」

もう一度大きなあくびをしたアスカは、のたのたと部屋に戻って行く。
レイはその背中に

「おやすみなさい」

と声を掛けたが、アスカは小さく手を上げただけだった。
アスカは昨日今日と、新しい年を迎えるにあたり家の大掃除をしていた。
レイも手伝いはしたが、さすがに広い家、しかもユイカの世話や日頃のたまった家事も一挙に片付けたためか、その疲れはかなりのものだったのだ。
しばらく何をするでもなくテレビを見ていたレイだが、やがてカウントダウンを迎え、2017年になったところでスイッチを切った。
アスカの部屋の襖に小さな隙間を見つけたレイは、締めようとして手を止めた。
よほど疲れていたのか、アスカは着た物を畳みもせずにベッドに潜り込んでいた。
寝ているアスカやユイカを起こさないようにそっと中に入ったレイは、散らかった服を片付け、乱れた毛布を掛けなおしてやると、そっと呟いた。

「明けましておめでとう。
 今年もよろしく」

それをユイカにもくり返したレイは、入って来た時と同様に静かに部屋を出ると、自分の部屋に帰った。


 年が明けて既に3ヶ月。
年度末の忙しさと暇さをない交ぜにした微妙なこの時期、アスカとユイカ親子にとっては大きな問題が迫っていた。
そろそろ産後半年になりつつあるためか、ユイカもだいぶ落ち着きを見せている。
アスカはレイからもらった育児書の他に、何冊かの本を買って来ていた。
そのほとんどが同じテーマ、離乳食に付いて書かれている。
医師はまだまだ早いのではと言っていたが、やはり職場復帰が気になるアスカは、いよいよユイカの乳離れをはじめようというのだ。

「う〜ん・・・、難しいわね・・・」

春分の日の午後、アスカは険しい顔でキッチンに立っていた。
離乳食は、まだ物を噛んで食べるということができない赤ん坊のために、単に飲み込むだけにするため、あらゆる食材をペースト状にして与える。
しかもまだまだ内臓が未発達なため、大人と同じような味付けはできない。
得に塩分には気を使わないと、あっという間に腎不全を起こしてしまうのだ。
また、一時的とはいえ母乳や湯冷まし、果汁、お茶といった液体から、固形物に食事が変るため、胃腸に変調を来して下痢や便秘になり易かったりもする。
単に食べ物をペースト状にすればそれでいいというわけではなく、栄養バランスにも気を配った、非常に気を使う調理をしなければならないのだ。
最初は重湯などの軽い物からはじめ、徐々にカボチャやニンジンのペーストに切り替えるなど、おそろしく根気のいる作業でもある。
アスカがイライラしているのも頷ける話だった。

ぴんぽ〜ん

呼び鈴の電子音に顔を上げたアスカは、ダイニングの壁にあるインターホンの受話器を取り上げた。

「はい?」
『こんにちは、あたしよ、コダマ』
「え、コダマさん?
 今行きます」

玄関に向かったアスカは、扉を開けて驚いた。

「アリサ!」
「ハァイ、元気してた?」
「驚いたわよ、アスカちゃんとアリサが知り合いだったなんて」
「えと、もしかして、産婦人科の看護婦って・・・?」
「そう、私のことよ」
「と、とにかく上がって」

戸惑いながらもアスカは、2人分のスリッパを並べた。

「おじゃまします」

アスカは二人をリビングに案内しようとした。
しかしその手前で足を止めたコダマ達は、キッチンのほうをじっと見ていた。

「早速やってるわね。
 ちょっと見せてね」

振り返ったアスカに言ったコダマは、アスカの返事も聞かずにキッチンに入っていった。

「ふぅん・・・。
 苦労してるみたいね」
「ちょっと・・・、ね」

一目見て解ったのだろう、アリサの漏らした呟きに苦笑を浮かべたアスカは、一番まともにできたと思う物の入った器を取ってアリサに渡した。

「これが一番まとも・・・、かな?」

菜箸を取って、カボチャを煮崩した物を口に運ぶ。

「う〜ん・・・」
「どう?」
「まだちょっと味が濃いかもね・・・」
「これでも?」
「そうね・・・、もうちょっと薄くないと・・・」

コダマもじっくりと味をみて感想を漏らす。

「じゃぁ・・・、こっちは?」

そうやってアスカは、次々と味見をしてもらい、感想を聞いていった。

「悩むことなかったのね」
「どういうこと?」
「これ」

アスカはコダマの問いかけに、一番高い評価をもらった物を指差した。

「一番最初に作ったの。
 何だかよく判らないぼやけた感じになっちゃったから失敗かな、と思ってたんだ」
「そのくらいの味でじゅうぶんなのよ。
 本当は味付け無しで、素材の持つ味だけでもじゅうぶんなの。
 でも、お粥だけは、ほんのちょっと、普通のお茶碗いっぱいに一撮み。
 そのくらいの味を付けてあげて。
 おっぱいも微妙に味があるくらいだから、全く味がないと赤ちゃんがいやがるの」
「重湯はいいの?」
「重湯はちゃんと味があるわよ。
 わたし達の舌じゃ判んないかもしれないけど、赤ちゃんには判るわ」
「そっかぁ・・・。
 ね、まだまだ聞きたいことがあるし、リビングに行かない?」
「そうね」

リビングに移り、アスカの入れたコーヒーを片手にレクチャーが始まった。
アスカが次々と質問し、コダマとアリサが答える。
時には買って来た本を見ながら解説したり、メモを書いたりと、トレーに乗せて持って来たアスカの試作品を見ながら話がはずむ。
ユイカの声にアスカが席をたつ。
ふと窓の外を見たアリサの目に、夕焼けが映った。
もう夕方になっていたのだ。

「あ、もうこんな時間か・・・」
「そう言えばコダマさん、お店はいいの?」

一所懸命にほ乳瓶に吸い付くユイカを抱いたアスカが部屋から出て来る。

「ええ、今日はヒカリとノゾミに任せてきちゃったから」
「じゃぁ、ゆっくりして行っていいのよね。
 アリサは?」
「うん、わたしも今日はオフ。
 次は明日の日勤だから大丈夫よ」
「じゃぁ、2人ともうちで晩ご飯食べていってよ」
「そうね、じゃぁ、ゴチになっちゃおうかな」
「OK。
 アスカちゃん、電話貸してね」
「どうぞ」

受話器を上げたコダマは、自宅に電話を掛けた。

「あ、ヒカリ?
 あたしよ。
 ・・・、うん、そう。
 アスカちゃんとこで晩ご飯頂いて帰るから。
 ・・・そう、・・・、そうよ。
 じゃぁ、よろしくね」

電話を切ったコダマが戻って来る。

「ん〜、かわいいっ!
 ね、アスカちゃん、抱かせてもらっていい?」
「いいわよ」

アスカの腕の中で、ものめずらしそうにアリサやコダマを見ていたユイカは、コダマの手に委ねられても特に変った様子を見せなかった。

「へぇ・・・、人見知りしない子ね」
「まぁねぇ。
 ミサトとかレイとか、いろんな人にお願いしてたから、結構誰でもいいみたい。
 でも、いっちょまえに判るみたいよ、自分のこと見てくれる人かどうかっていうのは」
「ふふっ。
 違うわよ、アスカ」
「え?」

食事の準備のためにキッチンに向ったアスカは、アリサの声に振り返った。

「こんな小さな子供だからこそ、自分を護ってくれる人かどうか、敏感なのよ。
 自分じゃ何もできない、好き嫌いも言えない、伝わらない・・・。
 そんな自分の身を護るために備わった、赤ん坊だけの力なのよ」
「なるほどね・・・」

アスカはキッチンに入ると、冷蔵庫から食材を出して料理を始めた。

自分を護るための力・・・、か・・・。
それって・・・、やっぱりATフィールドよね・・・。
そうね、そうよね。
あれは、誰もが持つ心の壁。
何者にも侵されざる絶対領域。
生まれてすぐは何もできないから、だからフィールドを使うのよ。
そして、成長して必要がなくなったら、やがてその使い方を忘れる・・・。
そして・・・、忘れなかった子供が、適格者と呼ばれるようになった。
それが、アタシと、レイと・・・、そしてシンジ。
あ、鈴原もか・・・。
でもそれは、肉親の魂が込められていたから・・。
レイはまぁ、元が元だから零号機と直接シンクロしてた。
アタシとシンジはそれぞれのママと・・・。
鈴原はちょっと特殊よね、魂じゃなくって、パーソナルパターンのコピーしかしなかったから・・・。
でも、だったらどうして、シンジは取り込まれたの?
あいつのママは、シンジのことを取り込んじゃって、どうする気なの?
・・・10年ぶりに逢った親子だから、ゆっくり話しでもする気かしら・・・。
・・・・・・・・。
バッカみたい。

自分の考えがバカらしくなったアスカは、苦笑を浮かべた。



二〇一七年三月二十二日、大本営発表。

本日〇八〇〇時、アスカとユイカは、惣流家において交戦状態に入れり。

「お願いだから食べてよぉ!」
「ぶぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

母乳から少しづつ比率を変えて、果汁やスープ、重湯などへ切り替えて来るまでは順調だったユイカだったが、いよいよ固形物の離乳食になってくるとむずがりはじめた。
最初はスプーンに慣れさせるために、ミルクをスプーンで飲ませるなど、いろいろと工夫をしていたのだが、お粥や野菜などになると、とたんに嫌がるようになったのだ。

 6カ月頃であれば、まだまだ母乳やミルクもあげていると思いますが、その時間帯は決まっているでしょうか?
お腹がすき過ぎている時には赤ちゃんは泣いて、離乳食よりも口にすることが楽なミルクのほうを欲しがります。
そんな時は無理強いせずに、少しミルクを飲ませてお腹や気持ちを落ち着かせてから、離乳食を食べさせてみましょう。
ちゃんと食べたら、次の離乳食は少し早めにあげるなど、ゆっくり焦らずに食事のリズムを作っていくことです。

「なるほどね・・・」

アスカは困ったことがあると本を開き、ネットを検索し、次々と作戦を立てては離乳食を食べさせるべく戦いを挑んでいた。
そしてユイカは、泣き、喚き、時には口に入れた食べ物を吐き、手を振り回して器をひっくり返し、傍若無人の抵抗ぶりで応戦した。

「もうダメ、ダメ、絶対ダメよっ!
 めっ!!」
「びえぇ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

一進一退の戦線は膠着状態に入り、8日間が経過した。



二〇一七年三月三十日、大本営発表。

本日一四二三時、アスカは、ユイカにニンジンとカボチャを食べさせることに成功せり。
尚、ユイカは胃腸の不調を訴えたるものの如し。

「ほぉら、これならいいでちょ?」
「んきゃぁ!」

ミルクに慣れているユイカの舌に思い至ったアスカは、離乳食にごくわずか粉ミルクを混ぜてみた。
それを敏感に感じ取ったユイカは、少しづつだが離乳食を食べるようになったのだ。
味付けを薄くすることだけにこだわったアスカだったが、逆転の発想でユイカの好みの味を付けてみたのだ。
きっかけは意外なところにあった。
ある日『アンジェリカ』に立ち寄ったアスカは、ナオトからユイカ用に作ったと言ってプリンを渡されたのだ。
どうやらアリサからタエコ経由で、アスカの苦労話がナオトに伝わったらしかった。
糖分も何も入れない、逆にちょっとミルクを増やしてババロア風の味付けで、当然カラメルソースもかかっていない素材の味だけで作ったプリンだったが、ユイカはそれがお気に召した様子で、キャッキャと喜んで口にした。
それをヒントに考えたのが、ミルク入り離乳食だったのだ。

 離乳食を始めたばかりの頃の下痢はよくあることで、それまでおっぱいやミルクしか飲んでいなかった赤ちゃんの胃腸が変調を来すことがあります。
また飲むこと主体の時期から食べること主体の時期へと移り変わると離乳食の量が増え、水分量や腸内細菌の構成が変わることで、下痢になったり便秘になったりするのです。
下痢ぎみならお粥やうどんなどの穀類を増やし、逆に便秘なら水分と繊維質の野菜を多く摂り、腸を刺激してあげるといいでしょう。

「ふやぁ〜っ!
 びゃぁ〜〜〜〜っ!!」
「はいはいはい、どったのかなぁ?」
「どう?」
「やっぱダメ・・・」
「まぁ、よくあることよ」

アリサに相談し、様子を見に来てもらったのだが、おむつの中を確認したアリサは、事も無げに言ってのけた。

「よくあることなの?」
「そうよ。
 気にすることないわ。
 お腹が離乳食に慣れれば、こういうこともなくなるから」
「そっかそっか」
「うきゃっ、う〜、だぁっ!!」

親の心配をよそに、後始末をしてもらって気分爽快のユイカの元気な声が響いた。





ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 はい、第壱拾八話をお届けします。
今回は、前回の話の続きからほぼ5ヶ月ほどの期間のお話しです。


 まずは前回の話しの残りを片付けました。
そう、給与や給付金、遺産などのお金にまつわる部分です。
私は両親とも健在で、しかも独身ですから、このようなところは体験したわけではありませんでしたので、いろいろと資料をあたりました。
まさかアニメの二次創作を書くのに六法全書まで調べる羽目になるとは思いもしませんでしたがね(笑)


 それと同時に、ゲンドウとユイカの初顔合わせです。
面白いことにどんなに厳しい父親でも、孫ができるとコロッと変わるものでして、私の妹が結婚して子供が、つまり父にとっての初孫ができた時の父の変り様ったらありませんでしたね(笑)
それまでどんなに突っ張って若いつもりでいた人でも、「おじいちゃん」と呼ばれるようになった途端、好々爺風になってしまうんですよ(苦笑)
特にゲンドウは愛情表現が下手で、シンジに対して負担を掛け続けていたことは自覚しているわけで、それでもこうして好きな子ができ、その子と結ばれ、子供を授かるまでに成長してくれたことが、嬉しくないはずがありません。
もっとも、「おじいちゃん」と呼ばれて固まるあたり、ユイの言う「ゲンドウさんにも可愛いところがあるんですよ」という台詞を裏付けてますよね(笑)


 『ほらぎや』と『アンジェリカ』のくだりは、その後に続く離乳食への伏線張りです(笑)
ヒカリ達の父親ですが、3人娘が新幹線なら、父親は特急列車ということで、いろいろと考えたんですが、まさかアズサやシナノ、ハツカリといった妙ちきりんな名前にするわけにもいかず、かといってツバメやカモメじゃどちらかというと女性かなと思い、由緒在る特急、かつ今もお目にかかることのできる富士からとってフジオとしました。

 さて、『ほらぎや』はともかく『アンジェリカ』に付いては、勘のいい人はもうお解りですよね?
はい、そのとおり、元ネタは『アンティーク』です(爆)
でもストレートじゃ面白くないので、二人の名前を入れ替えてます(苦笑)
もちろん外見と年齢も、見てのとおり入れ替えです(笑)
だからナオトの妻がタエコなんです(爆)
ここのあたりで、ちょっとこの世界の世相を折り込みました。
実際物価上昇はこういう感じになると思いますし、お札も五万円札は今から既に言われています。
唯一肖像画には悩みましたが、過去に現行紙幣の改定が噂された時、実際に名前のあがった人物を並べてみました。
皆さんはどう思われますか?(^^;
しかし、まさか野口秀雄(1000円)と樋口一葉(5000円)とは思いもしませんでしたね(笑)


 さてみなさん、2016年12月最初の日曜日、何日か解りましたか?(笑)
確認することができる人は、チェックしてみてください。
※Windowsの時計設定画面なら、簡単に確認できます。
そんなわけで挟んだのがこのエピソードです。
その分、割を食ったというか、ミサトの出産に付いては、さらっと流れてしまいました(笑)
まぁ、第壱拾六話のこともありますし、同じようなのが重なっても・・・、ねぇ・・・(苦笑)

 続いてようやく今回の話の本題、ユイカの乳離れです。
最初の離乳食に付いては、結構疑問があるでしょうね(苦笑)

『独身のお前が、なぜここまで知っている?』

お答えします。
ネットで調べました(笑)
ネットが普及する前なら、本屋に行って買って来るとか、図書館に行ってメモって来るとか、経験者に聞くとか、そういう下調べが必要だったことでしょう。
しかし今は、ちょっと検索を掛ければすぐに欲しい情報が手に入ります。

『子供やら嫁サンどころか彼女もおらん奴が、ナンで離乳食なんか調べるネン?』

などという怪訝な視線に晒されることもなく、昔なら女性の井戸端会議でしか知り得なかったようなネタをも知ることができます。
ホント、便利な世の中です(笑)

ちなみに今回主に参考にさせて頂いたサイトはこちらです。

ISIZE BABY 」 http://www.isize.com/baby/

もっとも、ネット検索もまだまだたいしたこと無いというか、「経験者の一言に勝る情報は無い」というのを実感できることもありました。

 前話で、妊娠中のミサトに、ユイカに授乳させていますが、あれはすごく危ないことで、流産や早産を起すこともあるそうなんです。
なんでも、母体の子宮が妊娠中の膨らんだ状態から元に戻るのと、授乳行為とがリンクしているらしく、授乳中には子宮が縮む動作をするんだそうです。
つまり、授乳の時には子宮が縮んで、お腹の中の赤ちゃんを「ぎゅッ!」と締めあげちゃうことになるんだとか・・・。
そんなわけで、例えば第二子、第三子などを妊娠中に上の子に母乳をあげる、というようなことはものすごく危険ですから、絶対に禁止で、こういう時は母乳ではなく、ほ乳瓶からミルクをあげるようにしなくてはいけないのだそうです。

「ミユキちゃん、だぁいぴぃ〜んちっ!!」

ということで、良い子の皆さん、じゃなくって、良い母親の皆さん、絶対にミサトの真似(妊娠中の授乳)はしないで下さいね(^^)/

情報をくださった N.O. さん、ありがとうございました。
おかげ様で、あちこち怪しい部分を書き直すことが出来ました。
それでもなおかつおかしな部分があったとしたら、それはひとえに私のふがいなさですので、どうかご勘弁を(^^;





次回予告

 シンジのようでもあり、自分のようでもあり、アスカのようでもあるユイカ。
ユイとレイの、二つの心の間で揺れ動く想い。
見つめるレイの目には、ユイカはどう映っているのか。



次回、第壱拾九話 「アスカとレイの子育て日記」・その4
EPISODE:04 Rei I
〜 想いの重さ・前編 〜


私にできるのは、あなたの幸せを願うことだけ・・・ ( -_- )
 By Rei Ikari

でわでわ(^^)/~~