無くて七癖

 

作者/K-2さん

 

 

 

最近、ふと感じる事がある。

 

リビングで寝そべって、TVを見てる時。

 

ダイニングテーブルで、宿題をしてる時にも。

 

早起きした時の、学校への道すがら。

 

授業中が退屈で、ぼーっとしてる時。

 

休み時間に、ヒカリなんかとお喋りしてる時。

 

放課後、夕焼けの学校からの帰り道。

 

NERVでの訓練中や、その後。

 

家に帰ってからの、夕食時。

 

お風呂から上がって、牛乳飲んでる時。

 

寝る前に、ペンペンにお休みを言う時。

 

 

ふと……ふと感じるのよ…………あったかい、視線を。

 

 

 

 

    『 無くて七癖 』

 

               K−2(@No.7)

 

 

 

「アスカってさ…………」

 

「ん?」

 

 

珍しく、アイツから声をかけてきた。

 

ここはリビング。

テーブルを出して、シンジと二人で宿題をやってる。

 

アタシはまだ終わってないんだけど、シンジはもう済んだみたい。

ま、教科が国語だから、これは仕方無いわよね。

国語と歴史が、シンジの得意教科らしいし。

 

シンジは、辞書と首っ引きで読解問題と格闘中のアタシに、

眠そうな、けだる気な声を向けてきた。

 

 

「何よ?」

 

「うん…………、アスカってさ、

 考え事する時、下唇触る癖、あるんだね」

 

「…………へ?!」

 

 

いきなり何なのよ、コイツは。

下唇ぅ?!

 

…………

……………………

………………………………

………………………た、確かに…………、

…………触ってるよーな気が……する…………。

 

 

「だ、だから何よぅ? 触っちゃいけないの?」

 

「ううん、別に、そういうんじゃ無いんだ。

 ごめん、気にしないで?」

 

 

シンジは軽く苦笑して、

開きっぱなしだった自分のノートPCを閉じた。

そのままキッチンに立って、

さっき用意してたコーヒーメーカーからマグに2杯注ぐ。

 

アタシのには、お砂糖2杯と牛乳。

自分のには、お砂糖1杯半と、これも同じく牛乳。

お茶請けに、南瓜のシフォンケーキ(自家製ってのがスゴイ気がする)

お盆に載せて持って来た。

 

 

「ハイ。ちょっと休憩にしなよ、アスカ」

 

 

いえーい、おやつおやつぅ〜♪♪ 待ってましたっ!!

…………と、言いたい所だけど…………。

 

 

「ねぇ、何なのよ?」

 

「え? 何が?」

 

「アタシの…………癖のコト」

 

「あぁ、だから気にしないでってば。

 ちょっと気が付いたから言ってみただけだし」

 

「気になるわよ! アンタ、普段はそんな事指摘したりしないじゃん。

 何かあるの? 考え事をしてる時に下唇触るのって。

 あ! 日本じゃお行儀が悪く見られるとか、そーゆー事?」

 

「そんな訳じゃないよ。本当に、ただ気が付いたから言っただけなんだ。

 そんなに気にするとは思わなくって…………その、ごめん」

 

 

シンジは顔の前で手を合わせてまで謝る。

 

 

「…………ほんっとーーに、何でも無いのね?」

 

「誓って、何でも無いよ」

 

「…………妙な事言って脅かさないでよ、もう」

 

「ごめん…………。

 でも、今まで誰にも言われなかったの?」

 

「ぜーんぜん。普通そんな事気づかないでしょ?」

 

「そぉかなぁ?……だってすごく…………」

 

 

そこまで言った所で、急に顔を赤くして口をつぐむシンジ。

おやぁ…………こ・れ・は?

 

 

「すごく? 『すごく』何よ? ねぇねぇ!!」

 

「その、別に…………な、何でも無いよ? うん」

 

 

女の子みたいに頬染めて、慌ててぶんぶか手と顔を横に振るシンジ。

ほーんと、分かり易いなぁ、コイツって♪♪

しかも自分のそういう反応が、

アタシの『からかいスピリッツ』をくすぐってる事に気が付かないし!

 

 

「なによっ! 『すごくマヌケ』だとか、

 『すっごく見っとも無い』だとか思ってるんでしょ? バカシンジ!!」

 

 

わざと声を荒げてそう言ってやると、滑稽な程に首を横に振る。

 

 

「ち、違うって! 僕はそんな事、

 全然ホントに全くこれっぽっちも思ってないよ!」

 

「へぇぇ?! じゃあ、何なのよっ!?」

 

「え゛?…………いや、その…………」

 

「『すごく』何? ほら、言ってみなさい!」

 

「ぁぅ…………や、その…………」

 

 

ふっふっふ、焦ってる、焦ってる!♪

心底困った顔してるわね〜〜♪♪

ま、アタシは慈悲深い性格だし、今日はこのぐらいにしといてやるか!

 

 「まぁ良いけどね〜。

  バカシンジに何と思われたって、

  アタシの美貌には一部の陰りも無いんだから!」

 

…………と言おう思った瞬間。

 

 

「…………アスカ、言っても怒らない?」

 

 

シンジがそんな風に、おずおずと言った。

 

うっ…………、

なっ、何よ、急に?

そ、そんな風に言われて…………「怒る!」なんて言えないでしょ。

 

ちょっとぉ……………シンジってば、ホントに言うつもり?

話の流れからいって、『すごく』の後に来る言葉ぐらい、

アタシはとっくに分かってる。

それは……、アタシだって女の子なんだから、口に出して言って欲しい言葉。

でもシンジの性格じゃ、

問い詰めても恥ずかしがって絶対言えない、

…………言ってくれないだろうって事も分かってて、

そーゆーの、全部含めて、アタシはからかったのだ。

 

それぐらい、いくら『鈍感皇帝』とか、

『真空管CPU頭』の異名をとるシンジだって、分かってるハズ。

分かってて、仕方なくアタシにからかわれてるハズ。

 

これは…………今のこのやり取りは、

そういう『予定調和』のやり取りのハズなのに………。

たとえ、それが物足りないって思ってるアタシがいても…………。

 

あくまで、やっぱり、『予定調和』は崩れないって思ってたのに。

 

どこかでそんな関係を、

 

90%の安心と、7%諦めと、

…………3%の不満と共に、受け入れてたのに。

 

シンジの方から、それを崩すの?

 

…………そんなの…………予想外過ぎる展開じゃない!

 

 

「…………は、発言の、な、内容によるわね!」

 

 

何とか声、絞り出して…………、睨む様にシンジを見る。

顔が…………頬が熱い。

『しゅわぁぁっ!』って、頭に血が上る時独特の耳鳴りがして、

続いて『ドクン! ドクン!!』って、鼓動が頭ン中に響いて。

でも頭の中に、どこか冷めたもう一人のアタシが居て、

そのアタシが、

 

 “ 今アタシ、シンジと見詰め合ってるのよね。

   手を伸ばせば、届く距離で ”

 

なんて、現状に対する冷静な指摘をしてくれて。

その事に気づかされて余計にドキドキして。

 

…………ど、どうしよぉぉっ!

 

こ、こころのじゅんびが…………。

れ、れいせいに…………。

お、おちついて…………。

 

 

「は、早く言いなさいよ!」

 

 

わぁぁっ! バカバカ! アタシのバカァッ!

何言ってんのよアタシはぁっ!!

何にも心の準備が出来てない内から、煽ってどーすんのよっ!!

 

 

冷静に! 冷静に考えなさいアスカ!

別に愛の告白をされる訳じゃ無いわっ!!

シンジは、アタシの容姿に対する、

ありきたりな感想を述べるに過ぎないのよ!

ど、どうせバカシンジの事だから、

気の効いた台詞なんて言えないに決まってるし!

も、もーまんたい(無問題)よっ!!

 

…………多分…………。

 

 

 “ でも…………、

   今まで一度もそういうこと言わなかったシンジが、

   そういうコトを言うって事は、

   もう、今までみたいな、

   家族ゴッコのぬるま湯っぽい関係には戻れないかもね ”

 

あう…………『冷静なアタシ』がエグるよーなツッコミを!

ああもうっ! き、気づかなければそれで済む事なのにぃ!!

聡明な自分が憎いわ!

 

 “ どうなるのかな?『新しいステップ』に進んだ二人の関係って ”

 

だぁぁぁっ!! 他人事みたいに指摘してんじゃないぃぃっっ!!

 

 

なんて、アタシの内なる葛藤を他所に、

シンジが真っ赤な顔を心持ち引き締めて、

でもやっぱりおずおずと、口を…………開いてしまった。

 

…………ああっ…………こころの…………じゅんびがぁ…………。

 

 

「あ、あの…………何気ない仕草なんだけど…………その…………」

 

「………………………………」

 

 

流石にツッコミは入れない…………って言うか、入れらんない。

…………入れられるワケ無いじゃないっ!!

 

 

「あの、…………すごく…………その…………、

 ………………………………か、……………………、

 ……………………可愛……いと、…………思う…………よ?」

 

 

 “ 『言っちゃった、テヘ』といった感じで、

    俯いて頭を掻くシンジであった、マル ”

 

…………って、“ マル ”じゃなぁぁぁぁぁいっ!!

 

ど、どうしよう。

…………言われた…………

………………シンジの口から…………ちょくせつ…………。

…………言われちゃったよぉぉぉっっっ!!!

 

もう、自分の顔は弐号機並の真紅に染まってるんじゃないかと思う。

そう思えるほど、顔が熱い。

熱いったら、熱い!!

 

や、ダメ…………、照れてる場合じゃない。

このままだと、シンジは場の緊張感に耐えかねて部屋に戻っちゃうだろう。

その前に、アタシから何か言わないと!

何も言わないままシンジを行かせたら、

…………きっと後悔するから、だから言わないと!!

 

 

…………でも、アタシの気持ちは?

アタシが、今、感じているコレは??

………ものすごく恥ずかしいけど、それとは違うドキドキ感。

これって…………やっぱ嬉しいの?

まさか…………怒りじゃないし…………でも…………。

ど、どうしよう…………アタシは今、どう感じてるの??

 

 「あ、あの、僕その…………ごめん」

 

今にもそんな風に言って、シンジが立ち上がりそうなのに、

アタシは自分の感情の色が見えないままで、ただ動けなくって…………。

 

 

と、その時…………、

 

 

「たっだいまぁーーーっ!!! いやぁ〜〜暑い暑い!!

 シンちゃ〜ん! エビチュ冷えてるぅ?…………て、ありゃ??」

 

 

 “ このような場合の第三者の介入は、

   時に状況を好転させる場合もある、マル ”

 

いや、だから“ マル ”じゃなくて…………。

 

 

相変わらず底抜けに明るい声を上げてリビングに入ってきたのは、

我らが『愛すべきダメ保護者』葛城ミサト。

彼女はリビングルーム入り口付近で、一時停止ボタンを押されたように固まって、

『真っ赤になって見つめ合ってたアタシ達』を見た。

 

 

1秒。

 

2秒。

 

3秒。

 

4秒。

 

そしてきっかり5秒目で、ミサトは一陣の風の様に自室に飛び込む。

シンジは状況が掴めずに『ぽかん』としてるけど…………、

…………何だか、とてつもなく嫌な予感がするわ、アタシ。

 

恐らく、何かを取りに部屋に入ったんだろうけど…………。

 

 

『ごそごそ』『ドカン!』『がしゃん!!』『みしっ!!』『バリバリッ!』

『ぎゅおんぎゅおーん!!』『どたたたたっ!!』『バンバンバンッ!!!』

『ぎゅるぎゅるるぅっ!!』『ぶるるんぶるるんっ!!』『うぃーんうぃーん!』

『がおーっ!!』『ひひーん!!』『ぱおーん!』『ばうわうっ!!』

『にゅる』『ぐちゃ』『ぺそぺそっ』『きゅぽきゅぽきゅぽ!』

『ゴゴゴゴゴ!!』『オラオラオラオラッ!!』『URYYYYYYッ!!!』

 

 

以上は、ミサトが自室に入ってから、アタシの耳に聞こえて来た音だ。

誓ってホントだ。ウソじゃない。

 

……………………前言を撤回する。

『嫌な予感』じゃなくって、タダ、『嫌』なだけだ、心の底から。

 

そして4分25秒後、

古代遺跡を発掘調査中の考古学者並に埃まみれになったミサトが、

「けほっ! こほっ!」と咳をして、フラフラと部屋から出て来た。

何だか妙にやつれて見えるのは、アタシの気のせいだろうか?

ミサトは気丈にも表情を引き締めてから、こちらに歩み寄って来る。

あまつさえ、シンジの前にきちんと正座までする。

…………なんでも良いけど、顔拭きなさいよ、ミサト。

 

 

「シンジ君、それとアスカも。

 …………アタシも今更とやかく言わないわ。

 “それ”は…………、あなた達が選んだ道だしね。

 アナタ達の事、少しは分かってやれるつもりだし…………」

 

「はぁ…………」

 

 

ミサトの真剣な表情に気押されて、シンジが頷く。

アタシも黙って聞いてるけど…………、ミサト、何言ってるの??

 

 

「『早すぎる』なんて野暮な事も言わない。

 でもねシンジ君、こういう時、傷つき易いのは女の子の方なの。

 …………だから、コレ、ちゃんと使うのよ?」

 

「…………えっと、あの、

 何のお話かよく分からないんですが…………ミサトさん?」

 

 

ミサトは『皆まで言うな』という感じで首を振り、

手に持っていた箱をシンジの方に押しやった。

 

 

「アタシは今日は戻らないから、二人共、しっかりね」

 

 

そう言って、目を潤ませたりなんかしながらスタスタと遠ざかる。

ダイニングテーブルの上に置いたルノーのキーを引っ掴むと、

廊下に出る時にさらに一言、

 

 

「それ、新品だけど、全部使っちゃって良いから」

 

 

という言葉を残して疾風のように出てった。

…………何なの??

……………………ものすごぉく、嫌な予感がするけど。

 

 

「シンジ…………ミサトが置いてったソレ、何?」

 

「何だろう…………うわ、すっごい埃だな…………、

 何の箱だか分かんないや」

 

 

シンジはその埃だらけの箱を慎重に持ち上げて、

ゴミ箱の上で埃を払い落とした。

 

何とか読めるようになった箱書きには…………、

 

 

 『うすうす』

 

 

という文字が躍っていた。

 

 

1分。

 

2分。

 

3分。

 

 

思考停止約3分半。

こんな時までご丁寧にユニゾンして、

二人揃って真っ赤になるアタシとシンジ。

 

 

「なっ! なっ!! 何考えてんのよっ!!

 あ、あんの腐れ酔っ払い女はぁぁぁぁぁっ!!!

 

 

そんなアタシの絶叫に驚いた様子も無く、

ペンペンが横をすり抜けた…………。

 

 

  * * * *

 

夕食後。

 

シンジはキッチンで洗い物してる。

アタシはお風呂から上がった後、リビングルームに寝転がって、

TVのドキュメンタリー番組を見ていた。

 

 

……………………あの後、制裁手段として、

家中のエビチュを全て酒屋に引き取ってもらって、

さらに家中のありとあらゆる壁に、

 

『禁酒』『飲酒は罪!』『呑んだくれ作戦部長に鉄槌を!』

 

などと書かれた紙を張りまくり、

とどめにミサトの作戦部長専用執務室の留守電に、

 

『バカバカ大バカ、バカミサトの呑んだくれ〜っ!!

 酔っ払い作戦部長、天誅〜〜〜!!』

 

とのメッセージを、テープが無くなるまで吹き込んでやった。

 

珍しくシンジも止めなかった。

まあ、当たり前よね。

 

さすがに、留守の間にミサトのコレクションしてる車を、

片っ端から中古車会社に売りつけてやろうとした時には、

「それはさすがに、洒落じゃ済まないから止めなよ」

とか何とか言って止めて来たけど。

 

しっかしミ・サ・ト・の・や・つぅぅぅっ!!

 

折角シンジと『イイ雰囲気』になりかけてたのに、

思いっきりオヤヂっぽい勘違いの挙げ句に、

それをぶち壊しにしてくれちゃってぇぇぇぇっ!!

むむむぅぅぅっ!!

やっぱし、あの程度の制裁じゃ生温かったわ!!

コレクション全部とは言わないまでも、

高価い方から3台ぐらい売ってやりゃ良かった!!

 

それくらい当然なのよ! だって折角シンジと…………、

 

…………いや、あ、アタシは別に、シンジといい雰囲気になったって、

嬉しくなんか無いのよ? アタシは加持さん一筋だし?!

 

ただ、まあ、シンジにも、

たまには夢を見せてやりたかったとゆーか、なんとゆーか…………。

 

ナニ考えてるんだろ、アタシ…………。

 

え、え〜っと今は、

晩御飯(エビフライだった)を食べてから、お風呂に入って、

毎週欠かさず見てるドラマを見終わった後、

そのまま同じ局のドキュメンタリーを見てる。

普段はそういうの見ないんだけど、見るとなかなか面白いのよね。

 

 

 

…………あ、まただ。

 

また、何かあったかい気配。

 

背中に優しい視線を感じる。

 

全然嫌じゃない、全然キライじゃない、こういう雰囲気。

 

洗い物の水音が途切れて。

 

お皿を拭いてる気配、それを食器棚に戻す音。

 

 

きっと、アイツはアタシを見てる。

お皿を拭きながら、きっとあの…………優しい瞳で。

 

振り返らなくたって分かる、

 

アタシを見つめる…………見守る視線。

 

あったかい視線。優しい雰囲気。

最近特によく感じるようになった、この感覚、…………好き。

 

 

異性の視線には慣れてるつもり。

今更自慢するつもりも無いけど、アタシってば綺麗だから。

…………って、自慢かな? コレ。

 

でも、シンジの視線は、『それら』とは違う。

なんか…………違うんだ。

 

視線に温度があるのなら、他の男共の視線は『暑苦しい』、

でもシンジのは、心地良いほど『あったかい』…………そんな感じ。

 

 

そっか、だからシンジは気づくんだ、アタシのホンのちょっとの『癖』に。

 

そして、だからこそ…………、シンジは、アタシの事『可愛い』って、

 

言ってくれるんだ…………。

 

 

「ねぇ…………シンジ?」

 

「うん?」

 

「アタシの癖って、他にどのくらい知ってるの?」

 

 

アタシはクッションを抱きしめたまま、

コロンと転がってシンジの方を向き、そう問いかける。

シンジは、ちょっと面食らったような顔をした後、微笑んだ。

 

 

「そうだなぁ…………、ご飯の時、好物を最後まで残すコトとか」

 

「うっ…………身に覚えアリ」

 

 

今日の晩御飯の時も、最後までエビフライを残してたし…………。

 

 

「リビングでそうやって寝そべる時には、

 必ずそのピンクのクッションを抱える事とか」

 

「そ、それって…………癖?」

 

「枕代わりに使わないで、

 そのまま抱き締めて寝ちゃうだろ? アスカは。

 だから…………癖なんじゃない?」

 

 

くすくす笑いながらそう言って、シンジは最後のお皿を食器棚に仕舞った。

笑われてるのは…………悔しいけど、悔しくない。

 

 

「うぅむ…………他には?」

 

「そうだなぁ…………、靴は右から履く事とか」

 

「あ!…………言われてみれば、うん、そうよね」

 

 

シンジは冷蔵庫を開けて、

作り置きのアイスコーヒーとシュークリーム(コレも自家製)を取り出して、

お盆に載せて持って来る。

 

 

「あと、肩から提げる鞄とかポーチは、必ず左肩に提げるとか」

 

「ああ、うん、確かにそうかも」

 

 

アタシの横まで来て、腰を下ろしながら言葉を続けるシンジ。

 

 

「それから…………シャーペンを持つと、必ずクルクル回すよね」

 

「い、いいじゃない…………、シャーペン回しちゃイケナイの?!」

 

「別にいけないなんて言ってないよ、癖の話だろ?」

 

 

シンジは苦笑しながら、シュークリームを渡してくれる。

 

 

「えぇ〜っと、あとは…………」

 

「ま、まだあんの?」

 

「僕の事を“バカシンジ!”って大声で呼ぶ時には、

 必ず肩幅に足を開いて、腰に手を当てるよね?

 あと、『びしっ!』って指も指すし」

 

「うっ…………いつも?」

 

「うん、大体いつも、かな?」

 

 

くっ…………そんなにワンパターンかな? アタシ…………。

何だか、アイスコーヒーがいつもより苦いわ…………。

 

 

「パッと思い付くのは、まぁこんなトコかな?」

 

 

シュークリームをかじりながら、シンジはそんな風に締めくくった。

 

 

「…………むぅぅ〜、アタシって結構癖があるのね。

 自分じゃ全然気が付かなかったけど」

 

「そーゆーもんだと思うよ?

 『無くて七癖』って言うぐらいだし、気にする事なんじゃないかな」

 

 

でも、アタシはちょっと納得いかない。

…………だって、こうやって結構長い事同居してるのに、

アタシはシンジの癖とか、習慣とか、好みとか、全然知らないもん。

得意教科は、ミサトがアタシ達の成績にお小言を言う時に、

たまたま知っただけだし。

 

何だろう? 何か無いかな、シンジの癖。

 

 

座り直して考え込むアタシに、シンジがくすくす笑いながら声をかけてきた。

 

 

「ほら、アスカ、また、唇…………」

 

「あ゛…………」

 

 

ま、また下唇触ってた?!

…………ち、ちきしょぉぉ!! 何だかとっても悔しいわっ!!

何か…………何か無いの、バカシンジの癖はっ!!

 

かなり真剣に悔しくって、頭を掻きむしりそうになるアタシに、

シンジが面白そうに付け足す。

 

 

「百面相…………、

 アスカって、見てて飽きないね」

 

「あったり前でしょ!

 “美人は3日で見飽きる”なんて言うけど、

 アタシの美しさは、

 そんじょそこらの中途半端美人とは一線を画すのよっ!!」

 

 

反射的にそう答えて…………って、…………あ。

 

 『見てて飽きない』…………!!?

 

 

「あああぁっ!! あったぁ!!」

 

「え?! え? 何が??」

 

「アンタの癖よ、一つ発見したわ、アタシ!!」

 

「僕の癖?? 何だ、そんな事で悩んでたの?

 で? どんな癖??」

 

 

シンジは、相変わらずのぽややん顔で聞き返してくる。

だ・け・ど♪♪

 

 

「だぁ〜めっ! 教えたげな〜い!♪」

 

「え〜っ! 何だよそれ! 僕は教えてあげたのに、ズルイよっ!!」

 

「へっへ〜〜んだ、何と言おうとダメよ!

 自分で考えなさい、バ・カ・シ・ン・ジ!」

 

「むぅぅぅっ…………アスカって、ヤな性格!」

 

「なぁに言ってんのよ!

 優しいアタシは、アンタに考える事の重要さを教えてるのよ?

 少しはその新品同様の脳ミソ、使ってあげなさいよ!」

 

「う、うるさいなぁっ! どうせ僕はバカだよ、もう…………」

 

 

シンジは苦笑して、残りのアイスコーヒーを飲み干した。

 

 

ふふんだ!

誰が教えるモンですか!

 

アンタはずっと、一生気づかずに、

 

…………アタシを見守ってりゃいいのよっ♪♪

 

 

***** おはり *****

 

 

 

 

 

≪後書き≫

 

どうも、初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶり。

 

久方ぶりに新作を書いたK−2でございます。

 

 

……………………(汗)…………

 

特に後書きに書くことも無いのに、

何で書きはじめたのでしょうか、私は??

 

 

『無くて七癖、あって四十八癖』って言葉から、

ふと思い付いたのがこのSS、だったのですが…………。

 

LASで甘い物書こうとしたのに、大して甘くないし、

ミサトさんは暴走へっぽこ風味全開だし(私、ミサトさんファンなのに(苦笑))、

シンジ君はお料理魔人になってるし…………。

 

何よりも、主題であるアスカさんの癖、こんなので良いのでしょうか?

もっと可愛い癖を思い付かなきゃ駄目なのでしょうけど、

私の妄想限界値は、思いの他低かった模様(苦笑)

 

う〜む、まだまだ功夫が足りないみたいです。

要修行! ですね(笑)

 

 

 

では、以下はサンクス行進という事で…………

 

 

☆みゃあ様☆

 

えっと、ずいぶん遅れてしまいましたが、

 

『EVANGELION H』のお部屋の片隅に、

私如きのCGを載せて頂きました事、心より御礼申しあげます。

ありがとうございます!

『EVA H』の一ファンとして、身に余る光栄でした。

挿絵に使って頂けた事も、ものすごく嬉しかったです。

 

こうやって拙作を公開して頂いてるだけでも、ありがたい事なのに………。

もう、足を向けては寝られませんです。

 

 

☆とれとにあNo.5様☆

 

いつもいつもいつもいつもいつもいつも、お世話になりっぱなしで、

今回も真っ先に感想頂きまして、本当にありがとうございます。

 

まして今回は、いろいろと大変な中…………真に恐縮でした(汗)

 

あ、それから、

お知り合いの(仮)の方に、

“けえつっつ”が、よろしくお伝えしてくれと申しておりました(笑)

 

 

 

 

えっと、こうしてここまで、半ば内輪ネタな後書きも含めて読んで下さった貴方に、

精一杯の感謝を! お読み頂き感謝です!!

 

 

それではまた、いずれ、どこかの電脳世界でお会いしましょう。

 

 


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(updete 2002/04/06)