「ほぉ・・・こっちの警察署ってのは変わってるんだなぁ・・・」
と死狼は正門を見ながら一人呟いた。
異世界の警察署なのだから変わっているといえば変わっているが実際はここの署長が悪趣味なせいなだけだ。
だが、頭のおかしい署長のことを死狼が知るはずもない。
警察署の前で破損している警察車両近づく死狼。
車両の中から警官の死体が無惨な姿でこぼれおちているが気にせず、
車内に備え付けられているであろうショットガンや弾丸を回収しようとしたがなぜか何もなかった。
警官の死体でさえ銃を持っていない状況に不満があったが、仕方がないので警察署内にはいる死狼。
すると、
ドズゥン!!
「STARS・・・」
死狼の背後に空から大男が降ってきた。全身黒いコート・・・
コイツとは長いつき合いになるので、詳しく説明しよう。
追跡者「ネメシス−T型」。
この「ネメシス−T型」はタイラント改に寄生型生物兵器「ネメシス(NE-α型)」を寄生させ生まれた、新型生物兵器である。
タイラント改に寄生したネメシスはタイラント改の脳までも支配し、戦闘力、耐性、回復力等各種の身体能力を大きく向上させる。
なにより特徴的なのは知性を獲得したことだろう。
知性の存在によって複雑な命令を遂行する能力を持ち、
兵器使用、さらにはダメージを受けるごとに肉体を変化させる適応力をもつ。
ここにアンブレラが目指した生物兵器が完成を迎えたと言っても過言ではない。
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そして自分に向かってくるネメシス−T型に向かって死狼はこう呟いた。
「ほう・・・敵か」
死狼は少し嬉しそうな声を出した。彼にとって敵は現象でしかないが、単調な作業が続いていたので少し刺激が欲しかったのだ。
この状況でこうなる精神力は並ではない。
「ウォオオオオオ!!!」
ネメシス−T型は明らかに死狼への殺気を込めて走り寄ってくる。この際死狼がSTRASではないと言う事実はあまり関係ないようである。
常人なら恐怖に固まってしまうであろうその状況で、死狼は笑った。
「・・・お前は・・いや、いい・・戦いに言葉は入らない」
いや表情が歪んだ・・と言うべきか?
笑い慣れていない子供が新しい玩具を手に入れて喜んでいる。そう形容するのが最も適しているだろう。
あるいは、バッタの脚をむしって喜ぶ子供と形容する者もいるだろう。
死狼は暴力への渇望とスリルに酔ったような明らかに危険な目つきに変化したのだ。
彼にしては珍しい感情の動きだ。おそらく、強敵と遭遇すると恐怖から筋肉の硬直を防ぐためにこのような精神作用が現れるのだろう。
死狼の目が見開かれた。
脳内麻薬の大量分泌により神経がとぎすまされ、かなりの速度で走り寄ってくるネメシス−T型の動きがまるでスローモーションのように映っている。
その間に死狼の思考は相手の情報を収集分析していた。
体型から人間と似通った器官、機能、弱点をもつと思われる。
左目と口の存在を確認。頭部に縫合痕。右目はないように思われる。
単語を発音できる事からノドがあり、またある程度の知能と呼吸するであろうことを推測。鼻はない。
見たことのない特殊な服を着ている。揺れから見てかなりの重量。防弾効果があると思われる。
頭部と右肩部分が露出。右肩に特異な形状の器官が見える。
体型と足音と走る速度から体重と下半身の筋肉の量を推測。
重量と巨体の割に走るさいのバランスも悪くない。
腕や脚には外見で解る武器は持っていない。
以上の情報から自分のとるべき行動を選択する。
視覚で敵を確認しているだろう事から目への攻撃が最も有効であると思われる。
縫合痕も攻撃対象。呼吸器官を潰すためにノドと口内への攻撃も有効。攻撃は臓器よりも頭部に集中する。
右目が無いことから回避行動は相手の右腕方向へ。
相手の身体能力から肉弾戦はできる限り避ける。
ブゥン!!
大きく振られた腕を銃のセーフティーを外しながらバックステップしてかわす。
死狼は弾丸を引き金を引くだけで発射できる状態にしてからセーフティーをかける。
行動する上である程度の危険が伴うが素早い攻撃こそ自分の命を守ることであると死狼は知っている。
狙いを付けて近距離でCHEZALIONを発射した。
ドン!・・ドン!ドン!ドン!
最初の1発がネメシス−T型の唯一の左目を貫くと、もう3発がやたら並びの良い歯を砕いて口内に飛び込んだ。
「グボォア!!!」
口内から大量の紫色の体液を吐き出しながら、ネメシス−T型が仰向けにのけぞる。
着弾のショックとダメージに体勢が崩れたのだ。
体液に毒物があるかも知れない。ナイフ戦は注意。
同時に体液を吐き出したことから肺呼吸を推測。
戦いながら情報を収集し、次の自分の行動を考える。
ここが死狼の優れたところである。
「フッ!」
死狼は左手で戦闘用ナイフ「イマックス」抜くと逆手に握りなおし、ネメシス−T型の頸動脈部分から喉仏へ向かって横向きに突き立てた。
これ以上の侵入が不可能になってからナイフを捻って傷口を拡げる。空気が血管に入り込み、出血を激しくさせるのだ。
「グゥボォアア!!!」
これはネメシス−T型の悲鳴だったのだろうか?
大量の体液を吐き出しながら明らかに今までと威嚇するためとは違う叫びを上げた。
死狼は体液を避けながらその声に気にもかけずさらに左目部分に弾丸に数発撃ち込む。
ドン!ドン!ドン!ドン!
「・・・ゥゥゥゥゥstars・・・」
ようやくネメシス−T型は仰向けに倒れた。だが死狼は容赦しない。
相手が倒れるまでに顔面に数発撃ち込まなければならなかった事実を過小評価しないのだ。
首のナイフを引き抜いて再び逆手に握ると紫色の体液まみれの顔面、右目の上から頭頂へ向かって走る縫い目に撃ち込んだ。
体重をかけて傷を縫い止めていた金具をブチブチと音をたてて引き裂く。
容赦のない一撃は切っ先は確実に右目があったであろう位置に突きたっている。
「・・・ゥゥオオオ!!!!」
死狼が突然復活したネメシス−T型の腕を避けて離れるまでに、
3度ナイフを刺し、ネメシス−T型の顔面にはいまでもナイフが柄まで突き刺さっている。
「STARS!!!」
ドドド!!
立ちあがったネメシス−T型の右サイドに回り込むと、セレクターをフルオートにしながら耳があるであろう部分に向けて銃を連射する。
先程と同じく1発目は耳のあるべき部分に撃ち込まれ、その後の数発は側頭部に撃ち込まれた。
最初の一発が必ず狙った箇所に着弾し、その後フルオートの反動によってずれるもののその近辺に命中するのは
銃の反動を知識と実体験によって知っていることと、正確無比な狙い、そして強靱な手首だからこそである。
「ガァアアアアア!!」
グチュ!
着弾に構わず自分の右目部分に刺さっていたナイフを引き抜くネメシス−T型。
そのナイフを手に死狼へと向き直る。目が見えているわけではなく、着弾から死狼の居場所を推測しただけだろう。
残りの弾丸全てを顔面に撃ち込むと、ようやく膝をついて仰向けに倒れた。
「オオオオォォォォ・・・」
声がしなくなってから、死狼はネメシス−T型の頭部を思いっ切り蹴り上げた。
先端に鉄の仕込まれたブーツは頭皮を抉るほどの破壊力を秘めていたが、流石にピクリとも動かなかない。
死んでいるかどうか確かめる為なのだが、生きていたとしても今ので死んだだろう。
「はは・・ハハハハハハハハハハ!!!!
ぁ〜タフだったなぁお前。なかなかいないぞぉ?」
死狼はやたら嬉しそうな声で言った。脳内物質による興奮状態が続いているせいなのだが、今にもネメシス−T型にキスしかねないほどの浮かれている。
「これ一体なんだよ!?」
取り返したナイフで肩の紐を引っかけて切る。体液がどばっと出たところからすると何らかの器官のようだが・・・
何の反応もなかった。さらにザクザクと切り刻む。
「おお!そうだったそうだった」
慌ててネメシス−T型から服をはぎ取る死狼。消火栓の水で洗い流してから検分する。
体液でグチョグチョな上サイズがまるで違う。
死狼も平均よりはがっしりとした体型だが、それでも4サイズは上だ。
「へぇ〜・・随分重いな。防弾用の3層チタンプレートとケブラーと耐熱素材か・・・金かかってるねぇ」
既存の防弾装備のどれよりも優れた服ではあったがこのサイズで10キロを超す重量。
一般人のサイズにすれば5キロちょいで済むかも知れないが、並の人間では身につけることさえ困難だろう。
いくつかの改良点を考えながらポケットなどを探っていると指に堅い感触があった。
チタン製の銃身(バレル)だ。普通の鉄の銃身では持たないような弾丸を撃つときの特殊品だが、そんな弾丸を死狼は持っていなかった。
通常の弾丸は弱装弾と言われ、暴発を防ぐため、また暴発した際の被害を防ぐために火薬の量が調節されている。
火薬を限界量まで入れれば、銃身が破裂する危険性と引き替えに破壊力を手に入れることが出来る。
だが、そんな状態で何発も撃っていれば弾頭に回転を加えているライフリングが通常よりも早く削られてしまい、結果、命中率の減少や破壊力の低下を引き起こす。
それに反動も半端無く、フルオートでは死狼の手首でも御しきれなくなるだろう。
チタンバレルはそれらの問題を解決するための強化パーツなのだ。
「まぁ・・・持っておくか」
今度は全裸のネメシス−T型を検分する。
全身頭部と同じく爛れた皮膚と紐状の器官である。おそらく紐状の器官は神経兼筋肉なのだろう。
生殖器はない。筋肉の量が半端無いから銃弾で致命的なダメージを与えるのは難しいと思われる。
いちいち解体する気も無いのでこの程度である。
タフさはあるが生物兵器としては大したことはない。
死狼の抱いた感想はその程度である。それが大きな間違いであることを死狼は後々知る。
やたら重たい服と、チタンバレルで荷物が一杯になった死狼はそのまま進んだ。
一番重い服は敵と出会ってもすぐに投げ捨てられ、また疲労で攻撃に支障がでないように肩に担いている。
カウンターの机に置いてあった9mmパラベラム×30を入手後、STARSカードの番号を調べて青い宝石と鍵をポケットに詰め込んだ死狼。
通常の主人公では持つことの出来ないアイテム数だが、死狼はそんな事は気にしない。
大体銃とカードがアイテムとして同量という事自体が間違っているのだ。
途中のゾンビは全て蹴り倒してようやく写真暗室に辿り着いた。ロッカーか火薬を入手。
溜息をつきながらBOXに服を投げ込む。きっとジルもこの服に困惑していることだろう。
「ふぅ・・・帰ったら俺用に造り替えよう。その場合三層プレートは一枚に代えて・・・
腕の部分は対ナイフ用に代えてっと・・・」
ぶつぶつ呟くながら暗室内を漁る。とち狂った警察官のレポートがあったが、読んで即忘却した。
署内の二階で4体のゾンビを蹴り殺して、STARS部屋で取り付け式のグレネードランチャーと9mmパラベラム×30、キーピックに救命スプレー、紅いハーブを二つ手に入れた。
ケンド銃砲店からのFAXで何故か死狼の使っている銃の改造方法が乗っていた。これも因果律なのだろうか。
訳の分からない通信を聞いてから階段を下りると、
ガシャーン!
どこかでガラスの割れた音がした。
音がすると同時に腰を落とし、CHEZALIONを構える死狼。
視覚と聴覚、嗅覚、皮膚で感じる空気の流れすらも知覚している。
忍び足でゆっくり階段を下りて、窓から見えない位置へと移動する。外からの狙撃を注意しての行動だが、何の変化もないので動くことにした。
この警察署内での捜索は殆ど終わった。署内の至る所にあるバリケードはどけてもどけても増えていくという不思議なもので、時間を費やしていても無駄な気がしたのだ。
おそらく因果律でこれ以上の行動が禁じられているのだろう。
ヒュッ!
死狼は足音を立てずに走り出した。風を切る音と服が擦れる音がたってしまうが、数歩も走らないうちに後方の窓からネメシス−T型が窓から飛び込んできた。
「ふん?・・・どこで手に入れたんだその服とランチャー・・・いや、二人目?」
と言っているのだが、すでに死狼はCHEZALIONを構えていた。
今度の狙いはネメシス−T型の持っているランチャーの銃口だ。
死狼の言葉通り剥ぎ取ったはずの服を身につけているし、ランチャーも持っている。
何より初めて遭遇したときと全く変わらない、死狼によって付けられた傷が無いのだ。
傷の治りが異常に速いか、二体目かのどちらかだろう。
「STARS!!」
ドン!!
ネメシス−T型がランチャーを肩に担いで死狼に向かって構えた時にはすでにCHEZALIONから発射された弾丸がその銃口に飛び込んでいた。
キキン!・・ボボゥン!!!!
弾丸がランチャー内の砲身に跳弾を繰り返しながら吸い込まれ、グレネード弾に命中した。
死狼の弾頭がグレネード弾の信管を揺さぶり、爆発させる。
死狼にしてみれば何でもない行動だが並程度の訓練では到底身に付かない凄腕である。
ドォン!ドォン!!・・・
閉じたドアの向こうでは誘爆したグレネード弾がその数だけ爆発ししている。
あのランチャーの威力が解らないが、おそらくネメシス−T型は跡形もないだろう。
少なくとも肩に担いでいたランチャーが爆発したのだから、頭部はかなりの損傷を負っているはずである。
扉から大分離れたところで誘爆の音を聞いていた死狼は、その爆発音が止んでからゆっくり覗いてみた。
「・・・・・ふん」
ネメシス−T型がいたであろう周辺は殆ど崩壊し、階段は無くなっていた。
あの防護服でもランチャーの爆発には耐えきれなかったのだろう、所々に服の切れ端が落ちている。
さらに飛びっている黒い塊は肉片だろう。
と、そこで死狼は何かを見つけた。改造パーツ2ショックアブソーブリストだ。
強化弾のフルオート連射に片手で耐えられるように、アームリストから伸びたパーツが銃身を固定し、
反動を腕全体で抑えるようになっている。
あの爆発の中でも一つも傷が付いていないのが不自然ではあったが、すぐに考えるのを止める。
何故そうなったかではなく、それでどうするかが大事だからだ。
いずれ他の銃を手に入れたとき銃の交換がややこしくなるが、威力も上がるし連射時の命中率も付けない手はないだろう。
とりあえずは弾丸の捜索が先である。
「・・・これも因果律か」
その周辺は崩落の危機があるほど壊れているのに、写真暗室は全くの無傷だった。
あの爆発の影響はこの部屋には一切の影響を与えていない。なにせ空気に混じる埃の量さえ変わっていないのだから。
死狼は写真暗室内で今までの装備に変更を加える。
まず、改造パーツ1、2で「CHEZALION」をパワーアップ。
さらに特殊弾倉内の弾丸を取り出してからナイフで弾頭を外して、リロードツールで火薬を詰め直し、
一つ一つの弾頭にナイフで切れ目を入れていく。
ガリ・・ガリ・・
イマックスの背の部分にある鋸状の刃で弾頭に網目状に傷を入れていく。
こうすると着弾と同時に弾頭が砕け、分裂した破片が体内に残留するのだ。
殺人の悪意が高い上に殺傷能力も高く、破片の摘出などの治療が困難なために条約で禁止されたダムダム弾の原理である。
捕虜への拷問の禁止などの条約もあるが、それが守られている戦場などどこにもない。
死狼はそんな場所で生きてきたのである。
30分程度の作業だったが、銃を改造している最中に敵に襲われないか気を張りつめていた死狼は少し疲労した。
「ふぅ・・」
ちょっと溜息をついて、STARSの部屋で手に入れたキーピックをいじる。
ちなみに死狼は鍵開けの技術は持っていない。
これで一体どうしろと言うのか・・・死狼は悩んでいた。
(update 99/10/17)