〜生と死の狭間で・・・〜 後編



人の寿命は千差万別である・・・。

もし、自分の寿命がわかってしまったら・・・。

しかも、その寿命というものが目前に迫っていたら・・・。

残りの時間をどう過ごすのか、そして

笑って過ごすことができるのか・・・



__残三日__



黒板には数学の問題がどっさりと書かれ、教師は好き勝手に喋っていた。

しかし、そんなことは既に上の空だ。

早く、昼休みになれ・・・。

少しでも多くの時間、栞と過ごしていたいから。

早く、早く・・・。

後5分・・・後3分・・・後1分・・・。



キーーンコーーンカーーンコーーン



祐一「うっしゃぁ」

授業の終わりと同時にガタンと席を立ってしまい、視線が集中した。

祐一「さ、さて・・・飯でも食べてこようかな」

素早く行動し、廊下に出・・・

栞「あ、あのっ、祐一先輩はどこですか?」

栞の質問は却下され、そのまま食堂へと連れ去った。

栞「祐一先輩。お弁当たくさん作ってきたから、全部食べて下さいね」

祐一「あぁ。楽しみだ」

そして栞は大きな鞄から弁当を取り出した。

祐一「・・・誰が食べるんだっけ」

栞「祐一先輩です」

見ると、弁当箱が山の様に積み重なっていた。

栞「えっと、何を作るか考えて、いろいろと作ってみました。食べて下さい」

祐一「じゃあ、いただこうかな」

一番上の蓋を取ると、卵焼きやウインナーなどカラフルな中身となっていた。

とりあえず食べられるだけ食べよう。

祐一「・・・うん、旨いよ」

栞「ほ、本当ですか」

祐一「うん。流石料理が得意なだけあるね」

栞「私、初めて料理したんですよ」

祐一「なぬっ!」

栞「だ、だって・・・好きな人に・・・愛情弁当食べてもらいたいじゃないですか・・・」

言ってどんどん顔が赤くなっていく栞。

祐一「しかし初めてにしては上出来だ。満点をやろう」

栞「はい。ありがとうございます。どんどん食べて下さいね」



たくさん食べた・・・つもりなのだが、未だ8分の1残っていた。

祐一「も、もう食えん」

栞「えー、もっと食べて下さいよぉ」

祐一「いや、もう無理」

栞「あ、それじゃあ、せめてデザートだけでも食べてください」

祐一「まぁ、デザートならあまり腹はふくれないからな。いいよ」

栞「よかったですー」

と言って取り出したデザートは、先ほどの弁当箱と同じ大きさだった。

祐一「これはなんだ」

栞「デザートです」

祐一「・・・ごちそうさん」

栞「あー、待って下さいよぉ。少しだけでも食べてください」

祐一「少しだけだぞ・・・」

そして蓋を空けると、今度はうさぎリンゴが現れた。

祐一「ずいぶんと凝ってるなぁ」

栞「頑張りましたから」

祐一「でも、耳の大きさが違うな」

栞「き、気にしないでくださいよぉ。そんなこと言う人嫌いですー」

そしてデザートを食べ終わった。もちろん、少しだけだが・・・。

祐一「も、もう食えん・・・」

栞「美味しかったですか?」

祐一「あぁ。とても旨かったよ。後は、量を減らしてくれれば最高だ」

栞「わかりました・・・。明日は厳選して献立を考えます」

祐一「でも明日は土曜だから午前授業だぞ」

栞「あ・・・」

祐一「じゃあ、明日の放課後どこか・・・公園にでも行こうか?」

栞「はい。あ、そのときにスケッチブック持ってきますね」

祐一「わかった。似顔絵楽しみにしてるよ」

栞「期待しないでくださいよー」

祐一「じゃあ全然全く期待しないで、どんなものでも受け取る覚悟でいるよ」

栞「・・・少しは期待してください」

祐一「それじゃあ行こうか」

栞「はい」



__残二日__



後2日・・・栞と会えるのが、栞がここに居られるのが、栞と会話出来るのが・・・。

土曜なのだが、少し憂鬱だった。

本当に、会えなくなってしまうのだろうか・・・。

「奇跡が起これば・・・」

・・・一体、どうすれば・・・。

そういえば、栞の泣き顔を一度も見たことがなかった。

彼女が強いからなのか・・・。もし立場が逆だったら・・・。

無理だ、想像もつかない。

さて、学校にでも行こうか。



今日も授業は上の空。もうどうでもよかった。

じっと時間が過ぎるのを待つ・・・。

教師「じゃあ、5分前だけど終わるか。廊下にはでるなよ」

そう言って教師は教室から出た。

俺は、一応言われた事を守り、廊下の一歩前にスタンバイしていた。

そして、下校の合図と共に走り出した。1階へ。

祐一「あれ、そういえば栞ってどのクラスなんだっけ」

仕方なく、廊下の一番端で待機することにした。

・・・・・・・・・・・いた。

思わず駆け出す。

祐一「栞ーっ」

栞「あっ、祐一先輩。待っててくれたんですか」

祐一「授業が早く終わったからな」

栞「では早速行きましょう」

屈託のない笑顔・・・この顔を見れるのは・・・

いや、そんなこと考えるのはやめよう。



公園には誰もいなかったが、噴水はちゃんと動作していた。

栞「貸し切りですねっ」

祐一「まぁな。とりあえずベンチにでも座るか」

栞「はい」

栞は座ると同時にスケッチブックを取り出した。

栞「祐一先・・・祐一さん、早速似顔絵を描かせてもらいます」

呼び方・・・学校外だからかな?

祐一「おっけー。あ、飯食いながらでいい?」

栞「ダメです。動かないでください」

祐一「でも似顔絵なんだから、別に動いても・・・」

栞「ダメです。絶対、動かないでください」

祐一「わかったよ」

栞「では、描きます・・・」

−暫しの沈黙−



栞「出来ましたー」

祐一「おっ、どれどれ見せてくれ」

栞「恥ずかしいですぅ・・・」

祐一「いいからいいから、ほら見せてみて」

少しの間の後、黙ってスケッチブックを手渡された。

祐一「・・・・・・」

・・・下手だ。それも洒落になっていないほど。

褒めようがない・・・。

栞「・・・下手・・・ですか?」

祐一「ああ」

栞「そ、そんなストレートに言わないでくださいよぉ。ショックですー」

祐一「俺は栞のために辛くても言ってやったんだ」

栞「でもショックですー」

祐一「あ、でも、これ貰っていいか?」

栞「え?でも下手ですしぃ」

祐一「俺の為に描いてくれたのが嬉しいんだよ。な、貰っていい?」

栞「わかりました。貰ってください」

そのページだけ切り取り、俺は鞄の中にしまった。



どれくらいここにいただろうか。既に空は赤く焼けていた。

栞「なんか、ドラマのシーンみたいですね・・・」

祐一「そうか?俺はドラマ見ないんだが・・・栞はよく見るのか?」

栞「家ですることが無いので・・・ドラマばっかり見ています」

祐一「今の状況は、どんなシーンなんだ?」

栞「お約束みたいですが・・・キスシーンです」

祐一「それはまたお約束だな」

栞「はい・・・」

祐一「でも俺は、そんなお約束なシーンを演じてみたい」

栞「え・・・でも・・・」

祐一「ずっと、栞の側にいる。ずっと栞を好きでいる」

栞「わ、私も・・・祐一さんの事、好きです・・・。ずっと側にいたいです・・・」

言うと同時に栞が目を瞑る。

俺は、栞の柔らかい唇と自分の唇を重ねた・・・。

瞬間、噴水が吹き出した。

栞「それじゃあ、今日はこの辺で帰りますね」

祐一「送っていこうか?」

栞「大丈夫ですよ。子供じゃありませんし」

祐一「そっか。明日は商店街にでも行かないか?」

栞「はい。喜んで」

祐一「じゃあ、駅前で待ち合わせな」

栞「わかりました。9時頃に行きます」

祐一「それじゃあ、気をつけて帰れよ」

栞「また明日ですー」

言って駆け出した。

祐一「・・・明日・・・か」



__残一日__



目が覚めた。

誰も、この日が来るのを待ち望んでいなかった。

しかし、時間は勝手に進んでいく・・・。

祐一「・・・行くか・・・」



駅前に行くと、既に栞が待っていた。

栞「あっ、祐一さん」

こっちに向かってきた。

祐一「おぅ。早いな。じゃあ行くか」

栞「はい」

祐一「どこに行こうか?」

栞「じゃあ・・・ゲームセンターに行ってみたいです」

祐一「わかった。行こうか」

一路ゲームセンターへ向かう。



栞「あっ、祐一さん、これ面白いですよー」

祐一「栞、俺ちょっとトイレ。すぐ戻ってくるからここにいてくれ」

栞「わかりましたー」

俺はすぐにゲームセンターを出た。

そして、向かった先は・・・画材屋。

栞の誕生日プレゼントはスケッチブックと画材一式。

結構高いが・・・まぁ、いいか。彼女へのプレゼントだし。



買ってすぐ、ゲームセンターに戻ってきた。

もちろん、プレゼントは鞄の中に隠しておいた。



いつの間にか、夜になってきた。

栞「また、公園まで行きませんか?」

祐一「あぁ、いいよ」

二人は手を繋いで歩いた。

栞「あ・・・雪です」

祐一「そうだな」



公園に着いた。

栞「今日は、ちょっと疲れました・・・」

祐一「そうだな、いろいろと歩き回ったしな」

栞「本当は、結構・・・疲れました」

祐一「遊びすぎたからだな」

栞「そうですね」

祐一「・・・栞は強いな。いつでも笑顔で」

ふと、そんな言葉が出てしまった。

栞「私は・・・弱いですよ」

祐一「そんなことないって」

栞「だって・・・私、祐一さんと初めてあったあの日に、自殺をしようと思ったんです」

祐一「・・・・・・」

栞「カッターナイフで手首を・・・、でも、切ろうと思ったら、ふいに祐一さんが

頭に浮かんできたんです」

栞「どうして私だけこんな辛い現実に立たされているんだろう、どうして私は笑うことが

できないんだろう・・・、そんなことを考えて、そして祐一さんの笑顔を思い出した途端、

自分も笑っていました・・・。そしたら、手、切れなくなってしまいました・・・」

栞「もしかしたら、これが奇跡だったのかもしれませんね」

祐一「いや、まだ奇跡は起こせるさ・・・」

栞「そんなに・・・奇跡は起こりませんよ」

祐一「でも、奇跡は起こる確率があるから奇跡なんじゃないか?」

栞「・・・・・・」

祐一「・・・・・・」

栞「あの・・・私・・・、昨日学校で友達が出来ました。今度一緒に遊ぼうって・・・言ってくれて・・・

それに・・・もっと祐一さんと行きたいところ・・・たくさん・・・たくさんあるし・・・

もっと、いろんな・・・事が・・・したいのに・・・」

祐一「俺が好きなところにつれていってやるよ」

栞「約束、ですよ」

祐一「あぁ。わかった」

栞「あ・・・祐一さん、ちょっと、立っているのも辛くなってきました・・・」

祐一「でも、ベンチは雪で埋もれてるぞ」

栞「そこの・・・芝生がいいです。ひんやりしてて気持ち良さそうですし・・・雪、好きですし・・・」

祐一「わかった」

俺は栞を雪の上に横たわらせた。

大丈夫、まだ栞の手は温かい・・・。

栞「祐一さん」

祐一「ん?」

栞「私・・・短い間・・・とっても幸せでした・・・」

栞「好きな人と一緒に・・・商店街や公園に行ったり・・・お弁当も作って・・・」

栞「あのチョコレートのお酒ももっと味わいたいです・・・」

栞「・・・全部、大切な思い出です・・・」

栞「でも・・・」

栞「もっと祐一さんとお話したかったです・・・」

栞「私・・・たぶん、死にたくないです」

祐一「・・・・・・」

栞「私・・・わたし・・・やっぱり死にたくないです。こんなに未練が・・・っく、ある・・のに・・・うっぅ」

祐一「大丈夫・・・。誕生日が終わったらいろんな所につれていってやるから」

祐一「・・・ちゃんと、プレゼントだって買ってあるんだぞ」

栞「本当ですか?」

祐一「すごく高かったんだからな。でも、まだ日付は変わってないぞ」

栞「もうすぐ・・・です」



俺も横たわった。空を一瞬、見つめただけだった。

瞬間、周りが白くなって・・・

そして・・・



気がつくと、栞は横に居なかった。

どこにも、見あたらない・・・。

俺は、何もしてやれなかった。何も出来なかった・・・。

・・・涙が出てきた。愕然と立ちつくした・・・。



葬儀はしていない。

栞の遺体が見つからないからだ。

家族も心配している。

もちろん俺も、町中を探し回った。

・・・微かな希望を胸に・・・

でも、どこにも居なかった。

どこへ、行ってしまったんだろう・・・栞は。



「私はここですよ」

祐一「ん、栞か?」

栞「はい」

祐一「今どこにいるんだ」

栞「祐一さん・・・永遠の世界があったとして、その世界へ行きたいですか?」

いきなりわけのわからないことを言う。

祐一「永遠の世界?」

栞「そう・・・。毎日毎日、ずっと私と祐一さんが一緒にいられる・・・」

祐一「・・・・・・」

栞「祐一さんだったら、その世界へ行きたいですか?」

祐一「俺は・・・」

祐一「俺は、行かない」

栞「え、どうしてですか」

祐一「だってさぁ」

栞「・・・・・・」

祐一「それじゃまるで夢の中みたいじゃん」

瞬間、周りが真っ白になった。



目を開くと、そこは天井だった。

祐一「・・・夢・・・か・・・」

急に脱力感に襲われる。

そう言えば、今日って確かバレンタインデーなんだよな・・・。

みんな生き生きしている。

でも俺は全然嬉しくない。

とても憂鬱だ。

日曜なのに予定ないし・・・。

祐一「散歩でもしてこよう」

気怠い体を起こし、とりあえずあの公園へ行ってみることにした。



公園は静かだった。

ただ、噴水の音だけが聞こえてきた。

そして、後ろから足音も・・・ん?

・・・振り返ると、見慣れた顔があった。

少女「バレンタインチョコ、自分で造ってみたんですけどぉ」

祐一「・・・・・・」

少女「美味しいかわからないけど、食べてみてください」

白い、少女の手にはハート形のチョコレートがあった。

俺は声も出ず、立ちつくしたが、少しの間を空けてチョコレートを頬張った。

祐一「・・・旨い」

少女「あ、よかったです・・・。やっぱり、大好きな人に食べてもらえると幸せです・・・」

祐一「・・・」

少女「・・・」

少女「あの・・・」

少女「泣いても・・・いいですか・・・?」

祐一「・・・あぁ」

少女「・・・うぐっ、えぐっ・・・」

彼女は俺に飛びついてきた。

少女「・・・祐一さん・・・私、本当は死にたくなかったです」

祐一「だから、帰って来れたんだよ・・・栞」

栞「うっく・・・そう・・・っく・・・ですね・・・」

強く、強く抱きしめる。

栞「い・・痛いです・・・っく・・・よぉ」

感覚があった。これは夢じゃない。

いつのまにか、涙が流れてきていた・・・。。



ありえなかった現実が、ここで起こった・・・。



神の悪戯か、重い病気を抱えた1人の少女は、”奇跡”というべきものによって



今、目の前に姿を現した・・・。



祐一「栞、これからもずっと一緒に生きていこう」

栞「はい☆」



祐一「そうそう、今日栞が出てきた夢を見たぞ」

栞「知ってますよ☆」

祐一「え?それってどういう意味?」

栞「・・・内緒です」

                              〜Fin〜








//著者より(言い訳)<爆
ども。風舞 光ですぅ。初めてのショートストーリーと言うことで、見づらい、よくわからない、
といった苦情が殺到するとは思いますが、とりあえず完成しました。
ちと本筋に近づけすぎたのかなと深く反省しております。
このことを気づかせてくれたかすきさん、ありがとうございました。
それで、一度出来上がった文章を一部書き直す、といった感じになりました。
でも、私の技量が足りなさすぎました(汗)
最期の方を変えるのが精一杯でした。
次回作はもっと頑張ります。
しかし、Kanonの栞のシナリオは1番感動しました。
まだプレイしていない方は是非やってみましょう!
・・・ところで、ほんの少し、ONEが混ざっていたのに気づかれたでしょうか?(笑)
う〜ん・・・私ってば、洗脳されやすいタイプなのかなぁ・・・。
それと、ここまで読んで下さった方、ありがとうございます^^
感想、お待ちしています。

へぼ小説書人 風舞 光