FF7

■ヴィンセントの戦い■

第6話

作・koujiさま

ジャンル:一般


 

ヴィンセントが廃墟となった新羅ビルに入ってから2時間。

新羅ビル内部はかつての栄光が霞むほど荒れに荒れまくっていた。

 

価値のありそうな物は軒並み略奪され、それ以外の物は破壊される。

新羅に保護を求めて殺到した人達による暴行の名残だ。

 

魔胱という星の生命を削る方法ではあったが、新羅が民衆の生活の基盤を支えていたことは事実だ。

生活に必要な魔胱エネルギーから医療、産業、教育、法律・・いや、文明そのものだったと言える。

それほどまでに人々の間に浸透し、支えていたのだ。

 

その新羅がいきなり人々の目の前から消えたとき、

人々は絶望という現状に対する不安や怒りをビルにぶつけたのだ。

 

元々アルテマウェポンによる本社ビルの破壊が新羅を崩壊させたのではない。

プレジデント新羅の死後、跡を継いだルーファウスは完全に支配するためにあえてNO.2と呼べる存在を作らなかった。

それが仇となり、ルーファウスの代わりに新羅を動かせる者が居なかったのだ。

 

その位置に最も近かったハイデッカー・スカーレットの両名はクラウド達によってすでに倒されている。

ガハハが特徴的だったハイデッカーはクラウド達にさんざん拷問され、「殺してくれ!!」と叫びながら飢えたモンスターの群に投げ込まれたし、

キャハハのスカーレットは敗北後も生意気な口を利いていたのでクラウド達が犯し尽くしたあげくにバラして喰っちまおうと真剣に討論される中、

リ−ブことケット・シーがその身柄を引き受けた。

 

スカーレットは一体どうなっている事やら・・・まぁ、少なくともまともな生活はしていないだろう。

一説では徹底的な洗脳処置を施され忠実な奴隷となっているとも、手足を切り落とされ、歯を抜かれた肉ダルマとしてリーブの家に「置かれて」いるとも・・・

 

それ以外にもクラウド達による度重なる新羅への攻撃と、メテオを防いだ際の魔胱炉の暴走がとどめを刺した。

結局バレットの目論見通りに新羅は壊滅した。爪痕はあまりにも大きかったが。

 

新羅ビル内のそこらに転がっている古い死体は新羅警備兵と暴徒達との戦闘で生まれた死体だ。

さらに新しい死体はたった今ヴィンセントが創りだした物だ。

やはり通常の人間(盗賊やロスター、元警備兵等)にはデスペナルティの威力は大きすぎるようだ。

大半が手足や頭部の消し飛びごろんと転がった肉塊に変わっている。

 

ビル内には他にも火災による煤だらけに焼けこげた部署や天井が崩落した部屋があった。

よく見れば崩落したコンクリートの端から手が見えてたりするのだが、特にヴィンセントは興味がなかった。

 

「・・特に変わったことはないな」

 

新羅ビル70階の内半分まで登ったヴィンセントが暗闇の中一人呟いた。

 

ビル内の電灯は消えているし、エレベーターも動かない。

という事は階段を上ってきたのだろうか・・・大変なことである。

ヴィンセントがタークスとして現役だった頃はまだまだ建設の予定さえもなかったビルだが、造りは意外としっかりしている。

何せメテオ接近の際にも壊れたのは外壁だけで中はほとんど無事だったのだから。

 

「・・?」

 

ふと、何かが目の前を横切った。銀色の・・・何か既視感を覚えてその後を追う。

 

階段を上り、ちょうど吹き抜けのロビーになっている階に出た。

そこにそれが居た。

 

ヴィンセントが初めて見たとき、新羅崩壊によって暴走した機動兵器かと思った。

なぜなら完全な人型ではあるが全身に装甲を持ち、手や背中には砲塔を備え付けていたからだ。

その重武装たるや・・・恐らく既存の機動兵器とは一線を画す戦闘能力を秘めているだろう。

 

形態としては人間サイズのプラウド・クラッドに似ている。

そう、先程の既視感とはプラウド・クラッドだったのだ。

 

驚くほどそっくりだ。

背中にあったビームキャノンが二本になっている点と、左腕が完全に機銃になっていること。

後はホバーか何かで宙に浮いていることを除けば、頭部もボディーも極めて酷似していた。

 

新羅ビルに入ってからすでにヴィンセントは何度か暴走した機動兵器との戦闘をおこなっていた。

そのどれもがヴィンセントに傷一つつけられない弱小機動兵器だったが、今回は違いそうだ。

 

勘・・と言うのだろうか?明らかに何かを感じていた。

強い。

それも・・・

 

機体もヴィンセントを見ていた。

目の部分に当たるカメラがズームを合わせる。

 

「意思があるのか?・・・」

 

ヴィンセントがその機体から明らかな殺意を感じていた。

機械では絶対にあり得ない、殺人への意思。

センサーの奥底に、機体から発する雰囲気に秘めた炎が見える。

 

さらに一歩ヴィンセントが近づいたとき、いきなりその機体の左腕部分の機銃が発射された。

 

チュイーン・・・

 

左腕部分の機銃はガトリングだった。

束ねられた数本のバレルが高速で回転し、火を噴くように数発弾き出す。

 

ドドドドドド!!!

 

重々しい音と共に弾丸がヴィンセントの足下の床を削った。

跳弾はない。恐らく弾丸は金属ではなく、エネルギーの塊のような物なのだろう。

 

それでも機体が弾丸をワザと外したことヴィンセントは感じた。

それまで刺すように放たれていた殺意が撃つ瞬間弱まったのだ。

 

「ここで何をしている?」

 

最初に声をかけたのはヴィンセントからだった。

機体は答えない。おそらく威嚇射撃が効果を上げないことについて新たな手段を考えているのだろう。

 

「・・・シンラノニンゲンカ?」

 

「・・・違う」

 

言葉を発するのにヴィンセントは少し躊躇った。

なぜなら機体が発する気は「そうだった」と新羅と関係付けるような発言が言えるようなものではなかったからだ。

 

が、あっさりと機体は殺気を霧散させた。

恐らくメモリーの中からヴィンセントという存在の検索をしたが無かったのだろう。

さすがに25年前に実験を受けて、廃棄処分された元タークスのデータはメモリーには無いようだ。

 

機体から発せられた声は完全な合成音ではないが、何処かぎくしゃくとしていた。

その発声の粗雑さからして内部に人間が乗っていることはないだろう。多分・・・この機体が自分の意思でで喋っているのだ。

 

「シンラ・・・ドコニイルカシッテルカ?」

 

「一人だけ知っているが・・・・私も探している。

 そいつの名は宝条、モンスターと化して人を食っているらしい・・・お前はなんだ?」

 

「ホウジョウ・・・モンスター・・・」

 

 

それだけ発すると機体はヴィンセントを無視して歩き出した。

ヴィンセントが何か声をかけようとする間さえ与えずに背を向け、動き出す。

 

だが、機体が数歩歩いたとき開きっぱなしのドアから一つの影が飛び出してきた。

 

クレイジーソウ。

 

新羅ビルのガードロボットの一つだ。機動兵器の中で最もポピュラだ。

より上階にいたのだが先程の銃声を聞きつけやってきたのだろう。

 

が、男の左腕のガトリングが一発だけ唸ると、クレイジーソウは木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

ガトリングの一発がヴィンセントのデスペナルティの破壊力に勝るとも劣らない。

ヴィンセントがデスペナルティで攻撃するとき乱れうちで4発撃ち込むが、

それが何十発と撃ち込まれるとなれば・・・人間はおろかキングベヒーモスでさえミンチと化すのではないか?。

 

「・・・どうしたダイン?」

 

ヴィンセントの背後から声がした。ヴィンセントが背後を取られたのだ。

 

ヴィンセントはLV99である。マテリアと最終武器を持てばその戦闘力は一国の軍隊すら凌駕する。

その背後を取るとは・・・

ヴィンセントはコンマ何秒かで振り向き様にデスペナルティを向けた。

 

「ほう・・・その動き、殺気・・・・クラウドの仲間か?」

 

銃を突きつけられながらも、まるで脅えた様子を見せない男はその場でおどけて見せた。

30歳ぐらいの壮年の男だった。

 

クラウドの名前が出たところでヴィンセントは微塵の気の揺らぎも見せなかった。

相変わらず冷たい目で男を見つめる。そしてその意識は同時に背後へも向けられていた。

もし、ダインという名の機動兵器とこの男が知り合いならば挟み撃ちになる可能性もあるからだ。

 

「・・・そんな瞳を見るのはセフィロス以来だな」

 

自分の放つ殺気にまるで相手が反応しないこと、男がふと呟いた言葉にヴィンセントはようやく銃を降ろした。

 

「何者だ?」

 

「わたしはレオ・・・元ソルジャー。

 廃棄処分されたゴミのリサイクル品に過ぎないがね」

 

「ソルジャーレオ!?まさか・・・あの・・鬼神なのか・・・」

 

ヴィンセントの体に戦慄が走った。それは紛れもなく恐怖だった。

 

 

(つづく)


(99/01/25update)