博打王ミサト

 

作者/K-2さん

 








闘争とは、

好敵手の存在によって彩られるアートである。


デットヒートとは、

ライバル同志の衝突と言う化学反応によって弾ける、戦場の花火である。



……ってな訳で、



「あぅ?! ま、またジョーカー? もぉっ! 何でよっ!!」

「よぉし…………今度こそ僕の勝ちだ!」


ここは我が葛城家のリビングルーム。
予定されてたシンクロテストが急遽中止になって、
暇すぎて死にそうなチルドレン二人が、
今夜のお風呂掃除を賭けて『ババ抜き』をしてる。サシで。

ちなみに私、葛城ミサトは、えびちゅ片手にそれを観戦中。
いや、ホントは私も一緒にやってたんだけど、もう上がっちゃったのよね。


対戦開始より、すでに3時間以上が経過、
なんか二人とも肩で息をしてるけど、実はコレ、
まだ1戦目なのよねぇ…………。

 『なんでサシのババ抜きが3時間も続くんだよ!?』

とお思いのそこの貴方! まだまだ甘いわね?
まあ、何故に二人の戦いがこうまで長期戦に陥ったのかは、観戦していれば分かるわ。

「ゼエゼエ…………ふんっっだ! バカシンジなんかがアタシに勝てる訳無いでしょ?
 戯言囀ってないで、さっさと引きなさいよ!」

「ハァハァ…………い〜や、今度こそ絶対にカードを減らす! 減らしてみせる!!」

裂帛の気迫と共に、シンジ君が「えいやっ!」とばかり、
アスカの手の中のカードから、1枚カードを引き抜く。んが……、

「ああぁぁあぁっっ!? またぁ?!」

シンジ君の顔が苦渋に歪む。
その右手に摘まれているのは、もちろん小憎たらしいクラウンの絵柄のジョーカー。

「へっへ〜んだ! ざまぁ見なさい!」

そんなシンジ君に対して、アスカが『ぐいっ』と胸を反らして威張る。
……威張るほどの事かしら?

でもシンジ君はかなり悔しそうな目をアスカに向けながら、
手の中のカードをシャッフルして『びしっ!』と差し出し、

「くっ! 今度はアスカの番だよっ! さぁ、どうぞ!」

と大仰に構えた。

しっかし、いつに無くマジよね〜、今日のシンちゃん。
テーブルゲームには熱くなる性格なのかしら?
作戦部長としては、むしろ使徒戦でその覇気を発揮して欲しいけど……。


んで、何故か勝ち誇ったようなアスカと、悔しそうなシンちゃん、
再び……通算だと何百回目かしら?……の対決。


「さぁて、そろそろバカシンジに引導渡してあげるわ!」

「むぅっ! 能書きはいいから、さっさと引きなよ!」

「へっへ〜んだ、ずいぶん威勢が良いけど、負けて泣くのはアンタよ?

 ………っそりゃ!

 …………ええぇえっ!?! なんでぇっ?!」

「良しっ! 良ぉぉし! 今度こそ勝つ!」

「うっ、うるさい! 目ぇ開けて寝言言ってんじゃないわよっ!!」

ず〜っとこの調子なのよね、3時間。
3時間もよ? ねぇ、ちょっと信じられる?
この二人、延々3時間もず〜っと、『お互いにババを引き合っている』のよっ?!
ま、二人共同じぐらいバカなんでしょうけど、
もー呆れるを通り越して、ちょっと尊敬できるレベルよね。

ちなみにお互いにババを引き合ってる理由は、傍から見れば非常に簡単。

二人共『相手の手札の真ん中にちょびっと飛び出してるカード』があると、
引きやすいからなのか、無意識にそれを引いちゃうのよ。
だから、引かせる側は、ババを持ったらそれを手札の真ん中にして、
親指で他のカードよりちょいと押し上げてやれば良い訳。
でも、お互い相手がババを引きやすい癖は見抜いても、
自分に同じ癖があるとは気付かないのよねぇ……。
なんでなのかしら…………、これもユニゾン?

で、この二人は結局、私が上がってから3時間弱の間、
お互いにババを引き合ってるって訳。
他のカードは全く減らないのだから、ある意味スゴイ。


え? 私?
あのさぁ…………、私は仮にも、NERV作戦部長よ?
そんなあからさまに怪しい罠(と言えるのかしら?)になんか、引っかからないわよ。

それにさ、この二人って、ものすんごく顔に出るんだもん。
ババに手がかかると『ものすごーく嬉しそうな顔』するし、
逆にババじゃないカードに手がかかると
『この世の終わりみたいなどんよりした顔』になるし。
およそ、ギャンブルに向いてるとは言い難いわね。

ポーカーフェイスって言葉、知ってんのかしら?


しかし、こんな二人が人類の敵相手に戦ってるんだから、
考え様によっちゃ怖いわよね…………。

ま…………、こうして見てる分には、可愛いモンなんだけどさ。



「ゼヘェ、ゼヘェ、…………こ、今度こそっ! 勝負だアスカっ!」

「ハフゥ、ハフゥ、…………の、望む所よっ! 来なさいシンジ!」

3時間25分経過、どうやら体力の限界らしいわね。
もうババ抜きとは『違う何か』になってる気がするけど…………。
いい加減観戦も飽きたし、お腹も空いて来たんだけど、
食料庁大臣のシンジ君がこの有様じゃねぇ………。

仕方ない、ここはいっちょ、おねーさんが一肌脱いじゃおうかな?


「あのぉ…………お二人さん、ちょっと良い?」

「何よミサト! 邪魔しないで頂戴!」

「ごめんなさいミサトさん、真剣勝負の途中なんで、話し掛けないでもらえますか?」

爛々と輝く四つの目が、ぐるりとこちらを向く。

…………恐いわよぅ、二人共。
おねーさん、ちょっとびびっちゃった。

私は「そんな、ババ抜き如きで、マジにならなくても」という言葉を飲み込んで、
優し〜く諭すように口を開いた。

「まぁまぁ、二人共(いろんな意味で)実力伯仲でなかなか決着がつかないみたいだし、
 ここは一つ、おねーさんに任せてみない?」

「任せるって…………どうすんのよ?」

「ま、とりあえず二人共、カードを貸して?」


私は二人からカードを受け取ると、そこからジョーカーを除いて脇に置く。

そしてカードの箱の中に仕舞ってあった、
さっき私が上がった時に捨てたカードも含めて、きっちり53枚をまとめると、
手早くシャッフルし、その中から1枚抜く。

先程抜いたジョーカーと、その1枚を合わせて、2枚をもう一度入念にシャッフル。

そして、テーブルの上に2枚並べて伏せて置かれるカード。

「さぁ、シンちゃんかアスカ、どちらかが、1枚引きなさい…………。
 引いたカードが勝負を決めるわ」

「……………………なるほどね?
 なら、シンジ、アタシが引くわよ?
 優柔不断のアンタに選ばせたら、何時間かかるか分かんないもん。
 文句無いわね?」

「…………いいよ」

シンジ君がゆっくりと頷く。
アスカはカードに向き直ると、それをじっと見据えた。

「え〜っと…………、ど、どっちにしようかな?

 (いい、アスカ? 一発勝負なのよ? ミスは許されないわ…………)」

何だかかなり真剣に悩んでるアスカの顔。
まるで使徒と対峙してるみたいね。
考え込むと下唇を触っちゃう、いつもの癖も出てるし。

「ほら、アスカ? シンジ君にああ言った手前、あんまり悩まないでよ?」

「う、うるさいわねぇ…………ちょ、ちょっとぐらい良いでしょ?

 (それにしても…………この右のカード、妙に痛んでるわね?
  …………ん?! ちょっと待ってよ?…………アタシとシンジは、
  3時間以上ジョーカーを引き合ってたハズ…………?!
  ならばっ! ジョーカーのカードが痛むのは自明の理! そうだわっ!)」

カード2枚を睨み付けて沈思黙考していたアスカが、
目を煌かせて顔を上げる。

「決めた! …………って言うか、
 悪いわねシンジ…………アタシの勝・ち・よ♪♪」

言いながら、勝ち誇った顔で左のカードをめくるアスカ。
そこに描かれていたのは当然…………、

「あああぁぁっっ?! な、…………そんな、バカな!」

小憎たらしいクラウンの絵柄…………つまり、ジョーカーだったのよねぇ。

がっくりとうなだれるアスカ。呆然とするシンジ君。

「ぼ、僕の勝ち?」

「そぉよ〜?♪ ついでに言うと、アスカの負・け♪♪」

言いながら、私はごく自然な動作で、
テーブルの上の2枚のカードをケースの中に片付ける。

「こんなの嘘よ! これは何かの間違いよぅっ!」

いやいやするように首を振って、必死に抗弁するアスカ。

「アスカ、負けは負け、素直に認めなさい。往生際が悪いわよ?」

「だってだって、…………アタシが、このアタシが!
 バカシンジなんかに、ま、負けるはず無いもん!」

「ば、バカはこの際関係無いだろ!」

「そーよねー、この場合はシンちゃんの『運』だけど、
 運も実力の内だもんねぇ? ねぇ、負けアスカ?♪」

「うるさいっ!! 誰が負けアスカよっ!」

「だぁって、私にも、シンちゃんにも負けたでしょ?
 だ・か・ら、負けアスカ♪
 いや、負けは二人分だから、負け負けアスカかな?♪」

「きぃぃぃぃっ!! くやし〜〜っ!!」

『ぱたぱた』とイマイチ迫力に欠ける地団太を踏んで悔しがるアスカを、
アタシとシンちゃんが苦笑して眺める。
相変わらず、負けず嫌いねぇ、アスカって。

「じゃ、負け負けアスカさん、お風呂掃除宜しくね?」

「くっ…………まけまけ言うなぁーっ」

何も涙ぐんで吠えなくても……、ホントに、負けず嫌いねぇ。



「……………アスカ、一緒にやろう?」

シンちゃんが、苦笑して椅子を離れながら言う。

「な、何でよ…………アタシが負けたんだから、一人でやるわよ!」

「うん、確かにそうだけど、でも今日はホントは僕が当番の日だから、
 手伝ってくれるだけで十分だよ。頼めるかな?」


それは、シンジ君にとっては、当り前の、何気ない一言。

でも、アスカにどれほどの効果が有ったのかは、後ろから見てる私にだって一目瞭然。


あらあら、あんなに耳を真っ赤にしちゃってぇ。
アスカったら、ホント、かぁ〜いいっ!


「…………ふ、ふん、…………ま、負けたから、特別なんだからね?」

「うん、分かってるよ」





お風呂へのアコーディオンカーテンに、二人の影が隠れたのを確認して、
トランプケースからカードを取り出す。


手早くシャッフルして、2枚取り出す。


手の中に“2枚のジョーカー”。


それをカードの中に戻して、もう一度シャッフル。


取り出す2枚のカード。


先程と同じカード。


真新しいジョーカーと、痛んだジョーカーが、2枚。


「我ながら、相変わらず良い腕よねぇ♪

 ふふっ…………、作戦成功♪♪」

やがてお風呂場から聞こえ始めた、楽しげな二人の笑い声を聞きながら、
私は少しヌルくなったえびちゅを飲み干した。




    *   *   *   *   *   *   *
      *   *   *   *   *   *




☆後書き書くのも久しぶりなワナ☆

ってーか、後書きを書く前に!

この度は、私の遠回しのようで非常に直接的な、我が侭かつ身勝手なお願いを、
快くお聞き入れ下さり、わざわざ投稿掲示板を作って下さったみゃあ様に、
最敬礼をしつつ御礼申し上げます。びしっ!(←っと、最敬礼)
お忙しいのにお手を煩わせてしまって、ホント、ありがとうございました!

あの日あの時、

「投稿板の有無の確認だけで良かったのに、
 なんだか催促がましい書き込みしちゃったなぁ」

と家に帰って猛省して、
それでもちょっぴり期待しつつ、まよねーず。さんに電話で、

「みゃあさんから、レス付いてた?」

と聞いたら、

「投稿掲示板できてたよ」

とのお返事。

それを聞いた私が焦ったのなんのって(苦笑)

あの時背筋を流れ落ちた汗の冷たさを、
私は忘れないでしょう………………………少なくとも来月ぐらいまでは。

わざわざ作って頂いた掲示板に、なんだかけったいな代物を投稿する、
駄目な私を叱らないでやって下さいね。




んで、改めて、どうもお久しぶり………なのかな?

お絵描き板には結構頻繁に出没してるし(笑)

ともかく、SS投稿はお久しぶりのK−2です。

と言ってもコレ、新作ではなかったりします。
(わざわざ投稿板作って貰っといて、新作じゃないってのもなんだかなぁ(死))

その昔、大学に通っていて、まだ私にもメールアドレスが存在していた頃、
メル友のとれとにあさんへのメールに即興で書いた、おまけのSSでして。
それを昔のメールを読んでる時に発見して、
私のSSとしては珍しくミサトさん視点だったので、
『ミサトさん大好き!』なみゃあさんへの捧げ物として、
なんとなく投稿しようかな?と(笑)


とれとにあさーん、元気ですかっ?!(笑)
勝手に投稿しちゃいました、スミマセン。


いや、それはともかく。

若干の加筆を行い、皆無に近かったLAS度は微妙に上げたものの、
即興メールSS(製作時間約30分)を、ほぼそのまま投稿です(←外道)
文章の荒さ、読みにくさについてはご勘弁を。

なんとなく、この即興らしい勢いみたいなのが、
手前味噌ながら気に入ってるので、あんまり修正しませんでした。

あと、お読みになった大抵の方はお気づきかと存じますが、
元ネタは『らんま1/2』“博打王キング”のお話(TV版)からです。

ええ、モロにパクってます。
私、あのお話が大好きでして。

とりあえず青野武さんリスペクトです、マジで。


あと、何は無くともこの方にサンクスGO!

☆まよねーず。さん☆

HNの最後に『。』をつけるのって、モー娘みたいで、
お兄さんあんまり感心しないなぁ。

って、それはそれとして、
ナイスな一台詞加筆、ありがとう。
あと、毎度の事ながら、パソコン化してもらっちゃって…、
いやもとい、パソコン貸してもらっちゃって(笑)
どうもありがとう。
10月の新刊、手伝える事があったら言っておくれ。


んでは、またいずれ、どこかの電脳世界でお会いしましょう!

UP:2002/8/28


 


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(updete 2002/08/31)