『闇の中の月』の思い出

パパゲリオン番外編

作者/K-2さん

 

 

「なに……、やってるのかしら? 私…………」

 

 

僅かに自嘲気味に、レイは呟いた。

 

 

 

 

 

 

そこは、ボートの上。

 

 

公園の池のちょうど中央付近に浮かぶ、ボートの上。

 

 

レイにとっては、気に入りの場所。

 

 

 

 

 

 

今のレイは昔のように孤独を愛する事は無くなった。

 

 

他人の温もりも愛しいと思う。

 

 

他人を煩わしいと思う事も少なくなった。

 

 

だがやはり、彼女は喧騒の中よりも静謐の中に自分の置き場を求める。

 

 

それは、猫が狭い所を好むように、

 

 

犬が散歩に至上の喜びを感じるように、

 

 

ごく自然な事だった。

 

 

 

 

僅かに揺れるボートの上で、文庫本を読みながら、独り穏やかな時間の流れを感じる。

 

 

彼女はその時間を愛した。

 

 

文庫本の文字が読み難くなって、ようやく日暮れを知る程に………。

 

 

もし日が暮れなかったら、彼女は何時まででもそうしていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「それにしても…………、なにやってるのかしら、私」

 

 

 

 

 

 

オールが二本挿してあるだけの、簡単な手漕ぎボート。

 

 

この公園の貸しボートは基本的に無料である。

 

 

管理人も居るには居るのだが、今日は朝から姿を見せていない。

 

 

「第三新東京市中央公園ボート管理人;山本雄広(45)」

 

 

その職務怠慢ぶりは有名だった。

 

 

岸辺の遊歩道も、通行人は少ない。

 

 

静寂を求めるには都合が良いのだが、『こういう場合』は少々困った事になる。

 

 

 

「……………………ふぅ」

 

 

 

レイは8メートルほど離れた水面を見つめ、嘆息した。

 

 

オールが二本、ぷかぷかと浮かんでいる。

 

 

そして……………、レイの乗るボートには………、オールが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初、流してしまったオールは一本だった。

 

 

何の事はない、止め輪が壊れていたのだ。

 

 

レイは、しばらく思案して、

 

 

『もう一本残っているオールで、流れてしまった一本を手繰り寄せよう作戦』

 

 

という作戦を決行した。

 

 

 

 

 

そして、失敗した。

 

 

 

 

 

レイが手に持った一本で、浮かんでいるもう一本を手繰り寄せようとするたび、

 

 

浮かんでいるもう一本は、レイの思惑と反対方向に動いた。

 

 

そうして数度のトライを繰り返す内、今度は手に持っている方まで落としてしまった。

 

 

勢いが付いていたそれは、あっという間にレイの手を離れ、

 

 

浮かんでいたもう一本と共に、8メートルほど離れた水面に静止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイは、仲良く寄り添って浮かんでいるオールを少し恨めしそうに見やった後、

 

 

ボートの中に横になった。

 

 

ボートの船縁(ふなべり)の形に切り取られた空を見ると、小さく溜め息を吐く。

 

 

赤く焼けた、日没間近の空。

 

 

 

 

「日没まで、およそ20分………。お腹……、空いた…………」

 

 

 

 

持参した唯一の食料である所の『レイ特製マドレーヌ』は、既に備蓄が尽きていた。

 

 

最後の一つを口にしてから既に3時間が経過している。

 

 

そろそろ抗議の声を上げそうなお腹を軽く抑えると、レイはまた嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――独り―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

船縁の形に切り取られた空間。

 

 

 

ほとんど音も無く、漂うばかりの空間に、独り。

 

 

 

14年前なら慣れていたハズの孤独。

 

 

 

しかし、今のレイには、それはひどく居心地の悪い物だった。

 

 

 

この公園に来てボートに乗るのも、静寂を求めての事。

 

 

決して孤独を求めての事ではなかった。

 

 

静かなこの空間に身を置いて、自分の今を再確認する。

 

 

 

 

 

愛しい『娘』がいる事を――――

 

 

 

かけがえの無い『親友』を持てた事を――――

 

 

 

大切な『あの人』が還ってきた事を――――

 

 

 

そしてなによりも『家族』を得た喜びを――――

 

 

 

それらのモノを手にした今、

 

 

孤独はレイにとって忌むべきモノに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に日は箱根の山の稜線に消え、辺りには夜の帳が下り始めている。

 

 

船底から見上げる夜空には、満月が昇り始めている。

 

 

 

 

レイは、14年前の、あの日を思い出していた。

 

 

 

「あの時……、碇君も、こんな風に孤独を感じていたのかしら……?」

 

 

 

 

第12使徒、レリエル戦。

 

 

ディラックの海に飲み込まれたシンジが味わった、16時間の孤独。

 

 

無論レイにも、今の自分が感じている孤独と、

 

 

あの時シンジの味わった死と隣り合わせの孤独では、意味が違うとは判っていた。

 

 

しかし、孤独の痛みが分かる今のレイには、あの時のシンジの孤独が判る気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このまま……………、誰も私に気が付かなかったら………、」

 

 

 

それは勿論有り得ない話だったが、レイは自分の想像に恐怖した。

 

 

 

 

 

「独りは……………………、怖いのね……。

 

 

 ……………ヒトの温もりを知るっていうのは、

 

 

 臆病になるって……事なのかしら?」

 

 

 

 

 

そうしてレイが、自分の思考に没入していこうとした時、

 

 

 

 

             ぱしゃっ

 

 

 

 

それまでの静寂の空間が、僅かな水音に震えた。

 

 

続いて、船縁に切り取られた闇の夜空に、人影が割り込んでくる。

 

 

 

 

 

            「綾波!?」

 

 

 

 

 

温かい声。

 

 

 

懐かしい声。

 

 

 

大切なヒトの声。

 

 

 

 

 

レイは、感じていた不安が、恐怖が、霧散して行くのを感じていた。

 

 

 

 

「いかり……くん?」

 

 

 

船底から身を起こしてみると、いつの間にか隣にもう一艘、ボートが浮かんでいる。

 

 

そして、それを漕いできたらしいシンジが、こちらの船縁に身を乗り出していた。

 

 

 

「何してるんだよ、こんな所で……」

 

 

「オール、流されちゃって………」

 

 

「ずっと、ここにいたの?」

 

 

「ええ。5時間ぐらい……、かしら?」

 

 

「そんなに?! 岸に向かって、助けを呼ぶとか……」

 

 

「誰も……、通らなかったの」

 

 

「そ、そう。災難だったね」

 

 

 

 

そこまで話した所で、シンジが気まずそうに視線を泳がせた。

 

 

 

 

「どう……したの? 碇君?」

 

 

「いや……、その、綾……レイ?」

 

 

「なに?」

 

 

 

シンジの顔は、暗闇でもそれと分かる程、赤くなっていた。

 

 

 

「ど、どうして……、その、下着姿なの?」

 

 

「え?………あ?!……ごめんなさい。服、着るわ」

 

 

「あ、うん。……僕は、その……、う、後ろ向いてるから!」

 

 

 

ここまでハッキリ見てしまって、今更『後ろを向く』もなにも無いが、

 

 

シンジはクルリと180度回転して、視線を逸らした。

 

 

会話が途切れた事を気まずいと感じたのか、

 

 

シンジが、向こうを向いたまま話しかけて来る。

 

 

 

「で…………、何で、その、服を、脱いでたの??」

 

 

「最悪の場合……、泳いで岸まで行こうと思ったんだけど、

 

 

 着衣水泳は……、溺れる危険性が高いから……」

 

 

「そ、そう……(だったら、泳ぐ直前に脱げば良いのに)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……いいわ、碇君」

 

 

 

服を着終わったレイが、そう言って振り向いた時には、

 

 

シンジは既に流されたオールを取りに向かっていた。

 

 

水面の二本のオールを拾い上げると、

 

 

自分のボートのオールを巧みに操り、レイのボートの隣に戻ってくる。

 

 

 

「ありがとう……、助かったわ」

 

 

「いいよ、お礼なんて。さあ、戻ろう?……お腹、空いたろ?」

 

 

「…………ぺこぺこ、よ」

 

 

 

数分前まで下着姿だった女性と男子中学生の会話としては、

 

 

余りにも艶の無さ過ぎる言葉を交わした後、二人は岸へと漕ぎ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「碇君……、どうして、来たの?」

 

 

 

ボートを降りて、公園の中を歩きながら、レイが訊ねる。

 

 

 

「どうしてっ……て?

 

 

 今日はレイの家で夕食を一緒に食べようって、

 

 

 久しぶりに4人で食事しようって約束してたろ?

 

 

 なのにマンションの部屋に行っても留守だし……。

 

 

 それでみんなで探そうって事になったんだよ」

 

 

「アスカや……ユイカは?」

 

 

「別のとこ、探してると思うよ。手分けして探して発見次第、

 

 

 携帯電話で連絡入れる事にしてたから。

 

 

 あ、連絡はさっきしたよ?」

 

 

「…………心配かけて、ごめんなさい」

 

 

「いいよ……、謝るほどの事じゃないよ」

 

 

 

そう言って、微笑みかけるシンジ。

 

 

レイを無条件に幸せに出来る、この世の中に数える程しかないモノ。

 

 

その微笑みを真正面から受けて、レイは僅かにもじもじとしてうつむいた。

 

 

微かに朱が注した頬に気付かれない様にうつむいたまま、か細い声で訊ねる。

 

 

 

 

「…………碇君は何故……、ボートに乗っているのが私だと思ったの?」

 

 

「えっと……、

 

 

 レイ、ボートに乗るの、好きなんだろ?

 

 

 よく、乗ってるの見かけたし……。

 

 

 だから、浮かんでるボート見たら、レイなんじゃないかなって、思ったんだよ」

 

 

「よく……、知ってるのね? 私の事」

 

 

「そりゃ……、家族だからね」

 

 

 

そう言ったシンジが、レイに爽やかな微笑みを向ける。

 

 

レイはその言葉と微笑みに、頬をますます朱に染めて頷いた。

 

 

と、その時――――――――、

 

 

 

「あぁ〜〜〜!レイ母さん!!居たぁ〜!☆!」

 

 

 

夜の公園の静寂とか、二人の間のイイ雰囲気とか、

 

 

色々ぶち壊しにする元気な声が辺りに響く。

 

 

 

ぱたたたっ!

 

 

 

そんな音がしそうな走り方で、レイとシンジの方へ駆け寄ってくるユイカ。

 

 

 

レイも駆け寄ってくるユイカの姿を認めると、微笑みながらそちらへ向かう。

 

 

「レイ母さん!!」

 

 

「ユイカ……!」

 

 

 

           ひしっ!!

 

 

 

まるでTV番組の『感動の再会』のように、歩み寄って抱き合う二人。

 

 

ユイカはともかく、レイは随分とノリが良くなったものだ。

 

 

14年前とはかけ離れたレイのノリの良さにシンジが呆然としていると、

 

 

苦笑を浮かべたアスカが歩み寄ってきた。

 

 

「まぁたそんな事やってる。バカっぽいから、外でやるのは止しなさいって……」

 

 

「あぁ〜♪?さては、ママ、私とレイ母さんの熱ぅぅい抱擁を見て、妬いてる?」

 

 

「そうなの……?アスカ」

 

 

ユイカとレイが、揃ってアスカの方を振り向く。

 

 

二人とも(と言ってもレイの方は微かだが)悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 

 

 

「ああぁ〜!!ハイハイ!羨ましい!羨ましい!!妬けた!妬けた!!

 

 

 もういいから、漫才やってないで、家に帰ってご飯食べるのよ!

 

 

 アタシお腹ペッコペコなんだから!!」

 

 

 

アスカはおざなりに手を振ってそう言うと、二人の首根っこを掴んで歩き出した。

 

 

隣に並んで歩きながら、シンジは何となく最愛の妻の顔を覗き込む。

 

 

妙に仲の良い自分の娘と大切な親友とに、僅かに嫉妬したようなむくれ顔。

 

 

でもそれは、嬉しさに照れて、強がっている顔。

 

 

実はシンジが最初に愛し、そして今でも最も愛する、彼女の一番可愛い表情………。

 

 

ふと見ると、いつの間にかアスカの手から抜け出したレイが、

 

 

アスカのその表情に見入っていた。いつも無表情に見える顔を、僅かに緩ませて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボートに乗ってて…………、オールを、流されたぁ?!」

 

 

 

碇(レイ)家のダイニングに、アスカの呆れたような声が響く。

 

 

永遠のおさんどん少年シンジの手により既に夕食の準備は整い、

 

 

4人は所定の席に着いている。

 

 

しかし母娘の心は、目の前でブリリアントな芳香を立ち上らせている

 

 

『シンジ特製ハヤシライス(某火星丼風)』よりも、

 

 

『海草サラダ』よりも、

 

 

『イワシつみれの甘酢あんかけ』よりも、

 

 

 

レイの衝撃の告白の方に揺さぶられていた。

 

 

 

「オールって……、二本同時に??」

 

 

 

呆れたように口をあんぐりさせているアスカに続いて、ユイカが訊ねる。

 

 

 

「いいえ、最初は一本だけ…………。

 

 

 でも、残った一本で…………流れたオールを手繰り寄せようとしたら、

 

 

 もう一本も………………。

 

 

?どうしたのユイカ…………、それに…………アスカも?」

 

 

 

静止するアスカとユイカの時間。

 

 

その様子を、不思議そうに首をかしげて眺めるレイ。

 

 

シンジだけは、愛する妻と愛娘が、次に起こすであろう反応を予測して……、

 

 

困ったように苦笑した。

 

 

 

 

「「ぷっ……」」

 

 

「ぷっ?」

 

 

「「あははははははははははははははっ!!」」

 

 

「?!」

 

 

爆発した二人の笑いに、レイはただただ、目を『ぱちくり』させるのみ。

 

 

 

「あはっ!あははっ!?あはははははははは!!

 

 

 レ、レイィィ!!アンタ、時々すっごいマヌケな事するけど、プッ!

 

 

 今回のは一段とイケてるわ!あははははははははははははははは!!!」

 

 

 

「レ、レイ母さんって、ププッ、お、お茶目、プッ、

 

 

 あははははははははっは! ケホケホッ!!

 

 

 ……やだ、止まん、プフッ!無いよぅ!あははははは!!」

 

 

 

「二人共…、笑い過ぎだよ……。レイ?気にする事無いよ…………?」

 

 

 

苦笑しつつシンジがフォローしようとした瞬間、

 

 

             ひょい、パクッ!

 

 

 

笑われてやや憮然としていたレイが、いきなりアスカの皿から

 

 

『イワシつみれの甘酢あんかけ』を一つ取って口に放り込んだ。

 

 

 

「あぁ〜?!レイ!!アンタ何てことすんのよ!!」

 

 

「自業自得。笑った罰よ」

 

 

 

美味しそうにつみれを味わいながら、あっさりと言うレイ。

 

 

 

「わ、笑った罰なら、なんでアタシだけなのよ!!ユイカのも取んなさいよ!!」

 

 

「そんな事………できないわ。ユイカは、大切な娘だもの」

 

 

「そ、それを言うなら、アタシとアンタは大切な親友同士でしょうがぁ〜!!」

 

 

「親友同士は、相手のちょっとした失敗を……、笑ったりしないわ」

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

 

イワシのつみれ1個の為に、非常に見苦しい争いをする妙齢の美女2人。

 

 

そこまで呆気に取られていた父娘が、ゆっくりと顔を見合わせる。

 

 

 

「パパ……、この闘争について、両者の共通の親友としてのコメントは?」

 

 

「………う〜ん『女の友情は生ハムより薄い』ってトコかな?」

 

 

「「何か言った??」」(ギロッ!×2)

 

 

「二人共、仲いいなってね、ははは、は」

 

 

「そ、そうそう、羨ましいなぁって、ね?パパ?」

 

 

 

『底の浅い嘘をつくんじゃない!!』と言うアスカの一声と共にシンジが殲滅される。

 

 

 

いつも通りの、普通とは違う、でも楽しい夕食の時間は、こうして過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後の気だるい、でも幸せな感覚に包まれながら、レイはベランダに居た。

 

 

風呂上がりの髪が、夜風に乾くのが心地よい。

 

 

中天には、金貨のような、円い、円い望月。

 

 

微かに聞こえる虫の声が、かえって静けさを際立たせる。

 

 

 

「………レイ?」

 

 

「……碇君」

 

 

「アスカと、ユイカ。お風呂ではしゃぎ過ぎちゃってさ。

 

 

 寝ちゃったんだ。……起こすの可哀相だし……」

 

 

「泊って……、いくといいわ」

 

 

「ごめん……、一晩、お世話になるよ」

 

 

「気にしないで……。一緒の方が、楽しいもの。ペンペンも喜ぶわ」

 

 

それだけ言うと、夜空に目を戻すレイ。

 

 

シンジもまたレイの隣に立つと、つられるように空を見上げる。

 

 

 

「月を……見てたの?」

 

 

「ええ………………」

 

 

「満月……か。思い出すね。あの夜も、こんな、怖いくらい綺麗な満月だった」

 

 

「そうね…………」

 

 

 

 

 

それは、漆黒の闇に浮かんで、禍々しい程に美しかった蒼月の記憶。

 

 

 

―――――14年前、

 

 

 

二子山山頂で見た『闇の中の月』の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               『貴方は死なないわ』

 

 

 

                『私が守るもの』

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出すのは、『闇の中の月』の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今 僕達には エヴァに乗ること以外何もないかもしれないけど……』」

 

 

「『でも 生きてさえいれば いつか必ず』」

 

 

「『生きててよかったって 思う時がきっとあるよ』」

 

 

 

まるで詩を吟ずるように呟いたレイを、シンジは見つめた。

 

 

 

「あれを……、覚えてくれていたの?」

 

 

「ええ……、忘れた事は、無かったわ。

 

 

 碇君が私にくれた………、大切な言葉だもの」

 

 

 

そう言って見つめ返してきたレイの表情は、確かに、あの時見た笑顔だった。

 

 

それに微笑み返した後、もう一度月を見上げたシンジが口を開く。

 

 

 

「レイには……、あった?

 

 

 『生きててよかったって 思う時』が……?」

 

 

 

レイもまた月を見上げ、ゆっくりと、しかし迷いの無い口調でそれに答える。

 

 

 

「アスカという親友がいて、

 

 

 ユイカという娘がいて、

 

 

 貴方が還ってきて、

 

 

 何より私に、貴方達のような家族ができた。

 

 

 それは、私が何より欲していた絆。

 

 

 

 だから……、

 

 

 生きてて良かったって、私はずっと、そう思ってるわ」

 

 

 

そう言うと、レイはそっと、シンジの手を握った。

 

 

シンジも、その手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り注ぐ、月光。

 

 

繋がる、二人の手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人に降り注ぐ月光は、あの頃のように冷たくは無かったし、

 

 

繋がれたレイに手は、あの時より暖かかった。

 

 

 

 

               ―― fin ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●後書き●(いい訳と、お詫びのコーナーとも言う) 2001;05/21

 

 

 

ども、不幸電波SS受発信者K−2です。

 

初めての方ばっかりだと思いますが、以後宜しくお見知りおきのほどを。

 

 

 

と言う堅苦しい挨拶はこの辺にして………、

 

 

『Rei mama’s FC』の皆々様、

 

特に『パパゲリオン』原作者でいらっしゃるヒロポン様、

 

申し訳ありません!ガバッ!!(っと、土下座)

 

            :

            :

            :

            :

            :

            :

(関東土下座会ばりの『イイ土下座』遂行中)

            :

            :

            :

            :

            :

            :

 

ふう〜! とりあえず先に謝っちゃえば、あまりきつく責められないでしょう。

 

という打算に満ちた土下座はともかく、ホントにすみません。

 

 

 

そもそも、

 

 『レイ母さん、可愛えぇ!!めっちゃ可愛えぇ!!

 

  書く!!私も書く!!絶対に書く!!

 

  レイ母さんの可愛さブッチギリSSを必ず書いてやるぅ!!

 

  みゃあ様の迷惑も顧みず!!(←大問題発言)』

 

 

 

てなカンジで、燃え滾るパトスもそのままに書き殴ってしまったこのお話。

 

 

     んが!!

 

 

しかも初心の中で一番重要と思われる

 

 

  『レイ母さんの可愛さブッチギリSS』

 

 

という部分が、あっさり、はっきり、くっきり、欠落してるじゃないですか!?

 

(可愛いってぇよりは、単なるボケボケキャラに……)

 

 

 

あぁ〜、駄目な私に乾杯。

 

 

 

まあ、散々詫びを入れた所で、出来が良くなる訳でなし、

 

 

この辺で作品解説など……。

 

 

 

 

と言っても、解説する事も特に無い、見たまんまのお話ですね。

 

タイトルの『闇の中の月』は、言わずと知れたコミック3巻、

 

STAGE.19のサブタイトルです。

 

164p1コマ目の為に、コミックスの販売数が7割上昇したと言う(嘘)伝説の。

 

 

 

実は私、本編(TV)の『笑えば、良いと思うよ?』ENDよりも、

 

貞本版の終わり方の方が好きな人で、このお話もコミック3巻が発売された頃から、

 

「書きたいなぁ〜」ってずっと思ってた物なんです。

 

 

 

(ただし、設定は、『数年後、平和になった第3新東京市でデートした二人が、

 

 最後に展望台に立ち寄って月を見る』と言う、ベッタベタなものでしたが……)

 

 

 

『パパゲリオン』のアスカ夫人やユイカ嬢を登場させる事で、会話が膨らんでくれて、

 

なんとか、お話になってくれました。

 

シンジ君とレイだけじゃ、どうなっていた事か……(汗)

 

 

 

え〜と、とりあえず、

 

アスカ、ユイカ母娘とレイ母さんの掛け合いを書くのは楽しかったです。ハイ。

 

 

 

 

 

 

これは自分の文才の無さから、文章化を諦めていたプロットだったのですが、

 

(と言うほど大した話じゃないですけど)

 

『パパゲリオン』その他の素晴らしい作品に触発されて、

 

ホントに『下手なりに』ですけど、書こうという意欲が生まれて、

 

こうしてカタチにする事が出来ました。

 

 

 

こういった物を書くきっかけを与えて下さったヒロポン様、

 

そして、みゃあ様、ありがとうございます。

 

 

 

最後に、私の稚拙過ぎる文章に目を通して下さった貴方に、

 

心より感謝いたしております。

 

 

 

では、次の機会があれば、また…………

 

 


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(updete 2001/05/30)