Good night for you

 

 

 

私は少し酔っていて。

夜道を、ふらふら歩いていると、

 

「あれ、菜々美ちゃん?」

 

誠ちゃんに、出くわした。

オンナの酔っぱらい、なんてのは、

カッコいいもんじゃないわけで。

だいじょうぶ、って言ったのに、

 

「酔っとる人ほど、そう言うんや」

 

優しい笑顔で、送ってくれる。

 

それはとっても嬉しくて、ちょっぴりくやしいことだから。

 

「誠ちゃーん。お水ちょーだい」

 

なんて、家についても甘えてる。

 

「しゃあないなあ。

 菜々美ちゃん、飲み過ぎやで。

 僕ら、まだ未成年なんやから」

 

コップを片手に持ったまま、相変わらずの優等生に、

 

「なによお。シェーラなんて私の倍くらい飲んでたんだから」

 

さっきまで、一緒にいたコの名前を使って、言い訳しても。

 

「シェーラさんと一緒やったんか。

 そら、こうもなるわ」

 

「あー それひどーい。

 シェーラに言いつけちゃおうかなあ」

 

「うわ かんべんしてや」

 

なんて、結局2人で笑ってしまう。

 

 

楽しげな、いつもの声に、油断して。

 

「ねえ 誠ちゃん。

 私、酔ってるかな?」

 

 

それでもやっぱり、なんとなく、

先ず逃げ道を、造っておいて。

 

「え?」

 

「だからあ 私、酔ってると思う?」

 

「うん それも『だいぶ』やな」

 

誠ちゃんは苦笑い。

 

「そっかあ

 やっぱり、酔っぱらってるか……」

 

コップの水に呟いて、ちょっと笑ってみたりする。

 

それは遠い昔々に見た映画。

よくあるいつものワンシーン。

 

「ね。 私って結構、イイオンナだって思わない?」

 

「はあ?」

 

予想通りのあきれ顔。

 

「なによお、その反応は」

 

かたんと椅子を、小さく鳴らして、立ってみる。

 

「これでも、東雲高校にいた頃は、結構もててたんだから」

 

そこで、くるっと一回り。

 

「うん。 そうやったなあ」

 

遠いどこかを見る顔に、胸がちょこっと疼いてしまい、

 

「今だって、私目当てでお店に来る人だっているんだから」

 

「そうなん?」

 

「ふふん。 知らなかった?

 もちろん大抵は、我が東雲食堂のメニューの数々に惹かれて来るし、

 私もその方が嬉しいんだけどね」

 

ちょっとだけ、自慢して。

ちょっとだけ、胸張って。

 

「でもまあ、無理ないわよねえ。

 ほら、私って可愛い顔してるでしょ?」

 

「そういうこと、自分で言うかなあ?」

 

相変わらずの、優しい苦笑で。

 

「だってほんとのことじゃない?

 胸だって、そりゃミーズさんほどじゃないけど、結構あるのよ?

 ウエストだってきゅって細いし。

 おしりだってかっこよく引き締まってるんだから」

 

「な、菜々美ちゃん…」

 

赤い顔して戸惑う姿。

なんだかとっても可愛いじゃない。

 

「まだ、あるわよお

 エルハザードで一番、とまでは言わないけど、

 ここら辺じゃナンバーワン・レストランのオーナー兼シェフ」

 

それは私の夢の一つで。

小学校の作文にだって、書いたぐらいで。

 

「お店のローンはまだちょっと残ってるけど

 返そうと思えば今すぐに返せるぐらいの貯金はあるのよね」

 

全てがうまくいきすぎで。

時々全部、夢のよな、気がしてる。

 

「菜々美ちゃんは、そうゆうの、しっかりしとるからなあ」

 

「でしょ? さらに、さらに、家庭的なとこもあるんだから。

 お料理なら、誰にも負けない自信はあるし……

 ううん お料理だけじゃなくて、掃除、洗濯、家事ならなんでもできちゃう」

 

全部、ほんとのことでしょう?

嘘はついて、ないつもり。

 

「まさに、お買い得よねえ」

 

私の言葉はちょっと遅れて。

目の前に座るコは、なにかを感じて、しまったみたい。

ミスったなってわかるけど。

今更止めるなんてのは、

まずいって、わかってて。

そんなこと、できないって、わかってて。

 

「それに、それにさ……

 誠ちゃんのことなら、なんでも知ってるよ?

 長い付き合いだもん。

 誠ちゃんのこと、一番よくわかってるって、思うよ?」

 

いつからだっけ?

こんな言い方、してしまう。

ちょっと前、ほんのちょっと前ならば、

もっと無邪気に、もっとまっすぐ、言えたはず。

 

 

「まったく、言うこと無しよね。

 ほんと、私って、さ…、お買い得だって、思わない?」

 

 

私はちゃんと笑えてる?

名前さえ、忘れてしまった、あの映画。

あのブロンドのヒロインみたいに。

 

私はちゃんと伝えてる?

これがただの冗談だって。

飲み過ぎて、ちょっと悪のりしてるんだって。

 

私はあなたに、伝えられてる?

 

「菜々美ちゃん……」

 

誠ちゃんは辛そうで。

立ち上がろうとしちゃうけど。

 

でもそれは、違うって思うから。

私は静かに、手を振って。

 

「でも…、でもさ……

 誠ちゃんは“あのひと”の処に行くのよね?」

 

それは無意味な言葉なわけで。

 

ただ口にしてみただけの、

意味のない、言葉なわけで。

 

「菜々美ちゃん……」

 

名前だけ、繰り返すのは、

優しさだって、知ってるけれど。

これ以上、無理だってのも、知ってるし。

返事が欲しい、わけじゃないから。

 

「だいじょうぶ。

 だいじょうぶよ、誠ちゃん」

 

いつものように、にっこり笑って。

 

「今、酔ってるから……」

 

そう、私は少し飲み過ぎた。

 

「なんたって、シェーラのお酒に付き合ってたんだもん」

 

私もそんなに、強くはないから。

 

「私、酔っぱらってる、だけだから。

 ……だから、だいじょうぶ」

 

 

少しだけ、見つめ合ったりなんかして。

それはとっても嬉しくて。

素敵な夢を見たみたい。

だから、そのまま、言ったげる。

 

「おやすみなさい。 誠ちゃん」

 

誠ちゃんは驚いて、

目を大きく開くけど。

しばらくそのまま固まって、

ためらってもくれるけど。

ゆっくりと、ちゃんと部屋を出てってくれる。

ドアの前、一度だけ、振り向いて、

きちんと、はっきり言ってもくれる。

 

「……おやすみ、菜々美ちゃん」

 

 

 

 

 

 

涙で滲んだ、ランプの光が、

歪んで、砕けて。

なんて、綺麗。

 

 

 

 

 

 

私はちゃんとわかってる。

きっと、明日はいつもと同じ。

シェーラときゃんきゃん喧嘩して。

お昼を忘れたあの人に、

私はガミガミ小言を言って。

一緒に、おべんと食べたりする。

にぎやかで、大忙しの、楽しい時間。

お祭りみたいな、楽しい毎日。

きっと、全てがいつもと一緒。

 

私はちゃんとわかってる。

 

だから私は、枕に顔を、しっかり埋めて。

もう一度、少しだけ、泣いてみて。

 

 

「カッコわるい…よ、ね。

 泣き上戸、なんて、さ……」

 

 

そんなこと、呟いたり、してもみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どうも、Kitaです。11回目の投稿になります。 (話としては、8個目になります)

今回のお話はエルハザードです。ストーリーに関しては、これまでと同様、言うべきことはありませんね。(誰か私にオリジナリティを!!)

そして今回の目標は、「一人称の心理描写を“リアルタイム”っぽくしてみよう」です。

普通、頭の中(特に酔ってる時は)で、「私はAのことをまるでBしてるCみたいだと思ったので、Dしようとしたのだけれど、それは余りにEだったので、FしたあげくGする事にした」なんてリアルタイムで考えないですよね。

もっとこう、ぶつ切りというか、訥々としてるんじゃないかな、というのが、私の中にあるんです。(偉そう! それに、単に私がきちんとした文章を書けないってのもあるんですけど)

更に、それだけでは“姑息”が足りないと思ったので、「会話部分と心理部分のギャップを出そう」とも、がんばってみました。(目標としてはこっちがメインかも)

これは“やってることと思ってることが違う”という内容に関することだけではありません。

とりあえず、すぐに目に付くように、左揃えと中央揃えにわけてみました。

それだけでは余りにありがちなので、トークの部分はごく普通(のつもり)なんですが、心の部分ではできるだけ、ぽつんぽつんとした一定のリズムを持たせようとしてみました。(声に出して読んでみて下さい。少しは感じていただけるかも…)

「どこが?」なんて言わないでください。一応努力はしたんですから。(モニターに向かってブツブツと呟きながら頭を悩ませてる姿は、我ながらかなり不気味だったと思います)

そういうわけでヒロインの心理描写は、日本語として間違ってますけど、こんな風にしてみました。

どうだったでしょう? 私の目論見の2%でも成功しているといいのですが。

 

それでは、これを読んで下さっている皆様、その機会を与えてくださるみゃあ様、どうもありがとうございました。

失礼します。

(99.12.19)