ミサト達が発令所に駆け込んだ時には、そこに修羅場があった。 メインスクリーンに真っ赤な文字が表示され、アラームが鳴り響いている。 『第六ゲート、音信不通!』 『第七ゲート、応答しません』 「左側、青の非常通信に切り替えて。 衛星を開いてもいいわ。 右は?」 「外部との全ネットが一方的に遮断されています」 「目的はMAGIね」 受話器を置いたリツコに、シゲルが報告を上げる。 「全ての外部端末からデータ侵入、MAGIのクラッキングを目指しています」 「松代のMAGI2?」 「それだけではありません。 ドイツ、中国、アメリカの各支部、MAGIタイプ5機からの侵入が認められます」 「総力戦ね・・・、分が悪いわ」 「赤木博士、MAGIの占拠は本部のそれと同義だ」 「はい、プロテクトを掛けます」 リツコは端末を掴むと、一段下のMAGIのあるフロアに駆け降りた。 すぐさまスイッチを操作し、筐体を浮上させる。 ハッチを開けて潜り込んだリツコはケーブルを繋ぐと、ものすごいスピードでキーボードを操作しはじめた。 「日本国政府から、A801の発令を確認」 「A801?」 「特務機関NERVの、特例による法的保護の破棄、及び指揮権の日本政府への委譲。 最後通告ですよ、これ」 「まさに四面楚歌、か・・・」 冬月はかがみ込むと、ゲンドウに耳打ちした。 「連中は、この施設とエヴァ2体を直接占拠するつもりだな」 「リリス、そしてアダムもこちらにある」 「老人達が焦るわけだ」 「葛城3佐」 ゲンドウは顔を上げるとミサトを呼んだ。 「はい」 「恐らく戦略自衛隊が動く。 いかなる方法を持ってしてもかまわん。 敵を一歩たりとも入れるな」 「はい・・・、敵を確認次第・・・」 「かまわん、先制攻撃だ」 「しかしそれでは、相手に口実を与えます」 「今はここを守ることだけを考えろ」 「はい」 ミサトは振り返るとマコトの肩に手を掛けた。 「日向君、周囲の状況は掴んでる?」 「はい、クラッキング直前のデータしかありませんが」 「それでいいわ。 どんな感じ?」 「少なくとも第三新東京市周辺5キロ四方に、約1個師団の戦力が展開。 外輪山の向こう、御殿場側に更に1個師団。 厚木には戦闘機2個飛行隊、VTOL2個飛行隊、重爆撃機1個飛行隊が展開、待機中です」 「やるしか無いか・・・」 その時メインスクリーンに表示されたMAGIの表示が、一面の赤から緑に変った。 「MAGIへのクラッキング、停止しました。 Bダナン型防壁を展開、以後62時間は、外部侵攻不能です」 「さぁて、今度はこっちの番よ」 「葛城さん、いい方法がありますよ」 「日向君?」 「先に撃たせればいいんですよね、連中に?」 「そりゃまぁ・・・、ね」 「ヤシマ作戦の時の残り物なんですが・・・。 こことこことここ、無人の自走砲があります。 これを連中の鼻先に出してやれば」 「びっくりして撃って来るか」 「はい」 「そんな、相手は使徒じゃないのに!」 「伊吹2尉、やらなきゃ死ぬのよ」 「そんな!」 「あなただって、銃を打つ訓練くらいしてるでしょ?」 「でも、その時は相手は人じゃありません!」 あくまで冷静に、いや冷徹に事実を告げるミサトに、マヤは涙交じりに叫び声を上げた。 「死にたければ勝手に死んで。 あたしは生き残るわよ、みんなでね」 これ以上言っても無駄と思ったか、ミサトは顔を上げるとスクリーンに映った戦自部隊を睨み付けた。 「日向君、やって!」 「了解!」 マコトはコンソールに指を走らせた。 『碇はMAGIに対し、第666プロテクトを掛けた。 この突破は容易ではない』 『MAGIの接収は、中止せざるをえないな』 『でき得るだけ、穏便に進めたかったのだが、致し方あるまい。 本部施設の、直接占拠を行う』 命令が伝えられた将兵達が動き出す。 その途端、山間部の偽装されたシャッターが警報音と共に開き、自走砲が走り出してきた。 それは途中で道を外れると、目の前にあったガードレールを踏み越えて野原に飛び出した。 「な、何だあれはっ!」 「くそっ、気付かれたぞ!」 「う、撃てっ、撃てぇっ!」 草むらに隠れていた兵士が立ち上がると、カール・グスタフを構えてトリガーを引いた。 砲弾は、狙いあまたず自走砲を捉える。 「目標破壊!」 「第8管区の自走砲、破壊されました、交戦規定クリア!」 「全ステーション、各個に射撃開始!」 兵装ビルのハッチが開く。 山の斜面に偽装されたシャッターが開く。 無人自走砲が砲身に仰角をかける。 擬装ヘリポートからVTOLが飛び立つ。 そしてほぼ同時に、一斉にミサイルや砲弾、ロケット弾が発射された。 野戦通信機の受話器を戻した兵士が頷く。 確認した中隊長は、背後に控えた小隊長達に指示を出した。 「行くぞ、予定通りだ」 「はっ」 「敵ミサイル、急速接近!」 「何っ!?」 直後、爆発の炎が世界を支配した。 VTOLのコックピットに座った編隊長は、眼下を指差した。 隊列を組んで侵攻して来る戦車隊を確認した列機のパイロットが、サムアップを返す。 パッと編隊を解いたVTOLは、機体を急降下させた。 「敵機直上! 急降下っ!!」 「対空射撃っ!」 降り注いだロケット弾が、路上に煉獄を出現させた。 『 Merk01, Clear to take-off. Runway19 Wind180-22 QNH2970, (マーク01編隊、離陸を許可する。 使用滑走路は19番、180度の風、22ノット、気圧高度計設定29,70mmhg ) なっ! 何だってぇっ!?』 『 Atsugi tower? 』 (厚木管制塔?) 『 Emergensy, Emergensy! Airborn Alart, Missile is come! 』 (緊急警報、緊急警報! 空襲警報、ミサイルが来る!) 『何っ!?』 『ミサイルだっ! 総員待避、総員待避っ!』 管制官の警告もむなしく、着弾したミサイルが次々と炸裂する。 巨大なミサイルや爆弾を搭載した機体が誘爆し、被害を拡大した。 『 Thunder05各機、NERVのハエ共を叩き落とすぞ! Attack, now! 』 編隊長の指示にブレイクした F-22J は、地上部隊を攻撃しているNERVのVTOLに狙いをつけると、それぞれがミサイルを発射した。 気付いたVTOLは、慌てて機体を翻すとチャフとフレアーを播いて抵抗した。 避け切れなかった1機が火球に変る。 しかし避けた1機もバルカン砲の一斉射で機体を砕かれ、コマのように回転しながら地面に激突した。 『各自散開の後、敵バリケードを突破。 エヴァパイロットは発見次第射殺。 非戦闘員への無条件発砲も許可する。 かかれっ!』 無線の声に、戦自隊員達が突撃態勢に入る。 通路に置かれたバンの周りに立っていたNERVの職員は、さっと身を翻すと通路の奥へ走り去った。 「ふん、腰抜け共が!」 嘲笑を上げた兵士が立ち上がった途端、バンが弾けた。 仕掛けられたクレイモア対人地雷は、そこにいた戦自将兵全てを肉塊に変えた。 戦自の攻撃を退けつつ、MAGIにプロテクトを掛けたことで外部との通信系を復帰させることが出来た発令所。 それまで富士山頂の測候レーダーの画像しかなかったメインスクリーンに復活した状況表示に、多数の輝点が映し出される。 「太平洋上から飛行物体、総数192! ほぼ8個飛行隊相当です!」 「何者!?」 「識別信号解析中・・・、出ました! 国連海軍航空隊です!!」 『 NERV COMMAND CONTROL, This is CAG of "Over The Rainbow", How you read me? 』 (NERV作戦指揮所、こちら『オーバー・ザ・レインボー』航空隊長、応答願います) 「は?」 『 NERV COMMAND CONTROL, This is CAG of "Over The Rainbow", Commander Simon. How you read me? 』 (NERV作戦指揮所、こちら『オーバー・ザ・レインボー』航空隊長サイモン中佐。 応答願います) 「 This is NERV COMMAND CONTROL, Operator 1st Lieutenant Hyuga 」 (こちらNERV作戦指揮所、オペレーターの日向1尉です) 『 Oh! You'v be fine, OK OK! I think you wont to help. Deliver it now! 』 (お! 無事だったか、OKOK! 助けがいるんじゃないかと思ってな。 届けに来てやったぜ!) 「なんだって!?」 陽気な声に、マコトは驚きの声を上げた。 「国連海軍太平洋艦隊旗艦『オーバー・ザ・レインボー』から入電!」 「スクリーンに出して!」 『 Has been long time, Each you of NERV 』 (久しぶりだな、NERVの諸君) 『 Rear admiral Duglus! 』 (ダグラス提督!) 『 We support your mission. This is offering for our Goddess of help, Aska 』 (君達を支援する。 これは我らが救いの女神、アスカへの手向けだ) 『提督・・・』 『なぁに、あの子の活躍がなければ今の我々はない。 その恩を返すだけのことだ』 目を潤ませるミサトに、ダグラスはウインクを返した。 「国連海軍航空隊、戦自部隊への攻撃を開始しました」 「芦の湖上空、空中戦が始まっています」 『湿っぽい話はここまでだ。 積もる話は作戦が終わってからにしよう。 攻撃隊が欲しければ、今送ったミッキーの隊以外もいくつか用意している。 今回ばかりは自沈させる戦艦は無いが、航空隊はたっぷりあるぞ。 好きなだけ言ってくれ』 「はい、遠慮なく」 極上の笑みで答えたミサトの返事と共に通信が切れる。 司令席で会話を見守っていた冬月は、感心したように息を吐いた。 「国連にも漢はいるのだな」 「ああ、人類もまだまだ捨てたものではない」 冬月の呟きに答えたゲンドウは、ニヤリと笑うと眼鏡のズレを直した。 艦橋のスキップシートに座ったダグラスは、シートに背を預けると、傍らのマグカップを手に取った。 カップの丸い跡の横には、赤いプラグスーツを着た少年と少女の写真が飾られていた。 「救いの女神、か・・・。 まさか、本当に神様になってしまうとは思いもしなかったがな・・・」 「司令、NERVから支援要請です」 「はっはっは! さっそくか。 本当に遠慮を知らん女だな、葛城3佐は。 それで何と?」 楽しげに笑ったダグラスは、コーヒーを一口すすった。 電文綴りを持った3等兵曹は、目を落とすと内容を読み上げた。 「はっ、富士吉田方面から山越えで移動する敵部隊を確認、支援攻撃を求む、です」 「解った。 次は誰の番だったかな?」 「はっ、『エイブラハム・リンカーン』のクルーズ中佐が指揮官です」 「なんてこったぁ! 暴れん坊の<マーベリック>か!! ミラマー帰りで最近暴れとらんから鬱憤が溜まっているだろう。 好きなだけ暴れて来いと伝えてやれ」 「はっ!」 『CICから<マーベリック>。 攻撃命令が出た、直ちに発艦せよ』 「了解! 待ってましたぁっ!」 『追伸、艦隊司令より、好きなだけ暴れて来い、だ。 御墨付きが出たぞ』 「よっしゃぁっ!!」 笑いながらメッセージを伝えてくれた管制官の声に、機体番号 NL100 を付けた Su-37K のコックピットでガッツポーズをしたトーマス<マーベリック>クルーズ中佐は、誘導員の手信号に従ってカタパルト前まで機体を進めた。 機体背後にブラスト・デフレクターが立ち上がる。 デッキクルーが走りまわり、フックがシャトルにかかっているのを確認して機体から離れる。 カタパルト・オフィサーはそれを確認するとサムアップを送り、敬礼した。 クルーズもサムアップと敬礼を返す。 機体の斜め前方で背を低くしていたイエロー・ジャケットが腕を伸ばし、手首から上をぐるぐると回す。 クルーズはスロットルを進めてフルパワーにすると、射出に備えてぐっと身構えた。 イエロー・ジャケットの腕が振りおろされる。 それにあわせてカタパルト・オフィサーがスイッチを入れた。 一気に開放された蒸気の力がピストンを押し、シャトルに銜え込まれたブライドル・フックを引っ張る。 ほんの数十mを走るうちにそれは、30トン近い機体を時速300キロ近くにまで加速する。 十分に加速された機体が飛行甲板を蹴って飛び出す。 すぐさまランディング・ギアを畳んだクルーズは機体を一回ロールさせた。 「調子がいいようだな」 「今日の『マーベリック・ロール』はキレがありますね」 「いつまでも若い奴だな・・・。 あぁ、そうそう、副長」 「は?」 「帰りの『マーベリック・ロール』は禁止だ、そう伝えておけ」 「はぁ・・・。 しかし、やっこさんがそれを守りますかね?」 「なぁに、守らなきゃまた」 また1機、艦載機が発艦して行く。 「ミラマーに送り返してやるさ」 「なるほど」 艦橋横のキャットウォークで発艦を見送る『エイブラハム・リンカーン』艦長のレイモンド・A・スパークス大佐は、横に立った副長のマイケル・ミッチャー中佐にウインクしてみせた。 ケイジに隣接したパイロット控え室で待機していたシンジは、刻一刻と変る状況すら耳に入らずにいた。 何度も何度も、手を握っては開き、開いては握り、時たま思い出したようにモニターを眺め、また手を握る。 「碇君」 「・・・・・」 「碇君」 「・・・・・」 「碇君」 「・・・・・」 レイが何度呼び掛けても気付かない。 レイはきゅっと下唇をかむと、意を決したかのように大きく息を吸い込んだ。 「ばかしんじっ!」 「えっ!?」 ようやく気付いたシンジが顔を上げると、レイの真紅の瞳がじっと見つめている。 「なぜそんなに緊張しているの?」 「だって・・・」 「人と人が殺しあうから?」 「・・・・・・・うん」 「私達が使徒と呼んでいたのも人。 今までだって人と人が殺しあっていたわ」 「でも、でも・・・、だって・・・、今度は同じ姿をした」 「霧島さんもそうだったわ」 「くっ!」 シンジはぎゅっと目を閉じた。 「死ぬのはいや?」 「そんなの・・・、そんなの当たり前じゃないかっ!」 「あなたは死なないわ、私が守るもの」 「でも・・・、でも・・・」 「私が信用できない?」 「そんな・・・、そんな・・・こと・・・。 そんなことあるわけないじゃないか・・・・」 自分を真直ぐに見つめる目線が痛い。 「じゃぁ、どうして?」 「もう・・・、もうこれ以上、人が死ぬのを見たくないんだよ。 誰も死んで欲しくないんだよ」 「でも、戦わなければ死ぬのは私達。 あの人達は、私達のことを人とは思っていないもの」 レイが見つめるモニターに、装甲シャッターを破って侵入してきた戦自隊員の姿が見えた。 『Fブロックから侵入者!』 『第4から第7までのゲート、応答ありません!』 『Bブロック、通信途絶!』 「上の騒ぎは陽動!?」 「裏をかかれましたね」 「葛城3佐」 「はい」 ゲンドウの声に、ミサトが振り返る。 「第3層までを破棄、全職員を下がらせろ。 通路にベークライトを注入だ」 「はい。 聞いてのとおりよ、すぐにやって」 「意外とてこずるな・・・」 「連中も必死でしょうからね。 だいいち、我々の仕事に楽なんて言葉はありませんよ」 「しかたない、予備兵力も投入しろ。 一気に片を付けるぞ」 「はっ!」 野戦指揮所のテントで状況をモニターしていた司令官は、傍らに控えた幕僚に指示を出した。 「第4連隊に指令、檻に入れ、だ」 「了解!」 「通信兵、犬千代を呼び出せ」 「はっ!」 『信長から犬千代、犬千代』 『こちら犬千代』 『檻に入れ、檻に入れ、どうぞ』 『了解』 「つかまえたぞ!」 「どこだ?」 EA-6B の偵察員席に座ったエミール・シュタインホフ中尉は、微弱な電波が発信されるのを捉えることに成功した。 「ヘディング217、レンジ04」 「ワイルド・ウィーゼルに連絡しろ」 「了解」 初飛行から半世紀以上を経た骨董品ながら、艦上機としては今も電子戦能力はピカ一の EA-6B プラウラーを操る機長のアンソニー・ハドソン少佐は、接触を失わないように気を使いながら、ゆっくりと機体を旋回させた。 『ラジオ・ウォッチャーからスナイパー05、ターゲット確認。 敵の野戦司令部だ。 ヘディング140、レンジ22、派手にやってくれ』 『スナイパー05、了解』 指示を受けた2機の F/A-18G が翼を翻して降下するのが遠望できた。 『お次はカッパーマイン、ターゲットは敵の連隊規模の地上部隊。 ヘディング298、レンジ18、ソドムを体験させてやれ』 『カッパーマイン・リーダー、了解』 「犬千代から信長、信長」 『こちら信長』 「犬千代はこれより檻へ突入」 『信長了か、なっ、なんだっ!?』 「信長、どうした、信長?」 それきり通信が途絶えてしまった。 犬千代の呼び出し符合を持つ第4連隊の通信兵が険しい表情を浮かべた瞬間、連隊指揮所になっている高機動車の外で叫び声があがった。 「上空敵機!」 「いかん、早くトンネルに入れ!」 「穴に逃げ込むたぁ、ウサギかよ?」 「一発ぶち込んでやれば?」 「おいおい、いいのか?」 「NERVからは、上だったら何やってもいいって言ってきてるらしいよ」 「OK、わかった」 後席のシンタロウ・カザマツ・ホワイト少佐に軽く頷いたゲオルギー・ゲイツェンスキー大尉は、スティックとフットバーを操作すると、愛機 F/A-18F NL301号機の機首を軸線に向けた。 「レーダー、ロックオン。 レーザーセンサーOK。 シーカー作動、行くぜ!」 ゲイツェンスキーはスティックについたボタンを押した。 主翼にぶら下げた Mk84 2000lbs 誘導爆弾が投下される。 レーザービームに乗って真直ぐにトンネルの開口部を目指した爆弾は、入り口から10mほど入った所で地面に激突、0,5秒後に信管を作動させた。 続いてキム中尉とボーグナイン大尉の乗る2番機が、外に取り残されて逃げ惑う戦自第4連隊の頭上に CBU-30 クラスター爆弾を投下したのを皮切りに、立て続けに14機が攻撃を仕掛ける。 「ホワイトウルフよりカッパーマイン各機、ミッション完了、帰投する」 投弾を終えた16機は、編隊を組むと洋上の空母に機首を向けた。 「戦自の様子がおかしいわね・・・」 「何か、混乱しているようですね」 『太平洋艦隊から入電、敵指揮所と後詰めの地上部隊を発見、排除した、です』 「なるほど、頭をもがれちゃったか。 チャンスね、一気にやりましょ」 ミサトは司令席を振り返った。 「司令、上層の自動防御システム作動の許可を」 「反対する理由はない、やりたまえ」 「はい。 日向君」 「了解です」 マコトはコンソールにあった赤いカバーを跳ねあげると、中にあったボタンを押した。 電気信号を受けたMAGIは、データバンクにあるファイルを拾い出し、記述された命令通りの信号を防御システムに流した。 センサーに反応する全ての移動物体を攻撃するという自由を与えられた防御システムは、忠実に命令を実行した。 壁から迫り出したマシンガンが発砲した。 壁に仕掛けられた対人地雷が炸裂した。 突然床が抜けた。 釣り天井が落ちた。 隔壁が閉鎖され、特殊ベークライトが流れ出た。 高出力レーザーが光った。 2450Mhz の高出力マイクロ波が照射された。 気化燃料ガスが流され、火花が飛んだ。 5分後、ジオフロント内には侵入者がいなくなった。 『なかなかやりおる・・・』 『やはり毒は、同じ毒を持って制すべきだな』 南シナ海。 突然海面が泡立ち、巨大な戦略原潜が浮上する。 『Крышка открыть. Ракета приготовить』 (ハッチ開放 ミサイル準備) 『Приготовить закончить!』 (準備よし!) 『Огонь!』 (発射!) タイフーン級戦略原潜の発射筒から白煙が立ち上り、SS-N-21 弾道弾が発射された。 いったん成層圏まで上昇したミサイルは、そこでカプセルを開放すると、弾頭を切り離した。 3つの再突入体は、大気の摩擦に赤熱しながら、真直ぐ第三新東京市を目指した。 『上空に弾道弾!』 『国連軍に警報を出してっ! 迎撃システム作動!』 『だめです、間に合いません!』 閃光が一帯を支配し、続いて熱と暴風と振動が荒れ狂う。 絶え切れなくなった特殊装甲板が膨らみ、内側に向けて破裂した。 「電話が通じなくなったな・・・」 「つい先程、弾道弾の飛来を確認しています」 「なんという事だ・・・。 我が方の損害は?」 「現在確認中です」 「地上部隊への警告も無しにN2兵器を使うとは・・・。 いったいゼーレは何を考えているんだ・・・?」 第二新東京の中心にある首相官邸。 呆然と呟いた日本政府の代表者は、ツーという音だけが流れる受話器を見つめ続けていた。 「教えてあげましょうか、ゼーレが何を考えているか」 「なんですか、あなたは? ここは首相執務室ですよ」 「知ってるよ。 その前川首相閣下に用事があって来たんだから」 女性秘書官にウインク付きで笑顔を浮かべた男は、首相に向き直った。 「構わないよ、杉田君。 内務省の万田君から報告は受けている。 一対一で話がしたい」 首相は手で合図して秘書を下がらせた。 「被害状況の把握、急いで!」 「連中は手加減って物を知らないのかよ」 「これがゼーレのやり方だ」 「ふん、無茶をしおるわい」 「国連軍の偵察機から入電、上空に機影を確認、総数9!」 「何者?」 「ウィング・キャリアーの模様!」 「碇・・・」 「あぁ、エヴァシリーズだ。 葛城3佐、エヴァ各機に出撃命令。 迎撃にあたらせろ」 「はい・・・」 キャリアーから投下された白いエヴァは、翼を広げると滑空を始めた。 やがてそれは、N2兵器の爆発でできた穴の上空を、鳶が獲物を狙うように旋回しはじめた。 「我々の仕事はもうないな・・・。 残存の全攻撃隊に帰投命令を」 報告を受けたダグラスは、傍らの写真に目を落とした。 「頼むぞ・・・、坊主」 『零号機、初号機、パイロット搭乗完了』 あなた、碇司令の息子でしょ。 お父さんの仕事が信用できないの? 綾波・・・。 『初号機、発進準備』 乗るなら早くしろ。 でなければ帰れ! 父さん・・・。 『停止信号プラグ排出開始』 いいかげんにしなさいよっ!! 人のことなんか関係無いでしょぉっ! 嫌ならこっから出て行きなさい。 エヴァーやあたし達のことは忘れて、元の生活に戻りなさい。 あんたみたいな気持ちで乗られんの、迷惑よっ! ミサトさん・・・。 『停止信号プラグ、排出完了』 すまんなぁ、転校生。 ワシはお前のことどつかなアカンのや。 せやないと気ぃ済まへんのや。 トウジ・・・。 『エントリープラグ、エントリー位置へ』 見損なったぞ、シンジ。 今のお前は最低だよ。 ケンスケ・・・。 『エントリープラグ、挿入』 碇君! 追っかけなさい! 女の子泣かせたのよ、責任取りなさいっ! 委員長・・・。 『エントリープラグ、固定完了』 我々の使命は使徒を倒すことだ。 恥をかくために存在するわけではないぞ。 副司令・・・。 『第一次接続、開始』 シンジ君、シミュレーションだからって手を抜かないで。 これが実戦なら、あなたは死んでいたわ。 もちろん、私達もね。 リツコさん・・・。 『エントリープラグ注水』 シンジ君、テスト中よ。 まじめにやって。 マヤさん・・・。 『データ受信、再確認。 パターングリーン』 ダメだダメだ、そんなんじゃぁ。 パイロットなんだからもっとしっかりしてくれないと。 青葉さん・・・。 『S2機関始動を確認』 シンジ君、後ろっ! 戦闘中はもっと周囲にも気を配って! 日向さん・・・。 『全回路動力伝達』 シンジ君、本当に今のままでいいと思っているのか? 情けないまま、逃げ出したまま一生を終わるつもりなのかい? 加持さん・・・。 『第二次コンタクトに移行』 アンタバカァ? 男なんでしょぉ? しっかりしなさいよっ! アスカ・・・。 でも、僕は・・・。 いつまでウジウジ悩んでるの? 目の前まで敵が攻めて来てるんでしょうがっ 降り懸かる火の粉を払うのが当然でしょ? アスカ、僕は・・・、僕は・・・! ほぉら、やる気になればできるじゃん。 それでこそ、命がけで守ってあげた甲斐があるってもんだわ。 それでいいのよ、それで。 アタシ、アンタのこと好きよ、バ・カ・シ・ン・ジっ♪ 僕はっ!! 『A10神経接続、異常なし』 君はただの中学生なんかじゃない。 エヴァンゲリオン初号機パイロット、サードチルドレン、碇シンジだ。 自分に誇りを持て。 加持さん。 『初期コンタクト、全て正常』 シンジ君が一生懸命やっていると、僕達も頑張らなくちゃと思うよ。 日向さん。 『ハーモニクス、全て正常』 NERVが活気付いたのもシンジ君のおかげだもんな。 青葉さん。 『第三次接続を開始します』 シンジ君、えらいわ。 頑張ってね。 マヤさん。 『オールナーブリンク、終了』 私達がこうしていられるのも、あなたのおかげなのよ。 お世辞抜きにね。 リツコさん。 『全システム、リンク完了』 シンジ君、我々は君が来てくれたことを誇りにしているよ。 副司令。 『絶対境界線まで、1,5、1,2、1,0、0,8、0,6、0,5、0,4、0,3、0,2、0,1、突破します』 碇君、いつも地球のために頑張ってるもんね。 人の命は尊いもの、頑張ってね。 委員長。 『初号機、正常に起動しました』 正直な話、俺にはエヴァのことなんか解らないけど・・・。 でも、実際、シンジはよくやってると思うよ。 ケンスケ。 『ハーモニクス、誤差±0,03。 全て正常』 ワシら、何も言われへん。 エヴァん中で苦しんでるシンジを見てるからな。 お前のことゴチャゴチャぬかす奴がおってみぃ。 ワシがパチキかましたる! トウジ。 『シンクロ率94,63%。 フィードバック誤差なし、全て正常値』 シンジ君。 あなたは人に誉められることをしたのよ。 胸を張っていいわ。 ミサトさん。 『脳波、心理グラフ、全て安定』 そうか、お前にも解るか、シンジ・・・。 ユイの願いが。 父さん。 『零号機、初号機、起動完了』 あなたは選んだわ、考えることを。 僕に・・・、僕にできると思う? できるわ。 でなければ、霧島さんはあなたを選んだりしない。 そして私も。 綾波。 『エヴァー各機、発進準備』 もう、いいの? うん。 そう、よかったわね。 母さん、僕はやるよ。 みんなのために、そして綾波のために。 だから、力を貸して。 『第一ロックボルト外せ』 『解除確認』 『アンビリカルブリッジ移動開始』 『第二ロックボルト外せ』 『第一拘束具除去』 『同じく第二拘束具を除去』 『一番から十五番までの安全装置を解除』 『全機能異常無し』 『了解。 エヴァ零号機、初号機、発進!』 『カタパルトスタンバイ、射出に備えよ』 『進路クリア、オールグリーン!』 『零号機、初号機、射出!!』 発令所は異様な緊張感に包まれていた。 上空を旋回し続ける白いエヴァ、そしてカタパルトを駆け登る青と紫のエヴァ。 「しかし、S2機関搭載型を9機、全力投入とは・・・」 「連中は、ここで起す気なのだ、サードインパクトを」 エヴァというよりは、何か別の生き物のような無気味さを持った白いエヴァは、ゆっくりと降下すると着地し、背中に広げた羽を折り畳んだ。 「いい、シンジ君、レイ。 エヴァーシリーズは、必ず全機殲滅するのよ。 射出と同時にリフトオフ。 後はとにかく、手当たり次第よ」 『はい』 『了解』 「エヴァー各機、リフトオフッ!!」 最終拘束具が開放され、リニアカタパルトの上昇速度そのままの勢いで2機のエヴァが飛び出した。 零号機は手にしたソニック・グレイブを、8号機めがけて投げ付けた。 コアを貫かれた8号機は、そのまま倒れ込んだ。 着地した零号機は、グレイブを引き抜きながら真直ぐに切り上げ、真っ赤に塗られたダミープラグをも真っ二つにした。 「一つ」 初号機はマゴロク・エクスタミネーター・ソードを大上段に振り上げ、落下速度を利用してそのまま切りかかると、5号機を頭から真っ二つに切り裂いた。 左右に別れた5号機は、別々の方向へどうと倒れた。 「二つ目っ!」 手にした板状の武器を振り上げた11号機を躱した零号機は、その横にいた12号機に切りかかり、腕を切断した。 大音響と共に持っていた武器が転がり、腕が地底湖に沈む。 クレイブをパッと逆手に持ち変えた零号機は、脇の下からそのまま背後に突き出した。 その切っ先は後ろから切り掛かろうとしていた9号機のコアを正確に貫き、背に抜けていた。 「三つ」 引き抜かれたクレイブはそのまま前に回り、腕を失ってもがいていた12号機の首を刎ね落とした。 「四つ」 7号機と二度三度と切り結んだ初号機は、大きく横に薙いで来た武器を屈んで躱すと、ソードで胴を薙ぎ払った。 上半身が揺らぎ、捻った勢いそのままに半回転しながら崩れ落ちる。 倒れ込んだ上半身に押されるように、下半身もゆっくりと倒れていった。 「五つ目」 太陽が遮られた気配に転がるように身を躱した初号機のいた場所に、6号機の武器がめり込む。 初号機はプログナイフを抜き出すと、ワンアクションで6号機めがけて投げ付けた。 嘲笑するかのようにむき出しになっていた歯を砕き口の中に飛び込んだナイフは、真直ぐ盆の窪から飛び出した処で止まっていた。 そのまま後ろ向きに倒れた6号機は何度か痙攣すると、そのまま動きを止めた。 「六つ目!」 10号機は手にした武器を振るうと、繰り出される零号機のグレイブを刎ね上げた。 避けようとした零号機が、突然止まる。 「活動限界?」 瞬間、10号機の武器が変形し、細長く伸びた。 「! 槍!」 それは咄嗟に張られたATフィールドを突き抜け、真直ぐ零号機のコアを貫く。 「ぐぅっ!!」 『綾波ッ!』 ガクン、ボシュゥッ! シンジが叫び声を上げた瞬間、零号機の背面の装甲が開き、オート・イジェクトが作動した。 打ち出されたエントリープラグはパラシュートを開くと、ゆっくりと本部ビル横に着地した。 「よくもっ!」 シンジの声と共にダッシュした初号機は、槍を引き抜こうとした10号機を後ろから袈裟掛けにした。 「レイの救出、急がせて!」 「老人共め、槍をコピーしていたか」 「まずいぞ、碇」 「ああ、判っている。 葛城3佐、レイを回収したら、ドグマに連れて来い」 「司令?」 「話は後だ」 「は、はい・・・」 「冬月、後を頼む」 「碇、リリスを使うのか?」 「他に方法はない」 「わかった」 ゲンドウはリフトに乗ると、司令席から出て行った。 初号機は11号機、そして13号機と対峙した。 白いエヴァの手には、いずれもロンギヌスの槍が握られている。 「ミサトさん、あれはやっぱり・・・」 『ええ、ロンギヌスの槍ね、コピーだとは思うけど・・・』 「でも、零号機は」 『そうね、機能はオリジナルと同じみたいね』 ターミナルドグマ。 十字架に磔にされたリリスの前で、全ての衣服を脱いだレイがゲンドウの前に立っていた。 ゲンドウは、左手を伸ばすとレイの前に差しだした。 レイはそこに埋め込まれたアダムに左手をかざす。 ゲンドウの手から浮き上がったアダムが、レイの手に移し変えられる。 それを確認したレイは優しげな笑みを浮かべると、ゲンドウに話しかけた。 「行きます」 「頼んだぞ、レイ・・・、いや、ユイ」 「はい、ゲンドウさん」 レイは胸の前に、何か大事なものをそっと抱きしめるように両手を当てた。 そこを中心に広がる光。 ゆっくり浮き上がった光球が、リリスの前に行くと吸い込まれるように同化した。 それまで、ただの不細工な人型の、ぶよぶよした白いカタマリでしかなかったリリスに変化が現われる。 徐々に変形したリリスの外見は、まるで人間の女性のようだった。 前のめりに倒れたリリスの顔面から仮面が剥がれる。 その顔は、誰が見てもレイそのものだった。 浮き上がったリリスは、そのままセントラルドグマから出るとシャフトを登りはじめた。 「ミサトさん、何か策はないんですか?」 『・・・・・・・・・・ゴメン、ないわ』 「そんな・・・」 シンジの戸惑いを感じたのか、11号機が駆け寄る。 かろうじて切っ先を躱した初号機は、大きく飛んで間合いを取った。 11号機と13号機が槍を投げ付けて来る。 「これだっ!」 初号機は背後にあった零号機の腹部から槍を抜き取った。 ビキィン! 弾かれた槍が弧を描いて飛ぶ。 1本は大地に、そしてもう1本は11号機に突き刺さった。 『グギャァ〜〜〜〜〜〜ォン』 重い悲鳴をあげた11号機は、まるで風船が破裂するかのように弾けると、ばらばらになって吹き飛んだ。 再び槍を手にした13号機と初号機は、武道の試合のように向き合っていた。 『碇君。 あなたは死なないわ』 「え?」 レイの声が聞こえる。 そこにはシャフトを登って来たリリスの姿があった。 「あ、あ、あ、・・・あや・・・、な、み?」 その巨大な姿に、シンジは言葉を失った、 リリスが大きく両腕を広げる。 その瞬間真っ白な閃光があたりを支配した。 ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/ はい、「トリプル・イフ」こと「ぱぱげりおんIFのifのIF」の第四話をお届けします。 あと2本、次で終わりますm(__)m 今回は伸びたついでに、半ばやけくそであちこちイタズラしました。 解る人だけ解るネタばっかりですが・・・(^^; どこにどんな仕掛けがばらまかれているのか、解った人は「ネコでもわかる掲示板」へどうぞ。 正解者にはもれなく、暖かい拍手をプレゼントします(爆) 今回で、いよいよ最後の戦いに突入です。 原作本編では、戦自の急襲に対して押される一方だったNERVですが、ここでは違います。 ちょっちグロい表現もあるかとは思いますが、そこはそれ、なんといってもエヴァですから(^^; ※そんなん、理由になるんかいヾ(^^;)>自分 劇場版で言えば、ここからが「 End of EVANGELION featuring by J.U.Tylor 」と言ったところでしょうか。 もののついでに久々にイラストも付けました。 相変わらずのヘタッピで恐縮ですが、雰囲気だけでも楽しんで下さい。 そしてこの部分のBGMは、お気付きの方も多いと思いますが、もちろんのこと「 Danger Zone 」です(笑) ちなみに『オーバー・ザ・レインボー』艦長のマーク・ダグラス少将という名前は、私のサイトで公開中の別のエヴァFFからそのまま持ってきています。 もっとも、こちらでは弐号機輸送の手柄を称えて昇進させていますが(笑) エヴァ対エヴァの戦闘シーンは、どちらかというと時代劇のノリになってしまいました。 まぁ、零号機と初号機の武器が長刀(なぎなた)に刀ですから、それはそれでいいんじゃないかと(笑) さてと・・・。 次回は、「大きなお友達(笑)」向けのお話になります。 はい、「あ〜るわんえいと」です(爆) 良ゐ子のみんなは、目を塞いで・・・・、しまうと話が見えなくなるか(苦笑) 次回予告 シンジとレイ。 2人の想いが重なり、溶け合う時。 それが、サードインパクトの始まりだった。 次回、「ぱぱげりおんIFのifのIF」・第五話 さぁて次回はさぁ〜びすさぁ〜びすぅ(爆) いやぁ、小説って、本当にいいもんですね。 それではまた、このページでお逢いしましょう。 でわでわ(^^)/~~ |