あれはもうずいぶんと前のこと。そう、何年も何年も前のこと。

 

 

ティアーズ/ミラー/ワード

 

 

 

その日 いつもの喫茶店で、私と彼女は、彼の嗚咽と彼の想いを聴いた。

 

 

「…しあわせに……」

 

私にはたった一言しか言えなかった。

 

私の中を駆け巡った、無数の奔流

そのあまりの色鮮やかさに、それ以上、言葉がでなかった。

 

言ってしまった後で、これで十分だと気づいた。

そして、私はもう一度だけ、彼女と彼を見てから、席を立った。

 

 

私の言葉に、彼女は何も言わずにうなずき

彼は流れ落ちる雫の向こうから、まっすぐに私を見つめた。

 

 

たったそれだけのことだったし

それだけが全てだった。

 

 

 

 

部屋に帰り、まず決めたことは、この街から引っ越そうということだった。

 

 

明日からも、私が受け入れられることは、判っていた。

 

もちろん、暫くはお互いに、ぎこちない思いをするだろう。

それでも、あの二人なら、私を受け入れてくれると、私には判っていた。

そして、自分が、心からそれを望んでいることも。

 

だけど、それでは私たち三人は何処にも行けない。何処にも繋がらない。何処にも辿り着けない。

それは酷いことだと、とても酷いことだと知っている。

 

 

私は行かなければならない。

 

 

それから何気なく、鏡を見て、驚愕した。

そこには微笑みを浮かべた私がいた。

ほんの少しだけれど、間違いなく私は笑っていた。

 

自分でも気がつかなかった、ごく自然な微笑

その理由はすぐに気がついた。

 

 

あの二人だからだ。

あの二人だから、私はこんな風に笑っている。

 

 

私はちゃんと声に出してみようと思った。

どうしてそんなことを考えたのかは、判らない。

ただ、どんなものでも構わないから、自分の笑い声を聴いてみたかった。

 

 

鏡に映った、微笑んでいる私を見ながら、そっと口を開きかけた瞬間

全てが滲み、何も見えなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

声に出して笑うことは、できなかったけれど

声を上げて泣くことは、できた。

 

 

 

 

 

 

そして、今

私は、話しかけようと思う。

 

あのときから、一度も会ったことがないあの二人に

これからも、会うことのないであろうあの二人に

この胸が苦しくなるほどに、蒼く澄み渡った空を、独り見上げながら

ただまっすぐに、私の言葉を届けようと思う。

 

 

 

まず、彼女に

 

私はあなたを忘れない。

 

今では、私にも友人と呼べる人たちがいる。

決して多くはないけれど、これからも少しずつ増やしていくつもり。

 

だけど

あなたほど、深く傷つけ合った人はいないから。

あなたほど、お互いに支え合った人はいないのだから。

 

 

 

そして、彼に

 

私はあなたを忘れない。

 

今では、誰かが私を好きになってくれているかも知れない。

まだ出会っていないけれど、私も誰かを好きになるかも知れない。

 

だけど

あなたに、私は恋をしたから。

あなただけに、たった一度の、最初で最後の本当の恋をしたのだから。

 

 

 

 

そう、この不安定で、不確実で、不完全な世界の中で

このことだけは、いつだってはっきりと言える。

 

 

 

“私はあなた達を忘れない”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

私は、綾波レイは、きっと、しあわせになれる。

そう思う。

 

 

 

 

 

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謝罪/反省/感謝

Kitaです。二度目です。前回、こちらの方に自分の書いたモノが掲載されているのを見たとき、「これが不特定(ああっ 願わくば不特定多数であらんことを!!)の人の目に触れてるんだ」と思うと嬉しいやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやら、奇妙な緊迫感を感じました。あの感覚をもう一度味わってみたくて、厚かましくもこれを送らせていただきます。

今回の目標は、“対”のつもりです。内容の方は前回の「スマイル/サイレント/プロミス」の続編(姉妹編)なのですが、できるだけ前作と対になるような形にしたつもりです。しかも、ストーリーの時間としては「スマイル…」のその後を中心にしておいて。そしてこの文の中だけでもあちこちに対を盛り込んだつもりです。

なんだか“つもり”ばかりになっていますが、ストーリーに独創性を見いだせないので小細工に走ってみました。相変わらず姑息ですね。 すみません。

最後に、これを読んで下さっている皆様、このような場を与えて下さった(私が勝手に押し掛けているとも言う)みゃあ様 どうもありがとうございました。 それでは失礼します。