あれはもうずいぶんと前のこと。そう、何年も何年も前のこと。
スマイル/サイレント/プロミス
*
その日 私たちは、行きつけの喫茶店に集まっていた。
テーブルにはそれぞれが頼んだ飲み物が並べられていた。
でも、誰も手を着けようとはしなかった。
これから自分たちが何処に辿り着くのか、誰にも分からなかったけれど、
これから何が起こるのかは、3人とも知っていたのかもしれない。
彼はゆっくりと話し始めた。
話の途中で泣き出してしまったけれど、短く正直な言葉で自分の気持ちを彼女と私に伝えてくれた。
私は泣かなかった。
たとえこれからどんな場所で泣くことになっても、今この瞬間にだけは泣きたくなかった。
私の膝に置かれた自分の手を見ながら、手のひらに爪が食い込むこの痛みがその助けになればいい、と願っていた。
彼女は黙って話を聞き終わると、たった一言だけ静かに、本当に静かにつぶやいた。
「…しあわせに……」
そして素敵な、かすかにだけど、とても綺麗な笑顔を見せた。
私には伝わった。
その微笑みを見て、彼女が何を言っているのかを哀しいほどにはっきりとわかった。
彼女は、私に幸せになって欲しいと願っているのではなく、
自分が幸せになると誓っているのでもなかった。
彼女は提案しているのだ。
“私たち、幸せになろう。それぞれ違ったやり方で”と。
そのことがきちんとわかったから、私はきちんとうなずくことができた。
彼女は、私の返事を見届け、もう一度だけ彼に目を向けると、静かに席を立った。
彼女が店を出て
その後ろ姿が街の雑踏に消えても
私は泣かなかった。
彼女の席に残されたグラスの中の氷が からん と、ひどく涼しげな音を立てるのを聴くまでは
*
そして、今
私は、あの日の約束を護りたいと思う。
あのとき、微笑んでくれた彼女のために
あのとき、泣いてくれた彼のために
あのとき、涙を見せなかった私のために
彼女との約束を護っていきたいと願う。
これからもずっと。
だから、私は
私の隣で、まだまだあどけなさを残した寝顔を見せる彼の頬に
そっと、口付けしてから、こう言うのだ。
「起きろ! バカシンジ!! 今週の朝食当番あんたでしょ!!」
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弁解/言い訳/お詫び
初めまして投稿させていただきます。“Kita”と申します。いきなりこのようなものを送ってしまい、正直なところ心苦しいものがあるのですが、こちらで皆様の作品を読ませていただいているうちに私もやってみたいとの想いを押さえ難く、ついにこのようなことになりました。
一応、この文について私が意図したもの、というよりやろうとしたことについて書かせていただきます。内容はご覧の通り、今更ながらのEVAです。EVAについてはこれまでに数多くの秀逸な作品が見られ、また何より私自身の発想の貧困さ故に、今回のように実にありがちなシチュエーションしか浮かびませんでした。そこで、姑息と言えば姑息なのですが、そのことを逆手に取りできるだけ文章を削り、「彼」が何を語ったのか、そもそも「彼」「私」「彼女」は誰なのかといったようなことを最後までわからないようにしたつもりです。しかしそこは初心者の悲しさ、所期の目的を達成できなかっただけでなく、中途半端に短く、中途半端に判りにくいものになってしまったようです。笑って(嘲笑?!)許してやって下さい。
それでは失礼(本当に失礼ですよね!)します。