ぱぱげりおんIFのif・異聞

ぱぱげりおんIFのifのIF
最終話


平成15年1月13日校了

m(__)m 迎春慶賀 m(__)m



「・・・く・・・」

「・・・・くん!」

「シ・・・く・・・」

「・・ンジ・・・君!」

「シンジ君、シンジ君!」

何度も頬を叩かれる感覚に目覚めたシンジの目の前に、半泣きになってのぞき込んでいるミサトの顔があった。

「ミサト、さん・・・?」
「シンジ君ッ!
 良かった・・・、良かった・・・、気がついて、良かった・・・」
「ここは・・・?」

抱きかかえられるようにして身を起したシンジは、周囲を見渡した。
ミサトは涙をぬぐうと笑みを浮かべた。

「ジオフロントよ。
 何も覚えて無いの?」
「僕は・・・、白いエヴァと睨みあって、それから・・・。
 そうだっ!
 綾波!
 ミサトさんッ!
 綾波はっ!?」
「無事よ、先に収容してメディカルセンターに搬送したわ」
「よかった・・・。
 でも、いったい何が・・・」
「立てる?」
「あ、はい」

肩を貸してもらって立ち上がったシンジは、もう一度周囲を見まわした。
そこは確かにさっきまで自分が戦いを繰り広げたジオフロントに違いないが、しかし大きな違いがあった。

「エヴァが・・・、ない?
 白いのも、零号機も、初号機も・・・」
「歩きながら説明してあげるわ」

2人は本部ビルに向かって、並んで歩きだした。



 メインスクリーンに映しだされた光景に、誰も言葉がなかった。
獅子奮迅の活躍で次々と敵を倒して行く零号機と初号機。
零号機が活動限界を迎えて停止してしまい、初号機だけになった時、誰もが半ばあきらめを感じていた。
レイは無事に回収されたものの、ゲンドウの指示でドグマに連れて行かれてしまっている。
そんな悪条件下で初号機は、まるで諦める事を知らないかのように戦い、残る白いエヴァはあと1機になっていた。

「ドグマに反応!
 何か・・・、強力なエネルギー体がシャフトを登っています!!」
「何者?」
「解りません、まもなくジオフロント内!」
「何よ、あれッ!」

リリスが映し出されたスクリーンに向かって叫びをあげるミサト。
腕を広げたリリスを中心に閃光が走り、何も見えなくなった。

「今の・・・、何?」
「これは・・・、大変ですッ!
 エヴァの反応、全て消えました!!」
「なんですってッ!?」

慌てて振り向いたミサトに、マヤは何度も何度も再計測をして、結果を答えた。

「零号機、初号機、敵エヴァ9機、全て反応ありません」
「どういう事・・・?」

サブスクリーンに、初号機と13号機が対峙していた場所、零号機や他の白いエヴァの倒れていた場所が次々と映し出されるが、そこには確かにエヴァがいた痕跡として、流れ出た体液や持っていた武器があるだけで、他には何一つ残されていなかった。

「サードインパクトだ、葛城3佐」
「司令?」
「人類の補完が始まったのだ。
 シンジと、そしてレイの手で。
 全ては2人に委ねられた。
 我々にできる事は、もうない」

司令席ではなく、ミサト達と同じフロアに立ったゲンドウは、別人のような力の抜けた穏やかな顔つきでスクリーンを眺めた。

「はい?
 ・・・え、ほんとですか?
 了解です!」

コンソールの受話器を置いたマコトが、嬉々とした表情で振り返る。

「第二東京から、A801 解除の通知が来ました!」
「首相官邸から入電、司令を呼んでいます」
「スクリーンに出せ」
「はい」

シゲルはコンソールを操作した。
メインスクリーンに、加持が映った。

「生きていたか」
『ちょっと危なかったですがね。
 間に合いましたか?』
「少し遅いが、たいした被害ではない。
 それより、話を聞こうか」
『ハイハイ、今代ります』

相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべた加持が退くと、代って首相が画面に現れた。

『碇君・・・、全ては加持君から聞いた。
 我々は、だまされていたという事だな』
「そのとおりです、前川首相」
『なぜもっと早く・・・』
「言えば聞きましたか?」
『そ・・・、それは・・・。
 しかし・・・』
「そういうことです。
 あなたは自分の信じたとおりに行動した。
 我々は自衛のために戦った。
 互いに、やるべき事をやっただけです。
 それでいいではありませんか」
『そうか・・・』
「今後のことは、後程」
『あぁ、わかった』

再び画面に加持が戻って来る。

「後は頼むぞ、加持3佐」
『あ、はい。
 え・・・、3佐?』
「たった今決めた。
 苦労に見合うモノではないだろうがな」
『はぁ・・・』

加持は複雑な笑みを浮かべた。

『有り難く頂戴します。
 それでは』

珍しくぴしっと姿勢を正して敬礼した加持の姿を最後に、通信が切れた。

「ん?」

オンラインを示す表示が消えたと思った途端、再び点灯する。
シゲルは受話器をあげると、耳にあてた。

「司令、国連軍総司令部からです。
 軍が委員会を抑えたと」
「そうか・・・。
 老人共は片が付いたか・・・」
「加持君は2佐でも良かったのではないか?」
「冬月・・・、甘やかせては付け上がるぞ」
「ふむ・・・、まぁ、よかろう」

苦笑を浮かべた冬月は、再び初号機の消えた場所を映し出したスクリーンに目を向けた。

「さて、やれる事をやっておこうか。
 葛城3佐、第一級警戒態勢に移行、被害状況の調査と態勢復旧を行え」
「あ、はい」

ズバーン!
チュイィン!

「馬鹿野郎ッ!」
「るせえっ!」
「押さえろッ!」

発令所下段左翼のサブオペレータ席で騒ぎが持ち上がる。
メインオペレーター席に銃撃した男を、周囲の者が取り押さえる。
すぐさま保安諜報部員が駆けつけ、連行して行った。

「何者かね?」
「老人共の犬だろう」
「下にいて良かったな」
「ああ」

銃弾は、本来ならゲンドウが座っている場所を通って背後の壁に命中していた。

ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ

「何事っ!?」
「ジオフロント内に高エネルギー反応!
 先程の白い巨人と同種の物ですッ!!」
「針が振り切れましたっ!
 うわっ!!」

初号機が消えた地点に、白く光る玉が現れると、ものすごい閃光を発した。
それは壁を抜け、大地を抜け、どこまでも広がって行った。



 一瞬にして白い光が駆け抜けた牢屋。
何かが転げ落ちたような乾いた音に気付いた監守は、その日逮捕された、世界最大の悪人を収監した牢屋を覗いた。
そこには薄いオレンジ色の液体と、収監されていた老人が着ていた服と、細長いレンズのバイザーだけが残されていた。
同様のことはドイツだけではなく、世界中で発生した。



 南支那海を定期哨戒飛行していたASEAN海軍の対潜哨戒機が、浮上して漂流している巨大な弾道弾搭載型原子力潜水艦を発見した。
情報を受けた海上自衛隊が駆逐艦を派遣する。
艦内を調査した乗員の報告によると、広い艦内には誰もおらず、ただ所々に薄いオレンジ色の液体が染み込んだ制服だけが散らばっていたという。



 政府要人から軍人、一般市民に至るまで、世界各地でオレンジ色の液体に変ってしまった人々は、その後の調査の結果、実に100万人規模に達したという。
その全てがゼーレの構成員というわけでもないだろうが、人それぞれが持つ心の隙間の埋め方に対する認識の違いを浮き彫りにしたことは事実だった。



 それまでの激戦が嘘のようにさわやかな風が吹き抜けるジオフロントを、ゆっくりと歩く。
一通りの説明を終えたミサトは、シンジの横顔を見た。

「それでね、光が収まったらあなたとレイが倒れてたのよ」
「エヴァは?」
「ぜんぜん・・・。
 どこにもないわ」
「そうですか・・・」

ちょっと寂しそうな、しかしはっきりそれと判る笑顔を浮かべるシンジ。
そのふっ切れたような表情にミサトは、微苦笑を浮かべた。

「そう・・・。
 でもさぁ、シンジ君。
 あなた、なんかこう、大人っぽくなったわね」
「え、なんですか急に?」
「加持じゃなくって、あんたにしとけば良かったかなぁ、なんちゃってぇ♪」
「ダメですよ、ミサトさん。
 僕なんか相手にしたら犯罪ですよ。
 それに、加持さん、待っててくれてるんでしょ?」

冗談めかしていうミサトに、シンジは苦笑を浮かべて答えた。

「あっらぁ〜、しぃんちゃぁん。
 ナマ言っちゃってもぉ!
 このこのぉっ♪」

ミサトは嬉しそうに肘でシンジをつついた。

「そうよねぇ〜。
 シンちゃんには、愛しのレイちゃんがいるもんねぇ〜♪」
「そうですね」
「うわ〜お!」

意に反して帰って来た返事に、ミサトは心底驚いた。

「言うようになったじゃないのぉっ!
 う〜ん、そかそかぁ。
 お姉さんは嬉しいぞぉっ♪」

ミサトは笑いながらシンジの頭をぎゅっと抱きしめた。

「だから、ごほうびっ♪」

両頬を手で挿んだミサトは、そのまま顔を上向かせると、チュッと軽くキスをした。

「みみみ、み、ミサトさんッ!」
「今度レイとする時の練習だと思えばいいじゃない♪」
「ミサトさぁん・・・」
「あはは、もしかして初めてだったの?
 ちょぉ〜っち調子乗り過ぎたかな?
 ごみんごみぃん」

顔を真っ赤にしてしまったシンジに、ミサトは苦笑を浮かべた。

「でもね、嬉しいのはホントよ。
 シンちゃんがここに来た時は、そういうこと言えるようになるなんて思ってもみなかったモン。
 保護者になった甲斐があるってものよん」

言って今度は、腕を組んだ。

「ミサトさん・・・」
「照れない照れない、家族でしょうがぁ♪」

スキップでもしそうな勢いで歩くミサトに、シンジは半ば引きずられるように歩いていた。



 ロッカールームに戻ったシンジは、手早くシャワーと着替えを済ませた。
鏡に写った自分の顔を、何度も何度も確かめる。

「僕は、僕は選んだよ、アスカ、マナ」
『シンジ』
『シンジ君』

背後からした声に振り返る。

「アスカッ!
 マナッ!」
『シンジ、今まで、よく頑張ったわね』
『お疲れ様、シンジ君』

アスカもマナも、優しげに微笑む。

『シンジ・・・、本当にいいのね?』
『一番辛い道を選んだのよ、シンジ君』
「うん、いいんだ。
 みんなが溶けて一つになる。
 他人の恐怖も、裏切られる事も傷つく事もないけど、でも、そこには誰もいない。
 それは違うと思うんだ」
『これからも、ATフィールドがシンジ君や他の人を傷つけても?』
「かまわないよ、それで。
 誰も居ないってことは、僕も居ないのと同じだから。
 誰かといっしょに居たいっていうのは、溶けて一つになることじゃないって思えたから。  隣りに誰か居て、暖かさを感じることのほうが素晴らしいって、そう思えたから」
『シンジ。
 人は互いに解り合えるかもしれない、という希望に気付いたのね』
『好きっていう言葉といっしょに。
 シンジ君は、それを選んだのね』
「そんなんじゃないかもしれない。
 解ったつもりになってるだけかもしれない。
 でも、もう一度みんなと逢いたい・・・、人のぬくもりを感じたい。
 その気持ちは嘘じゃないから」
『それでいいのよ、シンジ。
 現実は知らない所に、夢は現実の中にあるわ』
『そして真実は心の中にあるのよ』
『自分自身の形を作り出しているのは、人の心なんですもの』
『そして、新しいイメージが、その人の心も形も変えて行くわ。
 イメージが、想像する力が、自分達の未来を、時の流れを作り出しているのよ』
『ただ、人は、自分自身の力で動かなければ、何も変らない』
『だから、見失った自分は、自分自身の力で取り戻すのよ。
 たとえ、自分自身の言葉を失ったとしても。
 他人の言葉に取り込まれても』

ふっと揺れた2人が重なり、それはやがてユイの姿を取った。
幼い頃のおぼろげな記憶にある姿、人工進化研究所でよく見せてくれた白衣姿のユイは、静かに微笑んだ。

『自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もが人の形のままでいられるわ。
 全ての生命には、復元しようとする力が有る。
 生きて行こうとする心がある。
 生きて行こうとさえ思えば、どこだって天国になるわ。
 だって、生きているんですもの。
 幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ。
 太陽と月と地球がある限り、大丈夫』
「母・・・さん・・・」

シンジは瞳を潤ませて、ユイの笑みを見上げた。
濡れた頬に優しく手をあて、涙をぬぐう。

『解ってくれるわね、今のシンジなら』
「幸せがどこにあるのかなんて、まだ判らない。
 でも、ここにいて、生まれて来てどうだったのか、これからも考え続ける。
 だけど、それも、当たり前のことに何度も気付くだけなんだ。
 自分が自分でいるために」
『それでいいのよ、それで』
「でも母さんは・・・、母さんはどうするの?」
『またいつでも逢えるわ、あなたが望むなら』
「約束だよ、母さん」
『ええ、約束よ』

最後にもう一度笑みを浮かべたユイの姿が消えた。


「シンジ君、どうしたの?
 みんな待ってるわよ」
「あ、はい、今行きます」

廊下で着替えを待っていてくれたミサトの声に、もう一度鏡に向かって小さく頷いたシンジは、ロッカールームを後にした。
発令所は既に、戦いの後始末に入ってしばらくだったせいか、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

「お、ヒーローのご帰還!」
「やぁ、シンジ君、お疲れさん」
「シンジ君、ご苦労様」
「よく頑張ったわね、すごいわ」
「立派な働きだったぞ」

シゲルが、マコトが、リツコが、マヤが、冬月が、口々に歓迎してくれる。

「シンジ」
「父さん」

わざわざ司令席から降りて来たゲンドウは、シンジの前に立った。

「よくやったな、シンジ」
「父さん・・・」

その一言が、ゲンドウが向けてくれた優しげな眼差しが、心の中に染み渡る。
あふれた感情が、頬を伝って流れ落ちる。

「父さん、僕は、僕は・・・」
「何も言うな、シンジ。
 お前はよくやった。
 辛い思いをさせてすまなかったな」
「うん・・・」
「ユイには逢えたのか?」
「逢ったよ。
 でも・・・」
「それだけでいい。
 それで充分だ」

両肩にぽんと置かれた手に、シンジはゲンドウの全ての想いが篭っている事を感じ取った。
シンジの目の前に差し出された写真。

「たった1枚しか無いが・・・。
 お前にやろう」

そこには、自分を肩車するゲンドウと、幸せそうな表情で寄りそうユイの姿があった。

「父さん・・・、でも、これは父さんの大切な・・・」
「私にはもう必要ない」

ゲンドウの浮かべたちょっと複雑な笑みに何かを感じたシンジは、それ以上何かを言うことをやめた。

「わかったよ。
 ありがとう」
「レイの所へ行ってやれ」
「うん」

シンジは写真を受け取ると、大切にポケットにしまった。

「じゃぁ、行って来るね」
「あぁ」

優しげな笑みで頷いたゲンドウに背を向けたシンジは、走って発令所を出て行った。



 シンジがメディカルセンターに走り込んで来た時、レイはベンチに座って何かの紙に目を落としていた。
そしてシンジに気付いて顔をあげると、ニコッと微笑んだ。
シンジはレイの隣に座ると、息を整えるように何度か深呼吸した。

「綾波、どこも悪くない?
 ケガしてない?
 大丈夫?」
「大丈夫」
「よかった。
 もう帰ってもいいの?」
「問題ないわ」
「じゃぁ、いっしょに帰ろうよ」
「シンジ君、これ」

レイは持っていた紙をシンジに渡した。
シンジはレイが自分を呼ぶ呼び方が変っている事にも気付かずに、受け取った紙に目を通した。
ある一点まで読み進んだシンジが、驚きの表情になる。

「えっ!?」
「あの時よ」

言ったレイは、驚いて固まっているシンジの手を取って、下腹部にあてさせた。
シンジの脳裏に宇宙のイメージが広がり、星の海を抜け、太陽が見え、月が見え、地球が見え、雲を抜け、大海原が見え、小さな島が見え、白いコテージが見え、屋根を抜けて寝室にたどり着いた。
部屋に置かれたベッドの上に、幸せそうに寄り添って眠る、少し未来の自分とレイの姿を見た時、シンジは全てを理解した。

「思い出した?」
「あれは・・・、夢なんかじゃなかったんだ」
「シンジ君の想い、私の想い、アスカの想い、マナの想い、お父さんとお母さんの想い。
 そして、全ての人々の想い。
 全てが一つになってできたのが、あの世界だったのよ。
 あなたはそこで、私を選んでくれた。
 あなたと一つになる事を望んだ私を受け入れてくれたわ。
 あれが、サードインパクトだったのよ。
 そしてこれは」
「言わなくってもわかってるよ。
 母さんだよ、約束を守ってくれたんだ。
 そして、アスカでもあり、マナでもある。
 3人して帰って来たんだ」
「そうね。
 私達の未来、そして希望よ」

シンジが再び目を落としたレイの診断書のコピー。
そこには『妊娠の可能性を示す兆候在り。経過の観察を要す』と書かれていたのだ。



 それから半年後。
ジオフロント天蓋に開いた大穴は奇麗に塞がれ、第三新東京市の復興が急ピッチで進められている。
合わせて、それまで使徒迎撃のためだけに限定していたせいで、手を付ける事が許されていなかった周辺部の開発も始まった。
第三新東京市は芦の湖の北から東にかけてのかなりの面積に広がった、巨大な都市に変貌を遂げつつあった。
エヴァも何もかもがなくなったNERVは解体され、新たに人類科学研究所として再スタートを切り、初代所長にはゲンドウがそのまま収まった。
ジオフロントはいまや観光名所となり、大いに賑わっている。
NERV本部ビルは研究所の施設となったが、隣の第二棟はレジャー施設となり、一般に開放されている。
NERVの名は、唯一このレジャー施設を管理運営する興業会社の名前として残っているだけとなった。
連休中日とあって観光客で賑わう地底湖のほとりに設けられた遊歩道。
そこに並んで歩くシンジとレイの姿があった。

「まさか三つ子とはね」
「本当にみんなが帰って来たのね」

ベンチに座ったシンジは、感慨深げに呟いた。
だいぶ膨らみが目立つようになったお腹にそっと手を添えたレイは、にこやかに答えた。
定期検診のためにメディカルセンターに行き、通常よりもお腹の膨らみが大きいことに気を止めたリツコの薦めで受けた超音波検査の結果、レイのお腹の中には女の子ばかり3人の胎児がいる事がわかったのだ。

「名前を考えるのが大変ね」

くすっと笑うレイに、シンジも笑みを返す。

「考えたんだ。
 まさかユイ、アスカ、マナっていうわけにはいかないしさ」
「そうね、少しは捻らないと」

最後の戦いが終わって戻って来たレイは、失った物を取り戻したかのように表情豊かになっていた。
周囲の者も最初は戸惑ったが、実験の結果性別が変っていても問題ではない、とまでいわれたNERVならではのいいかげんさで、いつの間にかあっさりと受け入れられてしまい、今では当たり前のようになっている。

「じつはさ、あの日にレイが言った事を思いだしたんだ」
「あの日?」
「そう、最後の戦いがあった日。
 レイが、僕達の未来、そして希望だって言ったのを思い出したんだ」
「そうね」
「だから考えたんだ。
 一人はミライ、一人はノゾミ・・・。
 でも、もう一人だけは、どうしても思い浮かばなかった」

レイはおかしそうに笑うと、苦笑を浮かべたシンジの頬をつんつんとつついた。

「う・そ・つ・き。
 本当はちゃんと考えたんでしょ?」
「なんだ、バレてたんだ」
「あててあげましょうか?」
「うん、言ってみて」
「ユイ、でしょ?」
「よく判ったね。
 ・・・でも、ホントはちょっと違うんだ」
「ちがうの?」
「うん。
 確かに母さんの名前をもらう気ではいたんだけど・・・。
 僕達が未来を手に入れたのは、母さんのおかげだよね。
 エヴァの中に残るっていう、そんな選択をしてまで努力して実った成果なんだ。
 だからユイ(唯)とカ(果)を足して、ユイカ。
 どう、いい響きでしょ?」
「ユイカ、ミライ、ノゾミ」

レイは三つの名前を口にしてみた。

「いい名前ね・・・。
 あなたたちのお父さんは、素敵なプレゼントをくれたわよ、ユイカ、ミライ、ノゾミ」

レイはもう一度お腹に手を添えると、まるで子供の頭を撫でるように動かした。

「さぁ、帰ろう。
 父さん達にも報告しなくちゃ」
「そうね」

シンジは立ち上がると、レイに手を貸してやった。
足元に赤いボールが転がって来る。
拾ったシンジの所へ、女の子が走って来た。

「これ、君の?」
「うん!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん」

ちょこんと頭を下げた女の子が走り去る。
遠くで両親らしい若い夫婦が頭を下げていた。

「この子たちも、あんなふうになってくれるといいわね」
「そうだね」

二人は寄り添って、両親とボール遊びを再開した女の子を眺めて呟いた。



「へぇ・・・、父さんと母さんって、すごかったのね」
「あたしぃ、みなおしちゃったぁ」
「そうよねぇ・・・。
 やっぱり経験者の話って、重みがあるわね」

言いながらユイカは、小皿に残ったクッキーの最後の一枚を摘まんでじっと眺めた。

「お母さんのクッキーもこれが食べ納めかぁ・・・」
「何言ってるのよ。
 訪ねて来てくれれば、いつでも食べられるでしょ。
 どこへ行こうと、ここがあなたの家なのは、変わりないのよ」
「でも、出戻りだけは、するんじゃないわよ」

苦笑を浮かべたレイ、茶化すミライ。

「大丈夫よねぇ、ユイカ。
 コウタロウ君、優しそうな人だしぃ」
「あたりまえでしょ、わたしが選んだ人よ」
「ハイハイ、ゴチソウサマ」

ノゾミのフォローにのろけたユイカ。
肩をすくめたミライの言い方に、リビングに笑い声が弾けた。

「さぁ、明日はユイカの一生に一度の晴舞台だ。
 みんな、もう寝なさい」
「ほい、おやすみっ!」
「はぁい、おやすみなさぁい」
「おやすみなさい」

答えを返した娘達が、それぞれの部屋に引き上げる。
残されたレイは、改めてシンジの隣に座って寄り添った。
サイドボードの上に飾られた写真に目が行く。
あの日ゲンドウからもらった写真の隣に、シンジとレイの前に3人の娘が並んだ写真がある。
それは3人が中学に入学した時に撮影したものだった。
髪や瞳、肌の色を除けば、あの頃のアスカ、マナ、レイによく似ていた。

「いい子に育ったわね、みんな」
「レイの教育がよかったからだよ」
「私だけじゃないわ、シンジ君もよ」
「そうだね。
 さぁ、僕達ももう寝よう。
 娘の結婚式に両親が寝坊するわけにもいかないし」
「ええ、そうね」

雲雀ヶ丘の一角にあるNERVの社長宅に灯っていた明かりが消える。
ユイカの結婚式を翌日に控えていた碇家は、ようやく眠りについたのだった。


〜〜〜〜 fin 〜〜〜〜




ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 はい、「トリプル・イフ」こと「ぱぱげりおんIFのifのIF」の最終話をお届けします。
予告どおりこれにておしまいです。


 「ダブル・イフ」の「子育て日記」シリーズ用プロットを書いている時に思い付いて、そのままの勢いで書き上げてしまったお話でしたが、いかがだったでしょうか。

「これは何?
 これが電波?
 私、書いてるの?
 なぜ書いてるの?
 初めてなのに、初めてじゃない気がする・・・」

\(^^\) 冗談は (/^^)/ おいといて

こちらは「ダブル・イフ」と違って、どちらかというとアフター物ではなく、本編分岐物に分類したほうがいいと思える構成ですので、なにも「パパゲリオン」の名前を冠する必要も無かった気もしますね(^^;
原点は「ダブル・イフ」ですし、更にその源流は「パパゲリオン」ですが、実際にはキャラの名前を使った以外、何一つ共通点はありませんので、オリジナルストーリーだと思っていただいてもいい話になってしまいました(苦笑)


 前回の「謎のリゾート」の部分ですが、あの部分こそがサードインパクトであり、エヴァ本編で言うところのLCLの海の中でレイとシンジが語り合っている部分に相当します。
あの中ではレイはシンジを導く役であり、シンジの心はあくまでもアスカを向き、しかし最後まで拒絶されたことに対してシンジは、感情のままに海岸でアスカの首を締めようとしました。
結局それすらできなかったシンジに対してアスカは、全てを一纏めにした「気持ち悪い」という一言を投げかけて、そのまま本編はタイムオーバーとなり、閉じてしまいましたが・・・。

余談はさておき・・・。

そんなわけで「謎のリゾート」のシーンはつまり、作中でも軽く触れた通り、補完計画の発動を象徴した物です。
自分ではない他者の存在を認めた上で理解して行こうとする人類の未来ビジョンを象徴させたアスカ。
いずれか一方しか存在し得ないならそれは人類であるべきだとする使徒の希望を象徴させたマナ。
両者を超越した存在かつ受け入れるべき全ての事象(現実)を象徴させたレイ(ユイ)。
そして、人類の未来を決定すべきキーパーソンのシンジ。
あの「謎のリゾート」のシーンの展開は、その内容はともかく、これら4つのイメージをそれぞれ4人に託して、サードインパクトの通過儀式として書いた物です。
3人の子供達の名前も、そういうわけで、アスカ→ミライ、マナ→ノゾミ、ユイ→ユイカ、というようにしたわけです。


 ところで、この話を書いているうちに気付いたことが一つあります。
エヴァ世界はよくキリスト教の教義が根底に織り込まれているように言われていますが、私にはどうもそうは思えません。
なぜならキリスト教では、サルベージ等に象徴されるいわゆる復活や、生まれ変わりとかなんとかの輪廻転生といったような概念はありませんし、「光あれ」から始まった物語は延々と語り継がれるものの、唯一永遠不滅に存在し続けるのは神と精霊と御子(キリスト)と御母(マリア)のみで、他者は全て死ねば天国地獄に別れて行くだけで、現世とは完全に切り離されてしまう存在とされています。
もっと言えば、エヴァ世界の根本であるココロとカタチの問題は、キリスト教では解説できない部分が多く存在します。
私にはエヴァ世界はキリスト教というよりは、仏教的世界の概念があるように思えました。
仏教(正確には仏法(ぶっぽう))には、十界(じゅっかい)という境界(きょうがい)の概念があります。
長くなるので詳細は省きますが、上から順に「仏(ぶつ)」「菩薩(ぼさつ)」「縁覚(えんがく)」「声聞(しょうもん)」「天上(てんじょう)」「人間(にんげん)」「修羅(しゅら)」「畜生(ちくしょう)」「餓鬼(がき)」「地獄(じごく)」というようになっています。
このうち仏から声聞までを「四聖(ししょう)」、それ以下を「六道(ろくどう)」と呼び、また修羅から地獄までを一纏めにして「四悪道(しあくどう)」と呼ぶ場合もあります。
そして人の命は、このそれぞれの境界に応じて相(そう)が顕れ、実際の環境も境界に左右されるという考え方、「十界論(じゅっかいろん)」があるのです。
例えば逃げようとしても逃げられない苦しみに追われ続けるのが地獄界であり、何事も無く平穏なのが人間界であり、人のために尽くす心の発露が菩薩界でありといった具合なのですが、この十界論の面白いところは、生き物だけではなく無生物にも適用されるところで、物の寿命も持ち主の境界が反映されるため、例えば四悪道の境界にある人が持っているものは寿命が短くなってしまい、すぐ壊れたりするということも在るとされています。

話が逸れましたな・・・(^^;

つまり何が言いたいかというと、人のココロがその人のカタチを決定するという考え方は「諸法実相(しょほうじっそう)」と言われる、境界と相の関係の、そのままのように思えるのです。
※注
 ここで書いたことは、全て釈尊最後の教えであり究極の仏法と呼ばれる法華経に基づいており、法華経以前に説かれた他の経文とは、かなり内容が異なります。
また、同じ法華経でも宗派によって、解釈にかなりの開きがある事をお断りしておきます。

 べつにここで宗教の優劣を語るつもりは無いですが、一般に言われている(?)ようなエヴァ世界の解釈とはちょっと違うんじゃないかな、というのが、今回の話を書いているうちに思ったことでした。
とはいえ、そんな哲学的なものを物語の根底に求めたところで、誰も理解不能ですよね・・・(^^;



 さてさて、とにもかくにも「トリプル・イフ」は無事書き上げる事ができました。
次からはまた、元の「ダブル・イフ」シリーズ一本に戻ろうかな、と思っていたのですが・・・(^^;


「前方に『リリ☆アス』企画、急速接近!」
「衝突コースですっ!!」
「緊急回頭!
 面舵一杯!
 艦首スラスター右一杯!
 右舷機後進全速、左舷機前進全速っ!!」
「ダメです、舵が効きません!」
「ぶつかりますっ!」
「総員、対ショック防御!
 何かに捕まれっ!!」

叫んだ彼自身が掴んだのは、アスカの魔法のステッキだった(笑)

ちゅどぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!



 なにはともあれ(笑)
お付き合いくださった皆さんに感謝して、そしていつもの締めの言葉と共に、筆を置きたいと思います。



 いやぁ、小説って、本当にいいもんですね。
それではまた、このページでお逢いしましょう。

でわでわ(^^)/~~