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水の音が消えて。
アタシのカラダが急速に周りとのかかわりを取り戻していく。
ほんの一瞬前まで、あたりまえのようにカラダを穿っていた水。
今では、思い出したように天井の水滴が落ちてくるだけ。
シャワーの蛇口に手を置いたまま。
ほっと息をついた。
耳を澄ましても、なんも聞こえてこない。
あるのは、完全な静寂。
浴室の外・・・リビング・・・キッチン・・・
ただ、静かなだけ。
シンジは、もう自分の部屋に戻ってしまってるんだと思う。
もう、夜も遅いし。
・・・ひょっとしたら、想像しているのかもしれない。
アタシとの睦み合いを。
先にお風呂に入らせた意味がわかっているのなら。
そして、顔を真っ赤にさせたり、そわそわしたりしているのかもしれない。
だとしたら・・・なんか嬉しい。
でもね、シンジ・・・
今日はね・・・それだけじゃないのよ・・・
ほてりを失っていく肌を見つめながら思う。
あの日のこと。
シンジの鼓動を直接聞いた、あの日。
ミサトの目をまっすぐ見れなくなった、あの日。
あの日から、何度かシンジと肌を合わせた。
カラダを、重ねた。
優しく、愛してもらったと思う。
・・・でも、愛されただけ。
アタシは、ただただ、シンジに優しくされていただけ。
アタシからアイツには・・・
なにも・・・
なにも・・・・・・
でも、それも今日でおわり。
もう決めたのよ。
アタシは、今日、“女”になる。
常識を考えなさい。
リツコの冷たい声がココロに刺さる。
あんた、なに考えてんのよ!
ミサトに引っ叩かれた頬が今でも痛む。
早すぎるのかもしれない。
いけないことなのかもしれない。
赦されないことなのかもしれない。
でも、ドイツにいたころ、聞いたことがある。
カラダを交え、快楽を得なくては、子をなすことができない。
それは、動物としての罪。
然るに。
その快楽に、子をなすこと以外の意味を与えたこと。
それは、人間としての罪だと。
それが“罪”だと言うのなら。
それが避けられないというのなら。
早いも遅いも関係ないじゃない。
それならせめて・・・後悔だけはしたくない。
今、アイツに抱かれなかったら、絶対後悔すると思う。
根拠なんてなにもないわよ。
ただ、アタシがそう思うだけ。
それで、十分。
顔をあげて、深呼吸。
曇りが晴れてきた鏡に映る、あたしの目。
零れ落ちた涙。
それはきっと。
昔のアタシが今のアタシに投げつけた嘲りの涙。
そしてきっと。
今のアタシが昔のアタシに手向けた別れの涙。
ささやかなりし とわのつみかな
(灼け堕ちる2)
文:(仮)トレトニア
画:けえつっつ@難波背弁
私と、この部屋の主 − 赤木リツコ − との付き合い。
かれこれもう10年になるわけで。
それでも、いまだに彼女の部屋の持つ雰囲気には慣れることができない。
目に映るのは、暗闇にぽつんと浮かぶコンピュータの画面。
その光景にふさわしい、モニタの作動音。
まあ、じっくりと目を凝らすと。
そこかしこにネコのぬいぐるみが転がっているのがご愛嬌。
問題はこの匂い。
まず鼻につくのはむせかえるほどのコーヒーの香り。
限度を知れとは思うけどね、まあこれはよしとしよう。
次に気がつくのが、コンピュータの基盤が焼ける匂い。
はっきり言って、かなりやばめ。
5秒後に火を噴きます、な感じなわけ。
それでもって、究極的なのがさまざまな薬品の匂い。
リツコの専攻は機械系のはずで、化学肌じゃないんだけどねぇ・・・
はっきり言って、苦笑するしかないわけで。
「うん?どうしたの、ミサト?」
「んーーー、ちょっちね・・・現実逃避。」
私の答えに、リツコはキーボードを叩く手を休めて。
「ま、たしかに逃げたくもなるわね・・・」
ため息をついて、横を見遣る。
誰も座っていないパイプ椅子。
でも、私とリツコの目には、たしかに映っている。
つい30分前にそこに座っていたアスカの姿。
相談に来たわけではなかった。
許可を取り付けに来たわけでもなかった。
思いつめた瞳。
決意に満ちた口調。
そこにあったのは、純然たる“事前報告”。
背後で、ドアが開く気配。
金属のこすれる音と、空気の抜ける音を混ぜたような、独特の空気の震え。
「・・・加持?!」
「あら、珍しいお客ね。どうしたの?」
「いや、まあ、その、なんだ・・・じっとしてられなくてな・・・」
リツコがひとつ、深いため息をついて。
「このあいだ大掃除をしたばっかりなのに・・・“掃除”のやり直しね・・・」
「いや、それには及ばんさ。」
そう言って、ネコのぬいぐるみをひとつ手にとる。
その耳をひねると、パキリとなにかが折れる音がした。
まだそんなことやってたのか、コイツは・・・
「バイト?それとも趣味かしらね?」
我ながら意地の悪い質問だと思う。
加持は苦笑しながら・・・
「ま、強いて言うなら両方かな?」
「「ほほう。」」
シンジの部屋のふすま。
吹き付けるような威圧感。
叩きのめされそうになる。
カラダに巻きつけたバスタオルが吹き飛んじゃう気がする。
部屋の主が誰であるかを考えると、決して感じるはずのないもの。
いつもは絶対感じることがないもの。
・・・怖いのね・・・
アタシともあろうものが。
これからこの部屋で起こることが。
でも、もう決めたこと。
それに、怖がることないわよ。
多分、ううん、絶対、痛いと思う。
でも・・・きっとシンジは優しくしてくれる。
だから、大丈夫。
深呼吸。
自分に言いきかせるように。
バスタオルをしっかりとカラダに巻きなおす。
そっとふすまを開きながら。
「・・・シンジ・・・?」
明かりのついていない、真っ暗な部屋。
アタシがつくった隙間から、光が部屋の中にこぼれていく。
机の上に、無造作にかばんが置かれている。
・・・アイツのことだから、明日の準備はできてるんだろな・・・
部屋の片隅に、毛布やら洗濯物やらが山をつくっている。
・・・らしくないな、畳んでない・・・
ベッドに、シンジが頭からタオルケットをかぶっている。
ひょっとして、もう寝ちゃったの?
アタシを待っててくれなかったの?
アタシがこれだけの覚悟を決めてきたのに?
・・・いい度胸してんじゃないのよ・・・
まあ、それならそれでやることはいくらでもあるわけで。
「・・・お邪魔しちゃうわよ・・・?」
とりあえず、シンジのベッドにもぐりこむことにする。
どうでもいいけど、頭からかぶって、暑くないのかしらね?
そっとシンジのほうに手を伸ばす。
すぐにぬめっとした感触にぶち当たった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・ぬめっ???
疑問をもつや否や、突然“それ”がむくりと立ち上がって。
「くえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うっどわぁぁぁぁぁ!!!」
あわてて飛びずさる!!
んなことをベッドの上ですると、どうなるかは一目瞭然なわけで。
「てっ!わっ?とっとっ!・・・いったぁぁぁい!!!」
「あはは!引っ掛かった!!!」
部屋の隅に山を作っていた毛布がもそもそと動いていた。
く、くっだんないことやってくれるじゃない・・・!!!
「ア、アンタねぇ・・・おかげでベッドから落ちちゃったじゃない!!!」
「あはは、ごめんね、ちょっとからかいたくて・・・!!!
ちょ、ちょっとアスカ、なんて恰好してんだよ?!」
毛布から顔を出したシンジが、妙に慌てている。
「へ、なにって、バスタオル、がないぃぃぃぃぃ!!!
やだ、こっち見ないでよ!!
えっち、ちかん、へんたい、信じらんない!!!」
「なに言ってんだよ!アスカがそんな恰好してるのが・・・」
アタシたちが大騒ぎしているのを横目に。
ベッドの上のそれ − ペンペンだったのね・・・ − が部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっと待ってて、そ、そうだ、とりあえず、この毛布を・・・」
肩にかけられるあったかい感触。
もう、恥ずかしかったじゃないのよ!!
裸見られちゃったじゃない!!
・・・て、ちょっと・・・あれ?
ちょっと・・・アタシって、なに覚悟決めたんだっけ?
こんな姿でこの部屋に来たのは、なんのためよ?
アタシは・・・
アタシは・・・
「今、着るものもってくるからね・・・」
「・・・待って。」
考えるより先に、ココロがシンジを引き止めていた。
「・・・どうしたの?」
不思議そうにアタシを見つめる、シンジの瞳。
アタシのことを、優しく見つめてくれる瞳。
アタシのことを、一番に考えてくれる瞳。
その瞳に見つめられるだけで・・・
パニクってごちゃごちゃしていた頭の中。
一度すぅって落ち着いて。
それから、うっすらと靄がかかってきて・・・
そう。
アタシは・・・
シンジに・・・
「・・・シンジ・・・見て・・・アタシを・・・」
毛布が床に落ちた音が、妙に大きく聞こえた。
「・・・それで、加持、なにしに来たわけ?」
「・・・」
「・・・ちょっと、おーい!聞こえてる?」
「・・・」
「・・・返事がないわね?」
「・・・ひょっとして、生命活動が停止しているのかしら?」
「それなら・・・おーい!生きてるぅ?」
「・・・そういう質問が必要なほど・・・殴らないでくれ・・・」
「あら、生きてたわ!」
「アンタねぇ・・・ほんとに殺されないだけ、マシだと思いなさいよ?」
「・・・ま、それはそうなんだけどな・・・で、なんだ?」
「え?あ、そうそう!なにしにこんなとこに来たわけ?」
「“こんなとこ”で悪かったわね・・・」
「いや、なにしにって言っても・・・
さっき言ったとおり、じっとしてられなかっただけだしな・・・」
「それならそれで、他に行くとこあるでしょうが!
シンちゃんにアドバイスしに行くとか!!」
「あ、いや、それはできない。」
「「・・・へ?」」
「男ってのは、不器用なものさ・・・
うまくいった話をしても、自慢話にしかならんし。
失敗した話をしても、それはシンジ君にしてみれば笑い話でしかない。
他人の話は結局のところ参考にはならないからな。」
「・・・そんなものかしら?」
「そういうものさ。
それにな。
“初めてのときは彼自身のやり方でしてほしい”
アスカもそう思ってるだろうしな。」
「加持君て、意外と若いわね・・・」
「女に夢を見すぎかい?」
「そうじゃなくて・・・ふたりの仲をあっさりと認めてるところがよ。」
「ああ・・・そういえば・・・
さっきはふたりともすごい剣幕だったようだな。」
「「あたりまえでしょ!!」」
「可愛いじゃないか、「シンジに抱かれたいの」なんてさ・・・
それに、黙ってされるよりよほどマシだぞ?
今後の対策も立てやすいし、なにより信用されている証拠だ。」
「そりゃ、そうだけど、さ・・・」
「確かにね・・・それに、止めることができないのも事実だし・・・」
「止めたって、止まりゃぁしないしね、アスカは。」
「そういうことじゃないわ・・・
今のあの子たちの場合・・・無理にふたりを引き離すとね・・・
精神的にどうなるかわかったものじゃないもの・・・
それこそエヴァとのシンクロに悪影響が出かねないわね・・・」
「なるほど・・・
それがリツコの、自分を納得させる論理ってわけか・・・
私もそれに乗らせてもらおうかな。」
「ま、これからは、大人のやり方であのふたりを守ることにするさ・・・
いろんな意味でな・・・
なんにしても、動くのは明日からになるな・・・
ま、そういうわけだから、葛城、よかったら今晩飲みに行かないか?」
「そうね、それもいいかも・・・ちょっと、リツコ!!
いきなりコーヒー吹き出さないでよ!!」
「ケホッケホッ・・・吹き出すなって言うほうが無理よ!!!
中学生とはりあってどうするの!!!
少しは自分の年を・・・」
「あ、いや、今日はそういうのはなしだ。
純粋に飲みにいくだけさ。
よかったらリッちゃんも一緒にどうだい?」
「せっかくだけど、やめとくわ・・・そんな気分じゃないもの。」
「あらぁ・・・そんなこと言わずに、一緒に行かない?
私もリツコに聞きたいことがあるし。」
「・・・聞きたいこと・・・?」
「知らなかったのよねぇ・・・
リツコと加持が、ぬいぐるみを贈ったり贈られたりする仲だってこと!!」
「ちょ・・・!!!ミサト!なに勘ぐって・・・」
「葛城!それは誤解だ!!」
「だからぁ・・・それを飲みながらはっきりさせようって言ってるんじゃない・・・」
「ん・・・あ・・・ひんっ・・・やぁっ!!!」
シンジの行為、ひとつひとつが、禍々しいほどにアタシに優しくて。
次から次へとあふれ出る涙が、快楽の深さをいっそう自覚させる。
胸のふくらみに指が沈み込むたびに、心臓が爆発する・・・!
鎖骨を吸われるたびに、甘い叫び声が弾ける・・・!
わき腹を撫ぜられるたびに、ココロの炎が燃え上がる・・・!
胸の頂に舌のぬめりを感じるたびに、手足の指先から力が抜けていく・・・!
これだけでも辛いのに!!
「くっ・・・はぁん・・・や・・・やさしくしないでぇっ!!」
初めての経験。
初めての感触。
初めての・・・
シンジの手が、そっとアタシの脚の付け根に添えられていて。
その手が動くたびに、アタシのカラダが跳ね上がる。
シンジの人差し指が、裂け目の上にある蕾を優しくつついてくる!!
シンジの中指が、裂け目の入り口を緩やかにかきまぜてる!!
「ひうっ・・・くふぁっ・・・こ・・・腰が・・・蕩けちゃうぅっ・・・」
アタシの口で弾けるドロドロに熔けた音。
アタシの股間で鳴らされるピチュピチュと水の跳ねる音。
ふたつの音が耳から入ってきて。
アタシの思考を桜色に染め上げて。
シンジが送り込んでくれる刺激にいっそう貪欲になって。
それがアタシのカラダのふたつの音を生み出して。
無限に循環する快楽の輪に閉じ込められて。
涙と涎がひとつになって、耳たぶをかすめて落ちていく。
その濡れた感覚すら、今のアタシには気持ちいいものでしかなくて。
ずっと溺れていたい・・・このまま・・・
熱と湿り気を帯びた吐息を出しながら。
シンジの手を飲み込むかのように腰をくねらせながら。
きっと昨日までのアタシなら。
意識を吹き飛ばされるまで、ひたすら愛撫を受けていたと思う。
でも・・・今日は・・・
「・・・アスカ・・・?」
自分を引き剥がすようなアタシの動きに驚いたのか。
シンジの不思議そうな・・・不安そうな・・・声。
「あ・・・あのね・・・はぁ・・・もう・・・いいから・・・
これ以上・・・はぁ・・・気持ちよくされると・・・
アタシがアタシじゃ・・・はぁ・・・なくなっちゃいそうだから・・・
だ・・・だから・・・」
ゆっくりと・・・膝を開く・・・
いくら暗がりとはいえ、恥ずかしくて・・・
桜色に熱を帯びた肌から、じんわりと汗が噴き出して・・・
あれだけ愛されたから、もう出尽くしたと思っていたけど・・・
「もう大丈夫だから・・・だから・・・き・・・来て・・・」
「・・・ホントにいいの・・・?」
「ん・・・シンジになら・・・いい・・・
今度はアタシが・・・シンジを気持ちよくしてあげる・・・」
「・・・ありがとう・・・!」
シンジの擦れたような・・・感極まったような・・・声。
ココロが満たされていく。
ゆっくりと・・・アタシの脚のあいだに・・・シンジのカラダが入ってくる・・・
太股に感じるシンジの腰が、どうしようもなく嬉しくて・・・少し怖かった。
そして・・・
押しあてられた。
「・・・ああ・・・」
嘆息とも喘ぎともつかぬ声。
それが含むものが、悦びなのか、諦めなのか、怖れなのか。
自分でも分からなくて。
「行くよ・・・」
ゆっくりと・・・シンジが・・・アタシにのしかかってきて・・・
ヌチッ・・・て音がして・・・
は・・・入ってくる・・・シンジがっ・・・!!!
頭蓋骨と腰骨が、いっしょに痺れはじめる。
さんざん蕩けさせられたせいか、思ったより最初はスムーズだったけど。
やっぱり“それ”はやってきた。
「・・・ひ・・・ひぎっ・・・」
「ア、アスカ!!大丈夫?!」
「だ・・・大丈夫だから・・・続け・・・はぐっ・・・!!」
「アスカ?!」
「続けてっ!!今やめたら、それこそ承知しないわよ!!」
「・・・分かった。」
再びシンジが腰を進める。
“貫かれる”というより、“引き裂かれる”に近い、その痛みに耐えながら。
カラダを倒しつつ、ゆっくりとシンジを受け入れていく。
そして・・・肩がシーツの海に沈みきったころ・・・
シンジの動きが止まった。
「・・・入ったの・・・?」
「あ・・・うん・・・だいたい・・・
でも・・・その・・・もうちょっと・・・」
「・・・いいから・・・全部入れてっ・・・」
「それが・・・ちょっと・・・ここからどうすれば・・・??」
なんだかシンジがまごついている。
不思議。
いつもはこのトロさにちょっといらいらすることもあるけど。
なんだか今は、それがすごく安心する。
そっとシンジの背中に腕を回して。
「シンジ・・・アタシを抱きしめて・・・」
「え?う、うん・・・」
「そう・・・それでね・・・
そのまま、アタシを抱えるようにカラダを起こして・・・」
言われるがままに、シンジがカラダを起こす。
へぇ・・・意外と力があ・・・!!!
「かはっ!!!」
「大丈夫?!止めようか?!」
もはや痛みはあたしから声を奪い去ってしまうほどになっていて。
アタシは応えるかわりにシンジに強くしがみつくことしかできなかった。
地球の重力がフルパワーでアタシを貫く。
そして。
一瞬、大きく、アタシのカラダがシンジに沈み込んで。
「・・・は・・・入った・・・」
「・・・全部・・・入った・・・?」
「うん・・・ありがとう、アスカ・・・」
「・・・そっか・・・」
痛かったけど。
涙が出るほど痛かったけど。
今も痛いけど。
やっとこれで。
シンジとひとつになれたんだ。
シンジを気持ちよくしてあげられるんだ。
嬉しい。
「・・・「嬉しい」って言ってくれるの?」
「あ・・・声に出ちゃってた?」
「う・・・うん・・・」
「そっか・・・うん・・・嬉しいのよ・・・
シンジとこういう事になって・・・
自分でも信じらんないくらいにね・・・」
「僕も・・・アスカとひとつになれて・・・嬉しい・・・」
シンジがぎゅっと抱きしめてくれる。
その肌のぬくもりが痛みを和らげてくれる。
カラダの内と外から、シンジを感じる。
シンジに優しく包まれながら、アタシもシンジを包んであげてる。
不思議な充足感。
そう・・・満たされている。
愛することに。
愛されることに。
これが“子をなすこと以外に与えられた意味”なの・・・?
これに・・・“罪”という呼び名を与えることしかできないなんて・・・
人間って・・・不器用なのね・・・
「・・・シンジ・・・もう、大丈夫だから・・・」
「・・・へ?」
「痛み・・・だいぶおさまったから・・・動いてもいいよ・・・」
「・・・大丈夫?」
「ん・・・」
アタシの返事を聞いて。
ゆっくりと、のしかかるようにアタシを押し倒してくる。
背中に感じるシーツの感触すら、なんだかいとおしくて。
「じゃあ・・・動くね・・・」
「うん・・・」
緩やかに、シンジが引き抜かれていく。
傷口を擦られて。
「・・・くうっ・・・」
奥歯の軋んだ音が聞こえたのか・・・
「アスカ?!痛い?!」
「ん・・・ごめん・・・ちょっと痛い・・・」
「そっか・・・これは?」
シンジの動きが、腰を擦りつけるようなものに変わる。
カラダの中をかき混ぜられる、奇妙な圧迫感。
肺の空気が全部外に出ちゃいそう。
でも・・・
「ん・・・これなら・・・そんなに・・・
でも・・・シンジはこれで気持ちいいの・・・?」
あ・・・とんでもないこと言っちゃったみたい・・・
シンジのカラダが、一気に熱くなった。
真っ暗で、顔が見えないのが、残念。
「あ・・・あの・・・と・・・ても・・・」
「そ・・・そう・・・なら続けて・・・」
こうやってこねくり回されるの・・・変な感じ・・・
シンジの動きに合わせて・・・荒い鼻息をしてしまう・・・
鼻の穴が大きく膨らんじゃってるのかな・・・
なんで・・・?
とにかく、部屋が真っ暗でよかった・・・
なんか・・・腰のあたりが・・・
痺れるんじゃなくて・・・くすぐったい?
むずむずする・・・
ん・・・なんか・・・カラダがすっきりする・・・
疲れがとれた・・・心地いい気だるさ・・・
半身浴してるみたいな・・・そんな感じ・・・
そういや・・・かいてる汗もそんな汗ね・・・
あ・・・そういえば・・・
いつのまにか・・・
痛いっていうより・・・痒い・・・かな・・・
シンジの・・・その・・・あれ・・・で掻いてもらってる感じ・・・
ちょっとのあいだ痒みがおさまって・・・
すぐに倍になって戻ってくる・・・
ひっ・・・
やだ・・・シンジの・・・が・・・
うねうねって・・・波うってる?
お・・・男の人のって・・・こんなに・・・うねるものだっけ?
違う!
アタシだ!
アタシの方が・・・蠢いてるんだ!
は・・・恥ずかし・・・ちょ・・・ダメ!
かってに締め付けちゃう!
ああっ!
シンジ・・・が・・・アタシの中で・・・
どくん、どくんって・・・脈うってる・・・
あれ・・・
ちょっと・・・腰が勝手に動いちゃう・・・
や・・・止まんない!
止めらんない!
う・・・うそ?!
カラダの表面を撫ぜられるのとはまったく異質の。
気がつかないほどのゆっくりとした傾斜で。
いつのまにか高みに昇らされていて。
「・・・ふ・・・ふぁ・・・はぁぁぁぁぁ・・・」
シンジのカラダが大きく震えて。
真っ赤に熱せられた鉄の棒が、形を保てなくなって熔けちゃったような。
そんなどろりとした感触をカラダの奥底で感じたとき。
アタシは気を失っていた。
「・・・結局・・・また・・・アタシが気持ちよくしてもらっちゃった・・・」
シンジの腕を首に感じている。
シンジの腕枕。
好き。
「そんなこと・・・その・・・僕も気持ちよかったし・・・」
「そっか・・・じゃあ・・・おあいこね・・・」
さっきまでの余韻なのか。
それとも、今が夢見心地なのか。
なんか現実感がない。
雲の上でお昼寝したらこんなんじゃないかって。
そんな感じ。
ふわふわしてる。
耳に入ってくる音。
シンジの声。
シンジの呼吸。
シンジの鼓動。
夏の風に揺れる木々のざわめき。
虫たちの歌。
車のエンジン。
どっか遠くで酔っ払いの叫び。
・・・酔っ払い???
「・・・ほんとにさいきんのちゅうがくせいときたらさぁ・・・!!!」
あ、シンジも気づいたみたい。
「あれ・・・あの声・・・」
「それっぽいわよね・・・」
静かな夜の第3新東京市に、ふつりあいに響く声。
「へへぇんだでもまけてないもんねぇ!!!
わたしなんてしんゆうとこいびととでさんかくかんけぇなんだからぁ!!!」
「だからちがうっていってるでしょぉ!!!」
「おいおいこえがおおきいんじゃないかぁ?!」
しかも複数形だわ・・・
「・・・あのミソジリアンどもが・・・」
「・・・本人たちの前でそれ言わないようにね・・・
覚えてる?ミサトさんの誕生日のこと。
「はっぴばーすでー、さんじゅー♪」って歌って、大騒ぎに・・・」
「でも、言いたくもなるわよ・・・アタシとシンジの記念すべき日に・・・」
「仕方ないよ・・・僕たちにとっては特別な日でも。
ミサトさんたちにとっては“日常”なんだからさ。」
「そりゃそうだけど・・・って、どこ行くの?」
「今のうちにシャワー浴びてくるよ・・・
出迎えは僕がするから、アスカは寝てて。」
「あ、それならアタシも・・・」
「無理しないでよ。今日はゆっくりしてて・・・」
「そう?」
なんだかシンジの気遣いが嬉しかったので、甘えることにする。
「・・・シンジ・・・」
「ん?なに?」
「・・・明日からは・・・アタシたちにとってもこれが“日常”だよね?」
嬉しそうな。
困ったような。
照れてるような。
そんな感じのシンジの笑顔。
まぶしかったのは、ふすまの隙間からこぼれた光のせいだけじゃなかったと思う。
「はかせぇたいむましんのかんせぃおめでとぉございます!」
「ありがとぉじょしゅくん!!」
「それではいっぷんまえにたぁいむすりっぷ!」
「おいおいかんぱいするまえにたいむすりっぷしてどおするんだぁ?!」
近づいてくる酔っ払いのたわごとを聞き流しながら思う。
これまでアタシが経験してきたこと。
これからアタシが経験すること。
流れては積もっていく時間のなかでは。
今日アタシが経験した“罪”もしょせんは一夜の出来事。
ちっぽけな、些細なことなのかもしれない。
でも、アタシは忘れない。
忘れたくない。
今日経験した“罪”を。
あのときの充足感を“罪”と呼ぶのも人間なら。
それを知ってなおその充足感を素直に受け止めるのもまた人間であるということを。
なにより、シンジとひとつになれたこと。
一緒に“罪”を経験したのが、他ならぬシンジであったこと。
その運命への感謝を。
絶対に、忘れない。
シンジが浴びているシャワーの水音を聞きながら。
アタシは、ゆっくりと、意識を夜の海へ沈めていった。
(おわり)
<<あとがき>>
仮:皆様、お久しぶりです!!
(仮)トレトニア です!!
け:けぇつっつ です!!
仮:ふっ・・・
この仮面をかぶることはもう2度とないかと思っていたが・・・
け:「2度とない」どころか・・・今年最初のSSがこれだったと(笑)
仮:われながら、いかんともしがたい(笑)
まあ、これはこれでアリかな、なんて。
け:アリでしょうね。欲望に忠実な我々的には(笑)
仮:人間としてリアルなんですね(笑)
そういえば、今回も挿絵ありがとね♪
け:いやあ、私も人間として『嫌味な程』リアルだし(笑)(←ただの下衆とも言う)
とまあ、こんな私たちにお付き合いくださいましてありがとうございます!!
仮:拙いながらも、この「灼け堕ちる2」こと
「ささやかなりし とわのつみかな」を皆様にささげます!!
け:全ては『愛あるえっちLAS』を望む、
『みゃあのお家』にいらっしゃる方々の為に捧げます!
喜んでいただけたら嬉しいです!!
け&仮:それでは、またね!!
ご意見・ご感想はこちらまで
(updete 2002/02/23)