CCさくら+らぶひな

■恋して、ムーチョ!■

 

作・まなてぃさま


 

 

  恋して、ムーチョ!

 

 「いやぁ〜、大漁大漁。今日はツイてるなぁ〜!」

 パチンコの景品がいっぱい詰まった袋を抱えて、キツネはご満悦の表情だった。家へと

帰る道すがら、何やら人だかりができているのを見つけた。

 カランカランカラ〜ン!奥さん、ハイ、5等のサラダ油セット!

 そういえば、昨日、しのぶから商店街の福引券、もらったなぁ〜。ヨッシャ、いっちょ

やってみっか!キツネは人ごみの中を掻き分け、商店街のおじさんに福引券を見せた。そ

して「福引箱」をガラガラと回した。カラン・・・。出て来た玉は、金色の玉だった。「大

当たり〜!」商店街のおじさんの声が、黄昏色の空に高らかに響いた。「やったぁ〜、お嬢

さん!見事、沖縄2泊3日旅行、大当たり!」

「ウ・・・ウソ!ホンマに・・・?ラッキー!」キツネは飛び上がって喜んだ。「今日はホ

ンマにエエ日やなぁ〜!」

 

 「え〜。ウッソ〜。すご〜い!」

 「どや。すごいやろ!これもウチの日頃の行いの賜物やな!」

 キツネが福引で当てた景品を披露すると、「ひなた荘」の住人は一斉に驚いた。

 「ところで、キツネ。『沖縄2泊3日ペアご招待』ってあるけど、アンタ、一緒に行って

くれる相手、いるの?」なるが尋ねた。

 「へ・・・?」キツネは目を丸くした。そして、もう一度パンフレットを眺めてみると、

確かに「沖縄2泊3日ペアご招待」と書いてあった。

 「女の一人旅は、寂しいぞ〜!」サラが皮肉っぽく言った。

 「ば、馬鹿なこと言いなんや!ウチかて、その気になれば、オトコの5人や10人、我

先にと付いて来てくれるわ!」キツネがムキになって言い返した。

 へ〜。一同が一斉にキツネに対し冷たい視線を投げかけた。

 「な、なんや、その目は・・・」みんなの視線を受けて、キツネはたじろいだ。「そ、そや。

けーたろ!けーたろはウチと行きたいよな!」

 「お、俺・・・!」突然の御指名を受けて、景太郎はまごついた。「キ、キツネさんとい、

一緒なら、お、俺別に・・・」

 「アンタは受験勉強があるでしょうが!」いきなりなるの飛び蹴りが景太郎の背中にヒ

ットし、景太郎ははるかかなたに吹き飛ばされた。

 「誰とも行かへんのやら、ウチが一緒に行ったるで〜!」スゥが笑いながら言った。

 「あっ、それなら私も行きたい!」今度はサラが言い出した。「ウチが行く!」「私だ!」

スゥとサラがキツネの持っているチケットを取り合った。

 「コ、コラ、やめぇ〜!ウ、ウチにはもう相手がいるさかい、連れて行ってやれへんで!」

そう言うと、キツネは逃げ去るようにその場を立ち去った。なるや素子はその姿を冷やや

かに見つめていた。「待て〜!」スゥとサラは、まだ未練があるのか、それともただじゃれ

合いたいだけなのか、キツネを追いまわしていた。

 そして・・・、この喧騒を物陰からじっと眺めていた一匹のオスがいた・・・。

 

 「キツネさん、空港で相手と待ち合わせてるって言ってたけど、本当に見つかったのかな

ぁ〜、相手?」景太郎が心配そうに言った。

 「ウソに決まってるでしょ!」なるが冷めた口調で言った。「単に強がってるだけよ!」

 「たいへんです〜!」大声をあげながら、しのぶがドタバタと階段から降りてきた。「どう

したの、しのぶちゃん。そんなに大声を出して・・・」景太郎がしのぶを落ち着かせるように

言った。

「ケロちゃんが・・・、ケロちゃんがいないんです!」

 「ケロちゃん」とは、クロウ・カードの封印の獣、ケルベロスのことである。4月に起こっ

た事件−クロウ・カード盗難事件−以来、ケルベロスはいつの間にかここ「ひなた荘」に居座

ってしまったのだった。そして、同じ関西人(?)からか、キツネとミョ〜に仲が良くな

ったのだった。(当然、スゥとサラのおもちゃになったことは言うまでもないが・・・)

 「こんにちは〜!」その時、玄関から元気のいい女の子の声が聞こえた。「はい・・・」

なるが玄関に出てみると、桜色のTシャツに深緑のパンツルック姿のさくらが訪れてきて

いた。

 「しのぶちゃ〜ん、さくらちゃんが来てるわよ〜!」なるの声に促されるように玄関に

姿を見せたしのぶは、なおもうかない顔をしていた。

 「さくらちゃん・・・。ケロちゃん、どこ行ったか、知らない?」

 「えっ・・・」さくらは突然言葉を詰まらせた。それを見たしのぶは、「さくらちゃん・・・、

ケロちゃんがどこ行ったのか、知ってるの?」と尋ねた。

 「う・・・うん・・・。知ってると言えば・・・、知ってるん・・・だけど・・・」さ

くらは、しのぶから視線をそらし、言葉を濁らせた。

 

 蒼い空。透き通る海。きらめく太陽。そして・・・、光り輝く美女。

 「こんな美人が悩ましげにビーチで横たわっとるんや。そのうち、オトコ共がワンサカ

群がってくることやろ・・・。ウヒヒヒヒ、南洋の、アブラののりきったマグロを頂くと

すっか!」

 キツネはニヤニヤしながら寝転がっていた。しかし、目の前を通り過ぎるのは皆カップ

ルばかり。辺りを見回してもカップル、カップル、カップルと、カップルだらけだった。

 「ったく〜、どいつもこいつも見せつけやがって・・・。まっ、この時期1人で海なん

か行く奴は、どっかのラジオ局の女子アナくらいやろな・・・。あ〜あ、夏だとゆ〜のに、

なんか寒いなぁ〜」

 「お嬢さん、お1人ですか?」

 頭上から、低音の、男の声が聞こえた。キツネはサングラスをずらして、その声の主を

見た。初めは太陽の逆光にさらされ、その男の姿がはっきりとは見えなかった。しかし、

徐々に目が馴れてくるにつれ、その男の全容が浮かび上がってきた。

 ゲ・・・!

 キツネは絶句した。な、何やぁ〜、この男・・・。全身毛むくじゃらやし、顔は彫りが

深いし、髪なんか後ろでちょこんと束ねやがって、おまけに、何やそのビキニ・パンツは!

アブラがのってるって言うよりも、脂ぎってるやないけ!男は、さらに口を開いた。

「ビーチにこんなに綺麗なハイビスカスの花が咲いているというのに、全く、他の男共は

どうして気付かないのだろう・・・。それとも、君があまりにも光り輝いているから・・・、

他の男は、眩しくて目をそらしたのかな」

 はぁ・・・?キツネは開いた口がふさがらなかった。コイツ、何寝ぼけたこと、ぬかし

とんのや!男は、今度はサングラスをはずし、キツネの目をじっと見つめながら語りかけ

た。

「どうだい、これからこの綺麗な珊瑚礁を2人だけのものにしないかい?」

 コイツ、アタマいかれとんのとちゃうか!そう思ったが、キツネにはまた別の考えが浮

かんだ。待てよ、コイツに金、払わせれば、タダで遊べるやんけ。まっ、どうせヒマやし、

ヤバくなれば、ズラかればエエことやしな・・・!

 「アンタ、名前は?」キツネが尋ねた。

 「ワイ・・・、いや、オレの名はロベルト。『ロビー』って呼んでくれ!」

 キツネは一瞬ポカンとした表情をしたが、次の瞬間、大声で笑い始めた。キツネにとっ

ては、その男は、もはや「おかしな奴」を通り越して「おもろい奴」になっていた。

 「ウチの名は、キツネな。そんじゃあ、どっか、おもろいとこに連れてってくれへんか?」

 キツネがそう言うと、「ロビー」と名乗るその男は「うぉっしゃあ〜!」と雄叫びを上げ

た。

 

 スキュウバにクルージングにジェットスキー・・・。キツネは南の海でのバカンスを思

う存分楽しんだ。そして、マリン・スポーツを楽しんでいるうちに、ロビーの評価も変わ

ってきた。

  −コイツ、初めはヘンな奴かと思ったけど、おもろいし、けっこうエエ奴やんか・・・!

 海から上がると、陽は西の空に傾いていた。

 「これから、食事なんか、どう?イタリア料理の美味い店、知っているんだ。そこから

見えるサン・セットが、これまたものすごく綺麗なんだ・・・」

 イタリア料理か・・・。キツネは今までそういった物には縁遠かった。外食をする時は、

決まっていつも居酒屋で飲んで騒いで・・・、という感じだった。まっ、たまにはそうい

うモンもエエかな・・・。どうせオゴリやし・・・。キツネはロビーの誘いを承諾した。

そうすると、ちょっと待ってろ、とロビーが車をとりにいった。そして、ロビーの乗って

きた車を見て、キツネは目を丸くした。「ひょえぇぇー!フェ、フェラーリ!」ドアが開き、

ロビーの姿が現れた。「乗んな!」そして、ロビーの姿にキツネは再度、仰天した。「な、

何やぁ〜。ぜ、全身ベルサーチやないけ!」キツネは恐る恐る助手席に乗り込んだ。「それ

じゃあ、夕日に向かってレッツ・ゴーだ!」そういうと、車の後輪が轟音を立てながら回

転し始め、ものすごい加速で発進した。

 車窓から見える黄昏時の海は、これまた格別だった。

「綺麗やなぁ〜・・・」キツネがつぶやいた。

「君のほうが、ずっと、綺麗だよ・・・」ロビーの甘い、低音の響きが車内にこだました。

「ロビー・・・」キツネがロビーを見つめた。その、うっとりと濡れた瞳。甘く、とろけ

そうな唇。夕日に照らされ、赤く染まった頬。ロビーは、キツネをいとおしいと思った。「キ

ツネ・・・」ロビーは顔を近づけた。

 「ストーップ!」

 いきなり、キツネが大声をあげた。ロビーは咄嗟にブレーキを踏んだ。「な、何やー!」

ロビーが大きな声を出した。すると、キツネは、

 「なあ、あそこにある『沖縄料理の店』に行かへん。イタメシもエエけど、ウチ、沖縄

料理が食べたいわぁ〜!」

と言った。それを聞いて、ロビーは怪訝そうな顔をした。そして、「本当に、あんなところ

でいいのかい?君なら、もっと瀟洒なところが似合うと思うのだが・・・」と尋ねた。し

かし、キツネは嬉しそうに、「ウン。エエで!」と答えた。ロビーも観念したのか、溜息を

ひとつついて、車をその居酒屋風の店に向かわせた。

 

 その店は、いかにも「海人(うみんちゅ)」の集いそうな造りの酒場だった。当然、全身

ブランド物で固めているロビーは、店の中で浮いていた。しかしながら、キツネにとって

はそんなことお構いなしだった。

 「沖縄と言えば、やっぱ『泡盛』やろ〜!一度、これ、飲んでみたかったんや!おっち

ゃん、泡盛、この際、一升瓶でや!」

 酒を目の前にして、キツネの目はギラギラに輝いていた。店の「大将」からも、「おっ、ね

ぇ〜ちゃん、威勢がいいねぇ〜!」と言われるほどだった。

 酒瓶とコップが出されると、キツネはすかさずコップに酒を注いだ。「それじゃあ、カン

パ〜イ!」カチン、っとロビーのコップに自分のコップを当てると、キツネは一気に酒を

飲み干した。

「お、おい、キツネ。そんなに慌てて飲まなくても・・・」ロビーはキツネの飲みっぷり

にあっけにとられた。

「何ゆ〜てんねん!出された酒は一気で飲む。これが『海人』の飲み方や!それ、アンタ

もはよ飲まんかい!」キツネに勧められて、ロビーも一気で飲んだ。「おお〜。エエ飲みっ

ぷりや!ほれ、どんどん飲まんか〜い!」キツネは空になったコップに酒をあふれんばか

りに注ぎ、ロビーもそれを一気で飲み干した。

 

 

  何や、そのカッコは!そんなんで、女の子が口説ける思っとったら、大間違いやで!

  うっさいなぁ〜。ジブンかて、口説かれたやないけ!

  何ゆ〜てんの。ジブンがあまりにもかわいそやったから、ついて来てやったやないか!

  ワイのどこがかわいそなんや!

  今時、そんなコテコテなカッコしたヤツ、新喜劇しかおらへんで!

  どこがコテコテやねん!

  全部。足のつま先から頭のてっぺんまで、ぜ〜んぶや!

  何ぬかしてんねん。これでもワイは「浪速のイタリアーノ」って呼ばれてんのやで!

  ワハハハハ。何やそれ!誰がそんなん、呼ぶか!

 

 

 なんか、コイツ、初めて会った気がせ〜へん。ずーと前から知り合いやったような・・・、

そんな気がする・・・。

 

 2人は閉店まで飲み続けた。ホテルに帰る間、肩を組んで、大声で「六甲颪」を合唱し

続けた。

 部屋に着くと、2人は重なり合うようにベッドに倒れ込んだ。

「ん〜、なんか暑いなぁ〜」そう言うと、キツネはいきなり服を脱ぎ始めた。

「お、お前、何してんのや!服きーへんで寝ると、風邪ひくで!」ロビーがそう言ってた

しなめた。

「エエって!ロビー、アンタも脱ぎ!気持ちエエでぇ〜!」そう言うと、キツネはロビーの

シャツのボタンに手をかけた。一つ一つ、ボタンをはずしていった。ロビーのシャツを脱

がしたところで、いきなりキツネが抱きついてきた。「ロビー!」抱きつかれたロビーの胸

に、2つの柔らかな塊が当たっていた。

「ロビー、ウチ、もう、どうなってもかまへん!メチャメチャにして!」

ロビーの胸が高まった。キツネの顔を見ると、酒に酔っているのか、それともロビー自身

に酔っているのか、頬はほのかなピンク色に染まり、眼はうるうる潤んでいた。ええい、

ワイも漢(おとこ)や!覚悟を決めたロビーは、キツネをベッドに押し倒した。

 「キツネー!」

 

 

   あれっ・・・・・・、あれーーーーーー!!!!

 

 

 「ん・・・・・。ウチ、いったい、どないしたんやろ・・・?」

 小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む、南の島の強烈な陽の光でキツネは目

を覚ました。「うー。アタマが、ガンガンする・・・」昨夜、相当飲み過ぎたのか、激しい

二日酔いに襲われていた。しばらくして、自分のお腹のあたりに何やらぬいぐるみみたい

なものがあることに気付いた。キツネはそれを手にとって見た。

 「何やぁ〜!ケロやないけ!」

 ケルベロスは、キツネに身体を抓まれているというのに、なおも大いびきで眠っていた。

「どうして、ケロがこんなところに・・・・」キツネは不思議に思った。そして、ハッと

気付いたことがあった。「そや!ロビーは?アイツ、どこ行ったんや!確か、居酒屋で夜遅

くまで飲んでて・・・。う〜、そこから思い出されへん・・・」

 「おっはよ〜さ〜ん!」

 突然、部屋のドアが開き、メイド姿をした女の子が2人、勢いよく部屋に入ってきた。

 「うわっ!スゥにサラ!お前ら何でここにおんねん!」

 「へっへ〜ん!」スゥとサラは互いに顔を見つめ合いながら、ニヤニヤと笑っていた。

話を聞くと、何でも、このホテルは、しのぶのクラスメート、知世の家族が支配する「大

道寺コンツェルン」の系列会社が運営しているらしく、それで、スゥとサラが特別に招待

されたと言うのだった。

 「何やぁ〜。朝っぱらから、うるさいなぁ〜!」ケルベロスが眠い目をこすりながら起

き上がった。

 「ケロ!何でここにおるんや?」スゥがニヤニヤしながら尋ねた。「おるんだー!」サラ

も続いて声をあげた。

 「いや・・・それは・・・その・・・」ケルベロスが言葉を詰まらせた。だが、2人の

追求は終わらなかった。ケロにぐっと顔を近づけるスゥとサラ。「だぁー!もう、ええやん

か!」そう言うと、ケルベロスはその場を逃げ出した。「あっ、待てー!」「待てー!」スゥ

とサラはケロを追い駆けにいった。

 

 実は−キツネが沖縄旅行に旅立つ前夜、ケルベロスはさくらのもとを訪れた。「なあ、さ

くら。『体(ボディー)』のカード、使ってくれへんか?」

「ほえ?」

「頼む。わけを聞かずに、使ってくれ!」ケロがあまりにも頼み込むので、さくらも言わ

れるがままにカードを使った。

 「彼の者を望む姿に変えよ!『体(ボディー)』!」

 すると、ケロは人間の姿に変身した。しかも・・・、顔の濃い外国人風に・・・。さく

らも一応、「これで、いいの?」と訊いてみたが、ケロは甚く満足している様子だった。

 その次の日、ひなた荘を訪れたさくらからその話を聞いたなる達は、いろいろ話し合っ

た結果、ひとつの結論に至った。「ケロちゃんって、キツネのこと、好きなんじゃない?」

確かに、思い当たる節はあった。いつもキツネと一緒にいるし、それに、あれほどまで大

好きだった甘いものを、最近はほとんど口にせず、専ら酒とつまみばかり食べているし・・・。

「だから、キツネを追って行ったのよ!」

 

 波打ち際では、スゥとサラが水を掛け合ってじゃれていた。

 「ったく〜。沖縄に来てまで、ガキ達のお守りかよ・・・」ケルベロスがぼやいた。

 「だったら、ケロは、『大人のバカンス』が過ごしたかったんか?」キツネはニヤニヤし

ながら言った。ケロは急に顔を真っ赤にして、視線をそらした。「まっ、まだあと2日もあ

るんやし、思う存分、楽しもうやないか!なあ、ロビー!」そう言うと、キツネはスゥ達

のところに走っていった。ケロは、キツネに「ロビー」と言われたことがひどく恥ずかしか

ったらしく、照れ隠しに「アホ・・・」とつぶやいた。

 「恋の魔法」は、酒が回ったせいで思ったよりも早く切れてしまった。けれども、「夏の魔

法」はまだまだ解けていなかった。「よぉ〜し、こうなったら、ワイも『沖縄の夏』を満喫

したるで〜!」ケロはキツネのもとに飛んでいった。

 

 

 

 


(update 99/11/07)