魔法少女
りりかる☆アスカちゃん
第1話

邂逅・・・そして出逢い!

前編

平成15年3月16日校了



 ゴールデンウィークがあけて一ヶ月近く、少しづつ昼の時間が長くなって来た第三新東京市。
と言ってももちろん、ここだけがそうじゃ無くって、北半球はみんな同じ。
それはともかく、夕方頃となるともちろん、この街にだって学校帰りの子供たちの元気な声が響くのは変らない。
いや、こっちはちょっと違うかな・・・。

「ほらっ、ぼさぼさしてないでちゃんと持つのっ!」
「アスカずるいよぉ。
 いっつもアトダシじゃないかぁ」
「シンジ、何か言った?」

ずいっと顔を近づける。
荒い鼻息が掛るが、それもちょっと嬉しい碇シンジ君。
もちろん惣流アスカちゃんは、それが解っていてわざとやっていたりするのだから、将来が恐いというかなんと言うか・・・。

「だって・・・」
「言いたいことがあるんなら、はっきり言いなさいよっ!
 だいたいシンジ!
 アンタ、こんなにかわいいアスカ様のかばん持ちなんて、めったにできないのよ。
 なんなら他の男子に代ってもらう?
 アタシが一声かければ、クラスじゅうのみんなが手をあげるんだからねっ」

びしぃっ!

と音がしそうな勢いで突きつけられた指。
指先が触れる胸元がこそばゆい。
でも、その嬉しさよりも、アスカのかばん持ちができないことのほうが恐い。
慌てたシンジは、スピード調整が壊れた扇風機のようにぶんぶんと首を振った。

「そそそ、そんなことないよ!
 アスカのかばんが持てるなんて、僕はすっごく幸せだよ」
「だったらモンク言わないで、さっさと持つの!
 ほらっ」
「あ、うん」

この二人の家は、実は隣同士である。
2人の通う第三新東京市立第七小学校は、新興住宅地の子供たちを受け入れるために作られた学校だったので、大半の生徒はそこから通っている。
ところがこの2人の両親は、この街がまだ千石原と呼ばれていた頃からの住人で、ちょっと離れたところに家があり、しかもその方角は、ほぼ反対側。
アスカの言う「クラスじゅうの男子」の中で、アスカが校門を出て家の方向に足を向けた瞬間からは、かばん持ちができるのはシンジだけしかいないのだ。
アスカがズルいのか、シンジがボケてるのか。
なんにせよ微笑ましいカップルである。

そうこうしているうちに、ゆるい坂道を登った上にある赤い屋根と深緑の屋根が見えて来る。
赤が碇家、深緑が惣流家である。
徐々に夏に向かって気温が上がってきている昨今、ランドセルと体操着入れを2人分抱えたシンジの額には、うっすらどころでは無い汗が浮かんでいる。
先に坂を上り切り、両手を腰に当てて仁王立ちのアスカは、例によって例の如く大声を張り上げた。

「何やってるのよっ!
 バカシンジっ!!」
「はぁ、はぁ・・・、はぁ」
「だっらしないわねぇっ、アンタそれでも男ぉ?」
「だってアスカァ、これ、すっごく重いんだよ〜」

膝に両手をついて息を整えているシンジの抗議は、瞬時にアスカに跳ね返された。

「だいいちアンタ、あたしよか年上でしょっ」
「年上って言っても、半年だけじゃないか」
「つべこべ言わないっ!」

年末に誕生日が来るためにまだ10歳のアスカは、ついこの前誕生日を迎えて先に11歳になったばかりのシンジの後頭部に、容赦ない一撃を加えた。
しかしシンジには、痛みを忘れる小さなご褒美もあった。
風が、アスカの淡いレモンイエローの短いスカートを、ひょいっと持ち上げたのだ。
叩かれたことを抗議しようとしたシンジの目の前に、真っ白のぱんつ。
ワンポイントのペールピンクのリボンやビキニラインの微妙なシワまで、くっきりである。

「きゃっ!
 み、み、み、見るなぁっ!」

その一撃が頬を真っ赤に染めて、鼻の下を推定2センチばかり伸ばしたシンジを地に沈めた。



 怒り任せに自分のランドセルと体操着入れを取り上げたアスカは、まだピクピクと痙攣しているシンジをそのままに家に入り、まずは体操着を洗濯機に放り込む。
一昨年から父親と一緒にお風呂に入るのを辞めたし、最近は胸元が微妙に成長してきているアスカは、元あった洗濯物を掻き分けて、外から見えないところに入れるあたり、微妙に乙女心も育ってきているようだ。
部屋に帰ってランドセルを放り出したアスカは、今日の宿題はあとでシンジにやらせればいいから、と、多分夕食の買い物だろう、留守の母、キョウコが用意してくれているはずのおやつをゲットするためにリビングに入ってみた。

「なに、これ?」

いつもならそこには、おやつのありかを書いたメモがあるだけなのに、今日はそこに、小さな箱が一つ添えられている。
箱の表面に張り付けられた、大手宅配便業者の送り状に書かれた宛て名は、アスカだった。

「誰から?」

送り主の名前はしかし、雨にでも濡れたのか、滲んでしまって読めなくなっていた。

「まぁ、いいっか」

湧きあがる興味をいったん抑えて、おやつを探し出す。
冷蔵庫の中にお気に入りのシュークリームを発見したアスカは、小皿に載せて自分の部屋に戻った。
机の上に箱を置くと、椅子を引いて腰かける。
まずはぱくっと一口。
ふわっと広がるカスタードと生クリームの味を楽しみつつ、目線を箱に向けると、もう一度手にして振ってみる。
何やらかさこそという軽い音。

「????」

包装紙を破り捨てると、まるでおとぎ話に出て来るような装飾の箱が一つ・・・、なのだが、開け口らしいものが見当たらない。

「????????」

振ってみたり逆さにしてみたり、裏も表もまんべんなく目をやるが、どこにも無い。

「????????????????」

頭の中を?マークでいっぱいにしたアスカは、何の気なしに飾りの紅い宝玉を押してみた。

かちっ

「きゃっ!
 ちょ、ちょ、ちょっと、なに、なによっ!」

小さな音がして、部屋じゅうに紅い光があふれかえる。

ぽんっ!

光が消えた時、机の上には、まるで最初からそうだったかのように天蓋が開いた箱があった。
ぱっくりと口をあけた箱を見たアスカは、首をひねった。

「????????????????????????????????
 なんで、こんなのが入ってるの?」

自分がはいているのと、さして変らないぱんつが一枚、そしてなにやら古ぼけた皮だか紙だか解らないものが一枚入っているきりなのだ。
手ざわりは普通の綿のぱんつっぽいし、ちょこんとワンポイントのリボンが金糸銀糸のきらびやかなものである以外、自分が今はいているものと変らないような気がする。
シルクでも無いし、ハイレグでも無いし、スケスケでも無いし、穴空きでもないし、Tバックでも無いし、ましてやTフロントでもない。
前も後ろも、裏も表も、どこからみても何の変てつもない普通のぱんつだ。
そしてようやく、一つのことに気づく。
それは、一緒に入っていたもう一つのアイテムだ。

「もしかすると説明書かも」

などと思ったアスカは、折り畳まれた紙を広げてみた。
アスカどころか、彼女の父親ですら知っているかどうか解らないが、それは紙の普及以前に、羊の皮をなめして作られた羊皮紙と呼ばれるものだった。

「おんな、・ばれしものよ?
 おんな、・がいうのはに・ひて、・ころもを・ふべし?
 せの・・を・ふは、おんなが・いのちなり?
 おんなあいだわざれば、せはくらくろに・まれり・・・?」

声に出して読んでみても、まるっきりよくわからない。
そりゃそうだろう。
所々間違っても、読んでいるだけましだ。
旧仮名遣いの文語体なんて、今時だいの大人でも読めるかどうか。

『汝、選バレシ者ヨ
 汝、我ガ言ノ葉ニ従ヒテ、聖衣ヲ纏フベシ
 世ノ危機ヲ救フハ、汝ガ宿命ナリ
 汝闘ワザレバ、世ハ暗黒ニ包マレリ』

いくらなんでも小学四年生に、こんな難しい言葉が理解できるはずもない。

「ばれし者って・・・。
 もしかして、この前ママのお気に入りのお皿割っちゃったの、バレたのかな?
 ころも?
 あ、そうか、服のことよね。
 ふぅん、だからぱんつなんだ・・・。
 うんうん、そうよね、ぱんつは女の命よね。
 ママも、ここは大事なところだって言ってるもんね。
 それを守るんだもん、命よね。
 でも、なんで技アリなのよ。
 間に技ありで、背中が黒くなっちゃうの?
 もしかして、股の間に何か秘密があるのかしら?
 う〜ん・・・、わかんないなぁ・・・」

独特の解釈で納得したりしなかったり。
中には微妙にアヤシイ解釈もあったりするが。
しかし、決断は早かった。

「ようはこれ、ぱんつなんでしょ?
 とにかく、はいてみればいいのよ」

さすがに現代っ子というか、女は度胸というわけだ。
さっと立ち上り、スカートを降ろすとはいているぱんつに手をかけて、はっと気づく。
窓を見ると、ガラス越しに隣りの家。
そこにある窓の向こうはシンジの部屋だ。
見れば、どうやら宿題をしているらしい、机に向かって頭を抱えている。

「へへん、アンタなんかに見せたげないよっ」

べっと舌を出したアスカは、窓際のベッドの上に昇ると、シンジの部屋が見える窓にカーテンを引いた。
この時彼女は気付くべきだった。
裏のアパートに住む小太りの浪人生の事を・・・。
アスカの部屋にあるもう一枚の窓を通して、中が見えるのである。
もっとも、これが問題になるのはもっと先の話。
今はひとまず、アスカの部屋に話を戻して、と・・・(^^;

「これでOKっと」

今度こそアスカはぱんつに手をかけると、するするっと引きおろした。
足首から抜き取ったぱんつを、ベッドの上にぽいっと投げる。
代わりに箱に入っていたぱんつを手にとった。
もう一度、じっと見てみる。

「とくに、変なところはないもんね・・・」

自分に言い聞かせるように呟いたアスカは、まず左足を通し、続いて右足を通し、すっと引っ張り上げた。
腰やすそのゴムを引っ張って位置を直すと、体をひねって前、後ろと見てみる。

「うん、ぴったりね。
 ごわごわしないし、いい感じ♪」

満足げに頷いたアスカは、ちょんと飾りのリボンをつついた。

『私の名はリリック。
 あなたが私のマスターですね?』
「ひっ!
 な、な、な、何?
 だれ、今のなにっ!?」
『だから、私の名はリリックです。
 あなたが私のマスターなんでしょ?』
「やぁ〜〜〜〜〜〜んっ!
 こ、こ、このぱんつっ!
 しゃべってるぅぅ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」

突然、ぱんつが喋ったのだっ!!
大慌てで脱ごうとするアスカに、リリックは早口にまくしたてた。

『あっ、待ってっ、脱がないでくださいっ!
 私は決して怪しい者じゃありませんからっ』

ぱんつが喋るだけで、じゅうぶん怪しいと思うぞ。

「どぉしてぱんつがしゃべってるのよっ!?」
『今言います。
 だから、どうか落ち着いて。
 落ち着いて、落ち着いて。
 はい、大きく息を吸ってぇ』
「すぅ〜〜〜〜っ」
『吐いてぇ』
「はぁ〜〜〜〜っ」
『吸ってぇ』
「すぅ〜〜〜〜っ」
『吐いてぇ』
「はぁ〜〜〜〜っ」
『どうです、落ち着いたでしょ。
 さぁ、話を聞いてくださいますか?』
「なワケないでしょ。
 だいたいどうしてぱんつがしゃべるのよ。
 ひじょーしきすぎるわよ」
『ですから、今からそれをご説明しますから。
 お願いですから、私の話を聞いてください』
「う・・・、うん・・・、わかったわよ・・・」
『ありがとうございます、マスター』
「ねぇ、その前に。
 ぬいじゃ、ダメ?」
『ダメです。
 私がこうしてお話できるのは、マスターが身に付けている時だけですから』
「なんか、大事なところがこそばいのよ。
 お願いだから、もうちょっとゆっくり、小さな声でしゃべってよ」
『無理です。
 声が大きいのも甲高いのも地声ですから』

ぱんつに地声があるのかどうかはともかく。
さすがは女の子、ちょっと恥ずかしいのか、頬がほんのりと赤かったりする。

「まぁ、悪い気分じゃないからいいけど、ちょっとヘンな感じ・・・。
 それで?」
『私の名前はリリックです』
「それはさっき聞いたわよっ」
『ずいぶん気の短い人ですね、マスターは。
 物事には順序がありますよ』
「いいからつづけなさいよっ。
 だいいちその「ますたー」っていうのやめてよ。
 アタシにはアスカっていう、ちゃんとした名前があるんだから」
『はい。
 かしこまりました、マスター・アスカ』
「う〜ん・・・。
 まぁいいっか。
 名前なんかどうでもいいわ。
 それで、どうしてアタシのところに来たの?」
『はい。
 あなたは全世界の24億6913万9879人の子供の中から、厳正な抽選の結果選ばれたのです。
 あなたの役目は、私とともに悪の魔法使いと闘うことです』
「ちょっと待ってよ!
 何人?
 それにその、ちゅ〜せんって何よ、ちゅう〜せんってっ!」
『はい。
 それはもう、たぁ〜いへんな作業でしたよぉ。
 まず24億6913万9879人から書類審査で52万4671人まで絞りました。
 一人一人、健康か、思想信条は正しいか、まじめに勉強しているか。
 それにちゃんと親の言いつけを聞いている子供かどうかも調べました。
 これにはフィンランドのサンタクロース公社の持ってたデータが役に立ちましたよ。
 彼らはすごく協力的でした。
 もっとも、プレゼントを簡単に作り出せる魔法と引き換えでしたけどね。
 私の後輩のブラーフが派遣社員として指導にあたることになっちゃって。
 実は彼、まだ新婚でしてね。
 奥さんはオメデタで動けないもんですから、可哀想に単身赴任なんです』
「そんなことはどうでもいいでしょっ!
 アタシが聞きたいのはそうじゃなくって、アタシが選ばれた理由よ、り・ゆ・うっ!」
『本当に気の短いマスターですね。
 先程も、物事には順番があると申し上げましたよ』
「アンタの後輩の話が順番なワケないでしょっ!」
『御名答っ!
 さすがは私のマスターです!』

アスカは黙って机の引き出しを開けると、はさみをとり出した。

「バカ言ってないで、続きを話しなさい、つ・づ・き・をっ!」

平板な言い方が、逆に迫力がある。
これにはクラス一の暴れん坊、トウジですら逆らえない。
いわんや魔法ぱんつのリリックにおいておや、である。

『あ、ちょ、ちょっと、何するんです。
 そんな物は仕舞ってください。
 私は平和主義者です、博愛主義者なんですってばァっ!
 暴力はんたぁい!
 話せば判る、話せばっ!』

シャキンッ、という金属音に恐れをなしたのか、リリックは早口にまくしたてた。

「じゃぁ、ゴタクはいいから、ちゃんとわかる説明してよ」
『はいはいはいはいはいはいっ!
 今説明させて頂きますでございますぅっ!』
「その言い方、なんか引っかかるわね」
『いえいえいえいえいえ、滅相もございません。
 どうか、どうか一つ、気を落ち着けて、楽にして聞いてください』
「はいはい・・・、ったく、タイコモチみたいなぱんつね」
『え〜、コホン。
 それでは・・・と。
 あなたは全世界の24億6913万9879人の子供の中から、厳正な抽選の結果選ばれたのです。  まず24億6913万9879人から書類審査で52万4671人まで絞りました。
 次に写真選考でさらに2万4953人に、水着審査で8143人まで絞りました。
 それから、ここが肝心なんですが男の子は全て対象から外しました。
 これで残りは362人です』
「ちょっと待ってよ。
 どうして男子は外したの?」
『はい、魔法使いは本来女だけなんです』
「じゃぁ、どうして最初っから女の子だけリストアップしないのよ。
 その方が楽じゃない」
『おぉっ!
 さすがはマスターですっ!
 実はそれに気付いたのは水着審査の時だったんです。
 やけに上半身裸の写真が多いなって気付きまして。
 最初はまぁ、ヌードなんて最近の女の子は進んでるなぁ、ぐらいにしか思いませんで。
 っていうか、何も考えてなかったんですね。
 でも、あまりにも数が多いんでよくよく調べたら、男の子のを外しておりませんでした』
「アンタバカァ?
 よくそれでやってられるわね」
『はい、女王様からもこっぴどく叱られました。
 最初にリストアップをやった事務のテハックなんて、4日も洗濯してもらえなかったんです。
 これがまた運の悪いことに、テハックのマスター、ちょうどブルーデーだったんです。
 それはもう、匂いのキツいことキツいこと。
 兄のテフラントですら近付こうとしませんでしたからねぇ。
 あれはもぉ、ほんっとぉ〜に、キツいお仕置きでした』
「あぁもぉっ!
 また脱線するっ」
『私はただ、マスターのご質問にお答えしただけですよ』
「はいはい・・・。
 いいから本筋を話なさいよ」
『はい。
 最後に残った362人から、厳正なる抽選で選ばれたのがマスター、あなたなんです』
「その抽選方法、ちょっと気になるけど聞かないことにするわ。
 それで、アタシに何をさせたいんですって?」

さすがにアスカも、これ以上リリックの経験談を聞く気にはならなかったらしい。
もっともこれは簡単、女王が投げたダーツの矢があたったカードに書かれた名前を選んだのである。
はたしてこれが「厳正なる」抽選かどうかはおおいに疑問だ。

『あなたの役目は、私とともに悪の魔法使いと闘うことです』
「悪の魔法使いっ!?」



 薄暗い石積みの階段。
手にしたカンテラの明りが反射するのは、染み出した地下水だ。
所々コケまで生え、カビ臭い空気とあいまって、あまり入りたいとは思わない場所なのは確かだ。

「はぁ・・・、母さんって、どうしてこうも外見にこだわるのかしら・・・」

へその周りと背中が大きく空いた黒紫のレオタードのような服(しかもハイレグ)の上に同じ色のマント。
服のすそやマントの裏地は毒々しい血の紅。
見るからに禍々しい雰囲気をまとった妙齢+αの美女が、大きな溜め息をつく。
階段を降り切って古ぼけた木のドアを開けると、両側には何やら得体の知れない生物が液体の中に浮かんだガラス瓶が並ぶ廊下がある。
もちろん廊下も壁も全て石積みなのは、持ち主の徹底したこだわりゆえだろう。
服と色を揃えたエナメルのピンヒールの足音が響く廊下の突き当たりに、再びドア。
今度はさっきと趣が異なり、マホガニー製の重厚な造りの飾り付きだ。

「魔界の王よ、古(いにしえ)の盟約に従いて我に力を、ラビトケラヒ」

小声で呪文を詠唱した美女が手を差し伸べると、ノブの無いドアがひとりでに開く。

「ドアぐらい、普通のものを付ければ?」
「何事も雰囲気は重要よ、ヘケート」

部屋の中央にデンと据えられたテーブルに向かったまま答えたのは、同じような服装をした、匂い立つような妖艶さのある女性だった。

「それで母さん、用事って何?」
「この格好のときはミレーヌとお呼びと言っているでしょう?」
『キャキャッ』
『キュ〜ゥッ』
『キョホホホッ』
「マギ、静かになさい」

テーブルの下に座り込んでいたケルベロッサ・ドラゴン(黒色三首竜)が、ヘケートの姿を見て嬉しげに騒ぎ出す。
たしなめたミレーヌは、質問に答える代わりに手招きした。

「来たわよ」
「来たって、何が?」
「女王リリスの使徒よ」
「リリスの使徒が?
 どこなの?」
「驚かないでね。
 この街よ」
「まさか。
 母さ・・・、ミレーヌ、冗談はよして」

冷たい流し目に思わず言い直すあたり、まだまだ可愛いところがある。

「ウソだと思うのなら、これをご覧なさいな」

テーブルの上に置かれた国土地理院発行(2009年度版)箱根地区の地図の上で踊るカラスの羽は、確かに第三新東京市外れの古くからある住宅街を指している。

「そう・・・。
 とうとう来たのね。
 我らが魔王、黒き月の支配者アダムにあだなす存在。
 白き月の盟主リリスの使徒が・・・。
 それで、キルア様にはもう報せたの?」
「ええ、先程」
「それでなんと?」
「たった一言よ。
 『始末なさい』
 ってね」



 シュークリームの残りを片付けながら辛抱強く聞いていたアスカは、ようやく終わったリリックの説明(ときどき寄り道あり)に、大きく頷いた。

「ようするにアタシは、その悪の魔法使い母娘と闘うために選ばれた、魔法少女なワケね」
『はい、そうです』
「でも、アタシは魔法なんてなぁ〜んにも知らないわよ」
『大丈夫です。
 あなたには生まれつき、魔力があるはずです。
 変身の呪文を唱えてくだされば、それだけでもう、立派な魔法使いになれますとも』
「ほんとかしら?」
『はい、それはもう。
 アメリカ大統領が核のボタンを押すぞと脅しても屈しないくらい間違いありません』

どんな保証方法だ?(^^;

「なんかよく判んないけど、すごそうね。
 じゃぁ、さっそくその呪文っていうのを教えてよ」
『ずいぶんあっさり納得しますね』
「あったりまえでしょっ!
 悪と闘うなんて、こんなにわくわくすることないじゃない。
 それに、アンタと話してると、なんか気持ちいいのよね」
『はぁ、そうですか。
 でも、私を洗濯することは忘れないでくださいね。
 皆さんなぜか、私達の仲間と話した後は湿気っていることが多いらしいので』
「下着を洗濯しない人なんて、いるワケないでしょっ!
 バカ言ってないで、早く教えなさいよっ!」
『まぁまぁ、そう興奮なさらずに。
 シワが増えますよ』
「アタシはそんな年寄りじゃないっ!」 『冗談ですってばァ・・・、もう、気が短いなぁ・・・。
 それでは、私に続いて呪文を唱えてください。
 天界の盟主よ』
「天界の盟主よ」
『古の盟約に従いて我に力を』
「古の迷惑に従いて我に力を」
『マスター、迷惑じゃありません、盟約です』
「マスター、迷惑じゃありません、盟約です」
『そうじゃ無くってですね』
「そうじゃ無くってですね」
『だから』
「だから」
『解ってやってますか?』
「解ってやってるわよ」
『マスター?』
「やぁねぇ、軽い冗談じゃない。
 さぁ、もう一回最初っから」
『その前に一つ、忠告があります。
 呪文は絶対に中止してはいけません。
 中止すると、魔法として解放されるはずのエネルギーが、空中に放出されます。
 TNTに換算して、簡単な物でも500キロほど、複雑な物だとメガトン級の爆発が起きます。
 小さな街なら、根こそぎ消滅してしまいます。
 いいですね、絶対に中止しないでください』
「さ、先に言いなさいよっ!
 今のは大丈夫なんでしょうねっ?」
『変身の呪文は大丈夫です。
 せいぜい、私がちょっと熱を帯びる程度です』
「どうりで、さっきから急にお尻が暖かいと思った」
『はい、そういうコトです。
 じゃぁ、呪文を唱えましょう。
 天界の盟主よ』
「天界の盟主よ」
『古の盟約に従いて我に力を』
「古の盟約に従いて我に力を」
『リリカルチャーミーLOVEリングっ☆』
「リリカルチャーミーLOVEリングっ☆」

真っ白な光があふれ出す。
ワンポイントのリボンがするすると伸びると、アスカを中心に渦を巻く。

「やんっ、な、なにこれ。
 あっ、うんっ、やん、やっ、あはっ、あ、あ、あはぁっ!!」

金銀のリボンの渦の中心で、頬を朱に染めたアスカが恍惚の表情でのけぞると、体の中で何かが弾けた。
光が収まった時、そこにはピンク色のノースリーブのエプロンドレス、淡いブルーグレーの長い手袋とストッキング姿のアスカが立っていた。
そう、これが、魔法少女りりかる☆アスカちゃんの誕生した瞬間だったのだっ!!
(どどぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!)







 地図の一点を指していたカラスの羽が、突然炎をあげた。
それまで中に浮いていた羽は、燃えつきて軸だけになると、ストッと地図に突き刺さった。

「どうやら、新しい魔法戦士が誕生したようね」
「ヘケート、住宅地図を持って来てちょうだい。
 ここがどこなのか、確認するわよ」
「はい、ミレーヌ」

一方の壁にある本棚の前でごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・ごそ・・・。

「どこ?」
「そのへんにあるでしょ?」
「無いわよ」
「うそおっしゃい。
 よく見もしないで無いなんて言うもんじゃないわ。
 それじゃぁ、立派なネクロマンサーにはなれないわよ」

皮肉とため息を付きながら、自ら本棚の前に立つ。
ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそごそ・・・・・、ごそ・・・。

「・・・・・・・・・・無いわね。
 えい、しょうがない。
 魔界の王よ、古の盟約に従いて我に力を、ヨデイヲ、ヘココ、住宅地図っ!」

ミレーヌの呪文が終わった途端、テーブルの上に第三新東京市発行の住宅地図が出現した。
新しく用意したカラスの羽に魔法を掛けて浮かせたナオコの隣から地図をのぞき込むヘケートは、無表情に口を開いた。

「ねぇミレーヌ、一つ質問してもいい?」
「なぁに?」
「どうして最初っから魔法で召喚しなかったの?」
「魔力を使うと、お腹が空くのよ」
「ふぅ〜ん・・・、そぉお」
「この年になると、間食はお腹のお肉と直結しているの。
 あと20年もすれば、あなたにも判るわ」
「ふぅ〜ん・・・、そぉお」
「あぁ、そういえばこの地図。
 この前町内会で公園清掃のチラシ配る時に持って行ったのよね。
 帰って来て電話の横に置いたんだったわ」
「ふぅ〜ん・・・、そぉお」
「そろそろ、判りそうね」
「ふぅ〜ん・・・、そぉお」
「ヘケート?」
「ふぅ〜ん・・・、そぉお」
「・・・・・・・・・。
 今晩、夕食抜き」
「ふぅ〜ん・・・、そぉ・・・・れはダメよ」
「ちゃんと聞いてるのね」
「出たわよ」

勝手にページがめくれる地図の上でくるくると回っていた羽がぴたっと止まり、ある一点をさしながらぴょこぴょこと踊り出す。
それを見た二人は、顔を見合わせて呟いた。

「「ふぅん・・・、そぉお」」



 変身したアスカは、手にステッキを握っていた。
そのステッキから声がする。

『素晴らしいっ!
 一発で変身に成功したのは、あなたが初めてですっ!
 これはもう、感動モノですよっっっ!!』
「えへっ♪
 なんかこう、雲の上まで飛んでくような感じで、すっごく気持ちよかった。
 これ、悪くないわねっ♪♪」
『ではマスター、早速トレーニングを始めましょう』
「ねぇ、リリック、ちょっと待って。
 なんかお尻がすーすーするんだけど・・・、ってやだっ!
 何よこれぇ!」

前はエプロンがあるからいいものの、後ろからみればかわいいお尻がまる見えである。
もちろん風が吹けば、お尻だけではない。
振り返ってみてそれに気付いたアスカは、顔を真っ赤にして座り込んでしまった。

『これが魔法少女の正装ですよ、マスター。
 余計な物は一切付けない、必要な物は一切省かない。
 何も引かない、何も足さない、ピュアモルトウィスキーのような服装こそが正しい姿なんです。
 これでないと魔力は発揮できません』
「ぱんつくらいはかせてよぉ」
『それはできません。
 この次衣装が変るのは、16歳になった時です。
 その時にはスクール水着よりは少しマシな程度ですが、全身を隠せる物になります。
 見習いのうちはこの格好で我慢してください』
「6年もぉ?
 嫌よそんなのぉ。
 それって短くならないの?」
『一つだけ方法があります。
 10の呪文を覚えること』
「なんだ、簡単じゃない」
『まだですよ。
 話は最後まで聞いてください。
 レベルを20まで上げること。
 参考までに、今のマスターのレベルは、当然ですが1です。
 レベルアップはポイント制です。
 ポイントは呪文を覚えたり、敵を倒したりして受け取ります。
 レベル1から2への必要ポイントは100ポイントです』
「なんだ、やっぱ簡単じゃない」
『最初は簡単ですが、レベルが上がると次のステップアップまでの必要ポイントも上がります。
 2から3へは200、3から4へは400、4から5へは800。
 この後もレベルアップごとに倍になりますから、レベル20のときは2621万4400ポイントになります。
 ですから、衣装替えまでの通算必要ポイントは5242万8600ポイントになります』
「・・・・・・・・・・、それって・・・・・・多い?」
『・・・・・・・・・・、多分・・・・・・・たくさん』



その様子を、窓の外からうかがう小さな黒い影。

『キャ?』
『クキュゥ』
『キョケ!』

三つの頭を寄せて何やら話し合ったマギは、小さな羽をぱたぱたと羽ばたかせて窓を離れた。



「ところで、ポイント制って言ったけど。
 呪文一つでどのくらいになるの?」
『物にもよります。
 簡単な物は50ポイント、難しいのになると10万ポイントくらいですね。
 参考までに、変身の呪文はこの50ポイントの物です。
 だからマスターは、既に50ポイントをゲットしていますよ』
「じゃぁ、レベル2まであと半分ね。
 もう一つ呪文を覚えればすぐじゃない」
『そう簡単にはいきませんよ。
 基本的に魔法使いの属性は、天、地、火、水、風の5つに分類されます。
 勉強でも、算数が得意な人、国語が得意な人と、いろいろいますよね。
 魔法にも、個性に応じて得意不得意があるのです。
 マスターの属性が解らなければ、習得する呪文も決まりません』
「ふぅん、そぉなんだぁ・・・。
 そのゾクセイっていうのを調べるにはどうするの?」
『さすがにこれは、私だけではどうにもなりません。
 ちゃんとした資格を持った師匠が必要になります』
「その師匠って、どこにいるのよ」
『はい、これは大丈夫です。
 変身の呪文とほとんど変らないレベルの呪文ですから。
 それではまた、私に続いて唱えてください。
 天界の盟主よ』
「天界の盟主よ」
『古の盟約に従いて我に力を』
「古の盟約に従いて我に力を」
『イコテデ、イコテデ、我が師匠』
「イコテデ、イコテデ、我が師匠」

きぃ〜んこぉ〜んかぁ〜んこぉ〜ん

どこからともなくチャイムの音。
空中に現れた無数の小さな光の粒が集まると、徐々に形を作り、ぱっと光って消えた。
そこには、古ぼけた革張りの本が一冊あるっきりだ。

「ちょっと、師匠はどこよ?」
『その本がそうです。
 マスターあなたは運がいいです。
 その本は、今でこそそんな姿ですが、元は希代の名魔女なんです。
 天界の魔法学院最高学府、王立魔法大学大学院魔法学部III類を首席で卒業した伝説の魔導師、グレート・ザ・葛城。
 その末裔、葛城<ビーアバーレル>ミサトが、あなたの師匠の名前です』
「なんか怪しいわね。
 本人じゃなくって、そのプロレスラーみたいな人の子孫なんでしょ?
 それにびーあばーれるってなによ?」
『おやおや。
 魔法に血筋は重要ですよ。
 天界にはちゃんと、それぞれの血筋の血統書が保管されています。
 今回の候補者選びも、そこから始まってるんですから。
 それから、このミドルネームは、一人一人の個性に応じて師匠が名付けます。
 中には自分で付けちゃう人もいますが、そういう人はたいてい黒魔術師です』
「黒?
 魔法にも色があるの?」
『あぁ、これは一番最初に言わなきゃいけませんでしたね。
 魔法には天界の力を使う白魔術と魔界の力を使う黒魔術があるんです。
 私達は白魔術なんですが、悪魔に魅入られた人達は黒魔術師になっちゃいます』
「つまり、アタシの闘う相手は、その黒魔術師なのね?」
『はぁいっ、そぉ〜〜〜〜〜ですっ!
 いやぁ、マスターは飲み込みが早くて助かります。
 それから・・・、申し遅れました。
 今の召喚魔法も成功しましたので、50ポイントが加算されました。
 合計100ポイント、これでめでたくレベル2ゲットです。
 おめでとうございます』
「きゃはっ、やったじゃん♪
 これでこのハズい格好から一歩前進よっ!」
『さぁ、それではさっそくトレーニングを始めましょう』
「でも、本に変えられちゃった師匠じゃ、何も教えてくれないじゃない」
『疑問はもっともですが。
 大丈夫、彼女の知識は全て文字として現れています。
 試しにどこでもいいからページを開いてみてください』

言われるままにアスカは、本を手にとってページを開いた。

「パトワイザー、ちょっと軽い口当たりだが、アルコール度数が高く、油断すると危険。
 ヨントリー、やっぱり黒生が一番、夏の夜はこれに限る。
 キピン、老舗だけあって、独特の苦みとコク、あの味わい深さは素晴らしい。
 エビチュ、この味わいこそが本物のビール。
 エビチュの前にエビチュ無く、エビチュの後にエビチュなし。
 って何よこれ?」
『あぁ、嗜好のページですよ、それ。
 魔法のページはもっと後ろです』

確かに、頭の中身がみんな文字になっているようだ。
その後も、一言では顕せない恐怖を覚えるようなカレーの作り方などのページを越え、ようやく違った内容のページに達した。

「2003年5月22日、晴れ。
 ヘケートとの勝負。
 最初は押し気味だったのに、最後は押されまくり。
 気がつけば本になっていた。
 どうやら、今朝の缶ビールを2本しか飲まなかったのが原因。
 参った」
「何よこれ、日記じゃない」
『いいから続きを読んでください。
 重要な部分ですよ』
「2003年5月23日、曇り。
 丑三つ時だけは元の姿に戻れるらしい。
 でも、この書斎からの脱出は無理みたい。
 禁酒のせいでパワーが足りなさ過ぎる。
 誰かあたしにビールを頂戴」
『ね。
 重要な情報が得られたでしょう?
 グランマスターミサトは丑三つ時は人の姿に戻れるんです』
「なるほどね・・・。
 2003年5月24日、晴れのち曇り。
 エビチュ・・・。

 2003年5月25日、雨。
 エビチュ、エビチュ・・・。

 2003年5月26日、曇りのち晴れ。
 エビチュ、エビチュ、エビチュ・・・。

 2003年5月27日、晴れときどき曇り。
 エビチュ、エビチュ、エビチュ、エビチュ・・・」

日を追うごとに文字が乱れている。
よほど禁酒が辛かったんだろう。
酒類を口にしたことのないアスカですら、その文字の乱れようには何か切実なものを感じ、思わず涙しそうになっていた。

「2003年5月28日、曇り、夕方からにわか雨。
 まさか、まさか、まさか。
 このあたしがウィッチハンターに助けられるなんて。
 しかもあのコマシのリョウジなんて・・・。
 最悪と最良が一緒に来た気分。
 でも、久々のエビチュは美味しかった♪」
『どうです、グランマスターが本に変えられた経緯がバッチリでしょ?
 さぁ、今度こそ、魔法のページを開いてください』
「これを読む、まだ見ぬ弟子へ。
 あたしに逢えるのは丑三つ時だけ。
 それ以外で質問があれば、トラブルシューティングのページに内容を書きなさい。
 OS、使用ソフト、周辺機器の構成、シリアル番号、ユーザーIDを忘れずに書くこと。
 なによこれ?」
『さぁ、私にも判りかねます』
「それじゃぁ質問なんてできないじゃない!」
『それもそうですね・・・。
 どうでしょう。
 ここは一つ、丑三つ時を待ちましょう。
 人の姿になってもらってからトレーニングすることにしませんか?』
「あのねぇ・・・。
 じゃぁ、今変身した意味なんてないじゃないっ!!」
『なるほどぉっ!
 さすがマスターです、そこまで気がつきませんでしたよ』

アスカは無言でステッキの両端を握ると、ぐっと力を込めた。

「折るわよ。
 今すぐ元にもどる呪文を教えなさい!」
『あ、あああっ、待って、待ってっ!
 はい、今、今、今教えます。
 私は平和主義者です、博愛主義者なんですってばァっ!
 暴力はんたぁい!
 話せば判る、話せばっ!』
「またそれ?(^^;」
『はいはいはい、じゃぁ、さっそく、ね、ね。
 はい、呪文を唱えましょう。
 天界の盟主よ』
「天界の盟主よ」
『古の盟約に従いて我に力を』
「古の盟約に従いて我に力を」
『ルカリリミーチャーグンリブラっ☆』
「ルカリリミーチャーグンリブラっ☆」

再びアスカの全身が光に包まれる。

「ひゃんっ!
 うん、く、あんっ、あはっ、あ、あ、あああああっ、あはぁっ!!」

変身を解いたアスカは、はっとした表情を浮かべ、リリックが何かを言う前に脱ぎ去ると、すぐさま洗面所に向かった。

「まさかこの年になってちびっちゃうなんて、恥ずかしい・・・」

ホントにそうかァ?(笑)



 しんと静まり返った住宅街。
小高い丘の上にある一軒の家の窓に、明りが灯った。

「そろそろ2時ね・・・」

夕食後に、好きなアニメやドラマを見るのも我慢してベッドに入ったアスカは、目覚まし時計で夜中に目を覚ますと、時間になるのを待っていた。

『おっはぁ〜!
 さぁ、朝だよぉっ!
 今日も元気に行ってみよぉっ!!
 おっはぁ〜!
 さぁ、朝』

仕掛けた目覚まし時計が、時間になったことを告げる。
アラームを止めたアスカは、小さく頷くと立ち上がった。
パジャマを脱いで、しっかりと洗って乾かしておいたリリックにはきかえると、呪文を唱える。

「よしっと。
 えっと・・・、天界の盟主よ、古の盟約に従いて我に力を。
 リリカルチャーミーLOVEリングっ☆」

真っ白な光があふれ出す。
ワンポイントのリボンがするすると伸びて、アスカを中心に渦を巻く。

「やんっ、んっ、あっ、やん、あはっ、あ、あ、あはぁっ!!」

金銀のリボンの渦の中心で、頬を朱に染めたアスカが恍惚の表情でのけぞると、体の中で何かが弾けた。

「はふぅっ・・・。
 さぁ、リリック、師匠とやらを呼ぶわよ」
『はい、マスター』
「天界の盟主よ、古の盟約に従いて我に力を。
 イコテデ、イコテデ、我が師匠」

きぃ〜んこぉ〜んかぁ〜んこぉ〜ん

どこからともなくチャイムの音。
空中に現れた無数の小さな光の粒が集まると、徐々に形を作り、ぱっと光って消えた。
そこにはあいかわらず、古ぼけた革張りの本が一冊あるっきりだ。

「ちょっと、丑三つ時だったら人の姿じゃなかったの?」
『変ですね・・・。
 あ、そういえばマスター、ビールは準備しましたか?』
「ビール?」
『グランマスターの力の源はビールです。
 あれが無いと人の姿にもどれません』
「そういうことは先に言いなさいよっ!」

アスカはそっと部屋を抜けだすと、階段を降りてキッチンに向かった。

「ママの趣味だからハイネケンしかないけど・・・・、まぁいいっか」

ドイツ留学を経験し、そこで日本から来ていた商社マンと恋に落ち、帰国後に結婚したキョウコは、今でもドイツビールしか飲まなかった。
キョウコの夫、つまりアスカの父親は、アスカが幼稚園の頃に家を出たきり連絡が取れない。
アスカには離婚したと説明していたが、実際にはいろいろとあったらしい。

\(^^\) 余談は (/^^)/ おいといて

 ハイネケン片手に部屋に戻ったアスカは、本の横に置いておいたリリックに話しかけた。

「持って来たわよ。
 どうすればいいの?」
『グランマスターにビールを飲ませるんです』
「相手は本よ。
 どこに口があるのよ」
『う〜ん・・・・・・・』
「アンタが考え込んでどうするのよっ!」
『とりあえず栓を開けてみませんか?』
「そうね」

ぷしゅ!

栓を開けた缶を本の横に置く。

ことっ。
ことことっ。
ことことことことっ。
ことっ、ぱしゃっ!

ひとりでに動きだした缶が、本の上まで来て倒けた。
当然ビールがこぼれだす。
ところがビールは、まるで砂の上に水を撒いたかのように本に吸い込まれてしまった。

「なるほど、こぼせばいいんだ」

納得したアスカは、缶を持ち上げると中身を全部本に向かってぶちまけた。
バラバラになった T-1000 が集まるかのように移動した水滴は、ものの数秒で吸い込まれてしまった。
ジッと見つめていたアスカの目の前で、ページがぱらぱらとめくれる。
白紙のページが開かれると、じわっと文字が浮かんだ。
アスカは頬を引きつらせて手を額に当てると、部屋から出ていった。
机の上に残された本には、こう書かれていた。

おかわり♪




ドモドモ、J.U.タイラーでっす!(^^)/

 初っ端から1話完結ができませんでした(^^;
これも全部リリックの話が長いせいだ!

『酷いなぁ。
 あなたの文章構成能力が低いのを棚に上げて、それは無いですよ。
 だいたい書きはじめたのいつですか?
 こんな仕事してたら、私達なんてとっくにクビですよ、クビ。
 イイですよねぇ、お気楽な趣味の物書きさんは』

・・・・・・・・・・。
なぁ、リリックさんよ・・・。
木綿ってのは結構燃え易いらしいそうじゃないか。
俺の手元には火の付いたタバコがあるんだが、どうだろう。
この火の不始末でどのくらいで引火するか、実験してみないか?

『あ、ちょ、ちょっと、何するんです。
 そんな物は仕舞ってください。
 私は平和主義者です、博愛主義者なんですってばァっ!
 暴力はんたぁい!
 話せば判る、話せばっ!』

\(^^\) 冗談は (/^^)/ おいといて

 ようやく始まりました第1話ですが、バカっぽさとお気楽極楽をメインテーマに書きたいと思ったので、今回はちょっと軽めのタッチで筆を運んでいます。
目標は『未来放浪ガルディーン』の感じです(笑)

 さて、今回書くにあたって、キャストをいろいろと想像しました。
メインキャラというか、エヴァキャラはそのままでもいいと思います。
で、新キャラのリリックなんですが、私は野沢那智さんをイメージしました。
というか野沢さんの演じるC3POです。
あの甲高くてマヌケっぽいわりには、立て板に水のように次々と飛び出す言葉の数々が、リリックというキャラにぴったりな気がしたのです。

 もう一人(?)の新キャラ、ケルベロッサ・ドラゴン(黒色三首竜)のマギですが、イメージとしては、鱗の代わりに黒毛がふさふさと生えたキングギドラのちっちゃいの、と思っていただければいいかと。
「ゴジラ対キングギドラ」に出てきたギドラザウルスという恐竜の幼生体がいましたが、あれが黒毛の三つ首になった感じです。
声の出演は当然、ペンペンでおなじみのあのお方で決まりでしょう(^^;
たぶん誰かがイラスト化してくれると思いますので、それを待ちましょう(笑)

 ともかく書きはじめましたが、まだまだぜんぜん始まったばかりです。
ミサトも出てきてません。
ミサトスキーのみゃあさん、ゴメンなさい(^^;



次回予告

 魔法少女に変身したアスカ。
しゃべるぱんつのリリック。
そして本から飛び出したミサト。
いよいよ、アスカの戦いが始まる・・・・・・のだろうか?(^^;

次回、「リリカル☆アスカちゃん」・第2話

邂逅・・・そして出逢い! 後編



 いやぁ、小説って、本当にいいもんですね。
それではまた、このページでお逢いしましょう。

でわでわ(^^)/~~